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機長席第11回 新千歳空港着陸

新千歳空港着陸

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▼新千歳空港エアポートチャート
千歳空港エアポートチャート

▼新千歳空港トラフィックパターン
新千歳空港トラフィックパターン

 夕べの佇みが忍ぶ機窓にはオレンジ色の光陽が北の大地の田園地帯を潤し、のどかな早春の黄昏の中でそれは絵のように美しい。低い安定したエンジン音が音楽のように響くこの時間はすべてがゆっくりと過ぎていく。
じゃあ、早来だけ言っときますので」と木村副操縦士は管制に伝えた。
アプローチ エアシステム115 ナウ ハヤキタ インサイト
(こちらエアシステム115便です。早来に近づいています。早来を視認しました)
115 ラジャ リポート エアポート インサイト
(115便へ 了解しました、空港を視認しましたら報告して下さい)
エアシステム115」(了解しました)
 目のまえに小高い丘が表れる。森田機長がCRTスクリーンの中でウェイポイントを確認した。
早来ですね
はい、1000 レベル オフ」(早来通過まであと高度1000フィートです)
エアポート インサイト」(空港を視認)と森田機長。左手、オレンジ色の光りの中に空港が見える。すぐ木村副操縦士が報告した。
レーダー エアシステム115 エアポート インサイト
(進入管制へ。こちらエアシステム115便です。空港を視認しました)
 空港が目視出来た115便に管制官はあらためて有視界進入の許可を出した。
115 ラジャ クリア フォア ビジュアル アプローチ ランウェイ 19レフト ヴィア ハヤキタ メインテイン 3000 トゥ ハヤキタ」(115便、了解しました 3000フィートで早来を通過し、19レフトに有視界進入をして下さい)
クリア フォア ビジュアル アプローチ 19レフト ヴィア ハヤキタ メインテイン 3000 トゥ ハヤキタ エアシステム115
(エアシステム115便です。3000フィートで早来を通過し、19レフトに有視界進入をします)
クリア ビジュアル アプローチ」(有視界進入します)
クリア ビジュアル アプローチ」(了解しました)
 ふたりのバイロットはお互いに有視界進入方式を確認しあう。
スピード V‐NAV パス」(ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
スピード V‐NAV パス… ビジュアル アプローチ アルト ホールド
(ヴァーチカル・ナビゲーション作動、進入高度を維持)
アルト」(高度維持しています)
アルト」(了解)
エアシステム115 4 マイル サウス ハヤキタ コンタクト タワー 118.8
(エアシステム115便へ 現在地は早来の南4マイルです。以後は千歳タワー管制118.8メガヘルツに連絡して下さい)
コンタクト タワー 118.8 エアシステム115」(了解しました)
フラップ1」(下げ翼を1度にして下さい。)と森田機長が指示した。
フラップ1」(了解しました)木村副操縦士はフラップを下げると新千歳空港のタワー管制を呼んだ。
チトセ・タワー エアシステム115 2 マイル トゥ ハヤキタ スポット 16
(千歳タワー管制へ こちらエアシステム115便です。早来の2マイル手前です スポット16番の予定です)
エアシステム115 タワー ラジャ リポート デパート ハヤキタ ランウェイ 19レフト ウィンド 220 アット 12」(エアシステム115便へ 了解しました 早来を超えるときに報告して下さい 滑走路19レフトは風向が220度から12ノットです)
チェック デパート ハヤキタ 19レフト エアシステム115」(早来上空で報告します)
フラップ1」下げ翼が1度になったことを計器で確認して木村副操縦士が報告した。
ラジャ」(了解)
ノースエアー6252 コンタクト グランド 121.6」(ノースエアー6252便へ 以後は千歳グランド管制121.6メガヘルツに連絡して下さい)エアシステム115便の前に着陸したノースエアー機がグランドコントロール管制に移管される交信が聞こえる。
ノースエアー6252 コンタクト グランド 121.6」(了解しました)
フラップ5」(下げ翼を5度にして下さい)と森田機長。
フラップ5」(了解しました)すぐに木村副操縦士がフラップを下げた。
1600 1600」トラフィックパターンに入った高度を1600フィートに設定する。
ラジャ」(了解)
フライト レベル チェンジ」(高度変更します)と森田機長。
スラスト フライト レベル チェンジ スピード
(オートスロットル・モード確認、下降速度にします)
スラスト フライト レベル チェンジ スピード
(オートスロットル・モード確認、下降速度)

 115便は早来上空に達した。
チトセ・タワー エアシステム115 デパート ハヤキタ」(千歳タワー管制へ。こちらエアシステム115便です。早来に到達しました)
エアシステム115 ラジャ リポート ベース ランウェイ 19レフト ユー ア ナンバー1 ノー トラフィック」(エアシステム115便へ 了解しました ベースレグに入ったら報告して下さい 19レフトには1番目の着陸になります 滑走路には航空機はいません)
ラジャ」(了解)
リポート ベース 19レフト ウィ アー ナンバー1 エアシステム115」(ベースレグで報告します 滑走路は19レフトに1番目に着陸します)と木村副操縦士が答えた。
 まもなく115便はダウンウィンドの南端に到達する。そこでダウンウィンドに入るために右旋回が始まるのだ。
チェック ライト サイド」右側を確認して下さいと森田機長が指示する。
ライト クリア」右側を確認して木村副操縦士が報告する。そして「カンパニーやっちゃいますね」とエアシステム新千歳空港の運航部にカンパニー無線を入れる。115便はゆっくりと右旋回して機首方向010度でランウェイ東側のダウンウィンドに入った。
エアシステム千歳 115便 ダウンウィンドに入りました スポット16番… スピード アルト
スピード アルト」(了解しました)と森田機長。
エアシステム千歳 了解 16 クリアです どうぞ
了解 16番 クリア
トラック セレクト

トラック セレクト
 そのとき管制官が離陸する飛行機があることを115便に告げる。
エアシステム115 トライスター デパーティング ランウェイ 18レフト
(滑走路18レフトに航空機が離陸しています)
エアシステム115 ラジャ」(了解しました)
チェック ライト サイド」(右側を確認して下さい)
クリア」(障害物なし)
トラック セレクト 002
 現在、115便は滑走路と平行して機首方向310度で北北東へ飛行している。高度1600フィート。左手に新千歳空港が広がっている。これから左旋回をして滑走路の軸線へ入りそのまま19レフトへ着陸するのだ。
ラジャ」(了解しました)
アビーム スレッショルド
ゴーアラウンド アルト… フラップ20」と森田機長。
(ゴーアラウンドの高度を確認、下げ翼を20度にして下さい)
フラップ20」(下げ翼を20度にします)
 そして森田機長は車輪を下ろす指示を出した。
ギア ダウン」(車輪を下ろして下さい)
ギア ダウン」(車輪を下ろします)
ギア ダウン フラップ20」(車輪を下ろして、下げ翼を20度)
 すぐ、後を飛ぶ全日空67便の交信が入る。
チトセ・タワー オールニッポン67 オーバー ハヤキタ 3000」(千歳タワー管制へ 早来を通過し、3000フィートで飛行しています)
オールニッポン67 タワー ラジャ レポート レフト ハンド ダウンウィンズレグ ランウェイ 19レフト ウィンド 220 アット 14 デュー トゥ プロシーディング トラフィック ターニング ベース ランウェイ 19レフト」(全日空67便へ 滑走路19レフトの左手のダウンウィンドに入ったら報告して下さい 風は220度から14ノットです 滑走路19レフトのターニングベースに飛行機がいます)
エンター リポート エンター レフト ダウンウィンド オールニッポン67」(左のダウンウィンドに入ったら、報告します)
マイサイド FD オフ」(自動操縦をオフ)と森田機長。
ラジャ ギア ダウン フラップ20」(了解、車輪が下りて、下げ翼20度になりました)木村副操縦士が計器を見て確認した。115便はダウンウィンド・レグの外れに到達した。森田機長が手動で左旋回に入ることを告げた。すかさず、木村副操縦士がタワー管制に報告する。
レフト クリア レフト ターン」(左側、障害物なし 左旋回します)
チトセ・タワー エアシステム115 ターニング ベース 」(千歳タワー管制へ 旋回地点です)

 管制塔が115便に着陸の許可を出す。
エアシステム115 タワー リチェックド ギアダウン クリア トゥ ランド ランウェイ 19レフト ウィンド 220 アット 14」(エアシステム115便へ ギアが降りたのを確認してください。滑走路19Lに着陸を許可します 風は220度から14ノットです)
ラジャ」(了解)
クリア トゥ ランド 19レフト エアシステム115」滑走路19Lに着陸します、と木村副操縦士が確認の交信を入れた。
クリア トゥ ランド、セット ランウェイ トラック」(着陸許可確認、滑走路を設定)
クリア トゥ ランド セット ランウェイ トラック」(着陸許可確認、滑走路を設定)
 トリプルセブンはゆっくりと左旋回に移った。
フラップ30 セット スピード」(下げ翼を30度に、着陸スピードをセット)
フラップ30、セット スピード… フラップ30」(下げ翼を30度、着陸スピードをセットします… 下げ翼が30度になりました)
ラジャ ランディング・チェックリスト」(了解、着陸の計器点検をして下さい)
ランディング・チェックリスト コンプリーテッド」(着陸の計器点検、完了しました)
チェックリスト コンプリーテッド」(計器点検、完了)
 115便は機首を190度にして滑走路の軸線に乗った。
1000」(1000フィート通過) 高度1000フィート、あと300メートルだ。
チェック、ランディング…」高度確認した森田機長は着陸することを告げた。
オートスロットル オフ」(了解しました、着陸します… オートスロットルをオフにします
 コックピットにアラームが響く。森田機長がオートスロットルをオフにしたのだ。

 滑走路が目の前に近づいた。
300」と木村副操縦士。あと90メートル。滑走路が矢のように後方へ飛ぶ。
スタビライズ」機体姿勢が安定していることを森田機長が確認した。
 接地に際して電波高度計と連動したコンピューターが、50フィートから接地する10フィート前までの高度をコールする。
 50フィート。40フィート。30フィート。20フィート。10フィート
 メインギヤ(翼についている主車輪)が先に接地し、それからノーズギヤが地面についた。すぐに逆噴射のエンジン音が聞こえる。
マニュアル ブレーキ」森田機長がブレーキで機体の速度をさらに落とす。そこへ管制官からの指示が来た。
エアシステム115 ターン ライト ブラボー9 タクシー ダウン ランウェイ 19ライト アルファ10」(エアシステム115便へ ブラボー9に入り、19Rからアルファ10に入って下さい)
 着陸後、滑走路19レフトの末端にある誘導路B9に右折し滑走路19ライトの端を斜めに横切ってタクシーウェイの始まりであるA10地点に行くようにという管制の指示である。
ラジャ」(了解)
ライト ブラボー9 タクシー ダウン ランウェイ 19ライト アルファ10 エアシステム115」(ブラボー9に入り、19Rからアルファ10に入ります)
60!」 木村副操縦士がスピードが60ノットになったことを告げた。そのとき115便は誘導路ブラボー9の入り口近くに来ていた。「はい、ブラボー9」と森田機長。
ライト クリア」(右側、障害物ありません) 木村副操縦士がブラボー9に入るため機体を右に回すのでライトサイドを確認する。
ラジャ」と森田機長、ハンドルを右に回しゆっくりと115便を誘導路へ入れた。115便が誘導路に入ったことを確認して管制官が続いて進入してくる全日空67便に着陸許可を与えた。
オールニッポン67 チェック ギアダウン クリア トゥ ランド 19レフト ウィンド 220 アット 14 ボーイング777 クリアリング ランウェイ」(全日空67便へ ギアダウンしたことをチェックしてください。滑走路19Lの着陸を許可します 風は220度から14ノット、ボーイング777が滑走路にいます)
クリア トゥ ランド オールニッポン67」(着陸します)
クリア タクシー ダウン」115便が滑走路19ライトからタクシーウェイA10に向かった。
ラジャ… クリア タクシー ダウン、チェック ライト サイド」(了解しました 右側を確認して下さい)
クリア」(障害物ありません) 着陸間際で全日空67便が滑走路上の風の状態を管制官に尋ねた。
オールニッポン67 チェック イット ウィンド プリーズ」(風向を教えて下さい)
220 アット 13」(220度から13ノットです)
ラジャ」(了解しました)
ライト クリア」(右側、障害物ありません)
ラジャ」(了解しました)
ライト サイド クリア」(右側、障害物ありません)
ラジャ」(了解しました)

 115便の管制がグランドコントロールに移管される。
エアシステム115 コンタクト グランド 121.6」(エアシステム115便へ 千歳グランド管制121.6メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム115 121.6」(了解しました)
チトセ・グランド エアシステム115 アルファ10 スポット16
(千歳グランド管制へ エアシステム115便です アルファ10に入ります スポットは16番です)
エアシステム115 グランド タクシー トゥ スポット16 ヴィア ホテル6 タンゴ2」(エアシステム115便へ ホテル6、タンゴ2経由で、スポット16番へ走行して下さい)
ホテル6 タンゴ2 トゥ スポット16 エアシステム115」(ホテル6、タンゴ2経由で、スポット16番へ走行します)
ホテル6、手前ですね
はい、そうです
グランド オールニッポン440 リクエスト プッシュバック スポット5 シエラ」(千歳グランド管制へ 全日空440便です スポット5番にいます プッシュバックの許可願います ATISはシエラ[S]を入手しています)
 札幌を16時30分に出発し新潟に向かう全日空440便A-320の交信である。
オールニッポン440 グランド プッシュバック アプルーブ フェース トゥ サウス」(全日空440便へ 機首を南向きにしてください)
 16時25分。115便は千歳空港へ着陸した。飛行時間は1時間11分。
 使用燃料は17300ポンド。予定より1000ポンド少なく、予定より5分早く千歳空港に到着したのであった。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第10回 千歳空港進入管制

チトセ・アプローチ 千歳空港進入管制

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▼新千歳空港有視界進入プロシジャー
新千歳空港有視界進入プロシシジャー

▼新千歳空港STAR 19L
新千歳空港STAR 19L

 115便は千歳空港進入管制とコンタクトを始めた。
チトセ・アプローチ エアシステム115 リービング 321 ウィズ ロメオ」(千歳レーダー管制へ エアシステム115便です 現在3万2100フィートです 空港情報はロメオ[R]を入手しています)
エアシステム115 チトセ・レーダー ラジャ エクペクト ランウェイ VOR/DME ファイナル ランウェイ 19レフト スタンバイ レーダー ベクター 35マイル
(エアシステム115便へ 了解しました VOR/DMEの最終進入を予定しています まもなく35マイルの地点でレーダー誘導を開始します)
ラジャ」と森田機長が確認する。それを聴いて木村副操縦士が管制官へ答える。
エアシステム115 スタンディング バイ」(待機します) 
 木村副操縦士がACARSで取った情報を再確認して言った。
・・・はあがってきていませんね。QNH29,98 128、6、じゃあ アティス(ATIS)入れます」 
(現在、空港のQNHは)29.98インチです。空港情報の周波数は128.6メガヘルツ。それでは空港情報を取ります)
了解 はい、じゃあ、そっちで…はい…」 (了解、ATISはVHF2チャンネルで取って下さい)
 無線から空港情報が流れ始めた。
ニューチトセ・エアポート インフォメーション ロメオ 0700 VOR/DME NO2 ランウェイ 19レフト アプローチ ランディング ランウェイ 19レフト ディパーチャー ランウェイ 19ライト バード フライング アラウンド ザ エアポート ウィンド 170 ディグリーズ 10 ノット ビジビリティー 40 キロメーター フュー 3000 キュムラス テンプラチャー 10 デューポイント 0 QNH29,98インチ アドバイス ユー ハブ インフォメーション ロメオ」(新千歳空港情報ロメオ[R]、世界標準時間7時現在、VOR/DME NO2方式で滑走路19L、着陸滑走路は19L、離陸滑走路は19R、滑走路周辺に鳥が飛んでいます、風は170度から10ノット、視程は40キロ以上、3000フィート前後にわずかに雲あり、気温は10度、露点は0度、気圧は29,98インチ、空港情報ロメオ[R]を受信したことを告げて下さい)
チトセ・レーダー オールニッポン67 リービング 330 ディセンド 150
(千歳レーダー管制へ 全日空67便です 3万3000フィートから1万5000フィートに降下中です)
 全日空67便が千歳レーダー管制へ入ってきた。
オールニッポン67 チトセ・レーダー エクスペクト レーダー ベクター VOR/DME ファイナル 19レフト スタンバイ ベクター 40 マイル ナンバー2
(全日空67便へ VOR/DMEへレーダー誘導を予定しています。最終進入は滑走路19レフトです。まもなく40マイルの地点でレーダー誘導を始めます。着陸の順番は2番目です)
オールニッポン67 スタンディング バイ インフォメーション ロメオ」(待機します 空港情報ロメオ[R]を入手しています)
ラジャ」(了解しました)
 管制官が115便へ1万2000フィートまでの下降許可を出す。
エアシステム115 ディセンド アンド メインテイン 12000 29,98」(エアシステム115便へ1万2000フィートまで降下して下さい。気圧は29,98インチです)
12000 2998 エアシステム115」(1万2000フィートまで降下し気圧は29,98インチ、了解しまた)
アルト 12000」(1万2000フィートまで降下)
 森田機長が高度を1万2000フィートにセットした。そして、天気は良いし他の飛行機も少ないので、時間と燃料の節約のため、VOR/DME NO2の進入方法より、滑走路へのコースを最短距離で飛べる有視界進入で着陸しようと考えた。
 「どうしようかな… イフ アベラブル リクエスト ビジュアル アプローチって言ってみようか?」 (もし、可能ならビジュアルアプローチが出来るかどうか言ってみようかな)
言ってみましょうか…」と木村副操縦士。そのとき管制官がトラフィック・インフォメーションのために115便を呼んだ。
エアシステム115 ディパーチャー トラフィック 1 オクロック 20 マイル サウスバンド 11000」(エアシステム115便へ 1時の方向20マイル先を南に向かって離陸中の飛行機がいます 1万1000フィートです)
エアシステム115 ラジャ ルッキング アウト アンド イフ フィージブル リクエスト ビジュアル アプローチ 19レフト プリーズ」(了解しました 探します それと もし可能なら滑走路19レフトに有視界進入をしたいのですが?)
115 スタンバイ」(待機して下さい)
スタンディング バイ」(待機します)
 ここで再度確認するがVOR/DMENR2 RWY 19Lで進入着陸する場合、前述のように115便は航空路Y11(V11)で津軽海峡から進入するので、千歳VOR/DMEから23マイル地点の海上で右旋回して海岸にある鵡川(MUKAWA)VORへ。そして左旋回で北へ向かい滑走路の東側を飛び抜けてSHINE地点(千歳VOR/DMEから20マイル北)で向きを変え、左旋回して方位191度で機首を南にして滑走路19レフトに着陸する。しかし、もし、ビジュアルアプローチで19Lに着陸する場合は、千歳VOR/DMEから23マイルの海上地点から鵡川(MUKAWA)VORの北にある早来までダイレクトで飛行し、早来上空で左旋回し機首方向300度で空港へ向かい、空港トラフィック・パターンのダウンウインド・レグに入り、北側から左旋回後19レフトへ着陸する。だからVOR/DMENR2 RWY 19Lで進入着陸する場合に比べて飛行距離が短くなる。
エアシステム115 エクペクト ビジュアル アプローチ スタンバイ レーダー ベクター デュー トゥ トラフィック ディパーチャー トラフィック」(エアシステム115便へ まもなく有視界進入を開始しますが、離陸する飛行機がありますので、待機して下さい)
サンキュ ソウ マッチ エアシステム115
 有視界飛行進入を認めてくれたレーダー管制へ感謝をこめて木村副操縦士が返事をする。
スピード インターベーション」森田機長が速度を変えた。
ラジャ
早めに降ります」と森田機長。
 115便は現在、津軽海峡上空を下降中で、前方には苫小牧の海岸線が午後の光りの中で黄色い帯のように広がっている。
V‐NAV スピード」(ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
V‐NAV スピード」(ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
セット CDU ダイレクト ハヤキタ」(飛行情報を早来に直行に設定して下さい)
 早来は鵡川(MUKAWA)VORの北にあり千歳空港の東約11キロの地点で、ビジュアル・アプローチをする飛行機のゲートウェイになる場所である。
ラジャ」(了解)
スタンバイ ヘディング セレクト」(機首方向の設定は待機して下さい)
…え〜っと… これはどっちでもいいんだ… ダイレクト ハヤキタ モデファイ
ちょっと、モデファイ待って下さい
はい、了解」と木村副操縦士。
あと、早来を170ノット、3000」 森田機長は早来上空を高度3000フィート、170ノットの速度で通過する設定にした。
エアシステム115 フライ ヘディング 090 メインテイン 12000 ベクター ハヤキタ
(エアシステム115便へ 機首を090度に向けて、1万2000フィートまで下降して下さい。早来へレーダー誘導します)
090 12000 エアシステム115」 と木村副操縦士が交信を返す。・
セット CDU」(飛行情報を設定して下さい)
ラジャ」(了解)
 115便はゆっくりと右に旋回し機首方向が090度になった。
エアシステム115 ディセンド アンド メインテイン 4000」(エアシステム115便へ 引続き4000フィートまで降下して下さい)
4000 エアシステム115」(了解しました)
4000」(4000フィートで設定)
じゃあ 早来 もう入れていいですか?」と木村副操縦士が尋ねた。
はい、いいです
モデファイ」(変更します)
イクスキュート」(実行して下さい)森田機長が指示を出した。
イクスキュート」(実行します)と木村副操縦士。115便は早来に向けて下降を始めた。
オールニッポン67 ディセンド アンド メインテイン 12000 ベクター ハヤキタ ビジュアル ナンバー2」(全日空67便へ 1万2000フィートまで降下して下さい 早来までレーダー誘導します 有視界進入の2番目です)

 管制官が全日空67便をエアシステム115便に続いて有視界進入を指示した。
12000 オールニッポン67 ビジュアル アプローチ」(了解しました)
セット CDU」(飛行情報を設定して下さい)森田機長が指示を出す。
ラジャ ビジュアル 19レフト… 一応 モデファイ」(了解しました 有視界飛行の19L… 変更して宜しいですか)
イクスキュート」(実行して下さい)
イクスキュート あと揃えますから…」(実行します)
CHEを消して、あとシートベルト オン
はい、シートベルト オン」客室のシートベルトがONになった。機長がキャビンへ着陸準備開始の合図を送る。客席ではキャビン・クルーが乗客に「椅子の背を戻し、ご使用のテーブルを元の位置までお戻しください」とアナウンスを始めた。
トランジション 29,98」(気圧高度計を29.98インチにセットして下さい)高度が1万フィートになった。気圧高度計を地上の気圧に設定する。
トランジション 29,98」(了解しました)
オールニッポン67 フライ ヘディング 070 ディセンド アンド メインテイン 5000 ベクター ハヤキタ」(全日空67便へ 機首を070度に向けて5000フィートまで降下して下さい 早来までレーダー誘導します)
ヘディング 070 ディセンド アンド メインテイン 5000 オールニッポン67」(全日空67便。了解しました)
 管制官が115便と67便を並べて下降させる。そして115便を千歳空港の進入管制ヘ移管させる交信をした。
エアシステム115 コンタクト レーダー 119.1」(エアシステム115便へ 以後は千歳進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
119.1 エアシステム115」(了解しました)
モデイフィケーション コンプリーテッド」(飛行情報の変更は完了しました)
 木村副操縦士が着陸の為の飛行情報をコンピューターヘすべて設定した旨報告する。
サンキュ」と森田機長。
オールニッポン67 コンタクト レーダー 119.1」(全日空67便へ 以後は千歳進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
119.1 オールニッポン67」(了解しました)

 エアシステム115便と全日空67便が共に千歳レーダー管制への移管が完了した。木村副操縦士が無線の周波数を119,1に切り替えて千歳進入管制を呼んだ。
チトセ・レーダー エアシステム115 リービング 10900 ヘディング 090」(千歳進入管制へ 現在1万900フィート通過。機首090度です)
エアシステム115 ラジャ ターン レフト ヘディング 040」(了解しました 機首を040度へ左旋回します)
ソーリー セイ アゲイン ヘディング? 040?」(すみません 機首を040度で宜しいですか?)
115 アファーマティブ ヘディング 040」(その通りです)
ラジャ 040 エアシステム115」(了解しました)
レフト クリア」(左側、障害物なし)森田機長が旋回する左外を確認する。
ラジャ」(了解しました)777はゆっくり左旋回を始めた。まもなく津軽海峡から鵡川の西上空ヘさしかかる。海岸線が間近になり、右手に鵡川の街が見える。
チトセ・レーダー オールニッポン67 リービング 193 ディセンド アンド メインテイン 5000 ターン ライト ヘディング 070」(千歳進入管制へ 全日空67便です 現在1万9300フィートで5000フィートまで下降し、機首を070度に右旋回をしています。)
オールニッポン67 ラジャ メインテイン 5000」(了解しました 5000フィートまで降下して下さい)
メインテイン 5000 オールニッポン67」(了解しました)
ランディング ライト オン」着陸ライトをつけました、と木村副操縦士が報告する。
ラジャ」(了解)
スピード インターベーション」と森田機長。
レフト クリア
エアシステム115 ターン レフト ヘディング 360 ディセンド アンド メインテイン 3000」(エアシステム115便へ 機首を360度に左旋回をし、3000フィートまで降下して下さい)
ラジャ」(了解)と森田機長。管制官が115便を早来へ誘導する。
360 3000 エアシステム115」(360度の3000フィート、了解しました)
レフト クリア 360 3000」(左側、障害物なし 360度の3000フィート)
ラジャ」(了解)と森田機長はトリプルセブンの機首を真北に向けた。
オールニッポン67 ディセンド アンド メインテイン 4000」(全日空67便へ 4000フィートまで降下して下さい)
ディセンド アンド メインテイン 4000」(了解しました)
 後続する全日空67便の交信を訊きながら、森田機長は最終進入の計器点検を命じた。
アプローチ・チェックリスト」(着陸進入の計器点検をして下さい)
リコール アンド ノート」 木村副操縦士がMFDに表示された点検項目を読み上げてゆく。
チェック
オートブレーキ 1
ランディング・データ」(着陸情報)
セット」(入力済み)
アルティメーター」(気圧高度計)
2998 セット」(2998インチで入力済み)
アプローチ・チェックリスト コンプリーテッド」木村副操縦士が着陸進入の計器点検完了を報告した。
ラジャ 一応ビジュアルアプローチね ダウンウインド 1100で入りますから

 森田機長がビジュアルアプローチの進入方式を確認した。このまま早来に向かい早来上空を3000フィートで通過、そして機首方向を300度にして空港に向かいトラフィック・パターンの東側経路、ダウンウインド・レグに入る。その高度が1100フィートである。
はい」と木村副操縦士が確認する。
早来を3000フィートね」森田機長が早来上空を3000フィートで通過することを念を押して言った。そのとき115便をレーダー誘導している管制官からの交信がはいった。
エアシステム115 ポジション 20 マイル サウス サウス イースト エアポート リポート エアポート インサイト」(エアシステム115便へ 現在位置は空港の南南東20マイルです。空港を視認できましたら、報告して下さい)
スタンバイ」(視認するまで待ってもらって下さい)
エアシステム115 スタンバイ」クルーは窓から空港を探した。眼下には厚真川と安平川が流れその左手を根室本線が走っている。正面下は丘陵地帯で左に早来の町は見えるが空港は見えない。全日空67便が鵡川の上空に達した交信が聞こえる。
オールニッポン67 ターン レフト ヘディング 360」(全日空67便へ 機首を360度に左旋回して下さい)
レフト ヘディング 260 オールニッポン67」(了解しました)
早来はインサイト」(早来を視認した) と森田機長。
ラジャ
スタンバイ エアポート」(空港はまだ見えないな)

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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音声で味わう羽田空港の変遷

私にとっての羽田空港は、非日常でした。1976年生まれなのでもっと非日常だったのは開港したばかりの成田空港なのですが、それでも羽田空港は特別でしたね。国内線はもちろん、なによりその非日常感を増幅させるのは、羽田空港へ向かうまでの道のりです。家から羽田空港までは30kmない距離にあります。
私の家のある千葉県市川市は、東京ディズニーランドで有名になった浦安と江戸川区、葛飾区と隣接していて、羽田空港へ行くには、湾岸高速道路という東京湾沿いの高速道路を使用していました(いまは、わたしは違う道を通るのですが)。そこから羽田方面にのぼっていくと、いまは「お台場」と呼ばれるようになったあたりだとか、有明のあたりだとか、大阪でいうところの南港、開発が凄いスピードで行われていた一帯を抜けるんです。

有明コロシアムだとか、いま見ると別段なんの変哲もないのですが、そのあたり一体はまるで近未来都市だったのです。そのころはまだまだ建設中のものが多かったけれど、まぁ、子供スケールですから、その建物ひとつの大きさにも、新都市のように形成された規模に圧倒されました。それも、屋根だとか外壁だとか、タイルじゃなくってスチールの輝きを放っているのです。いまじゃそういったアルミっぽい外壁だとか当たり前なんですけど、あの湾岸エリアに行かないと見れない景色でした。それに青島都知事時代に開発が止まってしまいましたが、「ここで万博が開かれる!」というのもその近未来さに一役買っていました。なにしろ、10歳頃のあたりは筑波万博で散々近未来チックな空間に頭がやられていましたから。

そしてメタル感漂う有明・お台場エリアを抜けた頃、東京湾にくぐされた海中地下トンネルとやらの、それこそ子供が思い描く近未来都市の象徴のようなトンネルを抜けるわけです。いま通ってもなんの変哲もない地下トンネルです…。ところが子供の頃はこれがハヤカワ文庫の世界でして…。「海中地下トンネル」「海底地下トンネル」、この名前の響きだけで完全にノックアウトなんです、子供は。ともかく近未来なわけですよ。
ちょうどその道すがらには、国鉄時代の英雄・新幹線の停車場があるんです。なんという場所か分かりませんが、新幹線が何台も何台もたくさん止まっているのです。またその規模も大きくてですね…、「うわぁーーー!」ってなるんです。

車での話になりましたが、電車で行っても同じです。浜松町で乗り換えてモノレールに乗る。
この空中を走る電車は、近未来の何ものでもないと思う! 時おり、海の上を走行してるんじゃないか、って気分になるし、ビルとビルの間をすり抜ける感じもあるし…。とにかく子供ですから「現代」という感覚は備わってないんですね、まだ。「近未来」って感覚もないですけど。見てる世界が「うわぁーーー!」の連続なのです。いま乗っても、何の変哲もない乗り物なんですが(笑)。

湾岸道路自体新しい高速道路でした。道が混んでいるときは、箱崎ジャンクション経由になります。そうすると、羽田空港に近づくにつれて倉庫街になってゆきます。「世界は一家 人類みな兄弟」という故・笹川良一氏の直筆(?)看板が目にはいりる。あのテレビCMでよく見るおじさんと猿の「人類みな兄弟」に「世界は一家」という一文があることをが発見でしたが、それが目印で、やがて待ってるのは空港。

車では、20〜30分、電車で50分。この3つのルート(京急で羽田に行くことはありませんでした)、いずれもテンションがMAXに上がった状態で空港に近づき始めると目に入るのがいつもより大きく見える飛行機たちです。それも、頻繁に!
よく見るとしっぽ(尾翼)の形やエンジンの数がちがう! 何機見たか数えきれないほどいろんな角度で飛行機が見える!

そんな体験も相まって、数ある乗り物のなかでも飛行機が抜群にスキなのです。
いまなにをみても、「何の変哲もないんだけど」でしかありません。通ってもその景色に驚くのではなく、昔の胸の高鳴りをかすかに思い起こす程度です。でもこれが、かすかではあるんですが、別の興奮が心臓をくすぐるんですねぇ〜。

ところで私がブログを始めて2ヶ月ほど経った頃、紹介した本の著者さんが突然コメントをくださいました。
2ヶ月の間、一度もコメントがついたことはなかったのに、はじめてのコメントが本の著者さんです。それも、その本に対して生意気なことを書いていたのにも関わらず…。
ここでは、その方が武田一男さんだったというのは何度か紹介しておりますので、詳細は省きますが、いま思い返しても赤面です…。

そして今回はその武田一男さんが提供してくださった羽田空港の音を紹介いたします。
いつの時代の音声なのでしょう? チャイム音、出発機、ちょっと考えながら聞いてみるのもいいですね。

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羽田空港 出発ロビーアナウンス

羽田空港 到着ロビーアナウンス

羽田空港 国際線ロビーアナウンス

2008年6月5日に更新した記事に、武田さんのコメントを掲載しました。
それを抜粋いたしますので、読みながら、そして聞きながら時代の変遷を感じてみてください!

 ブログを拝見していると羽田空港がお好きなんですね。僕も羽田にはいろいろな想い出があります。

 古い話をひとつ。たぶん、あなたがお生まれになる前か、幼少の頃と思いますが、その頃の羽田空港国際線ロビーは華やかでした。福岡へ帰る母を送って空港へ行くたびに国際線ロビーに立ち寄ってその華やかさを羨望の想いで眺めていたものです。

 当時は一部の人達だけが海外へ行ける時代で一般人には海外旅行なんてほど遠い存在でしたから、国際線ロビーには美しく着飾った送迎の人並みであふれ、それらの人達が広いロビーにいくつもの輪を作って、その中心に花束を抱いた旅行者がまるで新婚旅行に旅発つ新夫婦のように希望に満ちあふれた満面の笑顔をみせて立っていました。その様子は一流ホテルの結婚披露宴のロビーをそのまま羽田空港に移したかのようでした。

 やがてロビーにチャイムが流れます。「パンアメリカン航空、香港経由、世界一周便にご搭乗のお客様は出国手続きをお済ませの上、5番ゲートにお進み下さい」。それを聴くと周囲から一斉に起こる万歳の声・・・。それを眺めながら、俺もいつかきっと飛行機で外国に行ってやるぞ、とハングリーな気持ちを燃やしたものです。

 国際線ロビーの帰りに屋上の送迎デッキによく立ち寄りました。昔は送迎デッキでは独特のアナウンスがあったのです。ランディングライトを照らしてDC- 8が着陸します。「ただいま日本航空1便がサンフランシスコから到着いたしました。お客様は8番ゲートからお出になります」。そのアナウンスにどんなに旅情を感じたことか…。その頃僕は学校を卒業してレコード会社に勤め駆け出しの音楽ディレクターをしていたので、ある日、ステラボックス(磁気テープのレコーダー)を国際線ロビーと送迎デッキに持ち込み、それらのアナウンスを録音して時々再生してはハングリー精神を燃やしていました。

 それから10年近く経って、羽田空港が開港50年を迎え、その記念式典の招待客にプレゼントする記念品用のレコードを作ることになり、そのディレクターを担当することになったのです。当初は音楽を中心にする企画でしたが、当時の空港長に10年前に僕が録音したアナウンスを聴いてもらい、レコードの内容を音楽にするより、羽田空港の航空音だけでまとめるプランを進言しました。そしてその案が通り、「羽田インターナショナルエアポート」というレコードが完成したのです。今、それを聴くと構成に稚拙さが残り赤面しますが、唯、作品に「勢い」がありました。演出する僕に思い入れがあったのですね。話は変わりますが、あなたがご指摘されたように僕の著作の中で「ラストフライト」は最も構成が悪い、そう僕も思います。でも、「機長席」や「台風飛行」に比べて勢いがあるとも僕は感じています。「ラストフライト」は他の作品より僕の思い入れが強いからでしょうね。飛行機を録音し始めて40年近くになりますが、その間にはいろんなエピソードがありました。それらをもし差し支えなかったら、今後もとはどき、あなたのブログに寄稿させて下さい。このブログが僕ら飛行機大好きの人間の中で「楽しめるもの」にぜひなって欲しいとおもいますから。

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機長席第9回 札幌コントロール北海道南セクター

札幌コントロール北海道南セクター

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▼千歳空港進入図千歳空港進入図

▼東北・北海道南航空地図東北・北海道南航空地図

サッポロ・コントロール エアシステム115 フライト レベル 410」(札幌コントロール管制へ エアシステム115便です 4万1000フィートで飛行中です)
エアシステム115 サッポロ・コントロール ラジャ」(了解しました)
 この交信で115便は札幌コントロール、北海道南セクターに引き継がれたのだ。
 眼下に下北半島。その向こうには津軽海峡から北海道南岸までが見渡せる。
じゃあ、ディセンド プリパレーション」森田機長が木村副操縦士に下降前の打ち合わせを指示した。
フラップ30、オートブレーキは1」(着陸時の下げ翼は30度、オートブレーキは1にセット)
1、2、3… ノーリコール」 木村副操縦士がコックピット中央ペデステルにある液晶デスプレイMFDに表示される下降前の点検リストの項目を見ながら確認していった。。
ラジャ」と森田機長が再確認する。
コミュニケーション」 木村副操縦士はMFDに表示された次ぎの項目、コミュニケーション(打ち合わせ)に進んだ。ディスプレイには新千歳空港の着陸情報が表示されている。
チェック コミュニケーション
千歳アプローチ インフォ(メーション)」 (新千歳空港の着陸情報です)
はい、ゴーアヘッド」と森田機長。
 木村副操縦士が着陸情報を読み上げた。
デュアリング ディセンド オールモースト スムース エア ビロー 6000 ライト チョッピ 19レフト ファイナル ラフ エア ナウ サースフェイスウインドが19レフト 160度から11 ザッツオールです 6000以下でちょっと揺れがあるみたいですね はい、キャンセル メッセージ」(おおよそ千歳進入はスムースな天候です 6000フィート以下で少し気流の乱れがあります 滑走路19Lは160度から11ノットです)
ラジャ」と森田機長が微笑む。そのとき全日空67便が札幌コントロール北海道南セクターに入ってきた。
サッポロ・コントロール オールニッポン67 フライト レベル 410」(札幌コントロール管制へ 全日空67便です 4万1000フィートに到達しました)
オールニッポン67 サッポロ・コントロール ラジャ」(了解しました)
はい、キャンセル メッセージ」 ディスプレイの着陸情報の項目が消えて次ぎの項目が表れた。
ノーリコール ノンノートで
ラジャ
 木村副操縦士がディスプレイの項目、新千歳空港のノータムを読み上げた。
スポット16番の予定 ノータム、19レフトはブラボー4、6、8がクローズです ですから、ブラボー9、もしくはブラボー10をセレクト願います あとアルファ9もクローズですので 他は大きなノータムはありませんので」 そして木村副操縦士は言った。 
マイサイド ディセンド プリパレーション コンプリーテッド」 (右席の下降前のプリパレーションチェックは完了しました)
ユー ハブ コントロール」それを確認して森田機長は操縦を交代する指示を出した。
アイ ハブ コントロール
オールニッポン276 コンタクト サッポロ・コントロール133.3」(全日空276便へ 以後は札幌コントロール管制133.3メガヘルツに連絡して下さい) 
札幌を15時25分に出発した全日空276便福岡行き767-200が移管した。
133.3 オールニッポン276 グッディ」(133.3メガヘルツに連絡します さよなら)
グッディ」(さよなら)
ナンバー1 VORを千歳VOR マニュアル チューン…」森田機長がVOR1を千歳VOR116.9にセットする。
ラジャ
 管制官が羽田から旭川に向かっている全日空869便767-200を移管させる。
オールニッポン869 コンタクト サッポロ・コントロール 127.5」(全日空869便へ 以後は札幌コントロール管制127.5メガヘルツに連絡して下さい)
オールニッポン869 127.5」(127.5メガヘルツに連絡します)
 森田機長が着陸の打ち合わせを始めた。
じゃあ、ランディング・ブリーフィング、シップ・コンディションOK、ノータム了解しました
はい」と木村副操縦士が確認する。
降りたら一応、(誘導路は)ブラボー9を予定しています タクシーダウンでアルファ10、指示があればブラボー10 あとは特に支障あるものノータムもなし
了解しました
ウエザーですけども、アプローチはVOR/DMEのNO2 19レフト 170度11ノット 若干左から、ほぼヘッドに近い風ですね 天気良好 11度マイナス0度 2998 イクセプト レーダーベクター VOR/DME NO2 ILS 最後ファイナルはL-NAVでいきます あと2000フィートからの降下 フライパス アングルで降りますから 2000から一応11.5マイルを予定しています、降下開始 天気良好ですから、ランウェイ インサイトで、MCPアルトはゴーアラウンドアルトでセットします アイ コール ゴーアラウンド フラップで、ポジティブ・クライムでギアアップ 鵡川に5000フィート上昇、早めにコンタクトして下さい、レーダーベクター最後に受けます、ファイナルコース 191度、途中コンストレインありますけども問題ありません、MDAが620ね、スポット メイビー 16番、ランディン
グ・ブリーフィングはザッツオールです

 今日は視界良好なので精密着陸(ILS)は使用しないで、非精密進入(VOR/DME)の着陸になる。羽田でのブリーフィングで予想されていた35ノットの突風も今は吹いていない。
 今日の千歳空港への進入方法はVOR/DME NO2方式。ということは、羽田離陸のところでもふれたが、空港の離陸、着陸にはその空港によって種々な飛行方式が設定されている。この時間の空港情報(ATIS)によれば千歳空港への進入には、VOR/DME NO2方式で進入しなければならないのである。
 千歳空港の進入図でもわかるように、滑走路は北から南に向いて並行して2本(ライトとレフト)ならんでいる。南から着陸する場合が01(のRとL)。北から着陸する場合が19(のRとL)の滑走路となる。
 115便は海側から(南から)進入するので、滑走路01Rであればそのままストレートに進入出来るが、今日は風が南から吹いているので陸側に回り込んで北側から進入しなければならない(飛行機の着陸は風に正対する)。
 航空路V11から進入する場合、千歳VOR/DMEから23マイル地点(CHEDー23)の津軽海峡上空で右旋回して苫小牧の東にある鵡川(MUKAWA)VORへ。そして左旋回で北へ向かい滑走路の東側を飛び抜けてSHINE地点(千歳VOR/DMEから20マイル北)で向きを変え、左旋回して方位191度で機首を南にして滑走路19レフトに着陸するのである。
 そのあとブリーフィングは万一着陸出来ない場合のゴーアラウンドを想定した回避方法を話し合って終わった。

コミュニケーション
チェック コミュニケーション
スポット 16番 ネクスト 114便」 森田機長は今日のスポットを確認し帰りの羽田へのフライトは114便となることを告げた。
はい
キャンセル メッセージ
キャンセル メッセージ」 木村副操縦士がMFDに表示された項目を消した。 
 札幌コントロールから降下の許可が出た。
エアシステム115 ディセンド フォロー ディスクリーション メインテイン フライト レベル 150」(エアシステム115便へ 貴機の判断で1万5000フィートまで降下して下さい)
エアシステム115 クリア 150 スタンバイ リービング 410」(了解しました 降下の準備をします)
アット 150」木村副操縦士が下降許可がでた高度15000フィートを確認する。そして森田機長が操縦を担当することを告げた。
アイ ハブ コントロール
ユー ハブ コントロール」 
札幌コントロール北海道南セクターの管制官が千歳を離陸して関西空港へ向かうエアシステム706便MD90を札幌コントロール三沢西セクターへ移管させた。
エアシステム706 コンタクト サッポロ・コントロール 133.3」(エアシステム706便へ 以後は札幌コントロール管制133.3メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム706 コンタクト 133.3 サンキュ」(133.3メガヘルツに連絡します)
アイドル
アイドル
 降下地点になった。津軽海峡にあるウェイポイントNAVERを過ぎて2マイル地点でEICASデ
ィスプレイに表示されているエンジン出力がアイドルに変わり、115便は自動的に下降を始めた。
 降下するとき機長がエンジンを絞るような動作はない。RーNAV経路の降下予定地点で、オートスロットルが自動的にエンジンをアイドル位置まで絞り777は下降を始める。 
ホールド
ホールド
エアシステム115 リービング 410」(降下を開始しました)木村副操縦士が管制官に知らせる。
エアシステム115 ラジャ」(了解しました)
 管制官は115便につづている全日空67便747にも下降の許可を与えた。
オールニッポン67 ディセンド パイロット ディスクリーション メインテイン フライト レベル 150」(全日空67便へ パイロットの判断で1万5000フィートまで降下して下さい)
オールニッポン67 ディセンド 150 スタンバイ リービング」(降下の準備をします)
オールニッポン363 ディセンド パイロット ディスクリーション メインテイン フライト レベル 270」(全日空363便へ パイロットの判断で2万7000フィートまで降下して下さい)
ディセンド 270 ナウ リービング 330 オールニッポン363」(現在、3万3000フィートです 2万7000フィートまで降下します)
オールニッポン363 ラジャ」(了解しました)
 そして管制官は福島空港発札幌行き全日空363便767-300ヘ下降の許可を出した。これでエアシステム115便、全日空67便、全日空363便が列をなして千歳空港へ向かって下降を始めた。ちなみに、各便の札幌到着予定時間は次ぎの通りである。

 エアシステム115便が16時30分。全日空67便も16時30分。
 全日空363便が16時45分。仙台発札幌行き全日空727便も16時45分。
 つづいて管制官は全日空727便767-300の速度を調節する。
オールニッポン727 ディパート メインテイン スピード 290 ノット」(全日空727便へ 290ノットで飛行して下さい)
メインテイン 290 オールニッポン727」(了解しました。290ノットを維持します)
ウエザー チェック」天候を確認します、と木村副操縦士がACARSで札幌の最新ウエザーを取り始めた。
オールニッポン363 アフター パッシング フライト レベル 290 リデュース メインテイン スピード 280 ノット フォア スペーシング」(全日空363便へ 2万9000フィートを通過したら、間隔を取る為に280ノットで飛行して下さい)
 管制官は福島空港発札幌行き全日空363便767-300の飛行速度を調節する。
オールニッポン363 リービング フライト レベル 290 アンド リデュース スピード 280 ノット」(了解しました)
(現在)どのくらいで降下してるんですか?降下率、1分間に…」という質問に木村副操縦士が答えてくれた。
降下率、ここに出てきてますね(と計器を指さして) 今、(1分間)3,500(フィート)ぐらいでしょうか
 全日空67便も下降開始をしたことを管制官に告げた。
サッポロ・コントロール リービング 410 トゥ 150」(札幌コントロール管制へ 1万5000フィートに降下します)
オールニッポン67 ラジャ」(了解しました) 
 エアシステム82便秋田発16時50分札幌着予定のMD87が札幌コントロールに入ってきた。
サッポロ・コントロール エアシステム082 210」(札幌コントロール管制へ エアシステム82便です 2万1000フィートで飛行しています)
エアシステム082 サッポロ・コントロール ラジャ」(了解しました)
 このとき115便が少し揺れ始めた。
これがトロポかな…」と森田機長。成層圏から対流圏に入った、と予測する。
そうですね、クロス・セクション・チャートでは、3万前後になってますけども…」 
羽田離陸時にも少しふれたが、777はFMSコンピューターが緯度、経度を計算して自動的に飛行するようになっている。平面方向に飛行するナビゲーションをLーNAV(ラテラル・ナビゲーション)という。平面(ラテラル)に対して上下(ヴァーチカル)、すなはち降下や上昇のように上下方向をコンピューターに計算させて自動フライトすることをVーNAV(ヴァーチカル・ナビゲーション)と呼ぶ。777を含めて第四世代からのジェット旅客機は、上下、平面の飛行をすべてコンピューターが計算した自動操縦が主流となった。オートパイロットシステムは方向舵、エルロンなど操縦装置を自在に操り、オートスロットル(自動車でいえばアクセル)はエンジン出力を必要に応じて絞ったり、開いたりする。
 777は飛行機というより一種の宇宙船である。と考えると納得がいく。
 115便は一分間に3500フィートのレイトで高度1万5000フィートへと下降を続けた。そして札幌コントロール北海道南セクターから千歳空港進入管制へと引き継がれた。
エアシステム115 コンタクト チトセ・レーダー 120.1」(エアシステム115便へ 以後は千歳レーダー進入管制120.1メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム115 120.1」(了解しました)

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第8回 成層圏飛行

東京コントロール東北セクターから札幌コントロール三沢西セクターへ

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▼東北空路地図
東北空路地図

▼ナビゲーションログ
ナビゲーションログ

トーキョー・コントロール オールニッポン67 レベル 370」(東京コントロール管制へ 全日空67便です 高度3万7000フィートです)
オールニッポン67 トーキョー・コントロール ラジャ」(了解しました)
 エアシステム115便のすぐあと離陸した全日空67便札幌行き747が高度37000フィートに上がってきた。115便は67便の4000フィート上を飛行している。
トロポポーズの上、今、成層圏ですよ
 4万1000フィートまで上昇すると、空の色が一変する。
 青空色は紺色になり上空は黒に近い紺色となる。まるで宇宙の入り口を見ている感じがして5000フィート違うと空がこんなに変わるものかと驚く。この高度では真昼に星さえ見えるのだ。
 ルネッサンスの頃、レオナルド・ダ・ビンチも飛行機を想案したように人は昔から空を飛ぶことにロマンを感じている。日頃空を飛び慣れたパイロットにとっても、とくに高高度の空を飛行するのはロマンなのであろう。 
 管制官が115便に先行する旭川行き全日空869便767を札幌コントロールへ移管させた。
オールニッポン869 コンタクト トーキョー… コレクション サッポロ・コントロール 133.3」(全日空869便へ 以後は東京…、訂正します。札幌コントロール管制133.3メガヘルツに連絡して下さい)
オールニッポン869 サッポロ 133.3」(札幌コントロール管制133.3メガヘルツに連絡します)
スピード V‐NAV パス
スピード V‐NAV パス
 エアシステム115便は宮城県と山形県の県境沿いに北上しまもなく蔵王上空にさしかかる。そのあと山形県天童市の東にあるウェイポイントKAEDEに向かう。午後の黄色味をおびた光りがコックピットの窓いっぱいに射し込んで暖かい。
そこが蔵王です その山が…、仙台があの辺で…、あと佐渡島が見えますし…
 左下に緑の森を抱いた蔵王の山々が連なり始めた。ひときわ高い山が屏風岳だ。右手には太平洋が見え、少しもやがかかった海はベールを透かして淡い青色に広がっている。海岸線の左には仙台の町並みが広がり、そして首を左に振れば新潟県の佐渡島まで遠望できる。4万1000フィートでのコックピットからの展望は日本列島を挟んだ太平洋と日本海が一望できるというまさに信じられないような一大パノラマだ。この景色だけはパイロットしか見ることができないのだ。
エアドゥ14 コンタクト トーキョー・コントロール 124.1」(エアドゥ14便へ 以後は東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡して下さい)
124.1 エアドゥ14」(東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡します)
 札幌発羽田空港行きのエア・ドゥ14便767-300が札幌コントロールから東京コントロール北セクターへ移管した。そして115便の下を飛行していたJA8846が仙台空港進入管制へ受け継がれる。
ジュリエット アルファ 8846 コンタクト センダイ・アプローチ 120.4」(JA8846へ 以後は仙台アプローチ管制120.4メガヘルツに連絡して下さい)
8846 コンタクト センダイ・アプローチ 120.4 グッディ」(仙台アプローチ管制120.4メガヘルツに連絡します さよなら)
グッディ」(さよなら)
ちょうど、強風軸の上あたりですね 方向がゴロっと変わった」300度方向から吹いていた風が急に西へまわった。これでヘッドウインドではなくなるので飛行が楽になる。
ちょうど今、山形盆地、山形、右が仙台、ちょうど海岸の近くに黒い線がピューって見えません?仙台…」 木村副操縦士がパノラマの説明してくれる。
トーキョー・コントロール オールニッポン861 メインテイン 210 プロシード ヤマガタ」(東京コントロール管制へ 全日空861便です 2万1000フィートで山形に向かっています)
オールニッポン861 トーキョー・コントロール ラジャ」(了解しました)
 函館へ向かうルートはここで分かれる。札幌へ向かう115便はそのままY11で東北VOR(MWE)に向かうが、函館へは山形VOR(YTE)へ機首を転ずる。
オールニッポン743 コンタクト サッポロ・コントロール 124.5」(全日空743便へ 以後は札幌コントロール管制124.5メガヘルツに連絡して下さい)
オールニッポン743 コンタクト サッポロ・コントロール 124.5」(札幌コントロール管制124.5メガヘルツに連絡します)
 115便より先行し釧路へ向かう全日空743便が札幌コントロールへ移った。
コリアンエア206 レーダー コンタクト アプローチング アスター」(大韓航空206便へ レーダーで捕捉しています アスターに進入して下さい)
サンキュ コリアンエア206
 大韓航空といえば過去、大韓航空007便747がアラスカのアンカレッジを離陸して北太平洋ルートでソウルまで飛行する途中、ソビエト圏に迷い込み撃墜されるという悲惨な事故を思い出す。
 その原因はパイロットがイナーシャー・ナビゲーション・コンピューター(INS)にインサートする緯度、経度の数字を間違えたために、知らず知らずの内に飛行機がソビエト領空に入りこみ、結果、撃墜されたという原因説明をするひともいる。
 大韓航空の場合は、アンカレッジからソウルまでの通過地点はすくなくとも20ポジションはあったであろう。たしかにその間に挿入にミスがなかったとは誰も言えない。
 777にかぎらず、第四世代の旅客機のナビゲーションコンピューター(FMS)は改良されパイロットがインサートするという作業を省き、コンピューターソフトに通過予定の緯度、経度を最初から記憶させて、出発地/目的地ごとに呼び出せばその飛行ル-トがすぐに出てくる仕組になっている。しかも、777のFMSは衛星と地上の航行支援標識から送られる電波により、僅かな狂いも修正しながら飛行しているので正確な飛行が可能となったのだ。もし、大韓航空007機に現在の777が持つナビゲーション・コンピューターが搭載されていたならば、間違ってソビエトの空に入り込むことはなかったろうと残念に思われる。

エンルート リポートしておきます
 操縦を木村副操縦士と交代して、森田機長は羽田のエアシステム運航部ディスパッチ・ルームにエンルートの報告を始めた。
 これは4万1000フィートで飛行している現在の気流や風、外気温などをデーターなどをACARSでアップロードしてエアシステム運航部に知らせるのである。この気象データー等はこれから運航、すなはちY11の飛行を予定しているエアシステム便が、飛行前のブリーフィングをする際の資料のひとつになるのだ。
 ACARSは「エアクラフト コミュニケーション アドレッシング アンド レポ-ティング システム」という長い名前のコミュニケーション・コンピューターで、略してエーカーズと呼ばれている。目的地の空港の天気情報やノータム、エンルートの気象データーなどを即座に入手、かつ送信することが出来る装置である。このエーカーズのおかげで巡航中のカンパニーコールがなくなった。
 キャビン・クルーがコックピットに副操縦士のコーヒーをひとつ持って入ってきた。
(機内)サービスは終了しました
はい、お疲れさま
飲み物を何か?」と森田機長に尋ねる。
ちょっと待ってね。…僕もコーヒー、じゃあブラックで…はい
 飛行機の中は乾燥しているのでこまめに水分を取らなければ、と木村副操縦士がコーヒーをおいしそうに飲んだ。
月山ですね…」115便はウェイポイントKAEDEを過ぎた。左下に東北地方の代表的な山のひとつ出羽三山で有名な月山(1984メートル)が見える。このあと115便は宮城県に入って平泉の北西にある栗駒山、そして花巻の西から岩手県上空に向かう。
ついでに千歳のウエザーを…」森田機長はACARSで札幌の天気データを取り始めた。
トーキョー・コントロール オールニッポン363 アプローチング フライト レベル 250 アサイン 330 スタンディング バイ アルチュード」(東京コントロール管制へ。全日空363便です。 高度2万5000フィートに向け上昇中です。そのまま高度3万3000フィートへ上昇しても宜しいですか?)
 福島空港を飛び立った15時25分発札幌行きの全日空363便767-300が管制エリアに入ってきた。
オールニッポン363 トーキョー・コントロール スタンバイ ハイ アルチュード ワン トラフィック 11 オクロック 20 マイル パラレル ゼン フライト レベル 260」(全日空363便へ 11時の方向20マイル先に同方向の飛行機がいるので、高度2万6000フィートを維持して下さい)
260 オールニッポン363」(了解しました)
 今度は三沢空港14時55分発羽田空港行きエアシステム226便A300が管制官を呼んだ。
トーキョー・コントロール エアシステム226 リクエスト フライト レベル 200 アベラブル」(東京コントロール管制へ エアシステム226便です 2万フィートで飛行したいのですが)
エアスシテム226 スタンバイ」(待機して下さい)
スタンディング バイ」(待機します)
 キャビンアテンダントがコックピットに入室して森田機長にコーヒーを渡した。
(コーヒー)ありがとう はい、サンキュ

 仙台空港15時35分発札幌行き全日空727便767-300が東京コントロールに入ってきた
トーキョー・コントロール オールニッポン727 グッドアフタヌーン リーチィング 9500 クライム アンド メインテイン 250 イフ アベラブル トゥ リクエスト トウホク VOR」(東京コントロール管制へ 全日空727便です 現在高度9500フィートです 2万5000フィートで東北VORに向かう飛行許可をもらえますか?)
オールニッポン727 トーキョー・コントロール スタンバイ」(待機して下さい)
 ここで森田機長が操縦を交代する。
アイ ハブ コントロール
ユー ハブ コントロール
オールニッポン727 クリア ダイレクト トウホク VOR レスト オブ ルート アンチェンジ 」(全日空727便へ 東北VORに直行して下さい。以後の飛行に変更はありません)
レスト オブ ルート アンチェンジ、 トウホク。 オールニッポン727 サンキュ ベリーマッチ」(ルート変更なし。東北VORに直行します ありがとう)
つづいて管制官は三沢空港発羽田空港行きエアシステム226便A300に下降の許可を出した。
エアシステム226 ディセンド アンド メインテイン フライト レベル 200」(エアシステム226便へ 高度2万フィートに降下して下さい)
エアシステム226 リービング 260 フォア 200 サンキュ」(2万6000フィートから2万フィートに降下します ありがとう)
 多分。エアシステム226便の機長は一旦、2万6000フィートへ上昇しながらも乱気流を避けて高度2万フィートで飛行することにしたのだろう。今日の東北の空は3万9000フィート以上か2万5000フィート以下の高度が気流が安定している。
 さきほど3万3000フィートへの上昇を要求していた福島空港発札幌行き全日空363767-300ヘ管制官が上昇の許可を与えた。
オールニッポン363 クライム アンド メインテイン フライト レベル 330」(全日空363便へ 高度3万3000フィートまで上昇して下さい)
クライム アンド メインテイン 330 オールニッポン363」(3万3000フィートに上昇します)
エアシステム226 コンタクト トーキョー・コントロール 124.1」(エアシステム226便へ 以後は東京コントロール124.1メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム226 124.1 サンキュ グッディ」(さよなら ありがとう)
 三沢空港発羽田空港行きエアシステム226便A300が管制エリアを離れ東京コントロール北セクターへ移管された。
ANAの67のボイスが、全然聞こえないですね」 管制官と他の飛行機との交信を聞き入っていた木村副操縦士が言った。
ふう〜ん…聞こえないね」と森田機長。
高度、いくつで来てるのかな?」木村副操縦士は羽田空港を115便のすぐあと離陸して同じ札幌ヘ向かう67便の存在がとても気になる様子である。
却って33、37の方が風が強いよね 向かい風が」森田機長も3万7000フィート前後で気流の悪いところを飛行しているであろう67便を気遣って言う。
そうですね、はい
トーキョー・コントロール アンクエア376 メインテイン フライト レベル 220」(東京コントロール管制へ エアーニッポン376便です 現在2万2000フィートです)
 旭川発14時55分仙台16時10分着予定のエアーニッポン376便737-500が管制エリアに入ってきた。
アンクエア376 トーキョー・コントロール ラジャ」(了解)
 つづいて3万7000フィートを飛行中の全日空67便が高度4万1000フィートへの上昇をリクエストする。
トーキョー オールニッポン67 リクエスト 410」(東京コントロール管制へ 全日空67便です 4万1000フィートの飛行許可をもらえますか?)
オールニッポン67 スタンバイ」(待機して下さい)
ラジャ スタンバイ」(了解 待機します)
41にリクエストしてましたね 67が…」 木村副操縦士がニャリと笑って言った。そのとき管制官が115便を呼んだ。東京コントロール東北セクターから札幌コントロール三沢西セクターへの移管交信である。
エアシステム115 コンタクト サッポロ・コントロール 133.3」(エアシステム115便へ 以後は札幌コントロール管制133.3メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム115 133.3」(了解しました)
オールニッポン67…
あっ…67だ」と森田機長。そこで周波数が札幌コントロール133.3に変わり115便は岩手県に入った。現在、花巻市の東を通過して岩手山の西にあるウェイポイントPEONY上空である。このあと、八幡平の西、十和田湖の東を飛び東北VORがある青森県の野辺地に向かう。眼下には美しい東北の緑が広がっている。

 木村副操縦士が札幌コントロールを呼んだ。
サッポロ・コントロール エアシステム115 フライト レベル 410」(札幌コントロール管制へ エアシステム115便です 4万1000フィートを飛行中です)
エアシステム115 サッポロ・コントロール ラジャ」(了解しました)
ジャパンエア595 サンクス オペレーション パイロット ディスクリーション メインテイン 11000」(日本航空595便へ。ご苦労様です。パイロットの判断で1万1000フィートまで降下して下さい)
 福岡空港を14時15分に出発し函館着予定16時20分の日本航空595便767に管制官が下降の許可を出した。福岡からの長いフライトを管制官が心づくしに労うのが微笑ましい。
パイロット ディスクリーション 11000 595」(了解しました 1万1000フィートまで降下します)と言葉を残して日本航空595便は下降に移った。
アビュー71 メインテイン フライト レベル 150 コンタクト ミサワ・レーダー 317.8
(1万5000フィートで、以後は三沢レーダー管制317.8メガヘルツに連絡して下さい)
アビュー71 フライト レベル 150 コンタクト ミサワ・レーダー 317.8 グッディ」(了解しました さよなら)
グッディ」(さよなら) 
 三沢基地に降りる自衛隊機と思われる航空機が管制区を離れた。 
後ろから上がって来ましたね」木村副操縦士がレーダー画面を見ながら言った。115便のナビゲーションデスプレイに、全日空67便の機影が約20マイル後方に現れたのだ。航路上での同高度の車間距離ならぬ機間距離は20マイル以上と定められている。
ふう〜ん…これが後ろから上がった全日空のジャンボなんですけど、向こうも4万1000フィート要求してましたから 下が、ちょっとコトコト揺れたと思うんですけどね 同じ高度で同じ方向だと、20マイル セパレーションがいるんですよ 今、23、4マイルありますから、同じ高度が貰えたんですけども」と森田機長が説明する。今日のエアシステムクルーはとても全日空67便に思いやりがある。

 名古屋15時発札幌16時35分到着予定の日本航空857便737-400が管制区に入ってきた。
サッポロ・コントロール ジャパンエア857 フライト レベル 250」(札幌コントロール管制へ 日本航空857便です 2万5000フィートを飛行中です)
ジャパンエア857 サッポロ・コントロール ラジャ」(了解しました)
 今度は関西空港14時50分発函館到着予定16時30分の全日空425便767-300が管制区に入ってきた。高度4万1000フィートには、エアシステム115便-全日空67便-全日空425便と続いている。
サッポロ・コントロール オールニッポン425 レベル 410」(札幌コントロール管制へ 全日空425便です 4万1000フィートを飛行中です)
オールニッポン425 サッポロ・コントロール ラジャ」(了解しました)
ジャパンエア857 ハイ アルチュード レーダー アベラブル オン リクエスト」(日本航空857便へ 高高度に上昇することができますが、如何ですか?)
リクエスト 250 オール ザ ウェイ ジャパンエア857 サンキュ」(このまま2万5000フィートで飛行します ありがとうございます)
ラジャ」(了解しました)
レーダーで映るとジャンボあたりだと映りますけど、小さくなると映んないですよね、レーダーじゃ…」 しかし777のレーダーは最新の改良が加えられている。たとえば、ボーイング747ー400などに装備されているレーダーは、アンテナの角度が一つなので機長サイドと副操縦士のサイドのディスプレイで同一画面しかみることができない。ところが、777は左右走査時にアンテナの角度が変えられるので、機長と副操縦士が別々の角度でレーダー画像をそれぞれのディスプレイに映しだすことが可能になった。 
 旅客機の場合、レーダーが有効に活用されるのは進行方向にある雲の状態を見る場合である。積乱雲や雷雲を事前に観察してパイロットたちは気流を知り揺れに対処する。
 777のレーダーは同じ積乱雲を写すにしても、前述のように角度を変えた別の映像が機長側と副操縦士側にディスプレイされるので、積乱雲をより立体的に観察することが可能でタービュランス(乱気流)の予測がより正確になったという。
 今、全日空67便が115便の後方に映っているように、777のナビゲーション・ディスプレイは360度方向を見ることが出来る。他の飛行機が映る範囲はおよそ40マイル前後という。余談だが管制のレーダーは約200マイルの範囲で映る。

 眼下には八甲田の山々と十和田湖が春霞を透して見えている。
16時3分から降下開始です。あと…4分ですか、そこのポイントまで111マイル
 まもなく東北VOR(MWE)上空を通過する。そして115便はこのまま下北半島の西海岸に沿って飛び、恐山の東にあるウェイポイント(CAPLY)から津軽海峡に出る。津軽海峡の洋上に位置するウェイポイントNAVERを過ぎるといよいよ下降が始まるのだ。その下降地点まであと111マイルである。
サッポロ・コントロール オールニッポン67 リービング 403 クライム アンド メインテイン 410」(札幌コントロール管制へ 全日空67便です 現在4万300フィートで4万1000フィートに上昇中です)
オールニッポン67 サッポロ・コントロール ラジャ メインテイン フライト レベル 410」(了解しました 4万1000フィートまで上昇して下さい)
メインテイン フライト レベル 410 オールニッポン67」(4万1000フィート、了解)
 全日空67便がまもなく高度41000フィートに到達する。森田機長が下降地点について引続き説明をした。
(ウェイポイントが)順番に近づいて来ますから、(すると距離が)変わりますから…そこからスラスト アイドル を一番絞った状態で降りていくポイント(下降ポイント)なんですけど
 羽田発函館行き全日空861便747SRが青森VORへ向かう交信が入る。
サッポロ・コントロール オールニッポン861 210 プロシード アオモリ」(札幌コントロール管制へ 全日空861便です 2万1000フィートで青森に向かっています)
オールニッポン861 サッポロ・コントロール ラジャ パイロット ディスクリーション ディセンド アンド メインテイン 11000 QNH3008」(全日空861便へ 了解しました パイロットの判断で1万1000フィートまで降下して下さい 気圧は3008インチです)
3008 アルティメーター パイロット ディスクリーション クリア ディセンド メインテイン 11000 スタンバイ イン ア 10 ミニッツ」(気圧は3008インチ、こちらの判断で1万1000フィートまで降下します 10分後に降下を開始します)
オールニッポン861 アファーマティブ ディセンド バイ パイロット ディスクリーション メインテイン 11000」(その通りです そちらの判断で1万1000フィートまで降下して下さい)
ディセンド 11000 パイロット ディスクリーション サンキュ」(1万1000フィートまで降下します ありがとう)
 この全日空861便は青森上空から津軽半島の東沿岸に沿って北上し津軽海峡から函館に下降する。エアシステム115便や全日空67便の札幌行きは下北半島に沿って北上し津軽海峡から札幌ヘ下降する。本州の最北端にある二つの美しい半島に沿って飛ぶそれぞれの航空機の機影を管制官はレーダーのスクリーン上で見ながら誘導している。そして、福島空港発札幌行き全日空363便767-300が新たに管制官のレーダースクリーンの南端に入ってくる・・・。青森と津軽の海の上に展開する壮大な空のドラマの様子を天空の目になって垣間見る気がする。
サッポロ・コントロール オールニッポン363 メインテイン フライト レベル 330 ダイレクト トウホク VOR」(札幌コントロール管制へ 全日空363便です 3万3000フィートで東北VORへ直行しています)
オールニッポン363 サッポロ・コントロール ラジャ メインテイン フライト レベル 330」(了解しました 3万3000フィートで飛行して下さい)
メインテイン 330 オールニッポン363」(3万3000フィートで飛行します)
エアシステム115 コンタクト サッポロ・コントロール 119.3」(エアシステム115便へ 以後は札幌コントロール管制119.3メガヘルツへ連絡して下さい)
ラジャ」(了解)
エアシステム115 119.3」(了解しました)
 この交信で札幌コントロール北海道南セクターに引き継がれたのだ。あと少しで下降が開始される。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第7回 高度4万フィートへ

高度4万フィートへ

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▼東北空路地図
東北空路地図

▼ナビゲーションログ
ナビゲーションログ

ジャパンエア544 ディセンド クロス アミ アット 13000 QNH3019」(日本航空544便へ 降下し阿見を1万3千フィートで通過して下さい 気圧は3019インチです)
 管制官は高度2万4000フィートで阿見VORに向かっている日本航空544便に下降許可を与えた。
ジャパンエア544 ディセンド クロス アミ 13000 3019 アルト レポート リービング」(降下し阿見を1万3000フィートで通過します。気圧は3019インチ 降下開始時に連絡します)
 管制官は544便に近くに他の飛行機がいることを伝えた。
ジャパンエア544 コンファーム … トラフィック インサイト?」(日本航空544便へ 飛行機が確認できますか?)
ジャパンエア544 トラフィック インサイト」(確認しました)
ラジャ」(了解)そして管制官はエリアの最も西にいる日本航空512便札幌発羽田空港行き747-400を羽田空港進入管制へ移管させる。
ジャパンエア512 コンタクト トーキョー・アプローチ 119.1」(日本航空512便へ 以後は羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
ジャパンエア512 119.1」(羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡します)
 つづいて管制官は日本航空512便のすぐあとを下降していたJA8701にも移管交信をした。
ジュリエット アルファ 8701 コンタクト トーキョー・アプローチ 119.1」(JA8701へ 東京進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
8701 ラジャ コンタクト トーキョー 119.1」(了解しました 東京進入管制119.1メガヘルツに連絡します)
 航空管制が使用する無線交信の周波数の波長は、LF(長波)から極超短波(UHF)までその波長によって分類されるが、管制官と115便が交信するのは、VHF(超短波)電波で、一般にはFM電波と呼ばれている。
 このVHF電波の周波数の76メガヘルツから90メガヘルツはラジオのFM放送、170メガヘルツから222メガヘルツは、民放のTVの音声周波数で使われている
 管制官と民間航空機の交信は、VHF118メガヘルツから136メガヘルツまで波数を専用している。このFM波は比較的電波の届く範囲が狭く、3万3000フィート(約1万メートル)の高度で約400キロ前後である。それ故、内陸部の航空路管専用周波数として使用されている。   
いい天気ですね、今日はね」と森田機長が笑った。現在、離陸して16分経過している。115便は福島県の那須へ向かっており、高度3万3000フィートを通過し3万7000フィートへ上昇中である。
ですね」と木村副操縦士も空を見上げる。管制官がエアシステム154便に下降の指示を与えた。
エアシステム154 ディセンド クロス アミ アット 13000 QNH3019」(エアシステム154便へ (降下し阿見を1万3000フィートで通過して下さい 気圧は3019インチです)
エアシステム154 ディセンド クロス アミ アット 13000 3019 リービング 260
(高度2万6000フィートから降下し阿見を1万3000フィートで通過します 気圧は3019インチです)
 管制官は高度2万4000フィートで飛行している日本航空544便747-400に先に下降のクリアランスを出し、544便より先行し高度が2000フィート高いエアシステム154便MD90に遅れてクリアランスを与えた。これは高度差の為だろう。
ジャパンエア544 リードバック トラフィック ナウ スタート トゥ ディセント 13000」 (日本航空544便へ、。高度1万3000フィートへ降下を始めていますか?  現在の状況を知らせてください)
ジャパンエア544 リービング 240 フォァ 13000」(2万4000フィートから1万3000フィートに降下を開始します)
ラジャ」(了解しました)と管制官は544便の飛行状況を確認して再び、近くに他の飛行機が飛んでいることを告げた。高度2万6000フィートから下降を開始したエアシステム154便MD90のことである。
ジャパンエア544 コンフォーム、 ジャスト インフォメーション トラフィック ナウ 12 オクロック 5マイル T・I・A イン バウンド パッシング 255 フォァ 13000」 (日本航空544便へ、確認をします。あ、インフォメーションです。今、12時方向5マイル先に羽田空港方面に向かって高度1万3000フィートへ下降している航空機が2万5500フィートを通過中です)  注 T・I・A・A  Tokyo International Airport Authorityの略
ジャパンエア544 トラフィック インサイト」(航空機を確認しました)
 羽田空港への下降が始まる阿見VOR付近は、管制官にとって非常に神経をとがらせる場所でもある。今度は下降中のエアシステム154便MD-90への速度についての交信をする。
エアシステム154 ベリファイ スピード アジャストメント 320 ノット オブ レーダー」(エアシステム154便へ。現在、スピードがレーダー上では320ノットになっていますが、正しいですか?)
エアシステム 154 スピード 325 ナウ」(現在、325ノットです)
ラジャ」(了解しました)
ジャパンエア562 ディセンド アンド メインテイン フライト レベル 150」(日本航空562便へ 1万5000フィートまで降下して下さい)
 管制官が海側のR211ルートを飛行中の日本航空562便に下降の許可を与えた。この飛行機はSWANPからCOSMOを経由し成田空港へ着陸する予定だ。
ディセンド 150 ナウ ジャパンエア562」(1万5000フィートに降下をします)
ラジャ」(了解しました)
ライト クリア」 と木村副操縦士。
ラジャ」と森田機長。無線から日本航空562便と管制官の交信が聞こえる。
コンファーム ジャパンエア562 ディセンド 150 ナウ パイロット ディスクレクション」(日本航空562便ですが、パイロットの判断で1万5000フィートに降下してよろしいですか?)
ジャパンエア562 ディスタンス クロス 20 マイル ノース オブ スワンプ(SWAMP) フライト レベル 150」(日本航空562便へ ウェイポイントのスワンプの北20マイルを1万5000フィートで通過して下さい)
20 マイル ノース オブ スワンプ(SWAMP) 150 ジャパンエア562」(スワンプの北20マイルを1万5000フィートで通過します)
 つづいて、管制官はエアシステム110便を羽田空港進入管制へ移管させる。
エアシステム150(110の間違いコール) コンタクト トーキョー・アプローチ 119.1」(エアシステム110便へ 以後は羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム110 119.1」(エアシステム110便です。羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡します)

クロス・セクション・チャートで ちょうど3万7、8000がトロポになってますので、押さえられると揺れるかもしれないですね
 トロポポーズは経度によって異なるので南北に飛行する場合はどうしても影響を受けてしまう。今日は3万7000から3万9000フィートにある。それでその付近の気流の悪化が予測されるのだ。
エアシステム186 レジューム ノーマル スピード」(エアシステム186便へ 標準のスピードにして下さい)
エアシステム186 ノーマル スピード」(標準のスピードにします)
ジャパンエア544 リービング 240 フォァ 13000」(日本航空544便です 2万4000フィートから1万3000フィートに降下しています)
ジャパンエア544 ラジャ」(了解しました)
 管制官が下降する飛行機を列に並べたところでスピード制限を解除した。少しは緩和されたが、阿見VORへ下降する航空機の調整がまだつづいている。
エアシステム154 レジューム ノーマル スピード」(エアシステム154便へ 標準のスピードにして下さい)
エアシステム154 ノーマル スピード」(標準のスピードにします)
ジャパンエア544 レジューム ノーマル スピード」(日本航空544便へ 標準のスピードにして下さい)
ジャパンエア544 レジューム ノーマル スピード」(標準のスピードにします)
 航路上では屡々起こることであるが、もし、突然に軍用機が航空路の中に進入してきた場合はどうするのであろうか。軍用機は必ずしも決まった航空路を飛行するわけではないので尚更厄介である。 そのときは旅客機のパイロットは偶然レーダーでみつけるか、肉眼で視認するしか他機の存在を知ることはできないので、軍用機の突然の飛行を旅客機のパイロットに逐一知らせるのも管制官の大切な業務のひとつである。過去、この東北、雫石上空で全日空機と自衛隊戦闘機の空中衝突があったことが思い出される。
あのせいかな? トラフィック 10 オクロック」 と森田機長が窓に顔をよせて10時方向の下を飛ぶ銀色の機影を指差した。その飛行機との間隔を取るために管制官は115便を高度37000フィートで押さえていたものと考えられるのだ。
近いですね」と木村副操縦士。
 管制官がエアシステム154便を羽田進入管制に移管させた。
エアシステム154 コンタクト トーキョー・アプローチ 119.1」(エアシステム154便へ 以後は羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム154 トーキョー 119.1 グッディ」(羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡します さよなら)
グッディ」(さよなら)
 雲もなくすっきりと青空が広がっているのに3万7000フィートに近づくと、予報通り気流が悪くなって機体が揺れ始めた。成層圏と対流圏の境目、トロポポーズに入ったのである。
 ブザーが鳴ってあと1000フィートで高度3万7000フィートに到達することを知らせる。
1000 レベル オフ」巡航高度まで残り1000フィートであることを森田機長が伝えた。かなり揺れがひどい。
ラジャ」(了解)と木村副操縦士。
 森田機長が4万1000フィートへの上昇許可をリクエストする。早く気流の悪いトロポポーズを抜け出したいのだ。
エアシステム115 スタンディング バイ ハイヤー 410」(エアシステム115便です 4万1000フィートに上昇する準備ができています)
 ここで管制官が交代した。新しい管制官はエアシステム115便にすぐ上昇許可を出した。
エアシステム115 クライム アンド メインテイン 410」(エアシステム115便へ 4万1000フィートまで上昇して下さい)
エアシステム115 サンキュ クライム 410」(ありがとう 4万1000フィートまで上昇します)
 森田機長はにやりと笑って素早く高度設定をして上昇に移った。
410 クライム」(4万1000フィートへ上昇します)
はい スラストレフ V-NAV スピード」(ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
スラストレフ V-NAV スピード」(ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
エアシステム154 コンタクト トーキョー・アプローチ 119.1」(エアシステム154便へ 以後は羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい)
スピード インターベーション
ラジャ
 高度が上がるにつれて空の青色がますます濃紺色に変わっていく。
マイナス58度…59度」 森田機長が外気温をチェックした。気温が低いと気流が悪い。115便はまだ揺れが続いている。 
マック82」 森田機長が上昇スピードを少し上げた。ともかく、この気流をぬけなければキャビンサービスに影響する。
ジャパンエア544 コンタクト トーキョー・アプローチ 119.1」(日本航空544便です 以後は羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡して下さい) 管制官が日本航空544便を羽田進入管制へ移管させた。
ジャパンエア544 アプローチ 119.1 グッディ」(羽田空港進入管制119.1メガヘルツに連絡します さよなら)
グッディ」(さよなら)
ちょっと揺れましたから、いま減速して 早く(早めに) 上昇したんです
 森田機長は揺れる時間を少しでも短くしようと上昇角度(ピッチ)を少し増やして高度4万1000フィートを目指していた。そんな対応にもベテラン機長の乗客への心配りが現れる。上空は雲もなくすっきりと濃い青空が広がってやっと揺れも収まった。
風も弱まりましたね」先ほどまで100ノット近く吹いていた風が今では80ノットほどになっている。木村副操縦士も緊張をほぐすように肩をまわした。
 エアシステム186便A300が下降のクリアランスを求める。
トーキョー・コントロール エアシステム186 リクエスト ディセンド」(東京コントロール管制へ 降下許可願います)
エアシステム186 ディセンド クロス アミ 13000 QNH3019」(エアシステム186便へ 降下し阿見を1万3千フィートで通過して下さい 気圧は3019インチです)
3019 リービング 240 アミ 13000」(気圧は3019インチ、2万4000フィートから降下し阿見を1万3000フィートで通過します)
スピード インターベーション
ラジャ
緑のマークが(計器の中の)飛行機(マーク)の前にあるんですが?あれは何ですか」 
 計器の中で進行方向を示す飛行機マークあり、その前に緑色のしるしがついていることを森田機長が説明する。
はい これはこの4万1000(フィート)の到達するポイントなんです」 
 飛行プランによると那須VOR(NZE)を過ぎて83マイル地点が4万1000フィートに到達するリーチングポイントになっている。その位置に緑のマークが付いているのだ。
エアシステム115 コンタクト トーキョー 118.9」(エアシステム115便へ 以後は東京コントロール118.9メガヘルツに連絡して下さい) 
 管制官が115便に東京コントロール東北セクターへの移るようにという交信が入った。
エアシステム115 トーキョー・コントロール 118.9
(東京コントロール118.9メガヘルツに連絡します)
 これより東京コントロール東北セクターを飛行する。そして札幌コントロール三沢東セクターへと引き継がれてゆくのだ。 
トーキョー・コントロール エアシステム115 リービング 396 クライム 410
(東京コントロール管制へ エアシステム115便です 現在3万9600フィートで4万1000フィートに向けて上昇中です)
エアシステム115 トーキョー・コントロール ラジャ」(了解しました)
 那須VOR(NZE)を過ぎた。、あと1000フィートで高度4万1000フィートに達する。
1000 レベル オフ」森田機長が高度4万フィート通過をコールする。
ラジャ」(了解)
 管制官が仙台に着陸予定のJA8846便に下降の許可を与えた。
ジュリエット アルファ 8846 ディセンド アンド メインテイン 8000 QNH3019」(JA8846へ 8000フィートまで降下して下さい 気圧は3019インチです)
8846 ディセンド アンド メインテイン 8000 QNH3019」(8000フィートまで降下します 気圧は3019インチ)
ラジャ」(了解)
(気温が)5度ぐらい、上がってきた トップは3万9000
それぐらいだったですね
 トロポポーズは予想通り3万7000フィートから3万9000フィートであった。揺れは完全に収まった。115便は福島県上空高度4万1000フィートでクルージングに移った。
 ここで、これまでの飛行航路を要約すると、115便は羽田空港を離陸し茨城県の守谷(SNE)から空の東北ハイウェイY11に乗った。守谷を過ぎて栃木県に入り下妻市の東をぬけ東北本線と平行して飛び矢板市の東から福島県那須VOR(NEZ)に向かい、現在、高度4万1000フィートで那須高原上空を過ぎた。このあと東北自動車道路としばらく平行して飛び、白河市の西から猪苗代湖の東、安達太良山の上空から蔵王高原上空へと福島県を縦断する。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第6回 東京コントロール管制関東北セクター区を上昇

東京コントロール管制関東北セクター区を上昇

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

 現在、エアシステム115便は機首方向014度(約北北東)で茨城県守谷VORに向かっている。木村副操縦士が124.1メガで東京コントロールの関東北セクターを呼んだ。
トーキョー・コントロール エアシステム115 リービング 7800 フォオ 210 イニシャリー プローポジング 410
(東京コントロール管制へ エアシステム115便です 高度2万1000フィートに向けて、現在高度7800フィートを通過しました。高度4万1000フィートまでの上昇を許可願います)
エアシステム115 トーキョー・コントロール ラジャ キャンセル リストリクション クライム アンド メインテイン フライト レベル 410
(エアシステム115便へ 東京コントロール管制です 了解しました 飛行制限を解除し、4万1000フィートまでの上昇を許可します) 
 女性管制官の春のように明るい声が返ってきた。
キャンセル リストリクション クライム アンド メインテイン フライト レベル 410 エアシステム115」(飛行制限を解除し、4万1000フィートまで上昇します)
アルト 410」(高度設定は4万1000フィートです)
ラジャ」(了解しました)
 森田機長がすばやく高度設定をした。コックピットのスピーカーから北から飛来する航空機の交信が聞こえている。
エアシステム154 ターン ライト ヘディング 200」(エアシステム115便へ、機首を200度に右旋回して下さい)
 エアシステム154便は帯広を14時20に出発して羽田に15時55分に到着予定MD90である。
エアシステム154 ターン ライト 200」(機首を200度に右旋回します)
ジャパンエア544 セイ スピード インディケイティッド」(日本航空544便へ。現在のスピードを教えて下さい)
 日本航空544便は函館を14時35分に出発し、エアシステム154便と同じく、15時55分羽田着の747SRだ。
ジャパンエア544 320」(日本航空544です 320ノットです)
ジャパンエア544 ラジャ メインテイン プレゼント エアスピード オア グレーター フォァ アライバル スペーシング」(日本航空544便へ 対気速度を維持するか、より大きく間隔をあけてください)
 この便はY10飛行ルートを大子VOR経由で羽田空港へのゲートウェイになる阿見VORに向かって福島県上空を飛行中であるが、その航路が混雑しているため管制官が速度の調整をしているのだ。
ジャパンエア544 メインテイン 320 オブ レーダー」(日本航空544便です 速度を320ノットで維持します)
ライト オフ」(ランディング・ライトを消します)
ラジャ」 
 木村副操縦士が離陸時に点灯した飛行機の正面にあるライトを消した。森田機長が乗客のシートベルトのサインを指示する。
シートベルト オート
シートベルト オート
ラジャ

 115便は快調に北を目指してクライムを続けている。木村副操縦士は、ほっと一息入れて窓から外の風景を眺めた。
 視界は良好であった。窓の外には霞ヶ浦や千葉の九十九里海岸、その向こうに広がる太平洋などが、春霞の中にまるで蜃気楼のように浮ぶ。コックピットにも春の陽光が差し込み汗がにじむほどだ。
ジャパンエア544 レジューム ノーマル スピード」(日本航空544便へ 標準のスピードにして下さい)
ジャパンエア544 レジューム ノーマル スピード」(日本航空544便です 標準のスピードにします)
エアシステム154 プロシード ダイレクト ダイゴ」(エアシステム154便へ 大子へ直行して下さい)
エアシステム154 ダイレクト ダイゴ」(エアシステム154便です 大子へ直行します。)
 管制官が帯広発の羽田行きMD90へ大子VORへ向かう指示を出した、大子VORは温泉で名高い茨城県大子町にある。この大子VORはY10の他、太平洋から日本海へぬける航路OTR3、山形から羽田への航路V32、仙台から羽田に向かうV22などの主要な分岐点になっている。
エアシステム186 セイ スピード インディケイティッド」(エアシステム186便へ 現在のスピードを教えて下さい)
 今度は管制官が女満別を14時20分に出発し羽田空港着予定が16時05分のエアシステムA300にスピードを尋ねた。そして調整する。
スピード 320 エアシステム186」(320ノットです。)
エアシステム186 ラジャ スタンバイ ダイレクト デュー トゥ トラフィック」(エアシステム186便へ 他機との関係上、直行を待機して下さい)
エアシステム186」(了解)
トランジッション」 巡航高度が一万フィートを超えた。木村副操縦士がコールし気圧高度計を標準大気の29.92インチにセットした。115便はまもなく守谷上空に達する。
トランジッション その辺が少し揺れそうですね
 森田機長が少し上空を指さして言った。カンパニーの無線を聴いていた木村副操縦士が無線を絞って空を見上げる。羽田空港での飛行前のブリーフィングでは、上昇中の2万5000フィート前後にちょっと乱気流があって、あとはトロポポーズがある3万5000フィートから3万7000フィートに乱気流が予測されていた。
エアシステム110 ディセンド クロス アミ アンド 13000 QNH3019
(エアシステム110便へ 降下し阿見を1万3000フィートで通過して下さい 気圧は3019インチです。)
 管制官が3万9000フィートで巡航中のエアシステム110便、札幌を14時30分に出発し、羽田空港16時に到着予定のトリプルセブンに下降の指示をした。
エアシステム110 ディセンド クロス アミ 13000 3019 リービング フライト レベル 390」(エアシステム110便です 降下し阿見を1万3000フィートで通過します。気圧は3019インチ 現在高度は3万9000フィートです)
ラジャ」つづいて管制官は仙台発14時50分の名古屋行きエアシステム464便MD90に東京コントロール南セクターへ移管の交信をする。
エアシステム464 コンタクト トーキョー・コントロール 120.5」(エアシステム464便へ 以後は東京コントロール管制120.5メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム464 120.5 グッディ」(了解、さよなら)
グッディ」(さよなら)
 森田機長がキャビンアナウンスの用意のため木村副操縦士と操縦を交代する指示をする。
ユー ハブ コントロール」 (操縦を交代して下さい)
アイ ハブ コントロール」 とコールして木村副操縦士が操縦を交代した。スピーカーから115便のすぐあと、離陸した札幌行きの全日空67便747が東京コントロール関東北セクターに入った交信が聞こえてきた。
トーキョー・コントロール オールニッポン67 リービング 7500 クライム アンド メインテイン 3… コレクション 210」(東京コントロール管制へ 全日空67便です 7500フィート通過中です 高度2万1000フィートまでの上昇を許可願います)
オールニッポン67 トーキョー・コントロール ラジャ キャンセル リストリクション クライム アンド メインテイン フライト レベル 370」(全日空67便へ 東京コントロール管制です 了解しました 飛行高度制限を解除し、3万7000フィートまでの上昇を許可します)
クライム アンド メインテイン フライト レベル 370 オールニッポン67」(3万7000フィートまで上昇します)

 森田機長がキャビンアナウンスのためのメモを作り始めた。
ちょうど定刻ですか、到着は」森田機長が札幌の到着時刻を確認した。
そうですね」木村副操縦士がETAを確認して答えた。
レフト クリア
ラジャ
ユー ハブ ATC」(管制交信をお願いします)
  機長アナウンスのときは操縦と管制交信を副操縦士に任せる。
アイ ハブ ATC」(了解しました)
 管制官が福島上空を飛行している女満別発羽田空港行きのA300に指示を与えた。
エアシステム186 ターン ライト ヘディング 200」(エアシステム186便へ 右旋回して機首を200度に向けて下さい)
ターン ライト 200 エアシステム186」(右旋回して機首を200度に向けます)
エアシステム186 …アプローチ ダイレクト ダイゴ」(大子へ直行して下さい)
 大子VORからそのままY10航空路に乗って南へ下れば羽田着陸の北のゲートウェイ阿見VORである。
ダイレクト ダイゴ エアシステム186」(大子へ直行します)
 森田機長がアナウンスをすることを客室に伝えるために機内電話を取った。チャイムが鳴って関谷チーフパーサーが出る。
もしもし、はい、上昇中です 軽い揺れがありますが、気をつけてサービスお願いします えーと、巡航高度になるのは34分、降下開始は次の時間の05分を予定しています 到着、着陸 オン・スケジュールです はい、アナウンスやります
はい、お願い致します」 と関谷チーフパーサーが答えた。
エアシステム154 セイ スピード インディケイティッド」(エアシステム154便へ 現在のスピードを教えて下さい)
エアシステム154 フォァ スピード 320」(エアシステム154便です 320ノットです)
エアシステム154 ラジャ メインテイン プレゼント エアスピード オア グレーター フォァ アライバル スペーシング」(エアシステム154便へ 進入間隔を取るために現在の速度を維持するか間隔を空けてください)
エアシステム154 メインテイン プレゼント スピード オブ オーダー」(現速度を維持しす)
 管制官が大子VOR上空を飛行する帯広発の羽田行きエアシステム154便のM90に指示を与えた。大子VORから阿見VORへ向かう東北の幹線、Y10がまだ混雑しているのだ。今度は管制官が函館発で15時55分羽田着の日本航空544便747SRのスピードを調整する。
ジャパンエア544 セイ スピード インディケイティッド」(日本航空544便へ 現在のスピードを教えて下さい)
ジャパンエア544 330」(日本航空544便です 330ノットです)
ジャパンエア544 ラジャ レジューム スピード 280 ノット」(日本航空544便へ 280ノットに減速して下さい)
ジャパンエア544 ラジャ 280」(280ノットに減速します)
 続いて管制官は544便のあとを飛行しているエアシステム186便に減速を指示した。
エアシステム186 エア スピード 280 ノット フォァ アライバル スペーシング」(エアシステム186便へ 進入間隔を取るために280ノットに減速して下さい)
エアシステム186 レジューム スピード 280 ノット」(280ノットに減速します)
 森田機長がPAのマイクを取ってアナウンスを始めた。
ご搭乗の皆様、こんにちは 本日も日本エアシステム115便、新千歳空港行きレインボーセブンをご利用いただきまして、ありがとうございます 機長の森田です 副操縦士、木村と共に当便を担当しております 当便、定刻に出発し現在順調に飛行中です 上昇続けておりますけども飛行高度4万1千フィート、約1万2、500メートルにて千歳空港に向かいます 上空の風の変化は所々軽い揺れが御座いますけども、概ね気流状態は安定しております ごゆっくりおくつろぎ下さい 千歳地方の到着予定時刻は定刻の16時30分、午後4時30分を予定しております 天候はご覧のように良好です 地上の景色もお楽しみいただけます 千歳地方の天候も良好です 現在、南の風8メートル、晴れ、地上気温は摂氏9度と報じられております 途中何かご用の節、ご遠慮なく客室乗務員にお申し付け下さい ご搭乗ありがとうございます
 アナウンスを終えて機長は管制との交信を引き受ける旨、副操縦士に告げた。
アイ ハブ ATC」(管制交信を交替します)
ユー ハブ ATC ATC ありません」木村副操縦士は機長にATCを渡し、アナウンスの途中に管制から指示がなかったことを報告した。
ジャパンエア562 ディセンド 150 コンファーム パイロット ディスクリクション」(日本航空562便です 当機の判断で1万5000フィートまで降下して宜しいですか)

 管制へ大子付近を南へ飛行している日本航空562便、札幌発成田空港行きのDC-10が呼びかけてきた。
ジャパンエア562 クロス 40 マイル ノース オブ スワンプ(SWAMP) アト フライト レベル 150」(日本航空562便へ ウェイポイントのスワンプの北40マイルを1万5000フィートで通過して下さい)スワンプとは茨城県の日立市近くにある海に面したウェイポイントで、R211で北から成田空港へ進入する航空機の重要な通過点となっている。
40 マイル ノース オブ スワンプ(SWAMP) 150 ジャパンエア562」(スワンプの北40マイルを1万5000フィートで通過します)
アファーム」(その通りです)と管制官。そして羽田空港14時55分発旭川行きの全日空869便、B767に連絡をした。
オールニッポン869 コンタクト トーキョー・コントロール 118.9
(全日空869便へ以後は東京コントロール管制118.9メガヘルツに連絡して下さい)
オールニッポン869 トーキョー 118.9」(東京コントロール管制118.9メガヘルツに連絡します)
 全日空869便は115便の前を飛行しており、管制区が東京コントロール東北セクターへ移るのである。つづいて、ロスアンジェルス発のソウル行き、大韓航空18便B747が太平洋上から呼びかけてきた。
トーキョー・コントロール グッドアフタヌーン コリアンエア018 レベル 390 ダイレクト ダイゴ」(東京コントロール管制へ こんにちは 大韓航空18便です 高度3万、900フィートで大子に直行しています)
 この便はオーシャン・トラフィック・ルート(OTR)3で東から飛来し日本上空を通過するのである。
コリアンエア018 トーキョー・コントロール ラジャ」(大韓航空18便へ 了解しました)
 エアシステム115便が高度1万9000フィートを越えたところで東京コントロールから無線が入った。
エアシステム115 メインテイン フライト レベル 370 アンティル ファーザー アドバイス」(エアシステム115便へ 指示があるまで3万7000フィートで飛行して下さい)
エアシステム115 メインテイン 370 アンティル ファーザー アドバイス」(エアシステム115便です 指示があるまで3万7000フィートで飛行します)
フライト レベル 370」(3万7000フィートで飛行します)
ラジャ」 森田機長は飛行高度3万7000フィートで水平飛行するべくセットした。
 4万1000フィートまでの上昇許可(クリアランス)が出ていたにもかかわらず、3万7000フィートでしばらく待てということは、長閑な春空の上では窓からは見ることができないが、航空機のラッシュが続いているのだ。東京コントロールの管制官と航空機パイロットが交わす絶え間のない無線が、コックピットのスピーカーから聞こえている。
トーキョー・コントロール オールニッポン861 ナウ アット 1322 210
(東京コントロール管制へ 全日空861便です 現在1万3220フィートで2万1000フィートまで上昇します)
オールニッポン861 トーキョー・コントロール ラジャ」(全日空8618便へ 了解しました)
 エアシステム115便のあとに函館へ向かっている全日空861便B747が東京コントロール関東北セクターに入ってきた交信である。
ジャパンエア544 ファーザー スピード 260 ノット」(日本航空544便へ 260ノットを維持して下さい)
ジャパンエア544 260」(260ノットを維持します)
風が変わって来てるね」 森田機長が風をチェックしていった。横風だったがその風が少し北にまわっている。
エアシステム186 レジューム スピード 260 ノット」(エアシステム186便へ 260ノットまで減速して下さい)
レジューム 260 エアシステム186」(260ノットまで減速します)
オールニッポン743 コンタクト トーキョー・コントロール 118.9」(全日空743便へ 以後は東京コントロール管制東北セクター118.9メガヘルツに連絡して下さい)
 管制官は羽田を14時55分発に出発し釧路に向かう全日空743便の767-300 に東北セクターへの移管の交信をした。
オールニッポン743 コンタクト トーキョー・コントロール 118.9」(全日空743便です 東京コントロール管制118.9メガヘルツに連絡します)
 釧路を離陸して羽田空港へ向かうエアシステム136便A300が東京コントロール関東北セクターに入ってきた。
トーキョー・コントロール エアシステム136 メインテイン 240」(東京コントロール管制へ エアシステム136便です 高度2万4000フィートです)
エアシステム136 トーキョー・コントロール ラジャ」(エアシステム136便へ 了解しました)
 管制官は海側のR211ルートでSWANPに向けて高度を下げている札幌発成田空港行きの562便DC-10に下降高度の修正をする。
ジャパンエア562 リバイズ メインテイン フライト レベル 250」(日本航空562便へ 高度2万5000フィートに修正して下さい)
250 ジャパンエア562」(25000フィート 了解しました)

 115便はY11を飛行している。茨城県の守谷VOR(ポジションSNE)から北へ伸びる航空路Y11は茨城県の守谷VOR(ポジションSNE)から千歳(CHE)まで続く、すなはち関東から北へ向かう東北自動車道路みたいな空のハイウェイなのだ。
逆に北から関東に向かう航空路は千歳(CHE)から阿見()までY10と名付けられている。
今、傍受される航空無線から東北の空を飛行する航空機の流れを整理すれば次のようになる。北へ向かうY11の上には旭川行きの全日空869便B767と釧路に向かう全日空743便の767が先行し、JA8846とつづく。そのあとをエアシステム115便が、そして札幌行き全日空67便 747と函館行き全日空861便747とがつづいている。
すなはち、ANA869 ANA743 JA8846 JAS115 ANA67 ANA861、の順だ。
 比較的ノーマルな運航状況の北行きに対して、Y10から阿見VORを経由して羽田空港へ向かう航路はスピード調整がつづく程のラッシュ状況にある。まるで進入管制みたいだ。
 まず、日本航空512便札幌発羽田空港行き747-400が阿見VORから東京湾に向けて下降中,つづいてJA8701が続き、エアシステム110便札幌発羽田行き777も阿見VORを過ぎて下降中である。その後にエアシステム154便帯広発の羽田行きMD-90が続き、次ぎが日本航空544便、函館発で15時55分羽田着の747SR、すぐあとに、エアシステム 186便女満別発羽田空港行きのA300が、そしてエアシステム136便釧路発羽田行きのA300と並んで、すべて大子VORと阿見VOR間に集中している。
すなはちJL512 JA8701 JAS110 JAS154 JL544 JAS186 JAS136、の順で飛行している。その他、海側のルートR211で成田空港へ下降中の日本航空562便札幌発のDC-10と仙台を離陸し名古屋に向かうため東京コントロール西セクター120,5に引き継がれたエアシステム464便MD90がいる。それらのトラフィックを鮮やかにさばいていく管制官の仕事振りに感動するが、それにしても、羽田空港の混雑がこんな高々度A-WAYまで影響しているのに驚いてしまう。これはさしずめ、東京首都高速道路の環状線で起きる渋滞が東北自動車道路の宇都宮近辺まで、その波及をもたらしているようなものだろう。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
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機長席第5回 日本エアシステム777が出来るまで

「機長席」はお楽しみ頂いていますか? 今週は本編を休んでボーイング社が制作した「日本エアシステム777が出来るまで」をご覧ください。わずか5分の映像の中にエアシステムのトリプルセブンが製造される過程が描かれたとても面白い映像です。



コックピット・ドキュメンタリー「機長席」のもうひとりの主役は管制官

過日、このブログでコックピット・サウンド「ヒマラヤ飛行」を連載させて貰いました。今日はその「ヒマラヤ飛行」と現在連載中の「機長席」との違いを述べながら、今後の「機長席」の楽しみ方について一言ご提案したいと思います。
そのまえにヒマラヤ飛行」をお聴き頂いていない方のために、簡単にその内容に触れておきます。
「ヒマラヤ飛行」は、福岡空港を離陸した日本エアシステムのチャーター便A300-600が中国大陸を横断し、ミャンマーやバングラディシュ、インドを超えて、ネパールのカトマンズ空港へ着陸するまでのコックピット・ドキュメンタリーです。途中、戦時国ミャンマー上空を通過するときの緊張感や数度に渡る交信不能の状態を乗り越えて、世界一着陸が難しいといわれるヒマラヤのカトマンズに着陸する緊迫感などは、まさにアドベンチャーフライト・ドキュメンタリーでした。

ところが「機長席」は同じコックピット・ドキュメントでありながら「ヒマラヤ飛行」とは全く違ったテイストです。国内定期便ということもあり、いつも飛び慣れた日本の空を飛行するコックピットの様子はアドベンチャーとは正反対の落ち着いた雰囲気があります。模範的ともいえるコックピットの姿です。
その模範的コックピットを作り出す森田機長と木村副操縦士の仕事ぶりもさることながら、このドキュメンタリーのもう一人の主役は、空の交通を管理する管制官達です。その自信に満ちあふれたのプロフェッショナルな姿をドキュメンタリーは克明に追っています。

現在、115便は東京湾から茨城県の守谷に向かって上昇中ですが、その飛行をコントロールする管制も羽田空港出発管制から上空の航空路をコントロールする東京コントロール関東北センターに移ります。
このセンターの管制官は関東から北へ向かう航空機、あるいは北から関東方向へ、そして羽田空港へ下降する航空機を北関東の上空一帯のエリアでレーダー・コントロールをしています。管制周波数は124,1メガヘルツ。いつも混雑する管制区です。管制官はエリア内に集まってくる沢山のトラフィックをレーダーのスクリーンを見ながら、その速度を調節し、方向や高度変更を指示し適確な飛行情報を与えながら鮮やかにコントロールしてゆきます。その様子は来週からの「機長席」の聴きどころでしょう。
それで提案ですが、「機長席」をお聴きになりながら、ぜひ、あなたも頭の中にレーダー・スクリーンを作り、サウンドに登場する各航空機の動きを管制官になったつもりで思い描いて下さい。コックピット・ワークとは別のテイストで空のドキュメンタリーがお楽しみ頂ける筈です。来週の北関東エリアの他、岩手、青森上空の札幌コントロール東セクター、そして114便となって札幌から東京へ戻るときの羽田空港進入管制などでも同様です。それでは来週も引続き航空ドキュメンタリー「機長席」をお楽しみ下さい。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第4回 羽田空港離陸

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

B777コックピット
※photo:Ito Hisami(イカロスMOOK THE COCKPIT付録より)
B777コックピット

 切り替えた118.1メガから、羽田タワーコントロールの管制官が日本航空195便熊本行きのボーイング777に離陸を許可する交信が入る。
ジャパンエア195 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 190 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ16ライト」(日本航空195便へ 滑走路16ライトから滑走路に沿って離陸して下さい 風は190度から19ノットです)

 今日の羽田は結構強い海風が吹いている。30度左前方から19ノット。もう少し西にまわると離着陸に影響する横風になるくらいである。
ジャパンエア195 フライ ランウェイ ヘディング クリア フォァ テイクオフ 16ライト」(日本航空195便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 滑走路上では、風を切って日本航空トリプルセブンのエンジンが轟音を上げ滑るように走り始めた。それを確認して管制官は日本航空105便B747-400を離陸待機位置に向かわせる。
ジャパンエア105 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(日本航空105便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
ジャパンエア105 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト
(日本航空105便です 滑走路16ライトへ入り、待機します)

▼B777コックピット
B777コックピット

 B747が滑走路末端に入るのを視認した木村副操縦士はタワー管制に連絡を取った。
トーキョー・タワー エアシステム115 ウィズ ユー」(タワー管制へ エアシステム115便です。タワー管制に入りました)
エアシステム115 トーキョー・タワー ナンバー2」(エアシステム115便へ 離陸は2番目です)
ナンバー2」(了解、離陸2番目)
ラジャ ナンバー2」森田機長も確認のコールをする。離陸は滑走路末端に入った日本航空105便につづいて2番の離陸である。
タワー オールニッポン67 オン ユア フリクエンシー」(タワー管制へ 全日空67便です。タワー管制にはいりました)
 エアシステム115便のあと続いている全日空67便ボーイング747-400が同じ管制エリアに入っきた。この便は115便と同じく15時発の札幌千歳空港行きだ。札幌まで115便と同じルートを飛行するのだ。
オールニッポン67 トウキョウ・タワー ナンバー3」(全日空67便へ 離陸は3番目です)
 管制官はエアシステム115便につづいて3番目に離陸する旨を告げた。そしてその視線は無事離陸を終えて上昇する日本航空195便のトリプルセブンを追っている。ギヤを機体に格納するトリプルセブンに管制官が伝えた。
ジャパンエア195 コンタクト ディパーチャー」(日本航空195便へ 以後はディパーチャー管制に連絡して下さい)
 離陸する飛行機に関してタワー管制の任務はここまでで、あとはレーダー管制がレーダーの目を通して誘導するのだ。
ジャパンエア195 グッディ」(日本航空195便、了解 さよなら)
 日本航空のトリプルセブンは、薄もやの4月の空を順調に高度を上げていった。
レフト クリア」(左側、障害物なし)
ラジャ」   
 森田機長はアウターから離陸待機路に入るために左の障害物を確認する。管制官から日本航空105便に離陸の許可が出た。風が少し西にまわった。19ノット、約風速8メートル。管制官が日本航空大阪行き747に離陸許可を与えた。
ジャパンエア105 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 200 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ16ライト」(日本航空105便へ 滑走路16ライトからヘディングで離陸して下さい 風は200度から19ノットです)
ジャパンエア105 フライ ランウェイ ヘディング クリア フォァ テイクオフ 16ライト」(日本航空105便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 ランウェイ・ヘディングはランウェイと同じ方向、すなはち105便の場合は機首(ヘディング)方向160度で離陸するという意味であるが、英国や英国と密接な国々、たとえば、インド、オーストラリアなどでは「クライム オン トラック」という言葉を使う。管制用語も国によって微妙に違う。
 滑走路では日本航空105便がエンジンパワーを上げた。同時に管制官はエアシステム115便を滑走路末端の待機場に入るように指示した。  
エアシステム115 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(エアシステム115便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
エアシステム115 タクシー イントゥ ポジション ホールド 16ライト」(エアシステム115便です 滑走路16ライトへ入り、待機します)
ファイナル クリア」(最終着陸進入経路は、何もありません)
 木村副操縦士が右窓から滑走路16ライトへ進入する航空機がないことを確かめて機長に伝えた。
ラジャ イントゥ ザ ポジション ホールド」(了解 滑走路内で待機します)
イントゥ ザ ポジション ホールド
 森田機長は離陸する日本航空のジャンボ機を見ながら、115便をゆっくりと滑走路末端に入れた。
そのときBランウェイから海上保安庁の航空機が進入するという交信が聞こえた。
トーキョー・タワー ジュリエット アルファ 8709 ランウェイ22 スポット ノベンバー36」(タワー管制へ JA8709です 滑走路22へ進入中です スポットはN36です)
ジュリエット アルファ 8709 トーキョー.タワー クリア トゥ ランド ランウェイ22 ウインド 180 アット 22」(JA8709へ 滑走路22への着陸を許可します 風は180度から22ノットです)
クリア トゥ ランド ランウェイ 22 ジュリエット アルファ 8709」(滑走路22へ着陸します)
 海上保安庁機に着陸許可を与えた管制官は、離陸を完了した日本航空105便に最後の交信をする。「ジャパンエア105 コンタクト ディパーチャー」(日本航空105便へ 以後は東京ディパーチャー管制に連絡して下さい)
ジャパンエア105 グッディ」(日本航空105便です さよなら)
 つづいて管制官は滑走路16ライトの末端で待機しているエアシステム115便に離陸許可を与えた。
エアシステム115 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 190 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ 16ライト」(エアシステム115便へ 滑走路16ライトからヘディングで離陸して下さい 風は190度から19ノットです)
フライ ランウェイ クリア フォァ テイクオフ 16ライト エアシステム115」(エアシステム115便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 現在115便がいる場所はAランウェイとBランウェイが交差するすぐ南側のA10地点だ。この地点からAランウェイ(滑走路16と34ライト)は南の端まで2550メートルある。森田機長がゆっくりと機体を回し機首を滑走路の中央ラインに合わせた。滑走路の幅は60メートルもあるがその先端は細くもやって春の霞に溶け込んでいる。
キャンセル L‐NAV」(ラテラル”平面”・ナビゲーションを取り消し)
キャンセル L‐NAV」(ラテラル・ナビゲーションを取り消し)
テイクオフ!」(離陸!)機長の凛とした声が響く。
スラストレフ」(オートスロットル・モード確認)
 エンジンのパワーが上がる。機体を震わせながらボーイング777は滑走路上を走り始めた。急激な加速が生む重力で身体が椅子の背に押しつけられる。
 機長はエンジンの音に注意しながら、操縦桿に手を添えて前方を見つめた。 副操縦士はスピードメーターを見つめている。
 777は加速を続け、スピードが増す。
エイティ!」( 80ノット!)
 スピードが80ノット(時速約148キロ)になったことを木村副操縦士が告げた
チェック」(確認)
オールニッポン67 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(全日空67便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
オールニッポン67 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト
(全日空67便です 滑走路16ライトへ入り、待機します )
 加速しているコックピットの中に全日空67便が、次ぎの離陸のためにランウェイ末端に機体を入れる交信が響く。
 機体がぎしぎしと軋んだ。スピードが上がる。エンジンの轟音。 
V1! VR V2! ポジティブ!」 
 副操縦士がスピードを読み上げる。Vワン・スピード、時速125ノット、時速約200キロ。
 滑走路の中央ラインが一本の白い線となって後方へ飛ぶ。
VR」時速128ノット、時速約236キロ。
滑走路の端がぐんぐんと近づいてくる。
機長が操縦桿を引いた。機首が持ち上がる。
V2!(ヴイ・ツー)」時速133ノット。時速約250キロ。
車輪が地面を離れた
ポジティブ」液晶デスプレイを見ながら機体が浮上したことを副操縦士がコールする。
ギア アップ!」機長が車輪の引き上げを指示した。
ギア アップ!」副操縦士がコックピットパネルのギヤレバーを引き上げた。
 中央のEICASデスプレイに車輪が格納される様子が映しだされる。コックピット内部の音が変わった。車輪が機体に格納されると、空気抵抗が少なくなった115便はさらにスピードを増し始めた。

 ここで離陸スピードについて簡単にふれておこう。飛行機が離陸する場合の速度、まずV1(ヴィワン)スピードは離陸決定速度と呼ばれ離陸には重要なスピードの目安となっている。飛行機が滑走を始めて、もしエンジンが一基が停止したとき、V1スピードまでに離陸を中止するか、継続するかを決めなけれらない。
言い替えると、V1スピード以内であれば離陸中止(リジェクト・テイクオフ)が可能な速度として副操縦士はV1スピードをコールする。と同時にコンピュータもV1と合成音声で知らせる。  次ぎがVRスピード。これをローテーションスピードとも言う。この速度に達したら操縦桿を引いて機首起しを開始するスピードである。そしてV2スピード。安全離陸速度と言う。このスピードになると飛行機は地面を離れ安全に離陸を続行している速度である。「ウインド チェック 190 アット 20」(風は190度から20ノットです)
 風が又、強くなった。離着陸の航空機へ管制官が滑走路上の風の変化を伝えた。森田機長は風を突っ切って飛行機を操る

ヘディング セレクト」(機首方向を設定)
ヘディング セレクト スラストレフ V‐NAV スピード」(機首方向を設定します ヴァーチカル・ナビゲーション作動しました)
ヘディング セレクト V‐NAV スピード」(機首方向を設定 ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
 中央のディスプレイに上下方向のナビゲーション・コンピュータが作動したのが表示された。タワー管制から最後の無線が入る。
エアシステム115 コンタクト ディパーチャー」(エアシステム115便へ 以後は東京ディパーチャー管制に連絡して下さい)
エアシステム115 ディパーチャー」(エアシステム115便 ディパーチャー管制に連絡します)
グッディ
ギア アップ」ディスプレイの中で車輪が格納されたことを確かめて副操縦士がコールした。
ジャパンエア105 118.3(123,7の間違い) グッディ」 日本航空105便大阪行きB747-400が東京コントロール管制に移管された交信が聞こえる。
セット オートパイロット」(自動操縦に切り替えて下さい)
セット オートパイロット」(自動操縦に切り替えました)

 離陸が完了すると森田機長が自動操縦に切り替えた。眼下は東京湾だ。木村副操縦が無線の周波数を変えてディパーチャー管制を呼んだ。出発管制とも呼ばれる東京ディパーチャーは羽田空域を上昇する航空機をレーダーでコントロールしている
トーキョー・ディパーチャー エアシステム115 リービング 1800」(東京ディパーチャー管制へ エアシステム115便です 高度1800フィート通過中です)
エアシステム115 トーキョー.ディパーチャー レーダー コンタクト ターン レフト ヘディング 020 ベクター トゥ モリヤ クライム アンド メインテイン 210」(エアシステム115便へ 東京ディパーチャー管制です レーダーで捕捉しています 左旋回して機首を020度に向けて下さい 守谷VORへ誘導します 高度は2万1000フィートまで上昇して下さい)
 守谷は茨城県の利根川沿いにある街である。現在地点からほぼ北に位置する。管制官は115便を左旋回させ、そのまま守谷上空から東北へ向かう航空路Y11に乗せようとしている。
レフト 020 ダイレクト 210 エアシステム115」(エアシステム115便です 左旋回して機首を020度に向け、2万1000フィートまで上昇します)と木村副操縦士が応答した。
020 レフト クリア」(機首を020度に 左側は異常なし)森田機長が左窓から外を見て確認する。
ラジャ
アルト 210 キャンセル 13000 レフト クリア」(高度2万1000フィート 高度1万3000フィートの制限解除 左方向は良好です)
ラジャ
 機長は左の窓から再度外を見て、他の機影がないのを確かめて東京湾上空、約600メートルでゆっくり左旋回に移った。機首方向を160度(南南東)から20度(北北東)になるまで140度旋回させる。飛行機の下で東京湾がぐるりと大きく回った。
エアシステム115 プロシード ダイレクト モリヤ」(エアシステム115便へ 守谷VORに直行して下さい)
ダイレクト モリヤ エアシステム115」(エアシステム115便です 守谷VORに直行します)
 本来ならば守谷7出発方式では、このまま160方位で木更津まで東京湾を横断して飛び、木更津上空で020度へ左旋回するのであるが、他の飛行機(トラフィック)が、ないかぎり管制官がレーダー誘導(レーダーベクター)で近道(ショートカット)せて守谷に向かわせるのが通例である。  これだけでも時間と燃料の節約になり、航空会社としては有り難い誘導なのである。余談だが、羽田から千歳までの消費燃料はドラム缶で約51本、料金は約63万円という。

 森田機長は飛行進路の変更をコンピュータに打ち込んだ。
セット CDU」(飛行情報を変更)
ラジャ… モデファイ」(了解 変更して宜しいですか)
イクスキュート」(実行して下さい)
イクスキュート」(実行します)
アーム L‐NAV」(ラテラル・ナビゲーションを準備)
L‐NAV キャプチャー」(ラテラル・ナビゲーションを確認しました)
L‐NAV キャプチャー フラップ 1」(ラテラル・ナビゲーションを確認 下げ翼を1度にせよ)
 これでトリブルセブンのナビゲーションシステムが平面と垂直の3Dとして動き始めた。115便は浦安上空を守谷に向かって高度2万1000フィートへ上昇を続けている
フラップ 1」(下げ翼を1度にします)
フラップ アップ」(下げ翼を全て上げてください)
フラップ アップ …」(下げ翼を全て上げます … 全て上がりました)  フラップを上げた115便はスピードを増した。ここで115便がこれから通過する管制区を整理しておこう。旅客機はゲートを出発して離陸、巡航、下降、着陸してゲート・インするまで管制コントロール下で飛行することは周知の通りだが、115便が羽田を出発して千歳空港に到着するまでに経由する管制区は次ぎの通りになる。

 羽田空港飛行場管制  東京デリバリー管制 → 東京グランド → 東京タワー → 東京ディパチャー
 航空路管制  東京コントロール → 札幌コントロール →
  千歳空港飛行場管制  千歳進入管制(千歳アプローチ) → 千歳タワー → 千歳グランド

 羽田、千歳空港の管制は飛行場管制といわれ、空港とその周辺空域を管制コントロ-ルし、航空路管制が日本全国に張り巡らされた上空の航空路をすべてコントロールする。
 航空路管制(ACC)は南から、那覇コントロール、福岡コントロール、東京コントロール、札幌コントロールと日本の空を四つに区分して航空交通管制業務をしている。
 115便は、現在、羽田飛行場管制区の東京ディパチャー管制区を飛行しているが、まもなく航空路管制の東京コントロール管制区に入る。東京コントロールは四国から近畿、北陸、関東、東北まで広いエリアをその管轄としているので、さらにそのエリアが十数のセクターに細分化されている。  詳細にいうと、115便がこれから飛行する管制区は、東京コントロールの関東北セクターである。それから後、東京コントロール東北セクターをえて、札幌コントロール東セクターから札幌コントロール北海道南セクターに引き継がれる。そして飛行場管制である千歳空港の進入管制(千歳プローチ管制)へ向かうのだ。
アフター テイクオフ チェックリスト」森田機長が離陸後の計器点検を指示した。木村副操縦士はMFDモニターに現れた項目を素早く点検して報告する。
アフター テイクオフ チェックリスト コンプリーテッド」(離陸後の計器点検 完了しました)
ラジャ
 高度2万1000フィートを目指して上昇を続けている115便のスピーカーから全日空67便札幌行きが離陸を完了した交信が聞こえた。 
トーキョー・ディパーチャー オールニッポン67 フライ ランウェイ ヘディング クライム アンド メインテイン 130」(東京ディパーチャー管制へ 全日空67便です 現在、直進して高度1万3000フィートに向かっています)
オールニッポン67 ラジャ レーダー コンタクト ターン レフト ヘディング 130 ベクター トゥ モリヤ クライム アンド メインテイン 210 セイ アルチュード」(全日空67便へ 了解しました レーダーで捕捉しています 左旋回して機首を130度に向けて下さい 守谷VORに誘導します 高度は2万1000フィートまで上昇して下さい 現在の高度を教えて下さい)
ヘディング 130 クライム 210 アルチュード 1500 オールニッポン67」(全日空67便です 機首を130度に向けて、2万1000フィートまで上昇します 1500フィート通過中です)
エアシステム115 コンタクト トーキョー.コントロール 124.1 グッディ」(エアシステム115便へ 以後は東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡して下さい)
ラジャ
エアシステム115 トーキョー 124.1 グッディ」(エアシステム115便です 東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡します さよなら)
 管制エリアが航空路管制に変わった。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第3回 羽田空港ディパーチャー

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

 ボーイング777-200の機首から尾翼までの全長は63.7メートルある。ボーイング747-400より6.9メートル短いが、それにつぐ長さである。
 両翼を広げた長さ(全幅)は60.9メートル。これは747-400に3.5メートル及ばないが、747-300やSRよりは1.3メートル長く、全体として胴体に比例して翼が長い。
 翼が長いことがボーイング777をとても優雅に見せる。
 14時40分。
 出発20分前、エアーシステム115便札幌千歳空港行きのボーディングの時間がきた。乗客がグランドホステスの案内で三々五々と機内へ搭乗を始めた。
 飛行機の入り口ドアでは、キャビン・クルーが華やかな笑顔で乗客を迎えている。
 コックピットでは乗客がボーディングを開始する前から、木村副操縦士が今日の飛行プランにもとずいた飛行ルートのデータをコンピュータのデータ・ベースから呼び出してセットし、すでに外部の目視点検を終えた森田機長と共に飛行前のプライマリーチェックを行っていた。
 ボーイング777の特徴のひとつにECL、すなはちエレクトリック・チェックリストというシステムがある。
 従来の飛行機では、点検の確認には紙に印刷されたチェックリストを一項目ごとに読み上げ、機長と副操縦士がそれぞれチェックし、確認していた。たとえばDC-9-41の計器チェックは158項目ある。これを一つ一つ項目ごと読み上げてパイロットは計器点検をする。その労力と時間は大変なものであった。
 ところが777では、チェックリストの項目がすべてコックピット中央ペデステルにある液晶デスプレイMFDに表示される。
 しかも飛行の進行段階に沿って適切な項目が示され、自動的にECLシステムのコンピュータがそれらの項目をチェックする。
 チェックリストの項目は画面に白字で現われ、チェックが完了すると緑に変わる。パイロットがチェックする項目もあるが、従来の方法に比べて格段にシンプルになり、時間もミスも少なくなったという。
 時間が節約出来るということは、機長や副操縦士はその分、他の事柄に注意配分ができるということだ。それだけ運航業務の効率が良く安全につながる。エンジン始動の効率の良さも同様だが、777は飛行技術だけでなく運航業務の未来をも考慮された21世紀の旅客機なのである。
 14時50分。
 飛行機の真下では飛行機を誘導路へ押し出すトーイングカーが位置につき、飛行機へ供給する地上電源が外され、乗客の荷物を運んだバゲージカーや給油車、飲物や軽食類を積み込むケータリング車など地上の車が機体を離れた。
 14時55分。
 飛行機周辺の障害物がなくなり、地上での出発準備がほぼ完了する。そして出発5分前が地上のスタッフから飛行機にコネクトしているインターホンで機長に告げられた。
コックピット。グランドです」。
ハイ。どうぞ」と森田機長がインターホンを取った。
5ミニッツ ビフォァスタート エンジン & セット パーキング ブレーキ」(出発5分前の準備完了しました。パーキングブレーキをセットして下さい)
ラジャ。パーキング ブレーキ セット 了解
森田機長はブレーキをセットして地上整備員に伝えた。
 コックピットのスピーカーから日本航空105便大坂行きのB747-400機へクリアランス交信が聞えている。
トーキョー デリバリー ジャパンエア105 グッドアフタヌーン スポット 10」(東京デリバリー管制へ。こちら日本航空105便です。スポット10に駐機しています)
 飛行機と管制官の交わす無線の声は、コックピット・クルーがつけているヘッドホンとコックピットの天井にあるスピーカーから聞くことが出来る。
グッドアフタヌーン ジャパンエア105 トーキョー・デリバリー クリア トゥ オオサカエアポート ハヤマ・ワン・ディパーチャー ヨコスカ・トランジション フライトプラン ルート メインティン フライトレベル 220 スクォーク2322 リードバック オンリー スクォーク
(日本航空105便へ。こちらデリバリー管制です。貴機の飛行プランを承認し大阪空港への飛行計画を許可します。葉山1出発方式で横須賀トランジション(通過)で高度2万2000フィートまで上昇してください。レーダー認識番号(スクォーク)2322です。レーダー認識番号を復唱(リードバック)してください)
ジャパンエア105 スクォーク2322」(こちら、日本航空105便です。レーダー認識番号2322確認しました)
ジャパンエア105 モニター グラウンド 121.7 アドバイス レディ フォァ プッシュバック」(日本航空105便へ。プッシュバックの用意をしてグランドコントロール121.7へコンタクトして下さい。)
ジャパンエア105  サンキュー グッディ
 このATCクリアランス交信が終わると、日本航空105便は地上管制と連絡をとり飛行機を移動させるトーイングカーに押され(プッシュバックされ)てゲートを離れるのだ。
 新幹線の出発時刻は駅のホームで車両が動きだす時間であるが、飛行機の出発時刻は滑走路を離陸する時間ではなく、駐機しているゲートを離れるランプアウトの時間を指す。
 森田機長は木村副操縦士に出発5分前の管制塔との交信を指示した。無線交信の担当は副操縦士である。木村副操縦士は管制121.8メガヘルツの周波数で東京デリバリー管制を呼んだ。
トーキョー・デリバリー エアシステム115 ゲート2」(東京デリバリー管制へ こちらエアシステム115便です スポット(ゲート)2番に駐機しています)
 この5分前の交信は、出発する飛行機が管制塔と最初に交わす交信である。
 搭乗前にディスパッチ・ルームで、機長が承認した飛行プランが、ディスパッチャーから運輸省航空局にコンピュータで送られており、115便は今、その管制承認(ATCクリアランス)を待っているのであった。
エアシステム115 トーキョー・デリバリークリア トゥ ニューチトセ・エアポート モリヤ7 ディパーチャー フライトプランルート メインテイン フライト レベル210 スクォーク2460 リードバック オンリー スクォーク」(エアシステム115便へ 貴機の飛行プランを承認し、新千歳空港までの飛行を承認します 守谷7出発方式で高度2万1000フィートまで上昇して下さい レーダー認識番号は2460です レーダー認識番号のみを復誦して下さい)
スクォーク2460 エアシステム115」(レーダー認識番号2460で了解しました)

▼守谷7出発方式
守谷7出発方式

 羽田空港の東には成田空港や百里自衛隊の基地。西には横田基地。北西には騒音規制がある東京の市街地が広がっている。羽田空港を離陸する飛行機はそれらのエリアの空域規制を避けて上昇しなければならないので、出発に際して飛行機が飛ぶ空の道が決められている。端目には自由に飛んでいるように見える飛行機も実際は”狭い空の道”を選びながら飛行しているのだ。
 この空の道をスタンダード・インスツルメント・ディパーチャアー、SID(標準出発方式)といい、沖縄や金沢、大阪、札幌など飛行する目的地によって、そして使用する滑走路によって何種類かの出発方式が定められている。
 着陸の場合も同様にスタンダード・ターミナル・アライバル・ルート、STAR(標準着陸方式)と呼び、出発同様に着陸進入する方式がある。
 例えば、大阪空港へ向かう日本航空105便に指示された{葉山1デパーチャー}は、今日のように滑走路16から離陸する場合、離陸して高度500フィート以上になるまでそのまま上昇し木更津の上空に向かう。木更津VOR/DMEの上空を通過して相模半島に向う。相模半島にある横須賀を高度9000フィートで通過(トランジッション)後、静岡の燒津を経て高度も上げ大阪に飛行するというSIDである。
 エアシステム115便は守谷7出発方式を指定された。滑走路16Rから離陸し、500フィート以上上昇し木更津に向かう。そこまでは日本航空105便と同じであるが、115便は木更津で左旋回後、機首方向014度(約北北東)で茨城県守谷VORに向かう。高度制限があり守谷の手前11マイル地点を1万3000フィート以下で飛行しなければならない。この空域の東は成田空港があり、又上空は東京航空交通管制部(東京ACC)の管轄空域なのでその許可が出た後、高度を上げて那須VORに向かうのである。
エアシステム115 モニター グランド 121.7 アドバイス ウェン レディ フォァ プッシュバック」(エアシステム115便へ プッシュバックについては、東京グランド管制121.7メガヘルツへ連絡して下さい)
121.7」(了解 121.7に連絡します)
 115便のコックピット・クルーは、乗降口、貨物室などすべてのドアが閉じられていることを確認すると羽田の地上管制、グランド・コントロールからプッシュバックの許可を貰い、地上の整備員にインターホンで飛行機を誘導路までプッシュバックする依頼をした。
 15時00分定刻。115便はトーイングカーに押されてゆっくりとゲート2番を離れた。 
 ゲートから誘導路入り口までおよそ100メートルくらいある。115便はトーイングカーに押されながら誘導路につくまでにエンジンを始動させるのだ。森田機長が整備員へ伝えた。
グランド。コックピット スタート ボース」(地上整備へ。こちらコックピットです。ふたつ一緒に回します)
了解しました。グランド、クリアー」整備員の声がインターホンに響く。そして、両翼につけられたプラット&ホイットニーPW4074エンジンが轟音を響かせて2つ同時に始動を始めた。
スタート ライト」(右エンジン始動)
スタート レフト」(左エンジン始動)
 ボーイング747など従来の飛行機は、エンジンを1つ1つ始動させなければならないので、とくにジャンボ機の場合は四発のエンジンが始動するまで時間がかかった。ところが777は同時に2つのエンジンを回すことが可能でエンジン始動の時間が極端に短縮された。これも777の大きな特徴のひとつである。
 直径が2メートル90センチに近い777の巨大なエンジンは、ジャンボ機を含めてどの飛行機のエンジンより大きい。
 ボーイング747-400型ジャンボ機のエンジン推力は、ひとつのエンジンが約26トン。777は38トン。その差14トンはA300のエンジン1基に匹敵する。すなはち777のエンジンは、ジャンボ機のエンジンとA300のエンジンを合わせたくらいの推力を持っているのだ。
 もっとも747-400の場合、26トンのエンジンが4基ついているので、全推力からみればエンジン2基の777よりは多くなるが。それにしても777のエンジンは巨大である。
オールニッポン743 コンティニュー タクシー ウィスキー6(W6) アウター(O-TWAY)」 (全日空743便へ。W6から、外側の誘導路アウターへタクシーを続けて下さい)
ウイスキー6 アウター オールニッポン743
この時間の羽田は出発便が集中している。滑走路へ向かって地上走行をしている全日空743便、羽田14時55発釧路行き767と管制の交信が聞こえている。こんどは到着便だ。全日空646便B737が熊本からランウェイ16レフトへ着陸しJ3地点からゲート15へ向かう交信である。
グランド。オールニッポン646 ジュリエット3(J3)  タクシー ゲート トゥ 15
オールニッポン646 グランドコントロール タクシー ヴィア ウイスキー3 アウター ウイスキー5」(全日空646便へ。こちら地上管制です。ウイスキー3からアウター経由でウイスキー5に向かって下さい)
ウイスキー3 アウター ウイスキー5 オールニッポン646
 函館へ向かう全日空B747-SRが出発する交信が聞こえる。
グランドコントロール オールニッポン861 ウィ アー レディ フォァ プッシュバック」(地上管制へ。全日空861便です。プッシュパックの用意が出来ました)
オールニッポン861 グランドコントロール ラジャ プッシュバック ランウェイ16ライト メイク クリア ウイスキー5」 (全日空861便へ。こちら地上管制です。滑走路16Rへウィスキー5を確認してプッシュバックして下さい)
メイク クリア ウイスキー5 オールニッポン861 クリア プッシュバック」 
 115便はトーイング・カーに押されて誘導路入り口P3に着いた。
パーキングブレーキ セット」森田機長がブレーキをセットする。木村副操縦士がエンジン計器を見ながら右エンジンが安定していることをコールした。
ライト スタビライズド」(右エンジン安定) そして続いて左エンジンの状態も安定していることを知らせる。
レフト スタビラテズド」(左エンジン安定)
 すぐ,ふたりは液晶デスプレイMFDに表示されるメッセージを確認する。
チェック リコール
…キャンセル メッセージ
アフタースタート・チェックリスト」続いてコックピット・クルーはエンジン始動後の計器点検に移った。ECLシステムのコンピュータで計器点検が迅速に行われる。
エンジン、アンティアイス オート(エンジンの凍結防止装置を自動に)
リコール チェック。アフタースタートチェックリスト コンプリーテッド
 森田機長はインターホンで地上整備員を呼びエンジンが順調に稼働したことを告げ、地上走行に移る旨伝える。.
グランド コックピット エンジン・スタート コンプリート リムーブ チョーク ディスコネクト インターフォン 行ってきます」(地上整備員へ エンジン始動しました タイヤ止めを外し、インターフォンを切って下さい それでは行ってきます)
ラジャ リムーブド チョーク。 インターホン リセプト ステアリング バイパス ロックピン リムーブト いってらっしゃい」(了解しました タイヤ止めを外し、インターフォンを切り、セレクターピンを外しました。お気をつけて行ってらっしゃい)
 交信が終わるとすぐ地上の整備員が飛行機につながっているインターホンをぬき、トーイングカーを移動させ、飛行機のタイヤ止めを外し機体から離れた。14時55分発の全日空釧路行きB767がタワー管制に移管する交信が聞こえている。
オールニッポン743 コンタクト タワー 118.1」(全日空743便へ 以後は東京タワーコントロールの118.1メガヘルツに連絡して下さい)
オールニッポン743 コンタクト タワー 118.1」(全日空743便、東京タワー管制の118.1に連絡します)
 全日空743便釧路行きに続いてグランド管制は、日本航空195便、14時50分発の熊本行きB777を呼んだ。出発便が多くなり誘導路が混んできたのだ。
ジャパンエア195 トーキョー・グランド ホールド ショート オブ アウター アドバイス ウェン レディ」(日本航空195便へ アドバイスするまでアウターの手前で待機して下さい)
ジャパンエア195 ホールド ショート オブ アウター アドバイス ウェン レディ」(こちら日本空港195便、アウターの手前で待機します)
 コックピットではエンジンスタート後の計器点検を終え、木村副操縦士がグランドコントロールを無線で呼び出した。滑走路に向かって地上を走行する許可(クリアランス)を貰うためである。
グランド エアシステム115 リクエスト タクシー」(グランド管制へ こちらエアシステム115便です 地上走行の許可を願います)
エアシステム115 タクシー トゥ ランウェイ16ライト ヴィア パパ3 ジュリエット2 ウイスキー2 アウター」(エアシステム115便へ パパ3からジュリエット2 ウイスキー2、アウターを経由して、滑走路16ライトへ走行して下さい)
ランウェイ16ライト パパ3 ジュリエット2 ウイスキー2 アウター エアシステム115 」(エアシステム115便です パパ3、ジュリエット2、ウイスキー2、アウターを経由して、滑走路16ライトへ走行します)

▼羽田空港の地図
羽田空港の地図

 115便の現在地はゲート2の誘導路入り口P3である。ターミナルビルのゲート2から、ターミナルビルとウエストメンテナンスエリアの真中を走っている誘導路J2を通り、J2がアウターと呼ばれ滑走路に平行している外側にある誘導路O-TWAYとが交差するW2地点を右折し、そのままアウター誘導路(O-TWY)でランウェイ16ライトまで走行をしなければならない。すなはち、羽田第一ターミナルの南東の端にあるゲート2から、ターミナルビルを右に半周し、ターミナルビルの正面をAランウェイに沿って延々とウエストカーゴビルの端、Bランウェイの側まで行くかなり長い地上走行になるのだ。
レフト クリア」森田機長が機外の左側の障害物を確認し、木村副操縦士が右サイドを確認する。
ライト クリア
パパ3 ジュリエット2… 」(P3の現在地からJ2誘導路を通って…) と森田機長がタキシングのコースを再確認した。
はい、ウイスキー2 アウター ですね」(それから、ウイスキー2地点を右折し、アウター(O-TWY)を通ってランウェイですね)。と木村副操縦士。、森田機長は頷いてスラストレバーを若干アドバンス(前進の位置)にしエンジンのパワーをあげた。
いってらっしゃい」と地上で飛行機の出発をとり仕切るランプコーディネーターや整備員が一列に並んで飛行機に手を振るのが見える。
 森田機長も窓越しにそれに答えて、パーキングブレーキを外すと115便は滑走路へ向かって地上走行に移った。
 航空機が地上を走行するタキシング・スピードは25ノット以下という目安がある。約時速50キロだ。地上走行のスピードでは操縦桿は使えないので(操縦装置は時速80ノット以上、約150キロ以上のスピードでないと使えない)横にある小さなステアリングハンドルを使う。
森田機長は「レフト クリア」と左側の障害物の有無を確認してJ2誘導路に入りW2に向かった。 地上走行が始まると、「フラップ5」(下げ翼[フラップ]を5度にセット)と森田機長がフラップを離陸時の位置にするように副操縦士に指示を出す。
 木村副操縦士がすぐフラップ位置を下げる。「フラップ5」(下げ翼[フラップ]を5度にセットします)。
 フラップが作動しているかどうかは、コックピットの中央パネルにあるEICAS(通常、アイキャスと呼ばれる)のカラー液晶デスプレーで確認することが出来る。両翼のさげ翼がゆっくりと降りてきた。
 115便は滑走路16Rに向かってアウターを順調に走行している。Aランウェイに平行したこの長い誘導路の前方には、すでにタワー管制下にある日本航空195便熊本行きB777が、すぐ前には、まだグランド管制下の日本航空105便大阪行きB747-400が、115便の後には札幌行き全日空67便B747-400機が続き、一列に並んだ。この時刻の羽田空港は離陸する航空機で混雑している。
ジャパンエア105 コンタクト タワー 118.1」(日本航空105便へ 以後はタワー管制の118.1メガヘルツに連絡して下さい)
ジャパンエア105 グッディ」(日本航空105便、了解 さよなら)
グッディ」(さよなら)
 管制官が滑走路に近づいている日本航空105便をタワー管制に移管した。その交信のとぎれを縫って、スポットを離れて誘導路入り口W2でエンジンを始動させている全日空函館行き861便が管制官を呼んだ。
グランド・コントロール オールニッポン861 タクシー インストラクション」(グランド管制へ、こちらは全日空861便です 地上走行の許可を願います )
オールニッポン861 タクシー トゥ ランウェイ16ライト ウイスキー5 アウター」(オールニッポン861便へ ウイスキー5からアウター経由で滑走路16ライトへ走行して下さい)
ウイスキー5 アウター オールニッポン861」(ウイスキー5、アウター 了解しました)
 滑走路までの地上走行中にコックピットクルーがしなければならないことの一つに操縦装置のチェックがある。操縦桿や方向舵などの操縦装置が確実に作動するかどうか、地上で確かめるのである。
コントロール チェック」と機長がコールして操縦装置のチェックが始まった。
ラジャー。エルロン、エレベーター、チェックド(補助翼、昇降舵チェックしました)」と副操縦士。
ラダー チェックド(方向舵チェック)」と機長。
 飛行機の操縦に必要な機器は、主系統(プライマリー・コントロール・システム)と補助系統(セコンドリー・コントロール・システム)の二つの系統がある。タクシー中は主系統のシステムをチェックする。
 まずエレベーター。これは昇降舵とも呼ばれるものだ。飛行機の上昇や下降は主翼でなく尾翼にあるエレベーターを使っておこなう。エレベーターは水平尾翼についている。これが作動すると飛行機が上昇下降をする。次ぎはラダー。これは方向舵だ。垂直尾翼の後部に建て方向についている。操作はパイロットの足もとにあるぺダルを踏んで使う。
 そして最後はエルロン。補助翼だ。これは主翼についている。エルロンはフランス語で鮫のひれを意味する言葉で、操縦桿で操作し飛行機の水平を保ったり旋回時に使用する。
 操縦装置の点検が終わると、森田機長は離陸前の点検を指示した。
ビフォァ テイクオフ チェック リスト」(離陸前の計器点検をお願いします)
中央ぺデステル上にあるMFDモニターに現れた項目を木村副操縦士が素早く読み上げる。
フライトコントロール」(操縦装置の点検)
チェックド」(完了) ふたりのパイロットが同時に確認する。
ビフォァ テイクオフ チェック リスト コンプリーテッド」(離陸前計器点検完了)
 115便は滑走路近くまで来た。コックピットの窓からランウェイの様子が見える。全日空機釧路行きのB767がジェット音を響かせて離陸を開始した。滑走路の待機位置では日本航空195便熊本行きのボーイング777が離陸許可を待ち、日本航空105便は滑走路の待機路に入ろうとしている。午後の光りの中で羽田空港が息づいて見えた。
 エアシステム115便へタワー・コントロールへ移管する交信が入る。
エアシステム115 コンタクト タワー 118.1」(エアシステム115便へ 以後は東京タワーコントロールの118.1メガヘルツに連絡して下さい)
ラジャ」(了解)
エアシステム115 118.1」(118.1に連絡します)
 グランド・コントロールの管制エリアはここまでである。木村副操縦士は周波数をタワーコントロール118.1メガヘルツに合わせた。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第2回 羽田新東京国際空港

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▼飛行前のクルー・ブリーフィング
JASカウンター

 羽田新東京国際空港。週末を控えた金曜日の午後。
 天井までおよそ二十メートルの吹き抜けがある羽田空港ターミナルビルの二階の広大な出発ロビーは、東京の表玄関にふさわしい活気と旅情が渦巻いていた。
 日本エアシステムのチェッキング・エリアはロビーの南側部分にあり、およそ百メートルもある長いカウンターの列が連なっている。そのカウンターはこれから全国各地へ飛ぶ乗客で溢れていた。北海道へ向かうスキー客の二人づれ。長崎のハウステンボスへ旅たつ年配の観光グループ。春の北陸路を楽しむ中年の夫婦。そして福岡や大坂へ出張するサラリーマンの姿…。 14時00分。札幌行きボーイング777、115便の搭乗手続きが始まった。

 その頃、吹き抜けロビーを囲むように建っている空港ビル、その五階の日本エアシステムの運航部ディスパッチルームには、115便に乗務する機長や副操縦士のコックピット・クルーとキャビンク・ルーと呼ばれる客室乗務員たちが集まっていた。

 空港ロビーが華やいだ旅の舞台とすれば、ディスパッチルームは舞台裏で旅を支えるスタッフの仕事場のひとつである。
 ビルの一角を占めるこの部屋は、運航管理に従事するデスパッチャーやそのスタッフが、衛星から送られてくる気象情報や全国の空港から送信された空港情報をファイルしたり、これから出発するパイロットたちに飛行計画を説明したり、飛行中の自社航空機に無線で飛行情報を送ったりするなど、いつもながら多忙を見せている。
 ディスパッチャー、と呼ばれる運航管理者は、影のパイロットと言われ飛行機の運航には欠かせない職種で、一口で言えば飛行プランの立案を仕事とする人達である。
 プロペラ旅客機の時代には、パイロット自身が飛行前に天候情報収集やフライト・ルートの選択、搭載燃料の量計算などを行い、飛行プランを作成してフライトしていたが、飛行機の大型化にともない、実際に空を飛ぶパイロットと地上で飛行プランを作るディスパッチャーとが分離したのである。
 現在はディスパッチャーもパイロットと同様に国家試験を受けてライセンスを取得しなければならない職種となっている。
 ディスパッチルームは運航管理にたずさわる人たちが仕事をするエリアと、これから出発するパイロットやキャビン・クルーが集まるエリアに分かれていて、その間をカウンターで仕切られている。

 コックピット・クルーはフライト前にこの部屋に来て、飛行に関する色々な情報を入手しているディスパッチャーと飛行計画について協議するのが飛行の最初の手順であった。
 今日の115便に乗務する機長の森田寛は、クルーが集合する時間(ショーアップ)である午後二時の少し前にディスパッチルームに姿を見せた。
 部屋の中の顔見知りの機長や副操縦士たちに挨拶をしながら、機長は側壁の大きなボードに所狭しとピンでとめられた数十枚の気象情報を詳細にチェックを始めた。少し白髪が混じりかけた40代後半の端正なその風貌、そして誠実な人柄はクルーの間で信頼が厚かった。彼は航空大学を卒業後、エアシステムに入社。YS-11、DC-9、A300-600の機長乗務をえて最新のジェット旅客機、ボーイング777の機長になって三年目になる。飛行時間14600時間。飛行教官も勤めるエアシステム最前線の実力派のキャプテンであった。
 すでにディスパッチャーから今日のフライトの資料と情報を入手している副操縦士の木村喜代隆が、ノースバウンドと表示されたブリーフィングカウンターの前で森田機長を出迎えた。

 40代の半ば、精悍な風貌の木村は航空自衛隊を退職後エアシステムに入社し、MD-81の副操縦士から777の副操縦士になったパイロットである。
 カウンターの上には、ディスパッチャーが用意した飛行プランや天候データーが並べられている。森田機長はディスパッチャーに軽く挨拶を送ると今日のフライトの打合せにのぞんだ。
 この飛行プランのブリーフィングでは、より安全性、定時性、快適性、経済性のあらゆる諸条件を検討してディスパッチャーが作成した飛行プランを、コックピットクルーが詳細に検討することと、航空法などに定められている「機長の出発前の確認事項」を漏れなくチェックするのが目的であった。
115便、114便と321便だね」と、まず森田機長がスケジュールを確認する。

 今日、森田機長とそのクルーの乗務スケジュールは、15時丁度に羽田空港から115便で札幌千歳空港に飛び、折り返し17時15分千歳発の114便で羽田に戻る。そして羽田発19時35分の321便で福岡空港までのフライトし、今夜は福岡のホテルでスティする予定であった。
 便名こそ違うが同じ飛行機で飛ぶ。今日乗務する飛行機は最新鋭のボーイング777-200。機番JA8977。エアシステムが1997年導入した初号機である。
シップは予定通りに到着していますか?
 航空機には船に由来する用語が多い。森田機長に限らず、航空関係者は飛行機をシップと呼ぶ。飛行機の側のことをシップサイドといい、搭乗するときに使うブリッジも船に乗船するときと同じでボーディングブリッジと呼ぶ。
はい。千歳から予定通りに到着していますので問題ありません
 木村副操縦士が答えた。今朝、この最新のボーイング777は、別のクルーで羽田を発ち札幌を往復してすでに羽田空港の搭乗ゲートに到着していた。
スポット(駐機場所のこと)は2番だね」と機長。
はい」と頷いて。副操縦士が最新の天候情報の資料を機長の前に広げる。
天候ですけども
北日本は大旨良好だな…」機長はカウンターに広げられた数枚の天候情報を指でたどりながら言った。
低気の谷の接近で南西の風が強まり、エンルートのスカイはクリアーだね。これを見るとジェット気流の軸が北上して、キャット(晴天乱気流)によるタービュランス(揺れ)の予報があるね。関東の北から東北方面か…ユーズコウションだな

 乱気流を起こす原因はいろいろあるが、一般的には積乱雲である。見た目には美しく、夏の風物詩にもなる入道雲こと積乱雲も、その周辺は上昇、下降が渦巻く激しい気流の乱れがある。それはときとして航空機を破損させたり、墜落の原因にもなっている。
 しかし積乱雲は昼間は目視出来るし、夜でもレーダーで捕捉可能なので避けて飛行することができるが、問題は目にみえない、そしてレーダーでも探知できない晴天乱気流だった。とくにジェット気流の周辺では時速200ノット以上の高速で吹く風がある場所と低速の風が吹くところがあり、その境目では晴天乱気流が起こりやすく、運航上危険な存在となっている。
 その晴天乱気流をクリア・エアー・タービランス。略してキャットと呼び、その存在の可能性が事前にパイロットに知らされるのだ。
 森田機長は天候図から今日の飛行プランに目を移した。
えー、高めの高度か。飛行プランでは39以上25以下をリコメンドしているね
 飛行プランでは3万9000フィート以上か2万5000フィート以下の高度が気流が安定しているのでその高度での飛行をディスパッチャーは薦めていた。
 続いて機長は札幌に続いて福岡の天気情報も確認する。
福岡の方は一時的に強い雨だね。福岡空港は予定される滑走路が南西だから、天気が崩れてもILSが使えるね
 ILS(インスツルメント ランディング システム)とは、計器着陸方式のことで滑走路の端に設置されている着陸誘導装置から、着陸する飛行機に向かって発射されている電波(ローカライザー)があり、進入機はその電波の誘導でランディングをする着陸方法である。主として天候が悪い状態で使用されている。今日の福岡空港も天候データーを見るかぎりではランディングの場合もILSの誘導が考えられた。
はい。もう、西の方は低気圧圏内に入っていましてハイクラウド(高曇り)です。福岡ではこの時間帯はもう雨が振り始めています。しかし関東から東日本、東北については運航時間帯は良好ですね

 機長は空港の風の状態に目を向ける。
東京羽田は20ノットか。まだ(動きは)ゆっくりなんだね。高気圧の流れの中の風だからね。北 の方は南西、西南西の風。でも福岡は結構強いのがあるんだ
そうですね。南風注意が出ていますね。長崎あたりも強い風を予測しています。北の方は(千歳)問題がありませんが
 次に木村副操縦士はジェット気流の情報が記入された上層風チャートを機長の前に置いた。日本上空を西から東へ吹き抜ける強いジェット気流は飛行に多大な影響を及ぼす。時には風が時速200ノット、約375キロを越える速さで吹く場合もある。
それからジェット(気流)ですが
まだ、それほど強くはないんだな。100ノット弱…。西日本は120ノットは出しているね。風向が北西でちょっと変わってくるのか?
 機長は高高度のジェット気流の流れを指さしながら副操縦士に尋ねた。
ええ、そして北へ行くにしたがって徐々に弱まってきています。他の飛行機からの揺れのレポートは出ていません
 航空会社では自社の飛行機が飛行したルート上の天候、とくに乱気流に遭遇し、飛行機が揺れた場合には逐次報告することが義務づけられている。
 木村副操縦士は30分前にディスパッチ・ルームへ来て、ディスパッチャーから詳細に今日の天気の状況を聞きだしていた。
ジェット気流は夜にはもう少し北上しますね。それで東北方面でキャット予想が出ています
24から30。34から38あたりだな」機長は頷きながら副操縦士を見た。
 2万4000フィートから3万フィートの間と3万4000フィートと3万8000フィートの間では乱気流が予測され、天気図には予想される乱気流の部分がピンク色のマーカーで囲ってあった。
だから、この上の高度(乱気流が予測される3万9000フィート以上の高度)を飛行するのが無難ですね
お客さんは少ないでしょう?」機長は札幌までの乗客数を尋ねた。
お客様は、ええ。千歳往復については少ないですね
 今日の搭乗予定の乗客数は、夜の福岡へ向かう321便は363名でほぼ満席状態であるが、札幌と羽田の往復は、101名(115便)と170名(114便)となっていた。
それでは高々度の飛行には問題ないね」と機長が言った。乗客が少ないと当然飛行機の重量(機重)が軽くなるので高い高度まで上昇できるのだ。
はい。4万1000フィートまで上がれます
 4万1000フィートに上がると、そこは大気が安定している成層圏である。揺れは少ない。木村副操縦士が微笑んだ。
 安全の為には当然のことだが、コックピット・クルーは可能なかぎり乱気流を避け、飛行機を揺らさないことに全神経を注ぐ。少しでも乗客に不安を感じさせない、そして快適に目的地まで旅を楽しんでもらうことが、旅客機クルーの最大の義務でありサービスであると考えているからだ。
 唯、高度が4万1000フィートを超えると、機長か副操縦士のどちらかが常時、酸素マスクを装着することが義務づけられているので、4万1000フィートまでの高度を設定するのが普通であった。

次は天気の現況ですけども」と、データーを拾い出して副操縦士は言葉を続けた。
東京羽田空港は170度方向から20ノットの風が吹いているということで、現在の使用滑走路は16を使っています
千歳も南風で17(180度方向から17ノット)、天気良好で気温8度だね」森田機長も札幌千歳空港の風のデーターを見て言った。
 航空用語では方位を示すのに数字を使う。00、又は、360度が北。南は反対の180度になる。東は90度。そして西が270度だ。羽田も千歳も170度方向の風だから、ほぼ南風ということになる。
 滑走路も同様に数字の方位で示される。例えば羽田空港の場合、滑走路は16と34。04と22の二方向にある。
 滑走路16とは160度方向に、すなはち南南東方向に向かって離着陸する場合を意味し、滑走路34とは、同じ滑走路を反対側に向かって離着陸する場合、すなはち340度方向(北北西)に使用する場合をいう。
 一本の滑走路が離着陸する方向によって滑走路16になり、滑走路34と呼ばれるのである。滑走路04は40度方向(ほぼ北北東)に、滑走路22は220度方向(ほぼ南南西)に向かって離着陸する滑走路だ。どの滑走路を使うかは風の方向によって決まる。飛行機の離着陸はいつも風に向かって行われるからだ。今日は滑走路16を使っているのは、風が170度方向から吹く南風だからであった。木村副操縦士がブリーフィングを続ける。
帯広も風が弱くて晴れですね。それからまだ名古屋も晴れ。大阪もハイ・クラウド(高曇り)ですね。福岡あたりはもう雨が降っていますので
モデレイト・レイン、4キロか。長崎は?」と機長が福岡の天気情報を見ながら言った。
はい。長崎も降っています
九州は全域雨だね」森田機長は背筋を伸ばしながら尋ねた。
フォーキャスト(天気予報)は?
東京は南寄りの風でこのまま持続ですが、ハイ・クラウド(高い雲)が増えてくるのが予想されています
ちょっと風が強くなって…200度から20ノットか。今、ランウェイ(滑走路)は16だが、離陸するときには滑走路22に変わる可能性もあるね
ええ、そうですね
 森田機長は札幌から戻るときの代替空港(オルタネイト)、もし何等かの理由で羽田空港に着陸出来ない場合、代わに着陸する空港として成田空港を予定していたので、成田空港の風の状態もチェックして言った。
成田はOKだな。千歳は?…風は変わらず、やはり強いね
 これから向かう千歳空港の天気は良好で12、3ノットの風だったが、ときどき滑走路に吹く35ノット前後の強い突風が森田機長の心配の種ではあった。
 航空用語では速さの表示は、船と同様にキロ表示でなくノット表示である。高さは原則として(ロシア、中国などはメートルを使用)メートルでなくフィート。距離はマイル(正確には船と同じでノーチカルマイル)表示である。
 35ノットの風というのはメートル換算で時速約65キロの速さで吹く風で、秒速に直すとおよそ18メートルの強風であった。
やはり突風は強いですね。35ノット!」と副操縦士も改めて強風のデーターに驚きの表情を見せた。
 森田機長と木村副操縦士が見ている千歳空港のデーターは次の様なものであった。

 RJCC 090312 14012K 9999 SCT030 SCT080
 TEMPO 0312 20025G35KT

 RJCCは、千歳空港を表わす記号。ちなみに羽田空港はRJTT。
 090312は、9日の03時から12時までの間の予報という意味。これは標準時間なので日本時間では9日の午後12時から午後9時までの間では、14012K、すなはち140度方向(およそ南南東)から12ノットの風が吹くだろうと予測している。
 9999は、10キロ以上の視程があり、SCT030 SCT080は、3000フィートと8000フィートに少しの量(スキャターSCT)の雲がある。
 TEMPOはテンポラリーの意味で、時々、0312(3時から12時標準時、日本時間午後12時から午後9時)の間には、20025G35KT、すなはち200度方向から25ノットの風も予想されるが、G。これはガスト。すなはち、突風が35KT(35ノット)吹くことがあるというデーターであった。
 機長は再び高高度の風のデーターに目を移した。
クロスセクションのチャート(ジェット気流上層風のチャート)では、トロポ(トロポポーズの略。成層圏と対流圏の境目のこと)が3万7000フィートぐらいか。ちょっと低くなっても3万5000フィートだね。飛行機の上昇中は2万5000フィート前後にちょっと乱気流があって、あとはトロポ近辺にもあるね…。降下中はとくになしか。やはり上を越して行く方が(乱気流が予測される3万7000フィートの上の高度で飛ぶ方が)良いよね
 航空機が飛行する大気は対流圏と成層圏である。
 季節や地域によっても多少変わるが、対流圏とは、普通、我々が生活している地上から約1万1000メートル上空までくらいの大気をいう。すなはち高度約3万7000フィートから下の大気である。
 成層圏は高度3万700フィート、約1万1000メートルより上から、約18万3000フィート、約5万5000メートルくらいまでの大気をいう。
 前述したように成層圏に入ると大気が安定しているが、対流圏の上部、とくに成層圏と対流圏の境目は非常に気流が不安定でジェット気流もこの付近を吹いており、飛行機は大きく流されたり揺れたりすることもある。この境目をトロポポーズといい、パイロットは可能なかぎりトロポポーズを避けて飛行するのである。
 今日の天候データーでも、森田機長が言うように3万5000フィート前後から3万7000フィートくらいの高度にかけてトロポポーズがあるので、飛行プランでは4万1000フィート(約1万2300メートル)を飛行することがディスパッチャーから薦められていた。
そうですね」と木村副操縦士も頷いて白い歯を見せて笑った。
 高高度を飛行出来るのもボーイング777の魅力のひとつであった。この最新鋭機は、MD-90やA300という従来の飛行機では特別な条件でもないかぎり上昇できない4万フィート前後の高度を乗客を乗せて比較的楽々と飛ぶことが可能なのである。
福岡行きは?」森田機長が321便の飛行計画書を手元に寄せながら尋ねた。
福岡へはプランでは3万9000フィートを飛ぶ予定になっていますが。トップ(雲の最も高い部分)が3万7、8000で夜には少しは(雲の高さが)下がるとは思うんですが、3万9000フィートで上を飛行するのが無難ですね
 機長は副操縦士の説明に頷きながら、「風も100ノットだからな(ジェット気流の風速)」と了承するのであった。
 そのあとブリーフィングはノータム、空港の状況などの航空情報(ノータム)に進んだ。 最後に森田機長はデスパッチャーから提案された飛行プランを了承し機長のサインしてブリーフィングを終えた。
いいですね。帯広を代替空港に、燃料3万7000ポンドを搭載。飛行高度は4万1000フィートだ。羽田2番スポットからRNAVルートで千歳まで飛び、千歳のスポット16番。よし、行きも帰りもこの飛行プラン通りでいいね
 森田機長はディスパッチャーが立案した飛行プランを了承して頷いた。
はい。了解しました」と木村副操縦士は、次に客室乗務員とのブリーフィングをするために、すでにディスパッチルームに集まっているキャビン・クルーに合図を送った。

▼キャビンクルーとコックピットクルーのブリーフィング
ディスパッチャー

 コックピット・クルーが飛行機へ搭乗する前に行う打合せは、すでに終えた飛行プランのブリーフィングと、これから始めるキャビン・クルーとの打合せのふたつがある。
 このブリーフィングでは、主にコックピット・クルーが客室を担当するキャビン・クルーにこれからのフライトの状況を伝達するのが目的であった。
 キャビン・クルーが機長と副操縦士を取り囲むようにディスパッチルームのカウンター前のスペースに集っている。
 華やいだ雰囲気の中で、木村副操縦士が満面に笑みを浮かべながら話を始めた。
お待たせしました。115便から321便で運航しますね。シップはB777の機番JA8977機を使用します。羽田空港のスポットは2番。前便(搭乗機)はすでに(羽田空港ゲート2番に)到着しております
 八名のキャビン・クルーが小声でハイ、ハイと返事をする姿を前にして副操縦士の声が上ずり気味に響いている。
大きなスクワーク(飛行機の故障)は聞いておりませんので、予定通り飛行機を使用できます
 ブリーフィングには、今日初めて顔を合わせるクルーもいるので、まず各々の名前と客室での受け持ちセクションの紹介から始まった。
キャプテンは森田機長で、FO(ファースト・オフィサー)木村です。パーサーが関谷さん。フォアード・センターが吉野さん。4R、丸井さん。3Lが羽戸さん。それから3Rが泉川さん。2Lが井口さん。2Rが山田さん。4Lが黒木さんですね。お願いします」 キャビン・クルーは、4Rや3Lというように客室では担当する区域が決まっている。一息すって副操縦士はブリーフィングを続けた。
ええーと、お天気ですけども、東日本、北日本についてはまだ高気圧に覆われております。高い雲が出てきましたが運航時間帯は問題ありません。晴れベースで推移します
 天候を含め、このブリーフィングで伝えられる内容は、機内でのアナウンスや乗客から質問を受けた際に答えるデーターにもなるので、キャビン・クルーは真剣にメモを取りながら副操縦士の話に聞き入っていた。
西の方はですね。東支那海から低気圧が近づいてきております。この時間帯はもう福岡では雨が降っております。徐々に大阪、名古屋と悪くなってくる状態ですね。関東の方は今日のところは影響がありません。福岡の方も視程がおちてもビロー(着陸できないほどの天候状態)になることはないと予想されていますので、予定通りの運航になると思います
 コックピット・クルーと同様にキャビン・クルーも、これから羽田、千歳の往復と羽田から福岡へのフライトに乗務するので、札幌から福岡までのルート上の天候情報はすべて必要であった。
 とくに飛行機の揺れにかかわる情報は客室サービスには欠かせない情報であった。それによって飲物や軽食のサービスの仕方も変わる。キャビン・クルーたちは真剣に耳をそばだてた。

エンルート(飛行ルート)ですけども、関東の北から東北にかけましてジェット気流が通っております。で、その近辺で今のところ揺れが予想されていますね。でも、弱いコトコトした揺れですからサービスには問題ないと思います。西の方はトップ(雲の頂上)が、3万7800(フィート)ということで、東京を上がりまして西の方に行きますと徐々に雲が高くなってくるという状態で、一部トップがクルーズ中に触れるので、そのときは強めの揺れが予想されております。福岡へのお客様は多いのですが、エンルートが長いですからサービスは充分出来ると思います。そんなところですね
 ここで一息いれて副操縦士は天候情報(ウエザー)を伝えた。
ウエザーからいきますね。東京が170度から風が20ノット。高曇りの気温15度。千歳は180度、17ノット。晴れの8度。115便の飛行データーは高度4万1000フィート。千歳空港までの飛行時間は1時間21分。飛行時速850キロ。お客様は101名。オルタネート(代替空港)は帯広です。千歳は16番スポット。
 戻りの114便は高度3万9000フィート。羽田空港までの飛行時間は1時間9分。飛行時速920キロ。搭乗客は170名。オルタネートは成田空港。東京に帰ってきますと2番スポットです。
 それから321便は高度3万9000フィート。福岡までの飛行時間は1時間39分。飛行時速700キロ。搭乗客は363名。オルタネート(代替空港)は関西空港です。
 福岡空港、最後は7番スポット。特殊なパッセンジャー(病人やVIP、犯罪者の護送などの特別な乗客)や危険物(危険搭載貨物)は聞いておりません。ハイジャック・コードはフェイズ・ワン(特別なハイジャックの警報はなく、普通コード)です。機内アナウンスは上昇中にキャプテンがします。コックピットの出入りはコックピットドアのノックを二回お願いします。その他気がついたことがあれば早めに報告してください

 最後に挨拶をお願いします、と木村副操縦士は森田機長にブリーフィングの締めを促した。キャビン・クルー全員の視線が森田機長に集まる。機長は優しい微笑みを見せて話始めた。
はい。えーと。所々揺れがありますけども、なるべくシートベルトサインはオフにしますので注意してサービス業務をやってください。主にサービスは巡航中してください。あとはシートベルト点灯時の保安業務は禁止はしません。もし天候などの状況が変わってとくに(保安業務はせずに至急に)シートに座って欲しいときは前から言います。福岡空港への最後のランディングのときはそうなると思います。あとはいいですね
 森田機長はゆっくりと客室乗務員の一人一人をみながら言った。
混成チームですですね。東京と福岡の…
 キャビン・クルーが頷く。今日の8名の客室乗務員は東京ベースに勤務するクルーと福岡ベースのクルーの混成チームであった。
福岡のひとは?」森田機長が尋ねると関谷チーフパーサーを含め5名のキャビン・クルーが手をあげた。
5名です
5名。東京3名。仲良くやりましょう
 最後に機長が挨拶をすると、クルー全員の緊張もとれて和気あいあいの雰囲気が生まれた。14時20分。機長をはじめクルー全員はデスパッチルームをあとにして2番搭乗ゲートに向かった。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第1回 GOOD SPEED ALWAYS

エアシステムのトリプルセブンが羽田空港から新千歳空港へ、そして羽田空港に戻るまでの操縦室のドキュメンタリー作品「機長席」を明日より当ブログで配信することになりました。

以前、CD付きBOOKとして朝日ソノラマ社から出版した内容に新たな加筆を加え、当時はなかった羽田-新千歳間に未公開のコックピット・サウンドを追加しより完璧なフライトの再現を心がけました。すでに「機長席」を読み、かつ、お聴きになった人にも充分にご満足頂けるものと思います。長い連載になりますが、最後までおつきあい頂ければ幸いです。

それから、連載途中で日本エアシステムのいろいろな飛行機の動画も挿入しております。その追憶の翼も想い出の1ページとしてご覧下さい。

尚、お気づきの点やご感想、ご訂正などがありましたら、その都度、コメントをお寄せ頂ければ幸いです。(解説文中で使用したデータはすべて1999年4月のものです)

さようなら 虹色の翼
苦しいときも 辛いときもあった
虹色の翼のもとで 
みんなで同じ夢を見たことだけは
決して 決して 忘れない

誰が作った詩なのか知りませんが、美辞麗句も気取りもないこの「虹色の翼」という詩が何故か胸に届きます。「虹色の翼」への忘れがたい想い出が素朴に伝わって来ます。

僕も「虹色の翼」に想い出をたくさん貰いました。そのおかえしに、といっては失礼かもしれませんが、「かって虹色の翼のもとに集った」すべてのひとに、この作品を捧げたいと思います。Good Speed Always・・・・

武田一男

動画「虹色の翼」



※再生ボタンが表示されない場合は、再度「再読み込み」または「更新」をしてください。動画が流れます。

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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【ヒマラヤ飛行_補足】昆明について

中国南の景勝地 昆明へ着陸」の配信の前に、馴染みの薄い昆明を少しばかり紹介。

昆明市は雲南省の省都で、雲南省の政治・経済・文化・交通の中心地として栄えてきました。人口は608万人、東京の約半分、ちょうど千葉県の人口にちょっと欠ける感じでしょうか。海抜はおよそ1,900mと高原にあって、冬の厳しい冷え込みもなく、夏の猛暑もない、年間を通して過ごしやすい地域から、「春城」の異名もあるそうです。暖かい気温がウリのようで、でも、最高海抜が4,223mの、軽く富士山を抜く「雪山」なんかもあったりします。
雲南省の人口は4300万人。そのうち少数民族は1200万人もいるのだそう。それで「少数民族」だなんて、ぜんぜん説得力ありませんが、とにかく、ベトナムやラオスの国境に隣接し、昆明市にも12の民族が集まっていて、それぞれの言葉で生活しているらしい。昆明から90kmほど離れた石林県には、カルスト溶岩地質の奇観を臨む石林公園があります。
昆明空港、昆明巫家?国際空港(Kunming Wujiaba International Airport:KMG)は中国の中でも大きな空港で、日本は関空、ラングーン、バンコク、シンガポールなど国際線7路線、香港、北京、上海など国内線の40路線が乗り入れていて、昆明空港のほか、雲南省自体には、大理、麗江、保山、シーサンパンナ、昭通、臨滄、德宏、迪慶シャングリラ空港があります。

昆明って…、行ったこともなければ、話題に上ることもなかったので、残念ながら私はよく知りません。ただ、Wikipediaなんかの写真を見ているとビルが多く、それも区画整理されているようなイメージ。
もう少し詳しく知りたい、という方はこちらのレポートを。

■昆明観光
http://jp.chinakunming.travel/
上記のサイトに行くと、「昆明で毎日が常春です」とのメッセージが。「写真芸術」のコーナーは必見。東川の土石流の真っ赤な絨毯に菜の花の絨毯、都市部から離れると色彩鮮やかな風景が目に浮かびます。

▼「Fast & First」より
http://www.fnf.jp/travel/china.htm
「Fast & First」というサイトの管理者の方による昆明レポート。普段は執筆業をされているらしく…さすが。イメージが浮かびました。(写真は「Fast & First」さんのものです。画像をクリックで該当ページにいきます)
「Fast & First」のリンク

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【ヒマラヤ飛行_補足】中国からカトマンズまでの国境について

「ヒマラヤ飛行」のルート、中国からカトマンズ空港までは、紛争が多く国境がとても複雑になっていて、交信がやっかいなので、分かる範囲で補足を。
修正、その他ありましたら教えてください。

インド、アジア諸国は、1800年前中頃まで東インド会社に支配されていた(香辛料や茶葉、綿花などの貿易とその植民活動を目的として設立された西欧の独占的特許会社。イギリスが1600年、オランダが1602年、フランスが1604年設立)。
ビルマ(現ミャンマー)はイギリス領インドへの侵略に対するイギリスとの3度の戦争(英緬戦争)に敗れ、ビルマの半分がイギリス領インドに併合されることになる。
一方、イギリス東インド会社に支配されていたインドでは、1857年にインド大反乱(セポイの反乱)を起こし、1877年にイギリス領インド帝国となる。
1947年にはパキスタンがイギリス領インド帝国から独立することになり、インド連邦、スリランカの3国に分離。パキスタンは3回の印パ戦争を経て、1971年には、東パキスタンがバングラデシュとして分離独立することになる。

また、ヒマラヤ山脈のあるネパール、インド、中国、ブータンのあたりはほぼ全域が高山地帯で、国境も曖昧だったため、その国境をめぐって1959年頃から1962年には大規模な軍事衝突に発展。主にカシミールとその東部地域、ブータンの東側で激しい戦闘をし、中国が成功を収めるも、解釈をめぐってはいまだに緊張状態が続いている。この紛争をきっかけに、インドは核開発をするようにもなる。また、中ソ対立の影響で、ソビエト連邦がインドを支援し、印パ戦争では中国がパキスタン側にまわるなど、大国の対立も色濃く残っている。(竜子)

▼参考 イギリス領インドの地図
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e6/British_india.png

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Chapter31 カトマンズ・トリブバン空港着陸

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

 仙波機長は着陸を担当するカトマンズ空港タワー管制に周波数を変えた。そして再度、高度設定を確認した。

(現高度、6,800フィートは)6マイルまでですね
はい。6マイル」と頷いて牧機長も確認する。仙波機長はタワー管制を呼んだ。
カンマンズ・タワー エアシステム8517 ナウ 7マイル ファイナル ランウエイ インサイト
(カトマンズ・タワー管制へ。こちらスアシステム8517です。現在、最終7マイル地点です。滑走路確認しました)
エアシステム8517 ウインド ウエスタリー 10ノット クリア トゥ ランド ランウエイ02
(エアシステム8517へ。風は西から10ノット吹いています。滑走路02へ着陸を許可します)
 管制官は女性である。独特の訛りのある英語が響いてきた。
エアシステム8517 クリア トゥ ランド ランウエイ02」 仙波機長は着陸許可を復誦し、牧機長が再度、高度設定を確認した。
6の68」(6マイルまでは高度6,800フィートで)
6マイル OK、ネクストは5マイルの6,100
 仙波機長はチャートをチェックして次の高度設定、5マイルを6,100フィートで飛行することを確認し、牧機長がナビゲーションをコンピューターにセットする。
OK、5マイル過ぎましたら、4マイルまでは5,800(フィート)、5マイル、5,800。スピード アルトスタンド
 牧機長が頷く。
ゴーアラウンド アルトは15,000(フィート)
(着陸やりなおしの場合の高度は15,000フィートです)
セット
ランウエイ イン サイト ランディング」と牧機長。
(滑走路確認。着陸します)
 もう、エアシステム8517は空港を取り巻く山の最後のなだらかな山腹を降りてランウエイに向かっていた。
 高度は5,800フィートだが滑走路の標高が約4,200フィート(1,400メートル)あるので実質高度は約1,600フィートしかない。
アプローチ、ナウ グライドスロープ」(グライドスロープに乗りました)
 滑走路の末端から発する下降進入のビームに乗って高度を下げる。
サーフェス・ウインド(滑走路上の風)は…?
もう一度、聞きますか? あまり当てににならないサーフェス・ウインドですけど…
そうね」と牧機長。普段の着陸なら管制官が風速と方位が変わるたびに航空機に知らせてくるが、カトマンズの管制官はランディング・クリアランスの時に、ウエスタリー、10ノット、と大まかに知らせただけでその後アナウンスはない。
これが350度の15ノットです
 仙波機長は飛行機の計器に表われている風速と方位を読み上げた。ヘディングが20度なのでほぼ正面の風、若干、左から吹いている。「マニュアル スラスト」と牧機長はオートパイロットをオフにして、手動に切り替えた。
 眼前を鳥の群れが飛んだ。
バード」と牧機長が確認する。ランウエイの末端が薄暮の中に鮮やかに浮き上がって見える。
ワン・タウザンド」仙波機長が高度1,000フィート通過を告げた。そして下降ビームを見ながら、
スライトリー ビロー」と機体が少し低く進入していることを告げる。すぐ牧機長は飛行機をビームに乗せた。
ちょっと、(高度が)高く見えると思いますので
 滑走路の末端が目の前に迫った。
400(フィート)」コンピューターの音声が高度を読み上げる。あと、接地まで120メートルだ。
300(フィート)」仙波機長が高度計を読んだ。
スタビライズド ランデング!」牧機長が着陸を告げる。
200(フィート)」とコンピューターの声。滑走路が茶色の帯びを流したように後へ飛ぶ。
330(度から)、10ノット」仙波機長が滑走路の風を計器で読み伝える。
100…50、30、20、10、5…
 エアシステム8517は滑走路に接地した。すぐリバースがかかり機体が減速する。
80(ノット)」仙波機長がスピードを告げた。
エアシステム8513…コンタクト・グランド121.9
 訛りの強い管制官の音声は聞き取り憎い。
ラジャ。ピックアップ3 エコシナ2 スイッチ トゥ グラウンド 121.9
(領解しました。ピックアップ3、エコシナ2、地上管制121.9メガヘルツに変えます)
ア ファーム ゲート2」(ゲート2です)
それではレフトターンで
カトマンズ・グランド エアシステム8517 リクエスト タクシー
(カトマンズ地上管制へ。こちらエアシステム8517です。地上走行の許可を願います)
 客室ではカトマンズ到着のアナウンスが流れている。
皆様、ながらくのご搭乗お疲れ様でございました。只今、カトマンズ・トリブバン国際空港へ到着いたしました。こちらの時間で午後4時42分でございます……

見上げると周囲の薄暗い山並みから抜きんでるようにエベレストがあるクーンブー・ヒマラヤの峰々が黄金色の夕陽をあびて王者の風格で天空にそびえ立っていた。

END

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter30 山越へのアプローチコース

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

スペアー…チェック
それではこちら(VHF無線NO.2)をモニターします

 仙波機長がカトマンズのカンパニー無線の周波数をNO.2無線機に合わせて言った。
 管制官がブッダ84便に9,500フィートまでの下降を指示する無線交信が聞こえる。そして新たにカトマンズ進入管制エリアにブッダ航空664便が入ってきた。ポカラ(アンナプルナに近いネパールの観光地)からカトマンズに向かう双発旅客機である。

フラップ 20」(フラップを20度に下げてください)
 牧機長の指示で仙波機長は下げ翼を20度にして言った。
16マイル、ノペン過ぎましたら、(高度)10,500(フィート)で13マイルまで(水平飛行)ですね
 前述のように盆地の底にあるカトマンズ空港へのアプローチは周囲にある山並み(山の高さはおよそ6,000から9,000フィート)に添って尾根の階段を下るように進入する。そのため滑走路までの距離によって微妙な高度設定がある。
OK、ギア ダウン」(車輪を降ろしてください)
ギア ダウン
 牧機長の指示で仙波機長が車輪を降ろした。床からゴトンとくぐもった車輪の降りる音が響く。
バーチカルスピード
ギア ダウン スリー・グリーン」車輪が完全に降りた緑色のランプが灯った。着陸に際してコックピットでは一連の点検作業が続く。
マスター コーション
AFS
インカム アクション
ウインド・シェア アラート ノット アベラブル
OK
フラップ 40」最終フラップが降りた。
セームが出たら切りますから…ノペン
 エアシステム8517はウエイポイント・ノペンに達した。仙波機長がすぐ報告する。
カトマンズ・アプローチ エアシステム8517 デパーテッド ノペン
(カトマンズ進入管制へ。こちらエアシステム8517です。ノペンを過ぎました)
エアシステム8517 ラジャ コンティニュー アプローチ
(エアシステム8517便へ。領解。そのまま進入して下さい)
ラジャ コンテニュー アプローチ
 仙波機長は交信を復誦して、
13マイルまで(このまま水平飛行で)」と牧機長に現在高度での飛行を確認した。
ノット アプリカブル
クリア
ステータス…クリア
ブリード アドバイザリー セームですのでクリア
スピード アルトスター
バーチカル スピード
 アプローチの計器点検が続いたあと、仙波機長は再度、進入方式を確認する。
13マイルを過ぎましたら…
(高度は)95。9,500(フィート)」と牧機長。

 3,000メートルほどの山を超えた。ヒマラヤの夕映えを除いては下界は薄暗く、山麓に広がる段々畑も灰色の縞模様となって足元から消え去っていく。
 又、ひとつ大きな尾根を超えた。尾根の背にはえた広葉樹林をかすめるように飛ぶ。
 まだまだ続く山並みの向こうにやっと平野が現われその真中にカトマンズの街が見えた。街は数センチの小さな茶色の箱を無数に散らしたように平野の中に不規則に広がり黄昏の中で煙っている。

はい。95(9,500フィート)です。13マイル(地点通過)」「リトル オア アバーブ」(少し高い)
ちょっと2,000ほど使わないと駄目みたいですね。ランウエイはインサイト(目視可能な状態)ですが、結構、(高度が)高いですからね
 街の外れに空港が見え、薄闇に消えようとする灰色の滑走路が放つ白と赤の光が小さなクリスマス・ツリーのように瞬く。
 だが、空港は遥かにまだ下の谷底にある。
今、飛行機は取り囲む高い山々が作るすり鉢の縁を飛行しており、これから山を下ってその底にあるカトマンズ空港へ下降するのである。
 管制官が西から進入するブッダ航空84に前方、10マイル地点にエアシステムのエアバスがアプローチしていることを告げた。

10マイルまで9,500(フィート)
 仙波機長がアプローチ・チャートを見ながら、再び、進入方式を確認する。
 パキスタン航空のA-300は10マイル地点、高度7,500フィートで山腹に激突している。尾翼を山の小さな峰でこすって機体がまふたつに折れたのだ。
(次は)8マイルまで8,200(フィート)

 進入は滑走路から1マイルの所にあるアプローチ・ポイント、KTM(キロ・タンゴ・マイク)より10マイル手前まで9,500フィートで飛び、10マイルを過ぎると高度を8,200フィートに維持し8マイル地点まで飛ばねばならない。水平飛行と下降が微妙な距離と高度で何回も繰り返される。このアプローチが難しいのだ。
じゃあ、ランディング・チェックリストをしておきます
 仙波機長が着陸最後の計器点検を始めると客室ではランディングのアナウンスが流れた。

ご案内いたします。当機は最終の着陸体制に入っております……
ランディング ギア
スリー グリーン
フラップ
40
ランディング チェックリスト コンプリート
(着陸最終計器点検完了)
8マイル過ぎたら、6マイルまで6,800(フィート)
はい。領解
アルト スター
はい。8マイル(地点)です
 8マイル地点で管制官から交信が入った。
エアシステム8517 ポジション 8マイルス フロム キロ・タンゴ・マイク(ランウエイ手前の最後のウエイポイント)コンタクト カトマンズ・タワー 118.1
(エアシステム8517へ。現在、KTMから8マイル地点です。以後はカトマンズ・タワー 118.1メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム8517 サンキュー スイッチ トゥ ザ タワー 118.1
(エアシステム8517です。ありがとうございました。タワー管制118.1に連絡をします)

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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