【航空100年】DC-3特集 DC-3コックピットの録音

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 今日はDC-3のコックピットの音をお楽しみ下さい。
ハワイで録音したDC-3の音をこのブログ用に約8分の長さに編集したP&W星型エンジンです。

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★「DC-3」挿入:dc3_cockpit.mp3

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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 ニューヨークでの取材の帰り道、日本から来る家族と待ち合わせしていたホノルルで偶然、DC-3を録音する機会にめぐまれました。偶然、しかも念願の機会だったので小躍りして喜んだ記憶があります。今日は音と共にそのことをお話しします。

 今はどうかわかりませんが、ホノルル空港の2階に珍しい飛行機の本を置いている小さな本屋さんがありました。家族がアラモアナに買い物に行くというので、僕はひとりで空港にきてその本屋さんに行きました。本を漁っていると、本屋のご主人との会話になり、そのとき僕がDC-3とスーパーコンステレーションのコックピットの音を録音するチャンスを探している話をしました。すると、本屋の主人は、スーパーコンステレーションはハワイではもう飛んでいないが、DC-3なら今でも時々、飛行しているといい、知人がDC-3の機長をしているので頼んでくれるということになりました。そしてその場で電話してくれると、その機長が明日の朝、6時に空港のターミナルとは反対側の小型機専用のエリアまで来てくれと言っている、というのです。

 とてもうますぎる話の展開に僕は半信半疑で、ともかく録音機材を用意して、朝、タクシーでホテルを出て空港に向かいました。ハワイの離島にフライトする小型機のエリアは空港のはずれの運河の側にあり、運河に沿って小さな格納庫が並んでいます。その中のひとつの格納庫の前に、頭を少し空に向けて駐機しているDC-3がいました。

 それまでに、ホンコンの博物館で天井からつるされたDC-3や、フランクフルトの空港の屋上に展示されているDC-3を見ていましたが、生きたDC-3と逢うのは今回が初めてで、想像したより大きいのに驚きながら、無心にプロペラを触っていると、やっと逢えたな、という感慨か胸を満たしました。昔は美しい緑色だったと思われる機体上部の塗装も色あせて、ところどころが剥げ落ち下地の金属が見えています。機体下部の銀色もすっかり色を落とし風月にさらされた機年齢がひとめでわかるご老体でした。

 そのとき翼の向こうから30代と思われる金髪で長身の男性が出てきて「are you mr takeda?」と明るく手をさしのべて来ました。「私は機長のピーター・ドノバン。君のことはボブ(本屋の主人)から聞いている」と自己紹介をして今日のフライトの予定を話し始めました。その話を聞いて、昨日、頼んだ録音依頼が今日、すぐに可能となった”うますぎる話”のわけがわかったのです。機長の話によると、このDC-3はホノルルを中心にハワイの離島に荷物を運ぶ貨物便だそうで、今日はホテルの荷物をハワイ島とマウイ島に届ける仕事だ、と言うことでした。彼の言うとおり飛行機の反対側の駐機場には椅子やテーブル、洋服掛けなどの家具類からコーヒー豆の入った段ボール、シャンパンやワインなどお酒、庭の芝用の散水機などがうず高く積まれていました。

「君がダコタを録音しようが、写真を撮ろうが、俺は機長としてなんでも協力するよ。しかし条件がある」
「…条件?」怪訝な顔の僕に彼は荷物の山を指さして、「俺と一緒にあの荷物を飛行機に積み込んでくれ。実は労役に頼んだ男が急用で、これなくなった」そして彼は僕に今日のフライトに同行する足の悪い60過ぎの副操縦士と12才ぐらいのボーイと呼ばれている黒人の少年を紹介してくれました。うますぎる話のわけは僕を無給の労役として今日一日雇い入れることだったのです。

 最初に寄港するハワイ島行きの荷物を機体の後部に、次に飛行するマウイ島の荷物を前部に積み込むのに小一時間かかり、それからDC-3はホノルルの空に舞い上がりました。老副操縦士は僕の労役としての仕事ぶりにとても満足し親指を立ててGood、Goodを連発し、少年は大切にしているぼろぼろの漫画の本を見せてくれました。もちろん僕は妙なるP&W星形エンジンの音を思う存分、録音させてもらったことは言うまでもありません。

 ハワイ島に着いて機体後部の荷物を降ろすと僕たちを素晴らしい朝食が待っていました。 想像してみて下さい! ひとけのない朝のハワイ島の空港のはずれ。ダコタが一機停まっています。海風が心地よく吹き、椰子の木が葉音を立てています。夏の日差しが燦々と注ぎ、椰子とダコタの主翼がつくる日陰に使い込まれたアルミのテーブルと椅子を出し、テーブルの上には、かりかりに焼いたベーコンと卵、山盛りのドーナツとコヒーとミルク、それに新鮮なオレンジジュース。荷物の積み降ろしで汗をかいた上半身は裸、バスタオルを首に巻いて朝食をとります。蒼い空…。飛行機好きにとってこんな贅沢な朝食はありませんでした。僕今でもそのシーンと味をありありと思い出します。

 そのあとハワイ島からマウイ島に飛んで荷を降ろし、ホノルルに戻ったのは午後の遅い時間でした。ハワイカイに住んでいるという機長がワイキキは帰り道だというので車でホテルまで送ってもらいました。車の中で機長が話してくれたことによると、彼の奥さんはダウンタウンの病院に勤める女医さんだそうです。結婚3年目で子供なし。奥さんを乗せて空を飛ぶの? という僕の質問に彼はとても小さな声で答えました。
「彼女は飛行機が大嫌いなんだ。飛行機の中でも一番嫌いなのは、DC-3ダコタだってさ」

武田一男

【航空100年】DC3特集
著作・録音 武田一男 ©Director’s House

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    • SportsKite
    • 2010年 6月17日 3:32pm

    こんにちは。
    ハワイでのDC3録音の逸話を面白く拝読しました。そして、コックピット音も楽しませていただきました。
    以前出張のおり、ホノルルからマウイまで、小さなプロペラ機でゆったりと移動をしたことを思い出しました。

    • 竜子
    • 2010年 6月18日 1:49am

    ■SportsKiteさん
    こんにちは! 小型機の移動…素敵ですね。
    旅の感覚って、帰国してすぐに去ってしまいますが、こうしてつられて思い出すのって、なんだかいいですよね。
    私はカリカリのベーコンがそのスイッチです。

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