ボーイング777コックピット「続・機長席」第1回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第1章 千歳空港離陸_1

新千歳空港へ着陸した日本エアシステムのボーイング777は、17時15分発の東京羽田空港行き114便として折り返し運航するのである。

航空機の便名は原則として起点となる主要空港から下り便に奇数、上り便に偶数番号がつけられる。

わずかに誘導路に春の陽光がさしているが、北国の黄昏は白夜のように穏やかであった。新千歳空港の滞在は約45分。その間に森田機長と木村副操縦士は空港ビルにある運航部へ行って最新の天候情報などを調べた。勤務明けの運航部員が飛行機に戻る森田機長に挨拶をする。
「今日は穏やかな一日でしたよ。眠いくらいでした」
「そうだね。雲や雪の日のほうが緊張感はあるよね」と機長が苦笑する。二週間前に森田機長が同じ115便で千歳空港にフライトしたときは、台風を思わせる悪天候で着陸するまで緊張をよぎなくされた。その時の運航担当者だった。

現在、16時50分。新千歳空港ゲート16番。
駐機している114便の機外周辺には、給油車、飛行機を誘導路まで牽引するトーイング・カー、機内食を搬入するケータリング・カー、乗客の荷物を運んできたバケージ・カーなどが接続され、地上整備員は出発前の準備に多忙をきわめている。

コックピットでは、搭乗前に行う機体外部の目視点検を済ませた森田機長が木村副操縦士と共に出発前の準備を始めていた コックピットの頭上にあるスピーカーから、新千歳空港を出発する航空機と千歳デリバリー管制の交信が絶え間なく聞こえていた。

17時10分出発の仙台行き日本航空846便、ボーイング737ー400の飛行プラン承認(クリアランス)の交信が始まった。

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★「続・機長席」挿入01

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ジャパンエアー846。ラジャー。クリアランス レディ トゥ コピー?
(日本航空846便へ。了解。ATCクリアランスをおこないます。コピーの準備はできていますか?)
ゴーアヘッド」(どうぞ)
ジャパンエアー846。クリア トゥ センダイエアポート バイ ア トビー5ディパーチャー トビー フライトプラン ルート メインテイン フライト レベル240 ディパーチャーフリクエンシー ウィル ビー 124.7 スクウォーク4737 リードバック
(日本航空846便へ。仙台空港までの飛行プランを許可します。トビー出発方式で24000フィートまで上昇してください。出発管制の周波数は124.7メガヘルツの予定。レーダー認識番号は4737です。復唱願います)
ジャバンエアー846。クリアー トゥ センダイエアポート バイ ドビー5デパーチャー トビー フライトプラン ルート メインテイン フライトレベル240 ディパーチャー124.7 スクウォーク4737
ジャパンエアー846。リードバック イズ コレクト。コンタクト チトセグランド 121.6
(日本航空846便へ。復唱は正確です。以後は千歳グランドコントロール管制121.6メガヘルツへ連絡してください)
121.6 ジャパンエアー846」(121.6。了解しました 日本航空846)
日本航空機に続いてエアシステム668便への飛行プランのクリアランス交信が聞こえる。この便は新千歳空港を17時10分に出発する大阪空港行きエアバスA300ー600Rである。

エアシステム668。クリアランス レディ トゥ コピー?
(エアシステム668便へ。飛行プランの承認をします。コピーの準備ができますか?)
エアシステム668 ゴーアヘッド
(エアシステム668便です。どうぞ)
エアシステム668。クリアー トゥ オオサカエアポート バイ ア ハコダテ3ディパチャー ハコダテVOR フライトプラン ルート メインテイン フライトレベル350 ディパーチャー フリクエンシー ウィル ビー 124.7 スクウォーク4742 リードバック
(エアシステム668便へ。大阪空港への飛行プランを許可します。函館3出発方式、函館VOR飛行ルートで35000フィートで飛行してください。出発管制の周波数は124.7メガヘルツの予定です。貴機のレーダー認識番号は4742。復唱願います)
エアシステム668。クリアー トゥ オオサカエアポート ハコダテ3ディパーチャー ハコダテVOR フライトプラン ルート メインテイン350 ディパーチャー124.7 スクウォーク4742
エアシステム668。リードバック イズ コレクト コンタクト チトセグランド121.6
(エアシステム668便へ。復唱は正確です。以後は千歳グランドコントロール121.6メガヘルツ周波数へ連絡してください)
121.6」(121.6へ連絡します)

17時10分。出発五分前になった。
森田機長がコックピットからインターホンで駐機している16番ゲートの114便の下にいる地上整備員に呼び掛けた。
グランド。コックピット」(グランド整備員。こちらコックピットです)
どうぞ
はい。APUスタートしました。GPUをディスコネクト、どうぞ
ボーイング777は駐機しているとき、燃料の節約、環境保護のために客室のエアコンなどを回す電力をGPU(地上電源)から取り込んでいる。森田機長はコックピットで飛行機の補助エンジンAPUを始動させたので、地上電源を切ってくれるように依頼したのだ。
了解しました。ディスコネクトします

114便も千歳デリバリー管制へ飛行プラン承認(クリアランス)の交信をする時間が迫っていた。
この交信はファイブ・ミニッツ・コールとも呼ばれ、飛行機が出発する過程の中で重要な意味を持つ。すなはち、デリバリー管制へクリアランス交信をするまでには、ほとんどの出発準備を完了させ、あとはエンジン始動させるだけの状態になっていなければならないのである。
エンジン始動時までには、乗客のボーディングを担当するグランドスタッフは乗客の搭乗を完了させ、ランプコーディネーターは、整備員、地上要員がボーディングゲートを取り除き、荷物、給油などの諸作業を終らせて飛行機周辺の障害物がないことを確認して、誘導路まで牽引するトーイング・カーを飛行機に接続していなけれならない。

一方、コックピット・クルーもエンジンを始動させるに必要な点検や打合せ事項を終わらせていなければならないのである。地上の準備を完了させたランプコーディネーターから、114便のコックピットにエンジンスタート五分前が伝えられると、森田機長は副操縦士に管制塔と交信する指示を出した。

木村副操縦士は飛行プランのクリアランスを受けるために、千歳デリバリー管制へマイクで呼び掛けた。
チトセデリバリー。エアシステム114
(千歳デリバリー管制へ。こちらエアシステム114便です)
エアシステム114。チトセデリバリー。ゴーアヘッド
エアシステム114。トゥ トウキョウ フライトレベル390 スポット16
(こちらエアシステム114便です。東京羽田空港まで飛行高度39000フィートで飛行予定です。現在、ゲート16に駐機しています)
エアシステム114。スタンバイ クリアランス
(エアシステム114便へ。飛行プランの承認を待ってください)
スタンディング バイ」(待機します)

待機している間にコックピットのデスプレイには、コミニケーションの指示が表示された。エレクトリック・チェック・リストのシステムは、飛行の段階に応じて、クルーにそのときにするべき事柄をデスプレイに確実に表示するのだ。
チェック。コミニケーション」と、機長は、ACARSでアップリンクされたウェイト&バランス(燃料、乗客などの114便の飛行重量と重心位置のデーター)及びテイクオフデーターを表示させ確認を始めた。
はい。114便のパッセンジャー(乗客)は171プラスゼロ(171名と幼児はゼロ)ジャンプシート(コックピット補助席)使用が二名。燃料が38000ポンドだな。はい。アクセプト。チェック、次のページだね
MFDに表示されるウェイト&バランスとテイクオフデーターは3ページにわたるのでコックピットクルーはその項目を一つづつ確認していく。
スーパーシートの乗客は6名。レインボーシートの乗客は31名。滑走路は19R。滑走路面はドライ。ハイ。アクセプト。テイクオフ2のクライム1(離陸と上昇時の推力)。チェック、ネキストページ(次のページは)?
エンド(終りです)」と副操縦士。

このとき全日空780便、17時15分発の大阪行き747ジャンボのクリアランス交信が聞こえてくる。
キャンセルメッセージ」森田機長は終了した打合せ項目をデスプレイから消して次に進んだ。FMSのディスプレイ表われた次のページは離陸速度に関するものだった。
チェック。テイクオフスピード」と森田機長。
はい」と木村副操縦士が答えてデスブレイ表示された離陸データーを確認して声を出して読んだ。
ドライV1  126 129 134
(晴天状態での離陸で、離陸スピードは126、129、134ノットです)
今日の千歳空港の滑走路は雨や雪で湿っていなてドライな状態で、これから離陸するスピードはVワンが126ノット。VRが129ノット V2が134ノットであるとコンピューターが算出していた。

一般的に迎え風が強いと揚力が増して飛行機の滑走距離は短くてすむが、微風、あるいは追い風であると、飛行機は必要な揚力を得るために離陸距離は増加する。風がない日に重い凧を上げるのに、速く、遠くまで走らなければならないのと同じである。
又、離陸するときの機重(テイクオフ ウェイト)によっても、滑走路を走る長さが変わる。今日の114便の場合は必要な滑走路の距離は、コンピューターの計算によると5512フィートであった。

ボーイング777では、今日の風の強さ、方向、滑走路の状態、乗客や貨物、搭載燃料の重さなど、さきほど機長と副操縦士が確認し合った諸条件のもとで、これから行う離陸時の速度や滑走距離をコンピューターが算出して、ディスプレイに表示しているのである。
アームLーNAV、アームVーNAV。テイクオフ ブリーフィング(次はテイクオフの打合せだ)。シップの状態はOK。ノータム(滑走路が使用不能などの航空情報)は今日は別にないですね」と森田機長が確認する。
はい。ありません
それではウエザー(天候)だ。210度(西北西)から11ノットの風で、若干右よりの風だな。天気は良好で温度は摂氏10度、ー1度(露点天温度)。気圧は29.98インチ。搭載燃料は38000ポンドで、飛行機の離陸重量(離陸時の総重量、テイクオフ ウェイト)は38万3000ポンド。離陸時のフラップの位置は5。テイクオフスラスとはテイクオフ2だね。トリムは7、00。離陸スピードはV1から、126、129、134ノット。必要離陸距離(離陸に必要な滑走路の長さ)は5512フィート。エンジンアウトのアクシェレーションはアルト1500 アクセル3000 リダクション1500

離陸打合せ中に千歳デリバリー管制から交信が入った。
エアシステム114。クリアランス レディ トゥ コピー?
(エアシステム114便へ。飛行プランをクリアランスをしますのでコピーの準備をしてください)
エアシステム114。ゴーアヘッド」と木村副操縦士が答えてメモを用意して待つ。
エアシステム114。クリア トゥ トウキョウ・インターナショナルエアポート バイ ア トビー5ディパーチャー トビー フライトプランルート メインテイン フライトレベル390 ディパーチャーフリクエンシー ウィル ビー 124.7 スクウォーク2461 リードバック
(エアシステム114便へ。東京羽田国際空港までの飛行プランを承認します。トビー5出発方式、トビー飛行プランルートで高度39000フィートを許可。出発管制の周波数は121.6メガヘルツ レーダー認識番号は2461です。復唱願います)
今日の114便の千歳空港の出発方式(SID)は、トビー5出発方式と指定された。
これは日本航空846便仙台行きと同じ出発方式である。
エアシステム114。トゥ トウキョウエアポート トビー5デパーチャー トビーフライトプランルート フライトレベル390 ディパーチャー フリクエンシー124.7 2461」と木村副操縦士が復唱する。

普通、管制官と飛行機の交信内容は復唱するのが原則である。唯、航空機が混雑しているときは高度、レーダー番号、周波数など数字だけ復唱する場合もある。
エアシステム114。リードバック イズ コレクト コンタクト チトセ・グランド121.6
(エアシステム114便へ。復唱は正確です。以後は千歳グランド管制へ連絡してください。周波数は121.6メガヘルツです)
121.6」と復唱して、副操縦士は交信を終えた。
コンティニュー テイクオフ ブリーフィング」と森田機長は再び交信で中断していた離陸の打合せを始めた。
巡航高度(クルーズアウト)は39000フィートで重量的には問題ないね。使用滑走路は19のライト(千歳には南向きの滑走路19が二本あってその右側の滑走路のこと)で、離陸してからはトビー5出発方式で、Rナビゲーションルートを飛行します。L NAV V NAVのデーターを使用して飛行します。コンストレインは11000フィートより下。千歳からの27マイルDMEの地点まで。それから東京羽田空港の進入は阿見VOR上空(茨城の霞ヶ浦東の地点、阿見にある地上無線標識)で13000フィートより下を飛行します。東京羽田空港のアプローチでジョウナンを通過するスピードは170ノットで入力しています。
もし千歳空港の離陸中にトラブルが起きた場合、対処の仕方は東京で打合せしたことと同じです。リジェクト又はゴーとコールしますから、それに従ってください。ゴーの場合
(新千歳空港へリターンする場合)は高度は4000フィートで飛行する旨をリクエストします。ワイドパターンのレーダー誘導を受けます。それだけですね。何かありますか?」「ありません

離陸の打合せが終わると計器点検が始まる。
プリパレーション・チェックリスト」と機長の指示で副操縦士が表示されたディスプレイのリストを読み上げながらふたりで確認する。 
オキシジョン(酸素ボンベ)・・・セット
パッセンジャー・サイン・・・・・セット」(客室のシートベルト等のサイン)
フライトインストルメント・・・・セット
プリパレーション チェックリスト イズ コンプリーテッド(完了です)

木村副操縦士が無線機の周波数をデリバリー管制から千歳グランド・コントロール121.6に変えた。
これから114便は千歳地上管制官に引き継がれるのである。すぐにグランドコントロールと他の飛行機が交わす交信が聞こえてくる。
ジャパンエアー846。コンタクトタワー 118.8
(日本航空846便へ。以後は周波数118.8メガヘルツへ連絡してください)
ラジャー。118.8 ジャパンエアー846
(了解しました。118.8。日本航空846)
17時10分発の仙台へフライトする日本航空846便は、すでに地上走行(タクシー)中で滑走路近くにいて、グランドコントロールの管制下を離れて千歳タワーコントロールに引き継がれるところであった。

千歳グランド。エアシステム668。リクエスト タクシー
次はすでにプッシュバックが完了したエアシステム668便A300が、エンジンを始動させて、これから地上走行を始めるために、グランドコントロールにリクエストをしている。パイロットは常に他の飛行機と管制官の無線を傍受しながら、周辺の飛行機の動きをチェックしているのである。
エアシステム668。ランウェイ19R(ライト)。バイア T1(タンゴ ワン) H4(ホテル フォー) A2(アルファ ツー)
(エアシステム668便へ。誘導路の表示、T1、H4、A2を経由して滑走路19ライトに向けて地上走行してください)
T1、H4、A2 エアシステム668
(タンゴ1、ホテル4、アルファ2。了解。エアシステム668)

飛行機は管制官から指定された誘導路(タキシーウェイ)を通って滑走路へ向かわなければならが、新千歳空港も羽田空港と同様に、複雑な誘導路があるので誘導路で飛行機同士が接触事故を起こしたり、滑走路への道を間違えないようにするためにアルファベットと数字の目印が大きく誘導路脇に表示されている。
グランドコントロールは、地上走行する飛行機にその都度、アルファベット標識を指定して飛行機を地上走行させるのだ。
この無線のアルファベットは世界共通の定められたフィオネテック・コードといい、たとえば、Aはアルファー。Bはブラボー。Cはチャリー。Tはタンゴ。Hはホテルなど。特別の読み方がある。

千歳グラウンド オールニッポン780。リクエスト プッシュバック ゲート8」(全日空780便です。プッシュバックの許可願います)
17時15分発の大阪行き全日空ボーイング747が、8番ゲートを離れようとしている。
オールニッポン780 クリアー フォア プッシュバック フェイス トゥ サウス」(全日空780便へ。プッシュバックを許可します。機首が南に向くようにしてください)
プッシュバック フェイス トゥ サウス」(南向きにプッシュバックします)
ゲートから誘導路へ出るとき、機首をトーイングカーで押されるので、飛行機は後向きに誘導路につく。そのとき誘導路で飛行機を南に向けるか、北に向けるか、あるいは東か西か。これは出発ゲートと滑走路の位置によって変わるが、どちらに向けるかは管制官が決める。
管制指示は「フェイス(飛行機の顔、すなはち機首)トゥ サウス」であるから、全日空780便は、南を向いて誘導路へプッシュバックしなければならないのである。

現在、17時15分。114便の出発時間である。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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