ブックレビュー:「スカイジャック」

今年の3日に新年一発目のコンテンツ、武田一男さんの寄稿、「航空小説のたのしみ」で私宛に紹介いただいた「スカイジャック」のレビューを掲載します。
もし、この「航空小説のたのしみ」を未読の方がいらっしゃったら、ぜひ一読いただくことをおすすめいたします。このブログに原稿を寄稿してくださっているスタッフに宛てたものですが、読むべき航空小説のエッセンスがふんだんに盛り込まれている楽しいコラムでした。

私に推薦していただいた航空小説は、3冊。「かもめのジョナサン」でおなじみのリチャード・バックの「フェレット物語 嵐の中のパイロット」、アーサー・ヘイリーの「大空港」(上下巻)、そして今日紹介する「スカイジャック」。

「航空小説のたのしみ」で武田さんがおっしゃっていた通り、「フェレット物語 嵐の中のパイロット」だけは読んだことがある。そしていつかレビューを掲載しなきゃ、なんて思っていた中での、あの紹介。お正月の寒い中、お風呂で思案を巡らせる武田さんの姿を思い浮かべ、「くっそー! やられた!!」と笑いました。
そして、もう1冊の「大空港」は、上下巻の大作とあって(しかも、なぜか上巻だけを無くしてしまい、武田さんご本人にお借りしました)、いまだ読み終えていません。
なぜ「スカイジャック」になったかといえば、私宛の最後に「この辺で手を打ってこの小説、一度読んでみますか?」などと、挑発されたからに他なりません!

さて、そんな「スカイジャック」の話題に入る前に、想い出話を。
むか〜し、「こちらブルームーン探偵社」というアメリカのテレビドラマを、NHKで放送していたのをご存知の方っていますか? 調べてみると、1986年4月から55話が放送されていたらしいのですが、当時の私は10歳。よくもまぁ、こんな当時のどーでもいい記憶が残っているもんだ、と自分でも呆れるけれど、そのドラマがはじまるのを、母と妹と、夜な夜な楽しみにしていたものです。「こちらブルームーン探偵社」がはじまっちゃう、と放送時間に合わせて、お風呂に入っていたのを思い出しました。
「スカイジャック」を読まなければ、「こちらブルームーン探偵社」というドラマの存在なんか、絶対に思い出さなかったに違いない。しかも「こちらブルームーン探偵社」、我ながら見事なほど完璧にタイトルを思い出し、巨大で青い月の映像と、ネオン風のオープニングまで頭をよぎった。
それもそのはず。「スカイジャック」は小説ながら、ドラマ「こちらブルームーン探偵社」とテイストがそっくり。

その「こちらブルームーン探偵社」は、金髪で頭の切れる探偵社の社長・マディと、とにかくよく喋るデビット(なんと! 当時は知らなかったが、ブルース・ウィルスが演じていて、このドラマは彼の出世作だとか…)のドタバタなサスペンスコメディ。マディは、金髪ウェイビーが子供ながらに印象深く、その印象通り、劇中でも美人でスタイルもよく、元モデルといった経歴の設定。悠々自適な将来を夢みたものの、運命のいたずらで、赤字続きの探偵社を背負うことに…。
一方の「スカイジャック」。こちらはベレッカーとアニーの”元”夫婦のサスペンスコメディ。ベレッカーの華やかな時代は歴史ある法律事務所で一流の仕事をこなし、アニーを秘書に、そして妻として生活を送っていたが、その法律事務所時代にとある婦人とのスキャンダルが報じられ、事務所も結婚生活からも放り出されてしまうというイワクつき。いかにも「ダメ男」なベレッカーは、個人事務所を構えてはいるものの、やはりそれは火の車で、むかしのよしみで、アニーに事務所を手伝ってもらうしかなくなってしまう。

両方に共通するのは、事務所を構えてはいるものの、いつでも傾きかけているということ。そして相手役(相棒役!)を務める女性が超美人で、勝ち気。さらには主役の男性はお調子者で女性には目がない。そのおちゃらけさえなければ、カッコいいのに…、ということ。それからその男女共に好奇心旺盛で、あれこれと首を突っ込むタチ。事件に自ら巻き込まれていくきっかけを作るのは、いつだっておちゃらけた男の方だけれど、女の方も女の方で、懐疑的でイヤイヤながらもそこに相乗りしちゃうということ。それから、それから! いつ結ばれてもおかしくないふたりが、いつものごとくお互いの負けん気でケンカになり、つかず離れず…(腐れ縁ともいう)。こんな男女が繰り広げるやり取りといったら、それはもうやかましい! のひとこと。終始、てんやわんやの騒動で物語は進んでいくのです。

スカイジャック (角川文庫)
「スカイジャック」(角川文庫)Tony Kenrick,上田 公子訳

360人を乗せたジャンボ機が、突如誘拐されてしまう。犯人と思われるところからは、2500万ドルのダイヤを要求されるという、壮大なハイジャック事件が起こったのだ。
この事件の報奨金は10万ドル。経営が逼迫し、好奇心旺盛なベレッカーとアニーがこの難解な事件にのめり込んでゆくのは、至極当然のこと。
行方をくらましたあの巨大な旅客機が一体どこへ行ったのか? ゴルフをしながら思案するベレッカー。どうやってもB747が隠せる条件の場所が見つからない…。
一方のアニーは友達にユニフォームを借りて、スチュワーデスに扮し、空港で聞き込み調査をするつもりが飛行機に乗り込んでしまったり…。お客どころか、クルーまでもが本物と思い込み、機内放送までもさせられることに。こんな感じで、航空ファンをケタケタ笑わせてくれる出来事が盛りだくさん。
それから、ドタバタ劇だけではなく、パイロットがどうして、飛行機乗りになったのか? 美人なスチュワーデスが、なぜスチュワーデスという職を手にしたのか、荷物係員もどうしてその仕事をしているのか? そういった登場人物のヒューマンドラマもありがちだけれどしっかりとしていて映画のようで面白い。
B747がどこへ行ってしまったのか? その最大のミステリーが、常に想像を巡らせ、飽きることなく、最後のどんでん返しの顛末まで続くのです。
ちなみに、「やかましい!」と思わせる男女のやり取りは、前半の1/4くらいまでで、それ以降は「ほんとうにどこへ行っちゃたんだろう…ジャンボ機?」と、頭が物語にのめり込んでしまう。もちろん、その随所にベレッカーとアニーの掛け合いは織り込まれて入るのだけれど、前半を通り越すと、その「やかましさ」がどこかにいってしまい、途中からその賑やかなやり取りが、いいリズムになっているのを、自然と感じ取ることが出来てしまうのです。
男女の掛け合いは、予定調和なのだけれど、このトリックは読んでいて本当に「やられた!」と感じるのです。

これだけのスケールの大きい物語、連載ドラマになったら、どれだけ楽しいか? そんなことを思いました。

著者のトニー・ケンリックは1935年にオーストラリアはシドニーで生まれました。
ほかの作品を読んだことはないのですが、コメディタッチの作品はこの著者の作風なのだそう。
ドタバタのコメディ劇調の物語は、好き嫌いが分かれることですが、「航空小説」としてこんなにユーモア溢れる物語は、あまり見たことがありません。それに、ジャンボ機が失踪する、というトリックもなかなか見事なもの。航空小説をお探しの方、必見の一冊です。

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  1. こんばんは。
    私も「航空小説のたのしみ」で推薦された「航空救難隊」をもう3度も読みました。
    読むたびに発見があり、まだ飽きません!
    そのまま勢いに乗って「0-8滑走路」や「シャドー81」、「高度41000フィート 燃料ゼロ!」、「空中衝突」を
    納戸から引っ張り出してきて立て続けに読んでみました。
    昔の航空小説っていいですね。かつて世界の空で活躍したDC-8やBoeing707、当時”最新鋭機”だったBoeing767なんかが登場してきてワクワクしました。「シャドー81」以外はどれもこれも飛行中に何らかのトラブルが発生して、何とか地上に戻ってくるというストーリーなのですが、どれもこれもパイロットやパイロットの代わりに操縦桿を握って飛行機を操る方の苦闘が生々しく描かれていて、興奮します。
    近日中にブックレビューというか、”感想文”をお届けしたいと思います!

    • 竜子
    • 2010年 3月3日 7:23am

    ■Airmanさん
    こんにちわ。
    3回ですか! す、すごいですね…。こんな短期間に! わたしは、せいぜい2回くらいですかね。それも、何年も経ってからでないと読み返すことがありません。
    わたしも「航空救難隊」を読みましたが、あれは本当に面白いです。そして、ライセンスを持つAirmanさんにはピッタリ…。もしかすると、同じようなことがあったら、自分だったらこうするな、という想像が掻き立てられる小説ですね!
    わたしも「レビュー」というのは厚かましく思いましたが、ぜひぜひ、レビューでも感想文でも公開していただけると嬉しいです!

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