YS-11コックピット・ドキュメント「雨中航路」第5回

[title_uchukouro]
航空ドキュメンタリー YS-11コックピット「雨中航路」

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

静岡上空、豪雨に突入

 管制エリアが再び東京コントロールに変わった。
「トーキョー・コントロール キンキョリ9175 メンテニング 10000 スコーク 4672 オーバー」(東京コントロール管制へ。こちら日本近距離航空9175便です。高度1万フィートでレーダー認識番号は4672です)
「キンキョリ9175 トーキョー・コントロール ラジャ エリアQNH 2990」(了解しました。QNHは2990です)
「ラジャ 2990 9175」(了解、2990)   
 周囲が少し明るくなり、雲と雲の間に出た。
「エンジン・アンティアイス 切っときますか」
「はい」
 雨が止んだので副操縦士がエンジンの防氷装置をオフにする。そして窓から下界を眺めた。
「ずーっと、下(地上)が見えないですね」下界は 雲、雲、雲、無数の灰色のこぶのように連なっている。
「現在、伊豆半島上空ですね」 計器を見ながら機長がいう。
「伊豆の所を通る時、ちょうど熱海の上を通るんですよね、熱海の上、丁度通って行きますね、横須賀からダイレクト(直行)すると」副操縦士も地図を見ながら言う。
「そうですね」 と機長、そのとき、又、YS-11は大きな暗い雨雲に入った。
「(エンジン・アンティアイス)入れときますか…また降ってきたな」
 梅雨前線の影響で雨が再び降り出した。目まぐるしく猫の目のように天気が変わる。
「もう横須賀のVOR・・・」横須賀のVORを受信していたADF2を見て副操縦士が言った。
「ナンバー2(ADF)も浜松、入れときますか」
「はい、どうぞ」
「これはVORだけです」副操縦士はADF2を浜松のVORにセットした。
 雨が激しくなった。フロントガラスに音を立てて雨の水滴が飛び散る。
「トーキョー・コントロール ジャパン42スケジュール96 メンテニング セブン タウザンド オーバー」
「ジャパン42スケジュール96 トーキョー・コントロール ラジャ エリア QNH2990」
「ラジャ 2990」(了解しました。2990ヘクトパスカル)
「アファーマティブ」(その通りです)
「今、TASが215(ノット)ですね」 エアースピードを副操縦士が読み上げる。
千歳空港から大阪へ向かう全日空のB747SR機とのやり取りが入ってきた。
「オールニッポン776」(全日空776便です)
「オールニッポン776 トーキョー・コントロール ラジャ」(全日空776便、了解しました)
「20分で着くな…ちょっと(到着が)早くなるね」機長が浜松までの時間を予測して言った。正面からの風が予想したようには強くない。
「GS(グランド・スピード)195…(風が)40ノットも出てないですね…30ノットぐらいのとこですね」
「これ(雨)、強いよ」機長がレーダーを見ながら行く手に待ち受ける大きな雨雲をさして言った。
「あと…15マイルか、7分後…あれだな」
「正面(の雨雲)ですね」 副操縦士が窓から外を確認する。15マイル先の黒い雲は肉眼で見ても周囲の雲より険悪に聳えている。
「トーキョー・コントロール トーアドメス463 クライミング 230 オーバー」(東京コントロール管制へ。こちら東亜国内航空463便です。2万3000フィートに向かって上昇中です)
「トーアドメス463 ラジャ スクォーク4701」(東亜国内航空463便へ。了解、貴機の認識番号は4701です)
「ラジャ」(了解)
東京コントロールから、名古屋空港から仙台空港へ向かう、東亜国内航空のDC9に認識番号が付与された。
「あと浜松(VORまで)、50マイル」
「そうですね」
「丁度いい高度、通ってるからね」
 高度10000フィートあたりで雲の層が上下に分かれており、飛行航路は上下の雲の間、いわゆるBetweenといわれる状態になっている。
「丁度、いいですね」
 又、雨が激しくなった。レーダーの前方にも濃い雨雲が映っている。YS-11のコックピットは大型ジェット旅客機に比べてエンジン音や外の音が身近に聞こえる。ジェット旅客機を車に例えると外音を遮断した大型リムジン内部と、布の幌をかけた小型スポーツカーの内部にいる違いと言えるだろう。それだけに空を飛んでいるという実感もするとパイロットは言う。
「大阪が…1時間半…ちょうど(午後)5時ぐらいですか」
「そうですね」
「(午後)6時ぐらい…5時半…あと1時間…5時半ですね、やっぱり。予定通りですね」
 大阪のETAを計算して副操縦士は予定通り伊丹空港に到着する旨を機長に伝えた。こんな天候でもYS-11はすこぶる元気に飛び続けている。就航当時は雨に弱いというクレームが多かったYS-11も今は改良されて強固になっている。
「トーキョー・コントロール トーアドメス463 ナウ リポート リーチング 230 オーバー」(東京コントロール管制へ。こちら東亜国内航空463便です。現在、予定高度の2万3000フィートに到達しました)
「トーアドメス463 ラジャ」(了解しました)
 飛行機は飛行プランで承認した高度に到達すれば、管制官にその旨を報告しなければならない。
 レーダーに映っていた濃い大きな雨雲に飛び込んだ。飛沫がフロントガラスにバチバチと音をたてて飛び散る。まるで荒海でモーターボートに乗っているみたいだ。
「トーキョー・コントロール オールニッポン314 メインテイン200」(東京コントロール管制へ。こちら全日空314便です。2万フィートを飛行しています)
「オールニッポン314 トーキョー・コントロール ラジャ メインテイン200」(全日空314便へ。東京コントロール管制です。了解しました。そのまま2万フィートで飛行して下さい)
「200(フィート)」(2万フィートで飛行します)
名古屋から新潟へ向かうB727である。
「今、浜松のNDBのインバウンド トラッキングで(方位)260(度)、インターセプトしています」
 雨音とエンジン音でコックピットの騒音が高くなり会話も自然と声高になる。
「ぜんぜん(地上が)見えないですね」
「そうですね」
「そう(雲の厚さが)強くないから大丈夫、雨は降ってるけどね」
「フライトレベルよりも、(雲が)ずーっと高いですね」
 機体全体を雲が覆いつくし、周りの景色はおろか、地上さえも見えない状況が続いている。1万フィートで飛行しているが、濃い雲はそれよりも遥かに高くそびえているのでラッキーといえばラッキーだ。。
「よし、(方位)260(度)」浜松への方位をインターセプトした。
「あー、また(雨雲に)入ってきたな」
「キンキョリ915…コレクション キンキョリ9175 コンタクト トーキョー・コントロール125.7」(日本近距離航空917…、訂正します、日本近距離航空9175便へ。以後は東京コントロール管制125.7メガヘルツに交信して下さい)
「トーキョー 125.7」(東京コントロール125.7メガヘルツに交信します)
 管制エリアが東京コントロール管制の近畿東セクターに移管された。離陸してから半分の位置まで飛行してきた。現在、静岡の駿河湾上空を飛行中だ。
「オールニッポン334 リバイズ メインテイン 10000」(全日空334便へ。1万フィートに訂正します)
「334 ラジャ 10000 ターン ライト ヘディング 050」(了解しました。1万フィートで飛行し、方位050度に右旋回します)
「オールニッポン334 ラジャ」(了解しました)
「トーキョー・コントロール キンキョリ9175 メンテニング 10000」(東京コントロール管制へ。こちら日本近距離航空9175便です。現在1万フィートです)
「キンキョリ9175 トーキョー・コントロール ラジャ エリア QNH2989」(了解しました。気圧は2989インチです)
「2989」(気圧2989インチで了解しました)
「オールニッポン334 エリア QNH2989」(全日空334便へ。気圧は2989インチです)
「(オールニッポン)334 ラジャ 2989」(了解しました。気圧は2989インチ)

「河和から(方位)270度」 河和は知多半島の東側にある町で知多湾に面している。ここにあるVORは大阪へ飛行する際の進入地点となっている。
 副操縦士は河和から大阪・伊丹空港へ進入するルート(ヤマト・アライバル)の方向を確認した。
「オールニッポン326 エクスペクト 0200 レーダー サービス ターミネイテッド コンタクト ナゴヤ エアポート」(全日空326便へ。貴機の認識番号は0200です。レーダー捕捉の限界ですので、以後は名古屋空港へ更新して下さい)
「0200 コンタクト ナゴヤ エアポート オールニッポン325…コレクション 326」(当機認識番号0200、名古屋空港に交信します。全日空325…訂正します、326便)
「オールニッポン326 アファーマティブ」(全日空326便へ。その通りです)
「オールニッポン334 リバイズ メインテイン 9000」(全日空334便へ。高度9000フィートにして下さい) 熊本発名古屋行き全日空334便B727が名古屋小松空港へ下降中である。
「ラジャ 334 ディセンド 9000 パッシング 112」(了解しました。高度9000フィートに降下します。現在1万1200フィートです)
「オールニッポン334 ラジャ レーダー サービス ターミネイティド スクォーク0200 コンタクト ナゴヤ エアポート」(全日空334便へ。了解しました。レーダ捕捉の限界です。貴機の認識番号は0200です。名古屋空港へコンタクトして下さい)
「ラジャ スイッチ トゥ ナゴヤ グッディ」(了解しました。名古屋と交信します。さよなら)
「オールニッポン27 ディセンド アンド メインテイン 150 クロス 」(全日空27便へ。1万5000フィートまで降下して下さい)
 羽田発大阪空港行きB747SR全日空27便が河和VORへ向けて高度を下げ始めた。雲の中の飛行機が次々と管制官に誘導されていく。
 上空の雲が少し薄くなって来た。が、他の機影は見えない。下は一面の雲海が見渡す限りつづいている。まもなく焼津上空だ。
「そうですね、あと22マイルぐらいですね、浜松が」
「(浜松市街が)全然見えないですね」
「浜松の競艇場がいつも見えるんですよね」
 一切の視界を与えない雲に阻まれ、計器のみで位置を確認しなければならない。
「焼津、いま過ぎましたね」
「焼津、チェック」
 日本屈指のマグロとカツオの水揚げを誇る焼津上空を通過した。これから掛川から浜松へと飛行する。
 副操縦士が機長に自衛隊に居た時の話を始めた。
「機長は静浜(基地)にいらっしゃらなかったんですか」
「私は居たことはないですね」
「あの、メンターをね、(受け)取りに行ったこと、一回あるのね」
「(受け)取りにですか?」
「だから、あそこに降りたことはある、それから3機ぐらい、持って帰ったことあるね」
「あと、何て言うの…後方飛行と言うのかね、あれで行って…何回か行ったことはあるんだけどね」
「昔はメンターは空幕だったじゃないですか」
「海幕でも貰ってね、貰うということで、3機貰ったんですよね。」
「いい飛行機だったね」
「ええ、今はもう全部T-3」
「そうね」
 静浜基地は航空自衛隊の操縦士の初等教育を任務としている。卒業生は戦闘機、旅客機、ヘリコプターと多種多様なパイロットを輩出していることで有名である。この基地には、操縦の教育や整備を担当する「第11飛行教育団」、基地を離発着する飛行機の管制や周辺の飛行機を管制する「静浜管制隊」、飛行教育団に気象情報を提供する「静浜気象隊」、司法警察業務や保安業務を任務とする「静浜地方警務隊」の4部隊が配属されている。滑走路は1,500メートルの1本のみで、全国にある飛行部隊を有する基地としては最小規模でる。また操縦士の初等教育としては適地である。
「あーだいぶCUが発達してきましたな」
「(浜松まで)あと14マイル、39分…40分ちょっと過ぎるくらいですかね」
「あーちょっと寄りますか左に」
「大丈夫 大丈夫」
 副操縦士が飛行方向の右舷に大きな雨雲を避けようとしたが機長は問題ないと、ベテランとなると幾多の経験からであろうか、余裕である。
 レーダーに再び大きな雨雲が映った。また豪雨に入る。
「(浜松到着が)42分になるな」
「トーキョー オールニッポン372 メインテイン 250」(東京コントロール管制へ。こちら全日空372便です。2万5000フィートです)
「オールニッポン372 トーキョー・コントロール ラジャ クリア ナゴヤ・レーダー・ビーコン ヴィア コウワ ダイレクト メインテイン 250」(全日空372便へ。了解しました。名古屋のレーダー・ビーコンに乗って河和を経由したら、2万5000フィートで飛行して下さい)
「ラジャ クリア トゥ ナゴヤ・レーダー・ビーコン エアポート ダイレクト メインテイン 250」(了解しました。空港のレーダー・ビーコンに乗って2万5000フィートで飛行します)
「オールニッポン372 アファーマティブ」(全日空372便へ。その通りです)
 YS-11の先を飛んで河和に向かっている全日空372便への交信である。中部地域も上空一面、雲に覆われて視界が遮られているので、念を押すかの如く確認を行なう。
「3マイル」(浜松まで残り3マイルです)
 乱気流に入りYS-11はガタガタと音をたてて揺れだした。フロントガラスに雨が飛び散る。
「チェック 浜松」
「はい」
 楽器メーカー、自動車関連業者など様々な企業が拠点としているは浜松上空を通過した。これから機首を272度に向けて、一路大阪・伊丹空港への進入の玄関口である河和に向う。

つづく

桃田素晶・武田一男

<おことわり>本作は1985年当時の音源を使用し当時の模様をお届けしておりますが、文中で使用している図は、当時のものと異なります。特に伊丹空港のチャート図などは、当時のものを使用しておらず、スポットまでのルートに違いが生じていますが、参考に必要と考え、そのまま掲載しております。

航空ドキュメンタリー YS-11コックピット「雨中航路」/全10回
解説 桃田素晶/録音 武田一男 ©Director’s House

【著作について】「雨中航路」収録している音声、音源のすべては武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

にほんブログ村 その他趣味ブログ 航空・飛行機へ
[ad_uchukouro]

  1. コメント 0

  1. トラックバック 0