Chapter21 カルカッタ・ラジオとダッカ・コントロール中継交信

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▼昆明からカトマンズまでの飛行ルート
昆明からカトマンズまでの飛行ルート

▼インド東とバングラディッシュ上空の航空地図
インド東とバングラディッシュ上空の航空地図

 これから管制コミュニケーションが最も複雑になるといわれる東インドとバングラディツシュの上空にさしかかる。とくにミャンマー、インド、バングラディシュ、そして再び、インドの空域を通過するこの飛行ルートは、入り組んだ国境通過がいっそう管制コミュニケーションを複雑にしているのだ。加えてHF無線とVHF無線の両方を使いわけながらコンタクトしなければならないという難しさもある。
 かって一度、訓練のためにオブザーバーとしてネパール航空でこのコースを飛んだ経験を思い出して仙波機長が言った。
アンソス(ANSOS)の手前でロイヤルネバール(王立ネパール航空)は、カルカッタ(カルカッタ・ラジオ管制コントロール)に、コンタクト(HF無線で)していましたね
 そして管制コミニュケーションのポイントとなるウェイポイントを確認した。
カルカッタ(ここでは東インドの意味)のアンソス(ANSOS)とカルカッタを出るアルファ・アルファ・タンゴ(AAT)。それとテビッド(TEBID)です

 この3つのポイントはすべて国境上にある。
 アンソス(ANSOS)は現在の飛行ルート、A(アンバー)201がミャンマーから東インドに入る手前の国境にあり、アルファ・アルファ・タンゴ(AAT)は、正式にはAGARTALAというVORで東インドとバングラディッシュの国境、そしてテビド(TEBID)はA201飛行航路がバングラディシュから再びインドに入った国境上にあるウェイポイントである。これら国境上にあるウェイポイントは管制エリアの分岐点にもなっている。
そうね。それではHFで(カルカッタ・ラジオとのコンタクトを)やってくれますか?」牧機長が言った。
やってみましょう
 仙波機長はHF無線1でインドの東一帯を担当しているはカルカッタ・ラジオ管制コントロール東セクターを呼んだ。
カルカッタ、カルカッタ エアシステム8517 オーバー
……」少し前まで明瞭に入っていたカルカッタ・ラジオの交信が今は沈黙している。無線機がわずかに鳴ったが、明確な応答はない。仙波機長はコールを繰り返した。
エアシステム8517 メインテイン レベル 350 エスティメイティング ANSOS 0928 AAT 45
(カルカッタ・ラジオ管制へ。こちらはエアシステム8517です。現在、高度35,000フィートで飛行中。アンソス到着予定は標準時で9時28分、AATは9時45分の予定です)
 HF無線機独特のノイズがして管制官のボイスがかすかに聞こえた。
…コールサイン コールサイン…& セルコール
 無線はエアシステム8517のコールサイン(飛行機ナンバー)とセルコールのナンバーを尋ねている様子だがかなり電波の状態が悪い。
セイ・アゲイン セイ・アゲイン」とカルカッタ。
コーリング ジャパンエアシステム8517 オーバー
(こちらは日本エアシステム8517です。どうぞ)
 仙波機長の呼び掛けにカルカッタの管制官は再度、聞き直した。
セイ アゲイン セイ アゲイン」(もう一度、もう一度お願いします)
 管制官にとってはエアシステム8517は定期便ではないので聞き慣れない便名の筈である。コールサインを何度も確認するのは無理もなかった。
 仙波機長は辛抱強く再び便名をコールした。
カルカッタ ジス イズ エアシステム8517 オーバー
…………
コーリング ジス イズ エアシステム8517 オーバー
 5度目でやっと管制官が応答した。が、音声は依然、明瞭ではない。

8517…フライトレベル…」(8517…飛行高度は…)
350 メインティニング ダッカ ホアット…コールサイン?」とカルカッタ・ラジオ管制が尋ねているのが聞こえる。(35,000フィートを維持している。ダッカコントロールへ。…機名は何だ?)そのときバングラディシュのダッカ管制の声が交信に混じった。
JAS(ジュリエット・アルアァ・シエラ)8517」とダッカ管制官。(ジュリエット・アルファ・シエラ)8517便だ)
この無線ではエアシステム機に話しているのではなく、カルカッタ・ラジオ管制とダッカの管制官同志がエアシステム8517について話しているようだった。
ああ、(これはダッカの管制官が)中継してくれているんだよ」と牧機長がつぶやいた。

 HF電波はそのときの電波状況によって遠くの電波が入ったり、逆に近くの電波が入らなかったりする。8517便のコールをひとつ先の空域であるバングラディシュのダッカ・コントロールがエアシステムの無線を受信して、カルカッタ・ラジオ管制にリレーしているのであった。

…フライトレベル 350 エスティメイト ANSOS 0928 AAT 0945 JA8517 メインティン フライトレベル 350 ダッカ・コントロール125.7 カルカッタ・コントロール120.7 バイ
(…飛行高度35,000フィート、アンソス到着予定9時28分、AATには9時45分、ジュリエット・アルファ8517。飛行高度は35,000フィートを維持。カルカッタ管制のVHF周波数は125.7メガヘルツ。ダッカ管制は120.1。さようなら)「やっぱり、やってくれているんだよ」再び、牧機長。
 今度はダッカからエアシステム8517の情報を入手したカルカッタ・ラジオの管制官が8517便を呼んだ。
ジュリエット・アルアァ・シエラ8517 カルカッタ
(JAS8517便へ。こちらカルカッタ・ラジオ管制です)
カルカッタ カルカッタ エアシステム8517 メインテニング 350 エスティメイテング ANSOS 0927 AAT 45 オーバー
 仙波機長が再度、ダッカ管制にウェイポイントの到着時間と予定時間をレポートした。
JAS8517 メインティニング 350 エスティメイト ANSOS 0928 AAT 45…リクエスト…セルコール
 カルカッタの管制官が飛行状況を復誦し、次いで8517便のセルコール・ナンバーを尋ねてきた。
エアシステム8517 セルコール・ナンバー BLKS(ブラボー・リマ・キロ・シエラ)オーバー」と、すかさず仙波機長が答える。
(エアシステム8517です。セルコール・ナンバーはBLKSです。どうぞ)
BLKS スタンバイ」と管制官。
 待っている間にカルカッタ・ラジオの管制官がダッカの管制官に8517便の情報を逆リレーしている交信が聞こえている。それを聞きながらふたりの機長はほっと胸を撫で降ろした。
やってくれているよ
だが、通じたからよかったよ
 長いやりとりの後、やっとカルカッタ・ラジオ管制とダッカの両管制官がエアシステム8517の飛行を確認し合って、カルカッタの管制がエアシステム機にセルコールのチェックを始めた。
グジュグジュになったな」仙波機長が笑う。
セルコールの音が響いた。 ビー・ビー・ビーとコックピット内で無線のブザーが鳴る。

セルコールはHF無線交信には欠かせないもので、航空機それぞれが電話番号のような独自の呼び出しナンバー(記号)を持っており、管制官は必要に応じてそのナンバーを発信すればその航空機の無線の呼び出し音が鳴る仕組になっている。

OK セルコールだ」と仙波機長が無線の受話器を取った。
カルカッタ エアシステム8517 セルコール ノーマル サンキュー
セルコールが届いたということはカルカッタ・ラジオ管制がエアシステム8517の存在を認めたということに外ならない。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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