Chapter29 カトマンズへの最終進入

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 機窓には2〜3,000メートルの山々が幾重にも連なって見え、その山並みは壁のように聳え立つヒマラヤの高峰に遮られている。
 この高度から見ると、これから深い山の中に向かって高度を下げていく感じがして、この先に空港があるなどとても信じがたい風景である。まるで大きなすり鉢の底へ山並みを越えて沈んでいく感じがする。
 カトマンズ空港は正式にはカトマンズ・トリブバン国際空港。1949年、当地に小型機が着陸したことに始まるといわれている。
 1989年に国際線ターミナルが完成。滑走路は南北に伸びた、長さ3,050メートルのメイン滑走路が使用され、滑走路の標高は1,400メートルである。
 空港はカトマンズ盆地の周囲を囲むヒマラヤ山麓の2、3,000メートルの山々に隔てられた立地条件下にあるので、空域の狭さが離発着の難しさと空港の処理能力といった問題点になっている。
 盆地の中の空港へのアプローチは周辺の山の最も低い峠の上を通過して南から進入する方式だけである。

 客室ではパーサーのアナウンスが始まった。
皆様、これより着陸体制に入ります。ひじかけやお席の背を元の位置にお戻しになり、お席のベルトをお締め直し下さい。…
 アナウンスの途中に、カトマンズ管制官が飛行するすべての航空機に気圧の変化と気温をリポートする交信が入った。
オール・ステーション QNH 1015 テンパラチャー 24」(すべての航空機へ。現在、気圧は1015ミリバール。気温は24度です)
トランジションは150ね
はい。150です」とふたりの機長は左右の計器を再確認した。
 コックピットのスピーカーからはエアシステム8517の前後に、ゴルフ・インディアのDC-9が、ネパール国内線ブッダ航空の双発旅客機などが、カトマンズ空港へ進入する交信が聞こえている。「アプローチ ブッダ84
(カトマンズ進入管制へ。こちらブッダ航空84便です)
ブッダ84 カトマンズ・アプローチ ゴー ア ヘッド
(ブッダ航空84へ。カトマンズ進入管制です。どうぞ)
45マイル… メインティン 195 リクエスト ディセント
(…の45マイル地点です。現在の高度は19,500フィート、下降の許可願います)
ブッダ84 ディセント 11,500 QNH 1015 ランウエイ02 スクォーク0102
(ブッダ航空84へ。11,500フィートまでの下降を許可します。QNHは1015ミリバール、レーダー認識番号は0102です)
ライトサイド クリア

 機首方向324度で飛行していたエアシステム8517は、次のウエイポイントRATAN(ラタン)に向けて機首を021度にするために右旋回を始めた。
 ロメオの通過後の飛行コースは次のようになる。まず、ROMEO(ロメオ)の16マイル先にあるRATAN(ラタン)まで3分の飛行、ラタンからそのままの方位でウエイポイントNOPEN(ノペン)まで8マイル、2分の飛行、そしてそのままKTM(キロ・タンゴ・マイク)ポイント(ノペンから16マイルで6分の飛行)まで飛び、最後は機首を026で1マイル先のカトマンズ空港のランウエイ02に着陸する。
 だが、これから幾つもの山並みを、しかも、山の頂きすれすれの高度で超えるという微妙な高度設定の中で下降するのは非常に神経を使う作業の連続となる。
 コックピットは緊張感が高まってきた。

エアシステム8517 アイディンティフィケーション リポート ラタン
(エアシステム8517 ラタンに着いたら報告して下さい)
エアシステム8517 リポート ラタン & ナウ リービング 150 12,500 デパーティング ロメオ ナウ
(エアシステム8517 ラタンでリポートします。それから現在、ロメオを通過、高度15,000フィートから12,500フィートに向かっています)
エアシステム8517 ラジャ
それではアプローチ・チェックリスト」と牧機長。最終進入の計器点検が始まった。
インカム ステータス
チェック
ランニング データ(着陸データ)
セット
アルティメーター(高度計)
1016
オートブレーキ
ロウ

アプローチ・チェックリスト…コンプリートです
 管制官は空港の西からKTM(キロ・タンゴ・マイク)に向かって下降してくるブッダ航空84に南から進入するエアシステム便の存在を告げている。
スピード アルトスター
スラット エクステンド
 続いて管制官がエアシステム8517の前を飛ぶゴルフ・インディア航空に滑走路02への進入を許可を与えた。
 滑走路に向かって南からゴルフ・インディア航空とエアシステム8517が、西からブッダ航空84便が進入しているのだ。
 次に管制官はエアシステム8517の位置と高度確認をする。
エアシステム8517 インフォメーション ポジション…」(エアシステム8517へ。現在地を知らせて下さい)
エアシステム8517 5マイル ビフォア ラタン メインティニング 12,500
(こちらエアシステム8517です。現在、ラタンの手前5マイル地点で高度12,500フィートを維持しています)
エアシステム8517 アイデントファイル ディセント 11,500 ポジション 12マイル フロム ノペン クリア トゥ DMEVOR ランウエイ02 アプローチ
(エアシステム8517便へ。確認しました。ノペンから12マイル先の地点で11,500フィートになるように下降しDMEVORをチェック後、滑走路02への進入を許可します)
ラジャ エアシステム8517 ディセント 11,500 クリア DMEVOR ランウエイ02 アプローチ
(領解しました。こちらエアシステム8517。11,500フィートまで下降し、DMEVORを確認、滑走路02へアプローチします)
フラップ 15」(フラップを15度にして下さい)
 牧機長が下げ翼を降ろす指示を出した。管制官がゴルフ・インデア航空にタワーへの移管の交信をする。これで進入管制エリアではエアシステム8517がNO.1(先頭)になった。そのあとに西からブッダ航空84が続く。
 少しづつ周囲の風景が暗くなり前方に連なる緑の山々が灰色に変わっていく。しかしその後に聳えるヒマラヤの山々はまだ陽光に燦然と輝いて美しい。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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    • 瘋癲老人(湊正大)
    • 2013年 5月10日 11:38pm

    今フライトレーダー24のコックピットビュウでトリブバン国際空港侵入山越えを見ています。
    飛行機ダイスキ、さまページ音声と合わせてみょうとブログ内を探しましたが音声ボタンが表示されません
    当方ブラウザはGoogleChromeです。何か設定が必要なのでしょうか。

      • 竜子
      • 2013年 5月26日 7:26am

      ■湊正大さま

      コメントくださりどうもありがとうございます。
      質問の音声の件ですが、しばらく音声のみをネットから下げております。
      いずれ復帰させるつもりではおりますが、年明けを予定しております。
      申し訳ありませんが、ご理解いただければと思います。

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