機長席第4回 羽田空港離陸

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B777コックピット
※photo:Ito Hisami(イカロスMOOK THE COCKPIT付録より)
B777コックピット

 切り替えた118.1メガから、羽田タワーコントロールの管制官が日本航空195便熊本行きのボーイング777に離陸を許可する交信が入る。
ジャパンエア195 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 190 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ16ライト」(日本航空195便へ 滑走路16ライトから滑走路に沿って離陸して下さい 風は190度から19ノットです)

 今日の羽田は結構強い海風が吹いている。30度左前方から19ノット。もう少し西にまわると離着陸に影響する横風になるくらいである。
ジャパンエア195 フライ ランウェイ ヘディング クリア フォァ テイクオフ 16ライト」(日本航空195便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 滑走路上では、風を切って日本航空トリプルセブンのエンジンが轟音を上げ滑るように走り始めた。それを確認して管制官は日本航空105便B747-400を離陸待機位置に向かわせる。
ジャパンエア105 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(日本航空105便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
ジャパンエア105 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト
(日本航空105便です 滑走路16ライトへ入り、待機します)

▼B777コックピット
B777コックピット

 B747が滑走路末端に入るのを視認した木村副操縦士はタワー管制に連絡を取った。
トーキョー・タワー エアシステム115 ウィズ ユー」(タワー管制へ エアシステム115便です。タワー管制に入りました)
エアシステム115 トーキョー・タワー ナンバー2」(エアシステム115便へ 離陸は2番目です)
ナンバー2」(了解、離陸2番目)
ラジャ ナンバー2」森田機長も確認のコールをする。離陸は滑走路末端に入った日本航空105便につづいて2番の離陸である。
タワー オールニッポン67 オン ユア フリクエンシー」(タワー管制へ 全日空67便です。タワー管制にはいりました)
 エアシステム115便のあと続いている全日空67便ボーイング747-400が同じ管制エリアに入っきた。この便は115便と同じく15時発の札幌千歳空港行きだ。札幌まで115便と同じルートを飛行するのだ。
オールニッポン67 トウキョウ・タワー ナンバー3」(全日空67便へ 離陸は3番目です)
 管制官はエアシステム115便につづいて3番目に離陸する旨を告げた。そしてその視線は無事離陸を終えて上昇する日本航空195便のトリプルセブンを追っている。ギヤを機体に格納するトリプルセブンに管制官が伝えた。
ジャパンエア195 コンタクト ディパーチャー」(日本航空195便へ 以後はディパーチャー管制に連絡して下さい)
 離陸する飛行機に関してタワー管制の任務はここまでで、あとはレーダー管制がレーダーの目を通して誘導するのだ。
ジャパンエア195 グッディ」(日本航空195便、了解 さよなら)
 日本航空のトリプルセブンは、薄もやの4月の空を順調に高度を上げていった。
レフト クリア」(左側、障害物なし)
ラジャ」   
 森田機長はアウターから離陸待機路に入るために左の障害物を確認する。管制官から日本航空105便に離陸の許可が出た。風が少し西にまわった。19ノット、約風速8メートル。管制官が日本航空大阪行き747に離陸許可を与えた。
ジャパンエア105 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 200 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ16ライト」(日本航空105便へ 滑走路16ライトからヘディングで離陸して下さい 風は200度から19ノットです)
ジャパンエア105 フライ ランウェイ ヘディング クリア フォァ テイクオフ 16ライト」(日本航空105便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 ランウェイ・ヘディングはランウェイと同じ方向、すなはち105便の場合は機首(ヘディング)方向160度で離陸するという意味であるが、英国や英国と密接な国々、たとえば、インド、オーストラリアなどでは「クライム オン トラック」という言葉を使う。管制用語も国によって微妙に違う。
 滑走路では日本航空105便がエンジンパワーを上げた。同時に管制官はエアシステム115便を滑走路末端の待機場に入るように指示した。  
エアシステム115 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(エアシステム115便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
エアシステム115 タクシー イントゥ ポジション ホールド 16ライト」(エアシステム115便です 滑走路16ライトへ入り、待機します)
ファイナル クリア」(最終着陸進入経路は、何もありません)
 木村副操縦士が右窓から滑走路16ライトへ進入する航空機がないことを確かめて機長に伝えた。
ラジャ イントゥ ザ ポジション ホールド」(了解 滑走路内で待機します)
イントゥ ザ ポジション ホールド
 森田機長は離陸する日本航空のジャンボ機を見ながら、115便をゆっくりと滑走路末端に入れた。
そのときBランウェイから海上保安庁の航空機が進入するという交信が聞こえた。
トーキョー・タワー ジュリエット アルファ 8709 ランウェイ22 スポット ノベンバー36」(タワー管制へ JA8709です 滑走路22へ進入中です スポットはN36です)
ジュリエット アルファ 8709 トーキョー.タワー クリア トゥ ランド ランウェイ22 ウインド 180 アット 22」(JA8709へ 滑走路22への着陸を許可します 風は180度から22ノットです)
クリア トゥ ランド ランウェイ 22 ジュリエット アルファ 8709」(滑走路22へ着陸します)
 海上保安庁機に着陸許可を与えた管制官は、離陸を完了した日本航空105便に最後の交信をする。「ジャパンエア105 コンタクト ディパーチャー」(日本航空105便へ 以後は東京ディパーチャー管制に連絡して下さい)
ジャパンエア105 グッディ」(日本航空105便です さよなら)
 つづいて管制官は滑走路16ライトの末端で待機しているエアシステム115便に離陸許可を与えた。
エアシステム115 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 190 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ 16ライト」(エアシステム115便へ 滑走路16ライトからヘディングで離陸して下さい 風は190度から19ノットです)
フライ ランウェイ クリア フォァ テイクオフ 16ライト エアシステム115」(エアシステム115便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 現在115便がいる場所はAランウェイとBランウェイが交差するすぐ南側のA10地点だ。この地点からAランウェイ(滑走路16と34ライト)は南の端まで2550メートルある。森田機長がゆっくりと機体を回し機首を滑走路の中央ラインに合わせた。滑走路の幅は60メートルもあるがその先端は細くもやって春の霞に溶け込んでいる。
キャンセル L‐NAV」(ラテラル”平面”・ナビゲーションを取り消し)
キャンセル L‐NAV」(ラテラル・ナビゲーションを取り消し)
テイクオフ!」(離陸!)機長の凛とした声が響く。
スラストレフ」(オートスロットル・モード確認)
 エンジンのパワーが上がる。機体を震わせながらボーイング777は滑走路上を走り始めた。急激な加速が生む重力で身体が椅子の背に押しつけられる。
 機長はエンジンの音に注意しながら、操縦桿に手を添えて前方を見つめた。 副操縦士はスピードメーターを見つめている。
 777は加速を続け、スピードが増す。
エイティ!」( 80ノット!)
 スピードが80ノット(時速約148キロ)になったことを木村副操縦士が告げた
チェック」(確認)
オールニッポン67 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(全日空67便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
オールニッポン67 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト
(全日空67便です 滑走路16ライトへ入り、待機します )
 加速しているコックピットの中に全日空67便が、次ぎの離陸のためにランウェイ末端に機体を入れる交信が響く。
 機体がぎしぎしと軋んだ。スピードが上がる。エンジンの轟音。 
V1! VR V2! ポジティブ!」 
 副操縦士がスピードを読み上げる。Vワン・スピード、時速125ノット、時速約200キロ。
 滑走路の中央ラインが一本の白い線となって後方へ飛ぶ。
VR」時速128ノット、時速約236キロ。
滑走路の端がぐんぐんと近づいてくる。
機長が操縦桿を引いた。機首が持ち上がる。
V2!(ヴイ・ツー)」時速133ノット。時速約250キロ。
車輪が地面を離れた
ポジティブ」液晶デスプレイを見ながら機体が浮上したことを副操縦士がコールする。
ギア アップ!」機長が車輪の引き上げを指示した。
ギア アップ!」副操縦士がコックピットパネルのギヤレバーを引き上げた。
 中央のEICASデスプレイに車輪が格納される様子が映しだされる。コックピット内部の音が変わった。車輪が機体に格納されると、空気抵抗が少なくなった115便はさらにスピードを増し始めた。

 ここで離陸スピードについて簡単にふれておこう。飛行機が離陸する場合の速度、まずV1(ヴィワン)スピードは離陸決定速度と呼ばれ離陸には重要なスピードの目安となっている。飛行機が滑走を始めて、もしエンジンが一基が停止したとき、V1スピードまでに離陸を中止するか、継続するかを決めなけれらない。
言い替えると、V1スピード以内であれば離陸中止(リジェクト・テイクオフ)が可能な速度として副操縦士はV1スピードをコールする。と同時にコンピュータもV1と合成音声で知らせる。  次ぎがVRスピード。これをローテーションスピードとも言う。この速度に達したら操縦桿を引いて機首起しを開始するスピードである。そしてV2スピード。安全離陸速度と言う。このスピードになると飛行機は地面を離れ安全に離陸を続行している速度である。「ウインド チェック 190 アット 20」(風は190度から20ノットです)
 風が又、強くなった。離着陸の航空機へ管制官が滑走路上の風の変化を伝えた。森田機長は風を突っ切って飛行機を操る

ヘディング セレクト」(機首方向を設定)
ヘディング セレクト スラストレフ V‐NAV スピード」(機首方向を設定します ヴァーチカル・ナビゲーション作動しました)
ヘディング セレクト V‐NAV スピード」(機首方向を設定 ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
 中央のディスプレイに上下方向のナビゲーション・コンピュータが作動したのが表示された。タワー管制から最後の無線が入る。
エアシステム115 コンタクト ディパーチャー」(エアシステム115便へ 以後は東京ディパーチャー管制に連絡して下さい)
エアシステム115 ディパーチャー」(エアシステム115便 ディパーチャー管制に連絡します)
グッディ
ギア アップ」ディスプレイの中で車輪が格納されたことを確かめて副操縦士がコールした。
ジャパンエア105 118.3(123,7の間違い) グッディ」 日本航空105便大阪行きB747-400が東京コントロール管制に移管された交信が聞こえる。
セット オートパイロット」(自動操縦に切り替えて下さい)
セット オートパイロット」(自動操縦に切り替えました)

 離陸が完了すると森田機長が自動操縦に切り替えた。眼下は東京湾だ。木村副操縦が無線の周波数を変えてディパーチャー管制を呼んだ。出発管制とも呼ばれる東京ディパーチャーは羽田空域を上昇する航空機をレーダーでコントロールしている
トーキョー・ディパーチャー エアシステム115 リービング 1800」(東京ディパーチャー管制へ エアシステム115便です 高度1800フィート通過中です)
エアシステム115 トーキョー.ディパーチャー レーダー コンタクト ターン レフト ヘディング 020 ベクター トゥ モリヤ クライム アンド メインテイン 210」(エアシステム115便へ 東京ディパーチャー管制です レーダーで捕捉しています 左旋回して機首を020度に向けて下さい 守谷VORへ誘導します 高度は2万1000フィートまで上昇して下さい)
 守谷は茨城県の利根川沿いにある街である。現在地点からほぼ北に位置する。管制官は115便を左旋回させ、そのまま守谷上空から東北へ向かう航空路Y11に乗せようとしている。
レフト 020 ダイレクト 210 エアシステム115」(エアシステム115便です 左旋回して機首を020度に向け、2万1000フィートまで上昇します)と木村副操縦士が応答した。
020 レフト クリア」(機首を020度に 左側は異常なし)森田機長が左窓から外を見て確認する。
ラジャ
アルト 210 キャンセル 13000 レフト クリア」(高度2万1000フィート 高度1万3000フィートの制限解除 左方向は良好です)
ラジャ
 機長は左の窓から再度外を見て、他の機影がないのを確かめて東京湾上空、約600メートルでゆっくり左旋回に移った。機首方向を160度(南南東)から20度(北北東)になるまで140度旋回させる。飛行機の下で東京湾がぐるりと大きく回った。
エアシステム115 プロシード ダイレクト モリヤ」(エアシステム115便へ 守谷VORに直行して下さい)
ダイレクト モリヤ エアシステム115」(エアシステム115便です 守谷VORに直行します)
 本来ならば守谷7出発方式では、このまま160方位で木更津まで東京湾を横断して飛び、木更津上空で020度へ左旋回するのであるが、他の飛行機(トラフィック)が、ないかぎり管制官がレーダー誘導(レーダーベクター)で近道(ショートカット)せて守谷に向かわせるのが通例である。  これだけでも時間と燃料の節約になり、航空会社としては有り難い誘導なのである。余談だが、羽田から千歳までの消費燃料はドラム缶で約51本、料金は約63万円という。

 森田機長は飛行進路の変更をコンピュータに打ち込んだ。
セット CDU」(飛行情報を変更)
ラジャ… モデファイ」(了解 変更して宜しいですか)
イクスキュート」(実行して下さい)
イクスキュート」(実行します)
アーム L‐NAV」(ラテラル・ナビゲーションを準備)
L‐NAV キャプチャー」(ラテラル・ナビゲーションを確認しました)
L‐NAV キャプチャー フラップ 1」(ラテラル・ナビゲーションを確認 下げ翼を1度にせよ)
 これでトリブルセブンのナビゲーションシステムが平面と垂直の3Dとして動き始めた。115便は浦安上空を守谷に向かって高度2万1000フィートへ上昇を続けている
フラップ 1」(下げ翼を1度にします)
フラップ アップ」(下げ翼を全て上げてください)
フラップ アップ …」(下げ翼を全て上げます … 全て上がりました)  フラップを上げた115便はスピードを増した。ここで115便がこれから通過する管制区を整理しておこう。旅客機はゲートを出発して離陸、巡航、下降、着陸してゲート・インするまで管制コントロール下で飛行することは周知の通りだが、115便が羽田を出発して千歳空港に到着するまでに経由する管制区は次ぎの通りになる。

 羽田空港飛行場管制  東京デリバリー管制 → 東京グランド → 東京タワー → 東京ディパチャー
 航空路管制  東京コントロール → 札幌コントロール →
  千歳空港飛行場管制  千歳進入管制(千歳アプローチ) → 千歳タワー → 千歳グランド

 羽田、千歳空港の管制は飛行場管制といわれ、空港とその周辺空域を管制コントロ-ルし、航空路管制が日本全国に張り巡らされた上空の航空路をすべてコントロールする。
 航空路管制(ACC)は南から、那覇コントロール、福岡コントロール、東京コントロール、札幌コントロールと日本の空を四つに区分して航空交通管制業務をしている。
 115便は、現在、羽田飛行場管制区の東京ディパチャー管制区を飛行しているが、まもなく航空路管制の東京コントロール管制区に入る。東京コントロールは四国から近畿、北陸、関東、東北まで広いエリアをその管轄としているので、さらにそのエリアが十数のセクターに細分化されている。  詳細にいうと、115便がこれから飛行する管制区は、東京コントロールの関東北セクターである。それから後、東京コントロール東北セクターをえて、札幌コントロール東セクターから札幌コントロール北海道南セクターに引き継がれる。そして飛行場管制である千歳空港の進入管制(千歳プローチ管制)へ向かうのだ。
アフター テイクオフ チェックリスト」森田機長が離陸後の計器点検を指示した。木村副操縦士はMFDモニターに現れた項目を素早く点検して報告する。
アフター テイクオフ チェックリスト コンプリーテッド」(離陸後の計器点検 完了しました)
ラジャ
 高度2万1000フィートを目指して上昇を続けている115便のスピーカーから全日空67便札幌行きが離陸を完了した交信が聞こえた。 
トーキョー・ディパーチャー オールニッポン67 フライ ランウェイ ヘディング クライム アンド メインテイン 130」(東京ディパーチャー管制へ 全日空67便です 現在、直進して高度1万3000フィートに向かっています)
オールニッポン67 ラジャ レーダー コンタクト ターン レフト ヘディング 130 ベクター トゥ モリヤ クライム アンド メインテイン 210 セイ アルチュード」(全日空67便へ 了解しました レーダーで捕捉しています 左旋回して機首を130度に向けて下さい 守谷VORに誘導します 高度は2万1000フィートまで上昇して下さい 現在の高度を教えて下さい)
ヘディング 130 クライム 210 アルチュード 1500 オールニッポン67」(全日空67便です 機首を130度に向けて、2万1000フィートまで上昇します 1500フィート通過中です)
エアシステム115 コンタクト トーキョー.コントロール 124.1 グッディ」(エアシステム115便へ 以後は東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡して下さい)
ラジャ
エアシステム115 トーキョー 124.1 グッディ」(エアシステム115便です 東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡します さよなら)
 管制エリアが航空路管制に変わった。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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