【最終回】ボーイング777コックピット「続・機長席」第9回

[title_kichouseki114]

この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックの電子書籍化である。
新千歳空港を折り返して東京・羽田空港へ向かったB777・114便は、前回ラッシュアワーを迎えた羽田上空へさしかかかった。今回で114便は羽田空港にランディング。ついに最終回である。
最後までおつき合いくださったみなさま、どうもありがとうございました。

第5章 羽田空港ランディング

—————————————-
★「続・機長席」挿入09

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

—————————————-

 管制エリアが、東京アプローチから羽田空港の離着陸をコントロールするトウキョウ・タワーコントロールに引き継がれた。木村副操縦士は周波数124.35メガヘルツでタワーを呼ぶ。
トウキョウ・タワー。エアシステム114。3マイル トゥ ジョウナン スポット2」(東京タワー。エアシステム114便です。現在、ジョウナンの手前3マイル地点です。羽田到着スポットは2番です)
114便は機首を320度で、まっすぐ東京の湾岸にある江東VOR/DMEを目指して飛行している。現在地点はジョウナンの3マイル手前、東京湾のど真中だ。
女性管制官の声が、夜の東京湾上空を縫ってコックピットのスピーカーから流れた。
エアシステム114 グッドイブニング トウキョウタワー ランウェイ16レフト ウィンド200 20 マキシマム 30 プロシーディング ボーイング747 5 アンド ハーフマイルズ アヘッド クリア トゥ ランド
(エアシステム114便へ。こんばんは。こちらは東京タワーです。滑走路16レフト 風は200度方向から20ノット、最大で30ノット吹いています。貴機の5マイル半先を飛行するボーイング747に従って飛行してください。着陸を許可します)
東京アプローチの管制官が5マイル間隔で並べた進入機を、羽田空港の管制塔の最上階、ガラス張りの管制室から女性管制官が羽田空港への最終着陸の指示を出しているのだ。
114便のコックピットの窓を通して、すぐ前の湾岸上空を左旋回する日本航空106便ジャンボ機の点滅する衝突防止ライトが見える。
エアシステム114 トラフィック インサイト クリア トゥ ランド 16レフト」(エアシステム114便です。先行の飛行機を確認しています。滑走路16レフトへ着陸します)

▼羽田空港ターミナルプロシージャ

 交信を聞きながら機長が、滑走路16レフトへ着陸許可を確認してコールする。
クリア トゥ ランド 16レフト
スピード VーNAV パス」とふたりのパイロットが確認し合う。
VTGはプラス10でいきますから。134(着陸速度134ノット)」と森田機長。  着陸を目前にしてコックピットには緊張した空気が流れる。
カンパニー
木村副操縦士はエアシステム運航部ディスパッチ・ルームを自社専用無線で呼んだ。
114便です。まもなくジョウナン。スポット2番
(114便です。まもなくジョウナン通過。スポットは2番の予定です)
スポット2番。 です
運航部も予定しているスポットの変更がないことを114便に知らせた。
着陸前に、東京タワーにも運航部にもスポット(駐機場)の位置を確認するのは、着陸後、もしスポットの変更があった場合、空港の何処に飛行機を地上走行させるか明確にする必要からである。
114便はジョウナン・ポイントを通過した。約600メートル下は東京湾の海面である。前方は湾岸エリア、その明かりの向こうに東京タワーのオレンジ色のライトが飛行機より高く聳えている。
セット。アルト。1500 セット トラック 157
飛行機の左側、東京湾岸地区の運河を越えて羽田空港の滑走路16のランウェイライトが見えた。
エアポート インサイト。ランディング」と森田機長。
まもなく左旋回をして、コンタクトアプローチ(目視進入)でランディングするのだ。114便の5マイル先を飛ぶ日本航空106便が湾岸上空を旋回し終わり、機首を滑走路に向けている。その先を飛ぶ全日空862便が滑走路16レフトに着陸した。
管制官が着陸した862便に指示を出す。
オールニッポン862 ターンライト C(チャーリー)4 コンタクト グランド118デシマル22 グッディ
(全日空862便へ。こちらタワー。右に曲がって誘導路C4へ向かって地上走行に移ってください。以後、羽田グランドコントロール周波数118.22に連絡してください。さようなら)
118.22 チャリー4 オールニッポン862 ウィ ドゥー
着陸した全日空862便は、口癖”ウィ ドゥー”を最後にスポットに向かった。
VーNAV アルト
デイスプレイを見ながらコールする機長と副操縦士。
セット ゴーアラウンド アルト
森田機長は再着陸(コーアラウンド)をする場合の高度を確認する。
東京湾を埋め立て再開発した湾岸エリアの風景が、美しいディテールを見せ始めた。江東VOR/DMEがすぐそこに迫る。
ギャ・ダウン
機長が車輪を下げる指示を出す。副操縦士が復唱してギヤレバーを下げた。続いて、
フラップ20」と、フラップの角度が20度に降ろされる。
コックピットの音が変わった。
機体からせり出てくる車輪に風が当たり豪々と響きわたる。
ギャ・ダウン」ディスプレイのモニターで車輪が完全に降りたことを確認して木村副操縦士がコールする。
マイ サイド FD オフ」と森田機長。
オートパイロット オフ
自動操縦装置を切り操縦を手動に変えた。777の飛行がマニュアルになった。宇宙船777が大きく美しい飛行機に変わる一瞬だ。
レフトクリアー
左側の窓から外を見て機長は機を左に旋回させる。777は森田機長の手の中で優美なグライダーのように飛翔した。
眼下は灯の洪水だ。
レインボーブリッジ、観覧車、フジTVの社屋、ホテル、シーサイドショッピングセンター、屋形船、東京湾フェリーの灯、光、明かりの連続。そして浜松町、品川、渋谷、新宿の街の灯。赤、青、黄色、紫・・・宝石の絨毯を敷き詰めてライトアップたように見渡すかぎり続く星の湖のような東京の街灯。コックピットから見るこの夜景は世界の空港の着陸シーンでも間違いなく五本指に入る美しさだ。
今、そのすべての灯が左旋回するにつれ、ぐるりと大きく右に渦を巻くように回り続ける。リンドバークの一節が脳裏をよぎる。

星空の下に星の輝く大地の広がり。パリの灯だ。
光の直線、光の曲線、光の方形。大通り、公園、建物などの輪郭が現われてくる。
はるか下方に、上に向かって点々と伸びる光の柱がある。
エッフェル塔だ。
私はその上空を旋回し、ル・ブールジェ(空港)をさして進路を北東に転ずる。

「翼よあれがパリの灯だ」 チャールズ A リンドバーク

フラップス30。セット スピード
最終フラップが降ろされ、着陸速度が134ノットにセットされる。
風が強い。高度1200フィート。約360メートルの高度だ。
ランディングチェックリスト
着陸の計器点検が始まった。スピーカーから日本航空106便が滑走路16レフトに着陸した交信が聞こえてくる。
ジャパンエア106。ターンライト C4 コンタクト グランド118.22
(日本航空106便へ。右に曲がって誘導路C4へ向かってください。以後、羽田グランドコントロール周波数118.22に連絡してください)
ランディング チェックリスト コンプリーテッド」ディスプレイを確認して木村副操縦士がコールする。
ジャパンエア106 C4 118.22 グッデイ
日本航空747は誘導路に向かった。
左に大きく旋回して森田機長は777の機首を滑走路16レフトに合わせた。前方には薄暗い東京湾、その向こうにアプローチライトに導かれた滑走路が光りの美しい線を南南西にクリスマスツリーのように延ばしている。海風が正面、そして右横に激しく吹き付けた。その風に煽られ機体がぎしぎしと軋む。眼下は城南島海浜公園だ。
風が強いね。27ノット」と森田機長。
プラス ハンドレッド」とコンピューターがコールする。
チェック」と森田機長。
ミニマム」と木村副操縦士。
着陸かゴーアラウンドかを決める一瞬だ。飛行機は海の上に出た。
ランディング!
機長が着陸を決定してコールした。
海を挾んで滑走路のライトが目の前にキラキラと光る。
1000
高度1000フィート通過。あと約300メートルだ。
右横前方からの風が強さを増す。777は若干風上に機首を向けて高度を下げてゆく。
管制官が風を知らせてきた。
ウィンドチェツク 190 23 マキシム 32
(風は190度から23ノット。最大32ノットです)
114便の強力なランディング・ライトが、眼下の暗い海を真昼のような明かるさに照らしていく。
オートスロットル オフ」と森田機長。
オートスロットルを切った電子音が響く。
777はランウェイに続く海を越えた。スピーカーからは全日空744に着陸の許可を出す管制官のボイス。
300
高度計を読む木村副操縦士。あと300フィート、約90メートルだ。
風が唸りをあげる。インナーマーカーを通過する電子音。
スタビライズド」と機長。
機体が風に煽られて滑るように滑降する。時速約250キロ。
コンピューターが接地までの高度を読み上げ始めた。
50(フィート)、40、30、20、10
そして接地する音。逆噴射するエンジン。
114便は羽田空港へ着陸した。次第に速度が落ちる。機長の顔がもとの優しさに戻った。
エアシステム114 ターンライト C4 コンタクト グランド118.22
C4 118.22 エアシステム114
速度計のスピード表示が60ノットに落ちた。
60!
マニュアル・ブレーキ
60ノットに速度が落ちたのでブレーキをオートから手動に切り替えて、森田機長は滑走路エンドから誘導路の入り口へ向かった。
木村副操縦士は周波数を切り替えて、羽田空港の地上管制を呼んだ。
トウキョウ・グランド テイク C4 スポット2
(東京グランド管制へ。こちらはエアシステム114便です。誘導路C4へ入ります。駐機場は2番ゲートです)
エアシステム114 トウキョウ・グランド タクシー E(エコー)4 J(ジュリエット)3
(エアシステム114便へ。こちらは東京グランドコントロールです。誘導路E4からJ3へ地上走行(タクシー)してください)
E4 J3 エアシステム114
(E4からJ3をえてスポットへ向かいます)
交信を終わると副操縦士は機長にタキシングのルートを報告する。
エコー4、ジュリエット3です
森田機長は了解して114便を誘導路に入れた。誘導路の赤や青、オレンジ色のライトが夜のエアポートの旅情を醸し出している。114便はゆっくりと地上走行に移った。
TCAS オフ。オートブレーキ、キャンセルメッセージ
木村副操縦士はアフターランディングの点検を始めた。機長が確認する。
エアシステム114 コンタクト グランド 121.7
(エアシステム114便へ。以後はグランドコントロール121.7へ連絡してください) 木村副操縦士が復唱して、周波数を121.7メガヘルツに変えてグランド管制を呼ぶ。
トウキョウ・グランド。エアシステム114 オン J3 スポット2
(東京グランド。こちらエアシステム114です。今誘導路J(ジュリエット)3を通過中。スポット2に向かっています)
エアシステム114。トウキョウ・グランド タクシー トゥ スポット
(エアシステム114便へ。東京グランドです。スポットへ向かってください)
東京グランド管制官と交信を交わす出発便の横を通ってエアシステム114は北側にある自社ゲートへと向かう。
誘導路の右にゲート2番が見えた。駐機する飛行機を誘導するマーシャラーが振る赤いライトが目に入り、森田機長が「マーシャラー インサイト」とコールして機首を右にまわしてマーシャラーの方へ向ける。
チェック ライトサイド」(右側を確認してください)
そして機長は副操縦士にタクシーライトなど飛行機の外側のライトを消すように言った。「オール・ライト オフ
客室ではパサーがキャビン・クルーに乗客用のドアを開ける準備をするように指示している。
18時40分。114便はゆっくりとゲート2番に止まった。ボーディングゲートが機体に接続される。
ドアー オープン OKです
森田機長はエンジンを切って、キャビン・クルーに乗客ドアを開ける許可の合図を送るように副操縦士に指示する。そして地上のメカニックとインターホンで連絡した。
パーキングブレーキリリースしました。オペーレーション(千歳からの運航)前はオーケーです。キャビンでよろしく
機長と副操縦士は777をパーキングする計器点検をする。
キャビンでは乗客が飛行機を降り始めた。
すべてのチェックが完了すると、「ご苦労様」と機長と副操縦士は互いの労をねぎらった。ふたりの顔には一仕事終えた男の表情があった。が、すぐ、これから始まる福岡への最終のフライト打合せのためにディスパッチャーが待つサテライトへ向かった。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

にほんブログ村 その他趣味ブログ 航空・飛行機へ
[ad_kichouseki114]

  1. コメント 0

  1. トラックバック 0