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JAL搭乗記/JL3911 伊丹〜新千歳

文=桃田素晶

 午前7時30分。気温29度。伊丹空港北ターミナル。ここはJAL専用のターミナルで、毎日多くの便が全国各地に向けて飛んで行く。夏場ともなると、季節運航便が設定され、大小さまざまな飛行機が、スポットに駐機し出発準備を進めている。一機スポットから離れれば、沖留めされていた飛行機がトーイングカーにひかれて来たりなど、空港エプロンは喧騒の様相を見せている。空港スタッフを始め、航空会社スタッフも、あちこちと駆け回り、出発準備に追われている。
 搭乗カウンターには大きなカバンを持つ多くの乗客が列を成し、今か今かと順番が来るのを待っている。夏休みということもあり、子供連れの家族が目に付く。ビジネスマンの姿も見られ、慣れた手つきで自動チェックインを済ませ、足早に手荷物検査場に颯爽と向かっている。手荷物検査場も搭乗カウンター同様、喧騒そのもので、隙を縫って検査場に入っていくビジネスマンはカッコ良く見える。手荷物検査をパスすると、搭乗口が何処になるのか迷っている乗客が、空港の警察官に聞いたり、電光掲示板を眺めたりと、手荷物検査場の混雑の原因は、これであろうと思えるくらいである。
 搭乗口22番。新千歳空港行きのJAL3911便の出発点である。夏季限定の運航で機種はB767-300。シップナンバーはJA8980。1997年9月に登録された国際線使用のB767-300の4号機であり、現在はONE WORLD カラーを身にまとっている。

RJOO:JA8980

 8時5分。搭乗アナウンスが館内に響き、搭乗口を見渡すと思いの他、乗客が少ないのが気になった。早朝便ということもあるのだろうと思いつつ、PBBを通って機内に入った。キャビンアテンダントの6名が笑顔で乗客を迎えている。座席は43H。機体後方の左側である。久し振りのB767とあって、ウキウキワクワクと心を躍らされる。
 コックピットでは既にテイクオフ・ブリーフィングが終わり、乗客のボーディング中に副操縦士は大阪デリバリー管制118.8メガヘルツに周波数を合わせて交信を始めている。新千歳までの飛行許可を承認してもらう交信である。

▼RJOO:MINAC ONE DEPARTURE
RJOO:MINAC ONE DEPARTURE

▼RJOO:GUJYO TRANSITION
RJOO:GUJYO TRANSITION

 3911便の伊丹空港のSID(出発方式)は「MINAC ONE DEPARTURE」の「GUJYO TRANSITION」である。出発のクリアランスで「〜DEPARTURE」の後に、「〜TRANSITION」と付される場合がある。TRANSITIONはSIDの離陸方式から航空路に行くまでの経由する地点、つまりは航空路の入口みたいなものである。今回のMINAC ONE DEPARTUREには、NAGOYA、GUJYOの各地点が設けられている。滑走路32レフトを離陸後、500フィート以上に上昇し、左旋回をする。その際、滑走路末端から4NM、または大阪のVOR/DMEから5DME以内に旋回上昇し、機首を方位76度に向けてMINACの地点まで飛行し、そこから岐阜県のGUJYOの地点まで飛行するが その間は2万フィート以上で飛行しなければならない。GUJYOから航空路Y13に入り、新千歳空港(CHE)に向かうことになる。

▼RJOO:AIRPORT
RJOO:AIRPORT

 8時24分。プッシュバック。トーイングカーに押され、機体はR-6上に停止した。トーイングカーが切り離されて滑走路32Lに向かってタキシングに入った。E5、A2を通過後、A1から滑走路32Rを横断しB3の間はS字のようになっている。その間に操舵系の確認であるエルロン、エレベーター、ラダーの確認をしている。誘導路B2からW2に入り、そのままクリア・ライン・アップで、ローリング・テイクオフを開始した。CF6-80C2B4Fのエンジンが甲高い音を奏で、機体は一気に加速。V1、VR、V2の副操縦士のコールで機体は急上昇した。離陸時刻は8時37分。離陸後、左旋回し一路出発方式の名を関しているMINACのポイントに向かって飛行する。

 伊丹空港は街の中に設置された空港であるので、近隣への騒音軽減策(運航方式)が取られている。離陸は急上昇方式となり、伊丹から飛行機に乗られた方は分かると思うが、離陸後、フワッと体が浮いた感じになる。着陸はディレイド・フラップ進入方式及び低フラップ角着陸方式で、19時から21時までリバースはアイドルまでに制限されている。

 例年に無い猛暑に襲われている街並みに霞が掛かっていた。3911便は上昇し続け、霞を突き抜けると、右手に入道雲が幾つもそびえ立っていた。気流も穏やかでスムーズな飛行を続けていた。シートベルトの着用サインが消えると、キャビンアテンダントは直ぐ様、シートベルトを外し、各々の担当ギャレーに行き、エプロンを身に纏い、機内サービスのドリンクの準備を始めた。乗客も安堵したのか、フーッと息を付くのが聞こえる。乗り慣れている人は離陸前に寝ている姿を目にすると、大した根性だと思うのは私だけだろうか。

 MINAC地点で左旋回を終えると、窓から体を突き刺す、ジリジリと身を焦がしていくように太陽の光が差し込む。外を見れば入道雲がくっきりとそびえる姿が、そして空を見れば蒼い空、気流は安定。この上ないコンディションである。3911便は2万フィートを通過し、トランジション・ポイントのGUJYOを目指して上昇している。キャビンアテンダントは手早く機内サービスを進めている時、軽い乱気流で機体が揺れたが、10秒ほどで収まった。そして、それから数分後、頭上のスピーカーから機長のキャビン・アナウンスが聞こえた。飛行高度3万7000フィート、約1万1300メートル。対地速度毎時900キロメートル。上空の気流は安定。新千歳空港には定刻の10時10分。約15分後には秋田県上空に到達。北海道は低気圧に覆われているので下降中に揺れると、明るくハキハキとした口調で、非常に聞き易かった。アナウンス中、速度の説明をする際、「新幹線の約3倍のスピードで飛行しています。」と、子供がたくさん乗っていたこともあって、機長の心遣いに関心した。私の後ろに座っていた小学生の男の子が「メッチャ速いやん」と、お父さんと話しているのが、何とも微笑ましかった。富山県上空を通過すると、日本海上空に出ると左には佐渡島が見えた。揺れもなく、順調に高高度で飛行を続けている。そうこうしている内に、AKITA VOR/DMEを通過すると、一面雲海が広がる。これから新千歳に向かってこの雲を突き抜けなければならない。奥に目を転じれば入道雲が連なり、揺れの不安に駆られる。

 コックピットでは下降準備が始まっているのだろうと考えながらも、機内サービスのスープを啜る。機内誌を見て、外を見ると雲が下に見えた。下降中と思っていると機長の機内アナウンスが聞こえた。「当便は新千歳空港への進入が始まり、揺れがあるので、2分後にシートベルト着用サインを点灯させます。客室乗務員も2分後には自席に着席して下さい。なお、揺れましても運航には何ら支障ございませんので、ご安心下さいませ。本日のご搭乗、誠にありがとうございます。」飛行機が好きな方でも雲中飛行すれば揺れると分かっていても、機長から「支障ない」と言われれば安心する。機長の言葉は重いと改めて思う。

▼RJCC:STAR for RWY19L/19R
RJCC:STAR for RWY19L/19R

 3911便の着陸滑走路は19R、STAR(到着経路)は「NASEL ARRIVAL」である。NASELはCHITOSEのVOR/DMEから方位210度、35マイルの地点にあるポイントである。NASELを通過後、方位30度に右旋回しMUKAWA VOR/DMEから240度の放射角度(R-240)乗ったら方位60度に更に右旋回する。MUKAWAに到達後、方位360度に左旋回しMUKAWAから13マイルの地点で1万2000フィート以上、25マイルの地点で7000フィート以下、30マイルの地点を5000フィート以上で飛行し、その地点を通過したら方位240度に左旋回し、KAORY、SHINEのポイントを通過し、滑走路進入口であるNAGANUMA NDBに向かう。その時高度は3000フィート以上で飛行しなければならない。

 先日の大雨の影響で、道央、道南地方は雨に覆われている。次第に雲の中に入り揺れが激しくなってきた。少しずつ雲の切れ間から緑に覆われている北の大地が見え始め、雨が窓を叩きつけている。フラップは降下の段階ごとに下に降ろし、その姿は目一杯翼を広げた鳥のようである。雲の下を抜け、地上が目の前に迫っている。ギア・ダウンの音が足元から響き、同時に風を切る轟音が機内に聞こえる。

▼RJCC:ILS Z RWY 19R
RJCC:ILS Z RWY 19R

 機体は下降し続け、NAGANUMA NDBが近付いてきた。着陸方式は「ILS Z 19R」。NAGANUMAの辺りから機種を方位182度に左旋回し、ILSの電波を捕捉する。ILSの電波に乗りながら風の影響で微かに上下左右に揺れている。進入ポイントのWHITEを通過。機体は下降し続けている。最終進入フィックスであるLOVERを通過、滑走路が迫ってきた。コックピットではランディング・チェックリストを終えている。機体は滑走路に近付いている。右手には新しく完成した国際線ターミナルが見え、その奥には航空自衛隊機が整然と並んでいるのが見える。滑走路末端(スレッシュ・ホールド)通過し、エンジンの音が静かになった。エンジンパワーを最小限に絞り、揚力だけで宙に浮いている。

▼RJCC:AIRPORT
RJCC:AIRPORT

 10時5分。滑走路に着地後、エンジン・リバース(逆噴射)が掛けたが、すぐさま解除され、誘導路A7に入った。鋭角に機体を左旋回し、誘導路Dを走行した。フラップは主翼に格納されてた。窓から外を見れば曇り、雨が降っている。前日、小樽では豪雨だったと後で聞いた。その雨がまだ残っているようである。機体は速度を減速させ、H5に入り、10時10分、予定時刻に14番スポットで静かに停止した。エンジンが切られ、乗客は席を起ち、機外へと出て行った。

RJCC:JA8980

桃田素晶

本記事は、「機長席」「雨中飛行」の解説でおなじみの桃田素晶さんからの寄稿です。
ご自身の搭乗された伊丹〜新千歳の搭乗記を書いてくださいました。(竜子)

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