ボーイング777コックピット「続・機長席」第5回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第3章 クルージング

 現在、114便は盛岡市の北北東、北緯40度00分2 東経141度19分2にある四番目の通過地点PANSYを過ぎて、岩手県の花巻に向かって飛行をしている。
飛行高度は39000フィート。離陸して25分になる。
先ほどから気流の乱れで少し揺れが続いていた。

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★「続・機長席」挿入05

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 エアシステム137便東京発釧路行きのMDー90が、宮古上空を北に向かう交信を聞きながら木村副操縦士が言った。
これ以上、揺れが強くなるなら(高度)41000(フィートの飛行)を考慮したほうがいいと思います
39000フィートの上を飛行するとなれば、磁方位202度で飛行しているので高度43000フィートでの飛行となるが、北行きの高度41000フィートも許可されることもあるのだ。すれ違う航空機の衝突やニヤミスを避けるために、航路上では磁方位が180度から359度までの航空機は奇数の高度設定。
0度から176度の航空機は偶数の高度と定まっている。そしてそれぞれ1000フィートの高度差を取る。高高度29000フィート以上では2000フィート毎に決められている。
西の空に太陽が沈んだ。
それでも39000フィートという高高度ではまだ明るさが残っているが、地上はすっかり暗くなり、残雪を抱いた山々が薄い闇を透して青白く浮きだして見えている。
サッポロコントロール。オールニッポン780。フライトレベル390
17時15分、114便の前に千歳空港を離陸した全日空780便大阪行きの747が、39000フィートに上昇してきた。35000フィートの飛行は気流が悪く39000フィートの巡航高度に変更した様子である。
下界には雲もなく気持良く澄み渡っているので、見た目にはとても気流が悪いとは思えないが、予報通りに20000フィート前後と35000フィートから37000フィートにかけて晴天乱気流(キャット)がある様子で、飛行機が続々と高高度に集まってくる。
オールニッポン780。ラジャ
つづいて管制官は日本航空846便へ札幌コントロールから東京コントロールへ移管する交信を入れた。
ジャパンエア846 コンタクト トウキョウコントロール 118.9 ジャパンエア846 コレクション トウキョウコントロール 124.1、124.1 」(日本航空846便へ。以後は東京コントロール 118.9メガヘルツへ連絡して下さい。日本航空846便へ。訂正します。東京コントロール124.1、124.1です)
124.1 ジャパンエア846」(124.1。日本航空846便了解しました)
サッポロコントロール。オールニッポン66。リービイング153。クライミング350」(サッポロコントロールへ。全日空66便です。高度15300フィートを高度35000フィートに向かって上昇中です)
オールニッポン66。サッポロコントロール。ラジャ
アンド リクエスト 390?」(それから、39000フィートの飛行許可を貰えますか?)
航空路上で同一高度の飛行機間のインターバルは20マイルなので、その距離が取れるスペースが高度39000フィートにあるかぎり管制官は許可を与える。
オールニッポン66 ラジャ。クライム アンド メインテイン 390
(全日空66便へ。39000フィートの飛行。了解しました)
サンキュー クライム 390 オールニッポン66
全日空66便、17時30分千歳空港を離陸して114便のあとを羽田空港に向かうボーイング747ー400の交信を聞きながら森田機長が呟く。
みんな39000(フィート)だね
35(35000フィート)あたりに(晴天乱気流)があるんですね」と木村副操縦士。35000フィート付近での気流の乱れを確認するように言った。
114便は盛岡市のすぐ東にさしかかった。
今は丁度、花巻の北だな。(花巻まで)40マイルあたりか・・
森田機長がナビゲーションデスプレイに表示された近隣の空港の位置を見ながら言う。
そこに栗駒山がありますね
青白く雪がのった岩手県の栗駒国定公園の山々が、くっきりと、まるで箱庭に作ったの山のようにディテールを見せている。まだ100マイル(約185キロ)以上先だが、この高度からであると「そこ」に思えるほど、すぐ下に真近に見えるのだ。
鳥海山はあれか・・
機長が今度は栗駒山の右手、少し遠くを指差した。
成層圏から見ると日本は驚くほど狭い。太平洋と日本海が僅かに首を回すだけで一望できる。高度39000フィートのクルージングは、コックピットの機窓に素晴らしいパノラマ風景を映しだしている。このパノラマだけは、絶対に客室では味わえないここ操縦室だけのものなのだ。
あの辺は岩手山ですね
副操縦士も右窓に顔を寄せて飛行機の真下を見ながら言った。
岩手山の右の方に山に筋が沢山あるところは、あれは安比のスキー場ですね
777ではエンルートの観光説明が機長のマニュアルからなくなった。日本エアシステムのレインボー7の全座席には液晶モニターテレビが装備され、機外の景色や刻々と変わる飛行位置を日本地図の上で確認出来るキャビン・インフォメーション・システムが乗客サービスとして加わったので、機長アナウンスも挨拶程度に簡素化され、乗客はゆっくりと好みのビデオ番組や飛行情報などを楽しめる配慮がなされている。
サッポロコントロールが114便を呼んできた。東京コントロールへ管制エリアが変わるのだ。
エアシステム114。コンタクト トウキョウコントロール124.1
続いて全日空744便にも同じ交信をした。木村副操縦士が周波数を124.1に変えるとキャセイ航空883便が120.5周波数の東京コントロール中部セクターに出て行く交信を傍受する。
124.1?
一瞬、森田機長が小首を傾げる。
普通、新千歳空港から羽田空港に飛行する場合、北のサッポロコントロールから東京コントロールへ引き継がれると、まず、東京コントロールの東北セクター118.9メガヘルツにコンタクトする。そして東京に近づくと茨城県付近で関東北セクターに引き継がれる。その周波数が124.1メガヘルツなのである。
だが、今日の管制は東北セクターをとばして関東北セクターへ引き継いだのである。
いきなり飛んでしまったみたいですね。トラフィック(航空機)が少ないのですかね?」 木村副操縦士も怪訝な顔をした。
トウキョウコントロール エアシステム114 レベル390」副操縦士に代わって機長が管制官呼び掛けた。
エアシステム114。ラジャ
交信は簡単に終わった。114便は東京コントロールのエリアを南南東にクルージングを続けた。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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    • hiro
    • 2011年 2月6日 9:02pm

    最後の所で124.5→124.1MHzとなっていますが…
    最近気になっていた謎が解けました。
    トラフィックが少ないとこういう事もあるのですねー。
    自分の住んでいる所は札幌と東京の境目なので、なるほどなるほどと感じながら聞いています。

    • hiro
    • 2011年 2月6日 9:25pm

    たびたびすみません
    >現在、114便は盛岡市の北北東、北緯40度00分2 東経141度19分2にある四番目の通過地点PANSYを過ぎて、宮城県の花巻に向かって飛行をしている。
    とありますが、「花巻(市)」は「岩手県」です。
    岩手県民より

    • 竜子
    • 2011年 2月7日 1:36am

    ■hiroさん
    いつもご愛読、どうもありがとうございますっ。
    うぅぅ…本当ですね^^;
    岩手の方、大変失礼いたしました。
    これは、私のチェックミスです。すみませんでした。
    本文の方は修正いたしました。ありがとうございます!

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