第32回「労使のハザマで」(4/5)

会社に対して疑念を抱き始めたキッカケ

本社の労務部の担当者が顧問弁護士を伴って、私の事情聴取のために成田のオフィスにやって来ました。
我々の所属する客室副本部長のAさんが同席して彼等の事情聴取が始まりました。

先ず、労務部の担当課長からこれまでの労使間の経緯の概要説明があった。
次に顧問弁護士が「今回のテープの内容ですと、明らかに会社ぐるみで客乗組合員の昇格差別を認める発言になっていて、組合が提訴した場合、会社としては極めて不利な状況になることが考えられます」と事務的な口調で言った。労務部の課長は、いかにも私に対して「困ったことをしてくれましたね」と言いたげな表情だった。

30分程して、かって私と外地で酒盛りもしたし、女性と遊んだりしたこともある少し気は弱いが情のある副本部長が「彼の報告書では、そんな言質を取られるような内容はないと思いますが」と意見を述べてくれた。

それに対し、「しかし、現に社長も労務担当役員も列席されてる場で、例のテープが流されて、彼は、書記長の質問に”そうでしょうね”と答えているのですからね・・・ これはマズイですよ・・・」と課長。頭の薄くなった顧問弁護士も「そこが問題なんです」と同調。
私は「では、私はこれからどうすればいいのですか?」と直球の質問をした。

エリート面の嫌味な課長が「組合との関係はご存知のような次第ですので、ここは、会社として職制による不当労働行為があったわけですから、そのう・・・会社として管理職であるあなたに・・何らかの処置を・・・組合に対して」と奥歯にモノがはさまった言い方をした。
私の心中は「何だ!ふざけんな!現場の職制の苦労も知らないで!」と煮えくり返る憤怒の感情が沸き立っていたのです。
副本部長も腕を組んで眉間に立て皺を寄せて目を閉じたままだった。

「チョット、煙草を吸ってもいいですか?」と許可をもらい、私は一服しながら、気持ちの高ぶりを押さえたのでした。
要は、私が降格とか、他の部署に移転とかの処罰を受ければいいのだなと察知し、「シャーナイ、結果が全てだから、腹をくくるか」と覚悟したのでした。

その時、私はフッと、あることがひらめいたのです!
「そのテープは何分流されたのですか?」
「確か、10分だと伺っております」と課長。
「そのテープは会社側に提出されたのですか?」と私。
「いえ、しかし、正式な議事録には載ってませんが、書記係りが全部を記録していますので」と課長。
「私が彼らと話したのは約2時間です。その全てが録音されてるはずなので、組合に提出してもらってみればハッキリするじゃないですか? そこで流されたのは組合が都合よく編集したテープじゃないんですか? 私は先程から何度も言ってるように、会社や上司からの指示でN子さんに話したのではないと、書記長にも何度も説明してますよ!」と私。

そこで、課長と弁護士は顔を見合わせて、うなずきあったのでした。
課長が「いや、その点には気づきませんでした。早速組合に会社として申し入れをしてみたいと考えております。
そこまでハッキリと仰るのですから・・・いえ、決してあなたを信頼していなかったわけではなくですね、いや、極めてタッチーなことで、私共が直接そのテープを聴いたわけではなく当社の役員の指示で・・・」

当社って?私もその当社の管理職のつもりなんだが、エッ何なの!?と、今度は憤怒の大噴火になったのでした。

不当労働行為の決着とその後の私の行動

いけ好かない東大法学部卒のエリート面した労務部担当課長と頼りない60代の顧問弁護士との事情聴取の後、なんらかの報告があるのかなと思っていたが、1週間経っても何の報告もなかったようだ。
1ヶ月間でストレス耐性の高い私も胃痛を再発して、病院で検査をしてもらい診断結果は”巨大胃潰瘍”でした。
潰瘍が胃の内部から外部にまで巨峰みたいに突き出ていたのです。

担当医は内部での出血は大したことはないのですが、外部で出血すると腹膜炎を引き起こして命取りになると脅されて、1ヶ月の休業と言われたので、今は休めないと説明して、地上勤務はOKで、2ヶ月間の乗務停止ということになりました。我々現場管理職の勤務は月の半分がデスクワークで半分が乗務だったのです。

そんな時期に私の配下の客乗組合の委員長がひょっこり私のところに来た。
「マネージャー、ちょっとお話したいのですが・・・」と。
別の階の喫茶室で話を聞くことにした。
多くの眼があり「客乗組合の委員長と職制の私が、親密な話をしていた」と噂になるかもしれないが、私は、もうそんな些細なことは一向に構わないという腹をくくっていたのです。”噂の木、根も葉もないのによく育つ”・・・という職場なのです。

委員長は「今回の件は組合としてあなたを個人攻撃したのではなく、会社の組合への対応を改めて欲しいという意図でやったことで、あなたには私個人として、本当に申し訳ないことをしたと思っています」と頭を下げた。
私は「君も知ってる通り、私は組合の所属で差別して来たつもりはないが、今回のY書記長の汚いやり方は許せない!」
「本当に、申し訳ありませんでした・・・彼も組織防衛を必死に・・・」
「済んだ事だから、いいです。ただ、彼には人間として、超えてはいけない一線を超えた行為は許せないと伝えておいて下さい!」そして、私は席を立ったのでした。

それっきり、上司からも労務部からも、そして組合からも何の話もなく、あれだけ大騒動した件はまるで何事もなかったかのように消えてしまったのでした。会社と組合と何らかの裏取引があったことだけは確かで、私は現場管理職の地位が実に危うさを秘めていることを実感して、これをどうにかしないとマズイと思い始めたのでした。

国際線担当部の現場の120チームに本来は営業部門がやるべき機内でのチケット販売、JALカードという会社がやるべき営業活動を、これまた機内や名刺交換したお客さんに乗務員が休日に電話で勧誘することを暗に奨励している実態。接客に全力集中すべきなのに、会社の収入確保の為にひっきりなしに機内で流す機内放送はユッタリとくつろぎたい、あるいは眠りたいお客様にとって騒音以外の何ものでもないのです。

私は、このようなチームを公然と競わせるやり方には反対を唱えており、出発前の乗務員のブリーフィング(事前打ち合わせ)に立ち会う際には過度なセールスや過度な機内放送はしないように注意喚起していました。そんなことをしなくても、私の配下のチームは工夫を凝らして収入面でトップクラスの実績があったので、他の職制と反することを言っても上司は私に苦言を言えなかったのです。

現場管理職の地位の保全を確保する為には、相互の情報交換や相互に補完し合う、いわゆる相互扶助の必要性に基づく団結力が必要だと考えるようになっていました。そこで、問題意識の高い管理職仲間に今回の件を通して体験したことを話して、私の考えに同調する仲間の輪を広げようと決めたのでした。

風天マン

実録「ハチャメチャ乗務員の飛行日誌」
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