こんにちは、竜子です。
「空港ではたらく車」第5回は「給油車」。
「燃料補給車」だとか、「レフューラー」「リフューラー」「リフュエリング・カー」(=refuelling car)、あるいは「サービサー」(後述)などといいますが、まずは総称として「給油車」で紹介します。
空港のデッキに行くと、たまに真冬の灯油のような匂いが漂っています。炎天下のデッキでこの匂いを嗅ぐと、そこはもう灼熱地獄! とはいえ、どんな気候であっても飛行機好きにはこの匂いはたまらないものですよね。

さて。飛行機の燃料はご周知のようにケロシンです。空港に漂う灯油のような匂いの元も、このケロシンです。「ケロシン」なんて聞き慣れない言葉ですが、和訳すると単に「灯油」のこと。日本では一般的にジェット機エンジン用に精製された灯油を「ケロシン」と言っていますが、「JET A-1」(ジェット・エー・ワン)、という、ジェット機用の燃料を使用しています。ケロシンが使われるのは、ジェット機です。一方のプロペラ機では航空用のガソリンを使用しています。プロペラ機といっても、YS-11やボンバルディアDHC-8などはターボプロップ機(ジェットとプロペラの掛け合わせ)になるのでケロシンを使用、純粋なレシプロ機だけが航空用ガソリンを使用しているので、国際空港のような大きな空港で見かける旅客機の燃料はほぼケロシンといってもいいかと思います。
ハイドラント方式
給油方式には2つあります。ひとつはハイドラント方式で、もうひとつはレフューラ方式。
成田空港や羽田空港のような国際空港をはじめ、ジェット旅客機が乗り入れる空港のほとんどで目にするのは、ハイドラント方式です。空港敷地内の貯蔵タンクから、飛行機の駐機スポットにある給油口(=ハイドラント・ピット、またはハイドラント・バルブとも)まで、敷地の地下には全長数十キロにも及ぶパイプラインが敷かれています。
▼成田空港の場合は、滑走路脇に燃料タンクがあり、ここから空港の敷地下にはパイプラインが貼りめぐらされて、ローディング・エプロンまで繋がっています。羽田などで採用されているハイドラント方式の貯油タンクでは1基あたり、8,000〜9,800キロリットルの容量(三愛石油)があります。

▼ハイドラント方式では、「サービサー」が地上の給油口から燃料を翼に送ります。

レフューラ方式
レフューラ方式は、わりと小さな地方空港で採用しているもので、飛行機に燃料補給車を横付けして、燃料を車から直接注油するものをいいます。このときに使われるのがレフューリング・カー(レフューラ)。なので「サービサー」と違い、「レフューリング・カー」には、必ず燃料タンクがついています。空港に燃料のパイプラインが敷かれている場合でも、駐機スポット(ローディング・エプロン)にハイドラント・ピットがない場合や、比較的燃料補給量の少ない飛行機の場合にも、このレフューリング・カーが使用されることもあります。
▼こんな感じのタンクがついているのがレフューリング・カー(レフューラ)。

サービサーの装備
さて。繰り返しになりますが、よく成田空港なんかで見かける、さも「給油車」といった雰囲気を醸し出すあの車は、厳密には「サービサー」といい、サービサーには、送油の量や圧力を計る流量計、給油時の圧力制御装置、燃料を濾過するフィルタ、燃料を送るホース、作業用の可動台などが装備されています。サービサー自体は、地下のパイプラインから飛行機の燃料タンクまでの”送油ポンプ”のような役割を担っています。
▼サービサーには燃料タンクはついていませんが、この写真にあるように小さなタンクのようなものがついています。これが、ろ過フィルターです。ハイドラント・ピットから送油されてくる燃料を汲み取り、燃料に含まれた水分がここで最終的に取り除かれるようになっています。


サービサーからの給油
▼サービサーが翼の下の給油位置に停まると、まずは車輪止めで車を固定します。そして、安全コーンや旗を置いて、危険な場所であることを示してアースを設置します。それから、サービサーについているパイプのうち一方をハイドラント・ピットに繋ぎます。

▼次に、サービサーの可動台を適当な位置まで押し上げたら、翼についているアクセスドアを空けて、もう一方のパイプを、デリバリ・ユニット(翼についている給油口)に繋げます。

▼フューエリング・ステーション・パネルを開いたら、燃料の補給開始。搭載量の確認など、航空会社の整備士さんとコミュニケーションをとります。燃料給油が終わっても、ここで忘れてはいけないのは、コックピット内の燃料インジゲーターと、サービサー側の積算との相違がないかの確認です。また、各航空会社の資格を持った整備士さんが作業完了の最終確認を行う決まりになっています。

燃料給油作業車には、航空会社が委託した給油業者(成田空港の場合はJAFS(日本空港給油株式会社)など)が作業にあたっています。作業者は自社資格の他にも各航空会社、石油元売り会社の各種認定が必須です。さらに、危険物乙4類免状などの国家資格や、空港での車両運用規則や、機種ごとの給油圧力や搭載方法などを習得しなければならず、厳しい条件をクリアした人たちが作業しています。
Q&A
2010年度の実績だけでも年間8万機、成田空港の給油サービスで大きなシェアを持つ、JAFS(日本空港給油株式会社)に、電話取材させていただきました。
ちなみに、成田空港で航空機に搭載される航空燃料は、千葉港からパイプラインを通って、成田空港のタンク→ハイドラントピット→サービサー→航空機、というように運ばれてきます。JAFSでは成田空港のハイドラントピットからの給油以外にも、千葉港での荷受代行も行っています。
では、下記にQ&Aをまとめますね(2011.8.26追記)。
【Q】飛行機から燃料を抜き取ることは無いのでしょうか?
【A】主に、航空機のメンテナンス時に抜き取ることになります。抜き取った燃料は、基本的には(抜き取り元の)航空機へ燃料を戻すことになっていますが、場合によっては同じエアラインの他の航空機に戻すこともあります。
なお、抜き取った燃料は、再びハイドラントピットへ戻すことは出来ないことになっています。抜き取られた燃料は、抜き取り専用の特定のタンクで保管します。
【Q】抜き取り専用車はありますか?
【A】ありません。レフューラーで抜き取り可能なので、レフューラーで抜き取り作業をしています。フィルター部分では水分や不純物を吸着させるようになっているので、逆流してしまってろ過できないということはありません。
【Q】航空燃料の取引単位は何ですか?
【A】サービサーから航空機への搭載には重量の「ポンド」が使用されることも、容量(リットルやガロンなど)が使用されることもあります。各航空会社の指定によってまちまちです。ちなみに、JAFSサービサーについている送油量計は「ガロン」で計っていますが、航空会社の指定する単位で、搭載量を報告しています。
また、成田空港の場合は、千葉港からパイプラインを通って成田空港のタンクまで航空燃料が運ばれていますが、このハイドラントピットまでの単位は「キロリットル」になります。
【Q】「JET-B」も使うのでしょうか?
【A】成田空港ではJET-Bは使いません。JET-Bは主に自衛隊で使われる航空機に搭載する燃料です。
以上です!
Qに対するAnswerをまとめてしまっているので、ぶっきらぼうに聞こえるかもしれませんが、JAFSさまにはお忙しい中、たいへん親切に対応いただきました!
この場をお借りして、JAFSさんにお礼申し上げます。