ボーイング777コックピット「続・機長席」第7回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第4章 羽田空港進入

 エアシステム114便のフライトドキュメンタリーは、着陸機で混雑する夕方のラッシュアワーに羽田空港へランディングする最大のクライマックスを迎える。
九州や関西、北海道から飛来した多くの飛行機が、レーダーで誘導されながら羽田空港へ進入する様子は、まさに迫真の航空ドラマである。
このドラマの主役はむろんエアシステム114便だが、それに航空管制官というもう一人の主役が加わる。
とくに進入管制(東京アプローチ)は、管制室でレーダーディスプレイを見ながら一人の管制官が、南や北からバラバラで接近する高度、方位、スピードなどが異なる航空機を、あるときは旋回させ、あるときは高度の変更を要求し、あるときは速度を減速させるなどしながらコントロールし、最後にはそれら飛行機を一列に整理して羽田空港の滑走路に導いてゆく。その様子はスリリングであり、管制官の技能に驚嘆すら覚える。
さて、迫真の航空ドラマの幕を開ける前に、登場人物ならぬ登場する航空機を紹介しておこう。これらの航空機はエアシステム114便が、羽田の進入管制東京アプローチに引き継がれてから出て行くまでの間に、東京アプローチの管制エリアで飛行している12機の航空機である。

便名 出発地 羽田到着時間 機種
ANA 90 沖縄発 1840 777
JAL368 福岡発 1840 747ー400
JAS314 福岡発 1835 777
ANA456 佐賀発 1840 767ー300
JAL106 大阪発 1820 747ー400
JAS216 青森発 1835 A300
ANA862 函館発 1840 767
ANA870 旭川発 1850 767
ANA744 釧路発 1855 767ー300
JAS114 千歳発 1845 777
JAL186 長崎発 1900 777
ANA 66 千歳発 1900 747

(12機の内、7機が南から。5機が北から進入)

 それでは音声を聴きながら”迫真の航空ドラマ”を堪能して頂きたい。

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★「続・機長席」挿入07

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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トウキョウ。オールニッポン862 スタディング バイ ディセント
(東京コントロールへ。全日空862便です。降下を始めてよろしいか?)
オールニッポン862。ラジャ。ディセント メインテイン 13000 クロス アミ アット 13000 QNH3018
(全日空862便へ。了解しました。高度13000フィートへ下降を許可します。阿見VOR上空を13000フィートで通過してください。気圧は30.18インチです)
3018 アミ 13000 スタンバイ イン ア ワン ミニッツ
(気圧30.18インチ 阿見、13000了解。一分後に降下を開始しますよ)
コックピットのスピーカーから函館発羽田行きの全日空862便、ボーイング747と東京コントロールの降下(ディセント)の交信が聞こえている。862便のパイロットの独特の喋べり方がユニークである。
すでに114便は飛行プランによる下降予定地点より少し手前で、東京コントロールの指示が出て下降を始めていた。
現在、高度18000フィート。夜のとばりに包まれた空を守谷VORを過ぎて茨城県霞が浦の西にある阿見VOR上空に向けて高度を下げている。
乗客へのサービスが完了したことを報告するためにキャビン・クルーがコックピットに入ってきて木村副操縦士と打合せをしている。
あとね
森田機長がキャビン・クルーに言った。
降下の指示がきたので降りています。ちょっと降下中、揺れますから気をつけて。ひどいときはベルトサインを入れますからね
はい。了解しました。とキャビン・クルーは機長に笑みを返して客室に戻っていった。
コックピットのスピーカーからは管制官と862便が交わすディセントの交信が引き続き聞こえている。
オールニッポン862。コンタクト 東京アプローチ119.1
(全日空862便へ。以後は東京アプローチ119.1メガヘルツへ連絡願います)
オールニッポン862。サンキュー グッデイ
(全日空862便。ありがとさん。ご機嫌よう)
東京コントロールが、周波数を119.1、羽田進入管制(東京アプローチ)へ連絡を取るように全日空862便へ指示をした。続いて全日空870便、旭川発羽田空港行きのボーイング767にも降下の許可を出す。
オールニッポン870。ディセント メインテイン 13000 クロス アミ アット 13000 QNH3018
(全日空870便へ。13000フィートまでの降下を許可します。そして阿見VOR/DMEを13000フィートで通過してください。気圧は30.18インチです)
ラジャ。ディセント アンド クロス アミ 13000 オールニッポン870
北からの飛行機がぞくぞくと霞ヶ浦に向かって降下を始めていた。霞ヶ浦の阿見町にある航空無線標識(VOR)は、羽田空港へ向かう北からの飛行のゲートウェイなのだ。
逆に羽田から北へ向かう場合は、阿見VORの西にある守谷VORが、北へのゲートウェイになる。
管制官は全日空862便のすぐ後を飛行しているエアシステム114便へ、羽田進入管制東京アプローチへ移管する交信を始めた。
エアシステム114。コンタクト トウキョウ アプローチ119.1
(エアシステム114便へ。以後、東京進入管制、周波数119.1メガヘルツへ連絡してください)
エアシステム114。119.1
周波数の復唱をした木村副操縦士は、コックピットの無線周波数を東京アプローチ119.1に切り替えて進入管制を呼んだ。
トウキョウアプローチ。エアシステム114。リービング169 ウィズ インデア
(東京アプローチへ。こちらエアシステム114便です。現在高度16900フィートで下降中。羽田空港のATIS I(インデア)を聞きました)
すぐに東京アプローチ管制官のきびきびした早口トーンの交信が返ってきた。世界でも交通量が多い羽田空港へのアプローチの緊張感が伝わってくる。
エアシステム114。トウキョウ・アプローチ ラジャ。アンド ディパート アミ ヘディング200 ベクターフアイナルアプローチコース デイセント メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(エアシステム114便へ。こちら東京アプローチです。了解しました。阿見VORから機首方向200度でレーダーによるファイナルアプローチコースに誘導します。高度8000フィートまでの下降を許可します。阿見上空は13000フィート以下で通過してください)
阿見VORは成田の北西に位置するので、成田空港と羽田空港の空域が隣接するため飛行制限が厳しい。

羽田空港周辺地図
羽田空港周辺地図

ディパート アミ ヘディング200 ディセント 8000 クロス アミ アット オア ビロー13000 エアシステム114
(阿見で機首方向200度。下降許可、8000フィート。阿見通過は高度13000フイートより下。エアシステム114了解しました)
木村副操縦士のリードバックは無駄がない。必要なことを簡便明快に管制官に伝えた。 114便は今、上空の航空路をコントロールする東京コントロールの関東北セクターからレーダーで引き継がれ、羽田空港の管制区内で進入管制(東京アプローチ・コントロール)のレーダーの中にいるのだ。
エアシステム216。リデュース スピード トゥ 210ノット
(エアシステム216便へ。エアースピードを210ノットにしてください)
東京アプローチの管制官は、房総半島から東京湾に向かって飛行くるエアシステム216便、青森発羽田行きエアバスA300の飛行スピードを減速するように指示を出した。
東京アプローチの管制エリアは、羽田空港を中心に東京湾。房総半島南から、房総半島東の銚子、成田を除いて北は霞ヶ浦までである。
スピード。210ノット エアシステム216
(210ノットにします。エアシステム216)
管制官はレーダースコープに映っている進入機の飛行間隔を考えてスピードを調整し、パイロットはその指示通りに飛行する。210ノットと言えば、時速約380キロである。 過密している空域では管制官の指示ミスは、航空機のニアミスはおろか空中衝突の危険すらある。管制官の業務は人並みはずれた集中力と冷静さを要求される仕事なのである。
オールニッポン90。ターンライト。ヘディング050
(全日空90便へ。右旋回して機首を50度方向にしてください)
房総半島の西を飛行している沖縄発羽田行きB777ー300全日空90便が復唱する。
オールニッポン90。ライト 050
下降につれてコックピットが暗くなってきた。森田機長がロゴライト(尾翼の会社マークを照らすライト)の点灯を指示する。
はい。ロゴライト。オン」と木村副操縦士。
釧路発の全日空744便、ボーイング767が144便のあとを追って北から進入して東京アプローチに引き継がれた。
オールニッポン744。トウキョウ・アプローチ。ディパート アミ フライヘディング 200 ベクターファイナルアプローチコース ディセント メインテイン8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(全日空744便へ。こちらは東京アプローチです。阿見VOR通過後は機首方位を200度にしてレーダー誘導による最終進入コースを飛行してください。8000フィートまでの下降を許可します。阿見VORは13000フィート以下で通過してください)
エアシステム114便は高度を下げ続ける。高度14700フィート通過(約4400メートル)。風は303度方向(西北西)から38ノット吹いている。
現在、196度方位に向かっているが、右横からの向かえ風のために機首は200度を指している。まもなく阿見VORだ。
左前方に薄暗い霞が浦の湖面が広がり、湖畔から千葉市にかけて街の灯がオレンジ色に連なって輝いている。
トランジッション3018
木村副操縦士が気圧高度計の数字を30.18にセットしてコールした。森田機長も左サイドの高度計の目盛を合わせる。
管制官が空港の気圧が変化するたびに連絡してくるのは、空港の気圧に飛行機の気圧高度計の数値を合わせるためである。
飛行機の高度計は二種類ある。電波高度計と気圧高度計である。電波高度計は飛行機から地面に向かって電波を発信し、電波が地面にあたって跳ね返ってくる時間を測定して高度を読む。0から2500フィートが指示範囲である。
もうひとつが気圧高度計である。高度が高くなるにつれて気圧が低くなる関係を用いて高度を測定する。こちらがメインの高度計である。
オールニッポン90。リデュース スピード トゥ 210ノット
(全日空90便へ。エアースピードを210ノットに落としてください)
ソーリー オールニッポン090? 90? セイ アゲイン
(すみません。全日空090ですか? 90ですか? もう一度お願いします)
狭い管制エリアに飛行機が集中しているので、管制コントローラーの声も早口になり、聞き取り憎くなる。パイロットも全身耳にして聞き取る。
オールニッポン90 リデュース スピード 210ノット
(全日空90便へ。エアースピードを210ノットに減速してください)
オールニッポン90 リデュース 210ノット
管制官はエアシステム314便、福岡発羽田行きボーイング777の速度もコントロールする。
エアシステム314 リデュース スピード 210ノット
(エアシステム314便へ。エアースピードを210ノットに落としてください)
エアシステム314。ラジャ
前述のように、今日は羽田空港の着陸使用滑走路は16レフト。VOR/DMEアプローチという進入方式で着陸する。
南と西からきた航空機は、レーダー誘導で千葉県の御宿VOR付近から木更津東のオビツ、そして東京湾の真中にあるジョウナン、湾岸にある江東VORから左旋回で羽田空港に着陸する進入路で、(羽田空港進入方式VOR/DME16図参照)北から進入する航空機は阿見VOR手前からレーダー誘導され、房総半島のオビツで北からの航空機のルートと合流してそのあとは、同じコースで羽田空港に着陸する。
又一機、航空機が東京アプローチ管制区に入って来た。福岡発日本航空368便ボーイング747ー400である。房総半島の南を御宿VOR方面に向かって飛行している。
アプローチ。ジャパンエア368。190 フォア 160 インフォメーション インデア
(東京アプローチへ。日本航空368便です。現在高度19000フィートから16000フィートへ降下中。空港情報ATISのI(インデア)を聞いています)
ジャパンエア368 グッドイブニング トウキョウ・アプローチ フライヘデング080 ベクターファイナルアプローチコース ディセント メインテイン 10000
(日本航空368便へ。こんばんは。東京アプローチです。機首を80度方向にしてレーダー誘導で最終進入コースへ入ってください。高度10000フィートまでの飛行を許可します)
南からの日本航空368便には、阿見VORから進入する北からの航空機への指示とは内容が当然違ってくる。進入は房総半島の御宿VORが起点となる。
へディング080 ディセント 10000 ジャパンエア368
(機首方向80度(東北東)で、10000フィートまで下降します)
オールニッポン456。コンタクト トウキョウタワー 124.35
(全日空456便へ。以後は羽田空港タワー管制。124.35メガヘルツに連絡してください)
佐賀発羽田行きボーイング767.456便は東京アプローチ管制区から羽田空港タワー・コントロールへ引き継がれた。羽田空港へ最終進入をして着陸するのである。
オールニッポン456。124.35
(全日空456便(函館発羽田行き747)。124.35へ連絡します)
オールニッポン862。ディセンド メインテイン 3000
(全日空862便へ。3000フィートまで下降してください)
862。ディセンド メインテイン 3000 8500 サンキュー オールニッポン862
(全日空862便。現在高度8500フィート通過。3000フィートまで下降しますよ。ありがとさん)
フリクエンシー ユー アー ナンバー8 アプローチ
(貴機の進入順番は八番目です)
ナンバー 8。オールニッポン862
現在、114便は阿見VOR上空だ。眼下には霞ヶ浦が暗い海のように闇の中に浮かび、前方には千葉と東京の灯が広がりる。
霞ヶ浦ですね。ヘディング・ホールド
機長がコールして機首200度方位の現在の針路を保持した。エアースピードは290ノット、時速約550キロだ。
エアシステム314。リデュース スピード 190ノット
エアシステム314便にエアースピードを210ノットから190ノットへ落とす指示である。
エアシステム314。ラジャ
114便のコックピットレーダーには、羽田空港へ最終進入を待つ多くの飛行機の機影が映っている。その中で114便に最も近い飛行機を確認して木村副操縦士が報告した。
先方機は18マイル向こうにいますね
夜の闇で肉眼では見えないが、レーダー視程で18マイル、およそ33キロ前方に機影を表わす小さな菱形のマークがナビゲーションディスプレイに映っている。
そのとき管制官が福岡発のエアシステム314便に、離陸上昇中の飛行機が近くにいることを知らせてきた。トラフィック・インフォメーションである。
エアシステム314 デパーチャ トラフィック ユア カンパニー トリプル7 イレブンオクロック 7マイルズ ノースバウンド。ファイブ ポイント ツウ クライミング
(エアシステム314便へ。貴社の北ヘ向かうトリプル7(羽田発18時00の千歳行き、エアシステム119便のこと)が、11時方向7マイル先を上昇中です)
トラフィック イン・サイト 314」(飛行機を確認しました。314便)
羽田空港を出発する飛行機はデパーチャーコントロールの管制官が担当しているので、アプローチコントロールとは周波数が違う。だからその交信は聞こえない。
今、この夜の東京湾上空には進入する飛行機だけでなく出発する航空機も多く、それらを合わせると時速400キロ以上で飛ぶ二十機以上の飛行機が、東京湾を中心とする狭い空域にひしめき合っているのだ。
並みはずれた集中力を必要とする管制官の緊張感がひしひしとその音声から伝わってくる。全日空90便が御宿VOR上空に近づいた。
オールニッポン90 ターンレフト 360 インターセプト コートー140レディオ
(オールニッポン90便へ。左旋回して機首を360度(北)に向けて江東VOR/DMEのラジアル140度のコースへ会合しその方向へ進んでください)
オールニッポン090。ヘディング 360 インターセプト コートー レディオ140
オールニッポン90 ア ファーマティブ
(全日空90便へ。その通りです)
エアシステム114便は高度12000フィートを通過して順調に下降を続けている。
スピード 250
機長はエアースピードを250ノットにする指示をした。
ヘディングセレクト
同時に機首を200度方位にして、その表示の変化をふたりのパイロットがコールする。
ここで現在、東京アプローチの空域にいる飛行機の位置を確認しておこう。
羽田空港の最も近くで飛行しているのが、福岡発エアシステム314便。次が青森発エアシステム216便で千葉市の東にいる。
全日空90便は房総半島の御宿地点でこれからオビツに向う。大阪発日本航空106便がその後方から御宿に向かって飛行している。その後に福岡発日本航空368便が続いている。函館発全日空862便と千歳発エアシステム114便は、約18マイルの間隔で並んで阿見VOR付近から千葉市の東に向けて降下中である。そして旭川発全日空870便と釧路発744便がその後方を飛んでいる。
エアシステム314。ディセント メインテイン 2000 クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(エアシステム314便へ。高度2000フィートまで下降して滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します)
東京湾上をジョウナンに向けて下降している福岡発エアシステム314の777に羽田への最終進入の許可が出た。
エアシステム314。2000。クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
続いて管制官はエアシステム216便、青森発羽田行きエアバスA300にトラフック・インフォメーションをした。
エアシステム216 プロシード トラフィック カンパニー アンド 1オクロック5マイルズ ノースウエストバウンド トリプルセブン ・・・
(エアシステム216便へ。一時方向、5マイル先に北へ向かう上昇中の貴社の777がいます)
イン・サイト」(確認しました)
ジャパンエア106 リデュース スピード 210ノット
(日本航空106便へ。エアースピードを210ノットにしてください)
ジャパンエア106 リデュース スピード 210
ジャパンエア368 ターンレフト ヘディング040 ディセント メインテイン 3000
(日本航空368便へ。左旋回して機首を40度(約北北東)に向けて、高度3000フィートまで下降してください)
エアシステム314 コンタクト トウキョウタワー 124.35
(エアシステム314便へ。以後は羽田空港タワー・コントロール124.35メガヘルツへ連絡してください)
福岡発のエアシステム314便、ボーイング777は、東京アプローチのエリアを出て、着陸をコントロールするタワー・コントロールに引き継がれた。
エアシステム314。グッディ
そこはもう東京湾ですから
木村副操縦士が指差す眼下には、浦安のディズニーランドの夢のような光の渦。幕張のスタジアムには七色のナイター照明が輝き、千葉市にかけて街の灯が帯びのように長くきらめいる。その向こうの東京湾の広がりと、遠く僅かな夕日の残光を背にした富士山がシルエットになって聳えている。
富士山がきれいですね
思わず森田機長も計器から目を離して暮れゆく空に聳える富士山を眺めた。
エアシステム216。ターンライト ヘディング350 インターセプト コートー140レディオ
(エアシステム216便へ。右旋回して機首方向350度(ほぼ北)にして江東VOR/DMEの140度ラジアルのコースへ向かってください)
青森発のエアシステム216便A300に、江東VOR/DMEに向かってを右旋回せよ、という指示である。216便が復唱して右旋回に移った。
114便の高度は8000フィートに近づいた。木村副操縦士が東京アプローチにレポートする。管制官はそのまま3000フィートまでの下降許可を出した。木村副操縦士がコールバックする。
エアシステム114。3000
(エアシステム114便。引き続き高度3000フィートへ下降します)
3000
森田機長が確認する。東京アプローチの管制官はすぐ日本航空106便を呼んだ。
ジャパンエア106。ターンライト ヘディング060
(日本航空106便へ。右旋回して機首を60度方向(ほぼ東北東)にしてください)
ジャパンエア106。ヘディング060
オールニッポン862。ターンレフト ヘディング180
(全日空862便へ。左旋回して機首を180度(南)にしてください)
オールニッポン862。コンファーム。ヘディング180?
(全日空862便です。確認します。機首は180度ですか?)
ア ファーム」(その通りです)
ラ〜ジャ
東京アプローチ管制官の流暢、かつテンポがある音声コントロールが続く。
エアシステム216。ディセント メインテイン 2000 スピード 190ノット
クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ

(エアシステム216便へ。下降して高度2000フィートを維持し、スピードを190ノットにしてください。滑走路16レフトへ向かってVOR/DMEアプローチを許可します)
高度3000フィートで東京湾にさしかかる青森発エアシステム216、A300が復唱する。
エアシステム216。2000 エアスピード 190 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
114便のコックピットでは、森田機長がCDUにジョウナンから機首320度で江東VOR/DMEの進入コースがセットされているか確認の指示した。
セット。CDU ジョウナン インターセプトコース 320
(CDUにジョウナンへ320度でアプローチするコースをセットしてください)
ジョウナン 320。モデファイ
木村副操縦士がセットしコールする。これで777は自動的にアプローチコースに乗る準備が整った。
イクスキュート」と機長。
ラジャ」と副操縦士。
房総半島の東を御宿VORに向かって高度を下げている福岡発の日本航空368便、ボーイング747ー400に管制官が指示した。
ジャパンエア368。アフターリービング テン タウザンド リデュース スピード 210ノット
(日本航空368便へ。10000フィートを通過後、スピードを210ノットに押さえてください)
日本航空368便が復唱するのを聞いて、管制官は東京湾の真中、ジョウナン付近を高度2000フィートで江東VOR/DMEに向かっているエアシステム216便のスピードを調整する。
エアシステム216。リデュース スピード 170ノット(エアシステム216便へ。スピードを170ノットに落してください)」
そして羽田空港タワー・コントロールに周波数を変えるように交信した。
エアシステム216 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35
続いて、管制官は日本航空106便を呼ぶ。
ジャパンエア106 ターンレフト 030
(日本航空106便へ。左旋回して機首を30度に向けて飛行してください)
ジャパンエア106 ヘディング 030
オールニッポン870 トウキョウアプローチ ラジャ デパート アミ ヘデング200 ベクター トゥ ファイナルアプローチコース ディセンド メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(全日空870便へ。こちら東京アプローチです。了解。阿見上空で機首方向200度でファイナルアプローチコースへ誘導します。高度8000フィートまでの下降を許可します。阿見VOR上空では高度13000フィート以下で飛行してください)
全日空870便は旭川から飛来したボーイング767だ。東京コントロールから東京アプローチの空域に入ってきた最初の交信である。870便が復唱する。
ディパート アミ ヘディング200 ディセント 8000 クロス アミ アット ビロー 13000
ある管制官は言う。『レーダー上には便名や高度は表示されますが、航空機の方位や速度は表示されないので、空域の中にいる各航空機の状況を全部記憶するんです』
彼等は頭の中に空域の中で様々な高度や方位、速度で飛行する航空機の立体的な映像を作り上げ、自分のイメージ通りに空域に分散した飛行機を滑走路という一点に集めるのだ。 管制官がコントロールする音声を聞いているとオーケストラを指揮するコンダクターを思わせる。この管制技能は厳しいシュミレーションによる訓練の賜物なのだ。
一分間隔で飛行機間の距離3マイルで並べるとか、30分で12機降ろすなど過酷な状況をシュミレーションでトレーニングするという。
東京アプローチの管制官は房総半島東の御宿付近から進入してくる日本航空106便に左旋回を指示した。
ジャパンエア106 ターンレフト ヘディング350 インターセプト コートー140レディオ
(日本航空106 左旋回して機首を350度方向にして江東VOR/DMEの140度コースに乗ってください)
日本航空106便が復唱すると、次に管制官は北から進入している全日空862便を呼んだ。
オールニッポン862。ターンライト ヘディング220
(全日空862便へ。右旋回して機首を220度にしてください)
ライトターン 220 862
続いて管制官は114便を呼ぶ。
エアシステム114 ターンレフト ヘディング180 フォア アライバル スペーシング
(エアシステム114便へ。着陸スペースを空けるために左旋回して機首方向180度(南)にしてください)
レフト 180 エアシステム114
木村副操縦士が答えると森田機長は「レフトクリアー」と左側の空を目視確認して南に機首を向けた。そしてエアースピードを230ノットに落とす。やや迂回となる機首方位を指示されたので少し減速させる判断であった。
エアースピード 230
114便は千葉市のすぐ東(アビオン付近)を木更津の東にあるオビツに向かって南下している。右手に千葉と東京湾が見えている。
ここでもう一度、羽田空港の滑走路16レフトへ進入するルートを確認しておこう。羽田進入方式16レフトは南や西から飛来した航空機(この時点では大阪からの日本航空106便、沖縄からの全日空90便)は、御宿VORからレーダー誘導されオビツに向かって下降する。北から来た飛行機、エアシステム114便、函館からの全日空862便などは千葉市の東アビオン経由でオビツに向かってレーダー誘導され羽田に進入する。そしてオビツで南北の進入路が一緒になるのだ。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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