B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第2回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「飛行前計器点検とボーディング アナウンス」

ヨーロッパ中央に位置するスイス連邦。連邦制共和国であり永世中立国として有名である。東はリヒテンシュタイン、オーストリア、西はフランス、南はイタリア、北はドイツに囲まれている内陸国でもある。南のイタリアとの国境付近にアルプス山脈が聳えた立ち、ヨーロッパ大陸を東西に分断するかのようである。スイスの最大の観光地はアルプス山脈であり、最高峰のモンテ・ローザやマッターホルンはスイスの象徴であり、たびたびメディアに登場する。首都は中央に位置するベルン。万国郵便連合の本部であり旧市街は世界遺産である。あと世界保健機関、国連欧州本部を始め国際機関が本部を置くジュネーブ、今回の出発地であるチューリッヒは、スイス最大の都市で金融業を中心に発展し、国際サッカー連盟の本部がある。アルプス山脈の壮大な景観に多くの観光客が魅了され、賑わっている。また世界的機関の本部が多く構えていることもあって、観光客と併せてビジネスでの利用も多く、経済的にも安定した国である。

ランチを終え一息つく人達がチラホラと見受けられ、体に匹敵するほどの大きなカバンを抱え、チェックインカウンターに並ぶ人々。ここは、スイス・チューリッヒの郊外、クローテンに設置された「チューリッヒ空港」。田園地帯の中に滑走路が走り、彼の地へ向かう航空機、またこの地に向かって着陸する航空機で賑わいを見せている。チューリッヒ空港は、スイス最大の空港であり玄関口でもある。ヨーロッパ、北米、南米、中近東など多くの航空会社が就航し、世界中にネットワークを構築している。

スイスのフラッグ・キャリアであるスイス・インターナショナル・エアラインズ(ドイツ・ルフトハンザ航空の子会社、スター・アライアンス・メンバー)の本拠地として、ヨーロッパ、アフリカ、アジアなどに就航し、日本では成田線に週7日のデイリー運航をしている。また、チャーター便を専門とする子会社として鮮やかなカラーリングで人気の高いエーデルワイス航空も、チューリッヒ空港を本拠地としている。ちなみに両社の機材は全てエアバス社製で統一されている。
日本のフラッグ・キャリアである日本航空は、1979年4月1日から成田-チューリッヒ線(アンカレッジとコペンハーゲンを経由)を開設した。しかし、需要の落ち込みで撤退を余儀なくされた経緯があった。

ゲート(駐機所)B(ブラボー)33で束の間のひと時を過ごしているJAL412便のコペンハーゲン、アンカレッジ経由の成田行きB747型機、通称ジャンボ機。誰も知っているジャンボ機。誰でもが乗りたいジャンボ機。しかしその姿は年を追うごとに機数を減らしている。
純白の機体には赤と青のストライプが走り、大きな尾翼には日本航空のロゴである赤い鶴丸が描かれている。海外にいる日本人は、この鶴丸を見ると我が故郷への思いを強くするという。同時に国のフラッグ・キャリアとして、また国を象徴するものでもあり、一層の親しみと安堵感もあると聞く。「JALに乗れば日本に帰れる」「海外先でJALを見れば故郷が懐かしくなる、ホームシックになる」など、人それぞれに想いがある。
クルー(乗務員)は、機長(CAP)、副操縦士(FO)、航空機関士(FE)の3名であり、スリーメン・クルーともいう。航空機関士は、燃料の注入量の調節や電気系統の確認など飛行に際しての様々な数字を計算し、機長にアドバイスする役目、言わばジャンボ機の中枢を担っている重要なポストである。一見、3名乗務だと、操縦の手間などが掛かって億劫に感じるが、航空機とパイロットが一つとなって、パイロットは自分の手足のごとく操縦しているので、飛行中の不具合などの変調は体で感じ取れるのである。

出発時間が迫ってきた。主翼に取り付けられていた燃料パイプが外され、貨物や乗客の荷物は機体下部に積載を完了した。乗客は搭乗口のグランド・スタッフのアナウンスにより、機内へと歩を進めている。クルーは既に最初の経由地であるデンマーク・コペンハーゲン空港(通称:カストラップ空港)までの飛行経路(ウエイ・ポイント)の座標をINSにインサート(入力)し終え、エンジン始動前の計器点検であるビフォア・スタート・チェックリストを行う準備をしている。機長は副操縦士と航空機関士に計器点検を行う旨を伝えた。

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★「ヨーロッパ飛行」挿入02

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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「それでは、チェックリストをやりましょうか?」
「ちょっと、グランドを呼んで」
機長は副操縦士に地上整備員を呼び出すよう指示すると、副操縦士はインターフォンを取り、地上整備員に呼び掛けた。
「グランド、コックピット」(こちらコックピットです)
「メイ アイ セット パーキング ブレーキ?」(パーキング・ブレーキをセットしていいですか?)
「パーキング ブレーキ セット コンプリーテッド オーケー?」(パーキング・ブレーキを完了しました)
「オーケー」
既に機体前方にある前輪にはトーイングカーが取り付けられ、地上では出発準備を完了している。
パイロットは、航空機が動き出す前の初めての計器チェックを始めた。

「それでは、ビフォア・スタート・チェックリスト、やりましょう」
「はい、チェックリスト」
「ビフォア・スタート・チェックリスト」
「シップ パウチ アンド ログブック…オンボード」
「コックピット プリパレーション プロシジャー…コンプリーテッド」
「オキシジョン アンド インターフォン…チェック」
「フライト コントロール アンド ハイドロ パワー スイッチ…オン」
「アンチ スキッド…オン」
「INS モード…ナブ」
「エバケーション コマンド スイッチ…アーム」
「エマージェンシー ライト…アーム」
「キャビン サイン…オン」
「ストール ウォーニング…ノーマル」
「クローブ ヒート…ピトー ゾーン ヒート」
「ウィンドウ ヒート…オン」
「レディオ クロックス アンド アルティメーター…セット 1019」
「エアスピード…バグズ セット」
「EPR…バグズ セット」
「パーキング ブレーキ アンド プレッシャー…セット アンド ノーマル」
「スタート レバー…カットオフ」
「ギア ピンズ…リムーブ」
「フュエル…72000ポンド セット フォア スタート」
「プレッシャリゼーション…オート」
「ADP…オフ」
「コックピット ドア…ロックド」
「ドット ライン トゥ ゴー」
「はい」

チェックリストは、エンジン始動前後、離陸前後、着陸前後など一つの動きをする毎に、必ず機器の点検(チェックリスト)を実施しなければならない。その中で、エンジン始動前の確認事項であるビフォア・スタート・チェックリストを副操縦士が読み上げて、「ドット ライン トゥ ゴー」とコールして、確認が終わったように思えるが実は違う。このチェックリストの最後の方で、点線(dot line)を引いた箇所がある。この点線以降はエンジン始動直前にコールする確認事項(アイテム)であるということを示すために引かれた点線で「ドット ライン」といい、それもコールすることになっている。

「インフォメーションはG(ゴルフ)で、ビジビリティ(視程)6キロ」と、副操縦士はチューリッヒ空港情報(ATIS)のコード番号と空港周辺の視界の距離である視程を報告し、その放送がコックピットに流れる。
「…1020 200ディグリーズ 2ノット ビジビリティ6キロメートル レイン 1オクターズ 1500フィート 6オクターズ 4000フィート 7オクターズ 10000フィート テンプラチャー11 …」(…世界標準時10時20分現在です。風向は200度から2ノット。視程は6キロ。雨が降っています。1500フィート、4000フィート、10,000フィートに雲があります。11度。…)

各社の航空機が出発承認を担う管制官に交信する様子が、コックピットに響き渡る。空港待合室から飛行機が駐機しているエプロンを見ると、コバンザメのように作業車が飛行機に張り付き、燃料の注入や荷物などを搭載している。またそれに併せて各々の作業担当者が右往左往を動き回っている。コックピットではパイロットが最終ブリーフィングや計器チェックなど、狭い空間で作業を行なっている。その作業の中の一つで、乗客には一切聴こえない会話がコックピットのスピーカーから絶え間なく聴こえる。管制官とパイロットが無線で交信しているのである。出発承認を得る為、パイロットは担当管制官と交信するのだが、他機のパイロットも交信してくる。早く管制官とコンタクトした方が早く出発できる。例えば、同じ出発時刻で、同じ目的地の飛行機が2機あったとする。どちらも早く出発する為に、ブリーフィングや計器チェックを早く終えたい。片方が全ての準備を整えて管制官に交信したら先に出発できる。また異なる目的地だか同時刻出発の飛行機が複数あれば、前の飛行機の交信が終われば、割り込みにも似た交信が繰り広げられる。上空でも同じようなことがある。この様に乗客には分からないが、パイロット達の熱い戦いが行なわれている。

出発予定時刻が近付いていることを地上整備員が交信して来た。
「コックピット グランド クリアランス レディ フォア プッシュバック」(プッシュバックの準備は出来ています。出発承認をもらって下さい)
「ラジャ」副操縦士は応答し、チューリッヒ空港のグランド管制へ交信を始めた。
出発予定時刻の直前(5分前)に地上整備員からの交信を「ファイヴ ミニッツ」という。
「チューリッヒ・グランド ジャパンエア412 レディ トゥ スタート クリアランス コペンハーゲン (ゲート)ブラボー33」(チューリッヒ・グランド管制へ。こちら日本航空412便です。コペンハーゲン空港までの飛行準備が整いました。駐機所ブラボー33に駐機しています)
「ジャパンエア412 チューリッヒ ディレイ テイクオフ QNH1019 タイム44 … 13 イクスペクト テイクオフ タイム 07」(日本航空412便へ。空港が混雑している為、離陸が遅れます。空港周辺の気圧は1019ヘクトパスカル、出発予定時刻は44分ですが、13分ほど遅れます。離陸時間を7分になります)
空港が思いのほか混雑しているようであり、副操縦士はその旨を復唱した。国々の空の玄関口である空港には、世界各国から航空機が離着陸を繰り返しているので、予定されている時刻通りにはならないことが多い。
航空機関士は地上整備員に出発が遅れることを伝えた。
「スタンバイ 7 オア 8 ミニッツ」(7、8分、待機して下さい)

「…」
地上整備員からの交信内容が聴き取れなかったので、再度聴き直した。
「パードン?」(もう一度、お願いします)
「…」
ドイツ語訛りの英語なので聴き取り難い。
機長は出発承認を待っている旨を伝えるように航空機関士に伝えた。
「ATC スタンバイって言って下さい」
「バイ ATC スタンバイ」
「ATC スタンバイ」
機内ではチーフパーサーが乗客に出発前のアナウンスを始めた。
「皆様、本日は日本航空412便、コペンハーゲン、アンカレッジ経由東京行きにご搭乗下さいまして、ありがとうございます。まもなく出発致しますので、お座席のベルトをお締め下さい。お煙草は禁煙のサインが消えるまではご遠慮下さい。この便の機長は鈴木、私はパーサーの青地でございます。コペンハーゲンまでの飛行時間は1時間15分を予定しております。ご用の際は私ども乗務員にご遠慮なくお申し付け下さい」
続いて、英語での機内アナウンス、そして非常脱出時の案内が流れている。

つづく

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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    • hiro
    • 2011年 1月2日 1:57am

    あけましておめでとうございます。
    ちょっと気になった点がありましたので、コメントさせていただきます。
    チェックリストの
    「エアスピード…バルズ セット」
    「EPR…バルズ セット」
    ですが、これは
    「Bugs set」
    なので、
    「バグス セット」もしくは「バグ セット」
    のほうが正しいと思うのです。また、その方がしっかりと意味が伝わると思います。
    もしよろしければ訂正をお願いします。

    • 竜子
    • 2011年 1月2日 3:01pm

    ■hiroさん
    あけましておめでとうございます。
    ご連絡ありがとうございます。
    ご指摘、ありがたく頂戴しました。
    1点2ヶ所、さきほど本文のほうを修正しました。
    また、著者の武田さんと桃田さんの方にも連絡をしておきますね。
    またなにかお気づきのことがありましたら、お気兼ねなくコメントをください!
    では^^

  1. 私が始めて「コックピット」シリーズとであったのがこのJL412のフライトドキュメントでした。
    「THE JAL COCKPIT INTERNATIONAL FLIGHT」というレコード。
    LP2枚組みでフライト・ログやヨーロッパエリアチャート、コペンハーゲン進入チャートやコペンハーゲンエリアチャートが付いていてそれらを見ながらパイロットになった気分でコックピットでの空の旅を何度も何度も楽しみました。
    とても懐かしいです。
    鈴木CAPと岸田COP、飯田FEの息のあったコックピットオペレーションがとても印象的でこのLPを聞いたときからパイロットにあこがれていたような気がします。
    p.s.当時の編集と今回の編集、ちょっと違うんですね。
    あらためてLPを聞いてみたくなりました。。。が、プレーヤーが無い・・・^^;

    • 桃田素晶
    • 2011年 1月3日 3:16pm

    hiroさん
    ご指摘 ありがとうございます。
    今後とも宜しくお願い致します。
    竜子さん
    お手を煩わせました。
    ありがとうございます。
    Airmanさん
    LP盤があったのは初耳です。
    COPやFEの方の氏名を、今後反映させて頂きます。
    私もこの作品が好きで、情緒ある雰囲気が何とも心地良いものです。
    他に何かあれば、宜しくお願い致します。
    あるフライト・ドキュメントのLPをPCに取り込む為にプレイヤーを購入しましたが、フォノイコライザー内臓のプレイヤーを購入された方がいいと思います。

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