B747コックピット「ヨーロッパ飛行」第13回(最終回)
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「コペンハーゲン カストラップ国際空港へ着陸」
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★「ヨーロッパ飛行」挿入13
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機長はフラップ角度を20度にセットするよう指示した。
「フラップ20」
「GS(グライド スロープ) ワン ドット」着陸誘導の電波を捉えているのが、計器パネルに表示されている。
「フラップ20 セット」フラップ角度が20度まで下がったことを確認、コールした。
412便は順調に滑走路に向かって下降している。機長は副操縦士にギア(車輪)を降ろすよう指示した。
「ギア ダウン」
車輪が降りる音と風を切る音が響く。
「ジャパンエア412 カミング アップ ローカライザー ナウ 5マイル」(日本航空412便へ。ローカライザーまで、あと5マイルです)
「ジャパンエア412 インターセプティング」(ローカライザーに向かっています)
「ジャパンエア412 クリアード フォア ILS コンタクト タワー 118.1」(日本航空412便へ。ILSの進入を許可します。以後はタワー管制118.1メガヘルツに交信して下さい)
機長は「ラジャ」と指示を了解した旨を副操縦士に伝え、「(ジャパンエア)412 グッディ」と交信した。
交信がカストラップ・タワー管制へ移管された。
「カストラップ・タワー ジャパンエア412 ILS 22レフト」
(カストラップ・タワー管制へ。日本航空412便です。ILS着陸方式で滑走路は22レフトです)
「ジャパンエア412 クリア トゥ ランド 22レフト 180 8ノット」(日本航空412便へ。滑走路2レフトへの着陸を許可します。風は190度の方向から8ノットです)
着陸許可は発出された。「ラジャ」の力強い声が、緊迫した雰囲気を更に染み渡らせる。
「ジャパンエア412 クリア トゥ ランド 22レフト」(滑走路22レフトに着陸します)
「フラップ30」
フラップを更に下げ、機体は少しずつ速度を落とす。着陸直前の計器チェックが始まった。
「ランディング・チェックリスト」
「イグニッション…フライト スター」
「ランディング ギア…ダウン アンド グリーン」
「スピード ブレーキ…アームド」
「フラップス…30 30 グリーン ライト…エイト グリーン ライト」
「ハイドロリックス…ノーマル」
「ランディング・チェックリストコンプリートです」
「ラジャ」
「クリア トゥ ランド」
目の前に滑走路が迫って来た。副操縦士が「ワン サウザント」と残り1000フィートであることをコールした。機長は、すかさず「ローデータ」、続いて航空機関士が「ノーフラッグ」の確認コールを行なう。
眼下には北海の蒼色に、リアス式海岸と思わせる複雑な入り江が広がっている。そして一隻の大きな帆船が滑走路の延長上を横切っている。4本のマストに純白の帆いっぱいに風を受けて、ゆっくりと北に進み、白波がその航跡を作り出している。JAL412便は速度を落としながら、ゆっくりと滑走路に向かって下降している。
「ちょうど、真上だな」鈴木機長が呟いた。
見事としか言いようがないほど、JAL412便の真下に帆船が重なった。ギアがマストの先端に接触するのではと思えるほどの近さで、遠近を失うような感覚に襲われる。
JAL412便は、滑走路のセンターラインに機体を合わし、降下し続けている。計器の目盛りが滑走路に近付いていることを示している。
「ファイブ ハンドレッド」500フィート切った。長い滑走路が目の前に飛び込んで来た。
「スタビライズ」エンジンの出力、機体のバランスが取れている。揺れは無い。
「アプローチング ミニマム」
「チェック」
着陸決定地点を目指して412便は更に下降を続ける。
「スリー ハンドレット」残り300フィート。
「ハンドレッド」残り100フィート。
滑走路末端を一瞬に通過し車輪の接地まで、あと僅か。「50…30…」航空機関士は残りの高度をコールし続ける。
機長はスラストレバーを手前に引き、エンジン推力を切った。機体は一瞬グライダーのように滑空している。機体中央の車輪が接地した。機長はゆっくりと操縦桿を押し込み、ノーズギアを接地させた。同時にスラストレバーの奥にあるリバーサー(逆噴射)のレバーを手前に引いた。エンジンに逆噴射が掛かり、ガタガタと機体を揺らしながら、急激に減速し出した。
副操縦士は「ブレーキ プレッシャー ノーマル」と、ブレーキ制御装置に異常がないことを確認した。
「ハンドレッド」100ノットまで減速し、続いて「80ノット プレッシャー ノーマル」80ノットまで減速し、ブレーキ制御装置に異常がないことを確認した。
機体はスピードを落とし「60ノット」まで減速した。
「ライトサイド クリア」誘導路に障害物が無いかを確認した。
「ジャパンエア412 ターン ライト アンド ハイスピード フォロー タクシーウエイ 2」(日本航空412便へ。右の高速誘導路に入り、誘導路2に向かって走行して下さい)
「(ジャパンエア)412」
「フラップ アップ」着陸に要したフラップを主翼に格納するように指示した。
「タクシーウエイ ナンバー2」誘導路2を走行することを再度確認コールした。
CAが客室アナウンスを始めた。ホッとした雰囲気が客室を包んでいる。
岸田副操縦士は、滑走路を横断する許可を管制官に要請した。
「ジャパンエア412 リクエスト クロス ランウェイ 12」(日本航空412便です。滑走路12を横断する許可を頂けますか)
「…コンタクト 121.9」(…121.9メガヘルツに交信して下さい)
「ライトサイド クリア」
副操縦士は周波数121.9メガヘルツに合わせて、交信を始めた。
「カストラップ・グランド ジャパンエア412 クロスイング ランウェイ12」(カストラップ・タワー管制へ。日本航空412便です。滑走路12を横断しています)
「ジャパンエア412 グッドアフタヌーン …ゲート34」(日本航空412便へ。こんにちは。貴機の駐機場は34番です)
副操縦士は復唱し、管制官は「ザッツ コレクト」(その通りです)と間違いがないことを確認した。
「スカンジナビア207 コンタクト119.9」(スカンジナビア航空207便へ。以後は119.9メガヘルツに交信して下さい)
航空機関士はチェックリストに書かれている着陸後の計器確認項目(アイテム)のチェックを行なった。
「アフター・ランディング・チェックリスト コンプリートです」
「ライト サイド クリア」
目の前に34番ゲートが見えた。既に地上整備員が待機し、412便を誘導するマーシャラーも視認できる。スピードを落としながら、ゆっくりと停留地点に着いた。
エンジンを切り、乗務員の3名は不必要なスイッチを切り、B747に一時の安息を与えていく。ドアが開き、次々と乗客が降り始めた。次の目的地のアンカレッジ、また日本に帰る乗客は座ったままで背伸びをしている姿が、ちらほらと見える。外では次の飛行に向けて慌しく準備を始めた。
完
桃田素晶
「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」
解説:桃田素晶/録音:武田一男 ©Director’s House
【著作について】「B747Cockpit ヨーロッパ飛行」で収録している音声、音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。また、解説は桃田素晶、表紙写真はharuhikonに著作があります。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。
今回で「ヨーロッパ飛行」最終回になります。
この連載を執筆くださった桃田素晶さん、音源を提供くださった故・武田一男さんとご遺族のみなさま。さらに、写真をお貸しくださった「ちょっと昔の飛行機写真館」のharuhikonさん。どうもありがとうございました。
本当のこというと、この連載が終わってしまうの、凄くさびしかったです。
お待ちいただいた読者のみなさま、すみませんでした。心からお詫びします。
桃田さんにいたっては、とても懸命に何度も何度も執筆し直してくださいました。
今回はそんな桃田さんに対して、なにか目に見える形で(「航空」クリックでも、コメントでも、メール(info@airjapon.com)でもなんでもいいので)足跡を残していただければ幸いです。
この企画に携わってくれた方々、読者のみなさん。本当にありがとうございました!!