YS-11コックピット・ドキュメント「雨中航路」第7回

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航空ドキュメンタリー YS-11コックピット「雨中航路」

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大阪アプローチ

 まもなく大阪伊丹空港への進入が始まるが、ここまでのルートを整理してみると、午後3時56分に羽田空港の滑走路15Lから離陸し、東京ディパーチャー管制へハンドオフし、浦賀を7000フィートで通過後、機首を266度に右旋回し、横須賀VORを目指し上昇。その後、横田アプローチにハンドオフし、高度1万フィートに到達後、巡航に入った。静岡県の焼津、浜松に設置しているVORをほぼ定刻に通過し、愛知県の渥美半島の先端にある河和に設置しているVORを通過した。離陸してから雲の中を飛行し、雨が降りしきる中、順調に飛行を続ける日本近距離航空9175便は、現在伊勢湾上空を飛行している。
「ちょうど今、伊勢湾の上ですね」
 機長が大阪アプローチ管制へ交信を始めた。
「オオサカ・アプローチ キンキョリ9175 オーバー」(大阪アプローチ管制へ。こちら日本近距離航空9175便です)
「キンキョリ9175 オオサカ・アプローチ アイデント メインテイン 10000」(日本近距離航空9175便へ。大阪アプローチです。貴機を認識しています。10000フィートで飛行して下さい)
「メインティニング 10000」(10000フィートで飛行します)
「キンキョリ9175 レーダー コンタクト」(貴機をレーダーで捕捉しています)
「キンキョリ9175 ラジャ」(了解しました)
 大阪アプローチ管制との最初の交信を終えた。これから着陸まで大阪の管制官から細かな飛行指示が出されるはずだ。現在1万フィートで飛行している。
「(方位)276(度)に出ちゃいますけどね」
「しょうがないね」
 上空の風なのか、方位276度から少し外れる。
 コックピットには、千歳空港から伊丹空港へ戻ってきた全日空776便とアプローチ管制の交信が行き交う。
「オールニッポン 776 4マイル ロメオ(R)キロ(K) ディセンド アンド メインテイン 2500 クリア フォア ILSアプローチ ランウェイ32レフト コンタクト タワー 118.1」(全日空776便へ。RKから4マイル手前で2500フィートに降下し、滑走路32LにILSで進入して下さい。以後は、大阪タワー管制118.1メガヘルツに交信して下さい)
「776 ラジャ ディセンド 2500 クリア フォア ILSアプローチ」(了解しました。2500フィートに降下し、ILSで進入します)
「オオサカ・アプローチ トーアドメス634 9000 インフォメーション ビクター(V)オーバー」(大阪アプローチ管制へ。東亜国内航空634便です。現在9000フィートで飛行し、航空情報Vを受信しています)
「トーアドメス634 アイデント」(東亜国内空港634便へ。貴機を認識しています)
「(トーアドメス)634 アイデント」(了解しました)
「トーアドメス634 レーダー コンタクト ディセンド アンド メインテイン 8000」(東亜国内航空634便へ。貴機をレーダー捕捉しています。8000フィートまで降下して下さい)
「(トーアドメス)634 ディセンド アンド メインテイン 8000」(8000フィートに降下します)
 岩手・花巻空港から大阪へ向かう東亜国内航空のYS-11であった。
「(方位)276(度)にそろそろ持って行きますか?」
 機首を方位276度に合わせ、一路ウエイポイントであるYAMATを目指す。
「オールニッポン296 フライ ヘディング140 フォア レーダー ベクター」(全日空296便へ。機首を140度にし、レーダー捕捉します)
「ラジャ フライ ヘディング 140 (オールニッポン)296」(了解、機首を140度にします)
 間もなく、鳥取から大阪へ戻ってきた全日空296便との交信を傍受した。296便もYS-11である。
 寸刻の中でアプローチ管制と到着機が交信している。
「オールニッポン166 リデュース 180ノット」(全日空166便へ。180ノットに減速して下さい)
「ちょっとスピード落とそうか」
「そうですね、ちょっとしんどいですね」
 天候のせいもあるが、エンジンがフル回転のまま飛行して来た。もう間もなく、降下が始まる。シンガポール航空が西から大阪アプローチ管制へ交信した。
「シンガポール6 ディセンド メインテイン 5000 ディパーテッド シノダ ヘディング050 フォア レーダー ベクター」(シンガポール航空6便へ。5000フィートまで降下し、信太VOR/DME上空に到達したら機首を050度に旋回し、レーダー誘導を行います)
「ヘディング…コレクション 5000 ヘディング 250」(5000フィートに降下、機首を250度にします)
 突然、YS-11は雲を出た。周囲が幾分明るくなったが、依然として下はまだ、別の大きな雲海が続いている。
「シンガポール6 アフター シノダ ヘディング050」(シンガポール航空6便へ。信太VOR/DMEを通過後、機首を050度に向けて下さい)
「オーケー アフター シノダ 050 フライ ヘディング 5000 シンガポール6」(了解、信太VOR/DMEを通過後、機首を050度に向けて、5000フィートに降下します)
「おー、(雲から)出ましたね」
「ちょうど、(雲)の真上だから揺れるんだよ」
 雲が二層になっていて、上の雲を抜け出したが、下の雲のトップを霞めながら飛行するので、機は小刻みに揺れている。
「トーアドメス634 フライ ヘディング 140 フォア レーダー ベクター」(東亜国内航空634便へ。機首を140度に旋回し、レーダー誘導を行います)
「トーアドメス634 レフト ヘディング140」(機首を140度に左旋回します)
「トーアドメス634 ディセンド アンド メインテイン 7000」(7000フィートまで降下して下さい)
「トーアドメス634 コンティニュー トゥ 7000」(そのまま7000フィートまで降下します)
 管制官より伊丹空港への下降の交信が入った。
「キンキョリ9175 ディセンド アンド メインテイン 7000」(日本近距離航空9175便へ。7000フィートに降下して下さい)
「9175 メンテニング トゥ 7000 リービング トゥ 10000」(7000フィートに降下します。現在1万フィートです)
 YSは再び灰色の雲に包まれながら、地上の景色を探り出すかのように高度を下げて行く。
「オールニッポン296 ディセンド アンド メインテイン 3500」(全日空296便へ。3500フィートに降下して下さい)
「じゃあ、こっから(操縦を)代わろうか」
「はい、ユー ハブ」
「アイ ハブ」
「7000ですね」
 ウエイポイントであるYAMATの手前で操縦が代わった。これから副操縦士が交信を担当する。副操縦士は降下を始めたことを管制官へ報告を始めた。
「キンキョリ9175 ナウ リービング トゥ 7000」(日本近距離航空9175便です。現在7000フィートに向かって降下中です)
 伊丹空港への進入経路を説明すると、愛知県渥美半島にある河和VORを経由したYSは伊勢湾を横切り、紀伊半島上空に入る。そして、進入ポイントであるYAMATのウエイポイントを高度6000フィートで通過し、機首を321度に向ける。その方角が大阪・伊丹空港の滑走路32の方向になる。これを「ヤマト・アライバル」といい、東から飛んできた飛行機はこの進入経路によって伊丹空港へ着陸する。空港への進入はSTAR(スタンダード・ターミナル・アライバル・ルート)と各方角から飛んでくる飛行機によってその経路が異なる。

※大阪ヤマト進入チャート(クリックで拡大します)


大阪ヤマト進入チャート

「オールニッポン166 ターン レフト ヘディング 320 フォア ザ ローカライザー」(全日空166便へ。機首を320度に左旋回して、ローカライザーに乗って下さい)
「320 ローカライザー」と、端的に復唱した。
長崎から大阪へ向かっている全日空166便が計器着陸装置の軌道に乗る。
「それじゃあね、ナンバー1のADFをラジャー・キングにセットして」
 大阪・伊丹空港への最終進入地点である大阪NDBの周波数をセットするよう指示した。
機長は「ラジャー・キング」と言っているが、大阪NDBはRK(ロメオ・キロ)というポイント名である。独自の言い方なのか定かではないが、「ラジャー・キング」とも言えるのだろう。
「トーアドメス634 ディセンド アンド メインテイン 6000」(東亜国内航空634便へ。6000フィートに降下して下さい)
「634 コンティニュー ディセンド トゥ 6000」(そのまま6000フィートに降下します)
「キンキョリ9175 フライ ヘディング 270 フォア レーダー ベクター」(日本近距離航空9175便へ。機首を270度にして下さい。レーダー誘導を行います)
 副操縦士は端的明瞭に復唱した。伊丹空港は羽田、成田に次ぐ混雑空港なので、引っ切り無しに飛行機が飛び交っている。特に着陸機は飛行計器の確認などロードワークが煩雑なので、端的明瞭な交信をすることが大事である。
「オールニッポン166 4マイル ロメオ(R)キロ(K)ディセンド アンド メインテイン 2500 クリア フォア ILSアプローチ ランウエイ32レフト コンタクト タワー 118.1」(全日空166便へ。RKから4マイル手前で2500フィートに降下し、滑走路32LにILSで進入して下さい。以後は、大阪タワー管制118.1メガヘルツに交信して下さい)
「ラジャ 2.5 クリア フォア アプローチ」(了解。2500フィートに降下し、ILSで進入します)
 ここでも端的明瞭な交信が行なわれている。「2.5」とは2500フィートのことで、通常「ツー タウザンド ファイブ ハンドレッド」だが、「ツー ポイント ファイブ」と交信することもあり、簡略ながら管制官に伝えることが出来る。
 機長は伊丹空港32R末端の数10メートル手前に設置されている大阪VOR/DMEの電波周波数を合わせるよう副操縦士に指示をした。
「そっち(ナンバー2のADF)を大阪、入れといて…伊丹」
「シンガポール6  ディセンド アンド メインテイン 4000」(シンガポール航空6便へ。4000フィートに降下して下さい)
「シンガポール6 ディセンド アンド メインテイン 4000」(シンガポール航空6便へ。4000フィートに降下して下さい)
「113.9」
 副操縦士はADFのナンバー2に大阪VOR/DMEの周波数をセットし、機長は確認した。
「トーアドメス634 ディセンド アンド メインテイン 5000」(東亜国内航空634便へ。5000フィートに降下して下さい)
「634 ディセンド トゥ 5000」(5000フィートに降下します)
「アンド トーアドメス634 セイ スピード ナウ」(現在の速度を教えて下さい)
「(トードメス)634 ナウ 210(ノット)」(210ノットです)
「634 ラジャ リデュース 190ノット …ナンバー4 イン ファイナル」(190ノットに減速して…着陸は4番目です)
「ラジャ リデュース 190 ナンバー4」(了解しました。190ノットに減速します)
 機長は大阪・伊丹空港への降下の打合わせを始めた。
「プレスシャリゼーション セット」
「インフォメーション ベクター トゥ オオサカ」
「ランウエイ32 アルティメーター2987」
「ILSアプローチ ランウエイ32」
「ディション・ハイ(着陸を決定する最終高度)が261フィートですね」
 ここでYS-11の下降時のテクニカルを説明すると、まずパイロットは降下に伴い航法計器、ADF、VOR、ILS等を点検し、所要の周波数の設定を行なう。燃料系統については、フュエル・ブースター・ポンプを全てオンとする。フュエル・ヒーターはインディケーターOATが、20℃以下では2分間マニュアルとして予熱し、その後オフとする。但し、この操作は飛行中、インディケーターOATが摂氏5℃以上あった場合は行なわなくよいことになっている。フュエル・トリマーは目的地のデイ・トリムの2分の1にアプローチでセットする。ギア・レバーを中立位置とし、バイパス・レバーをノーマルとする。作動油圧はノーマル、すなはち規定内にあり且つ油量に変化がないことを確認する。尚、切り替えスイッチはノーマルに戻す。レディオ・アルティメーターの進入限界高度のインデックス及びカウンターを499フィートにあることを点検する。但し精密進入を行なう場合には、その時のディシオン・ハイ・アルチュードにセットする。
「シンガポール6 アプローチング …シノダ ヘディング 050…」(シンガポール航空6便です。…信太で機首を050度…)
「シンガポール6 ディス スタンバイ ディパーテッド ヘディング 040 ディセンド アンド メインテイン 4000」(シンガポール6便へ。通過後機首を040度に旋回し、4000フィートまで降下して下さい)
「ワン タウザンド ビフォア」副操縦士は8000フィートを通過したことをコールした。
降下の準備が整い、機長は副操縦士にディセンド・チェックリストを指示した。
「ディセンド チャックリスト」
「プレスシャリゼーション…セット」
「アルティメーター デシジョン・ハイ…セット アンド クロス チャック」
「ランディング・データ アンド ブリーフィング…チェック アンド レディオ」
「リクエスト 89」
「はい、89…90でもって行きますから」
「はい、了解しました」
「ディセンド・チャックリスト コンプリーテッド」
「はい」
「ミスト・アプローチ(進入復行)をやっておきますとね。アット デシジョン・ハイでメイク イミーディエート クライムで(方位)321(度)、そのままのヘディングですね。アンティル インターセプト125 フロム オスカー…イタミですね。ゼン コメンス レフト ターン…ソウ アス トゥ クロス イタミNDB アット オア 1200(フィート)。500 ビフォア…。コンティニュー クライム トゥ 3,500フィート オン200 フロム イタミ(NDB)。ゼン レフト ターン ウエスト シノダ。プロシード トゥ シノダですね。一応、それで行きます。」
 着陸のやり直しの場合、事前に設定していた着陸決定高度から速やかに上昇し、方位321度に飛行する。但し伊丹NDBから方位125度に飛行に際しての障害物がある。それから、左旋回を始めて、1200フィート以上で伊丹NDBを横切り、3500フィートまで上昇を続けて伊丹NDBから方位200度で飛行、それから左旋回して信太NDBに向かう
「トリマー、50」
「オオサカ・アプローチ オールニッポン510 インフォメーション ビクター オーバー」(大阪アプローチ管制へ。こちら全日空510便です。空港情報Vを受信しています)
「オールニッポン510 アイデン…レーダー コンタクト ディセンド アンド メインテイン 1200」(全日空510便へ。貴機をレーダーで捕捉しています。1200フィートまで降下して下さい)
「510 メインテイン 1200」(1200フィートまで降下します)
宮崎空港からのB767、全日空510便に降下の指示がおりた。
「シンガポール6 ディセンド アンド メインテイン 2500」(シンガポール6便へ。2500フィートまで降下して下さい)
「シンガポール6 2500」(2500フィートまで降下します)
「(オールニッポン)296 3.5」(全日空296便です。現在3500フィートです)
「296 エクスペクト イン 25マイル」(全日空296便へ。25マイルまで維持して下さい)
「ラジャ」(了解しました)
 アプローチ・チェックリスト、ミスト・アプローチの打ち合わせが終わると直ぐに、降下の指示がきた。
「キンキョリ9175 ディセンド アンド メインテイン 6000」(日本近距離航空9175便へ。6000フィートまで降下して下さい)
「キンキョリ9175 ラジャ ディセンド トゥ 6000」(了解しました。6000フィートまで降下します)
 雨は止み、土を掘り起こすが如く雲を掻き分け、YSは6000フィートに向かって徐々に高度を下げて行く。YAMATポイントまであともう少しである。このポイントで機首を310度に右旋回をして、ほぼ伊丹空港滑走路32の延長線上を飛行する。伊丹空港に進入する機体の交信が引っ切り無しに飛び交う。
「オールニッポン510 リデュース 250」(全日空510便へ。250ノットに減速して下さい)
「510 ラジャ」(了解しました)
「あと30マイルですね、大阪まで」
「はい」
 大阪VOR/DMEまで30マイルを切った。
「ヤマト・ポイントは、あと10マイル」
まもなく右旋回が始まる。
「シンガポール6 ターン レフト ヘディング 350 ディセンド アンド メインテイン 2500 5マイル ロミオ(R)キロ(K) クリア フォア ILSアプローチ 32レフト コンタクト タワー118.1」(シンガポール6便へ。機首を350度で左旋回し、RKから5マイル手前で2500フィートに降下し、滑走路32LにILSで進入して下さい。以後は、大阪タワー管制118.1メガヘルツに交信して下さい)
「オールニッポン296 ターン ライト ヘディング230 メインテイン 3500」(全日空296便へ。機首を230度に右旋回をして下さい。高度は3500フィートです)
「ラジャ 230 メインテイン3.5 オールニッポン296」(了解しました。3500フィートで飛行します)
「6000」今、6000フィートに達した。

つづく

桃田素晶・武田一男

<おことわり>本作は1985年当時の音源を使用し当時の模様をお届けしておりますが、文中で使用している図は、当時のものと異なります。特に伊丹空港のチャート図などは、当時のものを使用しておらず、スポットまでのルートに違いが生じていますが、参考に必要と考え、そのまま掲載しております。

航空ドキュメンタリー YS-11コックピット「雨中航路」/全10回
解説 桃田素晶/録音 武田一男 ©Director’s House

【著作について】「雨中航路」収録している音声、音源のすべては武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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