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機長席第5回 日本エアシステム777が出来るまで

「機長席」はお楽しみ頂いていますか? 今週は本編を休んでボーイング社が制作した「日本エアシステム777が出来るまで」をご覧ください。わずか5分の映像の中にエアシステムのトリプルセブンが製造される過程が描かれたとても面白い映像です。



コックピット・ドキュメンタリー「機長席」のもうひとりの主役は管制官

過日、このブログでコックピット・サウンド「ヒマラヤ飛行」を連載させて貰いました。今日はその「ヒマラヤ飛行」と現在連載中の「機長席」との違いを述べながら、今後の「機長席」の楽しみ方について一言ご提案したいと思います。
そのまえにヒマラヤ飛行」をお聴き頂いていない方のために、簡単にその内容に触れておきます。
「ヒマラヤ飛行」は、福岡空港を離陸した日本エアシステムのチャーター便A300-600が中国大陸を横断し、ミャンマーやバングラディシュ、インドを超えて、ネパールのカトマンズ空港へ着陸するまでのコックピット・ドキュメンタリーです。途中、戦時国ミャンマー上空を通過するときの緊張感や数度に渡る交信不能の状態を乗り越えて、世界一着陸が難しいといわれるヒマラヤのカトマンズに着陸する緊迫感などは、まさにアドベンチャーフライト・ドキュメンタリーでした。

ところが「機長席」は同じコックピット・ドキュメントでありながら「ヒマラヤ飛行」とは全く違ったテイストです。国内定期便ということもあり、いつも飛び慣れた日本の空を飛行するコックピットの様子はアドベンチャーとは正反対の落ち着いた雰囲気があります。模範的ともいえるコックピットの姿です。
その模範的コックピットを作り出す森田機長と木村副操縦士の仕事ぶりもさることながら、このドキュメンタリーのもう一人の主役は、空の交通を管理する管制官達です。その自信に満ちあふれたのプロフェッショナルな姿をドキュメンタリーは克明に追っています。

現在、115便は東京湾から茨城県の守谷に向かって上昇中ですが、その飛行をコントロールする管制も羽田空港出発管制から上空の航空路をコントロールする東京コントロール関東北センターに移ります。
このセンターの管制官は関東から北へ向かう航空機、あるいは北から関東方向へ、そして羽田空港へ下降する航空機を北関東の上空一帯のエリアでレーダー・コントロールをしています。管制周波数は124,1メガヘルツ。いつも混雑する管制区です。管制官はエリア内に集まってくる沢山のトラフィックをレーダーのスクリーンを見ながら、その速度を調節し、方向や高度変更を指示し適確な飛行情報を与えながら鮮やかにコントロールしてゆきます。その様子は来週からの「機長席」の聴きどころでしょう。
それで提案ですが、「機長席」をお聴きになりながら、ぜひ、あなたも頭の中にレーダー・スクリーンを作り、サウンドに登場する各航空機の動きを管制官になったつもりで思い描いて下さい。コックピット・ワークとは別のテイストで空のドキュメンタリーがお楽しみ頂ける筈です。来週の北関東エリアの他、岩手、青森上空の札幌コントロール東セクター、そして114便となって札幌から東京へ戻るときの羽田空港進入管制などでも同様です。それでは来週も引続き航空ドキュメンタリー「機長席」をお楽しみ下さい。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第4回 羽田空港離陸

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

B777コックピット
※photo:Ito Hisami(イカロスMOOK THE COCKPIT付録より)
B777コックピット

 切り替えた118.1メガから、羽田タワーコントロールの管制官が日本航空195便熊本行きのボーイング777に離陸を許可する交信が入る。
ジャパンエア195 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 190 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ16ライト」(日本航空195便へ 滑走路16ライトから滑走路に沿って離陸して下さい 風は190度から19ノットです)

 今日の羽田は結構強い海風が吹いている。30度左前方から19ノット。もう少し西にまわると離着陸に影響する横風になるくらいである。
ジャパンエア195 フライ ランウェイ ヘディング クリア フォァ テイクオフ 16ライト」(日本航空195便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 滑走路上では、風を切って日本航空トリプルセブンのエンジンが轟音を上げ滑るように走り始めた。それを確認して管制官は日本航空105便B747-400を離陸待機位置に向かわせる。
ジャパンエア105 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(日本航空105便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
ジャパンエア105 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト
(日本航空105便です 滑走路16ライトへ入り、待機します)

▼B777コックピット
B777コックピット

 B747が滑走路末端に入るのを視認した木村副操縦士はタワー管制に連絡を取った。
トーキョー・タワー エアシステム115 ウィズ ユー」(タワー管制へ エアシステム115便です。タワー管制に入りました)
エアシステム115 トーキョー・タワー ナンバー2」(エアシステム115便へ 離陸は2番目です)
ナンバー2」(了解、離陸2番目)
ラジャ ナンバー2」森田機長も確認のコールをする。離陸は滑走路末端に入った日本航空105便につづいて2番の離陸である。
タワー オールニッポン67 オン ユア フリクエンシー」(タワー管制へ 全日空67便です。タワー管制にはいりました)
 エアシステム115便のあと続いている全日空67便ボーイング747-400が同じ管制エリアに入っきた。この便は115便と同じく15時発の札幌千歳空港行きだ。札幌まで115便と同じルートを飛行するのだ。
オールニッポン67 トウキョウ・タワー ナンバー3」(全日空67便へ 離陸は3番目です)
 管制官はエアシステム115便につづいて3番目に離陸する旨を告げた。そしてその視線は無事離陸を終えて上昇する日本航空195便のトリプルセブンを追っている。ギヤを機体に格納するトリプルセブンに管制官が伝えた。
ジャパンエア195 コンタクト ディパーチャー」(日本航空195便へ 以後はディパーチャー管制に連絡して下さい)
 離陸する飛行機に関してタワー管制の任務はここまでで、あとはレーダー管制がレーダーの目を通して誘導するのだ。
ジャパンエア195 グッディ」(日本航空195便、了解 さよなら)
 日本航空のトリプルセブンは、薄もやの4月の空を順調に高度を上げていった。
レフト クリア」(左側、障害物なし)
ラジャ」   
 森田機長はアウターから離陸待機路に入るために左の障害物を確認する。管制官から日本航空105便に離陸の許可が出た。風が少し西にまわった。19ノット、約風速8メートル。管制官が日本航空大阪行き747に離陸許可を与えた。
ジャパンエア105 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 200 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ16ライト」(日本航空105便へ 滑走路16ライトからヘディングで離陸して下さい 風は200度から19ノットです)
ジャパンエア105 フライ ランウェイ ヘディング クリア フォァ テイクオフ 16ライト」(日本航空105便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 ランウェイ・ヘディングはランウェイと同じ方向、すなはち105便の場合は機首(ヘディング)方向160度で離陸するという意味であるが、英国や英国と密接な国々、たとえば、インド、オーストラリアなどでは「クライム オン トラック」という言葉を使う。管制用語も国によって微妙に違う。
 滑走路では日本航空105便がエンジンパワーを上げた。同時に管制官はエアシステム115便を滑走路末端の待機場に入るように指示した。  
エアシステム115 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(エアシステム115便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
エアシステム115 タクシー イントゥ ポジション ホールド 16ライト」(エアシステム115便です 滑走路16ライトへ入り、待機します)
ファイナル クリア」(最終着陸進入経路は、何もありません)
 木村副操縦士が右窓から滑走路16ライトへ進入する航空機がないことを確かめて機長に伝えた。
ラジャ イントゥ ザ ポジション ホールド」(了解 滑走路内で待機します)
イントゥ ザ ポジション ホールド
 森田機長は離陸する日本航空のジャンボ機を見ながら、115便をゆっくりと滑走路末端に入れた。
そのときBランウェイから海上保安庁の航空機が進入するという交信が聞こえた。
トーキョー・タワー ジュリエット アルファ 8709 ランウェイ22 スポット ノベンバー36」(タワー管制へ JA8709です 滑走路22へ進入中です スポットはN36です)
ジュリエット アルファ 8709 トーキョー.タワー クリア トゥ ランド ランウェイ22 ウインド 180 アット 22」(JA8709へ 滑走路22への着陸を許可します 風は180度から22ノットです)
クリア トゥ ランド ランウェイ 22 ジュリエット アルファ 8709」(滑走路22へ着陸します)
 海上保安庁機に着陸許可を与えた管制官は、離陸を完了した日本航空105便に最後の交信をする。「ジャパンエア105 コンタクト ディパーチャー」(日本航空105便へ 以後は東京ディパーチャー管制に連絡して下さい)
ジャパンエア105 グッディ」(日本航空105便です さよなら)
 つづいて管制官は滑走路16ライトの末端で待機しているエアシステム115便に離陸許可を与えた。
エアシステム115 フライ ランウェイ ヘディング ウインド 190 アット 19 クリア フォァ テイクオフ ランウェイ 16ライト」(エアシステム115便へ 滑走路16ライトからヘディングで離陸して下さい 風は190度から19ノットです)
フライ ランウェイ クリア フォァ テイクオフ 16ライト エアシステム115」(エアシステム115便です 滑走路16ライトからランウェイ ヘディングで離陸します)
 現在115便がいる場所はAランウェイとBランウェイが交差するすぐ南側のA10地点だ。この地点からAランウェイ(滑走路16と34ライト)は南の端まで2550メートルある。森田機長がゆっくりと機体を回し機首を滑走路の中央ラインに合わせた。滑走路の幅は60メートルもあるがその先端は細くもやって春の霞に溶け込んでいる。
キャンセル L‐NAV」(ラテラル”平面”・ナビゲーションを取り消し)
キャンセル L‐NAV」(ラテラル・ナビゲーションを取り消し)
テイクオフ!」(離陸!)機長の凛とした声が響く。
スラストレフ」(オートスロットル・モード確認)
 エンジンのパワーが上がる。機体を震わせながらボーイング777は滑走路上を走り始めた。急激な加速が生む重力で身体が椅子の背に押しつけられる。
 機長はエンジンの音に注意しながら、操縦桿に手を添えて前方を見つめた。 副操縦士はスピードメーターを見つめている。
 777は加速を続け、スピードが増す。
エイティ!」( 80ノット!)
 スピードが80ノット(時速約148キロ)になったことを木村副操縦士が告げた
チェック」(確認)
オールニッポン67 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト」(全日空67便へ 滑走路16ライトへ入り、待機して下さい)
オールニッポン67 タクシー イントゥ ポジション ホールド ランウェイ16ライト
(全日空67便です 滑走路16ライトへ入り、待機します )
 加速しているコックピットの中に全日空67便が、次ぎの離陸のためにランウェイ末端に機体を入れる交信が響く。
 機体がぎしぎしと軋んだ。スピードが上がる。エンジンの轟音。 
V1! VR V2! ポジティブ!」 
 副操縦士がスピードを読み上げる。Vワン・スピード、時速125ノット、時速約200キロ。
 滑走路の中央ラインが一本の白い線となって後方へ飛ぶ。
VR」時速128ノット、時速約236キロ。
滑走路の端がぐんぐんと近づいてくる。
機長が操縦桿を引いた。機首が持ち上がる。
V2!(ヴイ・ツー)」時速133ノット。時速約250キロ。
車輪が地面を離れた
ポジティブ」液晶デスプレイを見ながら機体が浮上したことを副操縦士がコールする。
ギア アップ!」機長が車輪の引き上げを指示した。
ギア アップ!」副操縦士がコックピットパネルのギヤレバーを引き上げた。
 中央のEICASデスプレイに車輪が格納される様子が映しだされる。コックピット内部の音が変わった。車輪が機体に格納されると、空気抵抗が少なくなった115便はさらにスピードを増し始めた。

 ここで離陸スピードについて簡単にふれておこう。飛行機が離陸する場合の速度、まずV1(ヴィワン)スピードは離陸決定速度と呼ばれ離陸には重要なスピードの目安となっている。飛行機が滑走を始めて、もしエンジンが一基が停止したとき、V1スピードまでに離陸を中止するか、継続するかを決めなけれらない。
言い替えると、V1スピード以内であれば離陸中止(リジェクト・テイクオフ)が可能な速度として副操縦士はV1スピードをコールする。と同時にコンピュータもV1と合成音声で知らせる。  次ぎがVRスピード。これをローテーションスピードとも言う。この速度に達したら操縦桿を引いて機首起しを開始するスピードである。そしてV2スピード。安全離陸速度と言う。このスピードになると飛行機は地面を離れ安全に離陸を続行している速度である。「ウインド チェック 190 アット 20」(風は190度から20ノットです)
 風が又、強くなった。離着陸の航空機へ管制官が滑走路上の風の変化を伝えた。森田機長は風を突っ切って飛行機を操る

ヘディング セレクト」(機首方向を設定)
ヘディング セレクト スラストレフ V‐NAV スピード」(機首方向を設定します ヴァーチカル・ナビゲーション作動しました)
ヘディング セレクト V‐NAV スピード」(機首方向を設定 ヴァーチカル・ナビゲーション作動)
 中央のディスプレイに上下方向のナビゲーション・コンピュータが作動したのが表示された。タワー管制から最後の無線が入る。
エアシステム115 コンタクト ディパーチャー」(エアシステム115便へ 以後は東京ディパーチャー管制に連絡して下さい)
エアシステム115 ディパーチャー」(エアシステム115便 ディパーチャー管制に連絡します)
グッディ
ギア アップ」ディスプレイの中で車輪が格納されたことを確かめて副操縦士がコールした。
ジャパンエア105 118.3(123,7の間違い) グッディ」 日本航空105便大阪行きB747-400が東京コントロール管制に移管された交信が聞こえる。
セット オートパイロット」(自動操縦に切り替えて下さい)
セット オートパイロット」(自動操縦に切り替えました)

 離陸が完了すると森田機長が自動操縦に切り替えた。眼下は東京湾だ。木村副操縦が無線の周波数を変えてディパーチャー管制を呼んだ。出発管制とも呼ばれる東京ディパーチャーは羽田空域を上昇する航空機をレーダーでコントロールしている
トーキョー・ディパーチャー エアシステム115 リービング 1800」(東京ディパーチャー管制へ エアシステム115便です 高度1800フィート通過中です)
エアシステム115 トーキョー.ディパーチャー レーダー コンタクト ターン レフト ヘディング 020 ベクター トゥ モリヤ クライム アンド メインテイン 210」(エアシステム115便へ 東京ディパーチャー管制です レーダーで捕捉しています 左旋回して機首を020度に向けて下さい 守谷VORへ誘導します 高度は2万1000フィートまで上昇して下さい)
 守谷は茨城県の利根川沿いにある街である。現在地点からほぼ北に位置する。管制官は115便を左旋回させ、そのまま守谷上空から東北へ向かう航空路Y11に乗せようとしている。
レフト 020 ダイレクト 210 エアシステム115」(エアシステム115便です 左旋回して機首を020度に向け、2万1000フィートまで上昇します)と木村副操縦士が応答した。
020 レフト クリア」(機首を020度に 左側は異常なし)森田機長が左窓から外を見て確認する。
ラジャ
アルト 210 キャンセル 13000 レフト クリア」(高度2万1000フィート 高度1万3000フィートの制限解除 左方向は良好です)
ラジャ
 機長は左の窓から再度外を見て、他の機影がないのを確かめて東京湾上空、約600メートルでゆっくり左旋回に移った。機首方向を160度(南南東)から20度(北北東)になるまで140度旋回させる。飛行機の下で東京湾がぐるりと大きく回った。
エアシステム115 プロシード ダイレクト モリヤ」(エアシステム115便へ 守谷VORに直行して下さい)
ダイレクト モリヤ エアシステム115」(エアシステム115便です 守谷VORに直行します)
 本来ならば守谷7出発方式では、このまま160方位で木更津まで東京湾を横断して飛び、木更津上空で020度へ左旋回するのであるが、他の飛行機(トラフィック)が、ないかぎり管制官がレーダー誘導(レーダーベクター)で近道(ショートカット)せて守谷に向かわせるのが通例である。  これだけでも時間と燃料の節約になり、航空会社としては有り難い誘導なのである。余談だが、羽田から千歳までの消費燃料はドラム缶で約51本、料金は約63万円という。

 森田機長は飛行進路の変更をコンピュータに打ち込んだ。
セット CDU」(飛行情報を変更)
ラジャ… モデファイ」(了解 変更して宜しいですか)
イクスキュート」(実行して下さい)
イクスキュート」(実行します)
アーム L‐NAV」(ラテラル・ナビゲーションを準備)
L‐NAV キャプチャー」(ラテラル・ナビゲーションを確認しました)
L‐NAV キャプチャー フラップ 1」(ラテラル・ナビゲーションを確認 下げ翼を1度にせよ)
 これでトリブルセブンのナビゲーションシステムが平面と垂直の3Dとして動き始めた。115便は浦安上空を守谷に向かって高度2万1000フィートへ上昇を続けている
フラップ 1」(下げ翼を1度にします)
フラップ アップ」(下げ翼を全て上げてください)
フラップ アップ …」(下げ翼を全て上げます … 全て上がりました)  フラップを上げた115便はスピードを増した。ここで115便がこれから通過する管制区を整理しておこう。旅客機はゲートを出発して離陸、巡航、下降、着陸してゲート・インするまで管制コントロール下で飛行することは周知の通りだが、115便が羽田を出発して千歳空港に到着するまでに経由する管制区は次ぎの通りになる。

 羽田空港飛行場管制  東京デリバリー管制 → 東京グランド → 東京タワー → 東京ディパチャー
 航空路管制  東京コントロール → 札幌コントロール →
  千歳空港飛行場管制  千歳進入管制(千歳アプローチ) → 千歳タワー → 千歳グランド

 羽田、千歳空港の管制は飛行場管制といわれ、空港とその周辺空域を管制コントロ-ルし、航空路管制が日本全国に張り巡らされた上空の航空路をすべてコントロールする。
 航空路管制(ACC)は南から、那覇コントロール、福岡コントロール、東京コントロール、札幌コントロールと日本の空を四つに区分して航空交通管制業務をしている。
 115便は、現在、羽田飛行場管制区の東京ディパチャー管制区を飛行しているが、まもなく航空路管制の東京コントロール管制区に入る。東京コントロールは四国から近畿、北陸、関東、東北まで広いエリアをその管轄としているので、さらにそのエリアが十数のセクターに細分化されている。  詳細にいうと、115便がこれから飛行する管制区は、東京コントロールの関東北セクターである。それから後、東京コントロール東北セクターをえて、札幌コントロール東セクターから札幌コントロール北海道南セクターに引き継がれる。そして飛行場管制である千歳空港の進入管制(千歳プローチ管制)へ向かうのだ。
アフター テイクオフ チェックリスト」森田機長が離陸後の計器点検を指示した。木村副操縦士はMFDモニターに現れた項目を素早く点検して報告する。
アフター テイクオフ チェックリスト コンプリーテッド」(離陸後の計器点検 完了しました)
ラジャ
 高度2万1000フィートを目指して上昇を続けている115便のスピーカーから全日空67便札幌行きが離陸を完了した交信が聞こえた。 
トーキョー・ディパーチャー オールニッポン67 フライ ランウェイ ヘディング クライム アンド メインテイン 130」(東京ディパーチャー管制へ 全日空67便です 現在、直進して高度1万3000フィートに向かっています)
オールニッポン67 ラジャ レーダー コンタクト ターン レフト ヘディング 130 ベクター トゥ モリヤ クライム アンド メインテイン 210 セイ アルチュード」(全日空67便へ 了解しました レーダーで捕捉しています 左旋回して機首を130度に向けて下さい 守谷VORに誘導します 高度は2万1000フィートまで上昇して下さい 現在の高度を教えて下さい)
ヘディング 130 クライム 210 アルチュード 1500 オールニッポン67」(全日空67便です 機首を130度に向けて、2万1000フィートまで上昇します 1500フィート通過中です)
エアシステム115 コンタクト トーキョー.コントロール 124.1 グッディ」(エアシステム115便へ 以後は東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡して下さい)
ラジャ
エアシステム115 トーキョー 124.1 グッディ」(エアシステム115便です 東京コントロール管制124.1メガヘルツに連絡します さよなら)
 管制エリアが航空路管制に変わった。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

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機長席第3回 羽田空港ディパーチャー

※「▶」の再生ボタンをクリックすると航空サウンドが流れます

 ボーイング777-200の機首から尾翼までの全長は63.7メートルある。ボーイング747-400より6.9メートル短いが、それにつぐ長さである。
 両翼を広げた長さ(全幅)は60.9メートル。これは747-400に3.5メートル及ばないが、747-300やSRよりは1.3メートル長く、全体として胴体に比例して翼が長い。
 翼が長いことがボーイング777をとても優雅に見せる。
 14時40分。
 出発20分前、エアーシステム115便札幌千歳空港行きのボーディングの時間がきた。乗客がグランドホステスの案内で三々五々と機内へ搭乗を始めた。
 飛行機の入り口ドアでは、キャビン・クルーが華やかな笑顔で乗客を迎えている。
 コックピットでは乗客がボーディングを開始する前から、木村副操縦士が今日の飛行プランにもとずいた飛行ルートのデータをコンピュータのデータ・ベースから呼び出してセットし、すでに外部の目視点検を終えた森田機長と共に飛行前のプライマリーチェックを行っていた。
 ボーイング777の特徴のひとつにECL、すなはちエレクトリック・チェックリストというシステムがある。
 従来の飛行機では、点検の確認には紙に印刷されたチェックリストを一項目ごとに読み上げ、機長と副操縦士がそれぞれチェックし、確認していた。たとえばDC-9-41の計器チェックは158項目ある。これを一つ一つ項目ごと読み上げてパイロットは計器点検をする。その労力と時間は大変なものであった。
 ところが777では、チェックリストの項目がすべてコックピット中央ペデステルにある液晶デスプレイMFDに表示される。
 しかも飛行の進行段階に沿って適切な項目が示され、自動的にECLシステムのコンピュータがそれらの項目をチェックする。
 チェックリストの項目は画面に白字で現われ、チェックが完了すると緑に変わる。パイロットがチェックする項目もあるが、従来の方法に比べて格段にシンプルになり、時間もミスも少なくなったという。
 時間が節約出来るということは、機長や副操縦士はその分、他の事柄に注意配分ができるということだ。それだけ運航業務の効率が良く安全につながる。エンジン始動の効率の良さも同様だが、777は飛行技術だけでなく運航業務の未来をも考慮された21世紀の旅客機なのである。
 14時50分。
 飛行機の真下では飛行機を誘導路へ押し出すトーイングカーが位置につき、飛行機へ供給する地上電源が外され、乗客の荷物を運んだバゲージカーや給油車、飲物や軽食類を積み込むケータリング車など地上の車が機体を離れた。
 14時55分。
 飛行機周辺の障害物がなくなり、地上での出発準備がほぼ完了する。そして出発5分前が地上のスタッフから飛行機にコネクトしているインターホンで機長に告げられた。
コックピット。グランドです」。
ハイ。どうぞ」と森田機長がインターホンを取った。
5ミニッツ ビフォァスタート エンジン & セット パーキング ブレーキ」(出発5分前の準備完了しました。パーキングブレーキをセットして下さい)
ラジャ。パーキング ブレーキ セット 了解
森田機長はブレーキをセットして地上整備員に伝えた。
 コックピットのスピーカーから日本航空105便大坂行きのB747-400機へクリアランス交信が聞えている。
トーキョー デリバリー ジャパンエア105 グッドアフタヌーン スポット 10」(東京デリバリー管制へ。こちら日本航空105便です。スポット10に駐機しています)
 飛行機と管制官の交わす無線の声は、コックピット・クルーがつけているヘッドホンとコックピットの天井にあるスピーカーから聞くことが出来る。
グッドアフタヌーン ジャパンエア105 トーキョー・デリバリー クリア トゥ オオサカエアポート ハヤマ・ワン・ディパーチャー ヨコスカ・トランジション フライトプラン ルート メインティン フライトレベル 220 スクォーク2322 リードバック オンリー スクォーク
(日本航空105便へ。こちらデリバリー管制です。貴機の飛行プランを承認し大阪空港への飛行計画を許可します。葉山1出発方式で横須賀トランジション(通過)で高度2万2000フィートまで上昇してください。レーダー認識番号(スクォーク)2322です。レーダー認識番号を復唱(リードバック)してください)
ジャパンエア105 スクォーク2322」(こちら、日本航空105便です。レーダー認識番号2322確認しました)
ジャパンエア105 モニター グラウンド 121.7 アドバイス レディ フォァ プッシュバック」(日本航空105便へ。プッシュバックの用意をしてグランドコントロール121.7へコンタクトして下さい。)
ジャパンエア105  サンキュー グッディ
 このATCクリアランス交信が終わると、日本航空105便は地上管制と連絡をとり飛行機を移動させるトーイングカーに押され(プッシュバックされ)てゲートを離れるのだ。
 新幹線の出発時刻は駅のホームで車両が動きだす時間であるが、飛行機の出発時刻は滑走路を離陸する時間ではなく、駐機しているゲートを離れるランプアウトの時間を指す。
 森田機長は木村副操縦士に出発5分前の管制塔との交信を指示した。無線交信の担当は副操縦士である。木村副操縦士は管制121.8メガヘルツの周波数で東京デリバリー管制を呼んだ。
トーキョー・デリバリー エアシステム115 ゲート2」(東京デリバリー管制へ こちらエアシステム115便です スポット(ゲート)2番に駐機しています)
 この5分前の交信は、出発する飛行機が管制塔と最初に交わす交信である。
 搭乗前にディスパッチ・ルームで、機長が承認した飛行プランが、ディスパッチャーから運輸省航空局にコンピュータで送られており、115便は今、その管制承認(ATCクリアランス)を待っているのであった。
エアシステム115 トーキョー・デリバリークリア トゥ ニューチトセ・エアポート モリヤ7 ディパーチャー フライトプランルート メインテイン フライト レベル210 スクォーク2460 リードバック オンリー スクォーク」(エアシステム115便へ 貴機の飛行プランを承認し、新千歳空港までの飛行を承認します 守谷7出発方式で高度2万1000フィートまで上昇して下さい レーダー認識番号は2460です レーダー認識番号のみを復誦して下さい)
スクォーク2460 エアシステム115」(レーダー認識番号2460で了解しました)

▼守谷7出発方式
守谷7出発方式

 羽田空港の東には成田空港や百里自衛隊の基地。西には横田基地。北西には騒音規制がある東京の市街地が広がっている。羽田空港を離陸する飛行機はそれらのエリアの空域規制を避けて上昇しなければならないので、出発に際して飛行機が飛ぶ空の道が決められている。端目には自由に飛んでいるように見える飛行機も実際は”狭い空の道”を選びながら飛行しているのだ。
 この空の道をスタンダード・インスツルメント・ディパーチャアー、SID(標準出発方式)といい、沖縄や金沢、大阪、札幌など飛行する目的地によって、そして使用する滑走路によって何種類かの出発方式が定められている。
 着陸の場合も同様にスタンダード・ターミナル・アライバル・ルート、STAR(標準着陸方式)と呼び、出発同様に着陸進入する方式がある。
 例えば、大阪空港へ向かう日本航空105便に指示された{葉山1デパーチャー}は、今日のように滑走路16から離陸する場合、離陸して高度500フィート以上になるまでそのまま上昇し木更津の上空に向かう。木更津VOR/DMEの上空を通過して相模半島に向う。相模半島にある横須賀を高度9000フィートで通過(トランジッション)後、静岡の燒津を経て高度も上げ大阪に飛行するというSIDである。
 エアシステム115便は守谷7出発方式を指定された。滑走路16Rから離陸し、500フィート以上上昇し木更津に向かう。そこまでは日本航空105便と同じであるが、115便は木更津で左旋回後、機首方向014度(約北北東)で茨城県守谷VORに向かう。高度制限があり守谷の手前11マイル地点を1万3000フィート以下で飛行しなければならない。この空域の東は成田空港があり、又上空は東京航空交通管制部(東京ACC)の管轄空域なのでその許可が出た後、高度を上げて那須VORに向かうのである。
エアシステム115 モニター グランド 121.7 アドバイス ウェン レディ フォァ プッシュバック」(エアシステム115便へ プッシュバックについては、東京グランド管制121.7メガヘルツへ連絡して下さい)
121.7」(了解 121.7に連絡します)
 115便のコックピット・クルーは、乗降口、貨物室などすべてのドアが閉じられていることを確認すると羽田の地上管制、グランド・コントロールからプッシュバックの許可を貰い、地上の整備員にインターホンで飛行機を誘導路までプッシュバックする依頼をした。
 15時00分定刻。115便はトーイングカーに押されてゆっくりとゲート2番を離れた。 
 ゲートから誘導路入り口までおよそ100メートルくらいある。115便はトーイングカーに押されながら誘導路につくまでにエンジンを始動させるのだ。森田機長が整備員へ伝えた。
グランド。コックピット スタート ボース」(地上整備へ。こちらコックピットです。ふたつ一緒に回します)
了解しました。グランド、クリアー」整備員の声がインターホンに響く。そして、両翼につけられたプラット&ホイットニーPW4074エンジンが轟音を響かせて2つ同時に始動を始めた。
スタート ライト」(右エンジン始動)
スタート レフト」(左エンジン始動)
 ボーイング747など従来の飛行機は、エンジンを1つ1つ始動させなければならないので、とくにジャンボ機の場合は四発のエンジンが始動するまで時間がかかった。ところが777は同時に2つのエンジンを回すことが可能でエンジン始動の時間が極端に短縮された。これも777の大きな特徴のひとつである。
 直径が2メートル90センチに近い777の巨大なエンジンは、ジャンボ機を含めてどの飛行機のエンジンより大きい。
 ボーイング747-400型ジャンボ機のエンジン推力は、ひとつのエンジンが約26トン。777は38トン。その差14トンはA300のエンジン1基に匹敵する。すなはち777のエンジンは、ジャンボ機のエンジンとA300のエンジンを合わせたくらいの推力を持っているのだ。
 もっとも747-400の場合、26トンのエンジンが4基ついているので、全推力からみればエンジン2基の777よりは多くなるが。それにしても777のエンジンは巨大である。
オールニッポン743 コンティニュー タクシー ウィスキー6(W6) アウター(O-TWAY)」 (全日空743便へ。W6から、外側の誘導路アウターへタクシーを続けて下さい)
ウイスキー6 アウター オールニッポン743
この時間の羽田は出発便が集中している。滑走路へ向かって地上走行をしている全日空743便、羽田14時55発釧路行き767と管制の交信が聞こえている。こんどは到着便だ。全日空646便B737が熊本からランウェイ16レフトへ着陸しJ3地点からゲート15へ向かう交信である。
グランド。オールニッポン646 ジュリエット3(J3)  タクシー ゲート トゥ 15
オールニッポン646 グランドコントロール タクシー ヴィア ウイスキー3 アウター ウイスキー5」(全日空646便へ。こちら地上管制です。ウイスキー3からアウター経由でウイスキー5に向かって下さい)
ウイスキー3 アウター ウイスキー5 オールニッポン646
 函館へ向かう全日空B747-SRが出発する交信が聞こえる。
グランドコントロール オールニッポン861 ウィ アー レディ フォァ プッシュバック」(地上管制へ。全日空861便です。プッシュパックの用意が出来ました)
オールニッポン861 グランドコントロール ラジャ プッシュバック ランウェイ16ライト メイク クリア ウイスキー5」 (全日空861便へ。こちら地上管制です。滑走路16Rへウィスキー5を確認してプッシュバックして下さい)
メイク クリア ウイスキー5 オールニッポン861 クリア プッシュバック」 
 115便はトーイング・カーに押されて誘導路入り口P3に着いた。
パーキングブレーキ セット」森田機長がブレーキをセットする。木村副操縦士がエンジン計器を見ながら右エンジンが安定していることをコールした。
ライト スタビライズド」(右エンジン安定) そして続いて左エンジンの状態も安定していることを知らせる。
レフト スタビラテズド」(左エンジン安定)
 すぐ,ふたりは液晶デスプレイMFDに表示されるメッセージを確認する。
チェック リコール
…キャンセル メッセージ
アフタースタート・チェックリスト」続いてコックピット・クルーはエンジン始動後の計器点検に移った。ECLシステムのコンピュータで計器点検が迅速に行われる。
エンジン、アンティアイス オート(エンジンの凍結防止装置を自動に)
リコール チェック。アフタースタートチェックリスト コンプリーテッド
 森田機長はインターホンで地上整備員を呼びエンジンが順調に稼働したことを告げ、地上走行に移る旨伝える。.
グランド コックピット エンジン・スタート コンプリート リムーブ チョーク ディスコネクト インターフォン 行ってきます」(地上整備員へ エンジン始動しました タイヤ止めを外し、インターフォンを切って下さい それでは行ってきます)
ラジャ リムーブド チョーク。 インターホン リセプト ステアリング バイパス ロックピン リムーブト いってらっしゃい」(了解しました タイヤ止めを外し、インターフォンを切り、セレクターピンを外しました。お気をつけて行ってらっしゃい)
 交信が終わるとすぐ地上の整備員が飛行機につながっているインターホンをぬき、トーイングカーを移動させ、飛行機のタイヤ止めを外し機体から離れた。14時55分発の全日空釧路行きB767がタワー管制に移管する交信が聞こえている。
オールニッポン743 コンタクト タワー 118.1」(全日空743便へ 以後は東京タワーコントロールの118.1メガヘルツに連絡して下さい)
オールニッポン743 コンタクト タワー 118.1」(全日空743便、東京タワー管制の118.1に連絡します)
 全日空743便釧路行きに続いてグランド管制は、日本航空195便、14時50分発の熊本行きB777を呼んだ。出発便が多くなり誘導路が混んできたのだ。
ジャパンエア195 トーキョー・グランド ホールド ショート オブ アウター アドバイス ウェン レディ」(日本航空195便へ アドバイスするまでアウターの手前で待機して下さい)
ジャパンエア195 ホールド ショート オブ アウター アドバイス ウェン レディ」(こちら日本空港195便、アウターの手前で待機します)
 コックピットではエンジンスタート後の計器点検を終え、木村副操縦士がグランドコントロールを無線で呼び出した。滑走路に向かって地上を走行する許可(クリアランス)を貰うためである。
グランド エアシステム115 リクエスト タクシー」(グランド管制へ こちらエアシステム115便です 地上走行の許可を願います)
エアシステム115 タクシー トゥ ランウェイ16ライト ヴィア パパ3 ジュリエット2 ウイスキー2 アウター」(エアシステム115便へ パパ3からジュリエット2 ウイスキー2、アウターを経由して、滑走路16ライトへ走行して下さい)
ランウェイ16ライト パパ3 ジュリエット2 ウイスキー2 アウター エアシステム115 」(エアシステム115便です パパ3、ジュリエット2、ウイスキー2、アウターを経由して、滑走路16ライトへ走行します)

▼羽田空港の地図
羽田空港の地図

 115便の現在地はゲート2の誘導路入り口P3である。ターミナルビルのゲート2から、ターミナルビルとウエストメンテナンスエリアの真中を走っている誘導路J2を通り、J2がアウターと呼ばれ滑走路に平行している外側にある誘導路O-TWAYとが交差するW2地点を右折し、そのままアウター誘導路(O-TWY)でランウェイ16ライトまで走行をしなければならない。すなはち、羽田第一ターミナルの南東の端にあるゲート2から、ターミナルビルを右に半周し、ターミナルビルの正面をAランウェイに沿って延々とウエストカーゴビルの端、Bランウェイの側まで行くかなり長い地上走行になるのだ。
レフト クリア」森田機長が機外の左側の障害物を確認し、木村副操縦士が右サイドを確認する。
ライト クリア
パパ3 ジュリエット2… 」(P3の現在地からJ2誘導路を通って…) と森田機長がタキシングのコースを再確認した。
はい、ウイスキー2 アウター ですね」(それから、ウイスキー2地点を右折し、アウター(O-TWY)を通ってランウェイですね)。と木村副操縦士。、森田機長は頷いてスラストレバーを若干アドバンス(前進の位置)にしエンジンのパワーをあげた。
いってらっしゃい」と地上で飛行機の出発をとり仕切るランプコーディネーターや整備員が一列に並んで飛行機に手を振るのが見える。
 森田機長も窓越しにそれに答えて、パーキングブレーキを外すと115便は滑走路へ向かって地上走行に移った。
 航空機が地上を走行するタキシング・スピードは25ノット以下という目安がある。約時速50キロだ。地上走行のスピードでは操縦桿は使えないので(操縦装置は時速80ノット以上、約150キロ以上のスピードでないと使えない)横にある小さなステアリングハンドルを使う。
森田機長は「レフト クリア」と左側の障害物の有無を確認してJ2誘導路に入りW2に向かった。 地上走行が始まると、「フラップ5」(下げ翼[フラップ]を5度にセット)と森田機長がフラップを離陸時の位置にするように副操縦士に指示を出す。
 木村副操縦士がすぐフラップ位置を下げる。「フラップ5」(下げ翼[フラップ]を5度にセットします)。
 フラップが作動しているかどうかは、コックピットの中央パネルにあるEICAS(通常、アイキャスと呼ばれる)のカラー液晶デスプレーで確認することが出来る。両翼のさげ翼がゆっくりと降りてきた。
 115便は滑走路16Rに向かってアウターを順調に走行している。Aランウェイに平行したこの長い誘導路の前方には、すでにタワー管制下にある日本航空195便熊本行きB777が、すぐ前には、まだグランド管制下の日本航空105便大阪行きB747-400が、115便の後には札幌行き全日空67便B747-400機が続き、一列に並んだ。この時刻の羽田空港は離陸する航空機で混雑している。
ジャパンエア105 コンタクト タワー 118.1」(日本航空105便へ 以後はタワー管制の118.1メガヘルツに連絡して下さい)
ジャパンエア105 グッディ」(日本航空105便、了解 さよなら)
グッディ」(さよなら)
 管制官が滑走路に近づいている日本航空105便をタワー管制に移管した。その交信のとぎれを縫って、スポットを離れて誘導路入り口W2でエンジンを始動させている全日空函館行き861便が管制官を呼んだ。
グランド・コントロール オールニッポン861 タクシー インストラクション」(グランド管制へ、こちらは全日空861便です 地上走行の許可を願います )
オールニッポン861 タクシー トゥ ランウェイ16ライト ウイスキー5 アウター」(オールニッポン861便へ ウイスキー5からアウター経由で滑走路16ライトへ走行して下さい)
ウイスキー5 アウター オールニッポン861」(ウイスキー5、アウター 了解しました)
 滑走路までの地上走行中にコックピットクルーがしなければならないことの一つに操縦装置のチェックがある。操縦桿や方向舵などの操縦装置が確実に作動するかどうか、地上で確かめるのである。
コントロール チェック」と機長がコールして操縦装置のチェックが始まった。
ラジャー。エルロン、エレベーター、チェックド(補助翼、昇降舵チェックしました)」と副操縦士。
ラダー チェックド(方向舵チェック)」と機長。
 飛行機の操縦に必要な機器は、主系統(プライマリー・コントロール・システム)と補助系統(セコンドリー・コントロール・システム)の二つの系統がある。タクシー中は主系統のシステムをチェックする。
 まずエレベーター。これは昇降舵とも呼ばれるものだ。飛行機の上昇や下降は主翼でなく尾翼にあるエレベーターを使っておこなう。エレベーターは水平尾翼についている。これが作動すると飛行機が上昇下降をする。次ぎはラダー。これは方向舵だ。垂直尾翼の後部に建て方向についている。操作はパイロットの足もとにあるぺダルを踏んで使う。
 そして最後はエルロン。補助翼だ。これは主翼についている。エルロンはフランス語で鮫のひれを意味する言葉で、操縦桿で操作し飛行機の水平を保ったり旋回時に使用する。
 操縦装置の点検が終わると、森田機長は離陸前の点検を指示した。
ビフォァ テイクオフ チェック リスト」(離陸前の計器点検をお願いします)
中央ぺデステル上にあるMFDモニターに現れた項目を木村副操縦士が素早く読み上げる。
フライトコントロール」(操縦装置の点検)
チェックド」(完了) ふたりのパイロットが同時に確認する。
ビフォァ テイクオフ チェック リスト コンプリーテッド」(離陸前計器点検完了)
 115便は滑走路近くまで来た。コックピットの窓からランウェイの様子が見える。全日空機釧路行きのB767がジェット音を響かせて離陸を開始した。滑走路の待機位置では日本航空195便熊本行きのボーイング777が離陸許可を待ち、日本航空105便は滑走路の待機路に入ろうとしている。午後の光りの中で羽田空港が息づいて見えた。
 エアシステム115便へタワー・コントロールへ移管する交信が入る。
エアシステム115 コンタクト タワー 118.1」(エアシステム115便へ 以後は東京タワーコントロールの118.1メガヘルツに連絡して下さい)
ラジャ」(了解)
エアシステム115 118.1」(118.1に連絡します)
 グランド・コントロールの管制エリアはここまでである。木村副操縦士は周波数をタワーコントロール118.1メガヘルツに合わせた。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第2回 羽田新東京国際空港

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▼飛行前のクルー・ブリーフィング
JASカウンター

 羽田新東京国際空港。週末を控えた金曜日の午後。
 天井までおよそ二十メートルの吹き抜けがある羽田空港ターミナルビルの二階の広大な出発ロビーは、東京の表玄関にふさわしい活気と旅情が渦巻いていた。
 日本エアシステムのチェッキング・エリアはロビーの南側部分にあり、およそ百メートルもある長いカウンターの列が連なっている。そのカウンターはこれから全国各地へ飛ぶ乗客で溢れていた。北海道へ向かうスキー客の二人づれ。長崎のハウステンボスへ旅たつ年配の観光グループ。春の北陸路を楽しむ中年の夫婦。そして福岡や大坂へ出張するサラリーマンの姿…。 14時00分。札幌行きボーイング777、115便の搭乗手続きが始まった。

 その頃、吹き抜けロビーを囲むように建っている空港ビル、その五階の日本エアシステムの運航部ディスパッチルームには、115便に乗務する機長や副操縦士のコックピット・クルーとキャビンク・ルーと呼ばれる客室乗務員たちが集まっていた。

 空港ロビーが華やいだ旅の舞台とすれば、ディスパッチルームは舞台裏で旅を支えるスタッフの仕事場のひとつである。
 ビルの一角を占めるこの部屋は、運航管理に従事するデスパッチャーやそのスタッフが、衛星から送られてくる気象情報や全国の空港から送信された空港情報をファイルしたり、これから出発するパイロットたちに飛行計画を説明したり、飛行中の自社航空機に無線で飛行情報を送ったりするなど、いつもながら多忙を見せている。
 ディスパッチャー、と呼ばれる運航管理者は、影のパイロットと言われ飛行機の運航には欠かせない職種で、一口で言えば飛行プランの立案を仕事とする人達である。
 プロペラ旅客機の時代には、パイロット自身が飛行前に天候情報収集やフライト・ルートの選択、搭載燃料の量計算などを行い、飛行プランを作成してフライトしていたが、飛行機の大型化にともない、実際に空を飛ぶパイロットと地上で飛行プランを作るディスパッチャーとが分離したのである。
 現在はディスパッチャーもパイロットと同様に国家試験を受けてライセンスを取得しなければならない職種となっている。
 ディスパッチルームは運航管理にたずさわる人たちが仕事をするエリアと、これから出発するパイロットやキャビン・クルーが集まるエリアに分かれていて、その間をカウンターで仕切られている。

 コックピット・クルーはフライト前にこの部屋に来て、飛行に関する色々な情報を入手しているディスパッチャーと飛行計画について協議するのが飛行の最初の手順であった。
 今日の115便に乗務する機長の森田寛は、クルーが集合する時間(ショーアップ)である午後二時の少し前にディスパッチルームに姿を見せた。
 部屋の中の顔見知りの機長や副操縦士たちに挨拶をしながら、機長は側壁の大きなボードに所狭しとピンでとめられた数十枚の気象情報を詳細にチェックを始めた。少し白髪が混じりかけた40代後半の端正なその風貌、そして誠実な人柄はクルーの間で信頼が厚かった。彼は航空大学を卒業後、エアシステムに入社。YS-11、DC-9、A300-600の機長乗務をえて最新のジェット旅客機、ボーイング777の機長になって三年目になる。飛行時間14600時間。飛行教官も勤めるエアシステム最前線の実力派のキャプテンであった。
 すでにディスパッチャーから今日のフライトの資料と情報を入手している副操縦士の木村喜代隆が、ノースバウンドと表示されたブリーフィングカウンターの前で森田機長を出迎えた。

 40代の半ば、精悍な風貌の木村は航空自衛隊を退職後エアシステムに入社し、MD-81の副操縦士から777の副操縦士になったパイロットである。
 カウンターの上には、ディスパッチャーが用意した飛行プランや天候データーが並べられている。森田機長はディスパッチャーに軽く挨拶を送ると今日のフライトの打合せにのぞんだ。
 この飛行プランのブリーフィングでは、より安全性、定時性、快適性、経済性のあらゆる諸条件を検討してディスパッチャーが作成した飛行プランを、コックピットクルーが詳細に検討することと、航空法などに定められている「機長の出発前の確認事項」を漏れなくチェックするのが目的であった。
115便、114便と321便だね」と、まず森田機長がスケジュールを確認する。

 今日、森田機長とそのクルーの乗務スケジュールは、15時丁度に羽田空港から115便で札幌千歳空港に飛び、折り返し17時15分千歳発の114便で羽田に戻る。そして羽田発19時35分の321便で福岡空港までのフライトし、今夜は福岡のホテルでスティする予定であった。
 便名こそ違うが同じ飛行機で飛ぶ。今日乗務する飛行機は最新鋭のボーイング777-200。機番JA8977。エアシステムが1997年導入した初号機である。
シップは予定通りに到着していますか?
 航空機には船に由来する用語が多い。森田機長に限らず、航空関係者は飛行機をシップと呼ぶ。飛行機の側のことをシップサイドといい、搭乗するときに使うブリッジも船に乗船するときと同じでボーディングブリッジと呼ぶ。
はい。千歳から予定通りに到着していますので問題ありません
 木村副操縦士が答えた。今朝、この最新のボーイング777は、別のクルーで羽田を発ち札幌を往復してすでに羽田空港の搭乗ゲートに到着していた。
スポット(駐機場所のこと)は2番だね」と機長。
はい」と頷いて。副操縦士が最新の天候情報の資料を機長の前に広げる。
天候ですけども
北日本は大旨良好だな…」機長はカウンターに広げられた数枚の天候情報を指でたどりながら言った。
低気の谷の接近で南西の風が強まり、エンルートのスカイはクリアーだね。これを見るとジェット気流の軸が北上して、キャット(晴天乱気流)によるタービュランス(揺れ)の予報があるね。関東の北から東北方面か…ユーズコウションだな

 乱気流を起こす原因はいろいろあるが、一般的には積乱雲である。見た目には美しく、夏の風物詩にもなる入道雲こと積乱雲も、その周辺は上昇、下降が渦巻く激しい気流の乱れがある。それはときとして航空機を破損させたり、墜落の原因にもなっている。
 しかし積乱雲は昼間は目視出来るし、夜でもレーダーで捕捉可能なので避けて飛行することができるが、問題は目にみえない、そしてレーダーでも探知できない晴天乱気流だった。とくにジェット気流の周辺では時速200ノット以上の高速で吹く風がある場所と低速の風が吹くところがあり、その境目では晴天乱気流が起こりやすく、運航上危険な存在となっている。
 その晴天乱気流をクリア・エアー・タービランス。略してキャットと呼び、その存在の可能性が事前にパイロットに知らされるのだ。
 森田機長は天候図から今日の飛行プランに目を移した。
えー、高めの高度か。飛行プランでは39以上25以下をリコメンドしているね
 飛行プランでは3万9000フィート以上か2万5000フィート以下の高度が気流が安定しているのでその高度での飛行をディスパッチャーは薦めていた。
 続いて機長は札幌に続いて福岡の天気情報も確認する。
福岡の方は一時的に強い雨だね。福岡空港は予定される滑走路が南西だから、天気が崩れてもILSが使えるね
 ILS(インスツルメント ランディング システム)とは、計器着陸方式のことで滑走路の端に設置されている着陸誘導装置から、着陸する飛行機に向かって発射されている電波(ローカライザー)があり、進入機はその電波の誘導でランディングをする着陸方法である。主として天候が悪い状態で使用されている。今日の福岡空港も天候データーを見るかぎりではランディングの場合もILSの誘導が考えられた。
はい。もう、西の方は低気圧圏内に入っていましてハイクラウド(高曇り)です。福岡ではこの時間帯はもう雨が振り始めています。しかし関東から東日本、東北については運航時間帯は良好ですね

 機長は空港の風の状態に目を向ける。
東京羽田は20ノットか。まだ(動きは)ゆっくりなんだね。高気圧の流れの中の風だからね。北 の方は南西、西南西の風。でも福岡は結構強いのがあるんだ
そうですね。南風注意が出ていますね。長崎あたりも強い風を予測しています。北の方は(千歳)問題がありませんが
 次に木村副操縦士はジェット気流の情報が記入された上層風チャートを機長の前に置いた。日本上空を西から東へ吹き抜ける強いジェット気流は飛行に多大な影響を及ぼす。時には風が時速200ノット、約375キロを越える速さで吹く場合もある。
それからジェット(気流)ですが
まだ、それほど強くはないんだな。100ノット弱…。西日本は120ノットは出しているね。風向が北西でちょっと変わってくるのか?
 機長は高高度のジェット気流の流れを指さしながら副操縦士に尋ねた。
ええ、そして北へ行くにしたがって徐々に弱まってきています。他の飛行機からの揺れのレポートは出ていません
 航空会社では自社の飛行機が飛行したルート上の天候、とくに乱気流に遭遇し、飛行機が揺れた場合には逐次報告することが義務づけられている。
 木村副操縦士は30分前にディスパッチ・ルームへ来て、ディスパッチャーから詳細に今日の天気の状況を聞きだしていた。
ジェット気流は夜にはもう少し北上しますね。それで東北方面でキャット予想が出ています
24から30。34から38あたりだな」機長は頷きながら副操縦士を見た。
 2万4000フィートから3万フィートの間と3万4000フィートと3万8000フィートの間では乱気流が予測され、天気図には予想される乱気流の部分がピンク色のマーカーで囲ってあった。
だから、この上の高度(乱気流が予測される3万9000フィート以上の高度)を飛行するのが無難ですね
お客さんは少ないでしょう?」機長は札幌までの乗客数を尋ねた。
お客様は、ええ。千歳往復については少ないですね
 今日の搭乗予定の乗客数は、夜の福岡へ向かう321便は363名でほぼ満席状態であるが、札幌と羽田の往復は、101名(115便)と170名(114便)となっていた。
それでは高々度の飛行には問題ないね」と機長が言った。乗客が少ないと当然飛行機の重量(機重)が軽くなるので高い高度まで上昇できるのだ。
はい。4万1000フィートまで上がれます
 4万1000フィートに上がると、そこは大気が安定している成層圏である。揺れは少ない。木村副操縦士が微笑んだ。
 安全の為には当然のことだが、コックピット・クルーは可能なかぎり乱気流を避け、飛行機を揺らさないことに全神経を注ぐ。少しでも乗客に不安を感じさせない、そして快適に目的地まで旅を楽しんでもらうことが、旅客機クルーの最大の義務でありサービスであると考えているからだ。
 唯、高度が4万1000フィートを超えると、機長か副操縦士のどちらかが常時、酸素マスクを装着することが義務づけられているので、4万1000フィートまでの高度を設定するのが普通であった。

次は天気の現況ですけども」と、データーを拾い出して副操縦士は言葉を続けた。
東京羽田空港は170度方向から20ノットの風が吹いているということで、現在の使用滑走路は16を使っています
千歳も南風で17(180度方向から17ノット)、天気良好で気温8度だね」森田機長も札幌千歳空港の風のデーターを見て言った。
 航空用語では方位を示すのに数字を使う。00、又は、360度が北。南は反対の180度になる。東は90度。そして西が270度だ。羽田も千歳も170度方向の風だから、ほぼ南風ということになる。
 滑走路も同様に数字の方位で示される。例えば羽田空港の場合、滑走路は16と34。04と22の二方向にある。
 滑走路16とは160度方向に、すなはち南南東方向に向かって離着陸する場合を意味し、滑走路34とは、同じ滑走路を反対側に向かって離着陸する場合、すなはち340度方向(北北西)に使用する場合をいう。
 一本の滑走路が離着陸する方向によって滑走路16になり、滑走路34と呼ばれるのである。滑走路04は40度方向(ほぼ北北東)に、滑走路22は220度方向(ほぼ南南西)に向かって離着陸する滑走路だ。どの滑走路を使うかは風の方向によって決まる。飛行機の離着陸はいつも風に向かって行われるからだ。今日は滑走路16を使っているのは、風が170度方向から吹く南風だからであった。木村副操縦士がブリーフィングを続ける。
帯広も風が弱くて晴れですね。それからまだ名古屋も晴れ。大阪もハイ・クラウド(高曇り)ですね。福岡あたりはもう雨が降っていますので
モデレイト・レイン、4キロか。長崎は?」と機長が福岡の天気情報を見ながら言った。
はい。長崎も降っています
九州は全域雨だね」森田機長は背筋を伸ばしながら尋ねた。
フォーキャスト(天気予報)は?
東京は南寄りの風でこのまま持続ですが、ハイ・クラウド(高い雲)が増えてくるのが予想されています
ちょっと風が強くなって…200度から20ノットか。今、ランウェイ(滑走路)は16だが、離陸するときには滑走路22に変わる可能性もあるね
ええ、そうですね
 森田機長は札幌から戻るときの代替空港(オルタネイト)、もし何等かの理由で羽田空港に着陸出来ない場合、代わに着陸する空港として成田空港を予定していたので、成田空港の風の状態もチェックして言った。
成田はOKだな。千歳は?…風は変わらず、やはり強いね
 これから向かう千歳空港の天気は良好で12、3ノットの風だったが、ときどき滑走路に吹く35ノット前後の強い突風が森田機長の心配の種ではあった。
 航空用語では速さの表示は、船と同様にキロ表示でなくノット表示である。高さは原則として(ロシア、中国などはメートルを使用)メートルでなくフィート。距離はマイル(正確には船と同じでノーチカルマイル)表示である。
 35ノットの風というのはメートル換算で時速約65キロの速さで吹く風で、秒速に直すとおよそ18メートルの強風であった。
やはり突風は強いですね。35ノット!」と副操縦士も改めて強風のデーターに驚きの表情を見せた。
 森田機長と木村副操縦士が見ている千歳空港のデーターは次の様なものであった。

 RJCC 090312 14012K 9999 SCT030 SCT080
 TEMPO 0312 20025G35KT

 RJCCは、千歳空港を表わす記号。ちなみに羽田空港はRJTT。
 090312は、9日の03時から12時までの間の予報という意味。これは標準時間なので日本時間では9日の午後12時から午後9時までの間では、14012K、すなはち140度方向(およそ南南東)から12ノットの風が吹くだろうと予測している。
 9999は、10キロ以上の視程があり、SCT030 SCT080は、3000フィートと8000フィートに少しの量(スキャターSCT)の雲がある。
 TEMPOはテンポラリーの意味で、時々、0312(3時から12時標準時、日本時間午後12時から午後9時)の間には、20025G35KT、すなはち200度方向から25ノットの風も予想されるが、G。これはガスト。すなはち、突風が35KT(35ノット)吹くことがあるというデーターであった。
 機長は再び高高度の風のデーターに目を移した。
クロスセクションのチャート(ジェット気流上層風のチャート)では、トロポ(トロポポーズの略。成層圏と対流圏の境目のこと)が3万7000フィートぐらいか。ちょっと低くなっても3万5000フィートだね。飛行機の上昇中は2万5000フィート前後にちょっと乱気流があって、あとはトロポ近辺にもあるね…。降下中はとくになしか。やはり上を越して行く方が(乱気流が予測される3万7000フィートの上の高度で飛ぶ方が)良いよね
 航空機が飛行する大気は対流圏と成層圏である。
 季節や地域によっても多少変わるが、対流圏とは、普通、我々が生活している地上から約1万1000メートル上空までくらいの大気をいう。すなはち高度約3万7000フィートから下の大気である。
 成層圏は高度3万700フィート、約1万1000メートルより上から、約18万3000フィート、約5万5000メートルくらいまでの大気をいう。
 前述したように成層圏に入ると大気が安定しているが、対流圏の上部、とくに成層圏と対流圏の境目は非常に気流が不安定でジェット気流もこの付近を吹いており、飛行機は大きく流されたり揺れたりすることもある。この境目をトロポポーズといい、パイロットは可能なかぎりトロポポーズを避けて飛行するのである。
 今日の天候データーでも、森田機長が言うように3万5000フィート前後から3万7000フィートくらいの高度にかけてトロポポーズがあるので、飛行プランでは4万1000フィート(約1万2300メートル)を飛行することがディスパッチャーから薦められていた。
そうですね」と木村副操縦士も頷いて白い歯を見せて笑った。
 高高度を飛行出来るのもボーイング777の魅力のひとつであった。この最新鋭機は、MD-90やA300という従来の飛行機では特別な条件でもないかぎり上昇できない4万フィート前後の高度を乗客を乗せて比較的楽々と飛ぶことが可能なのである。
福岡行きは?」森田機長が321便の飛行計画書を手元に寄せながら尋ねた。
福岡へはプランでは3万9000フィートを飛ぶ予定になっていますが。トップ(雲の最も高い部分)が3万7、8000で夜には少しは(雲の高さが)下がるとは思うんですが、3万9000フィートで上を飛行するのが無難ですね
 機長は副操縦士の説明に頷きながら、「風も100ノットだからな(ジェット気流の風速)」と了承するのであった。
 そのあとブリーフィングはノータム、空港の状況などの航空情報(ノータム)に進んだ。 最後に森田機長はデスパッチャーから提案された飛行プランを了承し機長のサインしてブリーフィングを終えた。
いいですね。帯広を代替空港に、燃料3万7000ポンドを搭載。飛行高度は4万1000フィートだ。羽田2番スポットからRNAVルートで千歳まで飛び、千歳のスポット16番。よし、行きも帰りもこの飛行プラン通りでいいね
 森田機長はディスパッチャーが立案した飛行プランを了承して頷いた。
はい。了解しました」と木村副操縦士は、次に客室乗務員とのブリーフィングをするために、すでにディスパッチルームに集まっているキャビン・クルーに合図を送った。

▼キャビンクルーとコックピットクルーのブリーフィング
ディスパッチャー

 コックピット・クルーが飛行機へ搭乗する前に行う打合せは、すでに終えた飛行プランのブリーフィングと、これから始めるキャビン・クルーとの打合せのふたつがある。
 このブリーフィングでは、主にコックピット・クルーが客室を担当するキャビン・クルーにこれからのフライトの状況を伝達するのが目的であった。
 キャビン・クルーが機長と副操縦士を取り囲むようにディスパッチルームのカウンター前のスペースに集っている。
 華やいだ雰囲気の中で、木村副操縦士が満面に笑みを浮かべながら話を始めた。
お待たせしました。115便から321便で運航しますね。シップはB777の機番JA8977機を使用します。羽田空港のスポットは2番。前便(搭乗機)はすでに(羽田空港ゲート2番に)到着しております
 八名のキャビン・クルーが小声でハイ、ハイと返事をする姿を前にして副操縦士の声が上ずり気味に響いている。
大きなスクワーク(飛行機の故障)は聞いておりませんので、予定通り飛行機を使用できます
 ブリーフィングには、今日初めて顔を合わせるクルーもいるので、まず各々の名前と客室での受け持ちセクションの紹介から始まった。
キャプテンは森田機長で、FO(ファースト・オフィサー)木村です。パーサーが関谷さん。フォアード・センターが吉野さん。4R、丸井さん。3Lが羽戸さん。それから3Rが泉川さん。2Lが井口さん。2Rが山田さん。4Lが黒木さんですね。お願いします」 キャビン・クルーは、4Rや3Lというように客室では担当する区域が決まっている。一息すって副操縦士はブリーフィングを続けた。
ええーと、お天気ですけども、東日本、北日本についてはまだ高気圧に覆われております。高い雲が出てきましたが運航時間帯は問題ありません。晴れベースで推移します
 天候を含め、このブリーフィングで伝えられる内容は、機内でのアナウンスや乗客から質問を受けた際に答えるデーターにもなるので、キャビン・クルーは真剣にメモを取りながら副操縦士の話に聞き入っていた。
西の方はですね。東支那海から低気圧が近づいてきております。この時間帯はもう福岡では雨が降っております。徐々に大阪、名古屋と悪くなってくる状態ですね。関東の方は今日のところは影響がありません。福岡の方も視程がおちてもビロー(着陸できないほどの天候状態)になることはないと予想されていますので、予定通りの運航になると思います
 コックピット・クルーと同様にキャビン・クルーも、これから羽田、千歳の往復と羽田から福岡へのフライトに乗務するので、札幌から福岡までのルート上の天候情報はすべて必要であった。
 とくに飛行機の揺れにかかわる情報は客室サービスには欠かせない情報であった。それによって飲物や軽食のサービスの仕方も変わる。キャビン・クルーたちは真剣に耳をそばだてた。

エンルート(飛行ルート)ですけども、関東の北から東北にかけましてジェット気流が通っております。で、その近辺で今のところ揺れが予想されていますね。でも、弱いコトコトした揺れですからサービスには問題ないと思います。西の方はトップ(雲の頂上)が、3万7800(フィート)ということで、東京を上がりまして西の方に行きますと徐々に雲が高くなってくるという状態で、一部トップがクルーズ中に触れるので、そのときは強めの揺れが予想されております。福岡へのお客様は多いのですが、エンルートが長いですからサービスは充分出来ると思います。そんなところですね
 ここで一息いれて副操縦士は天候情報(ウエザー)を伝えた。
ウエザーからいきますね。東京が170度から風が20ノット。高曇りの気温15度。千歳は180度、17ノット。晴れの8度。115便の飛行データーは高度4万1000フィート。千歳空港までの飛行時間は1時間21分。飛行時速850キロ。お客様は101名。オルタネート(代替空港)は帯広です。千歳は16番スポット。
 戻りの114便は高度3万9000フィート。羽田空港までの飛行時間は1時間9分。飛行時速920キロ。搭乗客は170名。オルタネートは成田空港。東京に帰ってきますと2番スポットです。
 それから321便は高度3万9000フィート。福岡までの飛行時間は1時間39分。飛行時速700キロ。搭乗客は363名。オルタネート(代替空港)は関西空港です。
 福岡空港、最後は7番スポット。特殊なパッセンジャー(病人やVIP、犯罪者の護送などの特別な乗客)や危険物(危険搭載貨物)は聞いておりません。ハイジャック・コードはフェイズ・ワン(特別なハイジャックの警報はなく、普通コード)です。機内アナウンスは上昇中にキャプテンがします。コックピットの出入りはコックピットドアのノックを二回お願いします。その他気がついたことがあれば早めに報告してください

 最後に挨拶をお願いします、と木村副操縦士は森田機長にブリーフィングの締めを促した。キャビン・クルー全員の視線が森田機長に集まる。機長は優しい微笑みを見せて話始めた。
はい。えーと。所々揺れがありますけども、なるべくシートベルトサインはオフにしますので注意してサービス業務をやってください。主にサービスは巡航中してください。あとはシートベルト点灯時の保安業務は禁止はしません。もし天候などの状況が変わってとくに(保安業務はせずに至急に)シートに座って欲しいときは前から言います。福岡空港への最後のランディングのときはそうなると思います。あとはいいですね
 森田機長はゆっくりと客室乗務員の一人一人をみながら言った。
混成チームですですね。東京と福岡の…
 キャビン・クルーが頷く。今日の8名の客室乗務員は東京ベースに勤務するクルーと福岡ベースのクルーの混成チームであった。
福岡のひとは?」森田機長が尋ねると関谷チーフパーサーを含め5名のキャビン・クルーが手をあげた。
5名です
5名。東京3名。仲良くやりましょう
 最後に機長が挨拶をすると、クルー全員の緊張もとれて和気あいあいの雰囲気が生まれた。14時20分。機長をはじめクルー全員はデスパッチルームをあとにして2番搭乗ゲートに向かった。

武田一男

JAS BOEING777 Cockpit「機長席」/全11回
羽田〜新千歳 フライトドキュメント
録音:武田一男/解説:武田一男・桃田素晶 ©Director’s House

【著作について】「機長席」の文章、及び音源等は武田一男、及びディレクターズハウスが著作権を保有しています。商用、非商用に関わらず無断転載、複製の一切を禁止いたします。詳細については当ブログ管理人までお問い合わせください。

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機長席第1回 GOOD SPEED ALWAYS

エアシステムのトリプルセブンが羽田空港から新千歳空港へ、そして羽田空港に戻るまでの操縦室のドキュメンタリー作品「機長席」を明日より当ブログで配信することになりました。

以前、CD付きBOOKとして朝日ソノラマ社から出版した内容に新たな加筆を加え、当時はなかった羽田-新千歳間に未公開のコックピット・サウンドを追加しより完璧なフライトの再現を心がけました。すでに「機長席」を読み、かつ、お聴きになった人にも充分にご満足頂けるものと思います。長い連載になりますが、最後までおつきあい頂ければ幸いです。

それから、連載途中で日本エアシステムのいろいろな飛行機の動画も挿入しております。その追憶の翼も想い出の1ページとしてご覧下さい。

尚、お気づきの点やご感想、ご訂正などがありましたら、その都度、コメントをお寄せ頂ければ幸いです。(解説文中で使用したデータはすべて1999年4月のものです)

さようなら 虹色の翼
苦しいときも 辛いときもあった
虹色の翼のもとで 
みんなで同じ夢を見たことだけは
決して 決して 忘れない

誰が作った詩なのか知りませんが、美辞麗句も気取りもないこの「虹色の翼」という詩が何故か胸に届きます。「虹色の翼」への忘れがたい想い出が素朴に伝わって来ます。

僕も「虹色の翼」に想い出をたくさん貰いました。そのおかえしに、といっては失礼かもしれませんが、「かって虹色の翼のもとに集った」すべてのひとに、この作品を捧げたいと思います。Good Speed Always・・・・

武田一男

動画「虹色の翼」



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