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【最終回】ボーイング777コックピット「続・機長席」第9回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックの電子書籍化である。
新千歳空港を折り返して東京・羽田空港へ向かったB777・114便は、前回ラッシュアワーを迎えた羽田上空へさしかかかった。今回で114便は羽田空港にランディング。ついに最終回である。
最後までおつき合いくださったみなさま、どうもありがとうございました。

第5章 羽田空港ランディング

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★「続・機長席」挿入09

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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 管制エリアが、東京アプローチから羽田空港の離着陸をコントロールするトウキョウ・タワーコントロールに引き継がれた。木村副操縦士は周波数124.35メガヘルツでタワーを呼ぶ。
トウキョウ・タワー。エアシステム114。3マイル トゥ ジョウナン スポット2」(東京タワー。エアシステム114便です。現在、ジョウナンの手前3マイル地点です。羽田到着スポットは2番です)
114便は機首を320度で、まっすぐ東京の湾岸にある江東VOR/DMEを目指して飛行している。現在地点はジョウナンの3マイル手前、東京湾のど真中だ。
女性管制官の声が、夜の東京湾上空を縫ってコックピットのスピーカーから流れた。
エアシステム114 グッドイブニング トウキョウタワー ランウェイ16レフト ウィンド200 20 マキシマム 30 プロシーディング ボーイング747 5 アンド ハーフマイルズ アヘッド クリア トゥ ランド
(エアシステム114便へ。こんばんは。こちらは東京タワーです。滑走路16レフト 風は200度方向から20ノット、最大で30ノット吹いています。貴機の5マイル半先を飛行するボーイング747に従って飛行してください。着陸を許可します)
東京アプローチの管制官が5マイル間隔で並べた進入機を、羽田空港の管制塔の最上階、ガラス張りの管制室から女性管制官が羽田空港への最終着陸の指示を出しているのだ。
114便のコックピットの窓を通して、すぐ前の湾岸上空を左旋回する日本航空106便ジャンボ機の点滅する衝突防止ライトが見える。
エアシステム114 トラフィック インサイト クリア トゥ ランド 16レフト」(エアシステム114便です。先行の飛行機を確認しています。滑走路16レフトへ着陸します)

▼羽田空港ターミナルプロシージャ

 交信を聞きながら機長が、滑走路16レフトへ着陸許可を確認してコールする。
クリア トゥ ランド 16レフト
スピード VーNAV パス」とふたりのパイロットが確認し合う。
VTGはプラス10でいきますから。134(着陸速度134ノット)」と森田機長。  着陸を目前にしてコックピットには緊張した空気が流れる。
カンパニー
木村副操縦士はエアシステム運航部ディスパッチ・ルームを自社専用無線で呼んだ。
114便です。まもなくジョウナン。スポット2番
(114便です。まもなくジョウナン通過。スポットは2番の予定です)
スポット2番。 です
運航部も予定しているスポットの変更がないことを114便に知らせた。
着陸前に、東京タワーにも運航部にもスポット(駐機場)の位置を確認するのは、着陸後、もしスポットの変更があった場合、空港の何処に飛行機を地上走行させるか明確にする必要からである。
114便はジョウナン・ポイントを通過した。約600メートル下は東京湾の海面である。前方は湾岸エリア、その明かりの向こうに東京タワーのオレンジ色のライトが飛行機より高く聳えている。
セット。アルト。1500 セット トラック 157
飛行機の左側、東京湾岸地区の運河を越えて羽田空港の滑走路16のランウェイライトが見えた。
エアポート インサイト。ランディング」と森田機長。
まもなく左旋回をして、コンタクトアプローチ(目視進入)でランディングするのだ。114便の5マイル先を飛ぶ日本航空106便が湾岸上空を旋回し終わり、機首を滑走路に向けている。その先を飛ぶ全日空862便が滑走路16レフトに着陸した。
管制官が着陸した862便に指示を出す。
オールニッポン862 ターンライト C(チャーリー)4 コンタクト グランド118デシマル22 グッディ
(全日空862便へ。こちらタワー。右に曲がって誘導路C4へ向かって地上走行に移ってください。以後、羽田グランドコントロール周波数118.22に連絡してください。さようなら)
118.22 チャリー4 オールニッポン862 ウィ ドゥー
着陸した全日空862便は、口癖”ウィ ドゥー”を最後にスポットに向かった。
VーNAV アルト
デイスプレイを見ながらコールする機長と副操縦士。
セット ゴーアラウンド アルト
森田機長は再着陸(コーアラウンド)をする場合の高度を確認する。
東京湾を埋め立て再開発した湾岸エリアの風景が、美しいディテールを見せ始めた。江東VOR/DMEがすぐそこに迫る。
ギャ・ダウン
機長が車輪を下げる指示を出す。副操縦士が復唱してギヤレバーを下げた。続いて、
フラップ20」と、フラップの角度が20度に降ろされる。
コックピットの音が変わった。
機体からせり出てくる車輪に風が当たり豪々と響きわたる。
ギャ・ダウン」ディスプレイのモニターで車輪が完全に降りたことを確認して木村副操縦士がコールする。
マイ サイド FD オフ」と森田機長。
オートパイロット オフ
自動操縦装置を切り操縦を手動に変えた。777の飛行がマニュアルになった。宇宙船777が大きく美しい飛行機に変わる一瞬だ。
レフトクリアー
左側の窓から外を見て機長は機を左に旋回させる。777は森田機長の手の中で優美なグライダーのように飛翔した。
眼下は灯の洪水だ。
レインボーブリッジ、観覧車、フジTVの社屋、ホテル、シーサイドショッピングセンター、屋形船、東京湾フェリーの灯、光、明かりの連続。そして浜松町、品川、渋谷、新宿の街の灯。赤、青、黄色、紫・・・宝石の絨毯を敷き詰めてライトアップたように見渡すかぎり続く星の湖のような東京の街灯。コックピットから見るこの夜景は世界の空港の着陸シーンでも間違いなく五本指に入る美しさだ。
今、そのすべての灯が左旋回するにつれ、ぐるりと大きく右に渦を巻くように回り続ける。リンドバークの一節が脳裏をよぎる。

星空の下に星の輝く大地の広がり。パリの灯だ。
光の直線、光の曲線、光の方形。大通り、公園、建物などの輪郭が現われてくる。
はるか下方に、上に向かって点々と伸びる光の柱がある。
エッフェル塔だ。
私はその上空を旋回し、ル・ブールジェ(空港)をさして進路を北東に転ずる。

「翼よあれがパリの灯だ」 チャールズ A リンドバーク

フラップス30。セット スピード
最終フラップが降ろされ、着陸速度が134ノットにセットされる。
風が強い。高度1200フィート。約360メートルの高度だ。
ランディングチェックリスト
着陸の計器点検が始まった。スピーカーから日本航空106便が滑走路16レフトに着陸した交信が聞こえてくる。
ジャパンエア106。ターンライト C4 コンタクト グランド118.22
(日本航空106便へ。右に曲がって誘導路C4へ向かってください。以後、羽田グランドコントロール周波数118.22に連絡してください)
ランディング チェックリスト コンプリーテッド」ディスプレイを確認して木村副操縦士がコールする。
ジャパンエア106 C4 118.22 グッデイ
日本航空747は誘導路に向かった。
左に大きく旋回して森田機長は777の機首を滑走路16レフトに合わせた。前方には薄暗い東京湾、その向こうにアプローチライトに導かれた滑走路が光りの美しい線を南南西にクリスマスツリーのように延ばしている。海風が正面、そして右横に激しく吹き付けた。その風に煽られ機体がぎしぎしと軋む。眼下は城南島海浜公園だ。
風が強いね。27ノット」と森田機長。
プラス ハンドレッド」とコンピューターがコールする。
チェック」と森田機長。
ミニマム」と木村副操縦士。
着陸かゴーアラウンドかを決める一瞬だ。飛行機は海の上に出た。
ランディング!
機長が着陸を決定してコールした。
海を挾んで滑走路のライトが目の前にキラキラと光る。
1000
高度1000フィート通過。あと約300メートルだ。
右横前方からの風が強さを増す。777は若干風上に機首を向けて高度を下げてゆく。
管制官が風を知らせてきた。
ウィンドチェツク 190 23 マキシム 32
(風は190度から23ノット。最大32ノットです)
114便の強力なランディング・ライトが、眼下の暗い海を真昼のような明かるさに照らしていく。
オートスロットル オフ」と森田機長。
オートスロットルを切った電子音が響く。
777はランウェイに続く海を越えた。スピーカーからは全日空744に着陸の許可を出す管制官のボイス。
300
高度計を読む木村副操縦士。あと300フィート、約90メートルだ。
風が唸りをあげる。インナーマーカーを通過する電子音。
スタビライズド」と機長。
機体が風に煽られて滑るように滑降する。時速約250キロ。
コンピューターが接地までの高度を読み上げ始めた。
50(フィート)、40、30、20、10
そして接地する音。逆噴射するエンジン。
114便は羽田空港へ着陸した。次第に速度が落ちる。機長の顔がもとの優しさに戻った。
エアシステム114 ターンライト C4 コンタクト グランド118.22
C4 118.22 エアシステム114
速度計のスピード表示が60ノットに落ちた。
60!
マニュアル・ブレーキ
60ノットに速度が落ちたのでブレーキをオートから手動に切り替えて、森田機長は滑走路エンドから誘導路の入り口へ向かった。
木村副操縦士は周波数を切り替えて、羽田空港の地上管制を呼んだ。
トウキョウ・グランド テイク C4 スポット2
(東京グランド管制へ。こちらはエアシステム114便です。誘導路C4へ入ります。駐機場は2番ゲートです)
エアシステム114 トウキョウ・グランド タクシー E(エコー)4 J(ジュリエット)3
(エアシステム114便へ。こちらは東京グランドコントロールです。誘導路E4からJ3へ地上走行(タクシー)してください)
E4 J3 エアシステム114
(E4からJ3をえてスポットへ向かいます)
交信を終わると副操縦士は機長にタキシングのルートを報告する。
エコー4、ジュリエット3です
森田機長は了解して114便を誘導路に入れた。誘導路の赤や青、オレンジ色のライトが夜のエアポートの旅情を醸し出している。114便はゆっくりと地上走行に移った。
TCAS オフ。オートブレーキ、キャンセルメッセージ
木村副操縦士はアフターランディングの点検を始めた。機長が確認する。
エアシステム114 コンタクト グランド 121.7
(エアシステム114便へ。以後はグランドコントロール121.7へ連絡してください) 木村副操縦士が復唱して、周波数を121.7メガヘルツに変えてグランド管制を呼ぶ。
トウキョウ・グランド。エアシステム114 オン J3 スポット2
(東京グランド。こちらエアシステム114です。今誘導路J(ジュリエット)3を通過中。スポット2に向かっています)
エアシステム114。トウキョウ・グランド タクシー トゥ スポット
(エアシステム114便へ。東京グランドです。スポットへ向かってください)
東京グランド管制官と交信を交わす出発便の横を通ってエアシステム114は北側にある自社ゲートへと向かう。
誘導路の右にゲート2番が見えた。駐機する飛行機を誘導するマーシャラーが振る赤いライトが目に入り、森田機長が「マーシャラー インサイト」とコールして機首を右にまわしてマーシャラーの方へ向ける。
チェック ライトサイド」(右側を確認してください)
そして機長は副操縦士にタクシーライトなど飛行機の外側のライトを消すように言った。「オール・ライト オフ
客室ではパサーがキャビン・クルーに乗客用のドアを開ける準備をするように指示している。
18時40分。114便はゆっくりとゲート2番に止まった。ボーディングゲートが機体に接続される。
ドアー オープン OKです
森田機長はエンジンを切って、キャビン・クルーに乗客ドアを開ける許可の合図を送るように副操縦士に指示する。そして地上のメカニックとインターホンで連絡した。
パーキングブレーキリリースしました。オペーレーション(千歳からの運航)前はオーケーです。キャビンでよろしく
機長と副操縦士は777をパーキングする計器点検をする。
キャビンでは乗客が飛行機を降り始めた。
すべてのチェックが完了すると、「ご苦労様」と機長と副操縦士は互いの労をねぎらった。ふたりの顔には一仕事終えた男の表情があった。が、すぐ、これから始まる福岡への最終のフライト打合せのためにディスパッチャーが待つサテライトへ向かった。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第8回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第4章 羽田空港進入_2

▼羽田へのルートマップ
羽田へのルートマップ

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★「続・機長席」挿入08

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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 今日はオビツには高度3000フィート前後で到達している。オビツで滑走路16レフトへの進入許可をもらって東京の湾岸にある江東VOR/DMEから発信される電波KWEー140に沿って(インターセプト)、機首方向320度で東京湾の真中にあるジョウナンに向かって高度2000フィートになるように下降する。それから高度2000フィート、スピード170ノットで江東VOR/DMEを目指す。
江東VOR/DMEに近づくと、東京アプローチから羽田空港のタワーコントロールへ引き継がれる。無論、今日はレーダー誘導なので若干の近道などがあるが、大体そのルートで誘導されている。
オールニッポン862 ターンライト ヘディング 260
(全日空862便へ。右旋回して機首方向260度(ほぼ西)で飛行してください)
862便が復唱する。862便の位置はアビオン付近でこれからオビツに向かって右旋回するのだ。
オールニッポン90 ディセント 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(全日空90便へ。高度2000フィートに下降し、滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します)
オールニッポン90 ディセント 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
全日空90便は、オビツ付近を高度3000フィートで東京湾へ飛行している。これからジョウナンに向かって高度2000フィートになるように下降するのである。
東京アプローチの管制官が全日空862便を呼んだ。862便はアビオン付近を飛んでいる。
オールニッポン862 ターンライト ヘディング290 インターセプト コートー140レディオ
(全日空862便へ。右旋回して機首を290度方向にし、江東VOR/DMEの140度のコースに沿って飛行してください)
アンダースタンド オールニッポン862 レフトターン 290 インターセプト コートー1・・4.・0レディオ
オールニッポン862 ファーマティブ アンド セイ スピード
(その通りです。現在の貴機のスピードを知らせてください)
ウィ アー ディデューシイング スピード 230?
(スピードを230ノットにしますか?)
ラジャ ファーザー ディデュース スピード 210ノット プリーズ
(了解。スピードを210ノットに減速してください。お願いします)
ラージャ。ウィ ドゥ
東京アプローチの管制官と全日空862便のパイロットの交信は、便名を間違えたり、数字を聞き違えたりするが、なんとなくほのぼのとした感情の交流が感じられて楽しい。全日空862便はオビツに向かった。
ここで現在の各飛行機の位置を再確認しておくと羽田空港に近い順から、まず、東京湾上のジョウナン付近に全日空90便。その後にこれからオビツに向かっている北からの全日空862便。御宿からオビツに向かって飛行する日本航空106便とエアシステム114便が、東と北からほぼ同時に862便を追っている。その次に日本航空368便が東から、全日空744便と全日空870便が北から、そして日本航空386便が東から続いて進入している。
これのあとかなあ?
森田機長がコックピットのレーダーに映る飛行機の機影を見ながら、どの飛行機の後方につくか考えている。これ、とは日本航空106便ジャンボである。
114便より日本航空106便ジャンボの方がわずかに先行して、全日空862便の後につきそうな気配である。
どうも、そんな感じになってきましたね
木村副操縦士もレーダーに視線を投げて言う。
オールニッポン90 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35
(全日空90便へ。以後は羽田空港タワーコントロール124.35メガヘルツへ連絡してください)
東京湾上空のジヨウナン付近を飛行している90便が羽田タワーに引き継がれた。
その間にはちょっと、5マイルしかないので・・・ギリチョンで
木村副操縦士は、全日空862便と日本航空106便の間に入りたいが、距離はわずか5マイルしかないので入り込むのは無理だと言う。
106便は本来ならば、18時20分羽田着でエアシステム114便の18時45分着より25分早いアライバルの筈であるが、今日はディレイ(遅延)しているので少しでも早く先行したい様子だ。
オールニッポン744 ディセント メインテイン 3000
(全日空744便へ。高度が3000フィートになるように降下してください)
あー、ラジャ。オールニッポン744。3000
長崎発日本航空186の777が、房総半島の東、御宿VOR付近に到着して東京アプローチに最初の交信をしてきた。この飛行機は日本航空368便の後にいる。
トウキョウ・アプローチ。ジャパンエア186。インフォメーション インデア ディセンディング160
(東京アプローチへ。日本航空186便です。ATIS(空港情報)Iを聞いています。現在高度16000フィートへ下降中)
ジャパンエア186。トウキョウ・アプローチ。フライヘデング080 コンテニュー ファイナルアプローチコース ディセント アンド メインテイン 10000
(日本航空186便へ。こちら東京アプローチです。機首を080方向で引き続き最終進入コースに入ってください。下降して10000フィートを維持してください)
フライヘデイング080 ディセント アンド メインテイン 10000 ジャパンエア186
114便のコックピットではふたりのパイロットが打合せを始めた。
ライトターンをしてからアプローチチェックをやりますから」と森田機長。
114便はオビツの少し手前まで到着した。まもなくもう一度右旋回の指示がきて機首を東京湾に向けることになる。機長は機首を東京湾に向けてからアプローチの点検をするつもりであった。
オールニッポン862 ディセント アンド メインテイン 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(全日空862便へ。2000フィートまで降下しください。VOR/DME滑走路16レフトの進入を許可します)
オビツを出て東京湾に向かっている862便に進入のクリアランスが出た。862便が独特のトーンでコールバックする。
オールニッポン862 2000フィート クリア VOR/DME ランウェイ16 レーェフト アプローチ アウト オブ 3500
(全日空862便です。2000フィート。滑走路16レフトへVOR/DMEアプローチ了解。高度3500から下降します)
そのとき、東京アプローチの管制官があわただしく114便を呼んだ。
エアシステム114 トラフィック ジャパンエアジャンボ アンド ワンオクロック 5マイル ノースウエストバウンド インターセプト140 ラディアル リービング フォア
(エアシステム114便へ。日本航空のジャンボ機が近くにいます。一時方向、5マイル地点。北西方向。インターセプトコース140(ジョウナンへ向かうコース)の高度4000フィートを通過しています)
イン・サイト
すぐ前に日本航空106便がいる。すばやく機長が目視で確認してコールする。普通は15マイルぐらいの距離でトラフィックインフォメーションがあるが、5マイル(約9キロ強)、しかも夜だ。木村副操縦士も直ちに応答した。
エアシステム114。トラフィック インサイト
(エアシステム114便。飛行機を確認しました)
右側の眼下には木更津と君津海岸のコンビナートの明かりが見え、夜の東京湾を走る船のライトが筋を引いて幾重にも重なっている。そして海を隔ててきらびやかな東京の街明かり。高度4500フィートを通過して下降中。
オールニッポン862 ディデュース スピード 190ノット
(全日空862便へ。エアースピードを190ノット(約時速350キロ)に減速してください)
190 ビロー アンダスタンド 862」相変わらずユニークな応答である。
オールニッポン744 ターンレフト トゥ ヘディング 180
(全日空744便へ。機首方向180度で飛行してください)
744便が復唱して千葉市の東でオビツ方面に向きを変える。114便の後方だ。
今度は東京湾を飛行する全日空862便を羽田空港タワー・コントロールへ移管させる。
オールニッポン862 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35 グッディ
(全日空862便へ。羽田タワー 124.35メガヘルツへ連絡してください)
オールニッポン862 124.35 ラジャ サンキュー グッディ
全日空862便は東京アプローチ管制区を離れた。
エアシステム114 ターンライト ヘディング 200
(エアシステム114便へ。右旋回して機首方向200度で飛行してください)
ラジャ 200 エアシステム114
114便に右旋回の指示がでた。「ライト、クリアー」と副操縦士が右側の窓の外を確認すると森田機長はゆっくりと機首を200度方向に向けるため右旋回に移った。
東京湾が右前方に広がり始める。高度3800フィート通過。
ジャパンエア368 ターンレフト ヘディング350 インターセプト コートー140ラジアル
(日本航空368便へ。左旋回して機首方向を350度にして江東VOR/DME 140度のコースに沿って飛行してください)
福岡発の日本航空368便、ボーイング747ー400が御宿VORの手前を左旋回して、房総半島を横断しまっすぐジョウナンに向かうコースに乗った。
1000 トゥ レベルオフ
114便のコックピットでは、高度計を見ながら木村副操縦士がコールする。指定高度3000フィートまであと1000フィートである。
ジャパンエア186 ターンレフト ヘディング040 ディセント アンド メインテイン 3000
(日本航空186便へ。左に旋回して機首を040(ほぼ東北東)に向け、高度3000
フィートまで下降してください)
ジャパンエア186 ターンレフト 040 ディセント メインテイン 3000」 長崎発の日本航空186便は17時羽田着予定の777である。現在、房総半島の上空を日本航空368便を追って飛行している。
東京アプローチから114便に機首方向を260度にするように指示してきた。
エアシステム114便。ターンライト ヘディング 260
すぐ、木村副操縦士がコールバックする。
森田機長はアプローチチェックを命じた。
アプローチ・チェックリスト
リコール アンド ノート
CDUディスプレイに映るエレクトリック・チェック・リストの項目を確認して副操縦士がコールする。
チェック」と機長。
そのときコックピット内でブザーが鳴り、高度が3000フィートに近づいたたことを知らせた。東京アプローチから114便にジョウナン経由江東VOR/DME方向へ飛行せよ、という交信が入る。
エアシステム114 ライトターン ヘディング 290 インターセプト コートー」「140ラジアル
(エアシステム114便へ。右旋回して機首を290度に向け、江東VOR/DMEからの140度のコースに沿って飛行してください)
ラジャ」と森田機長が確認。木村副操縦士が東京アプローチへ復唱交信する。
フライ 290 インターセプト コートー140ラジアル
エアシステム114 セイ スピード?」(エアシステム114 スピードはどのくらいですか?)
えー、210ノット」(えー、210ノットです)
メインテイン スピード 210ノット」(210ノットを維持してください)
木村副操縦士がコールバックして交信を終えた。森田機長はMCPのヘディングノブを回して290度にセットする。
290 アーム LーNAV」と森田機長。
(290度でLNAVをアームに)
LーNAV キャプチャー
右側のディスプレイを見て副操縦士が確認する。
LーNAV キャプチャー
左側のデイスプレイでもLーNAVが有効になったことを確認して機長がコールした。そしてアプローチチェックを続行する。
オートブレーキ2」と副操縦士。
ランディングデーター・・・セット
アルティメター」(気圧高度計)
3018セット」(気圧は30.18インチにセット)
アプローチチェックリスト コンプリーテッド
そのとき突然機体が、グアッと乱気流に捕まって激しく上下に揺れた。
スピード・・VーNAV アルト・・これは後流だね
後流ですね
ふたりは顔を見合わせた。後流とはジェット旅客機が通過した後に起こる激しい気流の乱れだ。114便のすぐ前を飛行する日本航空106便ジャンボが作った後流である。その中にまともに突っ込んだのであった。
オールニッポン744 ディデュース スピード 210ノット
(全日空744便へ。エアースピードを210ノットに減速してください)
114便のあとを追うように飛行する744便が復唱すると、東京アプローチは東京湾上空の日本航空106便に進入クリアランスの交信をする。
ジャパンエア106 ディセント アンド メインテイン 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(日本航空106便へ。2000フィートに下降してVOR/DME滑走路16レフトへの進入を許可します)
すぐ106便がコールバックして確認する。飛行させると言うことは交信や計器類やナビゲーション、すべての確認、確認の連続なのである。
ジャパンエア106 ディデュース スピード 190ノット
(日本航空106便へ。エアースピードを190ノットに落としてください)
106便がコールバックする。190ノット、時速約350キロでボーイング747ー400は東京湾を飛行している。
東京アプローチが続いて霞が浦付近に近づいた全日空870便、旭川発の767へ高度3000フィートまでの下降許可を出した。
オールニッポン870 ディセント アンド メインテイン 3000
ディセンド アンド メインテイン 3000 オールニッポン870
今度は管制官は日本航空106便にスピードを時速約300キロに制限をする。
ジャパンエア106 ディデュース スピード 170ノット
ジャパンエア106 スピード 170」(了解。170ノット)
次に管制官は114便の速度を制限する。
エアシステム114 ディデュース スピード 190ノット
190ノット エアシステム114
森田機長がフラップ(下げ翼)を1の位置に下げる指示を出した。前方に東京の灯が瞬き、右手には幕張、浦安の光が輝く。
フラップス ワン」とフラップ位置を森田機長が確認する。エアースピードが190ノットに落ちた。
ジャパンエア106 コンタクト トウキョウタワー 124.35
ジャパンエア106 グッディ
日本航空106便が羽田タワーに引き継がれる。
スピード 190」と森田機長。
そのとき管制官が全日空744便に呼び掛けた。トラフィック・インフォメーションである。
オールニッポン744 アンド アー プロシーディング トラフィック 12 オア 1オクロック 5マイル ノースウエストバウンド ジャパンエアジャンボ リビイング フォア
(全日空744便へ。先行機が北西12時か1時の方向、5マイル地点に日本航空ジャンボ機が高度4000フィートを通過中です)
トラフィック イン・サイト 744」(飛行機、目視しました。744)
先ほどと同じ場所である。オビツ付近は東から進入する飛行機と北から進入する飛行機が合流するので羽田空港がラッシュアワーのときは、どうしても飛行機同志が接近するのだ。管制官が114便に羽田進入のクリアランスを与えた。
エアシステム114 ディセント アンド メインテイン 2000 クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ アンド スピード 170ノット

東京湾上空地図
東京湾上空地図

(エアシステム114便へ。高度2000フィートに降下してください。滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します。スピードは170ノットにしてください)
木村副操縦士が復唱する。
アイドル VーNAV スピード
ふたりのパイロットコールし合って森田機長がフラップを5の位置にする指示を出す。
フラップ 5
ホールド
スピード170
クリア フォア アプローチ」(管制官から空港進入承認は貰っています)
コックピットでブザーが鳴って高度2000フィートに近づいたことを知らせる。
飛行機が又一機、北から東京アプローチの管制区に入って来た。
トウキョウ・アプローチ。オールニッポン66 リービイング 225 ディセンド トゥ 13000 インフォメーション インデア
(東京アプローチへ。こちら全日空66便です。22500フィート通過。高度13000フィートに向けて下降中。空港情報、I(インデア)を入手しています)
全日空66便は千歳発のボーイング747で、羽田到着予定19時である。
オールニッポン662 トウキョウ・アプローチ ディパート アミ ヘディング 200 ベクターファイナルアプローチコース ディセント アンド メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000 
(全日空66便へ。こちら東京アプローチです。阿見VOR上空を通過後、機首方向200度でレーダーによリ最終進入コースへ誘導します。8000フィートまで下降を許可します。阿見VOR上空は13000フィート以下で通過してください)
全日空66便が復唱すると東京アプローチは114便に羽田タワーへの移管を告げた。
エアシステム114。コンタクト トウキョウタワー 124.35
(エアシステム114便へ。以後は東京羽田空港タワーコントロールと連絡してください) 木村副操縦士がコールバックして、114便は東京アプローチ管制区を離れた。
いよいよ羽田空港ランディングだ。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第7回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第4章 羽田空港進入

 エアシステム114便のフライトドキュメンタリーは、着陸機で混雑する夕方のラッシュアワーに羽田空港へランディングする最大のクライマックスを迎える。
九州や関西、北海道から飛来した多くの飛行機が、レーダーで誘導されながら羽田空港へ進入する様子は、まさに迫真の航空ドラマである。
このドラマの主役はむろんエアシステム114便だが、それに航空管制官というもう一人の主役が加わる。
とくに進入管制(東京アプローチ)は、管制室でレーダーディスプレイを見ながら一人の管制官が、南や北からバラバラで接近する高度、方位、スピードなどが異なる航空機を、あるときは旋回させ、あるときは高度の変更を要求し、あるときは速度を減速させるなどしながらコントロールし、最後にはそれら飛行機を一列に整理して羽田空港の滑走路に導いてゆく。その様子はスリリングであり、管制官の技能に驚嘆すら覚える。
さて、迫真の航空ドラマの幕を開ける前に、登場人物ならぬ登場する航空機を紹介しておこう。これらの航空機はエアシステム114便が、羽田の進入管制東京アプローチに引き継がれてから出て行くまでの間に、東京アプローチの管制エリアで飛行している12機の航空機である。

便名 出発地 羽田到着時間 機種
ANA 90 沖縄発 1840 777
JAL368 福岡発 1840 747ー400
JAS314 福岡発 1835 777
ANA456 佐賀発 1840 767ー300
JAL106 大阪発 1820 747ー400
JAS216 青森発 1835 A300
ANA862 函館発 1840 767
ANA870 旭川発 1850 767
ANA744 釧路発 1855 767ー300
JAS114 千歳発 1845 777
JAL186 長崎発 1900 777
ANA 66 千歳発 1900 747

(12機の内、7機が南から。5機が北から進入)

 それでは音声を聴きながら”迫真の航空ドラマ”を堪能して頂きたい。

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★「続・機長席」挿入07

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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トウキョウ。オールニッポン862 スタディング バイ ディセント
(東京コントロールへ。全日空862便です。降下を始めてよろしいか?)
オールニッポン862。ラジャ。ディセント メインテイン 13000 クロス アミ アット 13000 QNH3018
(全日空862便へ。了解しました。高度13000フィートへ下降を許可します。阿見VOR上空を13000フィートで通過してください。気圧は30.18インチです)
3018 アミ 13000 スタンバイ イン ア ワン ミニッツ
(気圧30.18インチ 阿見、13000了解。一分後に降下を開始しますよ)
コックピットのスピーカーから函館発羽田行きの全日空862便、ボーイング747と東京コントロールの降下(ディセント)の交信が聞こえている。862便のパイロットの独特の喋べり方がユニークである。
すでに114便は飛行プランによる下降予定地点より少し手前で、東京コントロールの指示が出て下降を始めていた。
現在、高度18000フィート。夜のとばりに包まれた空を守谷VORを過ぎて茨城県霞が浦の西にある阿見VOR上空に向けて高度を下げている。
乗客へのサービスが完了したことを報告するためにキャビン・クルーがコックピットに入ってきて木村副操縦士と打合せをしている。
あとね
森田機長がキャビン・クルーに言った。
降下の指示がきたので降りています。ちょっと降下中、揺れますから気をつけて。ひどいときはベルトサインを入れますからね
はい。了解しました。とキャビン・クルーは機長に笑みを返して客室に戻っていった。
コックピットのスピーカーからは管制官と862便が交わすディセントの交信が引き続き聞こえている。
オールニッポン862。コンタクト 東京アプローチ119.1
(全日空862便へ。以後は東京アプローチ119.1メガヘルツへ連絡願います)
オールニッポン862。サンキュー グッデイ
(全日空862便。ありがとさん。ご機嫌よう)
東京コントロールが、周波数を119.1、羽田進入管制(東京アプローチ)へ連絡を取るように全日空862便へ指示をした。続いて全日空870便、旭川発羽田空港行きのボーイング767にも降下の許可を出す。
オールニッポン870。ディセント メインテイン 13000 クロス アミ アット 13000 QNH3018
(全日空870便へ。13000フィートまでの降下を許可します。そして阿見VOR/DMEを13000フィートで通過してください。気圧は30.18インチです)
ラジャ。ディセント アンド クロス アミ 13000 オールニッポン870
北からの飛行機がぞくぞくと霞ヶ浦に向かって降下を始めていた。霞ヶ浦の阿見町にある航空無線標識(VOR)は、羽田空港へ向かう北からの飛行のゲートウェイなのだ。
逆に羽田から北へ向かう場合は、阿見VORの西にある守谷VORが、北へのゲートウェイになる。
管制官は全日空862便のすぐ後を飛行しているエアシステム114便へ、羽田進入管制東京アプローチへ移管する交信を始めた。
エアシステム114。コンタクト トウキョウ アプローチ119.1
(エアシステム114便へ。以後、東京進入管制、周波数119.1メガヘルツへ連絡してください)
エアシステム114。119.1
周波数の復唱をした木村副操縦士は、コックピットの無線周波数を東京アプローチ119.1に切り替えて進入管制を呼んだ。
トウキョウアプローチ。エアシステム114。リービング169 ウィズ インデア
(東京アプローチへ。こちらエアシステム114便です。現在高度16900フィートで下降中。羽田空港のATIS I(インデア)を聞きました)
すぐに東京アプローチ管制官のきびきびした早口トーンの交信が返ってきた。世界でも交通量が多い羽田空港へのアプローチの緊張感が伝わってくる。
エアシステム114。トウキョウ・アプローチ ラジャ。アンド ディパート アミ ヘディング200 ベクターフアイナルアプローチコース デイセント メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(エアシステム114便へ。こちら東京アプローチです。了解しました。阿見VORから機首方向200度でレーダーによるファイナルアプローチコースに誘導します。高度8000フィートまでの下降を許可します。阿見上空は13000フィート以下で通過してください)
阿見VORは成田の北西に位置するので、成田空港と羽田空港の空域が隣接するため飛行制限が厳しい。

羽田空港周辺地図
羽田空港周辺地図

ディパート アミ ヘディング200 ディセント 8000 クロス アミ アット オア ビロー13000 エアシステム114
(阿見で機首方向200度。下降許可、8000フィート。阿見通過は高度13000フイートより下。エアシステム114了解しました)
木村副操縦士のリードバックは無駄がない。必要なことを簡便明快に管制官に伝えた。 114便は今、上空の航空路をコントロールする東京コントロールの関東北セクターからレーダーで引き継がれ、羽田空港の管制区内で進入管制(東京アプローチ・コントロール)のレーダーの中にいるのだ。
エアシステム216。リデュース スピード トゥ 210ノット
(エアシステム216便へ。エアースピードを210ノットにしてください)
東京アプローチの管制官は、房総半島から東京湾に向かって飛行くるエアシステム216便、青森発羽田行きエアバスA300の飛行スピードを減速するように指示を出した。
東京アプローチの管制エリアは、羽田空港を中心に東京湾。房総半島南から、房総半島東の銚子、成田を除いて北は霞ヶ浦までである。
スピード。210ノット エアシステム216
(210ノットにします。エアシステム216)
管制官はレーダースコープに映っている進入機の飛行間隔を考えてスピードを調整し、パイロットはその指示通りに飛行する。210ノットと言えば、時速約380キロである。 過密している空域では管制官の指示ミスは、航空機のニアミスはおろか空中衝突の危険すらある。管制官の業務は人並みはずれた集中力と冷静さを要求される仕事なのである。
オールニッポン90。ターンライト。ヘディング050
(全日空90便へ。右旋回して機首を50度方向にしてください)
房総半島の西を飛行している沖縄発羽田行きB777ー300全日空90便が復唱する。
オールニッポン90。ライト 050
下降につれてコックピットが暗くなってきた。森田機長がロゴライト(尾翼の会社マークを照らすライト)の点灯を指示する。
はい。ロゴライト。オン」と木村副操縦士。
釧路発の全日空744便、ボーイング767が144便のあとを追って北から進入して東京アプローチに引き継がれた。
オールニッポン744。トウキョウ・アプローチ。ディパート アミ フライヘディング 200 ベクターファイナルアプローチコース ディセント メインテイン8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(全日空744便へ。こちらは東京アプローチです。阿見VOR通過後は機首方位を200度にしてレーダー誘導による最終進入コースを飛行してください。8000フィートまでの下降を許可します。阿見VORは13000フィート以下で通過してください)
エアシステム114便は高度を下げ続ける。高度14700フィート通過(約4400メートル)。風は303度方向(西北西)から38ノット吹いている。
現在、196度方位に向かっているが、右横からの向かえ風のために機首は200度を指している。まもなく阿見VORだ。
左前方に薄暗い霞が浦の湖面が広がり、湖畔から千葉市にかけて街の灯がオレンジ色に連なって輝いている。
トランジッション3018
木村副操縦士が気圧高度計の数字を30.18にセットしてコールした。森田機長も左サイドの高度計の目盛を合わせる。
管制官が空港の気圧が変化するたびに連絡してくるのは、空港の気圧に飛行機の気圧高度計の数値を合わせるためである。
飛行機の高度計は二種類ある。電波高度計と気圧高度計である。電波高度計は飛行機から地面に向かって電波を発信し、電波が地面にあたって跳ね返ってくる時間を測定して高度を読む。0から2500フィートが指示範囲である。
もうひとつが気圧高度計である。高度が高くなるにつれて気圧が低くなる関係を用いて高度を測定する。こちらがメインの高度計である。
オールニッポン90。リデュース スピード トゥ 210ノット
(全日空90便へ。エアースピードを210ノットに落としてください)
ソーリー オールニッポン090? 90? セイ アゲイン
(すみません。全日空090ですか? 90ですか? もう一度お願いします)
狭い管制エリアに飛行機が集中しているので、管制コントローラーの声も早口になり、聞き取り憎くなる。パイロットも全身耳にして聞き取る。
オールニッポン90 リデュース スピード 210ノット
(全日空90便へ。エアースピードを210ノットに減速してください)
オールニッポン90 リデュース 210ノット
管制官はエアシステム314便、福岡発羽田行きボーイング777の速度もコントロールする。
エアシステム314 リデュース スピード 210ノット
(エアシステム314便へ。エアースピードを210ノットに落としてください)
エアシステム314。ラジャ
前述のように、今日は羽田空港の着陸使用滑走路は16レフト。VOR/DMEアプローチという進入方式で着陸する。
南と西からきた航空機は、レーダー誘導で千葉県の御宿VOR付近から木更津東のオビツ、そして東京湾の真中にあるジョウナン、湾岸にある江東VORから左旋回で羽田空港に着陸する進入路で、(羽田空港進入方式VOR/DME16図参照)北から進入する航空機は阿見VOR手前からレーダー誘導され、房総半島のオビツで北からの航空機のルートと合流してそのあとは、同じコースで羽田空港に着陸する。
又一機、航空機が東京アプローチ管制区に入って来た。福岡発日本航空368便ボーイング747ー400である。房総半島の南を御宿VOR方面に向かって飛行している。
アプローチ。ジャパンエア368。190 フォア 160 インフォメーション インデア
(東京アプローチへ。日本航空368便です。現在高度19000フィートから16000フィートへ降下中。空港情報ATISのI(インデア)を聞いています)
ジャパンエア368 グッドイブニング トウキョウ・アプローチ フライヘデング080 ベクターファイナルアプローチコース ディセント メインテイン 10000
(日本航空368便へ。こんばんは。東京アプローチです。機首を80度方向にしてレーダー誘導で最終進入コースへ入ってください。高度10000フィートまでの飛行を許可します)
南からの日本航空368便には、阿見VORから進入する北からの航空機への指示とは内容が当然違ってくる。進入は房総半島の御宿VORが起点となる。
へディング080 ディセント 10000 ジャパンエア368
(機首方向80度(東北東)で、10000フィートまで下降します)
オールニッポン456。コンタクト トウキョウタワー 124.35
(全日空456便へ。以後は羽田空港タワー管制。124.35メガヘルツに連絡してください)
佐賀発羽田行きボーイング767.456便は東京アプローチ管制区から羽田空港タワー・コントロールへ引き継がれた。羽田空港へ最終進入をして着陸するのである。
オールニッポン456。124.35
(全日空456便(函館発羽田行き747)。124.35へ連絡します)
オールニッポン862。ディセンド メインテイン 3000
(全日空862便へ。3000フィートまで下降してください)
862。ディセンド メインテイン 3000 8500 サンキュー オールニッポン862
(全日空862便。現在高度8500フィート通過。3000フィートまで下降しますよ。ありがとさん)
フリクエンシー ユー アー ナンバー8 アプローチ
(貴機の進入順番は八番目です)
ナンバー 8。オールニッポン862
現在、114便は阿見VOR上空だ。眼下には霞ヶ浦が暗い海のように闇の中に浮かび、前方には千葉と東京の灯が広がりる。
霞ヶ浦ですね。ヘディング・ホールド
機長がコールして機首200度方位の現在の針路を保持した。エアースピードは290ノット、時速約550キロだ。
エアシステム314。リデュース スピード 190ノット
エアシステム314便にエアースピードを210ノットから190ノットへ落とす指示である。
エアシステム314。ラジャ
114便のコックピットレーダーには、羽田空港へ最終進入を待つ多くの飛行機の機影が映っている。その中で114便に最も近い飛行機を確認して木村副操縦士が報告した。
先方機は18マイル向こうにいますね
夜の闇で肉眼では見えないが、レーダー視程で18マイル、およそ33キロ前方に機影を表わす小さな菱形のマークがナビゲーションディスプレイに映っている。
そのとき管制官が福岡発のエアシステム314便に、離陸上昇中の飛行機が近くにいることを知らせてきた。トラフィック・インフォメーションである。
エアシステム314 デパーチャ トラフィック ユア カンパニー トリプル7 イレブンオクロック 7マイルズ ノースバウンド。ファイブ ポイント ツウ クライミング
(エアシステム314便へ。貴社の北ヘ向かうトリプル7(羽田発18時00の千歳行き、エアシステム119便のこと)が、11時方向7マイル先を上昇中です)
トラフィック イン・サイト 314」(飛行機を確認しました。314便)
羽田空港を出発する飛行機はデパーチャーコントロールの管制官が担当しているので、アプローチコントロールとは周波数が違う。だからその交信は聞こえない。
今、この夜の東京湾上空には進入する飛行機だけでなく出発する航空機も多く、それらを合わせると時速400キロ以上で飛ぶ二十機以上の飛行機が、東京湾を中心とする狭い空域にひしめき合っているのだ。
並みはずれた集中力を必要とする管制官の緊張感がひしひしとその音声から伝わってくる。全日空90便が御宿VOR上空に近づいた。
オールニッポン90 ターンレフト 360 インターセプト コートー140レディオ
(オールニッポン90便へ。左旋回して機首を360度(北)に向けて江東VOR/DMEのラジアル140度のコースへ会合しその方向へ進んでください)
オールニッポン090。ヘディング 360 インターセプト コートー レディオ140
オールニッポン90 ア ファーマティブ
(全日空90便へ。その通りです)
エアシステム114便は高度12000フィートを通過して順調に下降を続けている。
スピード 250
機長はエアースピードを250ノットにする指示をした。
ヘディングセレクト
同時に機首を200度方位にして、その表示の変化をふたりのパイロットがコールする。
ここで現在、東京アプローチの空域にいる飛行機の位置を確認しておこう。
羽田空港の最も近くで飛行しているのが、福岡発エアシステム314便。次が青森発エアシステム216便で千葉市の東にいる。
全日空90便は房総半島の御宿地点でこれからオビツに向う。大阪発日本航空106便がその後方から御宿に向かって飛行している。その後に福岡発日本航空368便が続いている。函館発全日空862便と千歳発エアシステム114便は、約18マイルの間隔で並んで阿見VOR付近から千葉市の東に向けて降下中である。そして旭川発全日空870便と釧路発744便がその後方を飛んでいる。
エアシステム314。ディセント メインテイン 2000 クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(エアシステム314便へ。高度2000フィートまで下降して滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します)
東京湾上をジョウナンに向けて下降している福岡発エアシステム314の777に羽田への最終進入の許可が出た。
エアシステム314。2000。クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
続いて管制官はエアシステム216便、青森発羽田行きエアバスA300にトラフック・インフォメーションをした。
エアシステム216 プロシード トラフィック カンパニー アンド 1オクロック5マイルズ ノースウエストバウンド トリプルセブン ・・・
(エアシステム216便へ。一時方向、5マイル先に北へ向かう上昇中の貴社の777がいます)
イン・サイト」(確認しました)
ジャパンエア106 リデュース スピード 210ノット
(日本航空106便へ。エアースピードを210ノットにしてください)
ジャパンエア106 リデュース スピード 210
ジャパンエア368 ターンレフト ヘディング040 ディセント メインテイン 3000
(日本航空368便へ。左旋回して機首を40度(約北北東)に向けて、高度3000フィートまで下降してください)
エアシステム314 コンタクト トウキョウタワー 124.35
(エアシステム314便へ。以後は羽田空港タワー・コントロール124.35メガヘルツへ連絡してください)
福岡発のエアシステム314便、ボーイング777は、東京アプローチのエリアを出て、着陸をコントロールするタワー・コントロールに引き継がれた。
エアシステム314。グッディ
そこはもう東京湾ですから
木村副操縦士が指差す眼下には、浦安のディズニーランドの夢のような光の渦。幕張のスタジアムには七色のナイター照明が輝き、千葉市にかけて街の灯が帯びのように長くきらめいる。その向こうの東京湾の広がりと、遠く僅かな夕日の残光を背にした富士山がシルエットになって聳えている。
富士山がきれいですね
思わず森田機長も計器から目を離して暮れゆく空に聳える富士山を眺めた。
エアシステム216。ターンライト ヘディング350 インターセプト コートー140レディオ
(エアシステム216便へ。右旋回して機首方向350度(ほぼ北)にして江東VOR/DMEの140度ラジアルのコースへ向かってください)
青森発のエアシステム216便A300に、江東VOR/DMEに向かってを右旋回せよ、という指示である。216便が復唱して右旋回に移った。
114便の高度は8000フィートに近づいた。木村副操縦士が東京アプローチにレポートする。管制官はそのまま3000フィートまでの下降許可を出した。木村副操縦士がコールバックする。
エアシステム114。3000
(エアシステム114便。引き続き高度3000フィートへ下降します)
3000
森田機長が確認する。東京アプローチの管制官はすぐ日本航空106便を呼んだ。
ジャパンエア106。ターンライト ヘディング060
(日本航空106便へ。右旋回して機首を60度方向(ほぼ東北東)にしてください)
ジャパンエア106。ヘディング060
オールニッポン862。ターンレフト ヘディング180
(全日空862便へ。左旋回して機首を180度(南)にしてください)
オールニッポン862。コンファーム。ヘディング180?
(全日空862便です。確認します。機首は180度ですか?)
ア ファーム」(その通りです)
ラ〜ジャ
東京アプローチ管制官の流暢、かつテンポがある音声コントロールが続く。
エアシステム216。ディセント メインテイン 2000 スピード 190ノット
クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ

(エアシステム216便へ。下降して高度2000フィートを維持し、スピードを190ノットにしてください。滑走路16レフトへ向かってVOR/DMEアプローチを許可します)
高度3000フィートで東京湾にさしかかる青森発エアシステム216、A300が復唱する。
エアシステム216。2000 エアスピード 190 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
114便のコックピットでは、森田機長がCDUにジョウナンから機首320度で江東VOR/DMEの進入コースがセットされているか確認の指示した。
セット。CDU ジョウナン インターセプトコース 320
(CDUにジョウナンへ320度でアプローチするコースをセットしてください)
ジョウナン 320。モデファイ
木村副操縦士がセットしコールする。これで777は自動的にアプローチコースに乗る準備が整った。
イクスキュート」と機長。
ラジャ」と副操縦士。
房総半島の東を御宿VORに向かって高度を下げている福岡発の日本航空368便、ボーイング747ー400に管制官が指示した。
ジャパンエア368。アフターリービング テン タウザンド リデュース スピード 210ノット
(日本航空368便へ。10000フィートを通過後、スピードを210ノットに押さえてください)
日本航空368便が復唱するのを聞いて、管制官は東京湾の真中、ジョウナン付近を高度2000フィートで江東VOR/DMEに向かっているエアシステム216便のスピードを調整する。
エアシステム216。リデュース スピード 170ノット(エアシステム216便へ。スピードを170ノットに落してください)」
そして羽田空港タワー・コントロールに周波数を変えるように交信した。
エアシステム216 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35
続いて、管制官は日本航空106便を呼ぶ。
ジャパンエア106 ターンレフト 030
(日本航空106便へ。左旋回して機首を30度に向けて飛行してください)
ジャパンエア106 ヘディング 030
オールニッポン870 トウキョウアプローチ ラジャ デパート アミ ヘデング200 ベクター トゥ ファイナルアプローチコース ディセンド メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(全日空870便へ。こちら東京アプローチです。了解。阿見上空で機首方向200度でファイナルアプローチコースへ誘導します。高度8000フィートまでの下降を許可します。阿見VOR上空では高度13000フィート以下で飛行してください)
全日空870便は旭川から飛来したボーイング767だ。東京コントロールから東京アプローチの空域に入ってきた最初の交信である。870便が復唱する。
ディパート アミ ヘディング200 ディセント 8000 クロス アミ アット ビロー 13000
ある管制官は言う。『レーダー上には便名や高度は表示されますが、航空機の方位や速度は表示されないので、空域の中にいる各航空機の状況を全部記憶するんです』
彼等は頭の中に空域の中で様々な高度や方位、速度で飛行する航空機の立体的な映像を作り上げ、自分のイメージ通りに空域に分散した飛行機を滑走路という一点に集めるのだ。 管制官がコントロールする音声を聞いているとオーケストラを指揮するコンダクターを思わせる。この管制技能は厳しいシュミレーションによる訓練の賜物なのだ。
一分間隔で飛行機間の距離3マイルで並べるとか、30分で12機降ろすなど過酷な状況をシュミレーションでトレーニングするという。
東京アプローチの管制官は房総半島東の御宿付近から進入してくる日本航空106便に左旋回を指示した。
ジャパンエア106 ターンレフト ヘディング350 インターセプト コートー140レディオ
(日本航空106 左旋回して機首を350度方向にして江東VOR/DMEの140度コースに乗ってください)
日本航空106便が復唱すると、次に管制官は北から進入している全日空862便を呼んだ。
オールニッポン862。ターンライト ヘディング220
(全日空862便へ。右旋回して機首を220度にしてください)
ライトターン 220 862
続いて管制官は114便を呼ぶ。
エアシステム114 ターンレフト ヘディング180 フォア アライバル スペーシング
(エアシステム114便へ。着陸スペースを空けるために左旋回して機首方向180度(南)にしてください)
レフト 180 エアシステム114
木村副操縦士が答えると森田機長は「レフトクリアー」と左側の空を目視確認して南に機首を向けた。そしてエアースピードを230ノットに落とす。やや迂回となる機首方位を指示されたので少し減速させる判断であった。
エアースピード 230
114便は千葉市のすぐ東(アビオン付近)を木更津の東にあるオビツに向かって南下している。右手に千葉と東京湾が見えている。
ここでもう一度、羽田空港の滑走路16レフトへ進入するルートを確認しておこう。羽田進入方式16レフトは南や西から飛来した航空機(この時点では大阪からの日本航空106便、沖縄からの全日空90便)は、御宿VORからレーダー誘導されオビツに向かって下降する。北から来た飛行機、エアシステム114便、函館からの全日空862便などは千葉市の東アビオン経由でオビツに向かってレーダー誘導され羽田に進入する。そしてオビツで南北の進入路が一緒になるのだ。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第6回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第3章 クルージング_2

 114便は五番目の通過点CANNA(北緯37度56分6 東経140度41分5)をフライオーバーして航空路Y10を茨城県の大子に向かって飛行している。
あと8分ほどで114便は降下を始めるのであった。
それに先立ち、コックピットクルーは羽田空港の最新のインフォメーションを知る必要がある。電送又は音声で空港情報ATIS(アティス)を入手する。

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★「続・機長席」挿入06atis.

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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トウキョウインターナショナル エアポート インフオメーション I(インデア)
0900 VOR/DME アプローチ ランディングランウェイ16レフト ディパーチャー ランウェイ 16ライト ディパーチャーフリクエンシー126デシマル0
ウィンド 200ディグリー 19ノット マキシマム29ノット ミニマム13ノット ビジビリティ30キロメーター ブロークン ハイトアンノーン テンパラチャー14 デューポイントー1(マイナス・ワン) A3018インチ アドバイス ユー ハブ インフォメーション インデア

(東京国際空港の9時(日本時間18時)のインフオメーションI(インデア)です。
空港への進入方式はVOR/DMEアプローチで、着陸滑走路は16レフト。離陸滑走路は16ライトを使用しています。出発管制の周波数は126.0メガヘルツです。
風は200度方向(ほぼ南南西)より19ノット吹いています。最大風速が29ノット、最小が13ノットです。視界は良好で30キロメートル。雲はありません。
気温は摂氏14度で露点温度はマイナス2度、気圧3018インチです。
インフォメーションI(インデア)を受信したことを通報してください)

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★「続・機長席」挿入06

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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エアシステム羽田ディスパッチルームが羽田周辺の天気情報を電送でアップリンクしてきた。
コミニュケーション」と森田機長が液晶ディスプレイを確認しながら下降(ディセント)のフリーフィングを始めた。
東京アプローチのインフォメーションです
副操縦士もメモを取りながら聞き入る。
アバーブ24000でライトタービランス。イクスペクテッド 関東エリア。ビロー 24000 スムーズ エクスペクテッド あとビロー 7000 オケージョナリー ライトマイナスタービランス
(24000フィート以上で軽いタービランス(乱気流)があります。関東エリアです。そして24000フィート以下はスムーズに下降できます。あと7000フィート以下で場合によっては軽い乱気流が予測されています)
キャンセルメッセージ」と機長が言って次の項目へ進もうとした時、ナビケーション・ディスプレイのレーダー画面に対向してくる飛行機の機影が映った。
トラフィック。ワンオクロック ハイ」(飛行機が上空一時の方向にいます)
木村副操縦士がコールする。
イン・サイト
森田機長が目視して確認する。パイロットが目視で他の飛行機を探知可能な距離は約20マイル(約36キロ)前後の範囲である。
エア・ドゥ15 ラジャ ナウ クライム フォア 410
羽田空港を17時25分に離陸し高度39000フィートで新千歳空港にむかっているエア・ドゥ15便、ボーイング767ー300が乱気流のため高度41000フィートに上昇する許可を東京コントロールに貰う交信を傍受する。
41000!
114便の右前方彼方を飛ぶエア・ドゥ機に、森田機長が感嘆の声を上げた。41000フィートの高高度飛行を飛行できる機種はそう多くない。ボーイング777でも重量が重いと上がれない時もある。
再びATISを電送で取って、木村副操縦士が羽田空港の情報を再確認する。
東京はVOR/DME。16のレフト。200の17ノットですね
(東京のアプローチはVOR/DME(これをボルデメと発音する)方式で、滑走路は16レフトを使用。滑走路上の風は200度方向から17ノットですね)
了解
確認して森田機長は下降のブリーフィングを再開した。
それではフラップス30。オートブレーキ2(着陸時のフラップは30度、オートブレーキは2の位置です)」
ディセント・プリパレーション
森田機長が降下に関しての打合せの指示を出した。
スポット(羽田空港到着時のゲート)は2番です。滑走路16レフトの場合は特に大きなノータム(空港の情報)はありませんので。マイサイド ディセントプリパレーション コンプリーテッド(完了です)」
木村副操縦士は自分側の各種の準備を終えて言った。
旅客機の場合は、下降、進入、着陸、そして着陸が出来ない場合の着陸やりなおし(コーアラウンド)の手順などを下降開始前に打ち合わせてしまう。下降や進入に入ると時間がないからだ。
ユー ハブ コントロール
アイ ハブ コントロール
森田機長は副操縦士と操縦を交代して、手元のデーターを見ながらいろいろなセットを行い着陸時の打合せを始めた。
ランディング ブリーフィング。シップ、OK。ノータム了解しました。とくになし。(使用滑走路は)ランウェイは16レフト。(滑走路上の風は)200度17ノット。ライト、クロスですね
羽田空港の着陸時は滑走路右側からの横風(クロスウィンド)になることを確認して森田機長はブリーフィングを続けた。
天気は良好。ノーシーリング。14度の2度 3019
今日の羽田空港の天気は良好だが風は強い。雲はなく視界は良い(ノーシーリング)。気温は摂氏14度。露点温度は2度、気圧は3019インチと高気圧であった。
シーリングとは雲底高度、すなはち地上から見た雲の高さのことで、もし羽田空港のシーリングが1000フィート以下では、このVOR/DME16レフトの進入方式では着陸することが難しいのである。
ボルデメ(VOR/DME)16レフト。レーダーベクター(レーダー誘導)」
打合せは空港への進入方法に移った。
羽田空港には何種類かの進入方法があり、そのときの風や雲の状態を見て空港管制官が決める。
今日の羽田空港のアプローチ方法は、VOR/DME16レフトと呼ばれる方法で、九州や大阪など南から飛来した飛行機は千葉県の御宿上空で左旋回し、機首方向320度で房総半島を横断して東京湾に出て、東京湾の真中に設定されたポイント、ジョーナン、湾岸にある江東VORをえて羽田空港滑走路16レフトに着陸する。
114便のように北から進入する飛行機は、霞ヶ浦の西にある阿見VOR上空から千葉市の東を通り、右旋回して南の飛行機と合流して機首方向320度でジョーナンに至る。ジョーナンから南の飛行機と同様に羽田空港滑走路16レフトに着陸する。
南北どちらにしても、ほとんどの場合、羽田空港の進入は管制アプローチコントロールによるレーダーで最終進入コースまで誘導される。
MDAが1000ですね。江東(VOR)へはインバウンド320度。コンストレインはさっき言った通りです。LーNAVでファイナルコースへ飛行します。江東(VOR)以北(東京の市街地)は、騒音関係であまり北に行かずに早めに曲がりますから
江東VORから北は東京の市街地が広がっているので、飛行には細かい騒音規制があるのだ。
次に森田機長は着陸やりなおしの場合を想定した打合せをおこなった。
最後はフライパス・ベクターはマイサイドでアプローチします。ゴーアラウンドは、アイ コール ゴーアラウンド・フラップ。ポジティブ・クライムでギヤアップ。ミスアプローチコースに沿って浦賀、舘山方向に飛行します。高度は4500(フィート)上昇。早めにコンタクトしてもらって再度、(レーダー)ベクター(誘導)を受けます
最後に機長は滑走路への着陸と着陸あとの事柄にふれた。
ヴァーチカルに関しては、VNAVパスで。多分ダウンウィンド1500くらいまではいきますから。ランディングフラップスは30。VTGはプラス6で130を予定しています。オートブレーキ2。一応降りたら(着陸したら誘導路は)チャーリー(C)4、ジュリエット(J)3を考えています。スポットは2番予定ね。何かありますか?
ありません」木村副操縦士が答えて進入、着陸時の打合せが終わった。
アイ ハブ コントロール
ユー ハブ コントロール
ふたりはコールし合って操縦を交代する。114便は降下(ディセント)準備が完了した。降下ポイントまであと30マイルである。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第5回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第3章 クルージング

 現在、114便は盛岡市の北北東、北緯40度00分2 東経141度19分2にある四番目の通過地点PANSYを過ぎて、岩手県の花巻に向かって飛行をしている。
飛行高度は39000フィート。離陸して25分になる。
先ほどから気流の乱れで少し揺れが続いていた。

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★「続・機長席」挿入05

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 エアシステム137便東京発釧路行きのMDー90が、宮古上空を北に向かう交信を聞きながら木村副操縦士が言った。
これ以上、揺れが強くなるなら(高度)41000(フィートの飛行)を考慮したほうがいいと思います
39000フィートの上を飛行するとなれば、磁方位202度で飛行しているので高度43000フィートでの飛行となるが、北行きの高度41000フィートも許可されることもあるのだ。すれ違う航空機の衝突やニヤミスを避けるために、航路上では磁方位が180度から359度までの航空機は奇数の高度設定。
0度から176度の航空機は偶数の高度と定まっている。そしてそれぞれ1000フィートの高度差を取る。高高度29000フィート以上では2000フィート毎に決められている。
西の空に太陽が沈んだ。
それでも39000フィートという高高度ではまだ明るさが残っているが、地上はすっかり暗くなり、残雪を抱いた山々が薄い闇を透して青白く浮きだして見えている。
サッポロコントロール。オールニッポン780。フライトレベル390
17時15分、114便の前に千歳空港を離陸した全日空780便大阪行きの747が、39000フィートに上昇してきた。35000フィートの飛行は気流が悪く39000フィートの巡航高度に変更した様子である。
下界には雲もなく気持良く澄み渡っているので、見た目にはとても気流が悪いとは思えないが、予報通りに20000フィート前後と35000フィートから37000フィートにかけて晴天乱気流(キャット)がある様子で、飛行機が続々と高高度に集まってくる。
オールニッポン780。ラジャ
つづいて管制官は日本航空846便へ札幌コントロールから東京コントロールへ移管する交信を入れた。
ジャパンエア846 コンタクト トウキョウコントロール 118.9 ジャパンエア846 コレクション トウキョウコントロール 124.1、124.1 」(日本航空846便へ。以後は東京コントロール 118.9メガヘルツへ連絡して下さい。日本航空846便へ。訂正します。東京コントロール124.1、124.1です)
124.1 ジャパンエア846」(124.1。日本航空846便了解しました)
サッポロコントロール。オールニッポン66。リービイング153。クライミング350」(サッポロコントロールへ。全日空66便です。高度15300フィートを高度35000フィートに向かって上昇中です)
オールニッポン66。サッポロコントロール。ラジャ
アンド リクエスト 390?」(それから、39000フィートの飛行許可を貰えますか?)
航空路上で同一高度の飛行機間のインターバルは20マイルなので、その距離が取れるスペースが高度39000フィートにあるかぎり管制官は許可を与える。
オールニッポン66 ラジャ。クライム アンド メインテイン 390
(全日空66便へ。39000フィートの飛行。了解しました)
サンキュー クライム 390 オールニッポン66
全日空66便、17時30分千歳空港を離陸して114便のあとを羽田空港に向かうボーイング747ー400の交信を聞きながら森田機長が呟く。
みんな39000(フィート)だね
35(35000フィート)あたりに(晴天乱気流)があるんですね」と木村副操縦士。35000フィート付近での気流の乱れを確認するように言った。
114便は盛岡市のすぐ東にさしかかった。
今は丁度、花巻の北だな。(花巻まで)40マイルあたりか・・
森田機長がナビゲーションデスプレイに表示された近隣の空港の位置を見ながら言う。
そこに栗駒山がありますね
青白く雪がのった岩手県の栗駒国定公園の山々が、くっきりと、まるで箱庭に作ったの山のようにディテールを見せている。まだ100マイル(約185キロ)以上先だが、この高度からであると「そこ」に思えるほど、すぐ下に真近に見えるのだ。
鳥海山はあれか・・
機長が今度は栗駒山の右手、少し遠くを指差した。
成層圏から見ると日本は驚くほど狭い。太平洋と日本海が僅かに首を回すだけで一望できる。高度39000フィートのクルージングは、コックピットの機窓に素晴らしいパノラマ風景を映しだしている。このパノラマだけは、絶対に客室では味わえないここ操縦室だけのものなのだ。
あの辺は岩手山ですね
副操縦士も右窓に顔を寄せて飛行機の真下を見ながら言った。
岩手山の右の方に山に筋が沢山あるところは、あれは安比のスキー場ですね
777ではエンルートの観光説明が機長のマニュアルからなくなった。日本エアシステムのレインボー7の全座席には液晶モニターテレビが装備され、機外の景色や刻々と変わる飛行位置を日本地図の上で確認出来るキャビン・インフォメーション・システムが乗客サービスとして加わったので、機長アナウンスも挨拶程度に簡素化され、乗客はゆっくりと好みのビデオ番組や飛行情報などを楽しめる配慮がなされている。
サッポロコントロールが114便を呼んできた。東京コントロールへ管制エリアが変わるのだ。
エアシステム114。コンタクト トウキョウコントロール124.1
続いて全日空744便にも同じ交信をした。木村副操縦士が周波数を124.1に変えるとキャセイ航空883便が120.5周波数の東京コントロール中部セクターに出て行く交信を傍受する。
124.1?
一瞬、森田機長が小首を傾げる。
普通、新千歳空港から羽田空港に飛行する場合、北のサッポロコントロールから東京コントロールへ引き継がれると、まず、東京コントロールの東北セクター118.9メガヘルツにコンタクトする。そして東京に近づくと茨城県付近で関東北セクターに引き継がれる。その周波数が124.1メガヘルツなのである。
だが、今日の管制は東北セクターをとばして関東北セクターへ引き継いだのである。
いきなり飛んでしまったみたいですね。トラフィック(航空機)が少ないのですかね?」 木村副操縦士も怪訝な顔をした。
トウキョウコントロール エアシステム114 レベル390」副操縦士に代わって機長が管制官呼び掛けた。
エアシステム114。ラジャ
交信は簡単に終わった。114便は東京コントロールのエリアを南南東にクルージングを続けた。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第4回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第2章 津軽海峡上昇

 114便は高度16000フィートを通過して高度39000フィートの空へ上昇を続けている。
離陸して7分後にウェイ・ポイントのトビーを過ぎた。そして航空路V10に入り、三番目のウェイ・ポイント、LARCH(ラーチ)上空に向かって約40ノットの追い風を受けて飛んでいる。LARCH(ラーチ)は、北緯41度32分2 東経141度47分9の青森県下北半島の東の洋上にある通過ポイントだ。

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★「続・機長席」挿入04

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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ユー ハブ コントロール
森田機長は飛行機の操縦を木村副操縦士に代わった。
アイ ハブ コントロール」木村副操縦士が椅子を前方に動かして操縦桿を握る。
ジーっと油圧で動く椅子の音が、コックピットの風の音に混じって響く。
ふたりのパイロットは、飛行途中に何度か操縦を代わるが、操縦桿を渡すパイロットは必ず、YOU HAVE CONTROLL、操縦桿をするパイロットは、I HAVE CONTROLLと連呼しあうのが決まりである。
操縦をするパイロット(PF。パイロット・フライング)と操縦をしていないパイロット(PNF。パイロット、ノット、フライング)はそれぞれの役割分担がはっきりと定められている。その区分を明確にしてそれぞれの業務を確実に行うことが二名乗務で運航する航空機の最も重要なことのひとつである。
ユー ハブ ATC」(管制交信をお願いします)と森田機長。
アイ ハブ ATC」(了解しました)と副操縦士。
森田機長は飛行データーを眺めながら、これから行う機長アナウンスの内容を作り始めた。
エアシステム114 コンタクト サッポロコントロール 124.5
(エアシステム114便へ。以後の連絡はサッポロコントロール124.5メガヘルツにしてください)
エアシステム114。サッポロ 124.5
114便をレーダーでコントロールしていた千歳ディパーチャーから、管制区が航空路管制(ACC)に移管された。木村副操縦士は無線周波数を124.5メガヘルツ札幌コントロールに変えた。

そのとき、機内電話のコールがピンポンと響く。
もしもし、(114便が)巡航(水平飛行)になるのは41分(5時41分)ね。降下開始は次の時間(6時)の06分を予定しています」と機長が話す。
ハイ」と電話の向こうで関谷チーフパーサーが答える。
気流はところどころ、軽い揺れはありますが大旨良好です。これから定刻着で機長アナウンスをします
はい。了解しました」と関谷チーフパーサー。この機内通話はすべてのキャビンアテンダントが同時に聴いている。
アフターも了解いたしました」と後部の客室を担当するキャビン・アテンダントも答えた。その間に、木村副操縦士はサッポロコントロールと最初の交信を行っていた。
サッポロコントロール。エアシステム114。リービング178。クライム トゥ 390
(サッポロコントロールへ。こちらエアシステム114便です。現在17800フィート(約5400メートル)を過ぎました。高度39000フィートへ上昇中です)
エアシステム114。サッポロコントロール ラジャ」(サッポロコントロール。了解) ロシアの管制官を思わせる太い声が返ってきた。

森田機長がアナウンスを始めた。
ご搭乗の皆様、こんにちは。今日も日本エアシステムの東京行きレインボーセブンをご利用頂きましてありがとうございます。機長の森田です。副操縦士、木村とともに当機を担当しております。当便は定刻若干前に出発し現在、順調に飛行を続けております。えー上昇しておりますが、飛行高度39000フィート、11900メートルで東京、羽田空港に向かいます。現在のところ羽田空港到着予定時刻は定刻の18時45分、午後6時45分を予定しております。天候は良好です。航路上の気流も安定しております。ごゆっくりお寛ぎください。東京地方、現在南の風、10メートル。晴れ。気温は摂氏15度と報じられております。途中、何かご用の節はご遠慮なく客室乗務員にお申し出ください。ご搭乗ありがとうございます
アナウンス中に、114便のすぐあとを飛行している全日空712便がサッポロコントロールへ移管する交信が聞こえた。コックピットのNDデスプレイには、全日空機の機影が20数マイル後方に映っている。
777には衝突防止装置TCASが装備されている。他の航空機が近ずくと警報が鳴りデスプレイの表示の色が変わり注意を喚起するようになっている。
機体が気流に捕まり、小さい揺れが続いく。

アイ ハブ ATC
森田機長が管制交信を聞く意志を副操縦士に伝えた。
管制官との交信は操縦を担当していないパイロット(PNF)が行うが、その内容は操縦を担当しているパイロット(PF)も同時に聴いて何かあれば、その都度、指示を出すのがコックピットワークである。トイレに行ったり、今みたいにアナウンスをするときなどは、ATC(エアー トラフィック コントロール)の交信を聴くことができないので、アナウンスが終わったあと「アイ ハブ ATC」とコールし通常の担当に戻るのである。
ユー ハブ ATC」木村副操縦士が答えて、管制エリアが変わったことを報告した。
サッポロコントロールにハンドオフされました
サッポロコントロール。オールニッポン426。リービング383 トゥ 390
(サッポロコントロールへ。全日空426です。現在38300メートルを過ぎて39000フィートに上昇中です)
この全日空426便は新千歳空港を15時45分に離陸したボーイング767で広島に向かって飛んでいる。
オールニッポン426。サッポロコントロール ラジャ
空の色が変わってきた。
機首方向左の東の空は夜が訪れ、太平洋の水平線は暗い空と海が渾然と混じりあって闇に溶け込んでいた。西の空は薄い雲がかかり、今までオレンジ色に輝いていた雲も灰色を増し、太陽が雲海の上に最後の残光を残している。
日没は6時15分ぐらいかな?
森田機長は西の空に今にも隠れそうな太陽を見ながら言った。
そうですね。10分から15分くらいです
日没まえの空はまるで印象派の絵のように美しい。
オレンジ、灰色、紺、深いブルー、そして黒色が斑模様に混ざりあう。その空の中を目には見えない無線電波が飛びかっている。そんな風景をパイロットのサン・テクジュペリはこう表現する。
『長いのや、短いのや、早すぎる三連譜・・・ただ何もないと思っていた空間に、何とおびただしい声が隠れていることか』(南方郵便機より 堀口大学訳)
ジヤパンエアー556。サッポロコントロール。スタンバイ。レーダーピックアップ
(日本航空556便へ。こちらサッポロコントロール管制です。まもなくレーダー誘導します。待って下さい)
サッホロコントロール。エアシステム404。フライトレベル310
(こちらエアシステム404便です。高度31000フィートです)
エアシステム404 サッポロコントロール ラジャ
森田機長が窓に映る風景に目をやって少し緊張を解いて言った。
夕焼けが見れそうです
この時間の風景を見なれた筈のパイロットたちにも一息つかせたくなるような美しい景色が、大きなスクリーンでパノラマ映画を見るように、コックピットの窓いっぱいを覆う。

▼新千歳空港から津軽海峡航空路図

新千歳空港から津軽海峡航空路図

※画像をクリックすると拡大します

今、丁度津軽海峡です
ジャパンエア596。コンタクト トウキョウコントロール 132.3 グッデイ
(日本航空596便へ。東京コントロール、周波数132.3メガヘルツへ連絡してください。さよなら)
函館発福岡行きの日本航空596便へ、サッポロコントロールから東京コントロールへの移管の交信である。
ジャパンエア596。133.3 グッデイ
フリクエンシー 132.3」(周波数は132.6です)
132.6。ジャパンエア596」(日本航空596便です。周波数132.6。確認しました)
あれが下北半島です」と木村副操縦士は窓の外を指差して、「逆様になっていますが」と、次はコックピットのレーダーに逆さまに写る下北半島を見て笑った。
114便はナビケーション・ログに記されている三番目のWP(通過点)LARCH(ラーチ)を過ぎて下北半島の沖で少し右に旋回を始めた。そして飛行方向202度に向け八戸上空に向かう。
この航空路Y10は北から南へ向かう空のハイウェイである。八戸で陸地に入り、花巻上空、仙台の西、福島市の東を通って茨城県の大子に向かう。大子VORで海沿いを通っていた航空路V22と一緒になって茨城県の霞ヶ浦にある阿見VORまで続く。
航空路V10に入ると飛行機(トラフィック)の数が増えた。サッポロコントロールと飛行機の絶えまない無線交信が聞こえてくる。
エアシステム712。サッポロコントロール フライトレベル280
(サッポロコントロールへ。エアシステム712便です。高度28000フィートを飛行しています)
釧路を16時50分に離陸したエアシステムのMDー90で、関西国際空港へ向かっている。
エアシステム712。サッポロコントロール ラジャ
ジャパンエア552。レーダーコンタクト クライム トゥ メインテイン240
(日本航空552便へレーダーで捕捉しました。24000フィートへ上昇してください) 秋田空港を離陸したばかりの日本航空552便、羽田行きのボーイング767に、管制官が24000フィートまでの上昇許可を与えた。
サッポロコントロール。オールニッポン744。ナウ、390
釧路を17時15分に出発した全日空744便、ボーイング767ー300が、巡航高度39000フィートに着いた報告である。
オールニッポン744 サッポロコントロール ラジャ」(サッポロコントロール 了解)
エアシステム216。フライヘディング190 ベクタ トゥ ヤマガタ リポート レシービング
(エアシステム216便へ。機首方向190度で山形に向かい山形VOR(の電波を)受信したら報告してください)
トロポを過ぎました」と木村副操縦士が報告した。
現在、高度は37000フィート通過。これまでトロポポーズ(対流圏と成層圏の間)を飛行していたので機体が小刻みに揺れていた。
しかし今は静止したように揺れがない。114便は成層圏に入ったのである。

眼下に八戸の街灯がキラキラと光って見える。
このとき乱気流に遭遇した航空機からの交信が入った。
ジャパンエア846。リクエスト 200 タービランス
(日本航空846便です。乱気流です。20000フィートへの下降許可願います)
ジャパンエア846 ドゥ ユー リクエスト フライトレベル 200?
(高度20000フィートに飛行したいのですか?)
アファーマテイブ プリーズ」(そうです)
ジャパンエア846 ラジャ ディセント アンド メインテイン 200
(日本航空846便へ。了解しのした。20000フィートに下降を許可します)
サンキュー。リービング240 トゥ 200 ジャパンエア846
(ありがとう。24000フィートを離れて20000フィートに下降します)
1000 トゥ レベルオフ
森田機長が高度計を見てコールした。巡航高度まであと1000フィートになるとコールする決まりである。
ブザーがコックピットに響く。このブザーは、飛行高度が設定高度まで900フィート以内になると自動的に鳴り設定高度が近くなったことを知らせるのだ。
上昇角度が浅くなる。もうすぐトップだ。
114便は高度39000フィートに到着した。飛行プラン通りにLARCHを過ぎて60マイルの地点であった。
114便は岩手上空で水平飛行に移った。ボーイング777は夕日の空を南に向かって飛行を続けている。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第3回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第1章 千歳空港離陸_3

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★「続・機長席」挿入03

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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皆様、まもなく離陸いたします。お席のベルトをおたしかめください
客席では関谷チーフパーサーが乗客に離陸を知らせる。
いよいよ離陸である。

まず森田機長がスラストレバーを約50%N1までアドバンスして、エンジン計器の指示に異常がないことを確認した後、スラストレバーを離陸推力にセットするトガ・ボタンを押した。スラストレバー(自動車でいえばアクセル)は、するすると自動的に離陸位置に入る。
スラストレフ
木村副操縦士がオートスロットルのモードが変わるのを確認してコールする。
森田機長は右手をスラストレバー、左手で操縦桿を握り、両足をラダーペダルにかけて滑走路を凝視した。
キーン、と金属音を響かせながらエンジンパワーが急激に上がった。
まるで獲物を追う獣が、走る前に一瞬身震いするように機体が振動する。
パーキングブレーキが外されると、ボーイング777は脱兎のごとく滑走路の上を走りだした。
エイティ!
離陸速度をチェックしている副操縦士が、80ノットのスピードになったことをコールした。
加速が増す。機長は右からの風に対応してエルロンをやや右に傾け、操縦桿をしっかりと持ちながら滑走路を見つめている。
V1
コンピューターと木村副操縦士が同時にスピードをチェックしてコールした。
VR
森田機長がゆっくりと操縦桿を引き始めた。機首が上がる。
V2
ゴトンと音が響いてメインギヤが地上を離れる。機体が浮いた。それまで滑走路の路面を拾っていたタイヤのノイズがすっーと消える。114便は離陸した。
木村副操縦士はデスプレイにある昇降計の針が上を向き、気圧高度計の数字が下がり、飛行機が地上から上昇したことを示す電波高度計の動きを確認してコールした。
ポジティブ
ギャアップ!
車輪あげを命じる機長の声は、進め! と告げる武将のように凛と響き渡る。この声こそ、機長を象徴する音声であろう。
ギャアップ。LーNAVキャプチャー
副操縦士がギャ・レバーをあげる。LNAV(ラテラル・ナビゲーション)が作動を開始する。
スラストレフ、VNAVスピード
VーNAVが作動を開始する合図のモード変化の表示を確認して副操縦士がコールする。VーNAVとはバーチカルナビゲーションのことで、ラテラル(水平方向)に対して上下(ヴァーチカル)方向の、すなはち飛行時の縦方向をコントロールするナビゲーションのことである。
これで777の運航、航法コンピューターが完全に動きだして宇宙船に変わった。
ギャアップ
車輪が機体に完全に格納されたことをディスプレイでチェックして木村副操縦士が報告した。
空気抵抗が少なくなった114便は速度を増して上昇を続ける。
ライト。クリアー
114便は右旋回を始めた。空港の北西にある千歳VORへ向かうのだ。

千歳タワー管制から交信が入った。
エアシステム114。コンタクト デパーチャー
(エアシステム114便へ。千歳デパーチャーコントロールと連絡をしてください)
エアシステム114。デパーチャー」復唱して木村副操縦士は、千歳デパーチャーコントロールへ周波数を変えて交信を始めた。
チトセ デパーチャー。エアシステム114。リービイング1700 フォア 390」(千歳デパーチャーコントロールへ。こちらエアシステム114便です。現在、高度1700フィート。高度39000フィートへ上昇中です)
エアシステム114。チトセ・デパーチャー ラジャ。レーダーコンタクト。 11000 リストリクション イズ キャンセル クライム アンド メインテイン フライトレベル390
(エアシステム114便へ。こちら千歳デパーチャーコントロールです。了解しました。11000フィートの制限を解除します。高度39000フィートへ上昇してください)

前述の千歳空港のSID(出発方式)によけば、滑走路19ライトを離陸して千歳VORからトビーに向かって上昇するが、千歳VORから27マイル南にある27VORDMEまでは、高度11000フィート以下で飛行しなければならないという制限があった。(トビー5出発方式参照)今の交信でその制限が解除され、すぐに高度39000フィートへ上昇する許可が出たのである。
11000 リストリクション キャンセル クライム アンド メインテイン 390 エアシステム114
すぐに木村副操縦士が復唱する。機長がモードコントロールパネルの高度のセットを11000フィートから39000フィートに変え、ノブを一度押した。(ノブを一度押すことによりVーNAVに記憶されている制限高度をキャンセルする機能がある)
アルト(高度、アルティメーターの略)390。キャンセル 11000
ふたりのパイロットが確認した。
114便は薄暮から次第に夜の匂いが漂い始めた北の空を、一路南に向かって高度39000フィートを目指して上昇を続けていった。「セット オートパイロット」と機長が手動から自動操縦に切り替えたことを告げる。

▼新千歳空港から津軽海峡航空路図

新千歳空港から津軽海峡航空路図

フラップ・ワン
速度を確認して森田機長が主翼の下げ翼の位置を1にする指示を出す。エアースピードは200ノット(時速約380キロ)を越えた。
フラップス・ワン
確認のコールして木村副操縦士がセンターコンソールにあるフラップレバーを1の位置にした。レバーを操作する音がコックピットの中にカチャカチャと響く。客席からは油圧が働く独特の音がしてフラップが上がる様子が見えるが、コックピットではその様子は液晶デスプレイにモニターされて確認される。
フラップ アップ」続いて、機長がコールする。空気抵抗が少なくなった777はさらにスピードを増して上昇していった。それは鷹の飛翔を思わせた。
レフトサイド・クリアー
千歳VOR(CHE)で少し左へ旋回して機首を185度、ほぼ真南にして津軽海峡上空へ向かう。
エアシステム85便。千歳」とカンパニー無線が傍受される。
85便です。どうぞ
この無線はエアシステム千歳運航課と、17時25分に千歳空港を離陸するエアシステム85便ダグラスMD87が交わす交信である。管制との交信以外にも飛行機は自社の持つ周波数で運航部と逐次、交信しながら飛行情報を入手するのである。
アフターテイクオフ チェックリスト」森田機長が離陸後に行う点検を命じた。
木村副操縦士はディスプレイに表示されているエレクトリック・チェックリストを確認して素早く点検を終え、報告する。
アフターテイクオフ チェックリスト コンプリーテッド」(離陸後の計器点検、完了しました)
114便は薄い雲を抜けた。雲を透して津軽海峡が暗い夜の闇に沈んでゆく。
114便が向かっている次の通過点、TOBBY(トビー)は、北緯41度55分1 東経141度45分6の海の上にあるウェイ・ポイント(通過点)だ。
これから東京まで、飛行プランに定められたウェイ・ポイントを忠実に辿りながら777は飛行してゆく。
デパーチャー。オールニッポン712。パッシング 1900
(千歳出発管制へ。全日空712便です。離陸して1900フィートを過ぎました)
チトセデパーチャーコントロール
オールニッポン712。チトセデパーチャー レーダーコンタクト ベリファイアサインドアルティテュード フライトレベル390
(全日空712便へ。千歳出発管制です。貴機はレーダーに入りました。飛行制限をキャンセルし、高度39000フィートまで上昇してください)
114便のあとに離陸した全日空712便は、114便のすぐあとを上昇している。
ライト オフ」副操縦士が離陸のときに点灯していたランディングライトを消す。
現在、高度10000フィートを通過。明るい夕日が右前方の空をオレンジ色に染めている。114便は黄昏の津軽海峡上空を加速しながら上昇を続けた。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第2回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第1章 千歳空港離陸_2

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★「続・機長席」挿入02

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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ドア。クローズド
森田機長がデスプレイに映る114便の映像をチェックして、すべてのドアが閉じられているのを確認すると、プッシュバックを要求した。
リクエスト プッシュバック
木村副操縦士がマイクで千歳グランドコントロールに呼び掛ける。
チトセ・グランド。エアシステム114。リクエスト プッシュバック ウィズ ユニフォーム
(千歳グランド管制へ。こちらエアシステム114便です。プッシュバックの許可願います。空港情報(ATIS)は、U(ユニフォーム)情報を入手済みです)
前述したように空港では管制塔の管制情報官が、空港の最も新しい情報(ATIS)を電波で繰返し送信している。高速道路のハイウェイ情報のようなもので、常時、空港の状況や天気現況を放送しているのだ。新千歳空港ではVHF128.60メガヘルツに受信周波数を合わせれば、聞くことができる。
この空港情報(ATIS、オートマテック・エアポート・インフォメーションサービス)の内容は、基本的には三十分ごとに(地方によっては一時間ごとに)更新される。しかし突然、風の方向の変化で滑走路や着陸方法が代わったときは、その都度、内容を新しくして送信する。この空港情報には、かならず情報が出された時間ごとにアルファベッドで符号がつけられている。木村副操縦士が聞いた17時現在の情報はU(ユニフォーム)なのであった。
17時現在で「ウィズ ユニフォーム」とは、千歳空港の最新の天気情報を入手済みであることを木村副操縦士は管制官に伝えたのである。
エアシステム114 プッシュバック アプルーブ フェイス トゥ ノース
(エアシステム114便へ。プッシュバックを許可します。機首を北向きにしてください)「フェイス トゥ ノース」(機首を北向きにプッシュバックします)

千歳グランドコントロールがプッシュバックの許可が出ると、森田機長はインターホンで地上の整備員に呼び掛けた。
グランド。コックピット。プッシュバックしてください。フェイス トゥ ノース
了解しました」と地上整備員が答えた。「パーキングブレーキのリリースをお願いします
パーキングブレーキ。リリース。ハイドロポンプ オン(パーキングブレーキを外して、油圧ポンプをオンにしました)」と機長。
ボーイング777のメインギヤには6本の車軸があり、その内うしろの2本がステアリングすることが可能となっている。ハイドロポンプをオンにしてその機能を使い地上での旋回半径を小さくするのである。
了解。グランド、クリアー。(地上に障害物なし)プッシュバック スタートします
地上整備員はプッシュバックするトーイングカーのドライバーに合図を送り、トーイングカーはボーイング777の機体を押し始めた。

現在、午後17時13分。
114便はゆっくりとゲートを離れた。スケジュールより2分早い出発である。
コックピットドアを二回ノックする音がしてキャビン・クルーが、乗客の最終報告をするために操縦室に入ってくる。
客室では関谷チーフパーサーが乗客にボーディングアナウンスを始めた。
今日も日本エアシステム レインボー7をご利用頂きましてありがとうございます。この飛行機は114便東京羽田国際空港行きでございます。飛行時間は一時間十分を予定しております。機長は森田。客室のチーフは関谷でございます。おそれいりますがお席のベルトをどうぞしっかりとお締め起きください・・・・

コックピットではエンジン始動前のチェックが行われている。
ビフォアー・スタート チェックリスト」と森田機長が副操縦士に指示を出した。
CDU」と木村副操縦士。
セット」とCDUのセットが完了していることを機長と副操縦士が確認する。
トリム」続いてトリム位置の確認。
7・00ユニット・・ゼロゼロ
ビフォアー・スタート チェックリスト コンプリーテッド」と木村副操縦士が報告した。(エンジン始動前の計器点検は完了です)

森田機長が再度、承認された飛行プランを確認する。
クリアランスはTIA。トビー5、トビーフライトプランルートでレベル390。スクウォークは2461
(飛行プランは羽田空港まで。トビー5出発方式で、トビー飛行プランで上昇します。巡航高度は39000フィート。レーダー認識番号は2461です)
コレクト」(その通りです)

新千歳空港を離陸する方式は全部で10方式あるが、トビー5出発方式はそれらの離陸ルートのひとつで、千歳から南に向かう飛行機が離陸するルートである。
新千歳空港の滑走路は二本(ライト、レフトと並行した滑走路が二本)あるが、方向は北から南に向いた一方向だけである。すなはち01(10度方向、ほぼ北)から019(190度方向でほぼ南向き)に滑走路が走っている。(唯し、ターミナルを挾んだ反対側には自衛隊専用の滑走路が2本ある)

▼新千歳空港滑走路図

新千歳空港滑走路図

 トビー5出発方式で、01滑走路から離陸すると、一端北に向かって離陸することになるので、離陸後すぐ右旋回をしながら高度を上げ、千歳空港の北西にあるVORを通過したあと、飛行方向を185度にとってトビーに向かう。

▼新千歳空港出発チャート

新千歳空港出発チャート

 ところが、今日は風が南風なので南に向いて離陸する。すなはち19滑走路を使用する。その場合は標準出発方式(SID)のチャートには次のように記されている。

RWY19R/19L CLIMB DIRECT TO CHE、THEN VIA CHE  Rー185(185°FROM CH TO TOBBY OR TOPPO)
CROSS CHE  Rー185/27  DME(26NM SOUTH OF CH) AT OR BELOW 11000ft
その意味は滑走路19ライトもしくは19レフトから離陸した場合は、離陸してダイレクトに千歳(CHE)VORに向かってください。そしてトビーまたはトポへ185度の機首方向で飛行してください。唯し、千歳(CHE)VORの南26マイルにある27DMEまでは高度11000フィート以下にしてください。と言うことだ。
すなはち、滑走路19Rから離陸してトビー5出発方式で飛行することは、東京羽田に向かうにはダイレクトに南に向かって離陸することになる。それからドビー(TOBBY)もトポ(TOPPO)も陸上にある通過点ではない。トビーは北緯41度55.1度 東経141度45.6度の津軽海峡の一地点である。

現在、114便はゲートから誘導路へプッシュバック中であった。
コックピットに緊張感が流れ始めた。森田機長が地上のメカニックへエンジンの始動を告げる。
グランド。コックピット。スタート ボース
(グランド整備へ。コックピットです。エンジン二基を同時にスタートします)
了解しました。グランド、クリアー」と地上のランプコーディネーターが答える。
スタート。ライト」(右エンジン始動)と機長が告げるとスタート、ライトと確認して副操縦士が頭上にあるエンジンのスタートスイッチを入れた。
スタート。レフト」続けて機長がコールする。副操縦士はすぐ左エンジンの始動スイッチも入れる。
ボーイング777の場合は、エンジンが二基同時にスタート出来ることも特徴であるが、従来の飛行機のようにエンジンを始動させるにあたって複雑な手順も必要でなく、スタートセレクターをスタートの位置にして燃料スイッチを入れるだけで、あとはコンピューターが始動作業と監視チェックをする。従来の飛行機に比べると一段と便利になった。 プラット&ホイットニーPW4074エンジンが、特徴ある唸り音を上げて回り始めた。

114便はエンジンを始動させながら誘導路に着き、機首を北に向けて停止した。
コックピット。グランド。セット。パーキングブレーキ(操縦室へ。パーキングブレーキをセットしてください)」地上整備がインターホンで呼んでくる。
パーキングブレーキ セット」機長は手元のブレーキをセットしてEICASのメッセージで確認すると114便を牽引した車が機体から外される。
ライト、スタビライズド(安定)」右エンジン始動完了、と副操縦士がディスプレイを見ながら報告する。
レフト、スタビライズド(安定)」左エンジンも始動完了。
コックピットのスピーカーから、全日空712便がプッシュバックの許可をもらう交信が聞こえる。
アフタースタート。チェックリスト」森田機長がエンジン始動後の計器点検の指示を出した。
エンジン、アンティアイス オート(エンジンの凍結防止装置を自動に)」
リコール チェック。アフタースタートチェックリスト コンプリーテッド
副操縦士がディスプレイに表示されたエンジン始動後の点検を終えて機長に報告した。
外は北国独特の淡い色をした黄昏が感じられる。

オールニッポン780 タクシー
114便と同時刻に出発予定の全日空780便ボーイング747が、114便より先に
千歳グランドコントロールへ地上走行の許可を貰う交信を始めた。出発時間が同じ場合は、地上走行でも離陸でも先に管制官へコンタクトした飛行機の方が優先する。
オールニッポン780。ランウェイ19R。ヴィア ホテル4、アルファ2。コンタクト タワー 118.8
(全日空780便へ。誘導路H4、A2を経由して滑走路19ライトに向かってください。以後は千歳タワー管制、周波数118.8メガヘルツに連絡願います)
ホテル4、A2、コンタクトタワー 118.8 オールニッポン780
(誘導路H4からA2経由で滑走路へ向かいます。以後千歳タワー管制に連絡します)

森田機長がインターホンで地上整備に呼び掛けた。
グランド。コックピット。エンジンスタート コンプリーテッド。リムーブド チョック ディスコネクト インターホン いってきます
(地上整備へ。エンジン始動しました。タイヤ止めをはずしインターホンを切ってください。行ってきます)
了解しました。リムーブド チョック。 インターホン リセプト ステアリング バイパス セレクターピン リムーブト いってらっしゃい
すばやく作業を終えた地上スタッフが一列に並び、飛行機に向かって手を振った。機長も窓越しに手を振る。木村副操縦士がマイクで千歳グランドコントロールを呼んだ。
千歳グランド。エアシステム114。リクエスト タクシー」(千歳グランドコントロールへ。エアシステム114便です。地上走行の許可を願います)
エアシステム114。ランウェイ19R ヴィア ホテル4 アルファ2 NO.2ディパチャー シークェンス NO.1 オールニッポン747 ホテル4
(エアシステム114便へ。誘導路をH4 A2経由で滑走路19ライトへ向いH4にいる全日空747機にしたがってください。貴機の出発は二番目です)
コックピットの窓越しに前方の誘導路で全日空のボーイング747、780便大阪行きが地上走行しているのが見える。

▼新千歳空港地図

新千歳空港地図

19R ヴィア ホテル4 フルファ2 ウィ アー NO.2ディパーチャー エアシステム114」と木村副操縦士が復唱する。
レフト、クリアー。ライト、クリアー」とふたりのパイロットは地上の障害物がないことをコールし合って、森田機長が地上走行の道順を再確認した。
ホテル4のアルファ2。フラップ5
(H4、A2経由だね。それではフラップ(下げ翼)を5の位置にしてください)
フラップは主翼の後部分にある翼で、揚力をえるために離陸、着陸時には主翼から下がってくる。フラップ5とは離陸時のフラップ位置のことである。
かすかに油圧が作動する音が聞こえ(フラップの音は客席ではかなり大きく響く)、正面のデスプレイにフラップが下がる図が表示された。
スラストレバーをアイドルのままにして、森田機長がパーキングブレーキを外すとボーイング777はゆっくりと誘導路を走り始めた。
コントロール チェック!」と森田機長。操縦装置のチェツク開始である。
コントロールチェック エルロン」と復唱して木村副操縦士は操縦桿を左右に動かしてエルロンを操作した。続いてエレベーターのチェック。
機長も左のラダーをチェックする。

操縦装置のチェックを行っているときに、千歳グランドコントロールが交信してきた。
エアシステム114。コンタクト タワー 118.8
(エアシステム114便へ。周波数を変えて千歳タワー管制、118.8メガヘルツへ連絡してください)
118.8。エアシステム114」木村副操縦士が復唱する。交信のたびに機長が、ラジャーとコールするのは、その交信を確認したという意味である。
副操縦士がすぐに無線を118.8に切り替えると、すぐに着陸体制に入っていた全日空69便東京羽田発のボーイング747ー400の交信が聞こえた。タワー管制は離陸と着陸する飛行機をコントロールしている管制である。
オールニッポン69 クリアー トゥ ランド 19レフト
(全日空69便へ。滑走路19レフトの着陸を許可します)
ラジャー。クリア トゥ ランド 19レフト

滑走路に向かって地上走行する114便のコックピットでは、操縦装置のチェックが続いている。
エレベーター(昇降舵)」
ラジャー
チェックト
ラダー(方向舵)
チェックト
操縦装置のチェックが終わったところで副操縦士が千歳タワー管制を呼んだ。
千歳タワー。エアシステム114。ウィズ ユー
(千歳タワー管制へ。エアシステム114便です。タワー管制の管制区内にいます)
エアシステム114。チトセタワー、ラジャー。ホールド ショート オブ ランウェイ 19ライト ナンバー2デパーチャー
(エアシステム114便へ。千歳タワー、了解しました。滑走路19ライトの入り口まで地上走行を続けて待機してください。貴機の出発はNO.2です)
ホールド ショート オブ ランウェイ 19ライト エアシステム114
114便は滑走路入り口のすぐ近くにいた。
ホールド ショート オブ ランウェイ

森田機長は管制交信を確認して飛行機を滑走路の入り口にあたる誘導路に入るために右にステアリングを切った。
ライトサイド クリアー
副操縦士が回る方向の右側を見で障害物がないことを確認する。
レフトサイド クリアー」と機長も左側を目視する。
飛行機が地上で方向を変える場合、曲がる方向のみならず反対の方向も確認するのは長い翼が誘導路のコーナーを回り切れるかどうかを確認するためである。30メートルほどあるトレーラーのハンドル操作に似て難しい。
飛行機はゆっくり反応して右へ回った。目の前に全日空780便ボーイング747が滑走路の末端近くまで進んでいるのが見える。
ビフォアー テイクオフ チェックリスト
森田機長が離陸前のチェックを指示した。旅客機は離陸まで点検の連続である。ボーイング777の場合、そのほとんどをコンピューターが代行してくれるので従来の飛行機に比べて楽になったと言うが、それでもかなりのチェックが続く。
フライトコントロール チェック。ビフォアーチェックリスト コンプリーテッド
(操縦装置のチェック完了。離陸前の計器点検終わりました)
ホテル、クリアー
飛行機が誘導路のH4を通過したこと確認して副操縦士が報告した。

オールニッポン780 ナウ レディ
(全日空780便です。離陸準備完了しています)
全日空780便は滑走路の末端に入って千歳タワー管制を呼んだ。
オールニッポン780 トリプル7 クロスランウェイ ジャストスタンバイ インバウンド トラフィック 19レフト
(全日空780便へ。777が滑走路を横切っていますので、ちょっと待ってください。それから、滑走路19レフトへ進入する飛行機がいます)
ラジャー
コックピットの中でチャイムが響いた。客室の離陸準備も完了したことをしらせるチャイムである。EICASのメモメッセージにもキャビン・レディ(客室の準備完了)が表示される。
キャビン レディ
副操縦士が確認してコールする。

目の前に待機中の全日空ボーイング747を見ながら、木村副操縦士が機長に言った。
あれは函館3デパーチャーで大阪行きですね
オールニッポン780。インバウンド 5マイル オン ファイナル フォー 19レフト。 ウィンド 240 アット 12 クリアー フォア テイクオフ 19ライト」(全日空780便へ。5マイル先に滑走路19レフトへ最終進入する機があります。滑走路19ライトから離陸を許可します。風は240度(西南西)から12ノット)
オールニッポン780 クリアー フォアー テイクオフ(全日空780便。離陸します)
全日空のジャンボ機がエンジンパワーをあげて離陸を開始した。前後して北から進入する全日空292便、沖縄発のボーイング767の交信が入る。
チトセタワー。オールニッポン292。17DME ランウェイ19レフト
(千歳タワー管制へ。全日空292便です。現在、DME17マイル地点を滑走路19レフトへ向かって降下しています)
オールニッポン292。ラジャ コンテニュー アプローチ 19レフト ウィンド 230 アット 11 コンテンド フロム ライト ユー アー NO.2ランディング」(全日空292便へ。了解。滑走路19レフトへ続けて進入してください。現在、風は230度から11ノット。滑走路19ライトからが優先します(19ライトから離陸する飛行機の方が優先します)貴機は第二番目の着陸です)
ラジャ。コンテニュー アプローチ オールニッポン292」(了解。続けて進入します。全日空292便)
新千歳空港の管制は、現在風が南西から吹いているので、二本並行した滑走路の右側(19ライト)を離陸用に使い、左側の滑走路(19レフト)を着陸のために使用しているのだ。
千歳タワー管制が続いて114便に呼び掛けてきた。
エアシステム114。タクシー イントゥ ポジション アンド ホールド。19ライト インバウンド 5マイルズ、コレクション、4マイルズ 19レフト
(エアシステム114便へ。滑走路19ライトで待機してください。進入機が滑走路19レフトまで、あと5マイル、訂正、4マイルです)
エアシステム114。タクシー イントゥ ポジション アンド ホールド 19ライト」(エアシステム114。滑走路19ライトへ入り、待機します)
無線交信では数字を英語で読む場合、9は、ナインではなく、ナイナーと発音する。9000はナイナータウザンド。滑走路19はワン・ナイナーとなる。
アプローチ。クリアー」森田機長が滑走路19ライトに他の進入機がいないことを確認してコールした。副操縦士も右側のランウェイサイドを見て全日空機の離陸を確認してコールする。
ランウェイ ジャンボ。エアボン」(滑走路クリアーです。ジャンボは離陸しました)
114便は滑走路の入り口に近づいた。

オールニッポン780。コンタクト。デパーチャー
(全日空780便へ。以後は千歳出発管制へ連絡してください)
780便は離陸すると管制エリアがタワーコントロールから、レーダー誘導をするディパーチャー・コントロールに移管された。
オールニッポン780。ラジャ。GOOD DAY
挨拶を送って全日空780便は、南に向かって黄昏の空を上昇していった。代わってエアシステム114便ボーイング777が滑走路に入り、機首をセンターラインに合わせて待機する。

淡い黄昏の中に、ひと気のない大通りのような長い滑走路が目の届く限りに延びて、その両側には白の、遥か前方にはオレンジ色のランウェイライトが、まるでクリスマスの装飾のように美しく光っている。
エアシステム114。インバウンド 3マイルズ ファイナル 19レフト。ウィンド 240 アット 13 クリアー フォア テイクオフ 19ライト
(エアシステム114便へ。飛行機が滑走路19レフトへ向かって3マイル地点を進入しています。滑走路19ライトから離陸を許可します。現在、風は240度(西南西)から13ノットです)
千歳タワー管制から離陸の許可が出た。木村副操縦士がすぐに答える。
クリアー フォア テイクオフ 19ライト エアシステム114
(エアシステム114便。滑走路19ライトから離陸します)
テイクオフ、とふたりのパイロットが確認し合う。
緊張感がコックピットにみなぎった。

つづく

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第1回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第1章 千歳空港離陸_1

新千歳空港へ着陸した日本エアシステムのボーイング777は、17時15分発の東京羽田空港行き114便として折り返し運航するのである。

航空機の便名は原則として起点となる主要空港から下り便に奇数、上り便に偶数番号がつけられる。

わずかに誘導路に春の陽光がさしているが、北国の黄昏は白夜のように穏やかであった。新千歳空港の滞在は約45分。その間に森田機長と木村副操縦士は空港ビルにある運航部へ行って最新の天候情報などを調べた。勤務明けの運航部員が飛行機に戻る森田機長に挨拶をする。
「今日は穏やかな一日でしたよ。眠いくらいでした」
「そうだね。雲や雪の日のほうが緊張感はあるよね」と機長が苦笑する。二週間前に森田機長が同じ115便で千歳空港にフライトしたときは、台風を思わせる悪天候で着陸するまで緊張をよぎなくされた。その時の運航担当者だった。

現在、16時50分。新千歳空港ゲート16番。
駐機している114便の機外周辺には、給油車、飛行機を誘導路まで牽引するトーイング・カー、機内食を搬入するケータリング・カー、乗客の荷物を運んできたバケージ・カーなどが接続され、地上整備員は出発前の準備に多忙をきわめている。

コックピットでは、搭乗前に行う機体外部の目視点検を済ませた森田機長が木村副操縦士と共に出発前の準備を始めていた コックピットの頭上にあるスピーカーから、新千歳空港を出発する航空機と千歳デリバリー管制の交信が絶え間なく聞こえていた。

17時10分出発の仙台行き日本航空846便、ボーイング737ー400の飛行プラン承認(クリアランス)の交信が始まった。

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★「続・機長席」挿入01

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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ジャパンエアー846。ラジャー。クリアランス レディ トゥ コピー?
(日本航空846便へ。了解。ATCクリアランスをおこないます。コピーの準備はできていますか?)
ゴーアヘッド」(どうぞ)
ジャパンエアー846。クリア トゥ センダイエアポート バイ ア トビー5ディパーチャー トビー フライトプラン ルート メインテイン フライト レベル240 ディパーチャーフリクエンシー ウィル ビー 124.7 スクウォーク4737 リードバック
(日本航空846便へ。仙台空港までの飛行プランを許可します。トビー出発方式で24000フィートまで上昇してください。出発管制の周波数は124.7メガヘルツの予定。レーダー認識番号は4737です。復唱願います)
ジャバンエアー846。クリアー トゥ センダイエアポート バイ ドビー5デパーチャー トビー フライトプラン ルート メインテイン フライトレベル240 ディパーチャー124.7 スクウォーク4737
ジャパンエアー846。リードバック イズ コレクト。コンタクト チトセグランド 121.6
(日本航空846便へ。復唱は正確です。以後は千歳グランドコントロール管制121.6メガヘルツへ連絡してください)
121.6 ジャパンエアー846」(121.6。了解しました 日本航空846)
日本航空機に続いてエアシステム668便への飛行プランのクリアランス交信が聞こえる。この便は新千歳空港を17時10分に出発する大阪空港行きエアバスA300ー600Rである。

エアシステム668。クリアランス レディ トゥ コピー?
(エアシステム668便へ。飛行プランの承認をします。コピーの準備ができますか?)
エアシステム668 ゴーアヘッド
(エアシステム668便です。どうぞ)
エアシステム668。クリアー トゥ オオサカエアポート バイ ア ハコダテ3ディパチャー ハコダテVOR フライトプラン ルート メインテイン フライトレベル350 ディパーチャー フリクエンシー ウィル ビー 124.7 スクウォーク4742 リードバック
(エアシステム668便へ。大阪空港への飛行プランを許可します。函館3出発方式、函館VOR飛行ルートで35000フィートで飛行してください。出発管制の周波数は124.7メガヘルツの予定です。貴機のレーダー認識番号は4742。復唱願います)
エアシステム668。クリアー トゥ オオサカエアポート ハコダテ3ディパーチャー ハコダテVOR フライトプラン ルート メインテイン350 ディパーチャー124.7 スクウォーク4742
エアシステム668。リードバック イズ コレクト コンタクト チトセグランド121.6
(エアシステム668便へ。復唱は正確です。以後は千歳グランドコントロール121.6メガヘルツ周波数へ連絡してください)
121.6」(121.6へ連絡します)

17時10分。出発五分前になった。
森田機長がコックピットからインターホンで駐機している16番ゲートの114便の下にいる地上整備員に呼び掛けた。
グランド。コックピット」(グランド整備員。こちらコックピットです)
どうぞ
はい。APUスタートしました。GPUをディスコネクト、どうぞ
ボーイング777は駐機しているとき、燃料の節約、環境保護のために客室のエアコンなどを回す電力をGPU(地上電源)から取り込んでいる。森田機長はコックピットで飛行機の補助エンジンAPUを始動させたので、地上電源を切ってくれるように依頼したのだ。
了解しました。ディスコネクトします

114便も千歳デリバリー管制へ飛行プラン承認(クリアランス)の交信をする時間が迫っていた。
この交信はファイブ・ミニッツ・コールとも呼ばれ、飛行機が出発する過程の中で重要な意味を持つ。すなはち、デリバリー管制へクリアランス交信をするまでには、ほとんどの出発準備を完了させ、あとはエンジン始動させるだけの状態になっていなければならないのである。
エンジン始動時までには、乗客のボーディングを担当するグランドスタッフは乗客の搭乗を完了させ、ランプコーディネーターは、整備員、地上要員がボーディングゲートを取り除き、荷物、給油などの諸作業を終らせて飛行機周辺の障害物がないことを確認して、誘導路まで牽引するトーイング・カーを飛行機に接続していなけれならない。

一方、コックピット・クルーもエンジンを始動させるに必要な点検や打合せ事項を終わらせていなければならないのである。地上の準備を完了させたランプコーディネーターから、114便のコックピットにエンジンスタート五分前が伝えられると、森田機長は副操縦士に管制塔と交信する指示を出した。

木村副操縦士は飛行プランのクリアランスを受けるために、千歳デリバリー管制へマイクで呼び掛けた。
チトセデリバリー。エアシステム114
(千歳デリバリー管制へ。こちらエアシステム114便です)
エアシステム114。チトセデリバリー。ゴーアヘッド
エアシステム114。トゥ トウキョウ フライトレベル390 スポット16
(こちらエアシステム114便です。東京羽田空港まで飛行高度39000フィートで飛行予定です。現在、ゲート16に駐機しています)
エアシステム114。スタンバイ クリアランス
(エアシステム114便へ。飛行プランの承認を待ってください)
スタンディング バイ」(待機します)

待機している間にコックピットのデスプレイには、コミニケーションの指示が表示された。エレクトリック・チェック・リストのシステムは、飛行の段階に応じて、クルーにそのときにするべき事柄をデスプレイに確実に表示するのだ。
チェック。コミニケーション」と、機長は、ACARSでアップリンクされたウェイト&バランス(燃料、乗客などの114便の飛行重量と重心位置のデーター)及びテイクオフデーターを表示させ確認を始めた。
はい。114便のパッセンジャー(乗客)は171プラスゼロ(171名と幼児はゼロ)ジャンプシート(コックピット補助席)使用が二名。燃料が38000ポンドだな。はい。アクセプト。チェック、次のページだね
MFDに表示されるウェイト&バランスとテイクオフデーターは3ページにわたるのでコックピットクルーはその項目を一つづつ確認していく。
スーパーシートの乗客は6名。レインボーシートの乗客は31名。滑走路は19R。滑走路面はドライ。ハイ。アクセプト。テイクオフ2のクライム1(離陸と上昇時の推力)。チェック、ネキストページ(次のページは)?
エンド(終りです)」と副操縦士。

このとき全日空780便、17時15分発の大阪行き747ジャンボのクリアランス交信が聞こえてくる。
キャンセルメッセージ」森田機長は終了した打合せ項目をデスプレイから消して次に進んだ。FMSのディスプレイ表われた次のページは離陸速度に関するものだった。
チェック。テイクオフスピード」と森田機長。
はい」と木村副操縦士が答えてデスブレイ表示された離陸データーを確認して声を出して読んだ。
ドライV1  126 129 134
(晴天状態での離陸で、離陸スピードは126、129、134ノットです)
今日の千歳空港の滑走路は雨や雪で湿っていなてドライな状態で、これから離陸するスピードはVワンが126ノット。VRが129ノット V2が134ノットであるとコンピューターが算出していた。

一般的に迎え風が強いと揚力が増して飛行機の滑走距離は短くてすむが、微風、あるいは追い風であると、飛行機は必要な揚力を得るために離陸距離は増加する。風がない日に重い凧を上げるのに、速く、遠くまで走らなければならないのと同じである。
又、離陸するときの機重(テイクオフ ウェイト)によっても、滑走路を走る長さが変わる。今日の114便の場合は必要な滑走路の距離は、コンピューターの計算によると5512フィートであった。

ボーイング777では、今日の風の強さ、方向、滑走路の状態、乗客や貨物、搭載燃料の重さなど、さきほど機長と副操縦士が確認し合った諸条件のもとで、これから行う離陸時の速度や滑走距離をコンピューターが算出して、ディスプレイに表示しているのである。
アームLーNAV、アームVーNAV。テイクオフ ブリーフィング(次はテイクオフの打合せだ)。シップの状態はOK。ノータム(滑走路が使用不能などの航空情報)は今日は別にないですね」と森田機長が確認する。
はい。ありません
それではウエザー(天候)だ。210度(西北西)から11ノットの風で、若干右よりの風だな。天気は良好で温度は摂氏10度、ー1度(露点天温度)。気圧は29.98インチ。搭載燃料は38000ポンドで、飛行機の離陸重量(離陸時の総重量、テイクオフ ウェイト)は38万3000ポンド。離陸時のフラップの位置は5。テイクオフスラスとはテイクオフ2だね。トリムは7、00。離陸スピードはV1から、126、129、134ノット。必要離陸距離(離陸に必要な滑走路の長さ)は5512フィート。エンジンアウトのアクシェレーションはアルト1500 アクセル3000 リダクション1500

離陸打合せ中に千歳デリバリー管制から交信が入った。
エアシステム114。クリアランス レディ トゥ コピー?
(エアシステム114便へ。飛行プランをクリアランスをしますのでコピーの準備をしてください)
エアシステム114。ゴーアヘッド」と木村副操縦士が答えてメモを用意して待つ。
エアシステム114。クリア トゥ トウキョウ・インターナショナルエアポート バイ ア トビー5ディパーチャー トビー フライトプランルート メインテイン フライトレベル390 ディパーチャーフリクエンシー ウィル ビー 124.7 スクウォーク2461 リードバック
(エアシステム114便へ。東京羽田国際空港までの飛行プランを承認します。トビー5出発方式、トビー飛行プランルートで高度39000フィートを許可。出発管制の周波数は121.6メガヘルツ レーダー認識番号は2461です。復唱願います)
今日の114便の千歳空港の出発方式(SID)は、トビー5出発方式と指定された。
これは日本航空846便仙台行きと同じ出発方式である。
エアシステム114。トゥ トウキョウエアポート トビー5デパーチャー トビーフライトプランルート フライトレベル390 ディパーチャー フリクエンシー124.7 2461」と木村副操縦士が復唱する。

普通、管制官と飛行機の交信内容は復唱するのが原則である。唯、航空機が混雑しているときは高度、レーダー番号、周波数など数字だけ復唱する場合もある。
エアシステム114。リードバック イズ コレクト コンタクト チトセ・グランド121.6
(エアシステム114便へ。復唱は正確です。以後は千歳グランド管制へ連絡してください。周波数は121.6メガヘルツです)
121.6」と復唱して、副操縦士は交信を終えた。
コンティニュー テイクオフ ブリーフィング」と森田機長は再び交信で中断していた離陸の打合せを始めた。
巡航高度(クルーズアウト)は39000フィートで重量的には問題ないね。使用滑走路は19のライト(千歳には南向きの滑走路19が二本あってその右側の滑走路のこと)で、離陸してからはトビー5出発方式で、Rナビゲーションルートを飛行します。L NAV V NAVのデーターを使用して飛行します。コンストレインは11000フィートより下。千歳からの27マイルDMEの地点まで。それから東京羽田空港の進入は阿見VOR上空(茨城の霞ヶ浦東の地点、阿見にある地上無線標識)で13000フィートより下を飛行します。東京羽田空港のアプローチでジョウナンを通過するスピードは170ノットで入力しています。
もし千歳空港の離陸中にトラブルが起きた場合、対処の仕方は東京で打合せしたことと同じです。リジェクト又はゴーとコールしますから、それに従ってください。ゴーの場合
(新千歳空港へリターンする場合)は高度は4000フィートで飛行する旨をリクエストします。ワイドパターンのレーダー誘導を受けます。それだけですね。何かありますか?」「ありません

離陸の打合せが終わると計器点検が始まる。
プリパレーション・チェックリスト」と機長の指示で副操縦士が表示されたディスプレイのリストを読み上げながらふたりで確認する。 
オキシジョン(酸素ボンベ)・・・セット
パッセンジャー・サイン・・・・・セット」(客室のシートベルト等のサイン)
フライトインストルメント・・・・セット
プリパレーション チェックリスト イズ コンプリーテッド(完了です)

木村副操縦士が無線機の周波数をデリバリー管制から千歳グランド・コントロール121.6に変えた。
これから114便は千歳地上管制官に引き継がれるのである。すぐにグランドコントロールと他の飛行機が交わす交信が聞こえてくる。
ジャパンエアー846。コンタクトタワー 118.8
(日本航空846便へ。以後は周波数118.8メガヘルツへ連絡してください)
ラジャー。118.8 ジャパンエアー846
(了解しました。118.8。日本航空846)
17時10分発の仙台へフライトする日本航空846便は、すでに地上走行(タクシー)中で滑走路近くにいて、グランドコントロールの管制下を離れて千歳タワーコントロールに引き継がれるところであった。

千歳グランド。エアシステム668。リクエスト タクシー
次はすでにプッシュバックが完了したエアシステム668便A300が、エンジンを始動させて、これから地上走行を始めるために、グランドコントロールにリクエストをしている。パイロットは常に他の飛行機と管制官の無線を傍受しながら、周辺の飛行機の動きをチェックしているのである。
エアシステム668。ランウェイ19R(ライト)。バイア T1(タンゴ ワン) H4(ホテル フォー) A2(アルファ ツー)
(エアシステム668便へ。誘導路の表示、T1、H4、A2を経由して滑走路19ライトに向けて地上走行してください)
T1、H4、A2 エアシステム668
(タンゴ1、ホテル4、アルファ2。了解。エアシステム668)

飛行機は管制官から指定された誘導路(タキシーウェイ)を通って滑走路へ向かわなければならが、新千歳空港も羽田空港と同様に、複雑な誘導路があるので誘導路で飛行機同士が接触事故を起こしたり、滑走路への道を間違えないようにするためにアルファベットと数字の目印が大きく誘導路脇に表示されている。
グランドコントロールは、地上走行する飛行機にその都度、アルファベット標識を指定して飛行機を地上走行させるのだ。
この無線のアルファベットは世界共通の定められたフィオネテック・コードといい、たとえば、Aはアルファー。Bはブラボー。Cはチャリー。Tはタンゴ。Hはホテルなど。特別の読み方がある。

千歳グラウンド オールニッポン780。リクエスト プッシュバック ゲート8」(全日空780便です。プッシュバックの許可願います)
17時15分発の大阪行き全日空ボーイング747が、8番ゲートを離れようとしている。
オールニッポン780 クリアー フォア プッシュバック フェイス トゥ サウス」(全日空780便へ。プッシュバックを許可します。機首が南に向くようにしてください)
プッシュバック フェイス トゥ サウス」(南向きにプッシュバックします)
ゲートから誘導路へ出るとき、機首をトーイングカーで押されるので、飛行機は後向きに誘導路につく。そのとき誘導路で飛行機を南に向けるか、北に向けるか、あるいは東か西か。これは出発ゲートと滑走路の位置によって変わるが、どちらに向けるかは管制官が決める。
管制指示は「フェイス(飛行機の顔、すなはち機首)トゥ サウス」であるから、全日空780便は、南を向いて誘導路へプッシュバックしなければならないのである。

現在、17時15分。114便の出発時間である。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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「続・機長席」の公開にあたって!

こんにちわ。竜子です。

今回、公開される「続・機長席」は、過去CDブックとして発表された「機長席」の音源です(本ブログでJAS115便(羽田-新千歳)を公開する際にタイトルを「機長席」としたため、混乱してはならないと言うことで、「続」として発表することになりました)。

現在、iTunesで配信されているアプリ「機長席」は、機長や副操縦士を中心としたボーイング777のコックピットワークを紹介することを主としています。しかし、今回の「続・機長席」ではクルーのコックピットワークもさることながら、主人公は別にいます。それは管制官です。一度に複数の航空機の飛行を調整し、それぞれの目的地に誘う管制官の仕事は我々が知る以上に過酷であり、身を切るような緊張に日々置かれています。
それら管制官の仕事の現場を臨場感をもってドキュメントしたのが「続・機長席」のテーマであります。作品最後の2/3をラッシュアワーの羽田空港へのアプローチと着陸にあて、ひとりの管制官が、まるでオーケストラの指揮者のように数十機の航空機を羽田空港滑走路16に導く様子を音と文章で克明に伝えるドキュメンタリーは、手に汗を握ります。

iPhoneアプリ「機長席」は、羽田から新千歳までの日本エアシステム115便で、本ブログで公開される「続・機長席」は、その折り返しの114便ですが、併せてこの2作品を続いて聴くと、旅客機の運航状況がよく判りますし、且つ管制の流れや用語も学ぶことができて一挙両得。つまり、この2作品で1つの作品と思って頂きたいのです。

この作品が製作・発表されたとき、著者の武田一男氏は、「あとがき」に、このように書いています。

この本は文字と音によるドキュメンタリーの新しい試みのひとつとして制作したものです。私は永年、映像作品の演出にたずさわりながらいつも思うことは、カメラでどんなにうまく撮影された映像よりも、人が頭の中でイメージする映像の方が遥かに優れたものである。例えば、趣味や経験による個人差はあるにしても、文字で物語を追いながら個々の脳裏に浮かぶ映像は、完璧なアングルと理想的な構図を持っているものです。

これは人間が持つ「イメージする能力」の素晴らしさ故で当然のことなのですが、今回、操縦席の現場を伝えるにあたって、カメラで撮影した映像ではなく、文字と音という手段による方法が、現場の状況を理想的かつ効果的な「映像」として読者の脳裏に直接メッセージすることができるのでは、と考えました。とくに音は、あたかも料理に調味料を加えるごとく脳裏に浮かんだ映像に「音」を加えることで、よりリアルに臨場感溢れるものに変わりました。

航空機のドキュメンタリーといえば、悲惨な事故やハイジャックをテーマにした本が多い昨今、日常、航空機の運航にたずさわる人たちの姿を記録しておきたいという今回のプランにご協力いただいた…(略)

CDブック「機長席」

わたしは、この料理にたとえたくだりが好きです。
音が調味料だとすると、森田機長の「ギアアップ」の発声は粗挽きの黒こしょう。木村副操縦士の「V1」はその美味しさを引き立てる白こしょう。それから味の極め手はなんといってもお塩。管制官とのやりとりは、シェフが振りかけるひとつまみの塩のようですよね。
私の頭の中では、関谷チーフパーサーには、熟成のきいたバルサミコ酢になって味をもり立ててもらい、真鯛のポアレの出来上がり。iPhoneアプリの「機長席」はさしずめ前菜のテリーヌといったところでしょうか。

みなさんの頭に、どんな食卓が出来上がるんでしょうね。
ではでは、あつあつのうちに召し上がれ。

竜子

最後に。
公開にあたって、著者の武田さんより下記コメントを頂きました。
紹介します。

「この作品は本来、航空ドキュメンタリーという読み物です。それに音声を加えてより臨場感を出すべく意図した作品です。従って、音声を文字にリライトする に際して、いわゆる「意訳」がいろいろな箇所にあります。それはあくまでドキュメンタリーとしての文章を読みやすくするための創意であって誤訳ではありま せん。むろん僕の単純ミスも多々あります。

しかしながら、iPhoneアプリ「機長席」を発売した際、その意図的意訳までミスと誤解され非常に煩わしい思いをいたしました。なかでも許せなかったのは、航空マニアとしての自己知識の顕著欲からとしか考えられないような指摘やレビューを頂いたことです。そういう人は正直、僕の作品に触れて貰いたくない気持ちです。

多少、感情的になりましたが真意をお汲み上げの上ご理解頂ければ幸いです。尚、それが強烈な作品批判であれ読者の皆様の善意ある訂正コメントは大歓迎です。最後にくり返し申し上げますが、こ の作品は音声をリライトすることが目的で制作したものではなく、あくまでドキュメンタリーとしての読み物であり、音声は臨場感を出すための手段のひとつで あることをご理解下さい。宜しくお願いします」

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House
著作について▶「続・機長席」で収録している音声、音源のすべては武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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