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Chapter13 最終進入 タービランス

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 管制が空港のタワー管制に移管した。牧機長が118.1に周波数を変えて呼び掛ける。
クンミン・タワー エアシステム8517 リーチング 6,000メーターズ
(クンミン・タワーへ。こちらはエアシステム8517です。高度6,000メートルです)
ラジャ エアシステム8517 クリア ディセンド トウ 4800メーターズ ウドウ ユー スピード 250ノット オア ビロー
(領解しました。エアシステム8517へ。4800メートルへの下降を許可します。進入速度を250ノットかそれ以下にできますか?)
エアシステム8517 メインティン 4800メーターズ アンド デデュース エアスピード 250ノット オア ビロー
(エアシステム8517です。4800メートルに下降します。そして速度を250ノットか、それ以下にします)
 雲に入った。厚い雲ではないが黒い雨雲の群れが激しい勢いで後方に流れ去る。
ちょっと、エンジン・アンティアイス(エンジン防氷装置)を入れてもらえますか?
はい」と牧機長がエンジン氷滴防止装置をオンにする。機体が上下に揺れ始めた。
エアシステム8517 コンティニュー ディセント トウ 4,200メーターズ フォロー シエラリマ3 アライバル」(エアシステム8517へ。引き続き4,200メートルまで下降を続けて下さい。そしてSL3の進入方式に従って下さい)
エアシステム8517 ラジャ ディセンド 4,200メーターズ アンド フォロー シエラリマ3 アライバル」牧機長が復誦する。
 外気温が下がっている。雲が完全に機体を包み機体の揺れがひどくなった。高度1万フィートを通過。
結構、(気流が悪い)ですね。山に雪が降っているくらいだから。2点打しますから
 仙波機長が客室に2点打で最終進入を知らせ、進入時の計器点検を指示した。
アプローチ・チェックリスト」(進入計器点検)
OK。インカムステータス………チェックド ランディング・データー………セット
エアシステム8517 コンティニュー ディセンド トウ 3600メイターズ QNH1021
(エアシステム8517へ。3600メートルへ引き続き下降して下さい。気圧は1021ミリバールです)
ラジャ ディセンド メインティン 3600メーターズ QNH1021
 また、かなり機体が激しく揺れた。チーフパーサーが着陸時の案内をする。
皆様、これより着陸体制に入ります。お席の背もたれ、テーブルを元の位置にお戻し下さい。少々、揺れておりますため、安全のために客室乗務員も着席させて頂いております。お席の背やテーブル、肘掛などはどうぞご自身でお確かめの上、しっかりと元の位置にお戻し下さい。これより先は出発の際、ご案内いたしましたようにすべての電子電気機器のご使用を一端お控え下さい
 機内アナウンスの間、コックピットではアプローチチェックが続いていた。
118
トランジション118 1021」(気圧高度計の地上気圧設定は高度フィートで1021ミリバール)「1021」(気圧1021ミリバール)
ちょっと揺れるな。丁度、(雲の)下をくぐっているから
アンチアイス オフ お願いします

 雨雲を抜けた。揺れが少し収まって眼下に昆明の街が広った。
 雲南省の省都である昆明は雲貴高原の中部にあり一年を通して穏やかな気候に恵まれているので中国の避寒地として知られ、最近は雲南や四川の観光拠点として発展している。
 街はに高層ビルが目立ち街の左手には昆明湖と呼ばれる大きな湖が見える。

それからアプローチ(チャックリスト)はアルティメーター(からですね)?」と牧機長が中断した計器点検を始めた。
1021(気圧高度計)
1021 オートブレーキ LOW イグニッション………アプローチチェックリスト コンプリート」牧機長は手際よく計器点検を済ませて言った
エアシステム8517 ディデュース スピード 200ノット」(エアシステム8517へ。速度を200ノットにして下さい)
 この時間、昆明に着陸する国内線のトラフィックが増えて、管制官が進入速度の制限をしている。
エアシステム8517 ラジャ エアスピード 200ノット
スラット イクステンド
イクステンド
 着陸するトラフィックの中国語の交信が続く。
1,000 トウ レベル
ラジャ
 まもなく高度3600メートル。
エアシステム8517 クリア トウ ILSアプローチ ランウエイ21 ディデュース スピード 180ノット オア ビロー
(エアシステム8517へ。滑走路21へILSアプローチを許可します。進入速度を180ノットか、それ以下にして下さい)
エアシステム8517 ラジャ クリア トウ ランウエイ21 アプローチ アンド スピード 180ノット オア ビロー
最終進入の許可が出た。エアシステム機はILSに乗って進入を始めた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter12 昆明空港へ下降開始

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クンミン・ ウージャーパ・エアポート インフオメーション・ウイスキー(W) 0600 ユニバーサルタイム ILSアプローチ ランウエイ21 トランジション・アルティチュード 2200メーターズ トランジション・レベル 2600メーターズ ウインド 230ディクリー ウインドスピード 02メーターズ ビジビリティ アバーブ 10キロメーターズ フュー690メーターズ ブロークン 1290メーターズ テンパラチャー 12 センチグレート デューポイント 08 センチグレート QNH1021 QSB0812 アドバイス ア イニシアル コンタクト ユー ハブ インフォメーション・ウイスキー
(クンミン・ウージャーパー・エアポートです。空港情報W。600標準時、ILSアプローチで滑走路21。トランディション・アルティテュードは2200メートル。トランジション・レベルは2600メートルです。風は230度から風速2メーター。視程は10キロ以上です。ビューは690メートル、ブロークンで1290メートル。気温は12度、露点温度は8度、気圧は1021ミリバール、QSBは0812です。)

 管制エリアがクンミン・コントロールに変り、管制官が呼び掛けてきた。
8517 イクスペクト 5400メーターズ バイ シエラ(S)リマ(L) レポート フォア ディセント
(エアシステム8517へ。SL地点で5400メートルになるように下降して下さい。下降開始時は報告して下さい)
 SLはクンミン空港から東に69マイルのウエイポイントである。
エアシステム8517 ディセンド 5400メーター アット シエラリマ(SL) リポート レディ フォア ディセンド」仙波機長が管制指示を復唱した。そして牧機長と操縦を交代する。
アイ ハブ ATC」(管制交信を交代します)と牧機長が操縦を仙波機長に渡して管制交信を受け持った。仙波機長が現在の管制状況をブリーフィングする。
ユー ハブ ATC。ATC(管制)はSL 5400メーター リポート レディ フォア ディセントです」(管制交信をお願いします。シエラリマ地点で高度5400メートルで管制に報告を入れることになっています。下降準備お願いします)
OKです
昆明空港が近いので中国国内便の交信が多くなった。さきほど通過した貴陽一帯と比べて山が低くなり丘陵が連なる。
このあたりは土が赤いんですね。多分、鉄鋼石のようなものを含んでいるのでしょうね」と牧機長。
 緑の山々の間に所々、高地を開拓して作った段々畑が見えてきた。
(昆明の)街はこのあたりから開けてくるんですよ。右の方は雲貴高原です。雲南省から貴州にかけての高原になっているんです。(そして左側を指さして)こちらの方は大分開けて居るんですね…
あ、雪がもう………」小高い山には積雪が見られる。仙波機長が首を長くして窓の外を見た。
ほんとだ。まっ白だ。ほう、珍しいね。こんなに南へ来て雪を見るとは………
 下降予定地点が近づいた。フライトプランでは EOC;TONAD/106NM (下降開始はトナド(TONAD)から106マイル地点)となっている。
じゃあ。レディ フォア ディセンド
(じゃあ。下降の準備が完了したことを管制に伝えて下さい)
クンミン・コントロール エアシステム8517 レディ フォア ディセンド
(クンミン・コントロールへ。こちらエアシステム8517です。下降の用意が出来ました)
エアシステム8517 クリア ディセンド トウ 6,000メーターズ リポート リーチング」(エアシステム8517へ。高度6,000メートルヘの下降を許可します。到達したらリポートして下さい)
ラジャ クリア ダウン 6,000メーター リポート リーチング エアシステム8517
(領解。6,000メートルでリポートします。エアシステム8517)
イミディアトリー・ディセンド」(速やかに下降に移ります)と仙波機長が言った。
バーチカルは1500で」エアシステム8517は毎分1500フィート降下率で下降に移った。仙波機長がベルト着用のサインを出した。それを知らせるピンという音が響く。
 客室ではチーフ・パーサーが下降を告げるアナウンスを始めた。
皆様。先ほどより次第に高度を下げております。お席のベルトをお確かめ下さい。これより先はお手洗いのご使用をお控え下さい。只今をもちまして免税品の販売を一端終了させていただきます。お買い忘れのお客様はクンミン離陸後、どうぞお早めにお申し付けくださいませ
 インターホン電話のチャイムが鳴った。チーフ・パーサーが後部客室のアシスタント・パーサーと会話する様子が聞こえる。
はい。APです
(トイレ)お待ちの方はどれくらい?
あと………6名ぐらい並んでいらっしゃいます
やっぱりな」と仙波機長。クンミン空港での給油の時間、約50分ほど乗客は機内にいることになり、そのあいだはトイレが使用できないのだ。
2点打があったら(席に)帰ってもらってください。もうしわけないけど
空席が後にありますので、(もし遅れた乗客がいた場合)最終的には(その席へ)ご案内します
わかりました。あと給油のタイミングなんですが、一端ディスアームドします。書類のやりとり(地上スタッフとの)が終わってキャプテンから給油が始まるという連絡がありましたら、私の方でアームドコールをかけます。あと一応、1L以外のドアは開けないということで。ガベージの取り降ろしも1Lドアを通過する予定です。なので特別な連絡がないかぎりはアームド(ドアロックをした状態)のままで……
 クンミンの管制官が呼び掛けてくる。
エアシステム8517 コンタクト タワー 118.1 グッデイ
(エアシステム8517へ。以後はクンミン空港タワー管制118.1メガヘルツにコンタクトして下さい)
エアシステム8517 ラジャ コンタクト タワー 118.1 グッディ

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter11 貴陽上空 キャビンクルーの昆明空港下降打ち合わせ

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 クイヤンコントロールからクンミンコントロールに引き継がれたエアシステム8517はトナド(TONAD)を過ぎた。下降開始まであと17分である。
 下降前の客室の様子がインターホンで伝わってくる。

はい。APです」チーフ・パーサーに呼ばれて後部客室のアシスタント・パーサーがインターホンに応えている。
映画が終わりますのでソフトドリンクの準備をお願いします
はい。領解しました
14時40分に高度降下を開始。ほぼ同時にベルト オンになります、ということです」昆明(クンミン)空港は標高1900メートルの雲貴高原の真中にあるので下降開始から着陸までの時間が短いのである。
領解です
それで15,000(フィート)通過ぐらいで2点打しますので、そのときにチェック、お願いします
はい。わかりました
時間(2点打の)は、すみません。(機長から)聞いてこなかったんですが、40分にベルト・オンしてからランディングがオン ジ アワー(定刻)なのでその途中と思って下さい
では、早めに40分くらいまでには終了(機内サービスを)してかたずけるようにします
 キャビン・クルーのインターホン電話を聞いていた仙波機長が会話に加わった。
あのね。45分ぐらいに1万フィート通過の合図をしますから
はい。わかりました。ありがとうございます
はい。モニター OKです
それからランディングしてから、いつもの入国審査待ちのアナウンスは不要です
はい。領解しました
 クンミンには給油のためのテクニカル・ランディングなので、その間、乗客は機内で待つことになっている。給油中に乗客が機内にいるという定期便では考えられない状況にクルー全員が神経を尖らせていた。
それで一端ランプインしたら通常通りディス・アームド(客室のドアロックを外した状態)にします。お客様には作業を始めるので出来るだけお席を立たないで下さいということと、お手洗いは使えませんという案内をいれますので。で実際に作業(給油)が始まるときに私の方からアームド(ドアロックをする)のコールを入れます。作業中は保安要員のひとは必ずドア前に立っていることと、非常口のバゲッジはきちんと処理しておいて下さい
わかりました。使用ドアは4Lか4Rか見て確認するということですか?
えーと、ゴミは……見て確認して下さい
その場合はディスアームドのままで
ちがいます。(ドア)は全部ディスアームドです。とりあえず作業(機内清掃など)が終わってから給油になると思いますから。もし、変更があるようだったら、又、詳しく連絡します
わかりました。アナウンスに従います
(給油)作業中に燃料臭とか異臭がした場合にはダイレクトにコックピットにインフォメーションしてください。お願いします
ミッド(客室中央)は3Lが(インターホン受話器を)取っていました。ただ今、ミッドではソフトドリンクの準備をしております
後方も同様です
じゃあ、同時配布(ドリンクサービス)でいきましょうか
 エアシステム8517はまもなく貴州省から中国最西の雲南省に入る。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter10 中国南の山岳地帯・雲貴高原東上空

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コックピット、お願いします。AP(アシスタント・パーサー)です
はい。どうぞ」と仙波機長が会話を中断してインターホン電話に応えた。
テンプ(機内温度)なんですが、C3が熱いのでちょっと下げて頂けますか?
はい。領解しました
ちょっとで結構です
C3…
 そのとき管制官が呼び掛けてきた。
ジャパン・エア8517 …
エアシステム8517 ゴー ア ヘッド」(エアシステム8517です。どうぞ)
アー ユー エスタ8517 カンポ?」(エアシステム8517ですか?)
ジス イズ エアシステム8517」(そうです)
ラジャ エアシステム8517 メインテイン 9,600メーターズ コンタクト クイヤン122.2」(領解。エアシステム8517へ。高度を9,600メートルにして下さい。そしてクイヤン(貴陽)コントロール 122.2へ連絡して下さい)
ラジャ メインテイン フライトレベル 9,600メーター アンド コンタクト クィヤン123.2」(領解しました。高度9,600メートルに下げ、クイヤン・コントロール123.2に移管します)
…フリクエンシー 122.2」ブロークンな英語ながら中国管制官の素朴で親切な人柄が交信に滲んで居る。
はいはい。122.2」と牧機長が苦笑しながら訂正をした。
…バイバイ」と素朴な管制官。
 エアシステム8517は湖南省を過ぎて、これから中国大陸のほぼ中央にある貴州省に入ろうとしている。管制エリアも武漢(ウーハン)から貴陽(クイヤン)に変わった。
まあ、だけど(このあたりを)飛ぶと気持は良くないですね」と、突然、仙波機長が言った。
え?」牧機長が怪訝そうに仙波機長を見た。
(周辺に)空港が全然無いからね。いちばん近い空港で162マイルだ」と仙波機長はコックピット計器にあるCRTでそこに映る周辺の空港位置を指さしながら言う。牧機長もうなずいて機窓に目をやった。

眼下は2,000メートル級の深い山々が次第に増えてきた。雲貴高原の東の外れである。このあたりは中国大陸の中でもまだ未開の地とされている高地で手つかずの自然が広い範囲に点在している。今、飛行機の右手に見えているる武陵源(ウーリンユアン)もそうである。深い森と幽玄な渓谷、そして1,000メートルを超えて聳り立つ石の柱…など、1993年に世界遺産に登録された美しい風景地だ。
 飛行機はまもなく貴州省の州都、貴陽(クイヤン)の南にさしかかる。

 牧機長がクイヤン・コントロールを呼んだ。
クイヤン・コントロール エアシステム8517 レベル 9,600メーターズ
(クイヤン・コントロールへ。こちらはエアシステム8517です。高度9,600メートルで飛行しています)
…17 ゴー ア ヘッド
うおー」雑音と力のない管制ボイスに牧機長が驚く。
ゴー ア ヘッドでしょうけど…」と仙波機長も当惑顔だ。
元気のない声だな」そして再度呼び掛ける。
エアシステム8517 ポジション HYN(ホテル ヤンキー ノベンバー)アット 0547 レベル 9,600メーター エスティメイテング QNX(ケベック ノベンバー エクスレイ) 0618 トナード(TONAD) ネクスト
(エアシステム8517です。HYNを5時47分に通過、高度9,600メートルで飛行しています。次のウエイポイントQNXには6時18分の到着予定でトナードに向かいます)
…エアシステム8517 …クィヤン・コントロール 9,600メーター …リポート …QNX(ケベック ノベンバー エクスレイ)
 やっと聞き取れるほどのか細い声である。
ラジャ メインテイン 9,600メーター リポート アット QNY(ケベック ノーベンバー エクスレイ) エスティメイテング QN 0618
(領解しました。高度9,600メートル。QNXでリポートします。QNY到着予定は6時18分です)牧機長は念のために詳細にリポートを繰り返した。
オールニッポンに聞こえましたね」と仙波機長が苦笑する。そして言った。
ロイヤルネパール(ネパール航空のコールサイン)はオールニッポンに聞こえるんですよね。オールパールというから
 エアシステム8517は航空路A581を西に飛行を続けた。あと300マイルで昆明空港着陸である。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
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Chapter09 中国の水郷地帯 洞庭湖上空 カンパニー交信

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 仙波機長は会社運航部への交信、カンパニー無線を始めた。
カンパニー無線はHF無線でホンコン経由で東京に伝えられるが、香港でカンパニー無
線を中継するのは香港の航空会社「ホンコン・ドラゴン」である。

ホンコン・ドラゴン ホンコン・ドラゴン ジス イズ エアシステム8517 オーバー」(ホンコン・ドラゴンへ。こちらエアシステム8517です。)
あ、きたきた」と仙波機長。HF無線独特のノイズの中からエアシステムの東京運航課がエアシステム8517を呼ぶ声が聞こえた。
呼んでる
ホンコン・ドラゴン エアシステム8517 リクエスト フォーンパッチ ウイズ エアシステム トウキョウ
(ホンコン・ドラゴンへ。こちらエアシステム8517です。エアシステム東京へのフォーンパッチをお願いします)
 フォーンパッチ(飛行機からの社内無線)は香港で中継され電話回線で東京のエアシステム運航部に送られる仕組になっている。
エアシステム8517 エアシステム・トウキョウです。どうぞ」(エアシステム8517へ。こちらはエアシステム東京運航部です。どうぞ)
エアシステム8517です。現在、ホックスロット・マイク(FM)NDBの手前、60マイルです。(高度は)10,800メートル。オペレーションはノーマル(順調に飛行中)、昆明到着予定は0700です。どうぞ
エー…60マイル ノーマルまで聞こえました。もう一度、ポジションと昆明到着予定をお願いいたします。どうぞ
はい。領解しました。ポジションはホックストロット・マイク(FM)の手前60マイル、ノース・イースト。10,800メートル(高度)、昆明到着予定は0700です。どうぞ
…領解しました。聞き取れました。オペーレーションはノーマル、領解です。昆明方面、こちらの方はクラウド(雲)が27,000(フィート)ぐらいの薄い雲ですが、とくに(注意する)ことはないと思います。トランジット・テイクオフの件はエーカーズ(衛星通信装置)でそちら(飛行機)に上がりましたでしょうか?
はい。カーゴ(搭載貨物)が2,000ポンドプラス分、こちらで受領しております。どうぞ。尚、昆明、カトマンズの天候をお願いします
領解しました。少々、お待ち下さい
……・
 電波の状態があまり良くないので無線が途切れてしまう。
ああ、駄目か?…あとでエーカーズ(衛星通信装置)で取るからいいですかね」と仙波機長は牧機長に尋ねた。そのとき再び、無線がつながった。
…カトマンズにつきましては後ほどお送りします。昆明14時(14時現在の天候)です。風は280度、2メーター パーフェック、ヒュー2300、ブロークン、4300、(気温)7度…1022です。どうぞ
…QNH1022、視程だけもう一度お願いします。どうぞ
視程は10キロ以上です。どうぞ
はい。領解しました。カトマンズはエーカーズ(衛星通信装置)で取ります。ありがとうございました。それではフォーンパッチをクローズします
領解しました。いってらっしゃい」と東京運航部は電話を切った。
ホンコン・ドラゴン ホンコン・ドラゴン コンプリート フォーンパッチ サンキュー バイバイ
 仙波機長は中継してくれたホンコン・ドラゴンへカンパニー無線の完了を伝える。
…ホンコン・バイパイ
昆明は(視程が)10キロ以上…、弱い雨みたいと言っているようですね。風が280(度方位)だから滑走路(21)ツー・ワンで、(向かえ風なので)問題ないですね。カトマンズは…
 カンパニー無線を切って昆明空港のデータを見ていた仙波機長は眼下の河と湖に気付いて思わず言葉を失った。
うあー、凄いな。ここも」と仙波機長はこれから先に通るバングラディシュのデルタ地帯と比較しながら機外を眺めて言った。

 窓の外は湖南省にある幾つもの川が湖に流れ込み、それらが長江と合流して1万メートルの高度から眺めても圧倒されるような壮大な水のパノラマを見せている。
 この中国の湖南省にある湖、洞庭湖(トンティンフー)は中国で二番目に大きい湖で、春秋戦国時代には湖と沼が無数に集まる湖沼群だったが、その後開墾と水利工事によってひとつの大きな湖となったのだという。湖畔には岳陽や長沙など観光地が点在して中国を代表する美しい水辺の風景として知られている場所だ。
 そもそも今回のエアシステム8517のフライトは長江を辿るように飛んでいる。長江の河口である上海から中流の武漢、そして洞庭湖と、長江に沿って西に飛行しているのだ。

しょっちゅう(雨で)河(の位置)が変わっているんだよ。(その変化を)地図に乗せ切れないんだな」と牧機長。
だけど中国大陸はシルクロードからずっと(西に)行けば、ヨーロッパにつながっている。これは何かロマンを感じますね
 仙波機長もが感慨深くつぶやいた。
日本の上を飛んでいると左を見れば太平洋、右を見れば日本海が(一度に)見えますからね。ここは陸しかない…
 キャビンからのインターホンが鳴る。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter08 中国内陸飛行 長江(揚子江)に沿って武漢へ

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中国内陸飛行が始まった。エアシステム8517は上海から内陸に入り中国有数の湖、大湖を右に見て航路R343に乗って西へ。三国時代の古戦場として知られる合肥(ホーへェイ)上空を通り、長江(揚子江)に沿うように飛行して華中の大都市、武漢(ウーハン)に近づいていた。管制エリアは上海管制から引き継がれ現在は合肥(ホーへェイ)管制下にある。。
内陸に入ると国際線の航空機は少なくなりコックピットのスピーカーからたえまなく中国国内線の中国語交信が流れている。牧機長がすばやくその流れに割り込んで合肥(ホーへェイ)管制と現在地の位置交信を始めた。

ホーへェイ・コントロール。エアシステム8517.ポジション ミダックス
(合肥(ホーフェイ)管制へ。こちらエアシステム8517です。現在、ミダックス上空です)
ミダックスとは武漢の手前にあるウエイポイントである。
エアシステム8517…」その管制官の声は躊躇なく中国語交信に遮断された。
割り込んできゃがったな」牧機長が苦笑しながら待つ。交信への割り込みは国際線飛行には欠かせない副操縦士のテクニックのひとつでもある。
一連の中国語交信がひと息つくと管制官がエアシステムを呼んだ。
エアシステム8517 コンタクト 武漢(ウーハン)コントロール 118.9
(エアシステム8517へ。今後は 武漢(ウーハン)管制、周波数118.9へ連絡して下さい)
エアシステム8517。ラジャー118.9」牧機長は周波数を切り替えて武漢(ウーハン)管制を呼んだ。
ウーハンコントロール エアシステム8517。フライトレベル 10,800メーター」(武漢管制へ。こちらエアシステム8517です。飛行高度10,800メートルで飛行中です)
エアシステム8517。ウーハンコントロール エアシステム8517。 ラジャー ゴー ア ヘッド」(こちら武漢管制です。続けて下さい)
ウーハンコントロール エアシステム8517。ポジション ミダックス。フライトレベル 10,800メーター エスティメイティング ウイスキーW ホテルH アルファーA 0502 ホックスロット・マイク(FM) ネクスト」(武漢管制へ。こちらエアシステム8517です。現在地はミダックス上空。高度は10,800メーター。次の通過点武漢WHAの通過予定時刻は標準時で5時02分。その次はFMへ向かいます)

 雲が切れて展望がよくなった。
これ、左に見えているのは揚子江」仙波機長が首を突き出して窓の下を眺めて言う。眼下には河が幾重にも蛇行しながら流れているのが見えた。
上流ですね」と牧機長。
 武漢は上海の西約500キロにあり、長江(揚子江)と漢江のふたつの大河が交わる街で、街が河の両岸に武唱、漢口、漢陽の3つに分かれていることから武漢三鎮と呼ばれる風光明媚なところである。
じゃあ。ちょっとアナウンスをしましょうか?」仙波機長はインターホン電話で客室を呼んだ。
はい。唐沢です」すぐチーフ・パーサーが応える。
もうすぐね ウーハン、武漢なんだけど左に見えるのが揚子江なのよ。今、(客室では)映画やっているの?
はい。まっ最中です
あ、そう。領解しました。それじゃあ、(アナウンスは)駄目だね」残念そうに仙波機
長が額を掻いた。気取りのないクルーの親切さはエアシステムならではの美点でもある。
こちらで外を見ている方には口答でご案内しております」後部キャビンからもアシスタント・パーサーが応えた。
ああ、ぜひ、案内して下さい
 牧機長が無線で武漢上空に達したことを知らせた。エアシステム8517は中国内陸に入り、管制エリアを3つ経由してきた。まず上海コントロール、次が合肥(ホーフェイ)コントロール、そして現在、武漢(ウーハン)コントロールである。

ウーハン・コントロール エアシステム8517 ポジション ウーハン
(ウーハン・コントロールへ。こちらエアシステム8517です。現在、武漢WHAです)
エアシステム8517、ウーハン・コントロール ゴーアヘッド」(エアシステム8517へ。こちら武漢コントロールです。どうぞ)
ラジャ ホジション オーバー WHA(ウイスキー・ホテル・アルファ) 0502 フライトレベル 10,800メーター エスティメイテング ホックスロット・マイク(FM) 0528 HYN(ホテル ヤンキー ノーベンバー) ネクスト
(領解しました。武漢を5時02分に過ぎました。高度10,800メートル。HM(ホテル・マイク)には5時28分到着予定でHYN(ホテル・ヤンキー・ノベンバー)に向かいます)
エアシステム8517 ネクスト レポート ホックスロット・マイク(FM)
(エアシステム8517へ。次はHMで報告して下さい)
ラジャ
 陽が差し込んでコックピットが暖かくなった。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter07 中国の空へ 上海上空

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ジャパンエア791 シャンハイ・コントロール
 成田空港から上海に向かう日本航空791便が福岡コントロールから上海コントロールに入ってきた。この便はエアシステム機の約22分うしろを同じコースで飛行している。
ジャパンエア791 オーバー サドリ 51 フライトレベル280 エスティメート ラーメン59
(日本航空791便です。サドリを3時51分に通過、高度28,000フィートで飛行しています。ラーメンには3時59分の到着予定です)
シンカペ ジャパンエア791 スクォーク 2205
(領解。日本航空791へ。レーダー認識番号は2205です)
ジャパンエア791 スクォーク2205
 そのときエアシステム8517はサドリの先のウエイポイント・ラーメンに着いた。
シャンハイ・コントロール エアシステム8517 ポジション ラーメン
(上海コントロールへ。こちらエアシステム8517です。現在地、ラーメン上空です)
 ラーメンは中国領海上にあり、これ以後は中国空域となる。
エアシステム8517 シャンハイ・コントロール アイデントファイ クライム メインテイン9,600メーター
(エアシステム8517へ。こちら上海コントロールです。レーダーで捕捉しています。9,600メーターに上昇して下さい)
 中国空域はロシア空域と同じく高度表示がフィート表示からメートルに変わる。
96は315ですね」9,600メーターは31,500フィートですね、と牧機長が手製の換算表でメーター表示をフィートに換算する。飛行機の計器類にはメーター表示がないのだ。
はい。315(31,500フィート)」と仙波機長。
エアシステム8517 クライム メインテイン 9,600メーターズ
(エアシステム8517です。9,600メートルまで上昇します)
 現在高度は280、すなはち28,000フィートだから3,500フィート上昇することになる。混雑する上海空域をフライオーバーするので高度が必要なのである。
 高度が増すにつれて再び雲に入った。雲が後方に激しい勢いで飛んでゆく。現在、強い向かえ風で250度から96ノット吹いている。現在の進路は256度なのでほぼ真正面の風である。
 9,600メートルになると再び雲の上に出た。雲は一面に広がった雲海というわけではなく、まだらに点々と点在して所々に下界の海が光っているのが見えた。
アカラ、41分です」牧機長が報告した。

 アカラは上海から100マイル沖にある洋上のポイントで上海に降下する飛行機の玄関口であり、広州に向かうルート、また上海をフライオーバーして中国の各地に飛行するルートの分岐点になっているので中国国内線が多くなって混雑する。
 無線機から絶え間無く中国語の交信が聞こえてくる。
 日本やアメリカ、カナダなどの空域、それにヨーロッパでもイギリスやドイツ、北欧、それに、東南アジア、中東などの空域では自国の飛行機と管制官は基本的に英語で話すことになっているが、フランスやスペイン、ロシア、中国では自国語で交信する。

 ひとしきり中国語の交信が続いたあと、上海コントロールはエアシステム8517に英語で呼び掛けた。
エアシステム8517 コンファーム 10,800メーター アベラブル?
(エアシステム8517へ。高度10,800メートルに上昇できますか?)
OK(この高度を)貰いましょう」と仙波機長は言った。
エアシステム8517 ア エイブル 10,800メーター
(こちらエアシステム8517です。10,800メートルへ上昇できます)
ラジャ 8517 クライムメインテイン 10,800メーター」(領解。8517へ。10,800メートルへ上昇して下さい)
354(35,400フィート)」と仙波機長が換算表を見て言う。「アイ ハブ コントロール。私が(操縦を)やりますから」と牧機長、上昇高度をコンピューターにセットした。
はい。ユー ハブ コントロール」と仙波機長が言って操縦を交代する。引き続きエアシステム8517は35,400フィートへ上昇を続けた。
 この高度では雲もなく紺碧の青空が窓いっぱいに広がっている。
ジャパンエア791 ディセント トウ 3,600メーター バイ デュマ
(日本航空791へ。デュマで3,600メートルになるように下降して下さい)
ジャパンエア791 ディセント トウ 3,600メーター バイ デュマ
 上海に向かう日本航空791便に下降の許可が出た。まもなく上海上空市上空を通過する。眼下には中国大陸が雲の間から見えてくる。
エアシステム8517 コンタクト シャンハイ・コントロール125.95
(エアシステム8517へ。以後は上海コントロール125.95メガヘルツへ連絡して下さい)
エアシステム8517 コンタクト シャンハイ・コントロール125.95
 上海の内陸空域をコントロールする管制エリアに入った。仙波機長がコンタクトする。
シャンハイ・コントロール エアシステム8517 メインテイン フライトレベル 10,500メーター
(上海コントロールへ。こちらはエアシステム8517です。高度10,500メートルで飛行しています)
エアシステム8517 シャンハイ・コントロール コンファーム ユア ディスティネーション?
(エアシステム8517へ。こちら上海コントロールです。貴機の目的地を知らせて下さい)
ファイナルディスティネーション イズ カトマンドウ アンド テクニカルランディング アット クンミン・エアポート
(最終目的地はカトマンズですが、テクニカル・ランディングでクンミン空港に降ります)
クンミン・エアポート シャンハイ ラジャ
(クンミン空港、上海、領解しました)
 エアシステム8517は中国大陸を飛行し始めた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter06 東シナ海上空 上海FIRへ

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 行く手には雨雲の群れが航路を遮断するように現れて、その下は太陽でオレンジ色に反射する真昼の海が広がっている。
ジャパンエア793 ディセント メインティン フライトレベル240
(日本航空793便へ。高度24,000フィートへ下降して下さい)日本航空大阪発上海行きの793便が24,000フィートに高度を変える交信が入る。
コンファーム 240?」(確認しますが24,000フィートですか?)
ザッツライト」と管制官。次にエアシステム8517を呼んだ。
エアシステム8517は東シナ海洋上の飛行航路A593を高度28,000フィート、機首方向261度で飛行、日本空域の外れに達していた。まもなく上海管制エリアである。
エアシステム8517 レーダーサービス ターミネイテッド コンタクト シャンハイ・コントロール 133.25
(エアシステム8517へ。レーダー誘導の限界です。以後は上海コントロール133.25メガヘルツにコンタクトをして下さい)
エアシステム8517 ラジャ コンタクト シャンハイ 133.25 サンキュー
 エアシステム8517は日本の管制を離れた。

 長崎県福江から飛行航路A593のアカラ(AKARA)の区間をアカラー福江回廊(CORRIDOR)と呼び、日本と中国を結ぶ航空主要路である。
 このルートは途中で韓国と東南アジアを結ぶ航空路(B576)とほぼ直角に交わっているのでこの東支那海の空域は日本、韓国、中国の権益がぶつかりあう空域となっている。そのため細かい飛行制限がある。
 日本から上海に向かう場合は飛行高度FL240、FL280、FL390と指定されており、逆に上海から日本に向かう飛行機には高度FL250、FL290、FL410に限られている。
 この空域でもしそれ以外の高度を取りたい場合は上海管制、韓国管制、日本福岡コントロールの三者の許可が必要になりすぐには高度変更のクリアランスは得られない。そういう意味で福江からアカラまでは特殊な空域なのである。

もう、やっちゃいますね」と牧機長が福岡コントロールとの交信を終わるとすぐ上海コントロールを呼んだ。
シャンハイ・コントロール エアシステム8517 フライトレベル280 アプローチング サドリ
(上海コントロールへ。こちらはエアシステム8517です。飛行高度28,000フィートでまもなくサドリです)
………」無線機から何の応答もない。
 先ほどから雲が多くなり東シナ海がほとんど見えなくなってしまった。。
ここは(無線が)、なかなか入らないんです。(上海からまだ)遠いから」と言いながら牧機長は再度マイクをとった。
シャンハイ・コントロール エアシステム8517 フライトレベル280
 上海コントロールはシンガポールから成田へ向かうユナイテッドへ先に交信した。
ユナイテッド890 シャンハイ・コントロール コンティニュー クライム メイン
ティン フライトレベル250
」(ユナイテッド890へ。こちら上海コントロールです。飛行高度25,000フィートまで引き続き上昇して下さい)
明快な中国語なまりの管制英語がスピーカーから流れた。
クライム トゥ メインティン250 ユナイテッド890 サンキュー・ベリマッチ
 再び、牧機長が上海を呼んだ。
シャンハイ・コントロール エアシステム8517 ポジション サドリ
(上海コントロールへ。こちらエアシステム8517です。現在地はサドリ)
エイシアナ304 シャンハイ・コントロール ディセンド メインテイン フライトレベル330
(アシアナ航空304便へ。こちら上海コントロールです。高度33,000フィートへ下降して下さい)
ディセンド メインティン フライトレベル330 エイシアナ304
 香港発ソウル行きアシアナ航空304便に下降の指示を出す。
燃料はマイナス200です」と副操縦士役の牧機長が消費燃料を確認して、再び上海管制を呼ぶ。
シャンハイ・コントロール エアシステム8517 ポジション サドリ
(上海コントロールへ。こちらエアシステム8517です。現在地はサドリです)
エアシステム235 コンファーム ユー コール シャンハイ?
(エアシステム235へ。上海コントロールを呼びましたか?)
 エアシステム8517はチャーター便なので管制官には馴染みがない。上海コントロールは関西空港発中国広州行きのエアシステム235便に呼び掛けた。
ネガティブ。コール ユー。コーリング ユー アー エアシステム8517
(違います。呼んだのはエアシステム8517です)
 上海コントロールは改めて今度はエアシステム8517を呼んだ。
エアシステム8517 シャンハイ・コントロール ゴー ア ヘッド
(エアシステム8517へ。こちら上海コントロールです。どうぞ)
エアシステム8517 ポジション サドリ 0329 フライトレベル280 エスティメイテング ラーメン0337 アカラ ネクスト
(エアシステム8517です。サドリを3時29分に通過しました。飛行高度28,000フィート、次のウエイポイント、ラーメン(LAMEN)には3時37分の到着予定でアカラ(AKALA)に向かいます)
シンカぺ エアシステム8517 スクォーク0517
(領解しました。エアシステム8517。レーダー認識番号は0517です)
0517 エアシステム8517
 この一連の交信で中国への入国作業が終わり、上海空域を通過するレーダーナンバー0517を貰うことが出来たのである。
 上海コントロールと中国機との交信が続く。

 エアシステム8517が今、飛行している航空路A593は日本と中国を結ぶ代表的な空のルートとなっている。これまでにエアシステム8517が通過したウエイポイントは最初がRJFF(福岡空港)、次がOLE(長崎)、その次がFU(福江)で次はONIKU、そして現在地、SADLIと続き、次の予定はLAMEN、そして上海へと続く。A593という飛行航路はこのウエイポイントのFU(福江)からVMB(上海)までの名前である。
 余談になるが、この飛行航路はパイロット仲間では中華街ともラーメン横丁ともいわれている。何故ならウエイポイントのネーミングが、偶然にもONIKU=お肉、SADLI=サラダ、LAMEN=ラーメンなど中華料理にちなんだものが多いからだという。

シャンハイ・コントロール エイシアナ304 メインテイン フライトレベル330
 香港発ソウル行きアシアナ航空304が33,000フィートに上昇した。
エイシアナ304 メインテイン フライトレベル330 アット サドリ コンタクト フクオカ・コントロール133.6
(アシアナ航空304へ。高度33,000フィートを維持し、サドリで福岡コントロール133.6へコンタクトして下さい)
 続いて上海コントロールの管制官はユナイテッド890を呼ぶ。
ユナイテッド890 シャンハイ・コントロール リクエスト サドリ エスティメイト」(ユナイテッド890へ。上海コントロールです。サドリ通過の予定時刻を知らせて下さい)
ユナイテッド890 エスティメイティング アット サドリ 0345
(ユナイテッド890です。サドリ到着は3時45分の予定)
シンカペ ユナイテッド890 メインティン フライトレベル250 アット サドリ コンタクト フクオカ・コントロール 133.6
(領解。ユナイテッド890へ。飛行高度25,000フィートを維持し、サドリで福岡コントロール133.6へ連絡して下さい)
アット サドリ 133.6 メインティン フライトレベル 250 ユナイテッド890

 ウエイポイント、サドリは前述のように東シナ海の公海上にあリ、管制の分岐点でもあり、A593航空路の重要なポイントとなっている。
SADLIのコーディネーツ(位置)は次の通りである。
 SADLI N31.49、8 E125.00
 (サドリ 北緯31度49、8分 東経125度00分)
 フライトプランにはコーディネーツの右にサドリ飛行時のデータが記載されている。

 87 1313 015 365 ETO ATO 055

 87はサドリの前のウエイポイント・オニクからのDST(ディスタンス)で87マイルという意味。1313は目的地ZPPP(昆明空港)まであと1313マイル残されているという意味。015はオニクからサドリまでのZT(ゾーンタイム)で15分の飛行時間。365はサドリ通過時のGS(グランドスピード)で時速365ノットの意。
 フライトプランの右の空欄はETO(予定到着時間)とATO(実際に到着した時間)をパイロットが記入することになっている。
 サドリのETOは0330(標準時3時30分)だったが、実際到着した時間(ATO)は03時29分と予定より1分早くなっている。
 ETOとATOの右は055という数字が記入されている。これは離陸時からの累積時間(CUM)でサドリ到着まで離陸して55分の予定であるという意味。
 その右にはサドリの風や気温などの予測が書かれている。風は250度から98ノット。温度はP11。M98は向かい風が98ノット吹いている予測。
 その右に074,000という数字がある。これは残燃料(REM)で、サドリ到着時点で74,000ポンドの燃料が残っているという意味である。
 前述したようにサドリは福江から201マイル西の東シナ海の海上にあるウエイポイントで、日本のADIZ(防空識別圏)の西の限界点にあたる航路上大切なポイントなのである。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
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Chapter05 機長アナウンス

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キャセイ509 コンタクト ナハ コントロール 127.5
 混雑する空域の空きを待って、管制官がエアシステム8517に高度を上げる許可を与えた。
エアシステム8517 クライム メインティン フライトレベル280
(エアシステム8517へ。高度28,000フィートに上昇して下さい)
エアシステム8517 ラジャ クライム メインティン フライトレベル280
 現在、操縦を担当している牧機長は機をすぐに上昇させる。スピーカーから航空機の交信が絶え間無く続く。
フクオカ・コントロール オールニッポン175 フライトレベル390
 関西空港から香港へ向かう全日空175便が39,000フィートで福岡コントロールに入って来た。
オールニッポン175 ステル ユァ コントロール
フクオカ・コントロール オールニッポン909 レベル350
 今度は成田から香港へ向かう全日空909が高度35,000フィートで管制エリアに入った交信。
オールニッポン909 ステル ユー コントロール
 次は大阪から香港へ向かうキャセイ航空503が那覇管制に移る交信。
キャセイ503 コンタクト ナハ・コントロール127.5 グッディ
127.5 グッディ
ノーベンバー900EX コンタクト フクオカ・コントロール133.15
 これは日本を通過するアメリカ国籍機の交信。
OK 133.15 900EX スイッチング,ハブ ア ナイスディ
オールニッポン155 レーダー・ターミネイテッド コンタクト シャンハイ・コントロール 133.25
 関西空港から上海に向かう全日空155便が福岡コントロール管制の限界地点にいて上海管制に移管する交信である。エアシステム機のかなり前を同じコースで飛んでいるのだ。
シャンハイ133.25 オールニッポン155 グッディ
ユー ハブ ATC」(管制交信をお願いします)仙波機長が牧機長に頼んだ。
イエス アイ ハブ
 アナウンス原稿を書き上げてた仙波機長は、管制交信を牧機長に委ねてキャビンアナウンスをするために、まずインターホンで客室を呼んだ。
ハイ。パーサーです
もしもし、アナウンスをします
お願いします
 機長がアナウンスをする時は事前にパーサーに乗客の状況を尋ねてから始める。
一応、クンミンまでとカトマンズまでの概略をアナウンスしておきます。テンプ(客室の温度)は如何ですか?
アフターは良好です」(客室後方は良好です)
全体に良好です」とチーフ・パーサー。
はい。了解」と機長はインターホンを切ってPA(パブリック・アドレス)のマイクを掴んだ。
ご搭乗の皆様、こんにちは。本日は日本エアシステム8517便、福岡空港発カトマンズ行きのチャーターフライトをご利用頂きましてありがとうございます。機長の仙波でございますが、操縦席より飛行状況のご案内を申し上げます。当便は福岡空港を11時34分に離陸いたしまして現在、長崎県福江市の上空を巡航高度28,000フィート、約8,500メートル対地速度毎時700キロメートルにて順調に飛行を続けております。これより先、中国上海市上空を日本時間の13時丁度頃に通過いたしまして、中国雲南省昆明(クンミン)空港に日本時間の16時、中国時間の15時に一度着陸いたします。約50分の滞在の後、再び、カトマンズ空港に向け出発する予定でございます。現在のところカトマンズ空港には現地時間の16時50分到着予定でございます。これより先の航路上の天候は良好と予想しておりますが、ところどころ軽い揺れもあるものと思われます。お座席に着席中はベルトをお締め下さいますようお願いいたします。尚、昆明空港は弱い雨が降っておりまして、到着予定時刻にも、ときどき弱い雨を予想しております。しかしながらカトマンズ空港は現在、靄がかかっておりますが皆様の到着予定時刻には天候も回復し良くなるものと予想しております。カトマンズまでの空の旅、ごゆっくりお楽しみ下さい。本日のご搭乗まことにありがとうございます
アナウンス、終わりました」と仙波機長は牧機長に報告をした。
はい。ATC、変化はありません」機長アナウンスの間、管制の指示が無かったことを牧機長が報告する。
 スピーカーからバンコク発成田へ向かうノースウエスト2便の交信が聞こえる。
ノースウエスト2 フライトレベル370」(ノースウエスト2便、高度37,000フィートを飛行中です)
ノースウエスト2 フクオカ・コントロール ラジャ
 エアシステム8517は東支那海上空を一路上海上空に向かった。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter04 長崎から五島列島の福江上空へ

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 外は一面の雲だ。福岡空港を離陸してエアシステム8517は、雲の中を機首方向213度で長崎上空に向かっている。
エアシステム8517 プロシード ディレクト フクエNDB」(エアシステム8517へ。福江NDBに直接、飛行することを許可します)
エアシステム8517 ラジャー ディレクト フクエNDB
管制官の指示に牧機長が答えた。雲に太陽が遮られているのでコックピットは少し肌寒い。
コックピットの温度いいですか?」と牧機長が尋ねた。
はい。いいですが」と仙波機長。そして高度計を確認して指定高度24,000フィートにあと1,000フィートで到達することを告げた。
1,000レベル オフ」(あと1,000フィートで巡航指定高度に達します)
はい。1,000レベルオフ
 今、雲を抜けた。明るい日差しがコックピットに燦々とさしこみ始めた。だが雲は飛行機の腹を洗うようにすぐ真下を川のように流れている。
でも、これはぎりぎりですね」仙波機長は雲を見て言った。雲のトップは24,000フィートの高度まであり指定巡航高度ぎりぎりの高さであった。
オールニッポン123 プロシード ディレクト H(ホテル)K(キロ)C(チャーリー)」福岡を離陸し沖縄へ向かう全日空123便にHKCにダイレクトに向かえという管制交信が聞こえている。
オールニッポン123 ディレクト H(ホテル)K(キロ)C(チャリー)
 エアシステム8517は24,000フィートで水平飛行に移った。
一応、ベルトサインはオフにします」ベルトサイン・オフを仙波機長が客室に知らせる。
皆様、ベルト着用のサインは消えましたが、飛行中の急な揺れに備えて着席中はお席のベルトをお締めください。又、ベルト着用サインがついている時はお手洗いのご使用をお控えいただきますのであらかじめご了承ください
 客室ではチーフ・パーサーのアナウンスが流れた。
それではキャビンアナウンスをやりますので…ユーハブ コントロール
 仙波機長は操縦を牧機長と交代しキャビン・アナウンスの準備を始めた。
はい。いまウエザーを出していますから」牧機長がアナウンスに必要なこれから先の通過地点の天候と時間のデータを用意する。これも副操縦士の大切な役目だ。副操縦士には現在の飛行状況の把握と機長がこれから何をしようとしているのか、その行動の先読みが必要なのである。
オールニッポン164 コンタクト フクオカ・コントロール126.1
 長崎から大阪に向かう全日空124便が福岡コントロール中国南セクターに移管する交信が聞こえる。
ラジャ オールニッポン164 コンタクト フクオカ・コントロール126.1

 高高度の航空機をコントロールする福岡コントロールは広島の西から屋久島付近までの空域を管轄している。その広い空域は地域別に六つのセクター(中国北セクター、中国南セクター、南九州東セクター、南九州西セクター、九州北セクター、九州西セクター)に分けられており、それぞれセクターごとに周波数が定められている。
 現在、エアシステム8517は福岡コントロール133.15メガヘルツで九州北セクターを飛行している。

オールニッポン123 コンタクト フクオカ・コントロール133.85
133.85 オールニッポン123
 この福岡から沖縄へ向かう全日空123便は福岡コントロールの九州北セクターから南九州西セクター(133.85)へ移管する交信である。
エアシステム8517 コンタクト フクオカ・コントロール133.6
(エアシステム8517へ。以後は福岡コントロール133.6へ連絡して下さい)
 エアシステム8517にも空域の西側を管轄する福岡コントロール九州西セクターへ移管する交信が入った。仙波機長が答える。
エアシステム8517 スイッチ トウ 133.6 グッデイ」(エアシステム8517です。133.6へ切り替えます)
 やっておきますから、と牧機長がキャビンアナウンスの原稿を考えている仙波機長から管制交信を交代する。そして福岡コントロール九州西セクター133.6を呼んだ。
フクオカ・コントロール エアシステム8517 レベル240 ポジション フクエ・ビーコン
(福岡コントロールへ。こちらエアシステム8517です。現在、高度24,000フィートで福江ビーコン上空です)
 眼下は雲が切れて、九州の西にある五島列島が蒼い海に浮かぶように横たわっている。
エアシステム87 コレクション エアシステム8517 フクオカコントロール リクエスト サドリタイム エスティメイト?」(エアシステム87へ。訂正、エアシステム8517へ。こちら福岡コントロールです。サドリ(SADLI)の通過予定時間を知らせて下さい)
ラジャ エスティメイト サドリ 0330
(領解しました。サドリは3時30分(標準時)の予定です)
 サドリは福江から201マイル西の東シナ海の海上にあるウエイポイントで、日本のADIZ(防空識別圏)の西の限界点にあたる。管制官はエアシステム8517が事実上、日本の空域を出る時間を尋ねてきたのだ。現在は向かえ風が強く福江からサドリまでおよそ34分の飛行予定であった。
エアシステム8517 ラジャ イクスペクト フライトレベル280 スタンバイ
(エアシステム8517へ。領解しました。もうすぐ飛行高度28,000フィートヘの上昇許可を出せると思います。しばらく待って下さい)
ラジャ」と牧機長、交信を終えた。
エイシャ211 コンタクト ナハ・コントロール127.5」大阪から台北に向かう日本アジア航空211便が那覇コントロールに移管する交信である。
エイシャ211 127.5
シンガポール987 プロシード ディレクト クリア ディレクト ブーラン
 次は成田から台北経由シンガポールに向かうシンガポール航空987便へブーランに直行する指示だ。
ブーラン シンガポール987
 続いて成田から香港へ向かうキャセイ509便が那覇コントロールへ移管する交信。この東シナ海東空域は沖縄やアジア各国へ飛行する各国のエアラインで混雑しているのだ。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
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福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter03 福岡空港離陸

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 エアシステム8517は標準時2時20分(福岡ローカルタイム午前11時20分)にゲートを離れ、現在、誘導路を滑走路34に向かって地上走行している。
エアシステム8517 コンタクトタワー118.4
(エアシステム8517へ。以後はタワー管制、118.4メガヘルツへ連絡して下さい)
 滑走路が近づくとエアシステム8517は地上管制から離着陸を担当する福岡タワー管制へと引き継がれた。
ラジャー 118.4」と牧機長が復誦して周波数を切り替えた。新しい周波数からすぐに全日空250便へ管制官が離陸許可を与える交信が聞こえる。
オールニッポン250 クリア フォア テイクオフ
シンガポール989 ベースレグ」(シンガポール航空989便です。現在、ベースレッグを飛行中)
シンガポール989 コンテニュー アプローチ ウインド 010 アット 10
 全日空250が離陸すると管制官は最終進入をするシンガポール便に進入許可を与えた。滑走路上では北風が10ノットと強くなっている。
コンテニュー アプローチ シンガポール989
 交信の合間を縫って牧機長がタワー管制にコンタクトをした。
フクオカ・タワー エアシステム8517 オン ユア フリクエンシー
(福岡タワーヘ。こちらはエアシステム8517です。タワー管制の周波数で交信しています)
エアシステム8517 ホールド ショート オブ ランウエイ」(エアシステム8517へ。滑走路入り口で待機して下さい)
ラジャ
それではコントロールチェック」と仙波機長が操縦装置のチェックを指示する。管制官がシンガポール989便に着陸許可を与える交信が聞こえる。
シンガポール989 クリア トウ ランド ウインド 010 アット 10
クリアー トウ ランド ランウエイ34 シンガポール989
マイ サイド チェック」と牧機長が右側、副操縦士の操縦装置の点検を終わって報告する。
はい。ラダー(方向舵)」と仙波機長が左席のコントロール点検を始めた。
コントロールチェック ノーマル」(操縦装置は正常です)
オールニッポン250 コンタクト デパーチャー
 全日空250便が離陸を完了し出発管制に移管する交信がスピーカーから響く。
オールニッポン250 グッデイ
ATCのコンファームをして下さい」仙波機長が管制承認された飛行計画を離陸前に再確認する指示をした。牧機長が復誦する。
はい。クリアー トウ クンミン・エアポート ヤメック・ワン デパーチャー ナガサキ・トランジション・フライトプランルート メインテイン240 ディパーチャーフリクエンシー119.7 スクォーク6111
(はい。クンミン空港へ、離陸後八女1方式で出発し長崎トランジションで高度24,000フィートまで上昇、以後、フライトプランルートで飛行します。出発管制の周波数は119.7メガヘルツ、レーダー認識番号は6111です)
フクオカ・タワー オールニッポン247 アプローチング ダウンウインド ヴィジュアルアプローチ ランウエイ34
 全日空247便が有視界進入で滑走路34に向かって高度を下げている。
オールニッポン247、ラジャ レポート ダウンウインド
ジャパンエア357 ベースレグ
 全日空247便の前に進入している日本航空357が空港のベースレグに入ったことを報告した。
ジャパンエア357 コンテニュー アプローチ
 管制官は今、着陸したシンガポール989へゲートまでの誘導路(W4)を指示し、福岡地上管制へ移管するよう交信する。
シンガポール989 ターン レフト ウイスキー4 コンタクト トウ グランド
シンガポール989便へ。滑走路で左に曲がり誘導路W4に向かって下さい。そして地上管制と連絡して下さい)
レフト ウイスキー4 シンガポール989 トウ グランド
タワー。オールニッポン247 ダウンウインド
オールニッポン247 レポート ベースレグ
ジャパンエア357 クリアー トウ ランド ウインド020 アット 9
ジャパンエア357 クリア トウ ランド
 管制官はシンガポール便のあとに続いて日本航空357へ着陸の許可を与え、エアシステム8517へ滑走路34の待機位置で待機する指示を出した。
エアシステム8517 タクシー トウ ポジション&ホールド」(エアシステム8517へ。滑走路待機位置まで走行して下さい)
エアシステム8517 タクシー トウ ポジション&ホールド ランウエイ34
イン トウ ポジション&ホールド レフトサイド クリアー
(滑走路待機位置へ入ります。左側障害物なし)
マイ サイド クリアー
(右側も異常なし)
 眼前を日本航空357便が着陸。仙波機長は牧機長に離陸時の計器点検をするよう要請した。
ユ アー テイクオフチェックリスト」(離陸前の計器点検をして下さい)
はい。了解しました
仙波機長が客室のキャビンクルーに離陸するコールを送った。 ピン、ピン、2点打は離陸を告げる客室への合図だ。それを聴くとすぐにチーフ・パーサーがアナウンスめた。
皆様、お待たせいたしました。まもなく離陸いたします。お席のベルトをお確かめください
ユ ア テイクオフ・チェックリスト?」と仙波機長が牧機長に尋ねた。
(離陸前の計器点検は完了していますか?)
OK。コンプリート ランディング・ライト オン」と牧機長。
(すべて完了です。着陸灯をつけます)
 主翼の下にあるライトが点灯され滑走路に二条の光りの帯が走る。いよいよ離陸である。コックピットに緊張感がみなぎった。
オールニッポン247 オン ベース ギャダウン
コンテニュー アプローチ ウインド 040 アット 10
コンテニュー」管制官は脚を降ろした全日空247に最後の進入許可を与えてエアシステム8517に離陸の許可を出した。
エアシステム8517 ウインド 030 アット 10 クリア フォァ テイクオフ」(エアシステム8517へ。風は030度から10ノット、離陸を許可します)
ラジャ
エアシステム8517 ラジャ クリア フォア テイクオフ」(エアシステム8517です。離陸許可、領解しました)
 離陸である。
オール コンプリート」(すべて準備完了です)副操縦士役の牧機長が操縦を担当する仙波機長に報告をする。
はい。オールコンプリート」「テイクオフ」(離陸します)と仙波機長。
 滑走路の前方に今、着陸した日本航空357便が誘導路に入るのが見える。
ジャパンエア357 コンタクト グランド
 スロットルが離陸位置に入り、エンジンのパワーが上がった。
 機体がふるえてスピードが加わる。100ノット通過。スピードメーターが時速150ノットを超えた。滑走路が灰色の帯になって後方へ飛ぶ。
V1 VR V2
 ゴトンと車輪が滑走路の路面を離れて浮上する。すかさず管制官が全日空247へ着陸の許可を出す。滑走路上ではこの時間、まさに分刻みの離着陸ラッシュが続く。
オールニッポン247 クリア トウ ランド ウインド 040 アット 9
オールニッポン247 クリア トウ ランド
ギア アップ」(車輪上げ)
ギア アップ」牧機長が仙波機長のコールを受けてギャレバーを操作して車輪を上げる。現在時刻は標準時で2時34分、午前11時34分である。
エアシステム8517 コンタクト ディパーチャー
(エアシステム8517へ。以後は出発管制へコンタクトして下さい)
エアシステム8517 ラジャ コンタクト ディパーチャー
 牧機長は復誦して、すぐ福岡出発管制を呼んだ。
ディパチャー。エアシステム8517 エアボン パッシング 2200」(福岡出発管制へ。こちらエアシステム8517です。離陸しました。現在、2200フィート通過)
エアシステム8517 フクオカ・ディパーチャー レーダー コンタクト
(エアシステム8517へ。こちらは福岡出発管制です。レーダーで捕捉しています)
チェック ライトサイド」仙波機長が牧機長に右旋回をするために右側の機影の有無を確かめる。
ライトサイド クリア」(右サイドはクリアーです)
 エアシステム8517はゆっくり右旋回に移って高度を上げていった。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter02 中国昆明までの飛行計画とエンジン始動

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それではプリパレーション・チェックリスト
はい、ログ・ドキュメント…チェック
オキシジョン…セット
FCU…セット
フライトインストルメンタル…セット
サイン…オン
フェアコンティは…89.8、CDU…セット
パーキングブレーキ…オフ
プリパレーションチェックリスト…コンプリーテッド
 エンジン始動前のプリパレーション計器点検が終わると再び、客室からのインターホン電話が鳴った。
呼んでいます?」と仙波機長が受話器をとる。
はい。お客様はトータルですが193(名)プラス、ゼロになります。グランドが(地上の整備関係が)OKでしたらドアをクローズしてよろしいですか?」とチーフパーサー。乗客の搭乗が終わったことを知らせるコールである。
はい。OKです」と仙波機長が答えた。そして副操縦士の牧機長に伝える。
OKですね。それではレディ トゥ スタート エンジンを
 コックピットと客室のすべての準備が整うとエンジン始動である。客室ではチーフパーサーが各セクションのアシスタント・パーサーへインターホン電話でドアをクローズする指示を出している。
福岡デリバリー。エアシステム8715 スポット53
(福岡デリバリー管制へ。こちらエアシステム8517です。ゲート53です)
 牧機長がデリバリー管制官に出発準備が整ったことを知らせた。
ラジャ。セイ アゲン ユア コールサイン プリーズ エアシステム8517 オア 8715
(領解しました。恐れ入りますがエアシステム8517か8715か、コールサインをもう一度言った下さい)
 エアシステム8517は不定期便なので、管制官が聞き慣れない便名を確認したのだ。
ジス イズ エアシステム8715
8715 ラジャスタンバイ プリーズ」(8715。領解しました。待機して下さい)
管制官に便名を告げたあと、牧機長は間違いに気づきすぐに訂正をした。
イクスキューズ ミー 8517」(ごめんなさい。8517です)
 コックピットクルーも新しい便名にすぐには馴染めないので、操縦装置の前に便名をメモで貼り付けて再度それを読んだ。チャーター便らしいやりとりである。
 管制官は8517便の飛行計画の承認を始めた。
8517 クリア トウ クンミン・エアポート バイ ヤメック ワン ディパーチャー ナガサキ・トランジション アンド フライトプラン・ルート メインテイン フライトレベル240 ディパチャー・フリクエンシー119.7 スクォーク6111
(エアシステム8517へ。中国昆明(クンミン)空港へのフライトプランを承認します。福岡空港の出発方式は八女1出発方式で長崎トランジションです。そして飛行計画のルートを高度24,000フィートで巡航して下さい。出発管制の周波数は119.7メガヘルツ、レーダー認識番号は6111です)
 仙波機長がクリアランスを確認し、牧機長が復誦する。
エアシステム8517 フライトプラン トウ クンミン・エアポート ビア ヤメック ワン ディパーチャー ナガサキトランジション フライトプランルート メインテイン フライトレベル240 ディパーチャー・フリクエンシー119.7 スクォーク6111
リードバック イズ コレクト コンタクト グランド 121.7」と管制官が答える。(復誦は正確です。以後は福岡地上管制121.7メガヘルツに連絡して下さい)
121.7 ラジャ グッディ
 ここでフライトプランに記されたエアシステム8517の飛行ルートを見てみよう。フライトプランは次のように書かれている。

FLT RT;RJFF YAMEK1 OLE DCT FU A593 VMB R343 WHA A581 SL SL2A ZPPP

このフライトプランを解説すると次の様になる。
FLT RTは(フライトプラン・ルート)はRJFF(福岡空港)をYAMEK1(八女1出発方式)で離陸し、OLE(長崎)経由(トランジション)でDCT(ダイレクト)に長崎県五島列島にあるFU(福江)VORに向かう。
 その後A(アンバー)593飛行航路で東支那海を超え、上海(VMB)上空で中国大陸に入り、上海(VMB)から飛行航路R343でWHA(ウーハン、武漢)へ飛行する。WHAで飛行航路A581に乗り中国大陸を西南へ飛び、SL、SL2を経由してZPPP(昆明空港)へ至る。
 福岡空港で承認される飛行計画は給油のためテクニカル・ランディングをする昆明空港までのもので、最終目的地カトマンズまでのフライトプランの承認は昆明空港を離陸するときにクリアランスを受けることになっていた。

 再び、客室からのインターホン電話の呼び出しブザーが鳴った。
もしもし、呼んでいる?」と仙波機長。
はい。コックピットにファイナルの報告に参りますが…
はい。お願いします
 ドアがノックされてコックピットにチーフ・パーサーが入室した。
はい。どうぞ
お客様は21、プラス ゼロ。172 プラス ゼロでトータル 193 プラス ゼロです
(お客様はノーマル・クラスが21名で乳幼児はゼロ。エコノミーが172名で乳幼児がゼロ。トータルで193名と乳幼児ゼロです)
はい。よろしくお願いします」とチーフパーサーは報告を済ませるとすぐに客室に戻った。
ファイナル OK。ATC OK。それではプッシュ・バック
 客室の最終報告と管制の飛行計画のクリアランスがOKとなり、エアシステム8517は出発の時間となった。牧機長が福岡地上管制官にプッシュバック(牽引車で機体をゲートから押し出すこと、これが旅客機の出発となる)のリクエスト交信をする。
福岡グランド。エアシステム8517 リクエスト プッシュバック ゲート53
(福岡地上管制へ。こちらエアシステム8517。ゲート53です。プッシュバックの許可を願います)
エアシステム8517 プッシュバック アプローブ ランウエイ34
(エアシステム8517へ。滑走路34へプッシュバックの許可をします)
ビーコン オン」胴体の上下にある赤いビーコンライトが点滅を始めた。プッシュバック許可の交信を聞いて仙波機長は地上の整備員にインターホンで知らせる。
グランド コックピット クリア プッシュバック ランウエイ34 パーキングブレーキ リリース
(地上整備へ。こちらコックピットです。滑走路34へプッシュバックの許可が出ました。パーキング・ブレーキを外します)
了解しました。リリース レディ フォア エンジンスタート
 整備スタッフは給油車、バゲージ・カーなどの車輛や地上の障害物の有無を確認してエンジン始動の準備が整っていることをコックピットに告げた。
はい。スタートナンバー 2&1」(エンジンはNO2、NO1の順で始動します)
はい。了解しました。クリアーです。どうぞ
 地上の準備を確認して仙波機長はエンジン始動前の計器点検を牧機長に指示する。
それではビフォア スタート チェックリスト
チェック。ビーコン…オン。ビフォアスタート・チェックリスト コンプリート
 ビフォアスタートの計器点検が終わった。
はい。NO2(第2エンジンスタート)
 エンジンが轟音を上げて回り始めた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter01 福岡空港

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フクオカ・エアポート、インフォメーション・ジュリエット(J) 0200 ビジュアル・アプローチ、ユージングランウエイ34 ウインド 010 ディグリーズ 7ノット、ディレクション・バリアブル ヴィトイーン 310&060 ディグリーズ ビジィビリティ 30キロメーターズ ヒュー 2,500フィート キュムラス スキャターズ 15,000フィート アルトキューモラス テンパラチャー 19、デューポイント 9、QNH 30.05インチズ アドバイス ユー ハブ インフォメーションJ
(福岡空港、インフォメーションJ。国際標準時0200時、有視界進入、使用滑走路34、風は10度方向から7ノット、風の方位は310度から60度まで偏位がある。視程30キロメーター、ヒュー2,500フィート、積雲が少し、15,000フィートには高積雲、気温19度、露点温度9度、気圧30.05インチ、インフォメーションJを受信して通報して下さい)

 空港情報(ATS)がコックピットのスピーカーから流れている。外は風が強く、ちぎれ雲が空を覆ってはいるものの、今日の福岡は晩秋の陽光が降り注ぐ穏やかな日和だった。
 午前11時。福岡空港の国際線ゲート53には、福岡空港発、中国昆明(クンミン)空港経由カトマンズ・トレブバン空港行きチャーター便であるエアシステム8517便が出発準備中であった。
 成田東京国際空港から昆明に定期便をもつ日本エアシステムが将来のネパールへの定期便を視野に入れて、昆明経由でカトマンズまで飛行させる特別便である。
機種はエアシステム国際線の主力機エアバスA300-600。コックピット・クルーは仙波機長と牧機長のふたり。ともに五十代、エアシステムのベテランキャプテンである。
 左の機長席に座った仙波機長が副操縦士役をする牧機長に離陸のプロシジャーを説明している。今日は中国、昆明空港までは仙波機長が、昆明よりカトマンズまでは牧機長が操縦を担当することになっていた。

それでは、(離陸の)ブリーフィングをやります」と仙波機長が牧機長に告げた。
SID(出発方式)は八女1(ヤメック ワン YAMEK ONE)デパーチャー。ランウエイは34。2,500(フィート)までいってライトターンですね。コンソレインは(飛行制限は)10,000フィート。これがアンテル7マイル、DGC(福岡空港)ですね。あと八女(YAMEK)で5,000 OR アバーブ。で、長崎トランジション。長崎トランジションはアーク25マイルでコンソレイン(飛行制限)はありません

 エアシステム8517の福岡空港出発方式はYAMEK ONE出発方式で、まず滑走路34を離陸し高度2,500フィートまで上昇して右旋回し福岡空港上空を通過、方位158度のヘディングで八女(福岡県のお茶の名産地として知られる)に至る。このとき福岡空港(DGB)の南西7マイルまでは高度制限があり10,000フィート以下で飛行しなければならない。又、八女での高度制限5,000フィート以上。
 長崎トランジションは八女で右旋回をして25マイル飛行、左旋回して機首方向213度で長崎に向かうコースである。そしてその後、東シナ海を越えて上海へのルートに入る。

あとアブノーマル(非常事態) シングルエンジンになった場合にはフォローSIDで(出発方式に従って)インカム・アクションで適当なところでレーダーホールド(レーダー誘導で待機)、もしくはちょっと雲がありますので、ヴィジュアル(有視界飛行)で(福岡空港の)ダウンウイングに入って来て、ランウエイ34にイマージンシー・ランディング(緊急着陸)を行う予定です。そのときオバーウエイト・ランディングのときは、オーバーウエイト・ランディングのチェックリスト(計器点検)をやってそのまま降ります。そのときのコンフィギレーションは1520プラス10で降りてきます。何か質問ありますか
ナッシング」と牧機長。
 仙波機長は交信を担当する牧機長に出発5分前の管制官との交信を依頼した。
5分前(ファイブミニッツコール)お願いします
 ゆっくりと頷いて牧機長は121.95メガヘルツで福岡デリバリー管制を呼んだ。
デリバリー。エアシステム8715
(福岡デリバリー管制へ。こちらエアシステム8715です)
デリバリー エアシステム8517?」(福岡デリバリーです。どうぞ)
5ミニッツ スタート エンジン トウ クンミン プロポージング レベル 350 ゲート53 インフォメーション I
牧機長は中国昆明(クンミン)空港に飛行する為の飛行計画をデリバリー管制に告げた。(出発5分前のコールです。昆明(クンミン)空港へ飛行します。巡航高度は35,000フィートを希望。現在位置はゲート53です。空港情報I(インデア)を聞いています)
すぐ、管制官が答えた。
53 レベル350 ラジャー レディー トウ スタートエンジン
(ゲート53、巡航高度35,000フィート、領解しました。エンジン始動の用意をして下さい)
ラジャ」エアシステム8517は福岡デリバリー管制から飛行計画の管制承認を貰うまで待機状態に入った。
エアシステム8517 こちらエアシステム福岡です
そのときエアシステム福岡運航課からのカンパニー無線が入った。カンパニー無線とは運航部と飛行機を結ぶ会社専用の業務用VHF無線である。
アイ ハブ ATC」と仙波機長が管制交信を、牧機長がカンパニー無線を取った。
はい。どうぞ
ファイナルのウエバラ(ウェイト&バランス)がまだ上がって来てない(飛行機に電送されていない)と思いますが、今、バゲージ(荷物)の個数が合わないということで最終的なチェックをやっているようです。最終的に(ウェイト&バランス)が(計算されて)出てくるのは(出発時間)ギリギリになるか、多少、ディレイ(遅れる)かもしれません。一応、ブリーフィングをしておきます
ウエイト&バランスとは飛行機の重量と重心位置を算出するデータでこれがないと最終的な滑走距離、離陸スピード、エンジン推力量などの決定がでないので出発体制に入れないのである。
はい。了解しました
 遅れる筈だった運航課からのウェイト&バランスの交信は意外に早く入った。
エアシステム8517、福岡(運航)です
はい、どうぞ
今、ウエバラが出ました。よろしくお願いします」とジャンプシート(コックピットの補助席)のウエイト&バランスを確認した後、運航課が最終のデータをコックピットのコンピュータヘ送った。
はい。了解しました。ありがとうございます
 ウエイト&バランスが算出されると、クルーは最終的に飛行機のコンピューターに入力(インサート)して離陸時の総重量を計算する。
パッセンジャーからいきます。193(乗客数193名)、プラス・ゼロ(幼児が搭乗していないという意味)
ゼロフェルウェイト(燃料を除いた機体の総重量)は243,600(ポンド)
243,600(ポンド)、はい、インサート(入力しました)
 そのとき客室からのコールが鳴った。客室とコックピットはインターホン電話で結ばれ客室からコールが来ればブザーがなる仕組になっている。
はい、どうぞ」と仙波機長が受話器を取た。
パーサーです。ランプコーディネーターがいらっしゃらないので(客室準備の)状況が読めません。あとドキュメント関係(乗客関連の書類)が一切届いていないのでもう少しお待たせすると思います
はい。了解しました
 客室とのコールが終わるとクルーはコンピューターへの入力作業が続けた。
24.4ゼロフェル(燃料抜き機重量244,000ポンド)ね。燃料が898(89,800ポンド)、テイクオフ・ウエイト(離陸時の機体重量)が332,500(ポンド)、テイクオフCG24.7、トリム1.6アップ
前(機体の前方)に(ウエイトが)きていますから、2.0でいきますから
340,000(ポンド)、マックス(最大積載)ですね」と牧機長。中国昆明空港まで4時間半の長距離飛行で消費する燃料や乗客数193名と荷物などで飛行機の積載重量は最大に近くなっている。
 積載重量が決まると次に離陸データが算出される。
それでは(離陸決定時V1のスピードは)151(ノット)、(離陸時スピードV2のスピードは)153(ノット)
はい、インサート
 入力作業が終わるとエンジン始動前の計器点検が始まる。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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【ヒマラヤ飛行】はじめに

「機長席II ヒマラヤ飛行」のブログ連載にあたって

コックピットのボイス・レコーディングとその解説文で綴る航空ドキュメント作品は、過去、「機長席」(朝日ソノラマ社)、「ラストフライト」(愛育社)と発表させて頂き航空ファンの多大なるご声援を賜りました。ほんとうに皆様には深く感謝しております。

 さて、今回、そのシリーズの新作「機長席II ヒマラヤ飛行」をこのブログ「飛行機ダイスキ」でリリースさせて頂く事になりました。著者として連載が始まる前に簡単ではありますがご挨拶させて頂きたいと思います。

「機長席」は北海道から羽田空港へ飛行するボーイング・トリプル7の、「ラストフライト」は関西空港からホノルルへ飛ぶダグラスDC-10のドキュメンタリーでした。そして今回の作品「機長席II ヒマラヤ飛行」は福岡空港から中国大陸を横断しミャンマー、バングラディシュ、インドを経由しネパールのカトマンズへ飛行するA300-600のドキュメンタリーです。

 この第3作が前作2作品と違うのは、チャーター便であると言うことです。定期便はご承知のごとく飛行するルートをクルーは事前にすべて熟知しています。又、相手国の管制官も定時にその飛行機が通過することを承知しており安心感があります。

 しかし不定期便の場合は全く様相を異にします。そのひとつの問題は管制官とのコミュニケーションです。どの場所でどこの管制官とコンタクトを取るかということは事前のデータ等で把握しているにせよ、現実、それがデータ通りうまくいくとはかぎりません。とくにこの飛行ルートはミャンマー、バングラディシュ、インド東など国境が入り乱れる地域の上空を通過しなくてはなりません。中でもミャンマーは軍事国家で内乱などいつ非常事態が起こり上空通過を拒否されるか、など不安がいっぱいでした。実際、このフライトでは何回も管制官との交信が出来なくなるシーンがありました。ふたりのパイロットがそれぞれ別の無線機を使ってふたつの国の管制と同時にコンタクトをするという定期便では考えられない事態も起こりました。その緊張感はそのままこの作品のクライマックスになっています。

 又、飛行ルートは航空機に搭載しているナビゲーションで目的地上空まで飛行出来ますが、経験のない空港の離発着はクルーにとって最も気を使う事柄であり、定期便にはないコックピットの緊張感が生まれるのです。この作品の最後、世界でも有数のアプローチ、着陸が難しいといわれるカトマンズ空港への進入が醸し出す緊張感もこの作品のもうひとつのクライマックスを作り上げています。それから、ひとつだけ特ダネ(?)自慢もあります。中国の管制事情を赤裸々に公開するのはこの録音が日本最初だと思います。

 何にしてもこのヒマラヤ・フライトのドラマチック、かつスリリングさは前作のフライトに比べて桁違いなものでした。それらの臨場感を31回の連載でお届けします。長丁場になりますが最後までお楽しみ頂ければ幸いです。

 最後にお願いがあります。私の知識不足で交信内容や航空機の技術的な事柄で記載ミスが多々あると思います。もしお気づきのことがありましたら、訂正のコメントをして下さい。作品を”より完全なもの”にするためによろしくお願い致します。

武田一男

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【ヒマラヤ飛行】CONTENTS

CONTENTS

Chapter 00 配信にあたって著者よりごあいさつ
Chapter 01 福岡空港
Chapter 02 中国昆明までの飛行計画とエンジン始動
Chapter 03 福岡空港離陸
Chapter 04 長崎から五島列島の福江上空へ
Chapter 05 機長アナウンス
Chapter 06 東シナ海上空 上海FIRへ
Chapter 07 中国の空へ 上海上空
Chapter 08 中国内陸飛行 長江(揚子江)に沿って武漢へ
Chapter 09 中国の水郷地帯 洞庭湖上空 カンパニー交信
Chapter 10 中国南の山岳地帯・雲貴高原東上空
Chapter 11 貴陽上空 キャビンクルーの昆明空港下降打ち合わせ
Chapter 12 昆明空港クンミン空港へ下降開始
Chapter 13 最終進入 タービランス
Chapter 14 中国南の景勝地 昆明へ着陸
   Appendix 昆明について
Chapter 15 昆明空港
Chapter 16 昆明空港離陸 ミャンマー上空へ
Chapter 17 昆明空港を上昇 機首244度でミャンマー国境へ
Chapter 18 機長アナウンス
   Appendix 中国からカトマンズの国境について
Chapter 19 中国、ミャンマーの国境上空
Chapter 20 ミャンマー上空
Chapter 21 カルカッタ・ラジオとダッカ・コントロール中継交信
Chapter 22 ミャンマーと東インド国境
Chapter 23 インドの東
Chapter 24 バングラデシュ上空
Chapter 25 インド上空 再び交信混乱
Chapter 26 カトマンズFIR
Chapter 27 カトマンズ空港への下降開始
Chapter 28 世界でも最も難しいカトマンズ・アプローチ開始
Chapter 29 カトマンズへの最終進入
Chapter 30 山越へのアプローチコース
Chapter 31 カトマンズ・トリブバン空港着陸

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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