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【ヒマラヤ飛行_補足】昆明について

中国南の景勝地 昆明へ着陸」の配信の前に、馴染みの薄い昆明を少しばかり紹介。

昆明市は雲南省の省都で、雲南省の政治・経済・文化・交通の中心地として栄えてきました。人口は608万人、東京の約半分、ちょうど千葉県の人口にちょっと欠ける感じでしょうか。海抜はおよそ1,900mと高原にあって、冬の厳しい冷え込みもなく、夏の猛暑もない、年間を通して過ごしやすい地域から、「春城」の異名もあるそうです。暖かい気温がウリのようで、でも、最高海抜が4,223mの、軽く富士山を抜く「雪山」なんかもあったりします。
雲南省の人口は4300万人。そのうち少数民族は1200万人もいるのだそう。それで「少数民族」だなんて、ぜんぜん説得力ありませんが、とにかく、ベトナムやラオスの国境に隣接し、昆明市にも12の民族が集まっていて、それぞれの言葉で生活しているらしい。昆明から90kmほど離れた石林県には、カルスト溶岩地質の奇観を臨む石林公園があります。
昆明空港、昆明巫家?国際空港(Kunming Wujiaba International Airport:KMG)は中国の中でも大きな空港で、日本は関空、ラングーン、バンコク、シンガポールなど国際線7路線、香港、北京、上海など国内線の40路線が乗り入れていて、昆明空港のほか、雲南省自体には、大理、麗江、保山、シーサンパンナ、昭通、臨滄、德宏、迪慶シャングリラ空港があります。

昆明って…、行ったこともなければ、話題に上ることもなかったので、残念ながら私はよく知りません。ただ、Wikipediaなんかの写真を見ているとビルが多く、それも区画整理されているようなイメージ。
もう少し詳しく知りたい、という方はこちらのレポートを。

■昆明観光
http://jp.chinakunming.travel/
上記のサイトに行くと、「昆明で毎日が常春です」とのメッセージが。「写真芸術」のコーナーは必見。東川の土石流の真っ赤な絨毯に菜の花の絨毯、都市部から離れると色彩鮮やかな風景が目に浮かびます。

▼「Fast & First」より
http://www.fnf.jp/travel/china.htm
「Fast & First」というサイトの管理者の方による昆明レポート。普段は執筆業をされているらしく…さすが。イメージが浮かびました。(写真は「Fast & First」さんのものです。画像をクリックで該当ページにいきます)
「Fast & First」のリンク

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【ヒマラヤ飛行_補足】中国からカトマンズまでの国境について

「ヒマラヤ飛行」のルート、中国からカトマンズ空港までは、紛争が多く国境がとても複雑になっていて、交信がやっかいなので、分かる範囲で補足を。
修正、その他ありましたら教えてください。

インド、アジア諸国は、1800年前中頃まで東インド会社に支配されていた(香辛料や茶葉、綿花などの貿易とその植民活動を目的として設立された西欧の独占的特許会社。イギリスが1600年、オランダが1602年、フランスが1604年設立)。
ビルマ(現ミャンマー)はイギリス領インドへの侵略に対するイギリスとの3度の戦争(英緬戦争)に敗れ、ビルマの半分がイギリス領インドに併合されることになる。
一方、イギリス東インド会社に支配されていたインドでは、1857年にインド大反乱(セポイの反乱)を起こし、1877年にイギリス領インド帝国となる。
1947年にはパキスタンがイギリス領インド帝国から独立することになり、インド連邦、スリランカの3国に分離。パキスタンは3回の印パ戦争を経て、1971年には、東パキスタンがバングラデシュとして分離独立することになる。

また、ヒマラヤ山脈のあるネパール、インド、中国、ブータンのあたりはほぼ全域が高山地帯で、国境も曖昧だったため、その国境をめぐって1959年頃から1962年には大規模な軍事衝突に発展。主にカシミールとその東部地域、ブータンの東側で激しい戦闘をし、中国が成功を収めるも、解釈をめぐってはいまだに緊張状態が続いている。この紛争をきっかけに、インドは核開発をするようにもなる。また、中ソ対立の影響で、ソビエト連邦がインドを支援し、印パ戦争では中国がパキスタン側にまわるなど、大国の対立も色濃く残っている。(竜子)

▼参考 イギリス領インドの地図
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e6/British_india.png

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Chapter31 カトマンズ・トリブバン空港着陸

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

 仙波機長は着陸を担当するカトマンズ空港タワー管制に周波数を変えた。そして再度、高度設定を確認した。

(現高度、6,800フィートは)6マイルまでですね
はい。6マイル」と頷いて牧機長も確認する。仙波機長はタワー管制を呼んだ。
カンマンズ・タワー エアシステム8517 ナウ 7マイル ファイナル ランウエイ インサイト
(カトマンズ・タワー管制へ。こちらスアシステム8517です。現在、最終7マイル地点です。滑走路確認しました)
エアシステム8517 ウインド ウエスタリー 10ノット クリア トゥ ランド ランウエイ02
(エアシステム8517へ。風は西から10ノット吹いています。滑走路02へ着陸を許可します)
 管制官は女性である。独特の訛りのある英語が響いてきた。
エアシステム8517 クリア トゥ ランド ランウエイ02」 仙波機長は着陸許可を復誦し、牧機長が再度、高度設定を確認した。
6の68」(6マイルまでは高度6,800フィートで)
6マイル OK、ネクストは5マイルの6,100
 仙波機長はチャートをチェックして次の高度設定、5マイルを6,100フィートで飛行することを確認し、牧機長がナビゲーションをコンピューターにセットする。
OK、5マイル過ぎましたら、4マイルまでは5,800(フィート)、5マイル、5,800。スピード アルトスタンド
 牧機長が頷く。
ゴーアラウンド アルトは15,000(フィート)
(着陸やりなおしの場合の高度は15,000フィートです)
セット
ランウエイ イン サイト ランディング」と牧機長。
(滑走路確認。着陸します)
 もう、エアシステム8517は空港を取り巻く山の最後のなだらかな山腹を降りてランウエイに向かっていた。
 高度は5,800フィートだが滑走路の標高が約4,200フィート(1,400メートル)あるので実質高度は約1,600フィートしかない。
アプローチ、ナウ グライドスロープ」(グライドスロープに乗りました)
 滑走路の末端から発する下降進入のビームに乗って高度を下げる。
サーフェス・ウインド(滑走路上の風)は…?
もう一度、聞きますか? あまり当てににならないサーフェス・ウインドですけど…
そうね」と牧機長。普段の着陸なら管制官が風速と方位が変わるたびに航空機に知らせてくるが、カトマンズの管制官はランディング・クリアランスの時に、ウエスタリー、10ノット、と大まかに知らせただけでその後アナウンスはない。
これが350度の15ノットです
 仙波機長は飛行機の計器に表われている風速と方位を読み上げた。ヘディングが20度なのでほぼ正面の風、若干、左から吹いている。「マニュアル スラスト」と牧機長はオートパイロットをオフにして、手動に切り替えた。
 眼前を鳥の群れが飛んだ。
バード」と牧機長が確認する。ランウエイの末端が薄暮の中に鮮やかに浮き上がって見える。
ワン・タウザンド」仙波機長が高度1,000フィート通過を告げた。そして下降ビームを見ながら、
スライトリー ビロー」と機体が少し低く進入していることを告げる。すぐ牧機長は飛行機をビームに乗せた。
ちょっと、(高度が)高く見えると思いますので
 滑走路の末端が目の前に迫った。
400(フィート)」コンピューターの音声が高度を読み上げる。あと、接地まで120メートルだ。
300(フィート)」仙波機長が高度計を読んだ。
スタビライズド ランデング!」牧機長が着陸を告げる。
200(フィート)」とコンピューターの声。滑走路が茶色の帯びを流したように後へ飛ぶ。
330(度から)、10ノット」仙波機長が滑走路の風を計器で読み伝える。
100…50、30、20、10、5…
 エアシステム8517は滑走路に接地した。すぐリバースがかかり機体が減速する。
80(ノット)」仙波機長がスピードを告げた。
エアシステム8513…コンタクト・グランド121.9
 訛りの強い管制官の音声は聞き取り憎い。
ラジャ。ピックアップ3 エコシナ2 スイッチ トゥ グラウンド 121.9
(領解しました。ピックアップ3、エコシナ2、地上管制121.9メガヘルツに変えます)
ア ファーム ゲート2」(ゲート2です)
それではレフトターンで
カトマンズ・グランド エアシステム8517 リクエスト タクシー
(カトマンズ地上管制へ。こちらエアシステム8517です。地上走行の許可を願います)
 客室ではカトマンズ到着のアナウンスが流れている。
皆様、ながらくのご搭乗お疲れ様でございました。只今、カトマンズ・トリブバン国際空港へ到着いたしました。こちらの時間で午後4時42分でございます……

見上げると周囲の薄暗い山並みから抜きんでるようにエベレストがあるクーンブー・ヒマラヤの峰々が黄金色の夕陽をあびて王者の風格で天空にそびえ立っていた。

END

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter30 山越へのアプローチコース

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

スペアー…チェック
それではこちら(VHF無線NO.2)をモニターします

 仙波機長がカトマンズのカンパニー無線の周波数をNO.2無線機に合わせて言った。
 管制官がブッダ84便に9,500フィートまでの下降を指示する無線交信が聞こえる。そして新たにカトマンズ進入管制エリアにブッダ航空664便が入ってきた。ポカラ(アンナプルナに近いネパールの観光地)からカトマンズに向かう双発旅客機である。

フラップ 20」(フラップを20度に下げてください)
 牧機長の指示で仙波機長は下げ翼を20度にして言った。
16マイル、ノペン過ぎましたら、(高度)10,500(フィート)で13マイルまで(水平飛行)ですね
 前述のように盆地の底にあるカトマンズ空港へのアプローチは周囲にある山並み(山の高さはおよそ6,000から9,000フィート)に添って尾根の階段を下るように進入する。そのため滑走路までの距離によって微妙な高度設定がある。
OK、ギア ダウン」(車輪を降ろしてください)
ギア ダウン
 牧機長の指示で仙波機長が車輪を降ろした。床からゴトンとくぐもった車輪の降りる音が響く。
バーチカルスピード
ギア ダウン スリー・グリーン」車輪が完全に降りた緑色のランプが灯った。着陸に際してコックピットでは一連の点検作業が続く。
マスター コーション
AFS
インカム アクション
ウインド・シェア アラート ノット アベラブル
OK
フラップ 40」最終フラップが降りた。
セームが出たら切りますから…ノペン
 エアシステム8517はウエイポイント・ノペンに達した。仙波機長がすぐ報告する。
カトマンズ・アプローチ エアシステム8517 デパーテッド ノペン
(カトマンズ進入管制へ。こちらエアシステム8517です。ノペンを過ぎました)
エアシステム8517 ラジャ コンティニュー アプローチ
(エアシステム8517便へ。領解。そのまま進入して下さい)
ラジャ コンテニュー アプローチ
 仙波機長は交信を復誦して、
13マイルまで(このまま水平飛行で)」と牧機長に現在高度での飛行を確認した。
ノット アプリカブル
クリア
ステータス…クリア
ブリード アドバイザリー セームですのでクリア
スピード アルトスター
バーチカル スピード
 アプローチの計器点検が続いたあと、仙波機長は再度、進入方式を確認する。
13マイルを過ぎましたら…
(高度は)95。9,500(フィート)」と牧機長。

 3,000メートルほどの山を超えた。ヒマラヤの夕映えを除いては下界は薄暗く、山麓に広がる段々畑も灰色の縞模様となって足元から消え去っていく。
 又、ひとつ大きな尾根を超えた。尾根の背にはえた広葉樹林をかすめるように飛ぶ。
 まだまだ続く山並みの向こうにやっと平野が現われその真中にカトマンズの街が見えた。街は数センチの小さな茶色の箱を無数に散らしたように平野の中に不規則に広がり黄昏の中で煙っている。

はい。95(9,500フィート)です。13マイル(地点通過)」「リトル オア アバーブ」(少し高い)
ちょっと2,000ほど使わないと駄目みたいですね。ランウエイはインサイト(目視可能な状態)ですが、結構、(高度が)高いですからね
 街の外れに空港が見え、薄闇に消えようとする灰色の滑走路が放つ白と赤の光が小さなクリスマス・ツリーのように瞬く。
 だが、空港は遥かにまだ下の谷底にある。
今、飛行機は取り囲む高い山々が作るすり鉢の縁を飛行しており、これから山を下ってその底にあるカトマンズ空港へ下降するのである。
 管制官が西から進入するブッダ航空84に前方、10マイル地点にエアシステムのエアバスがアプローチしていることを告げた。

10マイルまで9,500(フィート)
 仙波機長がアプローチ・チャートを見ながら、再び、進入方式を確認する。
 パキスタン航空のA-300は10マイル地点、高度7,500フィートで山腹に激突している。尾翼を山の小さな峰でこすって機体がまふたつに折れたのだ。
(次は)8マイルまで8,200(フィート)

 進入は滑走路から1マイルの所にあるアプローチ・ポイント、KTM(キロ・タンゴ・マイク)より10マイル手前まで9,500フィートで飛び、10マイルを過ぎると高度を8,200フィートに維持し8マイル地点まで飛ばねばならない。水平飛行と下降が微妙な距離と高度で何回も繰り返される。このアプローチが難しいのだ。
じゃあ、ランディング・チェックリストをしておきます
 仙波機長が着陸最後の計器点検を始めると客室ではランディングのアナウンスが流れた。

ご案内いたします。当機は最終の着陸体制に入っております……
ランディング ギア
スリー グリーン
フラップ
40
ランディング チェックリスト コンプリート
(着陸最終計器点検完了)
8マイル過ぎたら、6マイルまで6,800(フィート)
はい。領解
アルト スター
はい。8マイル(地点)です
 8マイル地点で管制官から交信が入った。
エアシステム8517 ポジション 8マイルス フロム キロ・タンゴ・マイク(ランウエイ手前の最後のウエイポイント)コンタクト カトマンズ・タワー 118.1
(エアシステム8517へ。現在、KTMから8マイル地点です。以後はカトマンズ・タワー 118.1メガヘルツに連絡して下さい)
エアシステム8517 サンキュー スイッチ トゥ ザ タワー 118.1
(エアシステム8517です。ありがとうございました。タワー管制118.1に連絡をします)

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter29 カトマンズへの最終進入

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

 機窓には2〜3,000メートルの山々が幾重にも連なって見え、その山並みは壁のように聳え立つヒマラヤの高峰に遮られている。
 この高度から見ると、これから深い山の中に向かって高度を下げていく感じがして、この先に空港があるなどとても信じがたい風景である。まるで大きなすり鉢の底へ山並みを越えて沈んでいく感じがする。
 カトマンズ空港は正式にはカトマンズ・トリブバン国際空港。1949年、当地に小型機が着陸したことに始まるといわれている。
 1989年に国際線ターミナルが完成。滑走路は南北に伸びた、長さ3,050メートルのメイン滑走路が使用され、滑走路の標高は1,400メートルである。
 空港はカトマンズ盆地の周囲を囲むヒマラヤ山麓の2、3,000メートルの山々に隔てられた立地条件下にあるので、空域の狭さが離発着の難しさと空港の処理能力といった問題点になっている。
 盆地の中の空港へのアプローチは周辺の山の最も低い峠の上を通過して南から進入する方式だけである。

 客室ではパーサーのアナウンスが始まった。
皆様、これより着陸体制に入ります。ひじかけやお席の背を元の位置にお戻しになり、お席のベルトをお締め直し下さい。…
 アナウンスの途中に、カトマンズ管制官が飛行するすべての航空機に気圧の変化と気温をリポートする交信が入った。
オール・ステーション QNH 1015 テンパラチャー 24」(すべての航空機へ。現在、気圧は1015ミリバール。気温は24度です)
トランジションは150ね
はい。150です」とふたりの機長は左右の計器を再確認した。
 コックピットのスピーカーからはエアシステム8517の前後に、ゴルフ・インディアのDC-9が、ネパール国内線ブッダ航空の双発旅客機などが、カトマンズ空港へ進入する交信が聞こえている。「アプローチ ブッダ84
(カトマンズ進入管制へ。こちらブッダ航空84便です)
ブッダ84 カトマンズ・アプローチ ゴー ア ヘッド
(ブッダ航空84へ。カトマンズ進入管制です。どうぞ)
45マイル… メインティン 195 リクエスト ディセント
(…の45マイル地点です。現在の高度は19,500フィート、下降の許可願います)
ブッダ84 ディセント 11,500 QNH 1015 ランウエイ02 スクォーク0102
(ブッダ航空84へ。11,500フィートまでの下降を許可します。QNHは1015ミリバール、レーダー認識番号は0102です)
ライトサイド クリア

 機首方向324度で飛行していたエアシステム8517は、次のウエイポイントRATAN(ラタン)に向けて機首を021度にするために右旋回を始めた。
 ロメオの通過後の飛行コースは次のようになる。まず、ROMEO(ロメオ)の16マイル先にあるRATAN(ラタン)まで3分の飛行、ラタンからそのままの方位でウエイポイントNOPEN(ノペン)まで8マイル、2分の飛行、そしてそのままKTM(キロ・タンゴ・マイク)ポイント(ノペンから16マイルで6分の飛行)まで飛び、最後は機首を026で1マイル先のカトマンズ空港のランウエイ02に着陸する。
 だが、これから幾つもの山並みを、しかも、山の頂きすれすれの高度で超えるという微妙な高度設定の中で下降するのは非常に神経を使う作業の連続となる。
 コックピットは緊張感が高まってきた。

エアシステム8517 アイディンティフィケーション リポート ラタン
(エアシステム8517 ラタンに着いたら報告して下さい)
エアシステム8517 リポート ラタン & ナウ リービング 150 12,500 デパーティング ロメオ ナウ
(エアシステム8517 ラタンでリポートします。それから現在、ロメオを通過、高度15,000フィートから12,500フィートに向かっています)
エアシステム8517 ラジャ
それではアプローチ・チェックリスト」と牧機長。最終進入の計器点検が始まった。
インカム ステータス
チェック
ランニング データ(着陸データ)
セット
アルティメーター(高度計)
1016
オートブレーキ
ロウ

アプローチ・チェックリスト…コンプリートです
 管制官は空港の西からKTM(キロ・タンゴ・マイク)に向かって下降してくるブッダ航空84に南から進入するエアシステム便の存在を告げている。
スピード アルトスター
スラット エクステンド
 続いて管制官がエアシステム8517の前を飛ぶゴルフ・インディア航空に滑走路02への進入を許可を与えた。
 滑走路に向かって南からゴルフ・インディア航空とエアシステム8517が、西からブッダ航空84便が進入しているのだ。
 次に管制官はエアシステム8517の位置と高度確認をする。
エアシステム8517 インフォメーション ポジション…」(エアシステム8517へ。現在地を知らせて下さい)
エアシステム8517 5マイル ビフォア ラタン メインティニング 12,500
(こちらエアシステム8517です。現在、ラタンの手前5マイル地点で高度12,500フィートを維持しています)
エアシステム8517 アイデントファイル ディセント 11,500 ポジション 12マイル フロム ノペン クリア トゥ DMEVOR ランウエイ02 アプローチ
(エアシステム8517便へ。確認しました。ノペンから12マイル先の地点で11,500フィートになるように下降しDMEVORをチェック後、滑走路02への進入を許可します)
ラジャ エアシステム8517 ディセント 11,500 クリア DMEVOR ランウエイ02 アプローチ
(領解しました。こちらエアシステム8517。11,500フィートまで下降し、DMEVORを確認、滑走路02へアプローチします)
フラップ 15」(フラップを15度にして下さい)
 牧機長が下げ翼を降ろす指示を出した。管制官がゴルフ・インデア航空にタワーへの移管の交信をする。これで進入管制エリアではエアシステム8517がNO.1(先頭)になった。そのあとに西からブッダ航空84が続く。
 少しづつ周囲の風景が暗くなり前方に連なる緑の山々が灰色に変わっていく。しかしその後に聳えるヒマラヤの山々はまだ陽光に燦然と輝いて美しい。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter28 世界でも最も難しいカトマンズ・アプローチ開始

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

エアシステム8517はヒマラヤを正面に見て高度を下げていた。高度計の指針は20,000フィートに近づいている。メートル換算で高度約6,000メートル。ヒマラヤの高峰は8,000メートルを超えるので、今では仰ぎ見るように山が視界一杯に広がっている。

はい。リーチング」高度20,000フィートに達した。
トランジション。1015」仙波機長が計器を読み上げた。
1015がオーケーですね
はい」と牧機長が滑走路上の気圧1015ミリバールに気圧高度計をセットする。とくにカトマンズ空港着陸は微妙な飛行高度の維持を要求されるのだ。油断すると尾翼を山の傾斜に接触させることになる。

 過去、カトマンズ着陸では大事故が2度も起こっている。1992年の7月31日と9月28日にタイ航空とパキスタン航空のともにエアバスA-300が起こした事故である。
 最初のタイ航空の事故はフラップが調子が悪くゴーアラウンドする際に空港を取り囲む山の岸壁に激突して乗員、乗客113名が全員死亡した(日本人も含む)。
 その2か月後、カラチ発のパキスタン航空268便がアプローチ中に山腹に激突し乗員、乗客167名が全員死亡している。
 この事故の内、とくにパキスタン航空の事故は進入中に空港を囲む山に胴体をこするように接触、炎上したもので、指定高度より1,000フィート(約300メートル)低く飛んでいたことが直接の原因とされて気圧高度計設定のパイロット・ミスともいわれている。
 どちらにしてもカトマンズ空港の立地条件の厳しさと当時、カトマンズ空港にはレーダー誘導設備が無かったことが大事故につながった要因とされている。
 エアシステム8517の飛行高度が20,000フィートに達した。仙波機長が無線でカトマンズ・コントロールに報告をする。

エアシステム8517 ナウ 21DME フロム ロメオ 200
(エアシステム8517便です。現在、ロメオの手前21マイル地点です。高度は20,000フィート)
JAS8517 メインティン フライト・レベル 200 スクォーク 2526 コンタクト アプローチ 120.6 ナウ」(日本エアシステム8517便へ。飛行高度は20,000フィートを維持して下さい。レーダー認識番号(スクォーク)は2526です。以後はカトマンズ・アプローチ管制、120.6メガヘルツへコンタクトして下さい)
エアシステム8517 スクォーク 2526 スイッチ トゥ アプローチ 120.6
 仙波機長は交信を復誦し、無線周波数を120.6メガヘルツに変えてカトマンズへの進入を誘導するカトマンズ・アプローチ管制を呼んだ。
カトマンズ・アプローチ エアシステム8517 メインテニング 200
(カトマンズ進入管制へ。こちらエアシステム8517です。飛行高度20,000フィートを維持しています)
エアシステム8517 カトマンズ・アプローチ ディセント トゥ フライトレベル 150 スクォーク アイデント
(エアシステム8517便へ。こちらはカトマンズ進入管制です。高度15,000フィートに下降して下さい。レーダーで捕捉しています)
ディセント 150 スクォーク アイデント エアシステム8517
(15,000フィートへ降下します。レーダー捕捉、領解しました)「はい。150」と牧機長は降下高度を確認し15,000フィートへの下降を開始した。
エアシステム8517 アイデントアィル 15マイル…ロメオ リポート レベル
(エアシステム8517 領解。ロメオまで15マイル…の高度を報告して下さい)
 エコーがかかったような聞き取り難い管制官の声。
エアシステム8517 リポート レベル
(エアシステム8517です。(15,000フィートに到達したら)高度を報告します)
 すぐ管制官の声。
エアシステム8517 リポート ユア パッシング レベル
(エアシステム8517便へ。現在の飛行高度を知らせて下さい)
あ、今(現在)の高度を言え、と言っいるんだな」と牧機長が言う。仙波機長は頷いて無線機に向かった。
ナウ リービング 1974 150
(今、19740フィートを通過して15,000フィートに向けて下降中です)
エアシステム8517 クリア トゥ ノベンバー ロメオ アライバル ディセント 12,500 QNH 1016 ビア DME ランウエイ02 アプローチ ノーディレイ エクスペクテッド
(エアシステム8517便へ。ノペン(ウエイポイントNOPENのこと)ロメオ アライバルで高度12,500フィートまでの下降を許可します。現在の気圧は1016ミリバールです)
エアシステム8517 クリア ノペン ロメオ アライバル ディセント 12,500 QNH 1015
 ふたりの機長はカトマンズへの進入方式を確認した。いよいよアプローチが世界でも屈指の難しさといわれているカトマンズ空港への進入が始まる。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter27 カトマンズ空港への下降開始

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1015? これはもう一度カトマンズ管制にコンファームしなければならないですね

仙波機長は交信を聴きながら、気圧が1015ミリバールと先ほどの管制交信より6度も低くなっていることなどに気がつきコンファームのため、そして下降の準備が完了していることを知らせるため再度、カトマンズ管制を呼んだ。

カトマンズ・コントロール エアシステム8517 アプローチイング イプラス スタンディング バイ ディセント ナウ メインテイン 350」(こちらエアシステム8517です。イプラスに近づいています。下降準備完了。現在、高度35,000フィートです)
エアシステム8517 ウイ アー コンタクト トゥ カルカッタ ナウ。コンファーム アット イプラス」(エアシステム8517へ。我々は今、カルカッタ管制とコンタクトしています。イプラス上空でコンファームしてください)
エアシステム8517 5マイルズ ビフォア イプラス メインティン レベル 350
(エアシステム8517です。現在、イプラスの手前5マイル地点です。高度35,000フィートを維持しています)
ラジャ、JAS8517 アフター リーチング オブ ア イプラス インターテイミー オン ディセン フライトレベル200 リポート リービング フライトレベル 350 オーバー イプラス
(領解、日本エアシステム8517便へ。イプラスを通過後、高度20,000フィートへ下降して下さい。イプラスまでは高度35,000フィートを維持し、イプラスで高度35,000フィートを離れるときに報告して下さい)
エアシステム8517 アフター イプラス ディセント 200 リポート リービング 350…ナウ イプラス リービング 350 ナウ
(エアシステム8517です。イプラスを超えると高度20,000フィートまで降下します。35,000フィートを離れるときにはリポートします。あ、今、イプラスに達しました。これより35,000フィートを離れます)

 仙波機長は下降の指示を確認した。交信中にエアシステム8517便はイプラス上空に達した。
 ネパールに近づくにつれて眼下に広がるインドの平原が緑の山並みに変わってゆく。その山並みの向こう側にカトマンズがある筈だがまだ視界には入ってこない。
 正面のヒマラヤはますます近づいて、先ほどまで頂きにかかっていた雲も晴れて今は雄大な山容を陽光に輝かせている。

JAS8517 ラジャ リポート 25マイル ビフォアー ロメオ オン ディセンディング フライトレベル 200
(日本エアシステム8517便へ。領解しました。ロメオの手前、25マイルまでに高度20,000フィートになるように下降して下さい)
ラジャ エアシステム8517 25マイル ビフォア ロメオ ディセンディング 200
はい、領解」と牧機長も下降のクリアランス指示を再確認した。いよいよ、下降が始まる。「それではこっちに(VHF1無線機)に入れますね」とカトマンズ空港の空港情報を入力した。
ATISは112.3…112.3なんてないよなあ
 下降に際して、仙波機長がカトマンズ空港のATIS(空港情報)を聞くために周波数を確認するがATISが入ってこないので小首を傾げた。
ああ、ATIS?…(カトマンズ空港は)ATISはやっていないよ」と牧機長。
 空港情報もさることながら、日本で入手した種々なる事前情報とは違うことが多々あるのに困惑しながら仙波機長が言った。
それではもう一度、QNH(気圧)だけ確認しますから」そして「これは(帰国後、運航部に)言わないと駄目ですね」と呟いた。
テビトを過ぎたら早めにカルカッタから下降の許可を貰う必要があるな
 牧機長は事前情報の中で特に下降許可を貰う段取りに言及して言った。
そうですね。テビトを過ぎればカルカッタの交信が入らないですからね
そうね。モンダとロメオのエスティメイト(通過時間)を(早めにカルカッタ管制に)言って(飛行)情報を与えてね
 下降許可を貰うのにあわただしかった今回の飛行の反省として2人の機長は今後のカトマンズ・フライトのために種々な活きた情報を運航部に報告しなければと思うのだった。
 イプラスを過ぎて14マイル地点に達した。
 エアシステム8517はカトマンズに向けて高度を下げ始めた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter26 カトマンズFIR

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カルカッタ・レディオ ジス イズ ア JAS8517」と牧機長。
(カルカッタ・レディオ こちら日本エアシステム8517です)
カトマンズ・コントロール エアシステム8517」と仙波機長。
(カトマンズ・コントロールへ こちらはエアシステム8517です)
 無線にはカルカッタよりカトマンズの管制官が先に応答した。
JAS8517 ジス イズ カトマンドウ・コントロール コー ア ヘッド
(日本エアシステム8517便へ。こちらはカトマンズ・コントロールです。どうぞ)
 仙波機長はすぐに応答を始めた。
JAS8517 ナウ メインテニング 350 デパーティング モンダ 1024 ロメオ 43 レクエスト ディセント & ウッド ユー リレー トゥ メッセージ トゥ カルカッタ ウイ アン ネーブル トゥ コンタクト 120.1
(日本エアシステム8517便です。現在、高度35,000フィートで飛行中で、モンダを10時24分に過ぎました。ロメオは43分(あと19分後に)です。降下許可を願います。又、我々はカルカッタ管制120.1と連絡がとれません。メッセージをカルカッタへ連絡して下さい)
JAS8517 コンファーム アイ フォール カルカッタ ノーオブジェクシヨン フライトレベル 350?
(日本エアシステム8517便へ。確認します。飛行高度35,000フィートと報告すればよいのですか?)
ア ファーム メインティン レベル350 デパーティング モンダ 1024 リレー トゥ カルカッタ プリーズ & リクエスト ディセント
 仙波機長は再度、飛行高度とモンダ通過時間をカルカッタ管制へリレーするとともにカトマンズへの下降許可のリクエストを繰り返した。カトマンズ管制はすぐに応答する。
JAS8517 メタル・カトマンドウ 1020 サーフエス・ウインド 270ディグリーズ/05ノット ビジビリティ 10キロメーター クラウド・ヒュー 2,500フイート テンパラチャ 24 QNH 1015 ノーシグニフィカント イクスペクト VORDME・ランウエイ02 アプローチ バイ ロメオ インターティミ オン ディセンディング フライトレベル 200 & リポート リービング フライトレベル 350 コーディネーティング ウイズ カルカッタ
(日本エアシステム8517へ。GMT(標準時間)で10時20分現在、カトマンズ空港は滑走路の風が270度から5ノット、視界は10キロメーター、雲高は2,500フィート、気温24度、QNHは1015ミリバールです。ロメオ経由VORDME滑走路02の進入方式でロメオ上空で高度20,000フィートを維持して下さい。そして高度35,000フィートを離れることをカルカッタ管制とコーディネートして下さい)
カトマンズ管制の指示は明確であった。その交信中にも牧機長はカルカッタ管制を呼び続けている。仙波機長はカトマンズ管制に交信を返した。

カトマンドウ コントロール エアシステム8517 コピー ウイズ 1015 イクスペクト VORDME・ランウエイ02 アプローチ ビア ロメオ ウイ キャノット、ウイ アー ノット エイブル トゥ コンタクト カルカッタ リクエスト リレー メッセージ トゥ カルカッタ リクエスト ディセント
(カトマンズ・コントロールへ。こちらエアシステム8517便です。QNH(気圧)が1015ミリバール、ロメオ経由VORDMEランウエイ02アプローチを領解しました。尚、我々はカルカッタ管制と連絡がとれませんので下降許可をカルカッタにリレーして下さい)
JAS8517 コピード OK メインティン フライトレベル350 ウイ ウイル コンタクト カルカッタ メインテイン 350 ウイ ウイル コーリング カルカッタ
(日本エアシステム8517便へ。コピーは正確です。飛行高度35,000フィートの飛行を維持しておいて下さい。我々がカルカッタへ電話で報告します。高度35,000フィートを維持して下さい)
サンキュー エアシステム8517 メインティン 350 アプローチング イプラス(IPLUS) エスティメイティング ロメオ 43
(ありがとうございます。現在高度35,000フィートでイプラスに近づいています。ロメオ到着時間は(10時)43分(予定)です)
JAS8517 ラジャ

 飛行機はあとわずか20マイル弱で予定降下地点に達する。ぎりぎりのところで交信出来たことにほっとしながら仙波機長は胸をなでおろし、左席の牧機長にカルカッタの様子を尋ねた。
どうですか?
スタンバイ クリアランス(許可)で今、待っています。コンタクトできました
 もう一方の無線でカルカッタと連絡を取っていた牧機長が応えた。
こちらでは、カトマンズ・コントロールが(カルカッタ管制に)リレーメッセージをするということです。今はメインテイン 350(高度35,000フィートを維持)。コーディネート、カルカッタといわれましたが、アン ネーブル カルカッタと言いましたから
 カルカッタ、カトマンズともにクリアランス待ちの状態になった。「はい」と牧機長。ほっとした表情が顔に現われている。難しいカトマンズへの着陸は彼が担当するのだから。
では、(下降のクリアランスが)どっち(カトマンズかカルカッタ)からくるかわからないですね
そうですね。(私が)こっち(カルカッタ管制)をモニターしますから」と牧機長。
それでは、(僕が)126.5(カトマンズ管制の周波数)をモニターします」と言って仙波機長はカトマンズ管制の交信に聞き入った。
少し、(エンジン)絞りますか?」仙波機長が尋ねた。
いや、まだ、いいですよ。(下降地点まで)距離があるから」と牧機長。下降開始予定のイプラスまであと8分である。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter25 インド上空 再び交信混乱

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インドに入るとヒマラヤが近くなり山容が非常に鮮明になってきた。
 横に長く連なる山脈に夕日が輝き、飛行高度10,000メートルから眺めると、ヒマラヤは視線と同じ高さに広がる雲海のように聳え、それが淡いオレンジ色の炎を上げて燃え盛っているように見える。空には一片の雲もなく深い紺色だ。

エベレストはちょっとわからないですね
 先ほどから熱心に数多いヒマラヤの頂きの中からエベレストを探していた仙波機長がしぶしぶと計器類に目を移した。いよいよ、カトマンズへの下降(ディセント)が始まるのだ。
 現在、エアシステム8517便はモンダ(MONDA)に近づいていた。
今、ATC(管制エリア)はカルカッタだな…
 着陸時の操縦を担当する牧機長が副操縦士役をする仙波機長に確認した。
はい。(次は)リポート モンダ(MONDA)です
モンダになったらリクエスト ディセント(下降の許可要請)…まだ、(少し先で)いいかな」と牧機長。
もし、(管制官から交信が)きたら、降りると言いますか
降ります

 フライトプランではMONDAの次のウエイポイント、イプラス(IPLAS)の14マイル先が下降開始予定地点になっている。イプラスはモンダの10マイル先で、まだ、30マイル弱、クルージングが残っている。時間にして17、8分先だ。
 今はまず、カルカッタ管制官にディセントの許可をもらうのが先決であった。

皆様にご案内いたします。まもなくいたしますと次第に高度を下げて参ります。ベルト着用のサインが点灯しましてからはお手洗いのご使用をお控えいただきますので、ご了承下さい。日本とカトマンズの間には3時間15分の時差がございます。さきほど昆明の時間にお合わせのお客様は只今の時刻を2時間15分お戻し頂きましてカトマンズの時間にお合わせ下さい。只今、カトマンズの時間は午後4時10分でございます。この飛行機のカトマンズ・トリブバン空港到着は定刻より5分ほど遅れまして4時55分を予定しております
 キャビン・アナウンスが流れている頃、コックピットではカルカッタ管制とのコンタクトに腐心していた。いままで明瞭に入っていたカルカッタ管制との交信が出来なくなったのだ。
カトマンズ・コントロール エアシステム8517 デパーテッド モンダ レベル350」(カトマンズ・コントロールへ。こちらエアシステム8517です。現在、モンダ上空を過ぎました、高度35,000フィートで飛行中です)
ジス イズ エアシステム8517 デパーテッド モンダ 350
(こちらはエアシステム8517便です。モンダを通過しました。高度35,000フィートです)
 仙波機長は4回目のコールを無線に乗せた。それにしても、このフライトは管制コミュニケーションに振り回され通しで、しかも最後までそれが続いている。
ちょっとやってみましょうか」と牧機長が交代して無線機のマイクを取った。
カルカッタ JASエアシステム8517 ゴー ア ヘッド
(カルカッタ管制へ。日本エアシステム8517です。応答ねがいます)
……」カルカッタは沈黙したままだ。
JAS8517 ディパーテッド モンダ 1024 エスティメイティング コレクション メンテイニング 350 エスティメイテング ロメオ 1043 リクエスト ディセント
(日本エアシステム8517です。モンダを10時24分に通過。到着予定、訂正、高度35,000フィートで飛行中、ロメオ到着予定は10時43分の予定です。下降の許可をお願いします)
……

 依然と応答がない。降下開始の予定まであと10分強しか時間がなかった。前方にはヒマラヤの高嶺がますます、大きく高く聳えて、今では山の襞を肉眼ではっきりと確認出来るほど近づいテイた。
 ネパールはすぐそこと言っても、現在はまだインドを飛行中である。しかも降下地点はインドの領域にある。管制コミュニケーションの原則からいっても、まず、カルカッタの管制官に降下の許可を貰い、それからカトマンズ管制に引き継がれるのが正当なのである。
 とくにこのインドとカトマンズ管制エリアはTWOーWAY COMMUNICATIONでカルカッタ管制の指示を得ながらカトマンズ管制と同時に交信するという特殊な管制エリアなのである。
 どうしてもカルカッタと連絡をしたい。
 しかし、刻々と迫る下降地点を前に仙波機長はもうひとつの無線機で先にカトマンズを呼ぶことを考えた。
 普段はやらないことであるが今の状態では背に腹は返られない。
 なにしろ、山に囲まれたカトマンズ盆地の底にある空港への下降は、飛び越えなければならない周囲の山の高さに応じて、刻々と飛行高度を変えて進入するという他に類例が少ない危険なアプローチになる。それだけに出来るだけ早く下降の許可をもらってテクニカルな面は無論のこと、万全な心の準備を整えて難しいディセントにのぞみたいのだ。

よし。こちらはこれで(もう一つの無線機で)やりますから」と仙波機長は牧機長の許可を求めた。
はい。私がこっち(カルカッタ管制)をやるから、そちら(カトマンズ管制)をやって下さい
 牧機長はVHF1で引き続きカルカッタを、仙波機長はVHF2をカトマンズ管制に周波数を合わせて、ふたりでカルカッタとカトマンズを同時に呼び始めた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter24 バングラデシュ上空

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まもなく飛行機はインドからバングラデシュに入る。
さきほどから眼下に大きな河が見え始めた。ガンジス河とプラマプトラ河だ。
ガンジス河はヒマラヤ西の高地からインド北部の平原、ヒンドスタン平原を流れてヒンズー教の聖地ベナレスやパトナを抜け、カルカッタの北でバングラディシュに入る。そしてチベット高原に水源をもつプラマプトラ河とダッカの西で合流しベンガル湾にそそぐ。
このガンジス、プラマプトラのふたつの河は無数の支流を作り、それが幾重にも絡み合ってまるで編みの目のようになり、高度35,000フィートの上空から見ても機窓いっぱいにその広大なデルタ地帯が広がっている。

わー、凄い!
コックピットからの眺めは壮大であった。いろいろな風景を見慣れているベテラン・パイロットの仙波機長も思わず叫んだ。
今、河の無数の支流が午後の陽光を浴びて黄金色に帯をなして光り輝いている。
はい。AAT」と現在国境のポイントを通過したことを仙波機長が報告した。これから8517便はバングラデシュを飛行する。
ダッカ・コントロール エアシステム8517 ポジション AAT(アルファ アルファ タンゴ) 350
(ダッカ管制へ。こちらはエアシステム8517です。現在地はAAT。飛行高度は35,000フィートです)
ジャパンエアシステム8517 ラジャ レポート ラッシャイ(RAJ) メインテイン 350
(日本エアシステム8517へ。領解、RAJに着いたら報告して下さい。飛行高度は35,000フィートを維持して下さい)
ラッシャイ(RAJSHAHI)はバングラディシュの西の外れにあり、インド国境に近く、ダッカに次いでバングラデシュの航空の要路である。
エアシステム8517 メインティン 350 レポート ラッシャイ
現在、8517便は方位285度でA201航路を順調に飛行している。無線機から航空機と管制官の交信が絶え間無く続く。
このエリアはカルカッタ、ベナレス、パトナムなどインドの都市やカトマンズ、ダッカなど国際空港があるので、結構、トラフィックが多いのだ。
眼下には河の風景が続いている。ガンジス河の河口が見える。河は蜘蛛の巣のように四方に水の糸を張り巡らし、その無数の河の両岸に小さな水田が班点のように見渡すかぎり広がっている。

また、そのあたり全部が河ではないですか?」その風景を眺めながら、仙波機長がつぶやいた。
河のような河ではないような水郷地帯だなあ…。こんなに広いとは思わなかったな」牧機長も驚嘆を隠せない様子であった。バングラディッシュは世界最大のデルタ地帯であるだけに雨期には洪水に見舞われ、国土の3分の2が水に覆われたこともあるという。
ルフトハンザ8446 カルカッタ・コントロール
カルカッタまで南100マイルほどの距離なのでVHF電波が明快に入る。
コックピット・クルーは一息ついて客室に軽食と飲物を頼んだ。
おにぎりとウーロン茶とおしぼりを持ってきてもらえますか?

正面にヒマラヤが見え始めた。普通、山は飛行機から見れば下に見えるが、ヒマラヤは高度一万メートルを飛行する場合でも同じ高さに見える。まだ距離があるので水平線を覆う雲の群れの様にも思える。

JAS8517 カルカッタ・コントロール
ルフトハンザ航空につづいてカルカッタの管制官がエアシステム8517便を呼んだ。これからカルカッタ管制西セクターの圏内に入る。まもなくバングラディシュとインドの国境である通過点、デビドである。
カルカッタ・コントロール エアシステム8517 アプローチング テビド(TEBID)レベル 350
(カルカッタ・コントロールへ。こちらはエアシステム8517便。まもなくテビド上空です。現在、飛行高度35,000フィートで飛行中)
リクエスト エスティメイト ロメオ(ROMEO)
(ロメオの予定通過時間を教えて下さい)
カルカッタの管制官はインドのウエイポイントを飛び越えて一気にネパールのウエイポイント ロメオ(ROMEO)の到着時間を尋ねてきた。ロメオはカトマンズへの玄関口といえるウエイポイントでる。
エアシステム8517 エスティメイティング ロメオ 43 モンダ(MONDA) 25
(エアシステム8517便です。ロメオには08時43分 モンダには08時25分に到着予定です)
モンダ(MONDA)はロメオの手前にあるインド北部のウエイポイントである。
ラジャ メインテイン フライトレベル 350 リポート モンダ
(領解。高度35,000フィートで飛行し、モンダ通過時に報告して下さい)
エアシステム8517はビハール州の東で再びインドに入り、右旋回してネパールまでインド北部を飛行する。

現在地からカトマンズまでの飛行ルートを説明すると、飛行航路A201でバングラディシュのラッシャイ(RAJ)まで飛んだエアシステム8517は、ガンジス河流域を飛びまもなくテビド(TEBID)からインドに入る。そして方位295度でテビドから95マイル飛び、インド北のウエイポイント、モンダ(MONDA)に至る。
そしてモンダで右旋回し方位325度でカルカッタから伸びている航空路R581に入りネパールに向かう。ネパールの入り口がロメオでモンダから124マイルの地点である。

ディセント・プリパレーションをやりますから
お願いします。今、ウエザー(カトマンズの天候データ)を出します
ディセントまであと約30分。仙波機長は下降前の計器点検を始めた。さきほどエーカーズで送られてきたカトマンズの着陸データを牧機長がコンピューターからプリントアウトする。それを見ながら仙波機長が言った。
カトマンズは290度の6ノット…、カブ(CAB)OK (気温は)10度ですよ
10度?」(註:東京からのデータ送信ミス)
さっきは20数度でしたね」クンミン空港離陸の際に得たデータは26度であった。
それ本当にカトマンズ?
ええ、VNKT(カトマンズ空港の記号)です
でも、出掛けに(クンミン離陸のときに)たしか、26度と言ってたんだがね
そのときコックピットに入室してきたチーフパーサーも、え、10度?、と驚いたように目を丸くした。
おう、見えてきたね」仙波機長が感慨ぶかげに窓越しにヒマラヤを指差した。さきほどは水平線上の雲の群れのようだったヒマラヤは、今はクッキリとその姿を現し、ほぼ、飛行高度と同じ高さに聳えている。
最初にヒマラヤを自分の目で見るときは誰でも言い知れぬ感動を覚えるという。数多くの大自然の驚異を空の高みから眺めることに慣れている筈のコックピット・クルーもその例外ではなかった。

あれはエベレストですか? というチーフ・パーサーの質問に
エベレストがどれかちょっとわからないね。もう少し近づくと見えるのかもしれないけど」と仙波機長もヒマラヤから目が離せない様子であった。
旅路の終わりに機窓に広がる世界の最高峰を眺めることが出来るのは、このフライトの醍醐味には違いなかった。
マイ、サイド コンプリート
すばやく、計器点検を終えてクルーはカトマンズへの下降に再び、身を引き締めるのだった。なにしろ、カトマンズ空港は高地(標高1,400メートル)にあり、しかも周囲を高い山で囲まれた盆地の底にあるので世界でも指折りに着陸が難しい空港として知られている。
スピーカーからバングラデシュ航空ダッカ行の交信が流れている。エアシステム8517はインド北部のモンダに近づいていた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter23 インドの東

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 インドの東からバングラディシュにかけては国境線が入り組んでいる。インド国境はインド北部から東へヒマラヤの山麓ブータン、アッサムへ伸び、アッサムからバングラディツシュとミャンマーの間から南へ入り込んでいる。
 A201の航空路上、ミャンマー国境付近のANSOSからバングラディシュの国境のAAT(AGARTALAアガルタラ)の間がインド東の領域であるが、その領域は縦に細長いので横断しても120マイルほどの距離しかない。AAT(アガルタラ)の先(西)はバングラディシュの首都ダッカがある。

ダッカ エアシステム8517 ポジション ANSOS
(ダッカ管制へ。エアシステム8517です。現在地、アンソス)
 カルカッタ・ラジオとの交信でインド上空のクリアランスを得ているので、仙波機長は周波数を変えてひとつ先のダッカを呼んだ。
…コーリング ダッカ セイ アゲイン
(…こちらダッカ管制です。もう一度お願いします)
 ダッカ・コントロールの管制官の声は明瞭に入った。
コーリング エアシステム8517 ポジション ANSOS
(機名はエアシステム8517です。現在地はアンソス)
ア ファーム JA8517?
(JA…日本国籍…の8517便ですか?)
ジス イズ ジャパン エアシステム8517 パスド ANSOS 0928 レベル 350 エスティメティング AAT 45 RAJ(ロメオ アルアァ ジュリエット) 1006
(こちらはエアシステム8517です。アンソスを9時28分に過ぎて高度35,000フィートで飛行しています。AAT到着予定は9時45分、RAJは次の時間の06分です)
ジャパン・エアシステム8517 メインテイン 350 & レポート AAT レポート …
うん?」最後の部分が聞き取れないので牧機長が小首を傾げ、仙波機長がコンファームする。
エアシステム8517 リポート AAT ナウ ウドゥ ユー セイ アゲイン アフター
……」再び、雑音が入って良く聞き取れない。
ああ、タイプ オブ エアクラフト」多分、飛行機の種類を聞いているんだよと牧機長が言った。
エアシステム8517 アー ユー リクエスティング タイプ オブ エアクラフト?
(エアシステム8517です。当飛行機の種類が必要ですか?)
ウイ ゴット イット ジャャパンエアシステム8517 リポート AAT
(エアシステム8517へ。それは判明しました。AATで連絡して下さい)
ラジャ エスティメテーング AAT 45 & タイプ オブ エアクラフト アー A300ー600
(領解しました。AAT着予定は7時45分です。そして飛行機の種類はエアバスA-300ー600です)
ダッカ コピー」とダッカ管制官が領解して無線を閉じた。
 交信が終わると再び、仙波機長は無線を取った。
ちょっと、こっちで(VHF周波数120.1で)カルカッタに言って(コンタクトして)みますから

 このフライトの任務は今後、続くであろうカトマンズ便のために飛行資料を集めることも含まれている。中でも複雑で聞き取り難いこのミャンマー、インド東、バングラディシュのATC状況を熟知することは重要な任務のひとつであった。
 仙波機長は蛇足とは思いながらも、カルカッタ・コントロールのVHF状況を知るために再度、カルカッタ東インド管制と交信しようとしていた。
A300に搭載されたVHF無線機は3台である。そのNO.1には現在、125.7メガヘルツでダッカ・コントロールが。NO.2には120.1メガヘルツのカルカッタ・コントロールの周波数が入っている。3台目は緊急予備に空けている。

じゃあ、NO.1(VHF1)ユー ハブ」と仙波機長が牧機長にダッカとの交信を頼んだ。(じゃあ、NO.1無線機をお願いします)
OK アイ ハブ。ダッカね。僕がダッカをモニターしますから」と牧機長。僕はカルカッタをやりますから、と仙波機長はVHFでカルカッタを呼んだ。
カルカッタ ジス イズ エアシステム8517 メインテイン レベル 350
……」やはりまだ遠いのか、ブー、ブーというノイズが聞こえるだけで応答がない。
ちょっとですね。120.1ではコンタクトできないですね」仙波機長が左席の牧機長を振り返って言った。
あとは(バングラディッシュを過ぎて)カルカッタ(管制エリア)に入るAATでダッカにレポートして…
うん。(今、カルカッタと連絡を取るのは)無理だね。でもいいですよ。カルカッタとも(HFで)連絡がとれているんだから」と牧機長。「もう、このままダッカをキープしながらAATまで行って、スイッチ トゥ カルカッタ120.1で、(連絡が)取れますよ
 うん、と頷きながら、仙波機長はこの南アジアにおける管制エリアの複雑さにほとほと困惑した表情を見せた。
もう、これは3つだから(ミャンマー、インド、バングラディシュの入り組んだ3つの管制だから)グジャグジャになっていますね、下が…
まあ、管制システムが遅れてますよね」と牧機長も日本やアメリカなどの先進国に較べて彼らが使用している管制機器の性能の遅れを指摘した。
 現在地はインドの東の上空である。地図を見ながら仙波機長はこれからカトマンズまでの管制コンタクトを総括して言った。
じゃですね。ここから(AATから)ここまで(TEBID)はダッカ(の管制エリア)なんですよ。だからAAT(アルファ アルファ タンゴ)で混乱しないようにダッカにコンタクトをします。向こうが(ダッカの管制官が)多分、言ってくると思うんですよ、この辺で(AAT付近で)スイッチ トゥ カルカッタと。そうすれば、テビト(TEBID)とモンダ(MONDA)の通過予定時間を言うと、この辺で(IPLAS付近でスイッチ トゥ)カトマンズ・コントロールと言ってくると思いますから
 牧機長も同じ意見だった。
そしたらディセント・クリアランス(カトマンズへの下降許可)を早めに貰えるしね
 無線からルフトハンザ航空の女性副操縦士のダッカとの交信流れている。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

【著作について】「ヒマラヤ飛行」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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Chapter22 ミャンマーと東インド国境

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 カルカッタ・ラジオ管制がHF無線より聞き取りやすいVHF無線の周波数を知らせてきた。
JAS8517 フリクエンシー カルカッタ・コントロール 125.7 ダッカ・コントロール 120.1
(日本エアシステム8517へ。カルカッタ東インド管制のVHF周波数は125.7 ダッカ管制は120.1です)
エアシステム8517 カルカッタ 125.7 ダッカ 120.1 サンキュー バイバイ

 エアシステム8517は現在、ミャンマーとインド東の国境付近を飛んでいる。まもなく国境の通過点アンソス上空である。
 周波数を確認して、良かった、良かったと仙波機長。そしてインド東エリアを管制するカルカッタ東インド管制に連絡しょうとしていた。、

カルカッタにまず、やりますね」と管制をVHFで呼んだ。
カルカッタ エアシステム8517 ポジション ANSOS
……
 しかし、無線は何にも答えない。
これは駄目ですかね…」と仙波機長、小首を捻った。
うーん。これは届かないんじゃないかな…」牧機長も同意するように頷いた。
 VHF電波はHF電波に較べて音声が明瞭であるが電波の届く距離が短い。これから入国しょうとしているインドの東地区はカルカッタで管制コントロールしている。現在地からカルカッタまでまだ700マイルの距離があるのだ。
それではダッカに先にゆきます
 仙波機長はカルカッタのVHFを諦めて、東インドを通過後、フライオーバーするひとつ先のバングラディシュ・ダッカ管制に連絡を取ろうとした。その方が距離が短い。
57ね」と牧機長もダッカ・コントロールのVHF周波数を薦める。
そのとき、コックピットの中でカルカッタ・ラジオ管制が呼ぶセルコールのブザーが響いた。
ああ、又、呼んできたよ。これに応えた方が良いんじゃないかな。」と牧機長。
 カルカッタ・ラジオの無線はHFー2である。セルコールのブザー音をリセットすることを牧機長に頼んで仙波機長がHF無線を取った。
…スタンバイ JAS8517 カルカッタ
(…待機して下さい。日本エアシステム8517へ。こちらカルカッタ・コントロールです)
 カルカッタ・ラジオ管制は他機の呼び掛けをスタンバイさせて8517便を呼んだ。
JAS8517 ポジション ANSOS
(こちら日本エアシステム8517です。現在地はアンソスです)
…JAS8517 フリクエンシー…カルカッタ・コントロール 120.1 ダッカ・コントロール 125.7 カルカッタ
(日本エアシステム8517へ。こちらカルカッタ・コントロールです。VHF周波数はカルカッタが120.1メガヘルツ。ダッカが125.7です)
 先ほどの交信で管制官がカルカッタとダッカのVHF周波数を間違えて伝えたためその訂正の交信であった。
サンキュー エアシステム、JAS8517 スィッチ トゥ カルカッタ 120.1 & ダッカ 125.7 バイバイ
(ありがとうございます。エアシステム8517です。これからカルカッタ管制120.1とダッカ管制125.7へ連絡します。さようなら)
 ああ、それでか…と周波数の違いで交信が出来なかったことに納得しながら、仙波機長は、「それではこっち(カルカッタのVHF)を先にやりますね」と改めてVHF無線でカルカッタ120.1を呼んだ。
カルカッタ、カルカッタ エアシステム8517 ポジション ANSOS
……
 しかし、依然として無線機からは応答がなかった。
これが(カルカッタのVHFが)駄目なんですよ。だから、セカンド(ダッカのVHF)でやります
 どうしても連絡が取れないカルカッタの東インド管制へのVHF無線のコンタクトをあきらめて、仙波機長はバングラディシュのダッカ管制を呼ぶためにVHF周波数を125.7メガヘルツに合わせた。
 現在、飛行機はミャンマーの国境上でまもなくインドの東に入る。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter21 カルカッタ・ラジオとダッカ・コントロール中継交信

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▼昆明からカトマンズまでの飛行ルート
昆明からカトマンズまでの飛行ルート

▼インド東とバングラディッシュ上空の航空地図
インド東とバングラディッシュ上空の航空地図

 これから管制コミュニケーションが最も複雑になるといわれる東インドとバングラディツシュの上空にさしかかる。とくにミャンマー、インド、バングラディシュ、そして再び、インドの空域を通過するこの飛行ルートは、入り組んだ国境通過がいっそう管制コミュニケーションを複雑にしているのだ。加えてHF無線とVHF無線の両方を使いわけながらコンタクトしなければならないという難しさもある。
 かって一度、訓練のためにオブザーバーとしてネパール航空でこのコースを飛んだ経験を思い出して仙波機長が言った。
アンソス(ANSOS)の手前でロイヤルネバール(王立ネパール航空)は、カルカッタ(カルカッタ・ラジオ管制コントロール)に、コンタクト(HF無線で)していましたね
 そして管制コミニュケーションのポイントとなるウェイポイントを確認した。
カルカッタ(ここでは東インドの意味)のアンソス(ANSOS)とカルカッタを出るアルファ・アルファ・タンゴ(AAT)。それとテビッド(TEBID)です

 この3つのポイントはすべて国境上にある。
 アンソス(ANSOS)は現在の飛行ルート、A(アンバー)201がミャンマーから東インドに入る手前の国境にあり、アルファ・アルファ・タンゴ(AAT)は、正式にはAGARTALAというVORで東インドとバングラディッシュの国境、そしてテビド(TEBID)はA201飛行航路がバングラディシュから再びインドに入った国境上にあるウェイポイントである。これら国境上にあるウェイポイントは管制エリアの分岐点にもなっている。
そうね。それではHFで(カルカッタ・ラジオとのコンタクトを)やってくれますか?」牧機長が言った。
やってみましょう
 仙波機長はHF無線1でインドの東一帯を担当しているはカルカッタ・ラジオ管制コントロール東セクターを呼んだ。
カルカッタ、カルカッタ エアシステム8517 オーバー
……」少し前まで明瞭に入っていたカルカッタ・ラジオの交信が今は沈黙している。無線機がわずかに鳴ったが、明確な応答はない。仙波機長はコールを繰り返した。
エアシステム8517 メインテイン レベル 350 エスティメイティング ANSOS 0928 AAT 45
(カルカッタ・ラジオ管制へ。こちらはエアシステム8517です。現在、高度35,000フィートで飛行中。アンソス到着予定は標準時で9時28分、AATは9時45分の予定です)
 HF無線機独特のノイズがして管制官のボイスがかすかに聞こえた。
…コールサイン コールサイン…& セルコール
 無線はエアシステム8517のコールサイン(飛行機ナンバー)とセルコールのナンバーを尋ねている様子だがかなり電波の状態が悪い。
セイ・アゲイン セイ・アゲイン」とカルカッタ。
コーリング ジャパンエアシステム8517 オーバー
(こちらは日本エアシステム8517です。どうぞ)
 仙波機長の呼び掛けにカルカッタの管制官は再度、聞き直した。
セイ アゲイン セイ アゲイン」(もう一度、もう一度お願いします)
 管制官にとってはエアシステム8517は定期便ではないので聞き慣れない便名の筈である。コールサインを何度も確認するのは無理もなかった。
 仙波機長は辛抱強く再び便名をコールした。
カルカッタ ジス イズ エアシステム8517 オーバー
…………
コーリング ジス イズ エアシステム8517 オーバー
 5度目でやっと管制官が応答した。が、音声は依然、明瞭ではない。

8517…フライトレベル…」(8517…飛行高度は…)
350 メインティニング ダッカ ホアット…コールサイン?」とカルカッタ・ラジオ管制が尋ねているのが聞こえる。(35,000フィートを維持している。ダッカコントロールへ。…機名は何だ?)そのときバングラディシュのダッカ管制の声が交信に混じった。
JAS(ジュリエット・アルアァ・シエラ)8517」とダッカ管制官。(ジュリエット・アルファ・シエラ)8517便だ)
この無線ではエアシステム機に話しているのではなく、カルカッタ・ラジオ管制とダッカの管制官同志がエアシステム8517について話しているようだった。
ああ、(これはダッカの管制官が)中継してくれているんだよ」と牧機長がつぶやいた。

 HF電波はそのときの電波状況によって遠くの電波が入ったり、逆に近くの電波が入らなかったりする。8517便のコールをひとつ先の空域であるバングラディシュのダッカ・コントロールがエアシステムの無線を受信して、カルカッタ・ラジオ管制にリレーしているのであった。

…フライトレベル 350 エスティメイト ANSOS 0928 AAT 0945 JA8517 メインティン フライトレベル 350 ダッカ・コントロール125.7 カルカッタ・コントロール120.7 バイ
(…飛行高度35,000フィート、アンソス到着予定9時28分、AATには9時45分、ジュリエット・アルファ8517。飛行高度は35,000フィートを維持。カルカッタ管制のVHF周波数は125.7メガヘルツ。ダッカ管制は120.1。さようなら)「やっぱり、やってくれているんだよ」再び、牧機長。
 今度はダッカからエアシステム8517の情報を入手したカルカッタ・ラジオの管制官が8517便を呼んだ。
ジュリエット・アルアァ・シエラ8517 カルカッタ
(JAS8517便へ。こちらカルカッタ・ラジオ管制です)
カルカッタ カルカッタ エアシステム8517 メインテニング 350 エスティメイテング ANSOS 0927 AAT 45 オーバー
 仙波機長が再度、ダッカ管制にウェイポイントの到着時間と予定時間をレポートした。
JAS8517 メインティニング 350 エスティメイト ANSOS 0928 AAT 45…リクエスト…セルコール
 カルカッタの管制官が飛行状況を復誦し、次いで8517便のセルコール・ナンバーを尋ねてきた。
エアシステム8517 セルコール・ナンバー BLKS(ブラボー・リマ・キロ・シエラ)オーバー」と、すかさず仙波機長が答える。
(エアシステム8517です。セルコール・ナンバーはBLKSです。どうぞ)
BLKS スタンバイ」と管制官。
 待っている間にカルカッタ・ラジオの管制官がダッカの管制官に8517便の情報を逆リレーしている交信が聞こえている。それを聞きながらふたりの機長はほっと胸を撫で降ろした。
やってくれているよ
だが、通じたからよかったよ
 長いやりとりの後、やっとカルカッタ・ラジオ管制とダッカの両管制官がエアシステム8517の飛行を確認し合って、カルカッタの管制がエアシステム機にセルコールのチェックを始めた。
グジュグジュになったな」仙波機長が笑う。
セルコールの音が響いた。 ビー・ビー・ビーとコックピット内で無線のブザーが鳴る。

セルコールはHF無線交信には欠かせないもので、航空機それぞれが電話番号のような独自の呼び出しナンバー(記号)を持っており、管制官は必要に応じてそのナンバーを発信すればその航空機の無線の呼び出し音が鳴る仕組になっている。

OK セルコールだ」と仙波機長が無線の受話器を取った。
カルカッタ エアシステム8517 セルコール ノーマル サンキュー
セルコールが届いたということはカルカッタ・ラジオ管制がエアシステム8517の存在を認めたということに外ならない。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
The Voice Recording of The Airbus A300-600 Cockpit
福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter20 ミャンマー上空

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APです。コックピットお願いします
 機内のインターホンからアシスタント・パーサーの声が響いた。
どうぞ
テンプ C2、C3(キャビン2、キャビン3の温度が)熱くなって参りました。下げてください
領解しました
 ヤンゴンと連絡がとれてほっとしたのか、仙波機長は我に返ったように身を震わせた。
何か…、コックピットは寒くありませんか?
ちょっと寒いね
 眼下にはミャンマーの深い森林が起伏をなして続いている。
 客室の機内温度を下げて、コックピットの温度を少しあげ、仙波機長は言った。
ちょっと、ホンコンドラゴンをもう1回やってみますので
 カンパニー無線を再度、試みようというのだ。
はい、どうぞ
この辺で(会社との連絡が)出来るとなると安心しますから

 慣れない南アジアの上空で、しかも管制設備が十分ではない上空で自分逹の飛行の存在を確認するには無線に頼るしかないのである。それはあたかも、孤独な若者が携帯電話で自己の存在を確認するかのようでもあった。それに仙波機長と牧機長それとキャビン・クルー全員は今日カトマンズに着き、明日、カトマンズからシンガポールへ飛び、その翌日シンガポールから日本へ向かうスケジュールで、その途中のインド洋上からもホームパッチの交信をしなければならないのだ。そのためのトレーニングにもなる。

HF1で」とホンコン・ドラゴンの周波数をHF1無線機にセットした。
 そのころ機内では免税品のセールが始まっていた。
只今から免税品の販売をいたします。ご希望のお客様は只今から30分間販売をいたしますのでお席番号15番付近におります乗務員にお申し付けくださいませ
 コックピットでは仙波機長がホンコンを呼んでいた。
ホンコン・ドラゴン、ホンコン・ドラゴン、ジス イズ エアシステム8517 オン 21 オーバー
 微かに電波の波にゆれながら2,000キロ以上隔てたホンコンの声がHFの無線機から聞こえた。
…エアシステム85… ホンコン…
コーリング ジスイズ エアシステム8517 8517 コーリング ユー オーバー」(こちらエアシステム8517です。どうぞ)
エアシステム8517 エアシステム8517 ホンコン…」(エアシステム8517へ。こちらホンコンです…)
エアシステム8517 リクエスト ホームパッチ ウイズ エアシステム東京 オーバー
(エアシステム8517です。エアシステム東京運航部へホームパッチをお願いします)
ラジャ スタンディング バイ
(領解しました。しばらくお待ち下さい)
スタンディング バイ」と仙波機長はHF無線機のマイクのスイッチを切った。牧機長がHF2の交信を聞きながら、「カルカッタが何か言ってるよ」と呟く。
…ワン ドゥ ユー リード?
カルカッタ ニコニ ドゥ ユー ウオント?
ニコニ … カルカッタ ドゥ ユー リード……
延々とカルカッタ・ラジオ管制の交信がHF2無線機から聞こえてくる。だが、香港からは応答は音信がない。
遅いな…」と仙波機長。HF1の無線機からは空しく空電が聞こえてくるだけであった。
何で…、ホンコン・ドラゴンまでコンタクトできたのに…
何も言ってこないな
フォーンパッチが出来ないんですかね…?
 ビー、ビーと無線機から依然、空電が続く。
これはおかしいですね。もう一度言ってみます
 仙波機長は再度、ホンコンを呼んだ。
ホンコン・ドラゴン、ホンコン・ドラゴン。エアシステム8517 オーバー
(ホンコン・ドラゴン、ホンコン・ドラゴン。こちらエアシステム8517です。どうぞ)
フォーンパッチというのはどういう方法でやるの?」と牧機長が尋ねる。
あれはケーブルだと思います。海底ケーブルだから(電波状態とは)全然、関係ないと思いますよ
 カンパニーとのコミュニケーションは、飛行機からホンコンまでHF無線で交信し、それを東京のエアシステム運航部に電話でつなぐ仕組になっている。
 カンパニー無線を待つ間に飛行機はミャンマーと東インド国境のウエイ・ポイントANSOSに向かって跳び続けていた。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
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福岡〜昆明〜カトマンズ フライトドキュメント/録音&解説 武田一男/©Director’s House

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Chapter19 中国、ミャンマーの国境上空

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▼ミャンマー上空
ミャンマー上空

 これから管制エリアが中国のクンミン管制からミャンマーのヤンゴン管制に変わる。

(フライトプランを)くれなんだ(くれなかった)」と仙波機長。
 結局、中国管制はカトマンズへの正式なフライトプランを出さなかった。あとはミャンマーの管制に直接、交信して上空通過を許可してもらう他に手はない。
 もしミャンマー上空を通過出来なければカトマンズへの飛行は断念しなければならなくなる。
いってみます。」仙波機長は少し緊張した面持ちで牧機長を見た。そして周波数133.2に合わせてVHF無線でヤンゴンを呼び始めた。
ヤンゴン・コントロール エアシステム8517 オーバー
(ヤンゴン管制へ。こちらエアシステム8517です。どうぞ)
……
 やはり空電のみで無線は沈黙している。
……
 再度、仙波機長はVHF無線で呼んだ。ミャンマー上空に入るまでにどうしても連絡しておきたいのだ。今までの飛行を無駄にしたくない。
ヤンゴン ジャパンエアシステム8517 フライトレベル 350
………
HF2でやってみたら?

ミャンマーの首都ヤンゴンはベンガル湾に面した位置にあるので、まだ1,000キロ以上離れていてVHF無線では届かない距離である。それで、牧機長は仙波機長にHF無線2での交信を薦めた。
 頷いて仙波機長はダッカの周波数をはずしてHF2の無線機をヤンゴン・コントロールのプライマリー周波数3482に合わせた。
 突然スピーカーから音声が響く。

ノベンバー(N)オスカー(O)08…リンソー…リンソー…
 リンソー(LINSO)とは北緯23度22、5分 東経98度55分にある中国とミャンマーの国境にあるウエイポイントで、現在地からまだ28マイル、約4分の飛行を残している。
あ、やっている。やっている。リンソー、リンソーって。OK、OK、それではこっち(僕が)やりますからね」と仙波機長は嬉しそうにHF2無線のマイクをオンにした。カルカッタ・ラジオ管制の周波数を設定したHF1無線機は牧機長が聴居ている。その無線機からはカルカッタ管制官と他の航空機の交信が入り混じる。
ロメオ・キロ・オスカー2743…ロメオ・アルファ・チャリー…カルカッタ
チャリー、チャリー…
 仙波機長はHF2無線機でヤンゴン管制を呼んだ。
…ヤンゴン、ヤンゴン、ジスイズ エアシステム8517 オーバー
(ヤンゴン、ヤンゴン、こちらエアシステム8517です。応答願います)
……
 スピーカーからHF1のカルカッタ・ラジオ管制の交信が入るが、HF2は無言であった。
シンガポール41 セルコール チェック イズ OK メインティニング…コール ユー リプトー」(シンガポール41便、カルカッタ・ラジオ管制です。HFのセルコール(呼び出しナンバー)のチェック完了。高度は…通過点リブトーで呼んで下さい)
……
メインテイン…セルコール ホワット?」(高度は…。セルコールは?)
1066プライマリー 5506セコンドリー リポート リスコ カルカッタ
(HFの周波数は1066がメインで予備周波数は5506です。リスコで呼んで下さい)
 エアシステム8517は国境のウエイポイント・リンソー(LINSO)を通過した。
既に今はミャンマーに入っている。再び、仙波機長がヤンゴンを呼んだ。
ヤンゴン・レディオ ジス イズ エアシステム8517 オーバー
……
ヤンゴン、ヤンゴン、エアシステム8517 ポジション リンソー
 そのとき遠くからヤンゴンが応えた。
…8517 ヤンゴン ゴーアヘッド」(…8517.こちらヤンゴンです。どうぞ。)
やった!」交信出来て仙波機長が歓声を上げる。そして声を張り上げてマイクに向かった。
エアシステム8517 ポジション リンソー 0844 メインテニング 350 エスティメート ラシオ(RSO)54 アンソス(ANSOS) ネクスト オーバー
(エアシステム8517です。リンソーを標準時間の8時44分に通過しました。高度は35,000フィート。次のウエイポイント、ラシオ(RSO)には54分の到着予定です。そしてアンソス(ANSOS)に向かいます)
 仙波機長はミャンマー通過の飛行ルートと時間を管制官に伝えた。
エアシステム8517 ラジャ コピー リポーティング リマ シエラ オスカー(RSO)」(エアシステム8517へ。領解。RSOに到着したら連絡して下さい)
エアシステム8517 リポート RSO サンキュー
 これで無事、ミャンマーに入国出来たわけである。
OK よかった。よかった。コンタクト出来ましたので。フライオーバーパーミッション(上空通過許可)も取っていますので。(もし)聞かれたらナンバーを控えていますので…」 と仙波機長は興奮隠しやらぬ口調で言った。
 事前にミャンマーから取得している上空通過許可(フライオバーパーミッション)には許可ナンバーがあり、もし、通過を拒否されればその許可ナンバーを無線で知らせることになっていた。チャーター便フライトには定期便では考えられない苦労が山積する。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
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Chapter18 機長アナウンス

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エアシステム8517は高度35,000フィートで中国とミャンマーの国境に向けて飛行中であった。仙波機長が東京からエーカーズで機上に電送されてきた気象状況のメッセージを牧機長に渡した。

えーと、メッセージが来ています
ユー ハブ コントロール」(操縦交代して下さい)
アイ ハブ」(交代します)
 牧機長が仙波機長と操縦を交代して気象情報に目を通す。
(カトマンズは)良い天気だ。(気温が)26度ありますね。クンミンより暖かいな。それからVZRはダッカだな。ダッカも非常に良い天気ですね。カルカッタは(視程が)3キロ。カルカッタ オルタネート ビロー バット ランディング アバーブ で、いざという時は(オルタネート=代替空港としてカルカッタ空港を)使いますよね
ダッカですか?
いや、カルカッタ。ダッカは良い天気でカルカッタはビジが(ビジビリティ視界の略)3キロしかないのです
 フライトプランでは代替空港はバングラディシュのダッカ空港だが、イマージンシーの時はカルカッタ着陸も機長として視野に入れておく必要があった。
 牧機長は最新の気象情報をもとにキャプテン・アナウンスを始めた。

えー、ご搭乗の皆様こんにちは。変わりまして当便のこのルートの機長でございます。飛行状況のご案内を申し上げます。さきほどクンミンを現地時間の16時06分に離陸しております。中国の雲南省の上空を飛行中でございます。飛行高度は3万5千フィート、1万と七百メーター、対地速度は時速800キロメーターの速度をもちまして順調に運航中でございます。
 当機はこの先、ミヤンマーの上空、それからインドの上空に入りまして、バングラディッシュの上空を経由いたします。それから再び、インドの上空にはいります。インド上空からネパール、カトマンズ空港へと飛行いたします。目的地のネパール、カトマンズ、トリブバン国際空港には日本時間の20時50分の到着の到着予定でございます。現地時間で16時5分でございます。
 これから目的地カトマンズまでの途中の航路上の天候でございますが、気象データによりますと概ね良好な状態が続いております。気流の方もスムースな気流が続いていると予想しております。尚、目的地カトマンズのお天気ですが大変良いお天気でございます。快晴26度Cでございます。あと2時間と30分弱で到着の予定でございます。どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さい。ご用の節はどうぞご遠慮なく客室乗務員までお申し出ください。本日のご搭乗ありがとうございました

 エアシステム8517は現在、機首方向245度(西南西)で、航空路A(アンバー)599を西へ一路ミャンマーに向けて飛行している。
 クンミンを離陸して約35分、現在地は中国の亜熱帯気候の地として知られる雲南省の西だ。
 ここはタイ、ミャンマー、ベトナム、ラオスと国境を接する地で気候も暖かく、同時にタイ系民族やベトナム系民族、クメール系民族、チベット系民族など多様な民族が集り、独特の文化をもつ土地柄である。
 例えばペー族の自治州「大理」。大理古城と呼ばれる美しい町並みは紺碧の湖、珥海(じかい)の湖岸にあり、そこから4000メートル級の山並みの蒼山が見渡せる。タイ族の自治州シーサンパンナもここにある。ラオスとミャンマーに国境を接する熱帯雨林気候の高地は独特の熱帯植物が咲き誇って中国とは思えない風物をかもしだす。窓の下にはそんな雲南省の幾筋もの川や湖、無数の丘陵や山などが織り成す緑豊かな大地が見渡すかぎりに広がっている。
 高度35,000フィート。仙波機長がクンミン管制へ報告を始めた。まもなく中国とミャンマーの管制分岐点になっている国境のVOR GENGMA(GMA)の上空に達する。

クンミン・コントロール エアシステム8517 ホジション ゴルフ(G) マイク(M) アルフア(A)
(クンミン管制へ。エアシステム8517です。現在地はGMAです)
エアシステム8517 バイバイ」と中国の管制官との最後の交信が終わった。
エアシステム8517 サンキュー スイッチ トゥ ヤンゴン 133.2
(エアシステム8517です。ありがとうございました。ヤンゴン管制133.2メガヘルツに切り替えます)
 眼下に雲南省の国境の街、瑞麗(ルイリー)が見えてきた。街の西をイラワジ河の支流、瑞麗江が細い帯びのように流れている。いよいよミャンマーだ。

武田一男

A300-600コックピット「ヒマラヤ飛行」/全31回
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