航空ドキュメンタリー YS-11「台風飛行」第4回

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航空ドキュメンタリー YS-11「台風飛行」

嵐の奄美大島ウエザー

東亜国内航空鹿児島運航課

 運航課のテレックスが鳴って、午後1時(13時)の気象情報が入った。鹿児島気象台が一時間ごとに知らせてくる航空気象情報である。
 松田課長がテレックスを見ながら奄美大島の最新気象情報を語った。
「340度の16。ガストが28。10キロ以上、2オクタスのキューモラスの2000。28度、22度、2950なんですが、風が280度からバリアブルで20度ですね」
 奄美大島空港の滑走路上では、340度方向(ほぼ北)から16ノットの風。16ノットの風は強風に違い無いが、数時間前に比べ、台風の通過によって幾分良い状態であることを示してした。しかし、ガスト、いわゆる時々、28ノットの突風が吹いており、依然として台風下の影響が残っている状況であった。
 視程は10キロ以上と良好で霧や雨雲でランウェイが見えないということもなく、雲は高度2000フィートに2オクタスの積雲があり、温度は28度、露点温度は22度で29.50インチで普段の寒冷前線の通過時の気圧とあまり変わりはなかった。
 唯、風の方位と域が問題であった。280度(ほぼ西)から020度(北北東)の約100度の広がりで変化する風の方位と16ノットから28ノットの突風まで強弱があることを示していた。
 とくに特殊空港に指定されている奄美大島空港は、横風が16ノット以上であれば着陸が不可能になる。使用するランウエイは020方位なので、風が正面(020度)から吹いている時は着陸可能な状況になるが、進入するときに280度の西風を受けると着陸する状態には程遠かった。
「(先ほどよりは良くなったが)まあ、風が020度まで行くとランウエイはヘディング(正面方位から受ける風なので)ですから、問題は無いのですが、(現状では)ウエスタリーのクロス(西側の横風)なので何とも言えません。(着陸するには)タイミングが必要ですね」

567便のコックピット

 すぐ運航課は567便へ13時の奄美大島の気象情報をカンパニー無線で知らせた。
「トーアドメス567。トーアドメス薩摩。えー、13時の奄美の天候をどうぞ…」
 大井機長は管制との交信モニター(VHFNO2)を副操縦士に替わって引き受けて、小山副操縦士が運航課との交信に応じた。
「はい。567です。どうぞ」
「13時の奄美は340度16(ノット)。マキシマム(最大風速)28(ノット)。10キロ以上(視程)、2オクタス・キュームラスの2000(雲量)。28度(気温)、22度(露点温度)、2950(気圧)。ウインドディレクション(風の方位)はヴアリアブル(変動的)で280度から020度です」
 奄美大島では13時現在、西から北北東にかけて約100度の範囲から、16ノットから、最大28ノットまでの風が不規則に吹いているのだ。
 小山副操縦士はすばやくウエザーリポートの一つ一つの数字を丹念にメモしていく。
 もし、奄美大島空港にATIS(エアポート・ターミナル・インフォメーション・システム)の設備があれば直接、奄美大島空港の周波数に機内の無線周波数を合わせて随時、情報を得ることが出来るが、昭和56年当時には、奄美大島空港にはATISがなかった。それで、奄美大島空港の管制エリア以遠から奄美大島の最新天候情報を得る場合には、各航空会社の運航課が飛行機に無線で知らせるのが普通であった。
 続いて運航課は567便に奄美大島周辺の島の天候を伝えた。
「徳之島は350度、23(ノット)、10キロ以上(視程)、3オクタス(雲量)、2500(フィート)、29度(気温)21度(露点温度)、2956(気圧)」
(徳之島空港滑走路の天候は、風が350度方向から23ノット吹いています。視界は良好で10キロメートル以上、雲は高度2500フィートに3オクタスの雲量です。気温は29度、露点温度は21度、気圧は29.56インチです)
「沖永良部島は340度、20(ノット)、マキシマムが32(ノット)、10キロ以上、2の2000、テンプが28、20度、2957。尚、与論島は330度18(ノット)、マキシマムが26(ノット)、10キロ以上、3オクタス3000、28度、26です。どうぞ」
(沖永良部島は340度方向から20ノットの風、最大風速が32ノット)、視程は10キロメートル以上で雲は高度2000フィートに2オクタス、気温は28度、20度、29.57インチです。 尚、与論島は330度方向から18ノットの風、最大風速は26ノット、視程10キロメートル以上、高度3000フィートに3オクタスの雲、気温28度、26度です。どうぞ)
「はい。了解しました」
 小山副操縦士がメモを終えて交信を閉じたとき、567便の飛行高度が10000フィートに達して雲を抜けた。
 大井機長が鹿児島レーダー管制に報告する。
「カゴシマ・レーダー。トーアドメス567。リービング10タウザンド」
(鹿児島空港出発管制へ。こちら東亜国内航空567便です。現在高度は10000フィート)
「トーアドメス567。カゴシマ・レーダー・コントロール。5マイルズ ビフォー マクラザキ。チェンジ&コンタクト フクオカ・コントロール135.3。レーダー コントロール ターミネイテッド オーバー」
(東亜国内航空567便へ。こちらは鹿児島出発管制です。現在地は枕崎(註 薩摩半島の南にあるポイント)の5マイル手前です。以後は福岡コントロール135.3メガヘルツへ交信して下さい。こちらのレーダー誘導の限界地点です)
「ラジャー、567。フクオカ 135.3 グッデイ」
(567便、了解しました。福岡管制の周波数は135.3。グッディ)
 鹿児島空港のレーダー誘導は空港を中心に約30マイルの半径内をそのテレトリーとし、又、航空機が高度10000フィートを超えると、高高度の飛行をコントロールする福岡管制のレーダーが担当する。
 すなはち、567便はこのあと、福岡コントロールと那覇コントロール、そして着陸、進入時は奄美レジオに引き継がれるのだ。
 詳細に言えば、日本の高高度空域は航空交通管制部(ACC)が、日本の空域を四つに分けてコントロール(北から札幌、東京、福岡、那覇の各管制エリア)しているが、567便の飛行は、まず福岡コントロールの南九州西セクターが担当(飛行高度が23000フィート以上は133.85メガヘルツ。22000フィート以下は135.3メガヘルツの周波数)して、北緯30度線付近で那覇コントロール、沖之北セクター(132.3メガヘルツ)に引き継がれ、最終的には奄美大島レジオ(118.1/126.2メガヘルツ)に替わるのである。
 鹿児島レーダー・コントロールと交信を終えた大井機長が、小山副操縦士と管制無線を交代しながら、
「スクォークは?」と、福岡管制エリアに入ったときに指定されている567便のレーダー認識番号を確認した。
「4421です」と小山副操縦士。そして「福岡コントロールへコンタクトします」と、周波数を135.3メガヘルツに切り替えて福岡コントロールを呼んだ。
「フクオカ・コントロール トーアドメス567 リービング10300 アサイン 12000」
(福岡コントロールへ。こちらは東亜国内航空567便です。現在高度10300フィート通過。指定高度12000フィートへ上昇中です)
「トーアドメス567、フクオカ・コントロール。スクォーク 4421」
(東亜国内航空567便へ。こちら福岡コントロールです。貴機のレーダー認識番号は4421です)
 桜島を通過した頃から567便はかなり厚い雲の中に入った。そして高度10000フィートを過ぎるとやっと雲のトップに出たが、青空は見えなかった。
 上空20000フィートくらいに厚い雲の層があり、それが頭上を覆い、丁度今は上下ふたつの雲海に挾まれて雲が作る空間を飛行している。
「やっぱり、風の振れ幅が西に回ってきたな」大井機長が奄美大島の天候に話を戻した。
「ええ、280度まで振れていますね」と小山副操縦士。風がこのまま西に振れれば着陸は困難である。
「ベロシティは変わらないけどさ…」と言って、大井機長は窓越しに広がる暗雲の彼方の奄美大島を見つめるように、前方に視線を投げた。
「はい。13時、奄美です」
 コックピットのスピーカーから、すぐ後を飛ぶ569便へ運航課が天気情報を知らせるカンパニー無線が流れてきた。
 その無線と重なって福岡コントロールが567便へ飛行高度を問い合わせて来る。
「トーアドメス567。レーダー・コンタクト。25マイルズ サウス オブ カゴシマ。セイ、アルティテュード?」
(東亜国内航空567便へ。貴機をレーダーで捕捉しています。現在地は鹿児島の南25マイル地点を飛行中です。現在の飛行高度を知らせて下さい)
 小山副操縦士がマイクを取って答える。
「ラジャー、567。リービング 10タウザント 600ハンドレット」
(了解。こちら567便です。現在高度は10600フィートで上昇中です)
「トーアドメス567、ラジャ。エリア QNH 2956」
(東亜国内航空567便へ。了解しました。現地域の気圧は29.56インチです)
 管制コールを復誦して無線交信を終えた小山副操縦士は、再び、機長との会話を続けた。
「(奄美大島の)クラウド(雲)は減ってきているみたいですけどね…」
 だが、この時点で気象データをどのように分析予測しようとも、奄美大島が台風22号の余波を受けていることには間違いなかった。 大井機長は全日空機の交信を聞きながら、独り言のように呟くのだった。
「しかし、このウエザー(気象情報)だけでは(現地の天候を知るには)限界があるな。(要は)状況を知るにはさ。行ってみなければわからないよね」
 YS-11は一路、奄美大島へ向けて飛び続けた。

つづく

武田一男

【特別付録】このドキュメンタリーは航空サウンドでも楽しめます。
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航空ドキュメンタリー YS-11「台風飛行」/全9回
録音&解説:武田一男 ©Director’s House

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