カテゴリー ‘ A300コックピット「ヒマラヤ飛行」

Chapter01 福岡空港

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フクオカ・エアポート、インフォメーション・ジュリエット(J) 0200 ビジュアル・アプローチ、ユージングランウエイ34 ウインド 010 ディグリーズ 7ノット、ディレクション・バリアブル ヴィトイーン 310&060 ディグリーズ ビジィビリティ 30キロメーターズ ヒュー 2,500フィート キュムラス スキャターズ 15,000フィート アルトキューモラス テンパラチャー 19、デューポイント 9、QNH 30.05インチズ アドバイス ユー ハブ インフォメーションJ
(福岡空港、インフォメーションJ。国際標準時0200時、有視界進入、使用滑走路34、風は10度方向から7ノット、風の方位は310度から60度まで偏位がある。視程30キロメーター、ヒュー2,500フィート、積雲が少し、15,000フィートには高積雲、気温19度、露点温度9度、気圧30.05インチ、インフォメーションJを受信して通報して下さい)

 空港情報(ATS)がコックピットのスピーカーから流れている。外は風が強く、ちぎれ雲が空を覆ってはいるものの、今日の福岡は晩秋の陽光が降り注ぐ穏やかな日和だった。
 午前11時。福岡空港の国際線ゲート53には、福岡空港発、中国昆明(クンミン)空港経由カトマンズ・トレブバン空港行きチャーター便であるエアシステム8517便が出発準備中であった。
 成田東京国際空港から昆明に定期便をもつ日本エアシステムが将来のネパールへの定期便を視野に入れて、昆明経由でカトマンズまで飛行させる特別便である。
機種はエアシステム国際線の主力機エアバスA300-600。コックピット・クルーは仙波機長と牧機長のふたり。ともに五十代、エアシステムのベテランキャプテンである。
 左の機長席に座った仙波機長が副操縦士役をする牧機長に離陸のプロシジャーを説明している。今日は中国、昆明空港までは仙波機長が、昆明よりカトマンズまでは牧機長が操縦を担当することになっていた。

それでは、(離陸の)ブリーフィングをやります」と仙波機長が牧機長に告げた。
SID(出発方式)は八女1(ヤメック ワン YAMEK ONE)デパーチャー。ランウエイは34。2,500(フィート)までいってライトターンですね。コンソレインは(飛行制限は)10,000フィート。これがアンテル7マイル、DGC(福岡空港)ですね。あと八女(YAMEK)で5,000 OR アバーブ。で、長崎トランジション。長崎トランジションはアーク25マイルでコンソレイン(飛行制限)はありません

 エアシステム8517の福岡空港出発方式はYAMEK ONE出発方式で、まず滑走路34を離陸し高度2,500フィートまで上昇して右旋回し福岡空港上空を通過、方位158度のヘディングで八女(福岡県のお茶の名産地として知られる)に至る。このとき福岡空港(DGB)の南西7マイルまでは高度制限があり10,000フィート以下で飛行しなければならない。又、八女での高度制限5,000フィート以上。
 長崎トランジションは八女で右旋回をして25マイル飛行、左旋回して機首方向213度で長崎に向かうコースである。そしてその後、東シナ海を越えて上海へのルートに入る。

あとアブノーマル(非常事態) シングルエンジンになった場合にはフォローSIDで(出発方式に従って)インカム・アクションで適当なところでレーダーホールド(レーダー誘導で待機)、もしくはちょっと雲がありますので、ヴィジュアル(有視界飛行)で(福岡空港の)ダウンウイングに入って来て、ランウエイ34にイマージンシー・ランディング(緊急着陸)を行う予定です。そのときオバーウエイト・ランディングのときは、オーバーウエイト・ランディングのチェックリスト(計器点検)をやってそのまま降ります。そのときのコンフィギレーションは1520プラス10で降りてきます。何か質問ありますか
ナッシング」と牧機長。
 仙波機長は交信を担当する牧機長に出発5分前の管制官との交信を依頼した。
5分前(ファイブミニッツコール)お願いします
 ゆっくりと頷いて牧機長は121.95メガヘルツで福岡デリバリー管制を呼んだ。
デリバリー。エアシステム8715
(福岡デリバリー管制へ。こちらエアシステム8715です)
デリバリー エアシステム8517?」(福岡デリバリーです。どうぞ)
5ミニッツ スタート エンジン トウ クンミン プロポージング レベル 350 ゲート53 インフォメーション I
牧機長は中国昆明(クンミン)空港に飛行する為の飛行計画をデリバリー管制に告げた。(出発5分前のコールです。昆明(クンミン)空港へ飛行します。巡航高度は35,000フィートを希望。現在位置はゲート53です。空港情報I(インデア)を聞いています)
すぐ、管制官が答えた。
53 レベル350 ラジャー レディー トウ スタートエンジン
(ゲート53、巡航高度35,000フィート、領解しました。エンジン始動の用意をして下さい)
ラジャ」エアシステム8517は福岡デリバリー管制から飛行計画の管制承認を貰うまで待機状態に入った。
エアシステム8517 こちらエアシステム福岡です
そのときエアシステム福岡運航課からのカンパニー無線が入った。カンパニー無線とは運航部と飛行機を結ぶ会社専用の業務用VHF無線である。
アイ ハブ ATC」と仙波機長が管制交信を、牧機長がカンパニー無線を取った。
はい。どうぞ
ファイナルのウエバラ(ウェイト&バランス)がまだ上がって来てない(飛行機に電送されていない)と思いますが、今、バゲージ(荷物)の個数が合わないということで最終的なチェックをやっているようです。最終的に(ウェイト&バランス)が(計算されて)出てくるのは(出発時間)ギリギリになるか、多少、ディレイ(遅れる)かもしれません。一応、ブリーフィングをしておきます
ウエイト&バランスとは飛行機の重量と重心位置を算出するデータでこれがないと最終的な滑走距離、離陸スピード、エンジン推力量などの決定がでないので出発体制に入れないのである。
はい。了解しました
 遅れる筈だった運航課からのウェイト&バランスの交信は意外に早く入った。
エアシステム8517、福岡(運航)です
はい、どうぞ
今、ウエバラが出ました。よろしくお願いします」とジャンプシート(コックピットの補助席)のウエイト&バランスを確認した後、運航課が最終のデータをコックピットのコンピュータヘ送った。
はい。了解しました。ありがとうございます
 ウエイト&バランスが算出されると、クルーは最終的に飛行機のコンピューターに入力(インサート)して離陸時の総重量を計算する。
パッセンジャーからいきます。193(乗客数193名)、プラス・ゼロ(幼児が搭乗していないという意味)
ゼロフェルウェイト(燃料を除いた機体の総重量)は243,600(ポンド)
243,600(ポンド)、はい、インサート(入力しました)
 そのとき客室からのコールが鳴った。客室とコックピットはインターホン電話で結ばれ客室からコールが来ればブザーがなる仕組になっている。
はい、どうぞ」と仙波機長が受話器を取た。
パーサーです。ランプコーディネーターがいらっしゃらないので(客室準備の)状況が読めません。あとドキュメント関係(乗客関連の書類)が一切届いていないのでもう少しお待たせすると思います
はい。了解しました
 客室とのコールが終わるとクルーはコンピューターへの入力作業が続けた。
24.4ゼロフェル(燃料抜き機重量244,000ポンド)ね。燃料が898(89,800ポンド)、テイクオフ・ウエイト(離陸時の機体重量)が332,500(ポンド)、テイクオフCG24.7、トリム1.6アップ
前(機体の前方)に(ウエイトが)きていますから、2.0でいきますから
340,000(ポンド)、マックス(最大積載)ですね」と牧機長。中国昆明空港まで4時間半の長距離飛行で消費する燃料や乗客数193名と荷物などで飛行機の積載重量は最大に近くなっている。
 積載重量が決まると次に離陸データが算出される。
それでは(離陸決定時V1のスピードは)151(ノット)、(離陸時スピードV2のスピードは)153(ノット)
はい、インサート
 入力作業が終わるとエンジン始動前の計器点検が始まる。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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【ヒマラヤ飛行】はじめに

「機長席II ヒマラヤ飛行」のブログ連載にあたって

コックピットのボイス・レコーディングとその解説文で綴る航空ドキュメント作品は、過去、「機長席」(朝日ソノラマ社)、「ラストフライト」(愛育社)と発表させて頂き航空ファンの多大なるご声援を賜りました。ほんとうに皆様には深く感謝しております。

 さて、今回、そのシリーズの新作「機長席II ヒマラヤ飛行」をこのブログ「飛行機ダイスキ」でリリースさせて頂く事になりました。著者として連載が始まる前に簡単ではありますがご挨拶させて頂きたいと思います。

「機長席」は北海道から羽田空港へ飛行するボーイング・トリプル7の、「ラストフライト」は関西空港からホノルルへ飛ぶダグラスDC-10のドキュメンタリーでした。そして今回の作品「機長席II ヒマラヤ飛行」は福岡空港から中国大陸を横断しミャンマー、バングラディシュ、インドを経由しネパールのカトマンズへ飛行するA300-600のドキュメンタリーです。

 この第3作が前作2作品と違うのは、チャーター便であると言うことです。定期便はご承知のごとく飛行するルートをクルーは事前にすべて熟知しています。又、相手国の管制官も定時にその飛行機が通過することを承知しており安心感があります。

 しかし不定期便の場合は全く様相を異にします。そのひとつの問題は管制官とのコミュニケーションです。どの場所でどこの管制官とコンタクトを取るかということは事前のデータ等で把握しているにせよ、現実、それがデータ通りうまくいくとはかぎりません。とくにこの飛行ルートはミャンマー、バングラディシュ、インド東など国境が入り乱れる地域の上空を通過しなくてはなりません。中でもミャンマーは軍事国家で内乱などいつ非常事態が起こり上空通過を拒否されるか、など不安がいっぱいでした。実際、このフライトでは何回も管制官との交信が出来なくなるシーンがありました。ふたりのパイロットがそれぞれ別の無線機を使ってふたつの国の管制と同時にコンタクトをするという定期便では考えられない事態も起こりました。その緊張感はそのままこの作品のクライマックスになっています。

 又、飛行ルートは航空機に搭載しているナビゲーションで目的地上空まで飛行出来ますが、経験のない空港の離発着はクルーにとって最も気を使う事柄であり、定期便にはないコックピットの緊張感が生まれるのです。この作品の最後、世界でも有数のアプローチ、着陸が難しいといわれるカトマンズ空港への進入が醸し出す緊張感もこの作品のもうひとつのクライマックスを作り上げています。それから、ひとつだけ特ダネ(?)自慢もあります。中国の管制事情を赤裸々に公開するのはこの録音が日本最初だと思います。

 何にしてもこのヒマラヤ・フライトのドラマチック、かつスリリングさは前作のフライトに比べて桁違いなものでした。それらの臨場感を31回の連載でお届けします。長丁場になりますが最後までお楽しみ頂ければ幸いです。

 最後にお願いがあります。私の知識不足で交信内容や航空機の技術的な事柄で記載ミスが多々あると思います。もしお気づきのことがありましたら、訂正のコメントをして下さい。作品を”より完全なもの”にするためによろしくお願い致します。

武田一男

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【ヒマラヤ飛行】CONTENTS

CONTENTS

Chapter 00 配信にあたって著者よりごあいさつ
Chapter 01 福岡空港
Chapter 02 中国昆明までの飛行計画とエンジン始動
Chapter 03 福岡空港離陸
Chapter 04 長崎から五島列島の福江上空へ
Chapter 05 機長アナウンス
Chapter 06 東シナ海上空 上海FIRへ
Chapter 07 中国の空へ 上海上空
Chapter 08 中国内陸飛行 長江(揚子江)に沿って武漢へ
Chapter 09 中国の水郷地帯 洞庭湖上空 カンパニー交信
Chapter 10 中国南の山岳地帯・雲貴高原東上空
Chapter 11 貴陽上空 キャビンクルーの昆明空港下降打ち合わせ
Chapter 12 昆明空港クンミン空港へ下降開始
Chapter 13 最終進入 タービランス
Chapter 14 中国南の景勝地 昆明へ着陸
   Appendix 昆明について
Chapter 15 昆明空港
Chapter 16 昆明空港離陸 ミャンマー上空へ
Chapter 17 昆明空港を上昇 機首244度でミャンマー国境へ
Chapter 18 機長アナウンス
   Appendix 中国からカトマンズの国境について
Chapter 19 中国、ミャンマーの国境上空
Chapter 20 ミャンマー上空
Chapter 21 カルカッタ・ラジオとダッカ・コントロール中継交信
Chapter 22 ミャンマーと東インド国境
Chapter 23 インドの東
Chapter 24 バングラデシュ上空
Chapter 25 インド上空 再び交信混乱
Chapter 26 カトマンズFIR
Chapter 27 カトマンズ空港への下降開始
Chapter 28 世界でも最も難しいカトマンズ・アプローチ開始
Chapter 29 カトマンズへの最終進入
Chapter 30 山越へのアプローチコース
Chapter 31 カトマンズ・トリブバン空港着陸

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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