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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第13回(最終回)

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「コペンハーゲン カストラップ国際空港へ着陸」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入13

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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機長はフラップ角度を20度にセットするよう指示した。
「フラップ20」
「GS(グライド スロープ) ワン ドット」着陸誘導の電波を捉えているのが、計器パネルに表示されている。
「フラップ20 セット」フラップ角度が20度まで下がったことを確認、コールした。
412便は順調に滑走路に向かって下降している。機長は副操縦士にギア(車輪)を降ろすよう指示した。
「ギア ダウン」
車輪が降りる音と風を切る音が響く。
「ジャパンエア412 カミング アップ ローカライザー ナウ 5マイル」(日本航空412便へ。ローカライザーまで、あと5マイルです)
「ジャパンエア412 インターセプティング」(ローカライザーに向かっています)
「ジャパンエア412 クリアード フォア ILS コンタクト タワー 118.1」(日本航空412便へ。ILSの進入を許可します。以後はタワー管制118.1メガヘルツに交信して下さい)
機長は「ラジャ」と指示を了解した旨を副操縦士に伝え、「(ジャパンエア)412 グッディ」と交信した。
交信がカストラップ・タワー管制へ移管された。
「カストラップ・タワー ジャパンエア412 ILS 22レフト」
(カストラップ・タワー管制へ。日本航空412便です。ILS着陸方式で滑走路は22レフトです)
「ジャパンエア412 クリア トゥ ランド 22レフト 180 8ノット」(日本航空412便へ。滑走路2レフトへの着陸を許可します。風は190度の方向から8ノットです)
着陸許可は発出された。「ラジャ」の力強い声が、緊迫した雰囲気を更に染み渡らせる。
「ジャパンエア412 クリア トゥ ランド 22レフト」(滑走路22レフトに着陸します)
「フラップ30」
フラップを更に下げ、機体は少しずつ速度を落とす。着陸直前の計器チェックが始まった。
「ランディング・チェックリスト」
「イグニッション…フライト スター」
「ランディング ギア…ダウン アンド グリーン」
「スピード ブレーキ…アームド」
「フラップス…30 30 グリーン ライト…エイト グリーン ライト」
「ハイドロリックス…ノーマル」
「ランディング・チェックリストコンプリートです」
「ラジャ」
「クリア トゥ ランド」
目の前に滑走路が迫って来た。副操縦士が「ワン サウザント」と残り1000フィートであることをコールした。機長は、すかさず「ローデータ」、続いて航空機関士が「ノーフラッグ」の確認コールを行なう。
眼下には北海の蒼色に、リアス式海岸と思わせる複雑な入り江が広がっている。そして一隻の大きな帆船が滑走路の延長上を横切っている。4本のマストに純白の帆いっぱいに風を受けて、ゆっくりと北に進み、白波がその航跡を作り出している。JAL412便は速度を落としながら、ゆっくりと滑走路に向かって下降している。
「ちょうど、真上だな」鈴木機長が呟いた。
見事としか言いようがないほど、JAL412便の真下に帆船が重なった。ギアがマストの先端に接触するのではと思えるほどの近さで、遠近を失うような感覚に襲われる。
JAL412便は、滑走路のセンターラインに機体を合わし、降下し続けている。計器の目盛りが滑走路に近付いていることを示している。
「ファイブ ハンドレッド」500フィート切った。長い滑走路が目の前に飛び込んで来た。
「スタビライズ」エンジンの出力、機体のバランスが取れている。揺れは無い。
「アプローチング ミニマム」
「チェック」
着陸決定地点を目指して412便は更に下降を続ける。
「スリー ハンドレット」残り300フィート。
「ハンドレッド」残り100フィート。
滑走路末端を一瞬に通過し車輪の接地まで、あと僅か。「50…30…」航空機関士は残りの高度をコールし続ける。
機長はスラストレバーを手前に引き、エンジン推力を切った。機体は一瞬グライダーのように滑空している。機体中央の車輪が接地した。機長はゆっくりと操縦桿を押し込み、ノーズギアを接地させた。同時にスラストレバーの奥にあるリバーサー(逆噴射)のレバーを手前に引いた。エンジンに逆噴射が掛かり、ガタガタと機体を揺らしながら、急激に減速し出した。
副操縦士は「ブレーキ プレッシャー ノーマル」と、ブレーキ制御装置に異常がないことを確認した。
「ハンドレッド」100ノットまで減速し、続いて「80ノット プレッシャー ノーマル」80ノットまで減速し、ブレーキ制御装置に異常がないことを確認した。
機体はスピードを落とし「60ノット」まで減速した。
「ライトサイド クリア」誘導路に障害物が無いかを確認した。
「ジャパンエア412 ターン ライト アンド ハイスピード フォロー タクシーウエイ 2」(日本航空412便へ。右の高速誘導路に入り、誘導路2に向かって走行して下さい)
「(ジャパンエア)412」
「フラップ アップ」着陸に要したフラップを主翼に格納するように指示した。
「タクシーウエイ ナンバー2」誘導路2を走行することを再度確認コールした。
CAが客室アナウンスを始めた。ホッとした雰囲気が客室を包んでいる。
岸田副操縦士は、滑走路を横断する許可を管制官に要請した。
「ジャパンエア412 リクエスト クロス ランウェイ 12」(日本航空412便です。滑走路12を横断する許可を頂けますか)
「…コンタクト 121.9」(…121.9メガヘルツに交信して下さい)
「ライトサイド クリア」
副操縦士は周波数121.9メガヘルツに合わせて、交信を始めた。
「カストラップ・グランド ジャパンエア412 クロスイング ランウェイ12」(カストラップ・タワー管制へ。日本航空412便です。滑走路12を横断しています)
「ジャパンエア412 グッドアフタヌーン …ゲート34」(日本航空412便へ。こんにちは。貴機の駐機場は34番です)
副操縦士は復唱し、管制官は「ザッツ コレクト」(その通りです)と間違いがないことを確認した。
「スカンジナビア207 コンタクト119.9」(スカンジナビア航空207便へ。以後は119.9メガヘルツに交信して下さい)
航空機関士はチェックリストに書かれている着陸後の計器確認項目(アイテム)のチェックを行なった。
「アフター・ランディング・チェックリスト コンプリートです」
「ライト サイド クリア」
目の前に34番ゲートが見えた。既に地上整備員が待機し、412便を誘導するマーシャラーも視認できる。スピードを落としながら、ゆっくりと停留地点に着いた。
エンジンを切り、乗務員の3名は不必要なスイッチを切り、B747に一時の安息を与えていく。ドアが開き、次々と乗客が降り始めた。次の目的地のアンカレッジ、また日本に帰る乗客は座ったままで背伸びをしている姿が、ちらほらと見える。外では次の飛行に向けて慌しく準備を始めた。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

今回で「ヨーロッパ飛行」最終回になります。
この連載を執筆くださった桃田素晶さん、音源を提供くださった故・武田一男さんとご遺族のみなさま。さらに、写真をお貸しくださった「ちょっと昔の飛行機写真館」のharuhikonさん。どうもありがとうございました。

本当のこというと、この連載が終わってしまうの、凄くさびしかったです。
お待ちいただいた読者のみなさま、すみませんでした。心からお詫びします。
桃田さんにいたっては、とても懸命に何度も何度も執筆し直してくださいました。
今回はそんな桃田さんに対して、なにか目に見える形で(「航空」クリックでも、コメントでも、メール(info@airjapon.com)でもなんでもいいので)足跡を残していただければ幸いです。

この企画に携わってくれた方々、読者のみなさん。本当にありがとうございました!!

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第12回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「カストラップ空港へ進入 コペンハーゲンアプローチ」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入12

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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412便は下降を続けている。岸田副操縦士が「ワンタウザント」とコールした。指示高度7000フィートまで、残り1000フィート。まもなくすると、7000フィートに達したブザーがコックピットに響いた。
「ジャパンエア412 リクエスト ヘディング」(日本航空412便へ。現在、どの方位で飛行していますか)
「ヘディング 030 (ジャパンエア)412」(030度の方位です)
「ターン レフト ヘディング 015…」(機種を015度の方位にして下さい)
「ラジャ ジャパンエア412 レフト ヘディング 015 ウィ ア メンテニング 70」(了解しました。機首を015度に向けます。高度は7000フィートです)
CODANを通過し、機首を15度に左旋回し7000フィートで水平飛行している。右手にスカンジナビア半島、左手にデンマーク最大の島シェラン島、その間にオアーソン海峡があり、JAL412便はオアーソン海峡の中央を北に向かって、飛行している。
「(コペンハーゲン)アプローチ スターリング281 グッドアフタヌーン フライトレベル145 パッシング300」(コペンハーゲン・アプローチ管制へ。スターリング281便です。現在3万フィートを通過し、1万4500フィートに下降中です。)
北から空港に進入してくる航空機の交信が入ってきた
「スターリング281 レーダー コンタクト ラディアル160 フォア ベース 22レフト ブラボー インフォメーション」(スターリング航空281便へ。貴機をレーダーで捕捉しています。機首を160度の方位で飛行して下さい。滑走路は22レフトです。空港情報Bを入手して下さい)
「160 スターリング281 フォア ベース 22レフト ブラボー インフォメーション」(機首を160度で飛行します。滑走路は22レフト。空港情報Bを入手します)
コペンハーゲン空港をハブとしてヨーロッパに路線を展開しているアイスランドスターリング航空である。現在は破産している。
管制官は降下高度の指示を出した。空港へのアプローチが始まった。
「ジャパンエア412 クリア トゥ 2500フィート 1019ミリバール」 (日本航空412便へ。2500フィートまで降下して下さい。気圧は1019ミリバールです)
「ジャパンエア412 クリア 2500フィート 1019」(2500フィートまで降下します。1019ミリバール)
「じゃあ、そちらはILS…」
副操縦士にカストラップ空港のILSの電波を受信する操作を指示した。いよいよ、空港への進入(アプローチ)が始まった。進入に際しての計器チェックであるアプローチ・チェックリストを始めた。

JL412ランディングデータ

「アプローチ・チェック」
「ブリーフィング フォア ランディング…コンプリーデッド」
「ランディング データ…セット アンド クロス チェック」
「オート ブレーキ…ミディアム」
「エバケーション コマンド スイッチ…アーム」
「キャビン サイン…オン」
「レディオ INS スイッチーズ…レディオ」
「レディオ アルティメーター…200 セット」
「アルティメーター…セット 1019…セット アンド クロス チェック」
「サーキット ブレイカーズ…チェック」
「フュエル…セット フォア ランディング」
「プレイシャラゼーション…セット」
「アナンセーター パネル…チェック」
「フライト ナビ インストゥルメント…セット アンド クロス チェック」
「アプローチ チェックリスト コンプリートです」
「ラジャ」
パイロット達は、計器が正しく作動していることを確認した。副操縦士は、すぐさまILSの周波数をセットしたことを機長に報告した。
「マイサイド ILS ID オーケーです」
「ジャパンエア412…」
管制官から交信が入った。声が篭り、聴き取り難い。
「ハウ マッチ ファイナル ウッド ユウ ライク?」
「ハウ マッチ…何ですか?」
「セイ アゲイン プリーズ」(もう一度、お願いします)
「ハウ ロング ディス イズ ソウ ウッド ユウ ライク オン ファイナル」(最終進入地点まで、あと何マイルですか)
「えーっと…」
「スタンバイ ワン」(待って下さい)
「5マイル」
「(ジャパンエア)412  5マイル  オン ファイナル」(5マイルです)
管制官はすかさず、スターリング281便に指示を出す。
「スターリング281 スピード 220 ランディング」(スターリング281便へ。スピードを220ノットにして下さい)
「リデュース 220 ランディング スターリング281 アンド 70 トゥ 50」(220ノットにします。現在7000フィートを通過し、5000フィートに降下中です)
「ジャパンエア412 クリア トゥ  1500フィート レフト ヘディング 350」(日本航空412便へ。1500フィートまで降下し、機首を350度に左旋回して下さい)
「ラジャ ジャパンエア412 クリア トゥ 1500 レフト ヘディング 350」(1500フィートまで降下し、350度の方向に左旋回して下さい)
管制官は空港に進入してくるJAL412便とスターリング航空281便の進入調整を終えた。

機長はフラップを5度の位置まで下げるように指示した。
「フラップ5」
副操縦士は自席左にある翼の形をしたレバーを上に引き上げながら、5度の位置にセットした。
「ジャパンエア412 フライ トゥ レフト ヘディング310」(日本航空412便へ。機首を310度の方向へ左旋回して下さい)
「ジャパンエア412 ヘディング 310」と復唱した。
「スターリング281 クリア トゥ 2500フィート 1019」(スターリング航空281便へ。2500フィートまで降下して下さい。気圧は1019ミリバールです)
「2500フィート スターリング281 1019 アンド スピード ナウ 240 リービング」(2500フィートまで降下します。気圧は1019ミリバール。現在のスピードは240ノットで降下中です)
「(フラップ)10」
更に、10度にするよう指示した。コックピットは緊迫した雰囲気に変わった。
「ヘディング 310 です」
「ワン タウザント」
指示高度である1500フィートまで、残り1000フィートを切った。
「ジャパンエア412 レフト ヘディング 250 クリア ILS」(日本航空412便へ。機首を250度の方向に左旋回し、ILSの電波に乗って下さい)
「ジャパンエア412 レフト ヘディング 250 クリア ILS 22レフト」(250度の方向に左旋回し、ILSの電波に乗って滑走路22レフトに向かいます)
「スターリング281 ターン トゥ ヘディング 260 クリア ILS 22レフト」
(スターリング航空218便へ。機首を260度の方向に右旋回し、ILSの電波に乗って滑走路22レフトに向かって下さい)
「ライト 260 クリア ILS 22レフト スターリング281」(右に260度に旋回し、ILSの電波に乗って滑走路22レフトに向かいます)
管制官はスターリング281便に、JAL412便の後ろに入り進入せよとの指示を出した。
目の前にカストラップ空港の滑走路が見え、副操縦士は「ランウェイ インサイト」(滑走路、視認しました)と、コールした。
「レーダー スタンバイ しておきます」
「グライド スロープ ムービング」
副操縦士は、着陸誘導の電波を受信して計器に表示されていることをコールした。412便はまもなく着陸する。

桃田素晶

「ヨーロッパ飛行」は次回が最終回です。

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第11回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「北海からコペンハーゲンへ下降」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入11

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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412便はバルト海上空を下降し続ける。バルト海は琥珀の産地で有名である。まもなく空港進入を管制するコペンハーゲン・アプローチ管制に入る。相変わらず他機の交信が飛び交い、コックピットは一時も静寂することはない。
コペンハーゲン・コントロールの管制官がスイス航空854便を呼び出した。
「スイスエア854 コンタクト マルメ 127.75」(スイス航空854便へ。以後はマルメ・コントロール管制127.75メガヘルツに交信して下さい)
「127.75 854」(127.75メガヘルツで交信します。スイス航空854便)
スイス航空854便は今の管制域を離れ、次のマルメ・コントロール管制域に入った。立て続けにコペンハーゲン・コントロールの管制官が日本航空412便に交信してきた。

「ジャパンエア412 コンタクト コペンハーゲン・アプローチ 119.1」(日本航空412便へ。以後はコペンハーゲン・コントロール管制119.1メガヘルツに交信して下さい)
「119.1 ジャパンエア412 グッデイ」(119.1メガヘルツに交信します。さようなら)
チューリッヒ空港を離陸してから、チューリッヒ、ライン、マーストリヒ、コペンハーゲンの各コントロール管制に引き継がれてきた。412便はカストラップ空港の進入を管制するコペンハーゲン・アプローチに移管された。岸田副操縦士は無線機の周波数を119.1メガヘルツにセットし、交信を始めた。
「コペンハーゲン・アプローチ ジャパンエア412 ディセンド トゥ 70」(コペンハーゲン・コントロール管制へ。日本航空412便です。7000フィートに降下中です)
「ジャパンエア412 レーダー コンタクト … ILS 22レフト ウィ  ハブ インフォメーション ブラボー」(日本航空412便へ。レーダーで捕捉しています。ILS 22レフトに誘導します。空港情報はブラボーを入手して下さい)
空港情報がB(ブラボー)に変わった。

「インフォメーション ブラボー、ちょっと聴いておいてくれます?」
鈴木機長は空港情報を再度聞くよう指示を出した。
「ディス イズ カストラップ アライバル インフォメーション ブラボー ランウェイ ユース ランディング 22レフト ウェザー リポート 1220 220 ディクリーズ 8ノット ビジビリティ 25キロメートル 4オクターズ 2500フィート テンプラチャー 11 デューポイント 41 QNH1019 ノーシグ トランジション レベル 40 インフォメーション ブラボー」(カストラップ空港への着陸情報ブラボーです。着陸滑走路は22レフト、世界標準時12時20分現在です。風は220度から8ノット吹いています。視程は25キロメートル、上空2500フィートに雲があります。気温は11度、露点は41度。気圧は1019ヘクトパスカル。トランジッション・レベルは4000フィート、空港情報ブラボーです)
空港情報Aとあまり変化はなく、着陸には差し障りは無い。因みに先ほどの空港情報A(アルファ)では、風速は10ノット、2000フィート上空に雲、気温は12度、露点は5度であった。少しでも計測値が変わると次々と新しい情報を流す。アプローチ管制域に進入する飛行機は、管制官にいつの空港情報を聞いたかを知らせなければならない。

「じゃあ、そっちは暫くそのまま残して、マイサイドILS」
鈴木機長はCODANの周波数を残したまま、別のVHFにカストラップ空港のILSの周波数109.59メガヘルツにセットした。
「ILS 22レフト アイデンティファイ オーケーです」
ILSの周波数をセットすると、電波をキャッチしたことを岸田副操縦士が確認のコールをした。
「1万フィート、お願いします」
鈴木機長は飯田航空機関士に高度1万フィートを通過したことを告げた。
これを受けて飯田航空機関士は機内無線でパーサーに「コックピットです。1万フィート通過しました。お願いします」と伝えた。
パーサーは機体が最終着陸態勢に入ったことを機内アナウンスで知らせた。
「皆様にご案内致します。この飛行機は、まもなく着陸致します。どうぞお座席のベルトを、しっかりとお閉めおき下さいませ。また、お座席の背、お使いになりましたテーブルを、元のまっすぐな位置まで、お戻し下さい」
「重ねて、ご案内申し上げます。ご通過のお客様は、次の出発まで機内でお待ち下さい。その間のおタバコは、ご遠慮下さいますよう、お願い申し上げます」

乗客はシートベルトを締め直したり、慌ててタバコの火を消したりと着陸に備え始め、機内は慌しくなってきた。
着陸するカストラップ空港は、コペンハーゲン市の東南に位置するアマー島にあるカストラップに設置されており、正式にはコペンハーゲン空港という。
ヨーロッパ内のハブ空港の一つとして機能しており、北欧の大手航空会社 スカンジナビア航空の拠点でもある。スイス・インターナショナルと同様、成田線に週7日のデイリー運航をしている。日本航空も就航していたが、冷戦終結と同時に全廃した北極圏ルートの廃止に併せて、撤退している。
日本航空412便は、まもなくウエイポイントのCODANに到達する。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第10回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「ハノーバー上空から北海へ コペンハーゲン管制」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入10

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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右旋回を終えたJAL412便はコペンハーゲンに向かって飛行している。揺れること無く、スムーズな飛行を続け、束の間の時間だが乗客も寛いでいる。そんな中、コックピットでは下降・着陸に際しての打ち合わせが始まった。
「それではランディング・ブリーフィングをやります」
「はい」
「エクスペクト レーダー ベクター トゥ ILS 22レフトですね。タッチダウンゾーンが11フィート、ミニマムが211(フィート)、ミスド・アプローチは真っ直ぐ行って、ティアドロップのホールディング・パターンに入ります。高度が2500(フィート)、それだけです」

カストラップ空港

簡単に幾つかの用語を説明しておく。上にあるチャート図をご覧頂きたい。
先ず、ILS(Instrument Landing System:計器着陸装置)は、着陸進入する航空機に地上から電波を出し、視界が悪い時でも安全に滑走路に誘導できるシステムのことである。その電波は、滑走路進入経路の左右のズレを検知するローカライザ、進入する高さを検地するグライドパス、滑走路までの距離を検知するマーカービーコンの3つの電波から構成されている。

次に、ミスド・アプローチ(Missed Approach)は、着陸進入中にディシジョン・ハイ(Decision Height:滑走路末端からの高さ)まで降下しても滑走路を視認できなかった場合、そのまま上昇することをいう。ちなみにゴーアラウンド(Go-Around)はディシジョン・ハイを通過して更に降下した時、滑走路上に障害物や先行機との距離が短かったり、着陸寸前でウインドシエア(急激な気流の乱れ)が発生した場合に急上昇を行なうことである。ミストアプローチした際、再着陸する為の飛行ルートが決まっていて、各空港のSTAR(Standard Terminal Arrival Route:標準到着経路)などのチャート図に図面として掲載されている。尚、ティアドロップという言葉は聞き慣れないが、何らかの事情で着陸出来なかった場合、その先にあるホールディング・パターンと云って、一定の場所を旋回する場所がある。その旋回ルートに進入する形跡が涙(tear drop)のように見えることから、ティアドロップと言われている。

JAL412便の空港進入・着陸は、計器による滑走路22レフトへの進入で、滑走路接地場所は11フィートで、最終着陸決定高度は211フィート。着陸し直しで滑走路に再進入する場合は、そのまま真っ直ぐ(方位223度)に上昇して、空港VORから5.0DMEの地点で機首を190度に左旋回し、サウスウエスト ホールディング(パターン)上にある空港VORから10.0DMEの地点まで飛行し、その時の高度は2500フィート。管制官から指示があるまで、旋回をし続ける。
打ち合わせが終わると、マーストリヒ・コントロール管制から交信が入った。

「ジャパンエア412 コンタクト コペンハーゲン 119.55 シェーネン ターク」(日本航空412便へ。以後はコペンハーゲン・コントロール 119.55メガヘルツに交信して下さい。よい一日を)
「ジャンパンエア412 コペンハーゲン 119.55 ヴィダゼーエン」(コペンハーゲン・コントロール管制119.55メガヘルツに交信にします。さようなら)
通過する国への感謝・敬意を示す意味でも母国語で挨拶を交わす光景は、微笑ましいものである。

岸田副操縦士は、管制周波数をコペンハーゲン・コントロール管制119.55メガヘルツにセットし、交信を始めた。
「コペンハーゲン・コントロール ジャパンエア412 グッドアフタヌーン フライトレベル 350」(コペンハーゲン・コントロール管制へ。日本航空412便です。こんにちは。高度3万5000フィートで飛行しています)
「グッドアフターヌーン ジャパンエア412 レーダー コンタクト」(こんにちは。日本航空412便へ。貴機をレーダーで捕捉しています)
「ラジャ」
管制域がコペンハーゲン・コントロールに移管された。
「コダン(CODAN)ですか?」
「コダン(CODAN)です」
岸田副操縦士はVHFにコペンハーゲン・カストラップ空港の進入口であるウエイポイントのコダン(CODAN)の周波数114.9メガヘルツに合わせた。コダンからの電波を捉え、機内には規則的な電波の音が響いた。
「ID オーケーです」
「はい」
ウエイポイントであるCODANは、北極圏を飛行する航空機にとってヨーロッパの玄関口とも言える。

ルフトハンザ25便が同じ管制域に入ってきた。日本航空412便と同高度で飛行している。今度はエアインディアが同管制域を離れる交信が入ってきた。
「エアインディア112 コンタクト マルメ 124.15」(エアインディア112便へ。以後はマルメ・コントロール管制124.15メガヘルツに交信して下さい)
「124.15 グッディ」(124.15メガヘルツで交信します。さよなら)

ブリティッシュ・エアウエィズ(英国航空)が交信が入ってきた。ブリティッシュ・エアウエイズのコールサインは「スピードバード(伝書鳩)」である。もともとこのコールサインは、ヨーロッパ域内の国際線の英国海外航空だったが、昭和49年にイギリスの国内線の「ブリティッシュ・ヨーロピアン航空」と合併し、今の会社となりコールサインはそのまま引き継がれて今に至っている。

この付近の空はヨーロッパの中でも屈指の交通量の多さである。
「到着55分で晴れの12度」
鈴木機長は飯田航空機関士に空港到着時刻と天候を伝え、キャビンにいるチーフパーサーに伝えた。鈴木機長は岸田副操縦士に降下する許可を貰うよう指示を出した。
「コペンハーゲン ジャパンエア412 リクエスト ディセンド」(コペンハーゲン・コントロール管制へ。日本航空412便です。下降許可を要請します)
「ジャンエア412 クリア ダイレクト コダン フライト レベル70 アフター コダン ラディアル ヘディング030」(日本航空412便へ。コダンに直行し7000フィートまで下降して下さい。コダンを通過後、機首方向を30度にして下さい)
「ジャパンエア412 クリア ディセンド 70 アフター ダイレクト コダン アフター コダン ラディアル 030」(7000フィートまで降下しながらコダンに直行し、コダンを通過後、機首方向を30度にします)
「ザッツ コレクト」(その通りです)
412便は下降を開始し、まもなくコペンハーゲン空港への進入が始まる。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第9回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「ハンブルグ上空 ライン管制」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入09

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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ヨーロッパ飛行ジェプソン地図

「(コペンハーゲン・カストラップ空港)インフォメーション(情報)はアルファ(A)です」
岸田副操縦士は到着地であるカストラップ空港情報(ATIS)を聞き、鈴木機長に告げた。
「ディス イズ カストラップ アライバル インフォメーション アルファ。ランウエイ ユース ランディング 22レフト。ウエザー リポート 1150 220 ディグリーズ 10 ノット ビジビリティ25キロメートル 3オクターズ 2000フィート テンプラチャー 12 デューポイント 5 QNH 1019 ノーシグ トランジッション レベル 40 インフォメーション アルファ」(カストラップ空港への着陸情報アルファです。着陸滑走路は22レフト。11時50分現在の天候です。風は220度の方向から10ノット吹いています。視程は25キロメートル、上空2000フィートに雲があります。気温は12度、露点は5度。気圧は1019ヘクトパスカル。天候の変化なし。気圧を1019ヘクトパスカルに転移する高度は4000フィート。空港情報アルファを受信したことを報告して下さい。)
まずまずの天候に、鈴木機長はホッと胸を撫で下ろした。

ルフトハンザ航空、ブリティッシュ航空と各国を代表する、またヨーロッパを代表する航空機が高度こそ違えど、四方八方に飛行し、交信が飛び交っている。

飯田航空機関士が鈴木機長に尋ねた。
「トランジッション・レベルというのは、日によって違うんですか」
「アルティメーターによって違うんですよ。」
トランジッション・レベル(転移レベル)とは、高高度での気圧値(QNE)から国ごとに定めれた気圧値(QNH)に変える高度のことである。因みにコペンハーゲンのトランジッション・レベルは、QNH値によって変わり、このフライト時のトランジッション・レベルは、4000フィートとなっている。

視線を奥に転ずると街並みが見えてきた。ハンブルグである。JAL412便はハンブルグ上空で機首方向を52度にする為に右旋回をする。岸田副操縦士は、そんな景色に目も暮れず、計器確認など下降準備に余念が無い。
「オペレーション ノーマル、カンパニー宜しいですか」
岸田副操縦士は、飛行状況が問題ないことを確認し、その旨をカストラップ空港内にある日本航空事務局にカンパニー交信で知らせた。
「ジャパンエア・コペンハーゲン ジャパンエア412」
「ジャパンエア412 コペンハーゲン ゴーアヘッド」
「はい、どうも。ETA55分 オペレーション ノーマル」
「(ジャパンエア)412 EAT55分、了解しました。ゲートは、サーティーフォー 34です。どうぞ」
「はい、34番、了解」

ETAは、Estimated Time of Arrivalの略で、到着予定時刻のことである。空港事務局は運航状況を了解し、到着するゲート(搭乗口)を知らせた。
コックピットから眺めるヨーロッパの景色は優雅な雰囲気で、ゆったりとした時間が流れているように思える。しかし、コックピットのスピーカーからは、多くの航空機が引っ切り無しに交信しているのが聴こえる。

鈴木機長が、正面に見える景色の説明をしてくれる。
「そこにハンブルグが見えますか?」
「ちょっと先に交差した滑走路見えます?」
「あれがハンブルグの飛行場ですね」
「手前が街ですから。そこに湖があるのが分かりますかね。飛行場の手前、ちょっと右側ですね。あれが街の真ん中にある、アルスタードという人口の池です」
ドイツの広大な風景の中にハンブルグの街並みが見えてきた。奥に目を転じると滑走路が交差しているハンブルグ空港、その手前にヨーロピアン・スタイルの建物が建ち並び、穏やかなアルスター川の流れに大小の船舶が行き交っている。ハンブルグは、ドイツ北西部に位置し港湾の街として、またヨーロッパ屈指の観光地であり、ドイツ北部での経済の中心地である。

JAL412便はハンブルグの上空に差し掛かり、旋回角度20度で右旋回し機首を52度に向け始めた。風は216度から24ノットで、右後方からの追い風である。
旋回が終わると下降の打ち合わせ、ランディング・ブリーフィングが始まる。表情が温和だったクルーの表情が、キリっと引き締まる。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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急逝された武田一男さんに感謝を寄せて、今週は武田一男さんが撒いてくださった種子をいくつかお届けしたいと思います。

いよいよラストを飾るのは、桃田素晶さん。航空エンターテインメントとして武田一男さんが築かれた「航空ドキュメンタリー」を、引き継いだのが桃田素晶さんです。
比類のないジャンルですので、後継者がいたことは、航空ファンにとっては計り知れない財産だと思っています。また、桃田素晶さんは、もともと武田一男ファンだったこともあって、「武田節」まで踏襲した解説をしているのがミソです。これもまた生粋の武田DNAを引き継いだ作家として、これからも活躍していくことでしょう。

武田一男さんの素晴らしさは、まだ開花していない人の才を見つけてきてはそれを育てようと、努力されたことに尽きると思います。

ちなみに、iPhoneアプリ「機長席」や「続・機長席」で誤解されることもありましたが、航空無線の一言一句をそのまま書き起こした教材ではないんです。あくまで、コックピットの息づかいを伝える、それが「航空ドキュメンタリー」。その点をひっぱってきて「音声が抜けている」「意訳している」といった指摘はトンチンカンなんです。もし、一言一句を正確に記して「勉強」されたいのなら、教材として刊行されている「航空無線の本」があるのでそちらを。ただ、そうした「演出」意外の部分で「ミス」だというところは、作品としての完成度を高めるためにもぜひ、ご指摘ください。

さらに、「航空ドキュメンタリー」を当ブログで配信した、いちばん初期の頃の話。「武田さん、カタカナよりもアルファベットにしませんか?」と提案したことがあります。「いや、それじゃダメなんだよ。僕が大切にしたいのは読み物としてのコックピット」とおっしゃってました。その後「やっぱり、アルファベットだと良いのに、って読者が出てきましたねぇ」と言った私に、「そんなのただの教材じゃない? 僕はカタカナにこだわる。そういうこだわりが作家の創意なんだよ」と。

B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第8回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「フランクフルト上空からハンブルグ上空へ ライン管制」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入08

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JAL412便はバルト海に向けて北上飛行を続けている。同じ管制エリアを飛行する航空機の交信が立て続けに聞こえてくる。鈴木機長が地図を広げて、コペンハーゲンまでの飛行ルートを説明してくれた。ちなみにここでいう地図とは空の道路(航空路)を示したもので、アメリカのジェップソン社が製作した航空路地図のことである。
「えーっと…フランクフルトはここですね。それで(チューリッヒから)まっすぐ北に向かって上がってるわけです。それで今、フランクフルトを過ぎちゃったんですけど、このまんま、ずーっと行って、ハンブルグの上空まで真っ直ぐ、ハンブルグの上空から今度は北東ですか、北東に上がって行くんです。ドイツのハノーバー(ハノーファー)って街のすぐ脇を通るんです。それでこれが所謂、ベルリン回廊…」

ハノーバーは春に世界最大級のコンピューターの見本市会場である「CeBIT」が開催されている街である。
ここで、ベルリン回廊に触れておく。そもそもベルリン回廊が出来たキッカケは、ベルリン封鎖事件がキッカケとなっている。その事件は冷戦時代を象徴する事件の一つで、ソ連が西ベルリンに向かう全ての鉄道・道路を封鎖した事件である。第二次世界大戦後、当時のドイツの首都ベルリンは、アメリカ・ソ連・イギリス・フランスの4ヶ国で分割占領されていた。しかし、ベルリン周辺の地域はソ連の領土であった。アメリカ・イギリス・フランスの軍隊がベルリンに駐留するが、社会主義の浸透を目的とした支配権の拡大を目論むソ連は、各国の軍隊の進駐の妨害策としてスパイ行為や不法行為を行なっていた。その後、ポツダム会談を機に、アメリカとソ連、民主主義と社会主義の対立、いわゆる冷戦が勃発した。そしてベルリンは事実上、東西に分断された。
ソ連はドイツとの戦争で甚大な被害を被った為、多額の損害賠償金を望み、アメリカ・イギリス・フランス側は早期復興を考えていた。そのような対立の中で、ソ連は西ベルリンに向かう全ての人・モノの強制検問を行ない、厳しい制限を設けた。その後、両国は様々な政策を打ち出し、ついにソ連は陸路・航路を完全封鎖した。

しかし、西ドイツからベルリンまで3本の空路は封鎖しなかった。両国の取り決めにより西側諸国の自由な利用が認められていた為である。もう一つの理由として、空路まで完全封鎖すれば全面戦争の危険が孕んでおり、当時のソ連の状況では多大な損害を被るのが目に見えていたので、それを避ける為にとも言われている。この3本の空路をベルリン回廊と称した。そして物資を西ドイツにあるヴィースバーデンとラインマインの両基地からテンペルホーフ空港に輸送し空輸作戦が開始され、アメリカ、イギリスはそれぞれに空輸作戦名を冠し、一般にはベルリン大空輸と言われていた。西ベルリンに住んでいる住民の食料や生活必需品を大量に空輸するのは、当時の航空機の搭載量を考えると、並大抵のことではなかったが、その後の輸送機の発展のキッカケともなった。また、その支援体制も確立されてきて、乗員の訓練の為にアメリカに回廊を想定した訓練が行なわれ、その他に機体の整備や燃料の手配、物資の流れが構築され、結果的に輸送量の拡大に繋がった。

こうした中、西ベルリンにあった2つの空港(テンペルホーフ、ガトウ)の航空量が増え、管制官が捌ききれない状況に陥り、その対策が講じられた。その結果、先ず現在のベルリンの玄関口であるテーゲル空港を造成、次に西ベルリンへの3本の航空路の内、南北の航空路を往路、真ん中の航空路を復路とし、且つ定められた時間と高度を厳格に守ることになっていたので、ゴーアラウンド(着陸のやり直し)が認められず、西ドイツにリターンバック(引き返し)をしなければならなかった。また、ベルリンの空港には視界が悪い時に滑走路直前まで精密進入レーダー(PAR)を使って誘導するGCA(Ground Controlled Approach:着陸誘導管制)体制を引き、24時間体制で行なわれていた。ちなみにGCAは管制官の肉声のみで航空機を誘導する管制方式で、現在日本の空港では行なわれていない。
この状況下で、ソ連の妨害が日増しに多くなり、輸送機に戦闘機を近付け威嚇行為や、航空路から外れた輸送機に威嚇射撃を行い、挙句の果てには射撃訓練まで行なう始末であった。だが、西側諸国は決してベルリンを見放さず援助し続けた。社会主義浸透を目論んでいたソ連は、封鎖の失敗を認めざるを得なくなり、1945年(昭和24年)5月12日に封鎖を解除した。空輸作戦成功を記念した記念碑が、テンペルホーフ空港とラインマイン基地に造られている。

管制官が次の管制エリアに移管するよう交信して来た。
「ジャパンエア412… 133.95 グッディ」(日本航空412便です。133.95メガヘルツに交信して下さい)
「オーケー 133.95 ジャパンエア412 グッディ」(了解しました。133.95メガヘルツに交信します。さようなら)
日差しがコックピットに差し込む。そのコックピットから望む景色は何ものにも代え難いものである。大パノラマの景色が目の前に広がり、雲上であれば見渡す限りの雲海、手を伸ばせば届くほどの近さを感じる太陽や星、それを体験できるのは乗務員のみである。何とも羨ましい。
「(地図を)見てていいですよ」
「お飲み物は如何致しましょうか」
「コーヒー、クリーム、シュガー お砂糖半分」
キャビン・アテンダントが乗客へのサービスが終了したことを報告しにコックピットに入って来た。パイロットに飲物を聞き、機長はクリームと砂糖が半分入ったコーヒーを頼み、機長に釣られるように他の2人も同じものを頼んだ。コックピット内は非常に乾燥しているので、水分補給は欠かせない。
岸田副操縦士が次の管制エリアに交信を始めた。
「マーストリヒ ジャパンエア412 グッドアフタヌーン フライトレベル350」(マーストリヒ・コントロール管制へ。こちら日本航空412便です。こんにちは。飛行高度3万5000フィートです)
「ジャパンエア412 グーデンターク レーダー コンタクト」(日本航空412便へ。こんにちは。貴機をレーダーで補足しています)
オランダ南東部にあるマーストリヒは、1991年(平成3年)にEU(ヨーロッパ連合)創設の条約(マーストリヒ条約)が締結された街である。
管制区域に多くの飛行機が飛び交い、交信が絶え間なく続いている。ルフトハンザ17便が管制区域に入ってきた。
「マーストリヒ グーデンターク ルフトハンザ017 フライトレベル310」(マーストリヒ・コントロール管制へ。ルフトハンザ17便です。高度3万1000フィートです)
「ルフトハンザ017 レーダーコンタクト」(ルフトハンザ17便へ。貴機をレーダーで補足しています)
ルートも半ばを過ぎ、下降の準備が始まる。飯田航空機関士は下降に備えて準備を始め、鈴木機長に着陸のフラップ角度を確認する。
「ランディングのフラップは?」
「30度で」
「はい」
聴き慣れない航空会社のコールサインが飛び交い、飛行状況を報告している。岸田副操縦士はカストラップ空港内にある事務所に到着予定時刻の報告をする準備を始めた。
「カンパニーは55分でいいですか?」
「そうですね」
クルー達は僅かではあったが長閑な景色を堪能し、これからの下降・着陸に向けて本格的に準備を始める。少しずつだが引き締まった表情を見せている。

コックピット・ドキュメンタリー「ヨーロッパ飛行」上空から

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第7回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「高度3万5000フィートへ 機長アナウンス ドイツ ライン管制」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入07

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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ライン・コントロール管制に移管したJAL412便は、高度3万3000フィートで東西両ドイツの国境に沿って、北上している。管制官より承認高度である3万5000フィートへの上昇の交信が入った。
「ジャパンエア412 クライム トゥ 350」(日本航空412便へ。3万5000フィートに上昇して下さい)
「ラジャ リクリア フライト レベル 350 ジャパンエア412」(3万5000フィートまで上昇します)
眼下には緑の丘陵地帯とドナウ川が見渡せる。今日のライン・コントロール管制区域は多くの飛行機で大変混雑している。無論、JAL412便も例外ではない。ヨーロッパは幾つもの国が身を寄せ合うように連なり、人の往来も多いので、飛行機だけに限らず鉄道網も整備されている。言わば空と陸の競争が活発なので、ヨーロッパ域内は交通手段が非常に発達している。と言っても熾烈な競争だけではない。ヨーロッパ域内の国の名立たるフラッグキャリアが鉄道を運営しているぐらいである。更なる利便性を向上させる為には、競争しつつも鉄道との連携も不可欠である。
まもなく巡航高度3万5000フィートに達する前に、飯田航空機関士は巡航速度を鈴木機長に尋ねた。
「クルーズ (マック)84でいいですか?」
「(マック)82」
マック(Mac)はマッハ(MACH=音速)のことで、この場合マック82というのは、0.82マッハのことで音速に達していない(亜音速流)ことである。
管制官が次の管制エリアの周波数の交信をしてきた。
「ジャパンエア412 コール バイ 132.15」(日本航空412便へ。132.15メガへルツに交信して下さい)
「ジャパンエア412 132.15」(132.15メガへルツに交信します。さようなら)
「ライン・コントロール ジャパンエア412 クライム トゥ 350」(ライン・コントロール管制へ。日本航空412便です。3万5000フィートに上昇中です)
「ジャパンエア412 グッドアフタヌーン レーダー コンタクト」(こんにちは。貴機をレーダーで捕捉しています)
先程と同じライン・コントロール管制だが、幾つかに管制域を区分している。名称は同じだが周波数は違う。
「412」
副操縦士の「412」の交信は、「ラジャ」の意味もあり、特に何も無ければ、便名のみで交信することも、しばしばである。決して愛想が悪い訳ではない。
ここで、航空管制について簡単に説明をしておく。航空機はパイロットの判断で勝手に動かすことは出来ない。必ず管制官の指示に従わなければならないことになっている。乗客を乗せてトーイングカーで押し出される時(プッシュバック)、地上走行する時(タキシング)、離着陸の許可、上昇・巡航・下降の際の高度・方位・速度など、航空機の全ての動きを管制官は目視やレーダー画面上で監視し指示する。
チューリッヒからここまで、以下の様に7つの管制に引き継がれて来た。

航空機の動き 担当する管制
出発承認(Delivery)
駐機所から離脱(Push Back)
滑走路までの地上走行(Taxing)
チューリッヒ・グランド管制
(118.1MHz)
滑走路進入(Line Up and Wait)
離陸の許可(Takeoff)
チューリッヒ・タワー管制
(118.1MHz)
離陸後の方位(Heading)
飛行制限高度(Distriction Altitude)
チューリッヒ・ディパーチャー管制
(125.95MHz)
上昇(Climb) チューリッヒ・コントロール管制
(131.15MHz/131.3MHz)
上昇(Climb)巡航(Cruise) ライン・コントロール管制
(134.8MHz/132.15MHz)

ヨーロッパは広大な国土の中に幾つもの国と地域が混在している。その広範囲なところに網の目の様に航空路が入り組んでおり、引っ切り無し飛行機が運航されている。その航空路を飛行する航空機を管制するのは並大抵のことではない。そこで高度によって管制エリアを細分化し、確実に安全に管制していくのである。
そして、パイロットは次の管制周波数を聴き間違いをしないように神経を集中させる。余談だが、管制での交信は英語が公用語になっているが、中国やロシア、フランスは自国機に対して母国語を使用する。あと英語でも各国の言語の訛りがあるので聞き難いのだが、慣れる以外に解決方法は無い。
同じ管制エリアを飛行している航空機が管制官に交信している。

「ライン・コントロール …88B パッシング 25 フォア 240」(ライン・コントロール管制へ。こちら…88B便です。2500フィートを通過し、2万4000フィートに上昇しています。)
「…88B ラジャ スクォーク2575」(…88B便へ了解しました。貴機の認識番号は2575です。)
「…88B レーダー コンタクト コンティニュー クライム トゥ 280」(…88便へ。貴機をレーダーで捕捉しています。そのまま2万8000フィートまで上昇して下さい)
「88B ラジャ」(了解しました)
岸田副操縦士は高度計器が3万4000フィートを示したことをコールした。
「ワン サウザント」
巡航高度まで残り1000フィートである。指示された高度3万5000フィートまで、もう間もなくである。
コックピットにブザー音が響いた。3万5000フィートに達し、巡航に入った。岸田副操縦士は管制官に報告の交信を行った。
「ジャパンエア412 リーチング フライト レベル 350」(日本航空412便へ。3万5000フィートに達しました)
「ラジャ」(了解)

ここから暫くは巡航(クルーズ)に入る。コックピットの前に広がる景色にヨーロッパの優雅さが伝わってくる。シートベルトの着用サインの点灯が消えた。乗客から溜息にも似た安堵の息が聴こえる。おもむろに煙草に火を付ける人、お手洗いに行く人、各々がくつろぎ始めた。機長は操縦を副操縦士に任せた。通常、ここで機長は副操縦士が行なう管制官との交信を行なうのだが、機内アナウンスの準備を行なうので、「ATC モニター」と管制官との交信も副操縦士に任せた。
同じ管制エリアを飛行する航空機が、別の管制エリアに移管する交信が聞こえる。
機長は機内アナウンスの原稿を片手に、客室に通じる無線マイクを取り、アナウンスを始めた。
「ご搭乗のお客様、本日は日本航空412便、コペンハーゲン、アンカレッジ経由東京行きご利用頂きまして、まことにありがとうございます。操縦席よりご案内申し上げます。ご搭乗機、現在、飛行高度3万5000フィート、約1万700メートルの高度、毎時約950キロの飛行で順調に飛行を続けております。ご搭乗機のコペンハーゲン・カストラップ空港到着は、只今から約1時間のち、午後2時55分頃を到着を予定しております。現在のコペンハーゲン地方、曇り、気温は摂氏9℃との報告を受けております。僅かな時間ではございますが、どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さいませ。本日は日本航空をご利用頂きまして、まことにありがとうございました」
操縦室からのアナウンスは、旅情を醸し出す重要なアイテムであり、また飛行機が順調に飛んでいることを実感できるものである。
JAL412便はTANGO・VORを通過し、機首を007度に向けて航空路UG5に乗り、一路ハンブルグに向かって飛行する。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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【最終回】ボーイング777コックピット「続・機長席」第9回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックの電子書籍化である。
新千歳空港を折り返して東京・羽田空港へ向かったB777・114便は、前回ラッシュアワーを迎えた羽田上空へさしかかかった。今回で114便は羽田空港にランディング。ついに最終回である。
最後までおつき合いくださったみなさま、どうもありがとうございました。

第5章 羽田空港ランディング

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★「続・機長席」挿入09

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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 管制エリアが、東京アプローチから羽田空港の離着陸をコントロールするトウキョウ・タワーコントロールに引き継がれた。木村副操縦士は周波数124.35メガヘルツでタワーを呼ぶ。
トウキョウ・タワー。エアシステム114。3マイル トゥ ジョウナン スポット2」(東京タワー。エアシステム114便です。現在、ジョウナンの手前3マイル地点です。羽田到着スポットは2番です)
114便は機首を320度で、まっすぐ東京の湾岸にある江東VOR/DMEを目指して飛行している。現在地点はジョウナンの3マイル手前、東京湾のど真中だ。
女性管制官の声が、夜の東京湾上空を縫ってコックピットのスピーカーから流れた。
エアシステム114 グッドイブニング トウキョウタワー ランウェイ16レフト ウィンド200 20 マキシマム 30 プロシーディング ボーイング747 5 アンド ハーフマイルズ アヘッド クリア トゥ ランド
(エアシステム114便へ。こんばんは。こちらは東京タワーです。滑走路16レフト 風は200度方向から20ノット、最大で30ノット吹いています。貴機の5マイル半先を飛行するボーイング747に従って飛行してください。着陸を許可します)
東京アプローチの管制官が5マイル間隔で並べた進入機を、羽田空港の管制塔の最上階、ガラス張りの管制室から女性管制官が羽田空港への最終着陸の指示を出しているのだ。
114便のコックピットの窓を通して、すぐ前の湾岸上空を左旋回する日本航空106便ジャンボ機の点滅する衝突防止ライトが見える。
エアシステム114 トラフィック インサイト クリア トゥ ランド 16レフト」(エアシステム114便です。先行の飛行機を確認しています。滑走路16レフトへ着陸します)

▼羽田空港ターミナルプロシージャ

 交信を聞きながら機長が、滑走路16レフトへ着陸許可を確認してコールする。
クリア トゥ ランド 16レフト
スピード VーNAV パス」とふたりのパイロットが確認し合う。
VTGはプラス10でいきますから。134(着陸速度134ノット)」と森田機長。  着陸を目前にしてコックピットには緊張した空気が流れる。
カンパニー
木村副操縦士はエアシステム運航部ディスパッチ・ルームを自社専用無線で呼んだ。
114便です。まもなくジョウナン。スポット2番
(114便です。まもなくジョウナン通過。スポットは2番の予定です)
スポット2番。 です
運航部も予定しているスポットの変更がないことを114便に知らせた。
着陸前に、東京タワーにも運航部にもスポット(駐機場)の位置を確認するのは、着陸後、もしスポットの変更があった場合、空港の何処に飛行機を地上走行させるか明確にする必要からである。
114便はジョウナン・ポイントを通過した。約600メートル下は東京湾の海面である。前方は湾岸エリア、その明かりの向こうに東京タワーのオレンジ色のライトが飛行機より高く聳えている。
セット。アルト。1500 セット トラック 157
飛行機の左側、東京湾岸地区の運河を越えて羽田空港の滑走路16のランウェイライトが見えた。
エアポート インサイト。ランディング」と森田機長。
まもなく左旋回をして、コンタクトアプローチ(目視進入)でランディングするのだ。114便の5マイル先を飛ぶ日本航空106便が湾岸上空を旋回し終わり、機首を滑走路に向けている。その先を飛ぶ全日空862便が滑走路16レフトに着陸した。
管制官が着陸した862便に指示を出す。
オールニッポン862 ターンライト C(チャーリー)4 コンタクト グランド118デシマル22 グッディ
(全日空862便へ。こちらタワー。右に曲がって誘導路C4へ向かって地上走行に移ってください。以後、羽田グランドコントロール周波数118.22に連絡してください。さようなら)
118.22 チャリー4 オールニッポン862 ウィ ドゥー
着陸した全日空862便は、口癖”ウィ ドゥー”を最後にスポットに向かった。
VーNAV アルト
デイスプレイを見ながらコールする機長と副操縦士。
セット ゴーアラウンド アルト
森田機長は再着陸(コーアラウンド)をする場合の高度を確認する。
東京湾を埋め立て再開発した湾岸エリアの風景が、美しいディテールを見せ始めた。江東VOR/DMEがすぐそこに迫る。
ギャ・ダウン
機長が車輪を下げる指示を出す。副操縦士が復唱してギヤレバーを下げた。続いて、
フラップ20」と、フラップの角度が20度に降ろされる。
コックピットの音が変わった。
機体からせり出てくる車輪に風が当たり豪々と響きわたる。
ギャ・ダウン」ディスプレイのモニターで車輪が完全に降りたことを確認して木村副操縦士がコールする。
マイ サイド FD オフ」と森田機長。
オートパイロット オフ
自動操縦装置を切り操縦を手動に変えた。777の飛行がマニュアルになった。宇宙船777が大きく美しい飛行機に変わる一瞬だ。
レフトクリアー
左側の窓から外を見て機長は機を左に旋回させる。777は森田機長の手の中で優美なグライダーのように飛翔した。
眼下は灯の洪水だ。
レインボーブリッジ、観覧車、フジTVの社屋、ホテル、シーサイドショッピングセンター、屋形船、東京湾フェリーの灯、光、明かりの連続。そして浜松町、品川、渋谷、新宿の街の灯。赤、青、黄色、紫・・・宝石の絨毯を敷き詰めてライトアップたように見渡すかぎり続く星の湖のような東京の街灯。コックピットから見るこの夜景は世界の空港の着陸シーンでも間違いなく五本指に入る美しさだ。
今、そのすべての灯が左旋回するにつれ、ぐるりと大きく右に渦を巻くように回り続ける。リンドバークの一節が脳裏をよぎる。

星空の下に星の輝く大地の広がり。パリの灯だ。
光の直線、光の曲線、光の方形。大通り、公園、建物などの輪郭が現われてくる。
はるか下方に、上に向かって点々と伸びる光の柱がある。
エッフェル塔だ。
私はその上空を旋回し、ル・ブールジェ(空港)をさして進路を北東に転ずる。

「翼よあれがパリの灯だ」 チャールズ A リンドバーク

フラップス30。セット スピード
最終フラップが降ろされ、着陸速度が134ノットにセットされる。
風が強い。高度1200フィート。約360メートルの高度だ。
ランディングチェックリスト
着陸の計器点検が始まった。スピーカーから日本航空106便が滑走路16レフトに着陸した交信が聞こえてくる。
ジャパンエア106。ターンライト C4 コンタクト グランド118.22
(日本航空106便へ。右に曲がって誘導路C4へ向かってください。以後、羽田グランドコントロール周波数118.22に連絡してください)
ランディング チェックリスト コンプリーテッド」ディスプレイを確認して木村副操縦士がコールする。
ジャパンエア106 C4 118.22 グッデイ
日本航空747は誘導路に向かった。
左に大きく旋回して森田機長は777の機首を滑走路16レフトに合わせた。前方には薄暗い東京湾、その向こうにアプローチライトに導かれた滑走路が光りの美しい線を南南西にクリスマスツリーのように延ばしている。海風が正面、そして右横に激しく吹き付けた。その風に煽られ機体がぎしぎしと軋む。眼下は城南島海浜公園だ。
風が強いね。27ノット」と森田機長。
プラス ハンドレッド」とコンピューターがコールする。
チェック」と森田機長。
ミニマム」と木村副操縦士。
着陸かゴーアラウンドかを決める一瞬だ。飛行機は海の上に出た。
ランディング!
機長が着陸を決定してコールした。
海を挾んで滑走路のライトが目の前にキラキラと光る。
1000
高度1000フィート通過。あと約300メートルだ。
右横前方からの風が強さを増す。777は若干風上に機首を向けて高度を下げてゆく。
管制官が風を知らせてきた。
ウィンドチェツク 190 23 マキシム 32
(風は190度から23ノット。最大32ノットです)
114便の強力なランディング・ライトが、眼下の暗い海を真昼のような明かるさに照らしていく。
オートスロットル オフ」と森田機長。
オートスロットルを切った電子音が響く。
777はランウェイに続く海を越えた。スピーカーからは全日空744に着陸の許可を出す管制官のボイス。
300
高度計を読む木村副操縦士。あと300フィート、約90メートルだ。
風が唸りをあげる。インナーマーカーを通過する電子音。
スタビライズド」と機長。
機体が風に煽られて滑るように滑降する。時速約250キロ。
コンピューターが接地までの高度を読み上げ始めた。
50(フィート)、40、30、20、10
そして接地する音。逆噴射するエンジン。
114便は羽田空港へ着陸した。次第に速度が落ちる。機長の顔がもとの優しさに戻った。
エアシステム114 ターンライト C4 コンタクト グランド118.22
C4 118.22 エアシステム114
速度計のスピード表示が60ノットに落ちた。
60!
マニュアル・ブレーキ
60ノットに速度が落ちたのでブレーキをオートから手動に切り替えて、森田機長は滑走路エンドから誘導路の入り口へ向かった。
木村副操縦士は周波数を切り替えて、羽田空港の地上管制を呼んだ。
トウキョウ・グランド テイク C4 スポット2
(東京グランド管制へ。こちらはエアシステム114便です。誘導路C4へ入ります。駐機場は2番ゲートです)
エアシステム114 トウキョウ・グランド タクシー E(エコー)4 J(ジュリエット)3
(エアシステム114便へ。こちらは東京グランドコントロールです。誘導路E4からJ3へ地上走行(タクシー)してください)
E4 J3 エアシステム114
(E4からJ3をえてスポットへ向かいます)
交信を終わると副操縦士は機長にタキシングのルートを報告する。
エコー4、ジュリエット3です
森田機長は了解して114便を誘導路に入れた。誘導路の赤や青、オレンジ色のライトが夜のエアポートの旅情を醸し出している。114便はゆっくりと地上走行に移った。
TCAS オフ。オートブレーキ、キャンセルメッセージ
木村副操縦士はアフターランディングの点検を始めた。機長が確認する。
エアシステム114 コンタクト グランド 121.7
(エアシステム114便へ。以後はグランドコントロール121.7へ連絡してください) 木村副操縦士が復唱して、周波数を121.7メガヘルツに変えてグランド管制を呼ぶ。
トウキョウ・グランド。エアシステム114 オン J3 スポット2
(東京グランド。こちらエアシステム114です。今誘導路J(ジュリエット)3を通過中。スポット2に向かっています)
エアシステム114。トウキョウ・グランド タクシー トゥ スポット
(エアシステム114便へ。東京グランドです。スポットへ向かってください)
東京グランド管制官と交信を交わす出発便の横を通ってエアシステム114は北側にある自社ゲートへと向かう。
誘導路の右にゲート2番が見えた。駐機する飛行機を誘導するマーシャラーが振る赤いライトが目に入り、森田機長が「マーシャラー インサイト」とコールして機首を右にまわしてマーシャラーの方へ向ける。
チェック ライトサイド」(右側を確認してください)
そして機長は副操縦士にタクシーライトなど飛行機の外側のライトを消すように言った。「オール・ライト オフ
客室ではパサーがキャビン・クルーに乗客用のドアを開ける準備をするように指示している。
18時40分。114便はゆっくりとゲート2番に止まった。ボーディングゲートが機体に接続される。
ドアー オープン OKです
森田機長はエンジンを切って、キャビン・クルーに乗客ドアを開ける許可の合図を送るように副操縦士に指示する。そして地上のメカニックとインターホンで連絡した。
パーキングブレーキリリースしました。オペーレーション(千歳からの運航)前はオーケーです。キャビンでよろしく
機長と副操縦士は777をパーキングする計器点検をする。
キャビンでは乗客が飛行機を降り始めた。
すべてのチェックが完了すると、「ご苦労様」と機長と副操縦士は互いの労をねぎらった。ふたりの顔には一仕事終えた男の表情があった。が、すぐ、これから始まる福岡への最終のフライト打合せのためにディスパッチャーが待つサテライトへ向かった。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第8回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第4章 羽田空港進入_2

▼羽田へのルートマップ
羽田へのルートマップ

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★「続・機長席」挿入08

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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 今日はオビツには高度3000フィート前後で到達している。オビツで滑走路16レフトへの進入許可をもらって東京の湾岸にある江東VOR/DMEから発信される電波KWEー140に沿って(インターセプト)、機首方向320度で東京湾の真中にあるジョウナンに向かって高度2000フィートになるように下降する。それから高度2000フィート、スピード170ノットで江東VOR/DMEを目指す。
江東VOR/DMEに近づくと、東京アプローチから羽田空港のタワーコントロールへ引き継がれる。無論、今日はレーダー誘導なので若干の近道などがあるが、大体そのルートで誘導されている。
オールニッポン862 ターンライト ヘディング 260
(全日空862便へ。右旋回して機首方向260度(ほぼ西)で飛行してください)
862便が復唱する。862便の位置はアビオン付近でこれからオビツに向かって右旋回するのだ。
オールニッポン90 ディセント 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(全日空90便へ。高度2000フィートに下降し、滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します)
オールニッポン90 ディセント 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
全日空90便は、オビツ付近を高度3000フィートで東京湾へ飛行している。これからジョウナンに向かって高度2000フィートになるように下降するのである。
東京アプローチの管制官が全日空862便を呼んだ。862便はアビオン付近を飛んでいる。
オールニッポン862 ターンライト ヘディング290 インターセプト コートー140レディオ
(全日空862便へ。右旋回して機首を290度方向にし、江東VOR/DMEの140度のコースに沿って飛行してください)
アンダースタンド オールニッポン862 レフトターン 290 インターセプト コートー1・・4.・0レディオ
オールニッポン862 ファーマティブ アンド セイ スピード
(その通りです。現在の貴機のスピードを知らせてください)
ウィ アー ディデューシイング スピード 230?
(スピードを230ノットにしますか?)
ラジャ ファーザー ディデュース スピード 210ノット プリーズ
(了解。スピードを210ノットに減速してください。お願いします)
ラージャ。ウィ ドゥ
東京アプローチの管制官と全日空862便のパイロットの交信は、便名を間違えたり、数字を聞き違えたりするが、なんとなくほのぼのとした感情の交流が感じられて楽しい。全日空862便はオビツに向かった。
ここで現在の各飛行機の位置を再確認しておくと羽田空港に近い順から、まず、東京湾上のジョウナン付近に全日空90便。その後にこれからオビツに向かっている北からの全日空862便。御宿からオビツに向かって飛行する日本航空106便とエアシステム114便が、東と北からほぼ同時に862便を追っている。その次に日本航空368便が東から、全日空744便と全日空870便が北から、そして日本航空386便が東から続いて進入している。
これのあとかなあ?
森田機長がコックピットのレーダーに映る飛行機の機影を見ながら、どの飛行機の後方につくか考えている。これ、とは日本航空106便ジャンボである。
114便より日本航空106便ジャンボの方がわずかに先行して、全日空862便の後につきそうな気配である。
どうも、そんな感じになってきましたね
木村副操縦士もレーダーに視線を投げて言う。
オールニッポン90 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35
(全日空90便へ。以後は羽田空港タワーコントロール124.35メガヘルツへ連絡してください)
東京湾上空のジヨウナン付近を飛行している90便が羽田タワーに引き継がれた。
その間にはちょっと、5マイルしかないので・・・ギリチョンで
木村副操縦士は、全日空862便と日本航空106便の間に入りたいが、距離はわずか5マイルしかないので入り込むのは無理だと言う。
106便は本来ならば、18時20分羽田着でエアシステム114便の18時45分着より25分早いアライバルの筈であるが、今日はディレイ(遅延)しているので少しでも早く先行したい様子だ。
オールニッポン744 ディセント メインテイン 3000
(全日空744便へ。高度が3000フィートになるように降下してください)
あー、ラジャ。オールニッポン744。3000
長崎発日本航空186の777が、房総半島の東、御宿VOR付近に到着して東京アプローチに最初の交信をしてきた。この飛行機は日本航空368便の後にいる。
トウキョウ・アプローチ。ジャパンエア186。インフォメーション インデア ディセンディング160
(東京アプローチへ。日本航空186便です。ATIS(空港情報)Iを聞いています。現在高度16000フィートへ下降中)
ジャパンエア186。トウキョウ・アプローチ。フライヘデング080 コンテニュー ファイナルアプローチコース ディセント アンド メインテイン 10000
(日本航空186便へ。こちら東京アプローチです。機首を080方向で引き続き最終進入コースに入ってください。下降して10000フィートを維持してください)
フライヘデイング080 ディセント アンド メインテイン 10000 ジャパンエア186
114便のコックピットではふたりのパイロットが打合せを始めた。
ライトターンをしてからアプローチチェックをやりますから」と森田機長。
114便はオビツの少し手前まで到着した。まもなくもう一度右旋回の指示がきて機首を東京湾に向けることになる。機長は機首を東京湾に向けてからアプローチの点検をするつもりであった。
オールニッポン862 ディセント アンド メインテイン 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(全日空862便へ。2000フィートまで降下しください。VOR/DME滑走路16レフトの進入を許可します)
オビツを出て東京湾に向かっている862便に進入のクリアランスが出た。862便が独特のトーンでコールバックする。
オールニッポン862 2000フィート クリア VOR/DME ランウェイ16 レーェフト アプローチ アウト オブ 3500
(全日空862便です。2000フィート。滑走路16レフトへVOR/DMEアプローチ了解。高度3500から下降します)
そのとき、東京アプローチの管制官があわただしく114便を呼んだ。
エアシステム114 トラフィック ジャパンエアジャンボ アンド ワンオクロック 5マイル ノースウエストバウンド インターセプト140 ラディアル リービング フォア
(エアシステム114便へ。日本航空のジャンボ機が近くにいます。一時方向、5マイル地点。北西方向。インターセプトコース140(ジョウナンへ向かうコース)の高度4000フィートを通過しています)
イン・サイト
すぐ前に日本航空106便がいる。すばやく機長が目視で確認してコールする。普通は15マイルぐらいの距離でトラフィックインフォメーションがあるが、5マイル(約9キロ強)、しかも夜だ。木村副操縦士も直ちに応答した。
エアシステム114。トラフィック インサイト
(エアシステム114便。飛行機を確認しました)
右側の眼下には木更津と君津海岸のコンビナートの明かりが見え、夜の東京湾を走る船のライトが筋を引いて幾重にも重なっている。そして海を隔ててきらびやかな東京の街明かり。高度4500フィートを通過して下降中。
オールニッポン862 ディデュース スピード 190ノット
(全日空862便へ。エアースピードを190ノット(約時速350キロ)に減速してください)
190 ビロー アンダスタンド 862」相変わらずユニークな応答である。
オールニッポン744 ターンレフト トゥ ヘディング 180
(全日空744便へ。機首方向180度で飛行してください)
744便が復唱して千葉市の東でオビツ方面に向きを変える。114便の後方だ。
今度は東京湾を飛行する全日空862便を羽田空港タワー・コントロールへ移管させる。
オールニッポン862 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35 グッディ
(全日空862便へ。羽田タワー 124.35メガヘルツへ連絡してください)
オールニッポン862 124.35 ラジャ サンキュー グッディ
全日空862便は東京アプローチ管制区を離れた。
エアシステム114 ターンライト ヘディング 200
(エアシステム114便へ。右旋回して機首方向200度で飛行してください)
ラジャ 200 エアシステム114
114便に右旋回の指示がでた。「ライト、クリアー」と副操縦士が右側の窓の外を確認すると森田機長はゆっくりと機首を200度方向に向けるため右旋回に移った。
東京湾が右前方に広がり始める。高度3800フィート通過。
ジャパンエア368 ターンレフト ヘディング350 インターセプト コートー140ラジアル
(日本航空368便へ。左旋回して機首方向を350度にして江東VOR/DME 140度のコースに沿って飛行してください)
福岡発の日本航空368便、ボーイング747ー400が御宿VORの手前を左旋回して、房総半島を横断しまっすぐジョウナンに向かうコースに乗った。
1000 トゥ レベルオフ
114便のコックピットでは、高度計を見ながら木村副操縦士がコールする。指定高度3000フィートまであと1000フィートである。
ジャパンエア186 ターンレフト ヘディング040 ディセント アンド メインテイン 3000
(日本航空186便へ。左に旋回して機首を040(ほぼ東北東)に向け、高度3000
フィートまで下降してください)
ジャパンエア186 ターンレフト 040 ディセント メインテイン 3000」 長崎発の日本航空186便は17時羽田着予定の777である。現在、房総半島の上空を日本航空368便を追って飛行している。
東京アプローチから114便に機首方向を260度にするように指示してきた。
エアシステム114便。ターンライト ヘディング 260
すぐ、木村副操縦士がコールバックする。
森田機長はアプローチチェックを命じた。
アプローチ・チェックリスト
リコール アンド ノート
CDUディスプレイに映るエレクトリック・チェック・リストの項目を確認して副操縦士がコールする。
チェック」と機長。
そのときコックピット内でブザーが鳴り、高度が3000フィートに近づいたたことを知らせた。東京アプローチから114便にジョウナン経由江東VOR/DME方向へ飛行せよ、という交信が入る。
エアシステム114 ライトターン ヘディング 290 インターセプト コートー」「140ラジアル
(エアシステム114便へ。右旋回して機首を290度に向け、江東VOR/DMEからの140度のコースに沿って飛行してください)
ラジャ」と森田機長が確認。木村副操縦士が東京アプローチへ復唱交信する。
フライ 290 インターセプト コートー140ラジアル
エアシステム114 セイ スピード?」(エアシステム114 スピードはどのくらいですか?)
えー、210ノット」(えー、210ノットです)
メインテイン スピード 210ノット」(210ノットを維持してください)
木村副操縦士がコールバックして交信を終えた。森田機長はMCPのヘディングノブを回して290度にセットする。
290 アーム LーNAV」と森田機長。
(290度でLNAVをアームに)
LーNAV キャプチャー
右側のディスプレイを見て副操縦士が確認する。
LーNAV キャプチャー
左側のデイスプレイでもLーNAVが有効になったことを確認して機長がコールした。そしてアプローチチェックを続行する。
オートブレーキ2」と副操縦士。
ランディングデーター・・・セット
アルティメター」(気圧高度計)
3018セット」(気圧は30.18インチにセット)
アプローチチェックリスト コンプリーテッド
そのとき突然機体が、グアッと乱気流に捕まって激しく上下に揺れた。
スピード・・VーNAV アルト・・これは後流だね
後流ですね
ふたりは顔を見合わせた。後流とはジェット旅客機が通過した後に起こる激しい気流の乱れだ。114便のすぐ前を飛行する日本航空106便ジャンボが作った後流である。その中にまともに突っ込んだのであった。
オールニッポン744 ディデュース スピード 210ノット
(全日空744便へ。エアースピードを210ノットに減速してください)
114便のあとを追うように飛行する744便が復唱すると、東京アプローチは東京湾上空の日本航空106便に進入クリアランスの交信をする。
ジャパンエア106 ディセント アンド メインテイン 2000 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(日本航空106便へ。2000フィートに下降してVOR/DME滑走路16レフトへの進入を許可します)
すぐ106便がコールバックして確認する。飛行させると言うことは交信や計器類やナビゲーション、すべての確認、確認の連続なのである。
ジャパンエア106 ディデュース スピード 190ノット
(日本航空106便へ。エアースピードを190ノットに落としてください)
106便がコールバックする。190ノット、時速約350キロでボーイング747ー400は東京湾を飛行している。
東京アプローチが続いて霞が浦付近に近づいた全日空870便、旭川発の767へ高度3000フィートまでの下降許可を出した。
オールニッポン870 ディセント アンド メインテイン 3000
ディセンド アンド メインテイン 3000 オールニッポン870
今度は管制官は日本航空106便にスピードを時速約300キロに制限をする。
ジャパンエア106 ディデュース スピード 170ノット
ジャパンエア106 スピード 170」(了解。170ノット)
次に管制官は114便の速度を制限する。
エアシステム114 ディデュース スピード 190ノット
190ノット エアシステム114
森田機長がフラップ(下げ翼)を1の位置に下げる指示を出した。前方に東京の灯が瞬き、右手には幕張、浦安の光が輝く。
フラップス ワン」とフラップ位置を森田機長が確認する。エアースピードが190ノットに落ちた。
ジャパンエア106 コンタクト トウキョウタワー 124.35
ジャパンエア106 グッディ
日本航空106便が羽田タワーに引き継がれる。
スピード 190」と森田機長。
そのとき管制官が全日空744便に呼び掛けた。トラフィック・インフォメーションである。
オールニッポン744 アンド アー プロシーディング トラフィック 12 オア 1オクロック 5マイル ノースウエストバウンド ジャパンエアジャンボ リビイング フォア
(全日空744便へ。先行機が北西12時か1時の方向、5マイル地点に日本航空ジャンボ機が高度4000フィートを通過中です)
トラフィック イン・サイト 744」(飛行機、目視しました。744)
先ほどと同じ場所である。オビツ付近は東から進入する飛行機と北から進入する飛行機が合流するので羽田空港がラッシュアワーのときは、どうしても飛行機同志が接近するのだ。管制官が114便に羽田進入のクリアランスを与えた。
エアシステム114 ディセント アンド メインテイン 2000 クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ アンド スピード 170ノット

東京湾上空地図
東京湾上空地図

(エアシステム114便へ。高度2000フィートに降下してください。滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します。スピードは170ノットにしてください)
木村副操縦士が復唱する。
アイドル VーNAV スピード
ふたりのパイロットコールし合って森田機長がフラップを5の位置にする指示を出す。
フラップ 5
ホールド
スピード170
クリア フォア アプローチ」(管制官から空港進入承認は貰っています)
コックピットでブザーが鳴って高度2000フィートに近づいたことを知らせる。
飛行機が又一機、北から東京アプローチの管制区に入って来た。
トウキョウ・アプローチ。オールニッポン66 リービイング 225 ディセンド トゥ 13000 インフォメーション インデア
(東京アプローチへ。こちら全日空66便です。22500フィート通過。高度13000フィートに向けて下降中。空港情報、I(インデア)を入手しています)
全日空66便は千歳発のボーイング747で、羽田到着予定19時である。
オールニッポン662 トウキョウ・アプローチ ディパート アミ ヘディング 200 ベクターファイナルアプローチコース ディセント アンド メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000 
(全日空66便へ。こちら東京アプローチです。阿見VOR上空を通過後、機首方向200度でレーダーによリ最終進入コースへ誘導します。8000フィートまで下降を許可します。阿見VOR上空は13000フィート以下で通過してください)
全日空66便が復唱すると東京アプローチは114便に羽田タワーへの移管を告げた。
エアシステム114。コンタクト トウキョウタワー 124.35
(エアシステム114便へ。以後は東京羽田空港タワーコントロールと連絡してください) 木村副操縦士がコールバックして、114便は東京アプローチ管制区を離れた。
いよいよ羽田空港ランディングだ。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第6回

[title_europe]
ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「上昇 スイスアルプスを越えてドイツへ」

—————————————-
★「ヨーロッパ飛行」挿入06

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

—————————————-

副操縦士は離陸後の管制を行なうディパーチャー管制の周波数をセットし交信した。
「(チューリッヒ)ディパーチャー ジャパンエア412 クライム トゥ80 アンド 3800」(チューリッヒ・ディパーチャー管制へ。日本航空412便です。現在、高度3800フィートです。高度8000フィートに向けて上昇中です)
「ジャパンエア412 ディパーチャー レーダー コンタクト」(日本航空412便へ。貴機をレーダーで捕捉しています)
「ラジャ」(了解しました)
JAL412便は西に向かって上昇を続けている。スイスの街並みが米粒のように小さくなっていき、アルプスの峰が連なっている情景が拡がる。
「(エンジン)アンティアイス オンにします」
高度が上がると外気温が下がるので、エンジンが凍り付かないように防氷装置を入れた。エンジンのナセル部分(エンジンを正面に見た場合、エンジンの淵の部分)に熱が入る装置である。
「はい」
「ジャパンエア412 ターン レフト チューリッヒ イースト」(日本航空412便へ。左旋回して(出発方式のチェックポイントの)チューリッヒ・イーストのVORに向かって下さい)
「ラジャ ジャパンエア412 レフト ターン チューリッヒ イースト」(了解しました。左旋回してチューリッヒ・イーストのVORに向かいます)
「レフト ターン ダイレクト チューリッヒ イースト」機長は管制官の指示を復唱した。
「マイサイド チューリッヒ イースト」
鈴木機長は自席横にあるVHFにチューリッヒ・イースト(北緯47度35分9秒、東経8度49分1秒)のVORの周波数115.0をセットした。
「はい、えーと…」
岸田副操縦士も規定のロードワークを行ないながら、周波数をセットしていると管制官から交信が入った。
「ジャンパンエア412 クライム トゥ レベル130」(日本航空412便へ。1万3000フィートまで上昇して下さい)
「ジャパンエア412 リクリア フライト レベル130」(1万3000フィートまで上昇します)
「ID オーケー」岸田副操縦士も自席横にあるチューリッヒ・イーストのVORの周波数をセットした。
「オーケー フラップ 5」
上昇速度を上げる為に、鈴木機長はフラップ角度を5度にセットするように指示し、岸田副操縦士はスラストレバーの右側に翼の形を模したレバーを、少し上に上げながら5度の位置にセットした。
「レーダー オン」
続いて岸田副操縦士にレーダーが使えるように指示をし、スイッチを入れると、緑のスクリーンに雲の波形が映る。
「フラップ 1」
続けてフラップ角度を1度にするよう指示した。4基のエンジンが唸りを挙げ、薄雲を一気に突き抜けた。更に上昇を続ける。
管制官より次の交信先を指示する交信が入った。
「ジャパンエア412 コンタクト レーダー131.15 グッバイ」(日本航空412便へ。以後は131.15メガヘルツに交信して下さい。さようなら)
「ジャパンエア412 131.15 グッバイ」
管制区域がチューリッヒ・コントロールに移管する指示が出た。岸田副操縦士は無線機の周波数を131.15メガヘルツにセットし呼び出した。
「チューリッヒ・コントロール ジャパンエア412 クライミング トゥ 130 アット 70」(チューリッヒ・コントロール管制へ。日本航空412便です。現在7000フィートを通過しました。1万3000フィートへ上昇中です)
「ジャパンエア412 ラジャ グッドアフタヌーン クライム トゥ フライト レベル 210」(日本航空412便へ。こんにちは。了解しました。2万1000フィートまで上昇して下さい)
鈴木機長は上昇指示を了解すると、すかさず岸田副操縦士は管制官に復唱した。
「ジャパンエア412 フライ クライム トゥ 210」(日本航空42便です。2万1000フィートまで上昇します)
「フラップ アップ」
鈴木機長はフラップを全て上げる指示を出した。岸田副操縦士がフラップ・レバーを上げ切った。翼の後ろに降りていたフラップが主翼に吸い込まれて行くと同時に、JAL412便は風の抵抗を減らし、上昇していく
航空機関士は離陸後の計器チェックを終えたことを、機長に報告した。
「アフター テイクオフ チェックリスト コンプリートです」
全ての確認が終わり、JAL412便は西ドイツ(現ドイツ)の国境に向かって上昇している。
管制官より進路方向の交信が入った。
「ジャパンエア412 フライ ヘディング 045」(日本航空412便へ。機首を45度の方向にして下さい)
岸田副操縦士は、交信スイッチを押しながら、「ヘディング045 ジャパンエア412」(45度の方向に飛行します。)と復唱した。
JAL412便は30度近いバンクを取りながら方位045度(北北東)に機首を向けた。眼下には国際河川の一つであるライン川が、蛇の如く北海に向かって進んでいるようである。
チューリッヒへ向かっている旅客機に下降を指示する交信が聴こえ、一呼吸おいたようにJAL412便に上昇指示の交信が入った。
「ジャパンエア412 クライム レベル220」(日本航空412便へ。2万2000フィートまで上昇して下さい)
「ジャパンエア412 リクリア フライト レベル 220」(2万2000フィートまで上昇します)
JAL412便の後に離陸した航空機が、管制官に1万7000フィートへの上昇を要請している。
JAL412便はチューリッヒ・イーストを通過した。管制官より次々とJAL412便への飛行指示の交信が入る。
「ジャパンエア412 ターン レフト ヘディング 035」(JAL412便へ。左に旋回し機首を35度の方向にして下さい)
「ジャパンエア415…412 レフト ターン ヘディング 035」(左旋回して機首を35度にします)
「ラジャ ヘディング035 インターセプト アンド フォロー インバウンド トラフィック 002 トゥ タンゴ」(機首を35度にして、002電波を捉えてタンゴに向かって下さい。)
「ラジャ ジャパンエア412 ヘディング 035 インターセプト 002 ラディアル タンゴ」
JAL412便は機首を35度に向け航路UG31に乗り、次の通過地点TANGO(北緯48度27分2秒、東経9度15分7秒)に向かう。これからコペンハーゲンまで東西ドイツの国境沿いを北上する。

ジェプソン地図

「(エンジン)アンティアイス オフ」航空機関士はエンジン防氷装置をオフにした。
岸田副操縦士はチューリッヒ空港内にあるJALチューリッヒ支店にカンパニー無線で交信を始めた。
「カンパニー 呼びます」
「ジャパンエア・チューリッヒ ジャパンエア412」(日本航空チューリッヒ運航室へ。こちら日本航空412便です)
「ジャパンエア412 ジャパンエア・チューリッヒ ゴーアヘッド」(日本航空412便へ。どうぞ)
「ブロックアウト 18 ダイゴナル 33 オペレーション イズ ノーマル」(スポットを離れたのは18分、離陸は33分です。飛行は順調です)
「カンパニー オーケーです」
「はい、了解」
離陸後、運航が落ち着けば、離陸した空港内にある自社の支店にスポットを離れた時間、離陸した時間、運航状況などを報告することになっている。現代のハイテク機はACARS(Automatic Communications Addressing and Reporting System)で報告(ダウン・リンク)する。
現在、高度2万フィートを通過し、更に上昇を続ける。
「ワン サウザント」指定高度まであと1000フィート。
管制官からの指定された高度に到達したので、それを知らせるブザーが鳴った。岸田副操縦士は指定高度に到達したことを管制官に伝えた。
「ジャパンエア412 アプローチング 220」(日本航空412便です。2万2000フィートに達しました)
「ラジャ フライト レベル サンキュー フリクエンシー131.3 グッディ」(了解しました。ご報告、ありがとうございます。以後は131.3メガヘルツに交信して下さい)
岸田副操縦士は聞き取れ無かったので聞き直した。
「セイ アゲイン フリクエンシー プリーズ」(周波数をもう一度、お願いします)
「131.3」(131.3メガヘルツです)
「131.3 グッディ」(131.3メガヘルツ、了解しました。さよなら)
これまでのチューリッヒ・コントロールは、高度2万4000フィートまでを管制する管制エリアで、次の管制エリア(131.3メガヘルツ)は更に高々度のエリアを管制することになっている。岸田副操縦士は高々度エリアを管制するチューリッヒ・コントロールの周波数をセットし交信を始めた。
「チューリッヒ ジャパンエア412 レベリング 220」(チューリッヒ・コントロール管制へ。日本航空412便です。高度2万2000フィートです)
「412 ラジャ コンティニュー クライム レベル 250」(412便へ。了解しました。2万5000フィートまで上昇して下さい)
「ラジャ ジャパンエア412 クリア 250」(2万5000フィートまで上昇します)
2万5000フィートまでの上昇許可が出たと思ったら、間髪入れず、次の管制エリアの周波数を交信して来た。
「ジャパンエア412 コンタクト ライン・コントロール フリクエンシー 134.8 グッディ」(日本航空412便へ。以後はライン・コントロールの周波数134.8メガヘルツに交信して下さい)
「134…いくつだっけ?」
独特の口調なので、聞き取り難い。
「ジャパンエア412 セイ アゲイン」(もう一度、お願いします)
「ライン・コントロール 134.8」(ライン・コントロールの134.8メガヘルツです)
「134.8 サンキュ グッディ」(134.8メガヘルツ、了解しました。さよなら)
聴き慣れない英語とあってか、両パイロット共に戸惑いを隠せないようである。岸田副操縦士は、次の管制エリアであるライン・コントロールの周波数134.8メガヘルツに周波数をセットし、交信を始めた。
「ライン・コントロール ジャパンエア412 グーデンターク アット 236 クライム トゥ 250」(ライン・コントロールへ。こちら日本航空412便です。こんにちは。現在2万3600フィートを通過し、2万5000フィートに上昇中です)
「ジャパンエア412…」
「ラジャ」
岸田副操縦士は復唱せず、了解したことだけを告げた。
「ワン サウザント」2万5000フィートまで、残り1000フィートのコールをした。このコールは上昇だけに関わらず、下降する時も必ずコールする。
「ジャパンエア412 レーダー アイデンティファイ コンティニュー クライム トゥ フライト レベル330」(日本航空412便へ。レーダーで捕捉しています。そのまま3万3000フィートまで上昇して下さい)
「ラジャ」
「ジャパンエア412 クリア クライム 330」(3万3000フィートまで上昇します)
JAL412便は1万メートルを超え、高々度飛行を始めた。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第7回

[title_kichouseki114]

この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第4章 羽田空港進入

 エアシステム114便のフライトドキュメンタリーは、着陸機で混雑する夕方のラッシュアワーに羽田空港へランディングする最大のクライマックスを迎える。
九州や関西、北海道から飛来した多くの飛行機が、レーダーで誘導されながら羽田空港へ進入する様子は、まさに迫真の航空ドラマである。
このドラマの主役はむろんエアシステム114便だが、それに航空管制官というもう一人の主役が加わる。
とくに進入管制(東京アプローチ)は、管制室でレーダーディスプレイを見ながら一人の管制官が、南や北からバラバラで接近する高度、方位、スピードなどが異なる航空機を、あるときは旋回させ、あるときは高度の変更を要求し、あるときは速度を減速させるなどしながらコントロールし、最後にはそれら飛行機を一列に整理して羽田空港の滑走路に導いてゆく。その様子はスリリングであり、管制官の技能に驚嘆すら覚える。
さて、迫真の航空ドラマの幕を開ける前に、登場人物ならぬ登場する航空機を紹介しておこう。これらの航空機はエアシステム114便が、羽田の進入管制東京アプローチに引き継がれてから出て行くまでの間に、東京アプローチの管制エリアで飛行している12機の航空機である。

便名 出発地 羽田到着時間 機種
ANA 90 沖縄発 1840 777
JAL368 福岡発 1840 747ー400
JAS314 福岡発 1835 777
ANA456 佐賀発 1840 767ー300
JAL106 大阪発 1820 747ー400
JAS216 青森発 1835 A300
ANA862 函館発 1840 767
ANA870 旭川発 1850 767
ANA744 釧路発 1855 767ー300
JAS114 千歳発 1845 777
JAL186 長崎発 1900 777
ANA 66 千歳発 1900 747

(12機の内、7機が南から。5機が北から進入)

 それでは音声を聴きながら”迫真の航空ドラマ”を堪能して頂きたい。

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★「続・機長席」挿入07

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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トウキョウ。オールニッポン862 スタディング バイ ディセント
(東京コントロールへ。全日空862便です。降下を始めてよろしいか?)
オールニッポン862。ラジャ。ディセント メインテイン 13000 クロス アミ アット 13000 QNH3018
(全日空862便へ。了解しました。高度13000フィートへ下降を許可します。阿見VOR上空を13000フィートで通過してください。気圧は30.18インチです)
3018 アミ 13000 スタンバイ イン ア ワン ミニッツ
(気圧30.18インチ 阿見、13000了解。一分後に降下を開始しますよ)
コックピットのスピーカーから函館発羽田行きの全日空862便、ボーイング747と東京コントロールの降下(ディセント)の交信が聞こえている。862便のパイロットの独特の喋べり方がユニークである。
すでに114便は飛行プランによる下降予定地点より少し手前で、東京コントロールの指示が出て下降を始めていた。
現在、高度18000フィート。夜のとばりに包まれた空を守谷VORを過ぎて茨城県霞が浦の西にある阿見VOR上空に向けて高度を下げている。
乗客へのサービスが完了したことを報告するためにキャビン・クルーがコックピットに入ってきて木村副操縦士と打合せをしている。
あとね
森田機長がキャビン・クルーに言った。
降下の指示がきたので降りています。ちょっと降下中、揺れますから気をつけて。ひどいときはベルトサインを入れますからね
はい。了解しました。とキャビン・クルーは機長に笑みを返して客室に戻っていった。
コックピットのスピーカーからは管制官と862便が交わすディセントの交信が引き続き聞こえている。
オールニッポン862。コンタクト 東京アプローチ119.1
(全日空862便へ。以後は東京アプローチ119.1メガヘルツへ連絡願います)
オールニッポン862。サンキュー グッデイ
(全日空862便。ありがとさん。ご機嫌よう)
東京コントロールが、周波数を119.1、羽田進入管制(東京アプローチ)へ連絡を取るように全日空862便へ指示をした。続いて全日空870便、旭川発羽田空港行きのボーイング767にも降下の許可を出す。
オールニッポン870。ディセント メインテイン 13000 クロス アミ アット 13000 QNH3018
(全日空870便へ。13000フィートまでの降下を許可します。そして阿見VOR/DMEを13000フィートで通過してください。気圧は30.18インチです)
ラジャ。ディセント アンド クロス アミ 13000 オールニッポン870
北からの飛行機がぞくぞくと霞ヶ浦に向かって降下を始めていた。霞ヶ浦の阿見町にある航空無線標識(VOR)は、羽田空港へ向かう北からの飛行のゲートウェイなのだ。
逆に羽田から北へ向かう場合は、阿見VORの西にある守谷VORが、北へのゲートウェイになる。
管制官は全日空862便のすぐ後を飛行しているエアシステム114便へ、羽田進入管制東京アプローチへ移管する交信を始めた。
エアシステム114。コンタクト トウキョウ アプローチ119.1
(エアシステム114便へ。以後、東京進入管制、周波数119.1メガヘルツへ連絡してください)
エアシステム114。119.1
周波数の復唱をした木村副操縦士は、コックピットの無線周波数を東京アプローチ119.1に切り替えて進入管制を呼んだ。
トウキョウアプローチ。エアシステム114。リービング169 ウィズ インデア
(東京アプローチへ。こちらエアシステム114便です。現在高度16900フィートで下降中。羽田空港のATIS I(インデア)を聞きました)
すぐに東京アプローチ管制官のきびきびした早口トーンの交信が返ってきた。世界でも交通量が多い羽田空港へのアプローチの緊張感が伝わってくる。
エアシステム114。トウキョウ・アプローチ ラジャ。アンド ディパート アミ ヘディング200 ベクターフアイナルアプローチコース デイセント メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(エアシステム114便へ。こちら東京アプローチです。了解しました。阿見VORから機首方向200度でレーダーによるファイナルアプローチコースに誘導します。高度8000フィートまでの下降を許可します。阿見上空は13000フィート以下で通過してください)
阿見VORは成田の北西に位置するので、成田空港と羽田空港の空域が隣接するため飛行制限が厳しい。

羽田空港周辺地図
羽田空港周辺地図

ディパート アミ ヘディング200 ディセント 8000 クロス アミ アット オア ビロー13000 エアシステム114
(阿見で機首方向200度。下降許可、8000フィート。阿見通過は高度13000フイートより下。エアシステム114了解しました)
木村副操縦士のリードバックは無駄がない。必要なことを簡便明快に管制官に伝えた。 114便は今、上空の航空路をコントロールする東京コントロールの関東北セクターからレーダーで引き継がれ、羽田空港の管制区内で進入管制(東京アプローチ・コントロール)のレーダーの中にいるのだ。
エアシステム216。リデュース スピード トゥ 210ノット
(エアシステム216便へ。エアースピードを210ノットにしてください)
東京アプローチの管制官は、房総半島から東京湾に向かって飛行くるエアシステム216便、青森発羽田行きエアバスA300の飛行スピードを減速するように指示を出した。
東京アプローチの管制エリアは、羽田空港を中心に東京湾。房総半島南から、房総半島東の銚子、成田を除いて北は霞ヶ浦までである。
スピード。210ノット エアシステム216
(210ノットにします。エアシステム216)
管制官はレーダースコープに映っている進入機の飛行間隔を考えてスピードを調整し、パイロットはその指示通りに飛行する。210ノットと言えば、時速約380キロである。 過密している空域では管制官の指示ミスは、航空機のニアミスはおろか空中衝突の危険すらある。管制官の業務は人並みはずれた集中力と冷静さを要求される仕事なのである。
オールニッポン90。ターンライト。ヘディング050
(全日空90便へ。右旋回して機首を50度方向にしてください)
房総半島の西を飛行している沖縄発羽田行きB777ー300全日空90便が復唱する。
オールニッポン90。ライト 050
下降につれてコックピットが暗くなってきた。森田機長がロゴライト(尾翼の会社マークを照らすライト)の点灯を指示する。
はい。ロゴライト。オン」と木村副操縦士。
釧路発の全日空744便、ボーイング767が144便のあとを追って北から進入して東京アプローチに引き継がれた。
オールニッポン744。トウキョウ・アプローチ。ディパート アミ フライヘディング 200 ベクターファイナルアプローチコース ディセント メインテイン8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(全日空744便へ。こちらは東京アプローチです。阿見VOR通過後は機首方位を200度にしてレーダー誘導による最終進入コースを飛行してください。8000フィートまでの下降を許可します。阿見VORは13000フィート以下で通過してください)
エアシステム114便は高度を下げ続ける。高度14700フィート通過(約4400メートル)。風は303度方向(西北西)から38ノット吹いている。
現在、196度方位に向かっているが、右横からの向かえ風のために機首は200度を指している。まもなく阿見VORだ。
左前方に薄暗い霞が浦の湖面が広がり、湖畔から千葉市にかけて街の灯がオレンジ色に連なって輝いている。
トランジッション3018
木村副操縦士が気圧高度計の数字を30.18にセットしてコールした。森田機長も左サイドの高度計の目盛を合わせる。
管制官が空港の気圧が変化するたびに連絡してくるのは、空港の気圧に飛行機の気圧高度計の数値を合わせるためである。
飛行機の高度計は二種類ある。電波高度計と気圧高度計である。電波高度計は飛行機から地面に向かって電波を発信し、電波が地面にあたって跳ね返ってくる時間を測定して高度を読む。0から2500フィートが指示範囲である。
もうひとつが気圧高度計である。高度が高くなるにつれて気圧が低くなる関係を用いて高度を測定する。こちらがメインの高度計である。
オールニッポン90。リデュース スピード トゥ 210ノット
(全日空90便へ。エアースピードを210ノットに落としてください)
ソーリー オールニッポン090? 90? セイ アゲイン
(すみません。全日空090ですか? 90ですか? もう一度お願いします)
狭い管制エリアに飛行機が集中しているので、管制コントローラーの声も早口になり、聞き取り憎くなる。パイロットも全身耳にして聞き取る。
オールニッポン90 リデュース スピード 210ノット
(全日空90便へ。エアースピードを210ノットに減速してください)
オールニッポン90 リデュース 210ノット
管制官はエアシステム314便、福岡発羽田行きボーイング777の速度もコントロールする。
エアシステム314 リデュース スピード 210ノット
(エアシステム314便へ。エアースピードを210ノットに落としてください)
エアシステム314。ラジャ
前述のように、今日は羽田空港の着陸使用滑走路は16レフト。VOR/DMEアプローチという進入方式で着陸する。
南と西からきた航空機は、レーダー誘導で千葉県の御宿VOR付近から木更津東のオビツ、そして東京湾の真中にあるジョウナン、湾岸にある江東VORから左旋回で羽田空港に着陸する進入路で、(羽田空港進入方式VOR/DME16図参照)北から進入する航空機は阿見VOR手前からレーダー誘導され、房総半島のオビツで北からの航空機のルートと合流してそのあとは、同じコースで羽田空港に着陸する。
又一機、航空機が東京アプローチ管制区に入って来た。福岡発日本航空368便ボーイング747ー400である。房総半島の南を御宿VOR方面に向かって飛行している。
アプローチ。ジャパンエア368。190 フォア 160 インフォメーション インデア
(東京アプローチへ。日本航空368便です。現在高度19000フィートから16000フィートへ降下中。空港情報ATISのI(インデア)を聞いています)
ジャパンエア368 グッドイブニング トウキョウ・アプローチ フライヘデング080 ベクターファイナルアプローチコース ディセント メインテイン 10000
(日本航空368便へ。こんばんは。東京アプローチです。機首を80度方向にしてレーダー誘導で最終進入コースへ入ってください。高度10000フィートまでの飛行を許可します)
南からの日本航空368便には、阿見VORから進入する北からの航空機への指示とは内容が当然違ってくる。進入は房総半島の御宿VORが起点となる。
へディング080 ディセント 10000 ジャパンエア368
(機首方向80度(東北東)で、10000フィートまで下降します)
オールニッポン456。コンタクト トウキョウタワー 124.35
(全日空456便へ。以後は羽田空港タワー管制。124.35メガヘルツに連絡してください)
佐賀発羽田行きボーイング767.456便は東京アプローチ管制区から羽田空港タワー・コントロールへ引き継がれた。羽田空港へ最終進入をして着陸するのである。
オールニッポン456。124.35
(全日空456便(函館発羽田行き747)。124.35へ連絡します)
オールニッポン862。ディセンド メインテイン 3000
(全日空862便へ。3000フィートまで下降してください)
862。ディセンド メインテイン 3000 8500 サンキュー オールニッポン862
(全日空862便。現在高度8500フィート通過。3000フィートまで下降しますよ。ありがとさん)
フリクエンシー ユー アー ナンバー8 アプローチ
(貴機の進入順番は八番目です)
ナンバー 8。オールニッポン862
現在、114便は阿見VOR上空だ。眼下には霞ヶ浦が暗い海のように闇の中に浮かび、前方には千葉と東京の灯が広がりる。
霞ヶ浦ですね。ヘディング・ホールド
機長がコールして機首200度方位の現在の針路を保持した。エアースピードは290ノット、時速約550キロだ。
エアシステム314。リデュース スピード 190ノット
エアシステム314便にエアースピードを210ノットから190ノットへ落とす指示である。
エアシステム314。ラジャ
114便のコックピットレーダーには、羽田空港へ最終進入を待つ多くの飛行機の機影が映っている。その中で114便に最も近い飛行機を確認して木村副操縦士が報告した。
先方機は18マイル向こうにいますね
夜の闇で肉眼では見えないが、レーダー視程で18マイル、およそ33キロ前方に機影を表わす小さな菱形のマークがナビゲーションディスプレイに映っている。
そのとき管制官が福岡発のエアシステム314便に、離陸上昇中の飛行機が近くにいることを知らせてきた。トラフィック・インフォメーションである。
エアシステム314 デパーチャ トラフィック ユア カンパニー トリプル7 イレブンオクロック 7マイルズ ノースバウンド。ファイブ ポイント ツウ クライミング
(エアシステム314便へ。貴社の北ヘ向かうトリプル7(羽田発18時00の千歳行き、エアシステム119便のこと)が、11時方向7マイル先を上昇中です)
トラフィック イン・サイト 314」(飛行機を確認しました。314便)
羽田空港を出発する飛行機はデパーチャーコントロールの管制官が担当しているので、アプローチコントロールとは周波数が違う。だからその交信は聞こえない。
今、この夜の東京湾上空には進入する飛行機だけでなく出発する航空機も多く、それらを合わせると時速400キロ以上で飛ぶ二十機以上の飛行機が、東京湾を中心とする狭い空域にひしめき合っているのだ。
並みはずれた集中力を必要とする管制官の緊張感がひしひしとその音声から伝わってくる。全日空90便が御宿VOR上空に近づいた。
オールニッポン90 ターンレフト 360 インターセプト コートー140レディオ
(オールニッポン90便へ。左旋回して機首を360度(北)に向けて江東VOR/DMEのラジアル140度のコースへ会合しその方向へ進んでください)
オールニッポン090。ヘディング 360 インターセプト コートー レディオ140
オールニッポン90 ア ファーマティブ
(全日空90便へ。その通りです)
エアシステム114便は高度12000フィートを通過して順調に下降を続けている。
スピード 250
機長はエアースピードを250ノットにする指示をした。
ヘディングセレクト
同時に機首を200度方位にして、その表示の変化をふたりのパイロットがコールする。
ここで現在、東京アプローチの空域にいる飛行機の位置を確認しておこう。
羽田空港の最も近くで飛行しているのが、福岡発エアシステム314便。次が青森発エアシステム216便で千葉市の東にいる。
全日空90便は房総半島の御宿地点でこれからオビツに向う。大阪発日本航空106便がその後方から御宿に向かって飛行している。その後に福岡発日本航空368便が続いている。函館発全日空862便と千歳発エアシステム114便は、約18マイルの間隔で並んで阿見VOR付近から千葉市の東に向けて降下中である。そして旭川発全日空870便と釧路発744便がその後方を飛んでいる。
エアシステム314。ディセント メインテイン 2000 クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
(エアシステム314便へ。高度2000フィートまで下降して滑走路16レフトへのVOR/DMEアプローチを許可します)
東京湾上をジョウナンに向けて下降している福岡発エアシステム314の777に羽田への最終進入の許可が出た。
エアシステム314。2000。クリアー フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
続いて管制官はエアシステム216便、青森発羽田行きエアバスA300にトラフック・インフォメーションをした。
エアシステム216 プロシード トラフィック カンパニー アンド 1オクロック5マイルズ ノースウエストバウンド トリプルセブン ・・・
(エアシステム216便へ。一時方向、5マイル先に北へ向かう上昇中の貴社の777がいます)
イン・サイト」(確認しました)
ジャパンエア106 リデュース スピード 210ノット
(日本航空106便へ。エアースピードを210ノットにしてください)
ジャパンエア106 リデュース スピード 210
ジャパンエア368 ターンレフト ヘディング040 ディセント メインテイン 3000
(日本航空368便へ。左旋回して機首を40度(約北北東)に向けて、高度3000フィートまで下降してください)
エアシステム314 コンタクト トウキョウタワー 124.35
(エアシステム314便へ。以後は羽田空港タワー・コントロール124.35メガヘルツへ連絡してください)
福岡発のエアシステム314便、ボーイング777は、東京アプローチのエリアを出て、着陸をコントロールするタワー・コントロールに引き継がれた。
エアシステム314。グッディ
そこはもう東京湾ですから
木村副操縦士が指差す眼下には、浦安のディズニーランドの夢のような光の渦。幕張のスタジアムには七色のナイター照明が輝き、千葉市にかけて街の灯が帯びのように長くきらめいる。その向こうの東京湾の広がりと、遠く僅かな夕日の残光を背にした富士山がシルエットになって聳えている。
富士山がきれいですね
思わず森田機長も計器から目を離して暮れゆく空に聳える富士山を眺めた。
エアシステム216。ターンライト ヘディング350 インターセプト コートー140レディオ
(エアシステム216便へ。右旋回して機首方向350度(ほぼ北)にして江東VOR/DMEの140度ラジアルのコースへ向かってください)
青森発のエアシステム216便A300に、江東VOR/DMEに向かってを右旋回せよ、という指示である。216便が復唱して右旋回に移った。
114便の高度は8000フィートに近づいた。木村副操縦士が東京アプローチにレポートする。管制官はそのまま3000フィートまでの下降許可を出した。木村副操縦士がコールバックする。
エアシステム114。3000
(エアシステム114便。引き続き高度3000フィートへ下降します)
3000
森田機長が確認する。東京アプローチの管制官はすぐ日本航空106便を呼んだ。
ジャパンエア106。ターンライト ヘディング060
(日本航空106便へ。右旋回して機首を60度方向(ほぼ東北東)にしてください)
ジャパンエア106。ヘディング060
オールニッポン862。ターンレフト ヘディング180
(全日空862便へ。左旋回して機首を180度(南)にしてください)
オールニッポン862。コンファーム。ヘディング180?
(全日空862便です。確認します。機首は180度ですか?)
ア ファーム」(その通りです)
ラ〜ジャ
東京アプローチ管制官の流暢、かつテンポがある音声コントロールが続く。
エアシステム216。ディセント メインテイン 2000 スピード 190ノット
クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ

(エアシステム216便へ。下降して高度2000フィートを維持し、スピードを190ノットにしてください。滑走路16レフトへ向かってVOR/DMEアプローチを許可します)
高度3000フィートで東京湾にさしかかる青森発エアシステム216、A300が復唱する。
エアシステム216。2000 エアスピード 190 クリア フォア VOR/DME ランウェイ16レフト アプローチ
114便のコックピットでは、森田機長がCDUにジョウナンから機首320度で江東VOR/DMEの進入コースがセットされているか確認の指示した。
セット。CDU ジョウナン インターセプトコース 320
(CDUにジョウナンへ320度でアプローチするコースをセットしてください)
ジョウナン 320。モデファイ
木村副操縦士がセットしコールする。これで777は自動的にアプローチコースに乗る準備が整った。
イクスキュート」と機長。
ラジャ」と副操縦士。
房総半島の東を御宿VORに向かって高度を下げている福岡発の日本航空368便、ボーイング747ー400に管制官が指示した。
ジャパンエア368。アフターリービング テン タウザンド リデュース スピード 210ノット
(日本航空368便へ。10000フィートを通過後、スピードを210ノットに押さえてください)
日本航空368便が復唱するのを聞いて、管制官は東京湾の真中、ジョウナン付近を高度2000フィートで江東VOR/DMEに向かっているエアシステム216便のスピードを調整する。
エアシステム216。リデュース スピード 170ノット(エアシステム216便へ。スピードを170ノットに落してください)」
そして羽田空港タワー・コントロールに周波数を変えるように交信した。
エアシステム216 コンタクト トウキョウ・タワー 124.35
続いて、管制官は日本航空106便を呼ぶ。
ジャパンエア106 ターンレフト 030
(日本航空106便へ。左旋回して機首を30度に向けて飛行してください)
ジャパンエア106 ヘディング 030
オールニッポン870 トウキョウアプローチ ラジャ デパート アミ ヘデング200 ベクター トゥ ファイナルアプローチコース ディセンド メインテイン 8000 クロス アミ アット オア ビロー 13000
(全日空870便へ。こちら東京アプローチです。了解。阿見上空で機首方向200度でファイナルアプローチコースへ誘導します。高度8000フィートまでの下降を許可します。阿見VOR上空では高度13000フィート以下で飛行してください)
全日空870便は旭川から飛来したボーイング767だ。東京コントロールから東京アプローチの空域に入ってきた最初の交信である。870便が復唱する。
ディパート アミ ヘディング200 ディセント 8000 クロス アミ アット ビロー 13000
ある管制官は言う。『レーダー上には便名や高度は表示されますが、航空機の方位や速度は表示されないので、空域の中にいる各航空機の状況を全部記憶するんです』
彼等は頭の中に空域の中で様々な高度や方位、速度で飛行する航空機の立体的な映像を作り上げ、自分のイメージ通りに空域に分散した飛行機を滑走路という一点に集めるのだ。 管制官がコントロールする音声を聞いているとオーケストラを指揮するコンダクターを思わせる。この管制技能は厳しいシュミレーションによる訓練の賜物なのだ。
一分間隔で飛行機間の距離3マイルで並べるとか、30分で12機降ろすなど過酷な状況をシュミレーションでトレーニングするという。
東京アプローチの管制官は房総半島東の御宿付近から進入してくる日本航空106便に左旋回を指示した。
ジャパンエア106 ターンレフト ヘディング350 インターセプト コートー140レディオ
(日本航空106 左旋回して機首を350度方向にして江東VOR/DMEの140度コースに乗ってください)
日本航空106便が復唱すると、次に管制官は北から進入している全日空862便を呼んだ。
オールニッポン862。ターンライト ヘディング220
(全日空862便へ。右旋回して機首を220度にしてください)
ライトターン 220 862
続いて管制官は114便を呼ぶ。
エアシステム114 ターンレフト ヘディング180 フォア アライバル スペーシング
(エアシステム114便へ。着陸スペースを空けるために左旋回して機首方向180度(南)にしてください)
レフト 180 エアシステム114
木村副操縦士が答えると森田機長は「レフトクリアー」と左側の空を目視確認して南に機首を向けた。そしてエアースピードを230ノットに落とす。やや迂回となる機首方位を指示されたので少し減速させる判断であった。
エアースピード 230
114便は千葉市のすぐ東(アビオン付近)を木更津の東にあるオビツに向かって南下している。右手に千葉と東京湾が見えている。
ここでもう一度、羽田空港の滑走路16レフトへ進入するルートを確認しておこう。羽田進入方式16レフトは南や西から飛来した航空機(この時点では大阪からの日本航空106便、沖縄からの全日空90便)は、御宿VORからレーダー誘導されオビツに向かって下降する。北から来た飛行機、エアシステム114便、函館からの全日空862便などは千葉市の東アビオン経由でオビツに向かってレーダー誘導され羽田に進入する。そしてオビツで南北の進入路が一緒になるのだ。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第6回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第3章 クルージング_2

 114便は五番目の通過点CANNA(北緯37度56分6 東経140度41分5)をフライオーバーして航空路Y10を茨城県の大子に向かって飛行している。
あと8分ほどで114便は降下を始めるのであった。
それに先立ち、コックピットクルーは羽田空港の最新のインフォメーションを知る必要がある。電送又は音声で空港情報ATIS(アティス)を入手する。

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★「続・機長席」挿入06atis.

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トウキョウインターナショナル エアポート インフオメーション I(インデア)
0900 VOR/DME アプローチ ランディングランウェイ16レフト ディパーチャー ランウェイ 16ライト ディパーチャーフリクエンシー126デシマル0
ウィンド 200ディグリー 19ノット マキシマム29ノット ミニマム13ノット ビジビリティ30キロメーター ブロークン ハイトアンノーン テンパラチャー14 デューポイントー1(マイナス・ワン) A3018インチ アドバイス ユー ハブ インフォメーション インデア

(東京国際空港の9時(日本時間18時)のインフオメーションI(インデア)です。
空港への進入方式はVOR/DMEアプローチで、着陸滑走路は16レフト。離陸滑走路は16ライトを使用しています。出発管制の周波数は126.0メガヘルツです。
風は200度方向(ほぼ南南西)より19ノット吹いています。最大風速が29ノット、最小が13ノットです。視界は良好で30キロメートル。雲はありません。
気温は摂氏14度で露点温度はマイナス2度、気圧3018インチです。
インフォメーションI(インデア)を受信したことを通報してください)

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★「続・機長席」挿入06

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エアシステム羽田ディスパッチルームが羽田周辺の天気情報を電送でアップリンクしてきた。
コミニュケーション」と森田機長が液晶ディスプレイを確認しながら下降(ディセント)のフリーフィングを始めた。
東京アプローチのインフォメーションです
副操縦士もメモを取りながら聞き入る。
アバーブ24000でライトタービランス。イクスペクテッド 関東エリア。ビロー 24000 スムーズ エクスペクテッド あとビロー 7000 オケージョナリー ライトマイナスタービランス
(24000フィート以上で軽いタービランス(乱気流)があります。関東エリアです。そして24000フィート以下はスムーズに下降できます。あと7000フィート以下で場合によっては軽い乱気流が予測されています)
キャンセルメッセージ」と機長が言って次の項目へ進もうとした時、ナビケーション・ディスプレイのレーダー画面に対向してくる飛行機の機影が映った。
トラフィック。ワンオクロック ハイ」(飛行機が上空一時の方向にいます)
木村副操縦士がコールする。
イン・サイト
森田機長が目視して確認する。パイロットが目視で他の飛行機を探知可能な距離は約20マイル(約36キロ)前後の範囲である。
エア・ドゥ15 ラジャ ナウ クライム フォア 410
羽田空港を17時25分に離陸し高度39000フィートで新千歳空港にむかっているエア・ドゥ15便、ボーイング767ー300が乱気流のため高度41000フィートに上昇する許可を東京コントロールに貰う交信を傍受する。
41000!
114便の右前方彼方を飛ぶエア・ドゥ機に、森田機長が感嘆の声を上げた。41000フィートの高高度飛行を飛行できる機種はそう多くない。ボーイング777でも重量が重いと上がれない時もある。
再びATISを電送で取って、木村副操縦士が羽田空港の情報を再確認する。
東京はVOR/DME。16のレフト。200の17ノットですね
(東京のアプローチはVOR/DME(これをボルデメと発音する)方式で、滑走路は16レフトを使用。滑走路上の風は200度方向から17ノットですね)
了解
確認して森田機長は下降のブリーフィングを再開した。
それではフラップス30。オートブレーキ2(着陸時のフラップは30度、オートブレーキは2の位置です)」
ディセント・プリパレーション
森田機長が降下に関しての打合せの指示を出した。
スポット(羽田空港到着時のゲート)は2番です。滑走路16レフトの場合は特に大きなノータム(空港の情報)はありませんので。マイサイド ディセントプリパレーション コンプリーテッド(完了です)」
木村副操縦士は自分側の各種の準備を終えて言った。
旅客機の場合は、下降、進入、着陸、そして着陸が出来ない場合の着陸やりなおし(コーアラウンド)の手順などを下降開始前に打ち合わせてしまう。下降や進入に入ると時間がないからだ。
ユー ハブ コントロール
アイ ハブ コントロール
森田機長は副操縦士と操縦を交代して、手元のデーターを見ながらいろいろなセットを行い着陸時の打合せを始めた。
ランディング ブリーフィング。シップ、OK。ノータム了解しました。とくになし。(使用滑走路は)ランウェイは16レフト。(滑走路上の風は)200度17ノット。ライト、クロスですね
羽田空港の着陸時は滑走路右側からの横風(クロスウィンド)になることを確認して森田機長はブリーフィングを続けた。
天気は良好。ノーシーリング。14度の2度 3019
今日の羽田空港の天気は良好だが風は強い。雲はなく視界は良い(ノーシーリング)。気温は摂氏14度。露点温度は2度、気圧は3019インチと高気圧であった。
シーリングとは雲底高度、すなはち地上から見た雲の高さのことで、もし羽田空港のシーリングが1000フィート以下では、このVOR/DME16レフトの進入方式では着陸することが難しいのである。
ボルデメ(VOR/DME)16レフト。レーダーベクター(レーダー誘導)」
打合せは空港への進入方法に移った。
羽田空港には何種類かの進入方法があり、そのときの風や雲の状態を見て空港管制官が決める。
今日の羽田空港のアプローチ方法は、VOR/DME16レフトと呼ばれる方法で、九州や大阪など南から飛来した飛行機は千葉県の御宿上空で左旋回し、機首方向320度で房総半島を横断して東京湾に出て、東京湾の真中に設定されたポイント、ジョーナン、湾岸にある江東VORをえて羽田空港滑走路16レフトに着陸する。
114便のように北から進入する飛行機は、霞ヶ浦の西にある阿見VOR上空から千葉市の東を通り、右旋回して南の飛行機と合流して機首方向320度でジョーナンに至る。ジョーナンから南の飛行機と同様に羽田空港滑走路16レフトに着陸する。
南北どちらにしても、ほとんどの場合、羽田空港の進入は管制アプローチコントロールによるレーダーで最終進入コースまで誘導される。
MDAが1000ですね。江東(VOR)へはインバウンド320度。コンストレインはさっき言った通りです。LーNAVでファイナルコースへ飛行します。江東(VOR)以北(東京の市街地)は、騒音関係であまり北に行かずに早めに曲がりますから
江東VORから北は東京の市街地が広がっているので、飛行には細かい騒音規制があるのだ。
次に森田機長は着陸やりなおしの場合を想定した打合せをおこなった。
最後はフライパス・ベクターはマイサイドでアプローチします。ゴーアラウンドは、アイ コール ゴーアラウンド・フラップ。ポジティブ・クライムでギヤアップ。ミスアプローチコースに沿って浦賀、舘山方向に飛行します。高度は4500(フィート)上昇。早めにコンタクトしてもらって再度、(レーダー)ベクター(誘導)を受けます
最後に機長は滑走路への着陸と着陸あとの事柄にふれた。
ヴァーチカルに関しては、VNAVパスで。多分ダウンウィンド1500くらいまではいきますから。ランディングフラップスは30。VTGはプラス6で130を予定しています。オートブレーキ2。一応降りたら(着陸したら誘導路は)チャーリー(C)4、ジュリエット(J)3を考えています。スポットは2番予定ね。何かありますか?
ありません」木村副操縦士が答えて進入、着陸時の打合せが終わった。
アイ ハブ コントロール
ユー ハブ コントロール
ふたりはコールし合って操縦を交代する。114便は降下(ディセント)準備が完了した。降下ポイントまであと30マイルである。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第5回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第3章 クルージング

 現在、114便は盛岡市の北北東、北緯40度00分2 東経141度19分2にある四番目の通過地点PANSYを過ぎて、岩手県の花巻に向かって飛行をしている。
飛行高度は39000フィート。離陸して25分になる。
先ほどから気流の乱れで少し揺れが続いていた。

—————————————-
★「続・機長席」挿入05

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 エアシステム137便東京発釧路行きのMDー90が、宮古上空を北に向かう交信を聞きながら木村副操縦士が言った。
これ以上、揺れが強くなるなら(高度)41000(フィートの飛行)を考慮したほうがいいと思います
39000フィートの上を飛行するとなれば、磁方位202度で飛行しているので高度43000フィートでの飛行となるが、北行きの高度41000フィートも許可されることもあるのだ。すれ違う航空機の衝突やニヤミスを避けるために、航路上では磁方位が180度から359度までの航空機は奇数の高度設定。
0度から176度の航空機は偶数の高度と定まっている。そしてそれぞれ1000フィートの高度差を取る。高高度29000フィート以上では2000フィート毎に決められている。
西の空に太陽が沈んだ。
それでも39000フィートという高高度ではまだ明るさが残っているが、地上はすっかり暗くなり、残雪を抱いた山々が薄い闇を透して青白く浮きだして見えている。
サッポロコントロール。オールニッポン780。フライトレベル390
17時15分、114便の前に千歳空港を離陸した全日空780便大阪行きの747が、39000フィートに上昇してきた。35000フィートの飛行は気流が悪く39000フィートの巡航高度に変更した様子である。
下界には雲もなく気持良く澄み渡っているので、見た目にはとても気流が悪いとは思えないが、予報通りに20000フィート前後と35000フィートから37000フィートにかけて晴天乱気流(キャット)がある様子で、飛行機が続々と高高度に集まってくる。
オールニッポン780。ラジャ
つづいて管制官は日本航空846便へ札幌コントロールから東京コントロールへ移管する交信を入れた。
ジャパンエア846 コンタクト トウキョウコントロール 118.9 ジャパンエア846 コレクション トウキョウコントロール 124.1、124.1 」(日本航空846便へ。以後は東京コントロール 118.9メガヘルツへ連絡して下さい。日本航空846便へ。訂正します。東京コントロール124.1、124.1です)
124.1 ジャパンエア846」(124.1。日本航空846便了解しました)
サッポロコントロール。オールニッポン66。リービイング153。クライミング350」(サッポロコントロールへ。全日空66便です。高度15300フィートを高度35000フィートに向かって上昇中です)
オールニッポン66。サッポロコントロール。ラジャ
アンド リクエスト 390?」(それから、39000フィートの飛行許可を貰えますか?)
航空路上で同一高度の飛行機間のインターバルは20マイルなので、その距離が取れるスペースが高度39000フィートにあるかぎり管制官は許可を与える。
オールニッポン66 ラジャ。クライム アンド メインテイン 390
(全日空66便へ。39000フィートの飛行。了解しました)
サンキュー クライム 390 オールニッポン66
全日空66便、17時30分千歳空港を離陸して114便のあとを羽田空港に向かうボーイング747ー400の交信を聞きながら森田機長が呟く。
みんな39000(フィート)だね
35(35000フィート)あたりに(晴天乱気流)があるんですね」と木村副操縦士。35000フィート付近での気流の乱れを確認するように言った。
114便は盛岡市のすぐ東にさしかかった。
今は丁度、花巻の北だな。(花巻まで)40マイルあたりか・・
森田機長がナビゲーションデスプレイに表示された近隣の空港の位置を見ながら言う。
そこに栗駒山がありますね
青白く雪がのった岩手県の栗駒国定公園の山々が、くっきりと、まるで箱庭に作ったの山のようにディテールを見せている。まだ100マイル(約185キロ)以上先だが、この高度からであると「そこ」に思えるほど、すぐ下に真近に見えるのだ。
鳥海山はあれか・・
機長が今度は栗駒山の右手、少し遠くを指差した。
成層圏から見ると日本は驚くほど狭い。太平洋と日本海が僅かに首を回すだけで一望できる。高度39000フィートのクルージングは、コックピットの機窓に素晴らしいパノラマ風景を映しだしている。このパノラマだけは、絶対に客室では味わえないここ操縦室だけのものなのだ。
あの辺は岩手山ですね
副操縦士も右窓に顔を寄せて飛行機の真下を見ながら言った。
岩手山の右の方に山に筋が沢山あるところは、あれは安比のスキー場ですね
777ではエンルートの観光説明が機長のマニュアルからなくなった。日本エアシステムのレインボー7の全座席には液晶モニターテレビが装備され、機外の景色や刻々と変わる飛行位置を日本地図の上で確認出来るキャビン・インフォメーション・システムが乗客サービスとして加わったので、機長アナウンスも挨拶程度に簡素化され、乗客はゆっくりと好みのビデオ番組や飛行情報などを楽しめる配慮がなされている。
サッポロコントロールが114便を呼んできた。東京コントロールへ管制エリアが変わるのだ。
エアシステム114。コンタクト トウキョウコントロール124.1
続いて全日空744便にも同じ交信をした。木村副操縦士が周波数を124.1に変えるとキャセイ航空883便が120.5周波数の東京コントロール中部セクターに出て行く交信を傍受する。
124.1?
一瞬、森田機長が小首を傾げる。
普通、新千歳空港から羽田空港に飛行する場合、北のサッポロコントロールから東京コントロールへ引き継がれると、まず、東京コントロールの東北セクター118.9メガヘルツにコンタクトする。そして東京に近づくと茨城県付近で関東北セクターに引き継がれる。その周波数が124.1メガヘルツなのである。
だが、今日の管制は東北セクターをとばして関東北セクターへ引き継いだのである。
いきなり飛んでしまったみたいですね。トラフィック(航空機)が少ないのですかね?」 木村副操縦士も怪訝な顔をした。
トウキョウコントロール エアシステム114 レベル390」副操縦士に代わって機長が管制官呼び掛けた。
エアシステム114。ラジャ
交信は簡単に終わった。114便は東京コントロールのエリアを南南東にクルージングを続けた。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第4回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第2章 津軽海峡上昇

 114便は高度16000フィートを通過して高度39000フィートの空へ上昇を続けている。
離陸して7分後にウェイ・ポイントのトビーを過ぎた。そして航空路V10に入り、三番目のウェイ・ポイント、LARCH(ラーチ)上空に向かって約40ノットの追い風を受けて飛んでいる。LARCH(ラーチ)は、北緯41度32分2 東経141度47分9の青森県下北半島の東の洋上にある通過ポイントだ。

—————————————-
★「続・機長席」挿入04

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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ユー ハブ コントロール
森田機長は飛行機の操縦を木村副操縦士に代わった。
アイ ハブ コントロール」木村副操縦士が椅子を前方に動かして操縦桿を握る。
ジーっと油圧で動く椅子の音が、コックピットの風の音に混じって響く。
ふたりのパイロットは、飛行途中に何度か操縦を代わるが、操縦桿を渡すパイロットは必ず、YOU HAVE CONTROLL、操縦桿をするパイロットは、I HAVE CONTROLLと連呼しあうのが決まりである。
操縦をするパイロット(PF。パイロット・フライング)と操縦をしていないパイロット(PNF。パイロット、ノット、フライング)はそれぞれの役割分担がはっきりと定められている。その区分を明確にしてそれぞれの業務を確実に行うことが二名乗務で運航する航空機の最も重要なことのひとつである。
ユー ハブ ATC」(管制交信をお願いします)と森田機長。
アイ ハブ ATC」(了解しました)と副操縦士。
森田機長は飛行データーを眺めながら、これから行う機長アナウンスの内容を作り始めた。
エアシステム114 コンタクト サッポロコントロール 124.5
(エアシステム114便へ。以後の連絡はサッポロコントロール124.5メガヘルツにしてください)
エアシステム114。サッポロ 124.5
114便をレーダーでコントロールしていた千歳ディパーチャーから、管制区が航空路管制(ACC)に移管された。木村副操縦士は無線周波数を124.5メガヘルツ札幌コントロールに変えた。

そのとき、機内電話のコールがピンポンと響く。
もしもし、(114便が)巡航(水平飛行)になるのは41分(5時41分)ね。降下開始は次の時間(6時)の06分を予定しています」と機長が話す。
ハイ」と電話の向こうで関谷チーフパーサーが答える。
気流はところどころ、軽い揺れはありますが大旨良好です。これから定刻着で機長アナウンスをします
はい。了解しました」と関谷チーフパーサー。この機内通話はすべてのキャビンアテンダントが同時に聴いている。
アフターも了解いたしました」と後部の客室を担当するキャビン・アテンダントも答えた。その間に、木村副操縦士はサッポロコントロールと最初の交信を行っていた。
サッポロコントロール。エアシステム114。リービング178。クライム トゥ 390
(サッポロコントロールへ。こちらエアシステム114便です。現在17800フィート(約5400メートル)を過ぎました。高度39000フィートへ上昇中です)
エアシステム114。サッポロコントロール ラジャ」(サッポロコントロール。了解) ロシアの管制官を思わせる太い声が返ってきた。

森田機長がアナウンスを始めた。
ご搭乗の皆様、こんにちは。今日も日本エアシステムの東京行きレインボーセブンをご利用頂きましてありがとうございます。機長の森田です。副操縦士、木村とともに当機を担当しております。当便は定刻若干前に出発し現在、順調に飛行を続けております。えー上昇しておりますが、飛行高度39000フィート、11900メートルで東京、羽田空港に向かいます。現在のところ羽田空港到着予定時刻は定刻の18時45分、午後6時45分を予定しております。天候は良好です。航路上の気流も安定しております。ごゆっくりお寛ぎください。東京地方、現在南の風、10メートル。晴れ。気温は摂氏15度と報じられております。途中、何かご用の節はご遠慮なく客室乗務員にお申し出ください。ご搭乗ありがとうございます
アナウンス中に、114便のすぐあとを飛行している全日空712便がサッポロコントロールへ移管する交信が聞こえた。コックピットのNDデスプレイには、全日空機の機影が20数マイル後方に映っている。
777には衝突防止装置TCASが装備されている。他の航空機が近ずくと警報が鳴りデスプレイの表示の色が変わり注意を喚起するようになっている。
機体が気流に捕まり、小さい揺れが続いく。

アイ ハブ ATC
森田機長が管制交信を聞く意志を副操縦士に伝えた。
管制官との交信は操縦を担当していないパイロット(PNF)が行うが、その内容は操縦を担当しているパイロット(PF)も同時に聴いて何かあれば、その都度、指示を出すのがコックピットワークである。トイレに行ったり、今みたいにアナウンスをするときなどは、ATC(エアー トラフィック コントロール)の交信を聴くことができないので、アナウンスが終わったあと「アイ ハブ ATC」とコールし通常の担当に戻るのである。
ユー ハブ ATC」木村副操縦士が答えて、管制エリアが変わったことを報告した。
サッポロコントロールにハンドオフされました
サッポロコントロール。オールニッポン426。リービング383 トゥ 390
(サッポロコントロールへ。全日空426です。現在38300メートルを過ぎて39000フィートに上昇中です)
この全日空426便は新千歳空港を15時45分に離陸したボーイング767で広島に向かって飛んでいる。
オールニッポン426。サッポロコントロール ラジャ
空の色が変わってきた。
機首方向左の東の空は夜が訪れ、太平洋の水平線は暗い空と海が渾然と混じりあって闇に溶け込んでいた。西の空は薄い雲がかかり、今までオレンジ色に輝いていた雲も灰色を増し、太陽が雲海の上に最後の残光を残している。
日没は6時15分ぐらいかな?
森田機長は西の空に今にも隠れそうな太陽を見ながら言った。
そうですね。10分から15分くらいです
日没まえの空はまるで印象派の絵のように美しい。
オレンジ、灰色、紺、深いブルー、そして黒色が斑模様に混ざりあう。その空の中を目には見えない無線電波が飛びかっている。そんな風景をパイロットのサン・テクジュペリはこう表現する。
『長いのや、短いのや、早すぎる三連譜・・・ただ何もないと思っていた空間に、何とおびただしい声が隠れていることか』(南方郵便機より 堀口大学訳)
ジヤパンエアー556。サッポロコントロール。スタンバイ。レーダーピックアップ
(日本航空556便へ。こちらサッポロコントロール管制です。まもなくレーダー誘導します。待って下さい)
サッホロコントロール。エアシステム404。フライトレベル310
(こちらエアシステム404便です。高度31000フィートです)
エアシステム404 サッポロコントロール ラジャ
森田機長が窓に映る風景に目をやって少し緊張を解いて言った。
夕焼けが見れそうです
この時間の風景を見なれた筈のパイロットたちにも一息つかせたくなるような美しい景色が、大きなスクリーンでパノラマ映画を見るように、コックピットの窓いっぱいを覆う。

▼新千歳空港から津軽海峡航空路図

新千歳空港から津軽海峡航空路図

※画像をクリックすると拡大します

今、丁度津軽海峡です
ジャパンエア596。コンタクト トウキョウコントロール 132.3 グッデイ
(日本航空596便へ。東京コントロール、周波数132.3メガヘルツへ連絡してください。さよなら)
函館発福岡行きの日本航空596便へ、サッポロコントロールから東京コントロールへの移管の交信である。
ジャパンエア596。133.3 グッデイ
フリクエンシー 132.3」(周波数は132.6です)
132.6。ジャパンエア596」(日本航空596便です。周波数132.6。確認しました)
あれが下北半島です」と木村副操縦士は窓の外を指差して、「逆様になっていますが」と、次はコックピットのレーダーに逆さまに写る下北半島を見て笑った。
114便はナビケーション・ログに記されている三番目のWP(通過点)LARCH(ラーチ)を過ぎて下北半島の沖で少し右に旋回を始めた。そして飛行方向202度に向け八戸上空に向かう。
この航空路Y10は北から南へ向かう空のハイウェイである。八戸で陸地に入り、花巻上空、仙台の西、福島市の東を通って茨城県の大子に向かう。大子VORで海沿いを通っていた航空路V22と一緒になって茨城県の霞ヶ浦にある阿見VORまで続く。
航空路V10に入ると飛行機(トラフィック)の数が増えた。サッポロコントロールと飛行機の絶えまない無線交信が聞こえてくる。
エアシステム712。サッポロコントロール フライトレベル280
(サッポロコントロールへ。エアシステム712便です。高度28000フィートを飛行しています)
釧路を16時50分に離陸したエアシステムのMDー90で、関西国際空港へ向かっている。
エアシステム712。サッポロコントロール ラジャ
ジャパンエア552。レーダーコンタクト クライム トゥ メインテイン240
(日本航空552便へレーダーで捕捉しました。24000フィートへ上昇してください) 秋田空港を離陸したばかりの日本航空552便、羽田行きのボーイング767に、管制官が24000フィートまでの上昇許可を与えた。
サッポロコントロール。オールニッポン744。ナウ、390
釧路を17時15分に出発した全日空744便、ボーイング767ー300が、巡航高度39000フィートに着いた報告である。
オールニッポン744 サッポロコントロール ラジャ」(サッポロコントロール 了解)
エアシステム216。フライヘディング190 ベクタ トゥ ヤマガタ リポート レシービング
(エアシステム216便へ。機首方向190度で山形に向かい山形VOR(の電波を)受信したら報告してください)
トロポを過ぎました」と木村副操縦士が報告した。
現在、高度は37000フィート通過。これまでトロポポーズ(対流圏と成層圏の間)を飛行していたので機体が小刻みに揺れていた。
しかし今は静止したように揺れがない。114便は成層圏に入ったのである。

眼下に八戸の街灯がキラキラと光って見える。
このとき乱気流に遭遇した航空機からの交信が入った。
ジャパンエア846。リクエスト 200 タービランス
(日本航空846便です。乱気流です。20000フィートへの下降許可願います)
ジャパンエア846 ドゥ ユー リクエスト フライトレベル 200?
(高度20000フィートに飛行したいのですか?)
アファーマテイブ プリーズ」(そうです)
ジャパンエア846 ラジャ ディセント アンド メインテイン 200
(日本航空846便へ。了解しのした。20000フィートに下降を許可します)
サンキュー。リービング240 トゥ 200 ジャパンエア846
(ありがとう。24000フィートを離れて20000フィートに下降します)
1000 トゥ レベルオフ
森田機長が高度計を見てコールした。巡航高度まであと1000フィートになるとコールする決まりである。
ブザーがコックピットに響く。このブザーは、飛行高度が設定高度まで900フィート以内になると自動的に鳴り設定高度が近くなったことを知らせるのだ。
上昇角度が浅くなる。もうすぐトップだ。
114便は高度39000フィートに到着した。飛行プラン通りにLARCHを過ぎて60マイルの地点であった。
114便は岩手上空で水平飛行に移った。ボーイング777は夕日の空を南に向かって飛行を続けている。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第5回

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ヨーロッパ飛行画像(haruhikon提供)

「離陸」

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★「ヨーロッパ飛行」挿入05

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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前方機がエンジン・フルパワーで離陸滑走を始めた。その轟音がコックピットを震わせるほどである。滑走路28の進入口が目の前に迫って来た。岸田副操縦士はタワー管制へ交信を始めた。
「チューリッヒ・タワー ジャパンエア412 レディ フォア テイクオフ ランウェイ28」(チューリッヒ・タワー管制へ。日本航空412便です。滑走路28からの離陸準備は完了しています)
「ジャパンエア412 クリア ライン アップ ランウェイ28」(日本航空412便へ。滑走路28に進入して下さい)
「ジャパンエア412 イントゥ ポジション アンド ホールド」(日本航空412便です。滑走路内に進入し、待機します)
「はい、クリア ライン アップ」
「はい、クリア ライン アップ アンド ホールド」
空港に進入して来る航空機に着陸許可が出された。
岸田副操縦士は「イントゥ ポジション アンド ホールド(into the position and hold)」、タワー管制官は「クリア ライン アップ(clear line up)」と一見、違った言い方をしているが、意味は一緒である。最近まで日本国内では「(タクシー)イントゥ ポジション アンド ホールド」という用語であり、欧州では以前より「クリア ライン アップ(ウエイト)」であった。日本国内では平成18年(2006年)10月に管制方式基準の改正に伴い用語や言い回しは変更になった。この変更はアメリカのFAA(Federal Aviation Administration:連邦交通局)からICAO(International Civil Aviation Organization:国際民間航空機関)方式に倣ったものである。ちなみにFAAはアメリカ運輸省の下部組織で、航空輸送の安全維持を担当する部局で、航空機の開発などもFAAの承認が必要になる。ICAOは国際連合経済社会理事会の専門機関の一つである。(WHOやIMFも同じ専門機関)
JAL412便はタキシングの速度を落とし、ゆっくりと滑走路に進入を始める。進入口と滑走路のアスファルトの継ぎ目の段差を超える音が聞こえ、大空という聖なる世界へ飛び立つ境目を超えた気がする。

「ファイナル クリア」滑走路進入方向に進入機がないことを視認した。
キャビンに離陸する合図が鳴り、「みなさま、大変お待たせ致しました。ご搭乗機、まもなく離陸でございます。お座席のベルトをお締めかどうか、どうぞ今一度お確かめ下さいませ。」キャビンアテンダントが乗客にシートベルトを締めるよう促した。
機長はビフォア テイクオフ チェックリストの点線以下のアイテムを確認する指示をした。
その間、離陸した前方機に管制官よりディパーチャー管制に移管する交信が聞こえた。
「アフター ドット ライン」
「ウォーター ポンプ…ノット インストール」
「フュエル パネル…チェック」
「パック バルブ…クローズ」
「イグニッション…フライト スタート」
「プローブヒート…オン」
「DME アンド トランスポンダー…スタンバイ…」
「フラップス フライト コントロール ヨーダンパー…10 10 グリーン アンド チェック…エイト グリーン ライト」
「ボディギア ステアリング トゥ ゴーです」
「はい」

前輪が滑走路の中心線に合わせたと同時に、鈴木機長はスイッチをパチンと入れ、チェックリストの続きが行なわれた。
「…ボディギア ステアリング…はい、ディスアーム」
「オール ウォーニング ライト…チェック バイ サイド」
「ビフォア テイクオフ チェックリスト コンプリートです」
「はい」
これで全ての計器確認が終わり、管制官からの離陸許可を待つのみである。一時の沈黙がコックピットを支配する。緊張が一気に高まり始めた。滑走路の中央線にノーズギアをピタリと合わせ、JAL412便は滑走路の正面を見据え、遥かに広がる大空へ飛び立つ。管制官から交信が入った。
「ジャパンエア412 クリア フォア テイクオフ ウインド 200 ディグリーズ 2 ノット」(日本航空412便へ。離陸を許可します。風は200度の方向から2ノットです)
管制官の交信が終わる前に、鈴木機長は4本あるスラストレバーを前に押し出すと同時に4つのエンジンが勢いよく唸り始めた。

「ジャパンエア412 クリア フォア テイクオフ」岸田副操縦士は復唱した。
「クリア フォア テイクオフ!」鈴木機長は声高くコールした。
「スタビライズ!」勢いよく唸り始めたエンジンの出力が安定したことを全クルーが声に出し確認し、続けて離陸に必要なエンジンパワーにする為に、「マックス パワー!」「パワー セット」と力強くコールした。飯田航空機関士はそれに応じて、エンジンパワーを最大にセットした。獲物に狙いを定めた鷹の如く、急速に速度を上げる。
「80ノット!…チェック」離陸滑走80ノット(時速約150キロ)に達したことを岸田副操縦士がコールした。更に加速を増し、滑走路のセンターラインが後ろに飛び去っていく。滑走の振動と風の影響で機体が震える。
飯田副操縦士が「V1!」(時速210キロ)と離陸決定速度に達したことをコールした。この時点で何らかのトラブルがあったら、緊急停止を出来る速度である。
続いて「ローテーション!」(時速230キロ)とコールしたと同時に、鈴木機長がステアリングを手前に引き、機首を上げた。ノーズギアが地から離れた。
そして「V2!」(時速253キロ)のコールで機体が地上から離れ、安全に上昇できる速度になった。車輪の全てが地上から離れた音が機内に伝わる。
鈴木機長は「ギア アップ!」と岸田副操縦士に指示し、ギアレバーを上に持ち上げた。ゴトンと車輪が機体に収納される音がコックピットに響く。上昇角度を約17度にとって、上昇している。
「ノースモーキング オン」禁煙の合図がキャビンで鳴った。
次々と空港に向って来る航空機に、進入の継続や着陸許可の指示が出される。
「クライム パワー…ラジャ」離陸出力を僅かに下げて、上昇出力を上げるよう指示を出した。
通常、離陸後、タワー管制より離陸機を管制するディパーチャー管制にハンドオフ(交信の移管)の指示があるのだが、その交信が入ってこない。岸田副操縦士はタワー管制にディパーチャー管制へ交信しても良いか確認した。
「ジャパンエア412 コンタクト ディパーチャー?」(日本航空412便です。ディパーチャー管制へハンドオフしていいですか)
「412 ディパーチャー125.95 グッディ」(日本航空412便へ。ディパーチャー管制の周波数125.95メガヘルツに交信して下さい。さようなら)
「グッディ」(さようなら)
JAL412便は上昇を続ける。鈴木機長は廻りを見渡しながらも、両手で操縦桿を両足でラダーを操り機体が揺れないように集中している。眼下にスイスの風景が拡がっているが、そんな余裕は無い。睨みつけるように幾つもの計器に目を転じては、機外にもその視線を移す。岸田副操縦士は無線機に手を伸ばし、ディパーチャー管制の周波数をセットした。

桃田素晶

「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House

【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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ボーイング777コックピット「続・機長席」第3回

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この作品は過去、ベストセラーを記録した航空ドキュメンタリーの傑作CDブックを電子書籍化したものである。
新千歳空港を折り返したボーイング777は東京・羽田 空港へ向かう。折しも、羽田上空は九州、大阪、沖縄から飛来した航空機と北から下ってくる航空機が一緒になって夕べの空のラッシュアワーだ。それら数十機の航空機をまるでオーケストラの指揮者のように鮮やかにさばいて羽田空港に着陸させる管制官の仕事には息を呑む緊迫感と感動がある。東京湾上空のスリリングな舞台裏をあますところなく描いたクライマックスは、この作品最大の読みどころであり聴きどころである。

第1章 千歳空港離陸_3

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★「続・機長席」挿入03

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

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皆様、まもなく離陸いたします。お席のベルトをおたしかめください
客席では関谷チーフパーサーが乗客に離陸を知らせる。
いよいよ離陸である。

まず森田機長がスラストレバーを約50%N1までアドバンスして、エンジン計器の指示に異常がないことを確認した後、スラストレバーを離陸推力にセットするトガ・ボタンを押した。スラストレバー(自動車でいえばアクセル)は、するすると自動的に離陸位置に入る。
スラストレフ
木村副操縦士がオートスロットルのモードが変わるのを確認してコールする。
森田機長は右手をスラストレバー、左手で操縦桿を握り、両足をラダーペダルにかけて滑走路を凝視した。
キーン、と金属音を響かせながらエンジンパワーが急激に上がった。
まるで獲物を追う獣が、走る前に一瞬身震いするように機体が振動する。
パーキングブレーキが外されると、ボーイング777は脱兎のごとく滑走路の上を走りだした。
エイティ!
離陸速度をチェックしている副操縦士が、80ノットのスピードになったことをコールした。
加速が増す。機長は右からの風に対応してエルロンをやや右に傾け、操縦桿をしっかりと持ちながら滑走路を見つめている。
V1
コンピューターと木村副操縦士が同時にスピードをチェックしてコールした。
VR
森田機長がゆっくりと操縦桿を引き始めた。機首が上がる。
V2
ゴトンと音が響いてメインギヤが地上を離れる。機体が浮いた。それまで滑走路の路面を拾っていたタイヤのノイズがすっーと消える。114便は離陸した。
木村副操縦士はデスプレイにある昇降計の針が上を向き、気圧高度計の数字が下がり、飛行機が地上から上昇したことを示す電波高度計の動きを確認してコールした。
ポジティブ
ギャアップ!
車輪あげを命じる機長の声は、進め! と告げる武将のように凛と響き渡る。この声こそ、機長を象徴する音声であろう。
ギャアップ。LーNAVキャプチャー
副操縦士がギャ・レバーをあげる。LNAV(ラテラル・ナビゲーション)が作動を開始する。
スラストレフ、VNAVスピード
VーNAVが作動を開始する合図のモード変化の表示を確認して副操縦士がコールする。VーNAVとはバーチカルナビゲーションのことで、ラテラル(水平方向)に対して上下(ヴァーチカル)方向の、すなはち飛行時の縦方向をコントロールするナビゲーションのことである。
これで777の運航、航法コンピューターが完全に動きだして宇宙船に変わった。
ギャアップ
車輪が機体に完全に格納されたことをディスプレイでチェックして木村副操縦士が報告した。
空気抵抗が少なくなった114便は速度を増して上昇を続ける。
ライト。クリアー
114便は右旋回を始めた。空港の北西にある千歳VORへ向かうのだ。

千歳タワー管制から交信が入った。
エアシステム114。コンタクト デパーチャー
(エアシステム114便へ。千歳デパーチャーコントロールと連絡をしてください)
エアシステム114。デパーチャー」復唱して木村副操縦士は、千歳デパーチャーコントロールへ周波数を変えて交信を始めた。
チトセ デパーチャー。エアシステム114。リービイング1700 フォア 390」(千歳デパーチャーコントロールへ。こちらエアシステム114便です。現在、高度1700フィート。高度39000フィートへ上昇中です)
エアシステム114。チトセ・デパーチャー ラジャ。レーダーコンタクト。 11000 リストリクション イズ キャンセル クライム アンド メインテイン フライトレベル390
(エアシステム114便へ。こちら千歳デパーチャーコントロールです。了解しました。11000フィートの制限を解除します。高度39000フィートへ上昇してください)

前述の千歳空港のSID(出発方式)によけば、滑走路19ライトを離陸して千歳VORからトビーに向かって上昇するが、千歳VORから27マイル南にある27VORDMEまでは、高度11000フィート以下で飛行しなければならないという制限があった。(トビー5出発方式参照)今の交信でその制限が解除され、すぐに高度39000フィートへ上昇する許可が出たのである。
11000 リストリクション キャンセル クライム アンド メインテイン 390 エアシステム114
すぐに木村副操縦士が復唱する。機長がモードコントロールパネルの高度のセットを11000フィートから39000フィートに変え、ノブを一度押した。(ノブを一度押すことによりVーNAVに記憶されている制限高度をキャンセルする機能がある)
アルト(高度、アルティメーターの略)390。キャンセル 11000
ふたりのパイロットが確認した。
114便は薄暮から次第に夜の匂いが漂い始めた北の空を、一路南に向かって高度39000フィートを目指して上昇を続けていった。「セット オートパイロット」と機長が手動から自動操縦に切り替えたことを告げる。

▼新千歳空港から津軽海峡航空路図

新千歳空港から津軽海峡航空路図

フラップ・ワン
速度を確認して森田機長が主翼の下げ翼の位置を1にする指示を出す。エアースピードは200ノット(時速約380キロ)を越えた。
フラップス・ワン
確認のコールして木村副操縦士がセンターコンソールにあるフラップレバーを1の位置にした。レバーを操作する音がコックピットの中にカチャカチャと響く。客席からは油圧が働く独特の音がしてフラップが上がる様子が見えるが、コックピットではその様子は液晶デスプレイにモニターされて確認される。
フラップ アップ」続いて、機長がコールする。空気抵抗が少なくなった777はさらにスピードを増して上昇していった。それは鷹の飛翔を思わせた。
レフトサイド・クリアー
千歳VOR(CHE)で少し左へ旋回して機首を185度、ほぼ真南にして津軽海峡上空へ向かう。
エアシステム85便。千歳」とカンパニー無線が傍受される。
85便です。どうぞ
この無線はエアシステム千歳運航課と、17時25分に千歳空港を離陸するエアシステム85便ダグラスMD87が交わす交信である。管制との交信以外にも飛行機は自社の持つ周波数で運航部と逐次、交信しながら飛行情報を入手するのである。
アフターテイクオフ チェックリスト」森田機長が離陸後に行う点検を命じた。
木村副操縦士はディスプレイに表示されているエレクトリック・チェックリストを確認して素早く点検を終え、報告する。
アフターテイクオフ チェックリスト コンプリーテッド」(離陸後の計器点検、完了しました)
114便は薄い雲を抜けた。雲を透して津軽海峡が暗い夜の闇に沈んでゆく。
114便が向かっている次の通過点、TOBBY(トビー)は、北緯41度55分1 東経141度45分6の海の上にあるウェイ・ポイント(通過点)だ。
これから東京まで、飛行プランに定められたウェイ・ポイントを忠実に辿りながら777は飛行してゆく。
デパーチャー。オールニッポン712。パッシング 1900
(千歳出発管制へ。全日空712便です。離陸して1900フィートを過ぎました)
チトセデパーチャーコントロール
オールニッポン712。チトセデパーチャー レーダーコンタクト ベリファイアサインドアルティテュード フライトレベル390
(全日空712便へ。千歳出発管制です。貴機はレーダーに入りました。飛行制限をキャンセルし、高度39000フィートまで上昇してください)
114便のあとに離陸した全日空712便は、114便のすぐあとを上昇している。
ライト オフ」副操縦士が離陸のときに点灯していたランディングライトを消す。
現在、高度10000フィートを通過。明るい夕日が右前方の空をオレンジ色に染めている。114便は黄昏の津軽海峡上空を加速しながら上昇を続けた。

武田一男

ボーイング777コックピット「続・機長席」/全9回
録音・解説:武田一男 (C)Director’s House

【著作について】「続・機長席」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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