YS-11コックピット・ドキュメント「雨中航路」第1回

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航空ドキュメンタリー YS-11コックピット「雨中航路」

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梅雨の中の羽田空港

 東京国際空港(羽田空港)から大阪国際空港(伊丹空港)への主要空路には、過去、定期便としてYS-11は飛んだことがない。しかし、今日は珍しく東京国際空港の空港ターミナルから離れた駐機場のスポット26番に日本近距離航空のYS-11が、大阪国際空港(伊丹空港)へ向けて静かに出発の時を待っていた。
 大きなプロペラの羽を4枚備え、ロールスロイス社製のエンジンがその羽を大きく鋭く力強く回転させる。甲高く重々しく耳を突き刺すようなダート・サウンド・エンジンは、周りの音を一切シャットアウトし、その存在感を十分に主張するに足りる。YS-11はプロペラ、主翼、後援翼が大きいが、垂直尾翼は小さく見える、むしろ丸くなっているようにも見える。機首部分は尖がっているようにも見えるが、丸みを帯びた愛くるしい表情を見せる。YS-11を「鵞鳥」と例える人がいるが、そう見えてくるのが不思議である。鵞鳥は群れをなして、池から池へ、川から川へ餌を求めるが、YS-11は群れを成すことはない。過酷な状況でも勇敢に飛び立つ姿は、立派に巣立った鵞鳥であるかも知れない。

出発1時間前。いつもであれば、搭乗待合室は土産を手に提げ旅行を思い出に華を咲かせ談笑している人、疲れからかソファにドッと腰を掛け溜息をつき、おもむろに缶ビールを開け喉越しが聞こえるぐらいに勢いよく胃に流し込んでいる人、、そんな色んな想いを抱えてる人達で溢れ返っている。
 然し今日はいつもと全く雰囲気が違う。グランドスタッフもいなければ、お客さんさえいない。閑古鳥も鳴かないくらいである。とにかく全く誰もいない。ましてや、このYS-11には荷物も積まなければ、誰一人搭乗者も乗らない。乗るのはパイロット2名と燃料だけである。
 今日のフライトは東京国際空港(羽田空港)から大阪国際空港(伊丹空港)まで、このYS-11をフェリー(輸送・空輸)するのである。普通「フェリー」というのは、乗客と車両を運ぶ船のことを指す。輸送はトランスポート(transport)、空輸はトランスポート バイ エア(transport by air)若しくはエア トランスポーテーション(air transportation)と言う。
 航空業界ではしばしば船舶用語を使うことがあり、フェリーも船舶用語から来たのであろう。さて、フェリーというのは機材(飛行機)繰りや整備の関係で一人の搭乗者も乗せず、飛行機だけを次の出発点や整備工場まで輸送することである。また航空機製造メーカーで造られた飛行機を発注先の航空会社に輸送することもフェリーと言う。

 パイロットがディスパッチルームで詳細に亘ってブリーフィングを行っている。今日は飛行ルート付近に梅雨前線が張り出し、梅雨時の雲中飛行を余儀なくされる緊張するフライトが予想される。雨と風が強くなるとの報告を受け、慎重に且つ的確にフォーキャスト(天気図)を睨み、飛行データを基にプランを検討している。キャプテンがディスパッチャーが作成した飛行プランにサイン、同じくディスパッチャーもサインをし、これで飛行計画が承認され、あとは運輸省航空局へ申請することになる。
 パイロットはYS-11が待つ駐機場スポット26番までランプバスで移動する。飛行機には既にタラップが付けられて、機体の下部に機内の空調を行なう銀色の大きなパイプが付けられ、横付けされた電源車が機体に電源を供給している。YS-11は現代の飛行機と違い、APU(自助電源装置)が装備されていないので、外部から電源を供給されないと交信はおろかエンジンや空調さえ動かすことが出来ない。
 到着するなり、1名は飛行機の外部点検へ、もう1名はコックピットに入り、飛行日誌、スイッチ類のチェックを行い、キャビンを始め機内から主翼の上部などチェックを行う。
外部点検では機首から時計回りに機体を一周する。先ず機首部の速度や高度を計測するピトー管や静圧孔が詰まっていないか、レーダー・アンテナが収納されているレドームに傷がないか(あれば正確なレーダー情報が得られない)、右エンジン(№2エンジン)のプロペラを手で軽く回し異常音がないかスムーズに回るか、各ギアのタイヤのチェックと胴体を繋ぐ脚柱に異常はないか、エルロン、フラップ、空調や与圧の為の空気取り入れ口(ヒートエクスチェンジャー)、エレベーター、ラダーを確認する。その後、コックピットに戻り、2人のパイロットでプリフライト・チェックが行なわれ、機長は副操縦士にコックピット・チェックリストをオーダーした。

プリ・フライト計器点検のテクニカル

「プリ フライト チェック…コンプリーテッド」
「レディオ マスター アンド レディオ フォーム…オン」
「インバーター…オン」
「キャビン サイン…オン」
「プロップ ブレーキ…オン」
「プロップ システム…チェック」
「ファイアー リレイター…チェック」
「フライト レコーダー…セット アンド ノーマル」
「フライト インストルメント…チェック」
「アンチ スキッド…チェック」
「フュエル アンド ウォーター メタノール…チェック」
「ハイドロ リック…チェック」
「フュエル スィッチ…マニュアル」
「ハイドロ レバー…バイパス」
「プレスシャリゼーション…セット 1200」
「レディオ…セット」
「フュエル トリマー…セット スタート 10%」
「コックピット・チェックリスト コンプリーテッドです」
「レディ トゥ スタート お願いします」
エンジンを始動させる前に、コッピットにある計器とスイッチ類が正しい位置にあるかを確認し、機長は飛行プランの承認を受ける為、副操縦士に東京グランド管制へ交信する指示を出した。
「トーキョー・グランド キンキョリ9175 レディ トゥ スタート オーバー」(東京グランド管制へ。こちら日本近距離航空9175便です。エンジン始動準備が出来ています。)
「キンキョリ9175、クリア トゥ ヤマト ヴィア ベイ・ワン ディパーチャー ヨコスカ トランジッション フライト プラン ルート メインテイン 10000 ディパーチャー フリクエンシー ウィル ビー 126.0 スクォーク4672」(日本近距離航空9175便へ。ヤマトまでの飛行を承認します。ベイ1出発方式で横須賀VORを経由し、飛行高度は1万フィートです。離陸後、東京ディパーチャー管制126.0メガヘルツで交信して下さい。貴機のレーダー認識番号は4672です。)
「了解」と、機長が確認の合図をし、副操縦士は交信内容を復唱した。
「キンリョリ9175 ラジャ クリア トゥ ヤマト ヴィア ベイ・ワン ディパーチャー ヨコスカ トランジッション フライト プラン ルート メインテイン 10000 ディパーチャー フリクエンシー ウィル ビー 126.0 スクォーク4672 オーバー」(了解しました。ヤマトまでベイ1出発方式で横須賀VORを経由し、高度1万フィート、離陸後は東京ディパーチャー管制へ交信します。当機の認識番号は4672です。)

 ベイワン出発方式で東京湾上を右旋回し横須賀VORを10000フィートで通過後、方位259度で伊豆半島を横断、焼津の北をぬけて浜松VORに向かうという飛行コースである。
管制官との交信中にも頻繁にカンパニー交信が飛び交っている。
「キンキョリ9175 ラジャ」と、副操縦士はタキシングする際に交信する指示を受けた。
「今、何かカンパニーが呼んで来ましたね」
「いやいや、あれは…向こうの84…なんぼですか…」
 副操縦士は飛行プランの復唱している間に自社がカンパニー交信してきたものと思い機長に尋ねたが、そうではなかったと少し安堵した。
 カンパニー交信は離発発着する航空機と自社との間で交わされるもので、スポットを離れた時間や離陸した時間の報告、また到着するスポットの確認、或いはお客様の人数の報告など飛行に関わる情報を伝える為に必要な無線である。
 エンジン始動前のチェックをする為、機長と副操縦士は自席横にある開閉式のドアを開けて、チェックを始めた。
「オーケー ドア ライズ チェック」
「ブースター ポンプ…1オン」
「アンチ コージョン ライト…オン」
「プロップ ブレーキ…オフ」
「パーキング ブレーキ…オン」
「ナンバー 2(右側エンジン) クリア」
「レフト サイド(左側エンジン) クリア」
 チェックと同時に機長は左腕を窓から出し、地上誘導者に右側エンジンから始動することを手信号で伝えた。いよいよ、ロールスロイスのダート・サウンド・エンジンが回りだす。
「スタート マスター スウィッチ ナンバー2 スタート クリア コンタクト」
「コンタクト」
「21 ライト オン」
「アイム スタート」
「ローテーション」
「200 フュエル フロー」
「RPM…TGT-R」
「オール プレッシャー カミング アップ」
「ハイドロ ストップ アウト ウォーニング ライト オン」
「3000…4000…68…スラビライズ」
「ナンバー ツー デイトリム セット」
「セレクト オフ」
「レフト サイド セレクター ワン」
「セレクター ナンバー1 コンタクト」
「21…43」
「ハイドロ ストップ ライト オン…ローテーション…フュエル フロー」
「RPM…TGT-R」
「オールプレッシャー カミング アップ」
「ハイ ストップ ライト オン…3400」
「ライド アップ…4000…デイトリム セット」
「ノーマル スタート セーフ アンド オフ…」
「オン アンド バッテリー」

エンジン始動のテクニカル

 まず機長はナンバー2のエンジン(この場合は右エンジン)からスタートすることを必ずコールしなければならない。ナンバー1のエンジンからスタートとすると、障害物や地上整備員がプロペラの巻き込みが考えられるので必ずコールする。その次に、オーバー・ヘッドパネルにあるスターター・マスター・スイッチをスタートの位置にし、その右にあるエンジン・セレクター・スイッチを№2の位置にする。スターター・マスター・スイッチの左にあるスターター・ボタンを押しながら、中央パネルの中段の左側にあるエンジン回転計を見ながら500回転になるまでに押し、その後はパワー・レバーを手に添える。その間、副操縦士は中央ペデステル右側にある2本のHPC(ハイ・プレッシャー・コック)レバーに手を添えて、機長の指示で操作する。HPCとはプロペラのピッチ(角度)と燃料をコントロールするレバーである。機長はエンジンの回転数が上がった時に「ローテーション」をコールする。引き続き1200〜1500回転に達したら「フュエル フロー」とコールし、副操縦士は燃料を注入する。TGT(タービン・ガス・テンパラチャ=排気温度計)の上昇が止まり、副操縦士はエンジンが4000〜4500回転を確認した後、HPCレバーを一番奥に押し込みロックアウトする。№2のエンジンのTGTが安定したのを確認し、№1のエンジンも同じ要領で始動する。全てのエンジンが始動し回り始めたら、外部の温度が10℃以下の場合はウインド・シールド・ヒーターをオンにセットする。オーバー・ヘッドパネル右側にあるジェネレーターを作動させ、その右のバッテリー・スイッチをバッテリーの位置にセットする。同じく左側にあるオルタネーターを作動させ電圧をチェックする。スターター・マスター・スイッチをセーフの位置にし、エンジン・セレクター・スイッチをオフの位置にする。そしてHPCレバーの下にある4つ並んでいる右から2つ目のフュエル・トリマーをTGTが700℃以下に下がったことを確認してスイッチを入れる。オーバー・ヘッドパネルの中程にあるフュエル・ブースター・ポンプを全てオンにする。次に副操縦士の右サイドパネルにあるハイドロ・レバーをノーマルの位置にセットする。これは油圧系統機器の流れをノーマル状態にすることで、例えばタキシングする時にはブレーキやステアリングを使う為に油圧が必要となるので、今までバイパスしていたハイドロを使用する為に通常の管を通して上げることである。レーダーとトランスポンダーをスタンバイし、機長は地上誘導者に機体に横付けしていた電源車が離れるよう指示し確認を行なう。甲高いダート・サウンド・エンジンの音の中、機長は副操縦士にエンジン始動後の確認、アフター・スタート・チェックリストをオーダーした。
「アフター スタート チェックリスト」
「ウインド シールド ヒーター…オン」
「ジェネレーター アンド バッテリー スイッチ…オン アンド バッテリー」
「フュエル ヒーター…オン」
「オルタネーター…オン」
「スターター システム…セーフ アンド オフ」
「ハイドロ レバー…ノーマル」
「HPC レバー…ロック アウト」
「フュエル トリマー…セット フォア テイクオフ」
「レーダー アンド トランスポンダーDME…スタンバイ」
「グランド イクイップメント…ディスコネクテッド」
機長は、チェックが終わったと同時にタキシングする為に、副操縦士に東京グランド管制に交信するよう指示した。
「タクシー」
「トーキョー・グランド キンキョリ9175 リクエスト タクシー スポット 26 インフォメーション エクスレイ(X)オーバー」(東京グランド管制へ。こちら日本近距離航空9175便です。空港情報エクスレイ(X)を聞いています。駐機所スポット26番にいます。地上走行を許可願います。)
「キンキョリ9175 ランウェイ15 ヴィア チャーリー7 ヴィア Aランウェイ」(日本近距離航空9175便へ。誘導路チャーリー7、Aランウェイを通過して滑走路15レフトへの地上走行を許可します。) (注 15L滑走路は旧A滑走路で1988年に改装されて16Lとなった)
「キンキョリ9175 ラジャ チャーリー7 ヴィア Aランウェイ」(了解しました。チャーリー7、Aランウェイを経由します。)
「ライト サイド クリア」
「レフト サイド クリア」
 地上誘導員により手信号にて出発の了解を確認したパイロットは機体の左右に障害物がないかを確認し、機長はパーキング・ブレーキを解除した。通常ジェット機ではインターホンによって連絡を取るのだが、YS-11は機体が小さい為、手信号でも十分に確認が取れる。 エンジンが回っているが、パーキング・ブレーキを解除しても動くことはない。プロペラの回転数を1万1000回転以上を超えなければプロペラの角度が傾かない。
 機長は右手でスラスト・レバーをゆっくりと前に倒し、左手で機体の方向を操縦する左サイドパネルにあるステアリング・ハンドルを握り、機体は静かに動き出した。
 タキシング中に機長は、ノーマル・ブレーキとエマージェンシー・ブレーキの点検をする。ノーマル・ブレーキは両足を置いているラダーの先をつま先で踏み込む。エマージェンシー・ブレーキは中央ペデステルの機長側にあるハンドルを静かに引いて、その効果を点検し効果の確認後、静かに元に戻す。副操縦士はフラップを下げて、必要に応じてエンジンの防氷系統の点検を行なう。フラップを下げる作業はタキシングを始めてからでないと行なってはならない規定になっている。タキシング初期の確認作業を終えると、機長はテイクオフ・データの再確認を行なった。
「ハイドロ・プレッシャー ノーマル」
「ランプ・アウト 50分」
「テイクオフはノーマルパワーのローリング・テイクオフ フラップ10ね」
「ビフォア V1はいつもの通り…」
「アフターV1は ユーズ フラップ 15ね」
「クリアランスは10000 フライトプラン通り」
 飛行データで承認された事項を機長は副操縦士と共に再確認を行ない、離陸滑走中にトラブルがあった場合の打合わせも同時に行なう。この作業はフライト毎に必ず行なう。

タキシングのテクニカル

 ここでタキシングの操作に触れておく。先程も書いたが、プロペラの回転数が1万1000回転以上でないとプロペラの角度が傾かない。これを「ゼロ・ピッチ」又は「ウインドミル」と言う。YS-11のタキシングは適正な速度と円滑な操作、プロペラ出力の調整、ブレーキ及びステアリング操作をスムーズに行なえれば、習得したと言っても過言ではない。エンジン・スタート後、タキシングするまではプロペラはアイドリング状態で、プロペラの角度はゼロ・ピッチ、つまり推力が全くない。1万1000回転以上にすると角度が傾いてきて推力を増して走行し出すのだが、これの操作が非常に難しい。タキシー・ウェイに勾配があったり風が吹いていたりすると、その難しさは一層に増す。スピードを落としたり、停止する際にラダーの先端をつま先で踏み込むのだが、両足同時に踏み込まなければならない。例えば右のラダーを踏み込むと機体は右に曲がってしまう。そうなると変な横揺れが起こり、飛行機酔いを起こしかねない。それほどYS-11の地上走行は難しいのだ。
 テイクオフ・データの確認後、機長はタキシング中に行なうタクシー・チェックリストを副操縦士に指示した。
「タクシー チェックリスト」
「ハイドロ プレッシャー…チェック」
「フラップ…ワンゼロ(10度)」
「テイクオフ データ ブリーフィング…チェック アンド レディオ」
「タクシー チェックリスト コンプリーテッド」
「はい、どうも」
 YS-11は15Lに向かって地上走行を続けている。

つづく

桃田素晶・武田一男

<おことわり>本作は1985年当時の音源を使用し当時の模様をお届けしておりますが、文中で使用している図は、当時のものと異なります。特に伊丹空港のチャート図などは、当時のものを使用しておらず、スポットまでのルートに違いが生じていますが、参考に必要と考え、そのまま掲載しております。

航空ドキュメンタリー YS-11コックピット「雨中航路」/全10回
解説 桃田素晶/録音 武田一男 ©Director’s House

【著作について】「雨中航路」収録している音声、音源のすべては武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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    • 名無しのリーク
    • 2017年 1月1日 5:23am

    香川県さぬき市ルーちゃん餃子のフジフーヅは派遣にパワハラで指切断の重傷を負わせた糞ブラック企業

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