ボーイング777コックピット「続・機長席」第3回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第1章 千歳空港離陸_3

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★「続・機長席」挿入03

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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皆様、まもなく離陸いたします。お席のベルトをおたしかめください
客席では関谷チーフパーサーが乗客に離陸を知らせる。
いよいよ離陸である。

まず森田機長がスラストレバーを約50%N1までアドバンスして、エンジン計器の指示に異常がないことを確認した後、スラストレバーを離陸推力にセットするトガ・ボタンを押した。スラストレバー(自動車でいえばアクセル)は、するすると自動的に離陸位置に入る。
スラストレフ
木村副操縦士がオートスロットルのモードが変わるのを確認してコールする。
森田機長は右手をスラストレバー、左手で操縦桿を握り、両足をラダーペダルにかけて滑走路を凝視した。
キーン、と金属音を響かせながらエンジンパワーが急激に上がった。
まるで獲物を追う獣が、走る前に一瞬身震いするように機体が振動する。
パーキングブレーキが外されると、ボーイング777は脱兎のごとく滑走路の上を走りだした。
エイティ!
離陸速度をチェックしている副操縦士が、80ノットのスピードになったことをコールした。
加速が増す。機長は右からの風に対応してエルロンをやや右に傾け、操縦桿をしっかりと持ちながら滑走路を見つめている。
V1
コンピューターと木村副操縦士が同時にスピードをチェックしてコールした。
VR
森田機長がゆっくりと操縦桿を引き始めた。機首が上がる。
V2
ゴトンと音が響いてメインギヤが地上を離れる。機体が浮いた。それまで滑走路の路面を拾っていたタイヤのノイズがすっーと消える。114便は離陸した。
木村副操縦士はデスプレイにある昇降計の針が上を向き、気圧高度計の数字が下がり、飛行機が地上から上昇したことを示す電波高度計の動きを確認してコールした。
ポジティブ
ギャアップ!
車輪あげを命じる機長の声は、進め! と告げる武将のように凛と響き渡る。この声こそ、機長を象徴する音声であろう。
ギャアップ。LーNAVキャプチャー
副操縦士がギャ・レバーをあげる。LNAV(ラテラル・ナビゲーション)が作動を開始する。
スラストレフ、VNAVスピード
VーNAVが作動を開始する合図のモード変化の表示を確認して副操縦士がコールする。VーNAVとはバーチカルナビゲーションのことで、ラテラル(水平方向)に対して上下(ヴァーチカル)方向の、すなはち飛行時の縦方向をコントロールするナビゲーションのことである。
これで777の運航、航法コンピューターが完全に動きだして宇宙船に変わった。
ギャアップ
車輪が機体に完全に格納されたことをディスプレイでチェックして木村副操縦士が報告した。
空気抵抗が少なくなった114便は速度を増して上昇を続ける。
ライト。クリアー
114便は右旋回を始めた。空港の北西にある千歳VORへ向かうのだ。

千歳タワー管制から交信が入った。
エアシステム114。コンタクト デパーチャー
(エアシステム114便へ。千歳デパーチャーコントロールと連絡をしてください)
エアシステム114。デパーチャー」復唱して木村副操縦士は、千歳デパーチャーコントロールへ周波数を変えて交信を始めた。
チトセ デパーチャー。エアシステム114。リービイング1700 フォア 390」(千歳デパーチャーコントロールへ。こちらエアシステム114便です。現在、高度1700フィート。高度39000フィートへ上昇中です)
エアシステム114。チトセ・デパーチャー ラジャ。レーダーコンタクト。 11000 リストリクション イズ キャンセル クライム アンド メインテイン フライトレベル390
(エアシステム114便へ。こちら千歳デパーチャーコントロールです。了解しました。11000フィートの制限を解除します。高度39000フィートへ上昇してください)

前述の千歳空港のSID(出発方式)によけば、滑走路19ライトを離陸して千歳VORからトビーに向かって上昇するが、千歳VORから27マイル南にある27VORDMEまでは、高度11000フィート以下で飛行しなければならないという制限があった。(トビー5出発方式参照)今の交信でその制限が解除され、すぐに高度39000フィートへ上昇する許可が出たのである。
11000 リストリクション キャンセル クライム アンド メインテイン 390 エアシステム114
すぐに木村副操縦士が復唱する。機長がモードコントロールパネルの高度のセットを11000フィートから39000フィートに変え、ノブを一度押した。(ノブを一度押すことによりVーNAVに記憶されている制限高度をキャンセルする機能がある)
アルト(高度、アルティメーターの略)390。キャンセル 11000
ふたりのパイロットが確認した。
114便は薄暮から次第に夜の匂いが漂い始めた北の空を、一路南に向かって高度39000フィートを目指して上昇を続けていった。「セット オートパイロット」と機長が手動から自動操縦に切り替えたことを告げる。

▼新千歳空港から津軽海峡航空路図

新千歳空港から津軽海峡航空路図

フラップ・ワン
速度を確認して森田機長が主翼の下げ翼の位置を1にする指示を出す。エアースピードは200ノット(時速約380キロ)を越えた。
フラップス・ワン
確認のコールして木村副操縦士がセンターコンソールにあるフラップレバーを1の位置にした。レバーを操作する音がコックピットの中にカチャカチャと響く。客席からは油圧が働く独特の音がしてフラップが上がる様子が見えるが、コックピットではその様子は液晶デスプレイにモニターされて確認される。
フラップ アップ」続いて、機長がコールする。空気抵抗が少なくなった777はさらにスピードを増して上昇していった。それは鷹の飛翔を思わせた。
レフトサイド・クリアー
千歳VOR(CHE)で少し左へ旋回して機首を185度、ほぼ真南にして津軽海峡上空へ向かう。
エアシステム85便。千歳」とカンパニー無線が傍受される。
85便です。どうぞ
この無線はエアシステム千歳運航課と、17時25分に千歳空港を離陸するエアシステム85便ダグラスMD87が交わす交信である。管制との交信以外にも飛行機は自社の持つ周波数で運航部と逐次、交信しながら飛行情報を入手するのである。
アフターテイクオフ チェックリスト」森田機長が離陸後に行う点検を命じた。
木村副操縦士はディスプレイに表示されているエレクトリック・チェックリストを確認して素早く点検を終え、報告する。
アフターテイクオフ チェックリスト コンプリーテッド」(離陸後の計器点検、完了しました)
114便は薄い雲を抜けた。雲を透して津軽海峡が暗い夜の闇に沈んでゆく。
114便が向かっている次の通過点、TOBBY(トビー)は、北緯41度55分1 東経141度45分6の海の上にあるウェイ・ポイント(通過点)だ。
これから東京まで、飛行プランに定められたウェイ・ポイントを忠実に辿りながら777は飛行してゆく。
デパーチャー。オールニッポン712。パッシング 1900
(千歳出発管制へ。全日空712便です。離陸して1900フィートを過ぎました)
チトセデパーチャーコントロール
オールニッポン712。チトセデパーチャー レーダーコンタクト ベリファイアサインドアルティテュード フライトレベル390
(全日空712便へ。千歳出発管制です。貴機はレーダーに入りました。飛行制限をキャンセルし、高度39000フィートまで上昇してください)
114便のあとに離陸した全日空712便は、114便のすぐあとを上昇している。
ライト オフ」副操縦士が離陸のときに点灯していたランディングライトを消す。
現在、高度10000フィートを通過。明るい夕日が右前方の空をオレンジ色に染めている。114便は黄昏の津軽海峡上空を加速しながら上昇を続けた。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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    • 修正ログ:竜子
    • 2011年 1月27日 11:57pm

    すみません、文中に挿入していた「新千歳空港から津軽海峡航空路図」で、修正があります。修正のログがわりにこちらに記載しておきます。
    <修正内容>
    最初のマップでは【千歳】から<鵡川>を経由して【TOBBY】→【LARCH】→八戸へというルートになっておりましたが、この114便では鵡川は経由しておりませんでした。
    【千歳】→【TOBBY】→【LARCH】と修正いたします。ご迷惑をおかけいたしました。

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