Good Speed Always 2【武田一男さんからの寄稿】

日本航空もく星号事故の明暗

「私はね、忘れもしない昭和27年の4月9日の朝、福岡へ帰ろうと思って羽田空港に行ったの、雨が降って寒い朝だったわ」当時母は福岡と東京にお店を持ち、月に2,3度飛行機で往復していました。母は日本航空の常連客でだったらしく、ほとんど航空券は予約せず搭乗する際に空港のカウンターで買っていたので、その朝もカウンターに直接行ったそうですが、何となく気がおもくなり、それに東京でやり残した用事を思い出したこともあり、そのまま、空港からタクシーで東京の家に帰ったそうです。その飛行機が朝7時34分発大阪経由福岡行きの日本航空「もく星号」でした。

「もく星号事故」の詳細は松本清張さんの「日本の黒い霧 上」にくわしく綴られているのでそれを引用します。「昭和二十七年四月九日午前七時三十四分、日航機定期旅客便福岡板付行「もく星号」は羽田飛行場を出発した。折柄、空には密雲垂れこめ、風雨があった。この機は離陸後館山上空を通過したのち、離陸後二十分後に消息を絶った。・・中略・・マーチン202型双発機、全員三十七名の他郵便物214キロ、燃料1000キロを積んでいた」
当時、羽田から大阪、福岡に向かう出発方式は羽田を離陸し館山上空で高度2000フィート、それから大島に向かい大島上空6000フィートをチェックして静岡に向かう、というものでした。ところが、もく星号は館山通過後、雲中飛行の末、大島の三原山に激突し乗員乗客37名が全員死亡。三原山の高度は2400 フィート。何故、機長が館山通過後に高度を上げなかったか、米軍管制の謎、乗客として乗っていた日本の財界人暗殺疑惑・・などなど、その墜落原因は今もって謎につつまれています。

この「もく星号」の話には後日談があって、二年前、孫のテニスの試合の応援に有明のテニスの森に行ったとき、彼のテニス友達のお母さんと話す機会がありました。何かの話題から「もく星号」の話になり、そのお母さんのお祖父様がその事故で亡くなられたことを知りました。亡くなられたお祖父様は当時、八幡製鉄の社長をされていたそうです。

そのとき想ったのは母のことでした。多分、57年前の肌寒い朝、羽田の日本航空ロビーで母はそのお祖父様と一緒の場所にいたのでしょう。そして母はタクシー乗り場へ。そのお祖父様は搭乗ゲートへ・・・。人間に「運」が存在することはわかっています。「運」は生まれたときに授かるものなのか、絶対的な第三者がその都度、その都度、ひとに「運」を授けるものなのか、そのどちらにしても言えることは、悲しいほど不平等に存在することです。
僕が航空界で尊敬するひとりに千葉明義さんというひとがいます。千葉さんと知り合ったのは東亜国内航空で彼が広報課長をしているときでした。A300の空輸でヨーロッパから羽田まで一緒に苦労した想い出があります。その後、彼は要職を重ね日本エアシステムの北海道空港支店長から新千歳空港の重役まで上り詰めました。とても心暖かいひとです。その千葉さんが日本エアシステムの晩年に行ったキャンペーンがあります。「Good Speed Always」というキャンペーンです。

彼は言いました。「マイレージとか、夏の沖縄集客とか、航空会社には必要なキャンペーンがあるけど、僕は航空会社が利用されるお客様ひとりひとりの”幸運”を願うキャンペーンもあって良いと思う」と。心優しい彼ならではの発想だと感動したのを覚えています。それ以来、僕には「Good Speed Always」 がとても大切な言葉になりました。

竜子さん、竜子さんのブログ、それにコメントを寄せる「まったり」さんや「Airman」さんはじめいろいろな人達が「強い運」に恵まれますように。
「 Good Speed Always」

武田一男

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    • 竜子
    • 2008年 7月15日 3:01am

    ちょっと調べてみた。
    語源は“GOD SPEED YOU”
    以下、引用です。(http://www.jal.com/ja/jasnews/hnd_renew.htm)
    「人や企業の成功や旅行の安全・無事等を祈る挨拶の言葉として、人への思いやりと優しさを表した言葉です。語源は“GOD SPEED YOU”-神があなたを成功へ導きますように。現代では「いい旅を」「成功を祈る」と訳されます。
    この言葉の意味はエアラインの業態に非常にマッチします。また、スピードは航空業界に限らず、あらゆる業界のサクセスキーワードであり、ビジネスの基本です。それに加え、国内線が主体である当社ならではの、競合他社とは違う「フットワーク」を表現できるものでもあります。
    多様化するお客様のニーズに応えていく「一人ひとりのお客様にとってちょうどいいスピード」。そこをJASは大切にします、というコンセプトを伝えるものであり、それぞれのお客様に対する最適価値(=最適なスピード)を提供したい、というサービス業の永遠の宣言でもあります。
    つまり新しいJASのお客様第一主義を表現するものです。」
    「日本の黒い霧」をペラペラめくってみたけど、まったく読んだ記憶がない。読んでみよう…。
    不平等に存在する運。考えちゃいますね…。武田さんのお話って、なんでこんなにしみ入っちゃうんでしょう。

    • 竜子
    • 2008年 7月15日 3:01am

    同じブログ村の「航空」カテゴリに、「Good Speed Always」という名前のブログがありました。
    http://skyward.blogzine.jp/airplane/
    それからこれも。
    http://blog.q-ring.jp/hakatan/6

    • まったり
    • 2008年 7月15日 3:06am

    武田様
    あのもく星号の事故は何度か雑誌でも読んだことがある程度で
    詳しい出来事は知らなかったんですが、著名人も乗ってたとは
    知りませんでした。当時飛行機に乗れた人も今日と違って選ばれた
    方々でしょうから、武田様のお母様は凄い方なんですね。。。
    亡くなられた方々には申し訳ないけど、ホントお母様は強運の
    持ち主で、まさに九死に一生を得るとはこのことだと思いますね。
    私も九死に一生を得るほどじゃないですけど、2000年に
    フィンランドの北極圏のイバロという町へ、フィンエアの
    DC-9-51で飛んで、着陸時タイヤがバーストした事あります。
    その時イバロの町は吹雪に包まれた状態でしたから
    ILSで降りられるのかなと、着陸の瞬間を窓から見てると
    着陸時に機内に大きな音がして焦りました・・・
    まさか、これで私も終わりなのかと一瞬そんな事が
    脳裏に過ぎりましたが、無事着陸出来たのでホッとしていると
    機長から落ち着いた口調でバーストしたお詫びのアナウンスが
    あって、驚きました。あの機長の声は一切不安を感じさせず
    乗客も落ち着いてたのが印象的で、意味は違うけども
    最後に欠航するのはフィンエアという評判は本当だなと
    思ったものです。
    「Good Speed Always」のスローガンは空港勤務で統合後も
    長い事LD3コンテナなどに書かれていたので、馴染み深いです。
    テレビCMでもよく見かけましたが、あのスローガンは千葉様が
    作られたんですね・・。
    武田様と出会えたのも何かの縁だと思います。これからも
    宜しくお願い申し上げます。

    • 竜子
    • 2008年 7月15日 3:39am

    武田さんは、これまでいくつも命拾いされてますね。
    ひとつの地点で分岐する人生…。
    武田さんもご存知かもしれませんが、坂井優基さんという著者さんが「パイロットが空から学んだ運と縁の法則」という本を書かれています。法則は見つけられなかったけど、当たり前のようであたりまえじゃないことが書かれていて、坂井優基さんのおっしゃる通り、運を手に出来る人は、やっぱり日頃から人のためのなにかを考えているような気がする。
    でも一方で、善いことをしていても運に恵まれない人もいて、悪いことをしていると運に見放されるかというとそうでもない。悪い人でも運のいい人はいっぱいいるから。この差を説明できることなんかないから「運」なんだと思うけれど…。

    • マキ
    • 2008年 7月15日 8:48am

    すごいお話ですね。
    お母様が感じたそのもやもやした気持ち、虫の報せとでも言うのでしょうけど、
    そんなシグナルに耳を傾けるかどうかも明暗をわけるのかなと思いました。
    お母様は予約をせずにカウンターでいつも買っていた事、察するにご自分でスケジュール管理されていた自由があった事。
    そういう状態すべてが運に繋がったのでは?と思いました。
    幸運を願うキャンペーン、いいですね!

  1. "Good Speed Always"・・よい言葉です。
    このGoodにこめられる想いについて考えさせられました。
    私自身、大学時代には滑空機で空を飛び、その後陸上単発で空を飛び、常に安全なフライトを叩き込まれてきましたが、旅客機は自分だけではなく、何百人という人々の命を運んでいるんですよね。
    パイロットの肩にかかっている命の重みはいくばくか。。。
    武田様の作品をいくつも聞かせていただいていますが、その緊張感が伝わってきて、楽しむとともに、身が引き締まる想いです。
    もく星号、ばんだい号、雫石そして御巣鷹山の日航ジャンボ機の事故と航空史上に残る日本での航空事故がありますが、どれだけ技術が進歩しても、最後の頼みはパイロットだと思います。
    航空事故はニュースの世界だけかと思っていましたが、私がアメリカに航空留学していた際に同じアパートに同居していたルームメイトがライセンス取得後、日本で墜落事故を起こし、死亡したということがありました。事故は常に身近なところに存在しているんだと実感した出来事でした。
    人が空を飛ぶということ自体、自然の摂理に反したこと。
    それを常に意識して、飛ぶことが大切だと思います。
    乗客として飛ぶときでさえも。
    "Good Speed Always"というキャンペーンも、一緒に空を飛ぶもの同士、乗務員も飛行機を利用されるお客様も、気持ちを一つにして安全を掴み取りましょうというメッセージを感じます。
    いろいろと考えさせられるとても深いお話をありがとうございました。

    • 竜子
    • 2008年 7月17日 12:42am

    ■マキちゃん
    わたしたちも「Good Speed Always」キャンペーンやろうよっ。
    ■Airmanさん
    事故は身近なところに存在、ですね…。本当にそう思う。
    にしても…大学時代に滑空機、その後陸単って凄いですね! うらやましいです。私も早くそこへ行きたい。

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