映画で巡る空の旅・キネマ航空フライト703便「747 エア・ターゲット」

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「747 エア・ターゲット」 RAPID EXCHANGE (2003/アメリカ)

【スタッフ】
監督 ジョン・ウィンストン
製作 ジェフ・ビーチ/フィリップ・ロス
製作総指揮 ジェームス・ホレンスタイナー/ーマス・J・ニーダーマイヤー・Jr
原作 ジョシュア・ルービン
脚本 トリップ・リード/サム・ウェルズ
撮影 ハワード・ワード
音楽 アーネスト・タイラー

【キャスト】
ランス・ヘンリクセン/ロレンツォ・ラマス/マット・オトゥール/アビバ・ゲール/ブッチ・ハメット/ウェイン・ペレ

アクション映画に理屈を求めていては楽しめないことは事実です。その上でこの作品は理屈の通った映画とはいえないが理屈の部分は小説なら十分書き込めそうに思え、全体の印象は編集か脚色の手抜きのように見えます。残念ながら比較しようにも翻訳はないようです。そんな作品をここで上映する理由はまずほとんどの撮影はヨーロッパで行なわれているようで空気が澄んでいる画面がよいこと。自分がプロデューサーならこう直させるという余地があるのがよい。

ストーリーはレバノンにあるベッカー渓谷に1988年にレバノン政府が設置した紙幣印刷機を使い印刷された精巧なドル紙幣をシリアもかんで大量に流通させた。この対策としてアメリカ政府は、月一回数億ドルの真券紙幣をジュネーブに送り、交換していた。この輸送には墜落の衝撃にも耐えられる金庫を搭載したボーイング 747 – 400 の改造機が作られていて、海兵隊の警護のもとに行なわれていた。悪党どもが吸血コウモリのように相手に気づかれずこの金庫の中身を空中で奪取しようというお話です。なお表カバーのようなシーンは出てきません。やり方は(DVDパッケージの裏のほうにあるように)空中で乗り移る方法を含めて、そうは上手くはいかないだろうと思わせながらも軽快に進みます。結末を一寸だけあかすとアラン・ドロンとジャン・ギャバンが組んだ「地下室のメロディー “M?lodie en sous-sol” 1963 」の結末をさらに派手にした画が見られます。さらにひねりがあるのですがもう一工夫あればさらによかった。

こちらにはスターはいませんが一癖ある俳優がそろっています。主役は冷静沈着な兄ブルークスと陽気で活動的な弟ケッチャムの兄弟。これにスポンサー(元締め)のニューキャッスル(ランス・ヘンリクセン)。ブルークスとは肌の合わないダルトリー、その妹のソフィー。加えてダルトリーの息のかかったビリー、ウィンクラー、パイロットのハビエルのグループ。それぞれが腹に一物をもって「お勤め」に取り掛かる。

ところで 747 専用機の巡航高度から人間が与圧無しで活動できる高度 3000mにまで降下させるためにトロイの木馬として改造されたケータリング・カートの中にはいるソフィが「P- したい」というのにビリーが「時間がない」とすげなく押し込めます。この手の映画ではストーリイの破綻よりもこちらの方が気になります。
ソフィはカートから抜け出たあと「寒い」と震えていました。機内トイレは使えないだろうしなー。長時間緊張の続く犯罪映画でも生理現象の処理はあんまり出てきませんね。アクション映画の細部のリアリティに厳しい人もこのあたりはテキトーに納得しているようです(でも観客の礼儀としてくれぐれも上映中はトイレにお立ちにならないように)。

さて彼らが使うのは大西洋を横断できる高速の小型機ということで後部3発エンジンのビジネス・ジェット ダッソー ファルコン 50 ですが映画の中ではちょっとややこしい。

まずは顔見せ。

「おー、ファルコンだ!」
「747 エア・ターゲット」キャプチャ

「えっ? これかい?!」

「747 エア・ターゲット」キャプチャ

「いーから、出発だ!」

「747 エア・ターゲット」キャプチャ

…ちょっとショボイが…滑走路進入前に大変身ーン!!

「747 エア・ターゲット」キャプチャ

どうやら実物のファルコンは見るだけで借用ができず、同じ後部3発エンジンのヤコフレフ Yak-40 で代用。あとはCGファルコンで何とかなるさという割切りかたもいいではありませんか。

スタンド・インをつとめる Yak-40 は、大きさに関していえば自重と全高を除いて若干大きいようです。また航続距離では 1800km でファルコン 50 の 6400㎞ の足元にも及びません。Yak-40 の主翼は写真では判別できませんが後退翼ではありません。直線翼、ボトムリンクサスペンションの単輪タイヤ、T尾翼の手堅い設計で使い勝手はよかったようす。短距離旅客機として800機ほど生産されています。

ファルコン 50 のベースとなった双発の機体はファルコン 20 と名付けられていたため、アメリカ空軍は F-15 の「イーグル (ワシ) 」に続いて F-16 は「ファルコン (ハヤブサ) 」としてハイロー・ミックスの調達を図りたかったのですが、断念して「ファイティング・ファルコン」にしたそうです。二音節ではしまりがありません。そこで「バイパー (クサリヘビ) 」なども使われているようです。こうした名前は結構大切で F-22 ではファルコンも含まれる「ラプター (猛禽類) 」にしました。

お騒がせの元のファルコン 20 は、パン・アメリカン航空が大量に発注するなどのアメリカでの成功を梃子に世界でも「ダッソー・ファルコン」の知名度を上げます。確かに同年代の小型ビジネス・ジェットに比べると格段に垢抜けている外観です。名前についてはアメリカが嫌がったのかフランスが邪魔をしたのか定かではありませんが米仏間にはいろいろありますね。

このほかに登場する機体はニューカッスルの格納庫にアントノフ An-2 、ヤク Yak-18T など。ほかにはドイツあたりの空港の実写らしくセスナ サイテーションや路線就航機がいろいろ出てきます。

娯楽映画にも背景があります。国家レベルの紙幣偽造による経済かく乱は、ナチスのポンドや日本の中華民国紙幣の工作が知られているが、この映画の背景は1990年代にあった北朝鮮の関与と目されるスーパーKやスーパーXがモデルです。ちなみに印刷所があるとされたベッカー渓谷はイスラエルの北の国、レバノンにある肥沃な土地ですがレバノン内戦(1976-2005)のあいだには北のシリアが進駐しその情報機関の拠点があり、反イスラエルの軍事組織のキャンプがあった。日本赤軍の残党が逃げ込んだのも近くのベッカー高原でした。

「747 エア・ターゲット」キャプチャ

お宝を積んだ 747 の離陸直後のタイミングでファルコンを離陸させるべく空港職員(左)と交渉中のブルークス(右)とダルトリー(中央)。彼らの後ろに主脚の間隔(トレッド)が開いた低翼で上反角のない機体が見えます。

ツポレフ Tu-134 後部双発エンジンで低翼の小型ジェット・ライナーです。ツポレフは戦闘機から爆撃機、旅客機、超音速旅客機まで多彩な設計を手がけていました。Tu-134 の主脚の格納方法は長い脚の支柱を後方にたたみ、主翼の後縁からはみ出す部分をポッドで覆うという手法です。現在でも世界最速のプロペラ(二重反転式のターボ・プロップ)機であるツポレフ Tu-95 を含め Tu-16 、Tu-22 などのジェット爆撃機で経験した主脚の設計を引き継いでいます。Tu-134 を一回り大きくした後部3発のジェット・ライナー Tu-154 (1968) も同じ構造です。 Tu-204 (1989) でようやく抱え込むように動く方式になりました。地味なメカニズムの概念設計はなかなか変えられないようですね。さすがにこの機体のような主脚の格納を行なう西側のジェット・ライナーはないようです。ただ、主脚を収容するわけではありませんが、ジェット・ライナーの創成期 707 や DC-8 の時代に遅れて参入を計った コンベア CV-990 は、エリア・ルールによる空力改善で、巡航速度で優越させようと似たような4本のポッド(スピード・カプセル)を主翼につけた例があります。残念ながら計画した速度は出せませんでしたし、わずか39機の販売でコンベア社の幕引役となりました。
とはいえ、 CV-990 は頑丈で信頼性もあり航空会社でもそれなりに使われたようです。乗客を乗せなければ最速のジェット・ライナーだったようで緩降下すれば、音速を超えることのできる大型チェイサーとして NASA では ツポレフ Tu-144(コンコルドスキー)に交替するまで重宝されていました(やっとツポレフに話がつながったところで閑話休題)。

さて、ソビエト時代にはこの Tu-134 に見られる低翼でありながら主翼に上反角の無いむしろ下反角に見える機体がいくつかあります。上反角はロール方向の静安定に効果があるとされますが、安定を損ねる方向の設計意図はなぜでしょう。
以下は推定ですが、ロシアの設計法は低速時のヨー方向の安定のために垂直尾翼大きくする傾向があったようです。エルロンを使ったロール時に垂直尾翼が回転することで、合成されて斜めに流れる気流のために垂直尾翼に迎え角が生じて、面積に比例した揚力による大きな復元モーメントになってロール方向の操縦性を損ねる傾向が出ます。加えて、後退角には速度の二乗に比例してロールの復元性を向上させる効果があることなどから、高速で過大になるロール安定性を減らし操縦性を向上させる目的と思われます。西側ではこうしたロール安定性を減らし操縦性を向上させる下反角は(戦闘機を除き)低翼機では見かけません。しかしロール安定の強い大型の高翼機では下反角が定石になっています。ロシアも現在ではこの方向に収斂しています。

キネマ航空CEO

「映画で巡る空の旅・キネマ航空フライト」
©キネマ航空CEO

【著作について】「映画で巡る空の旅・キネマ航空フライト」 はキネマ航空CEOの執筆によるものです。一般的な「引用」の範囲を超える紹介など詳細については当ブログ info@airjapon.com(管理人:竜子)、またはキネマ航空CEOまでお問い合わせください。

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    • Mattari
    • 2011年 7月7日 10:09pm

    いやはや久々に食指が動く内容で読み応えありました!
    ここまでマニアックな飛行機が勢ぞろいされると
    「Mattari!一度DVD見ろよ」と言われているようで
    何とも興味深いですね。
    まさかYak-40とファルコン50を組み合わせるとは
    何とも無茶苦茶で笑えます。そういえば某砂漠に
    NASAのCV-990が置いてある画像を見たから
    はて?後継機は何かと思えば、あぁぁそれでTU-144が
    使われたわけかと納得しちゃいました(汗)

    • 竜子
    • 2011年 7月8日 3:33pm

    ■Mattariさん
    まだ、いろいろ出てきますよ!
    今月はアクション映画特集?! なんです!
    すぐにご覧にならなくっても、いずれ、カタログのようになったらいいですよね!
    映画を作る人たちも大変ですよね…。飛行機に限らず、ファッションや国の文化や、専門用語や…。こんな風に監視?! している人たちが、あちこちに居そうですねっ(笑)

    • キネマ航空CEO
    • 2011年 7月8日 8:32pm

    竜子さん、
    603便のディスパッチありがとうございます。
    Mattariさん、
    ご搭乗ありがとうございます。
    えー、キネマ航空CEOは思い込みと早とちりで飛んでおります。おかしなところはご注意くださいね。
    今回もやってしまいました。F-16 は「ファルコン (タカ) 」ではなく「ファルコン (ハヤブサ) 」でした。
    ワシとタカは大きさの違いだけで大きいほうがワシ、小さいほうがタカです。トビはタカになります。
    飛んでいるときのシルエットはワシもタカも相似形ですがハヤブサは違います。ワシの翼は長方形ですがハヤブサは翼の先が尖っています。どちらかというと787似です。
    人間が両手を伸ばして五本の指を広げているのがワシやタカ、くっつけているのがハヤブサです。五本の指に相当するのが「風切羽(根):かざきりばね」です。
    冬場の海辺の空港でカモの群れが急に飛び立ったときにはその上空にワシかタカ、もしかするとハヤブサが飛んでいるかもしれませんね。

    • 竜子
    • 2011年 7月8日 10:12pm

    ■キネマ航空CEO
    これは私がいけない…。修正しました!
    それから、他にも私のミスが…(便名間違い)。
    はやぶさ、タカ、ワシの違い、そうなんですね。
    でも下から見上げると、どれがどれなんだかまるで分かりません。
    それどころか、写真で見ても分からない気もします。
    私だったら茶色だったらタカ、グレーだったらワシ、とかって決めつけちゃいそうです…(^^;

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