飛行機の音を収録する際のノウハウ

 今日は飛行機の音を録音するひとも多いと思いますので、長年の経験から収録ノウハウなどを書いてみます。

 僕は航空機の動画撮影もやりますが、飛行機の場合、撮影より録音の方が苦労が多いのです。撮影は望遠レンズが使えますが録音にはそれがありません。たしかに遠い音を拾う集音マイクはありますがノイズが多いのでレコーディングには普通使えません。ですから録音の場合、録音物にかぎりなく近づくことが最も必要なことになります。飛行機の側まで行ってそれからどのくらい離れるかを収録メーターを見ながら決めるのです。たとえば離陸の音を録音する場合の最高の場所はランウエイのすぐ側です。しかし、なかなかその場所へ入る空港の許諾は降りません。ですからランウエイに最も近い駐機場から録音するのですが、やはり距離があるので「音の芯」がぼやけてきます。その点、ビデオ撮影は楽ですね。駐機場からも望遠レンズで充分な寄りの絵がとれますから。

 以前、マニラで怖い思いをしたことがあります。マニラ空港の広報担当者にランウエイの側まで行きたいと申し出るとひとつ返事で「いいよ、飛行機にぶつからなければどこえでも行って良いよ」と言います。僕はチップという鼻薬が効いたと思い喜び勇んでランウエイの側の草むらに腰を下ろし3時間、いろんな飛行機の離発着音を収録しました。ふと気がつくと空港のスタッフ達は草むらの彼方、タクシーウエイの端に車を止めて待っているのです。録音が終わって草むらを超えタクシーウエイを渡って彼らの所へ戻るとみんなで「何もなかったか?」と心配そうに聞きます。録音がうまくいったお礼を言うと彼らが言います「実はランウエイサイドの草むらには毒蛇がたくさんいるので誰も近づかないんだよ。おまえはラッキーだった」。オランダのスキポール空港ではランウエイサイドの草むらにもぐらと野ウサギがいて彼らと長い時間草むらに座って音をとったこともあります。

 要は離陸着陸音の録音は便数が少ない地方の空港の方がよいのです。僕ら専門家がいい音、わるい音の基準にしているのは、離陸してその残音が長く尾を引くように消えていく録音が出来たかどうかです。めったに録音できませんね、こんな音は。なぜならせっかく離陸まではいい音がとれたのに後のタクシーウエイで別の飛行機の走行音が聞こえ、離陸した飛行機の残音が消される場合が多いので。それからランウエイは風がありますから、僕は風防をつけたコンデンサーマイクを使っています。エンジンスタートの録音は飛行機の側ですから、風防なしでダイナミックマイクが良いと思います。

結構、難しいのは空港アナウンスの録音です。出発ロビーの天井が高いと周辺のがやがやした雑音もいっしょに拾いますので、なかなかクリアーにアナウンスが録音できません。そういう場合は最高の場所は空港のトイレの中です。天井が低く狭いのでアナウンスはクリアーに拾えます。パリ・シャルルドゴール空港などは僕はほとんどトイレで録音します。

 ロビーで録音する場合は手荷物用の手押し車にテープレコーダーとマイクを入れて、その上をシャツで覆い、比較的天井の低い場所に手押し車ごと放っておく、そして僕は少し離れた場所でいつも本を読んでいます。周囲のひとに気づかれずに楽に音が拾えますよ。
トイレの中といえば、客室でスッチーのアナウンスを録音するときもトイレがいちばん。トイレにテープレコーダーとマイクを入れて便器に座って本を読むといいですよ。

 ながくなりました。次回はコックピットの中の録音方法について書きましょう。
では又。

武田一男

【武田一男さんプロフィール】映像ディレクター・音楽ディレクター・航空サウンドディレクター。
著作には「機長席」(朝日ソノラマ)、「台風飛行」(朝日ソノラマ)、「ラストフライト」(愛育社)などの航空ドキュメンタリーの著作をはじめ、雲の写真集「成層圏飛行」などがある。

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    • 竜子
    • 2008年 6月5日 3:17am

    武田一男さま
    こんなかたちで紹介させていただきました。
    間に合わせですみません。
    やはりコメント欄ではあまりにもったいないので、いちばん最初にいただいたコメントもあげさせていただきました。
    現状では、コメント欄にメアドをいれても反映されないので
    もしよろしければ、お時間ある際にでも
    tatsuco@airjapon.com
    にご連絡いただけますと幸いです。

    • 竜子
    • 2008年 6月6日 12:51am

    武田一男さま
    > 離陸してその残音が長く尾を引くように消えていく録音が出来たかどうかです。
    なるほど。DVDとかで見てる感じだと、目でごまかせるぶん、こちらはそこまでこだわっていたのかなんて気づかないものですね。
    そんなところも注意して聴くのもおもしろそうです。
    しかも、お手洗いで音を拾うなんて!
    ビックリです。
    シャルルドゴール空港でも、機内でも…。
    体を張ってるんですね(笑)
    でも、音を拾うためにお手洗いにこもる…。
    どんな雰囲気でそれをしてるのかちょっと想像してしまいました。
    ちょっと怪しい人に思われそう〜?
    中で本を読むってことはけっこう長い時間中にいるってことですよね?
    もし、国際線でなかなかラバトリーランプが消えない時は、武田さんのような方が中で作業されてるかもしれないってこと?!
    音だけでなく、そんなエピソードが聞けるのは楽しみ方も広がりますネ。
    実はわたしも、どうしたら機内の音を録音できるか少し考えたことがあります。
    結論は、
    「どうにかお願いして、ICレコーダをコックピットに置かせてもらう」
    それしか思いつきませんでした。ですが、このご時世そんなお願いをしてもそれが本当にテレコかどうかだってわからないだろうし、却下されるだろう、ましてや、そんな航空ファンなんてただのやっかいで迷惑なヤツだろうとおもって、実行する気もありませんが…。

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